説明

フッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材

【課題】 無機微粒子をフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散させたフッ素樹脂複合体組成物からなる耐ガス・薬液透過性、力学物性に優れている透明部材を提供すること。
【解決手段】 フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子のコロイダル溶液とを攪拌・混合して得られた均一な水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけること、で得られる凝集体を水性の溶液から分離・乾燥して得られたフッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子がフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散されたフッ素樹脂複合体組成物の溶融成形により光透過率を維持しながら耐ガス・薬液透過性、力学物性、寸法安定性などが改善されたフッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融成形可能なフッ素樹脂のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などは、チューブ押出しやブロー成形などの溶融押出し成形によって加工されているが、これによって得られるチューブ、ホース、容器などの製品は耐熱性、耐薬品性、非粘着性などの優れた特徴を有するため、酸、アルカリなどの薬液、溶剤、塗料などの移送用の配管、継ぎ手や薬液貯蔵容器などとして、あるいは配管やタンク等のライニングに広く利用されている。しかし、これらのフッ素樹脂、特にパーフルオロフッ素樹脂共重合体は、分子間相互作用が殆どないので、力学物性や寸法安定性、耐圧縮クリープ特性などに問題がある。このため、より力学物性に優れた材料が要求されている。また、薬液、溶剤、塗料などの移送用の配管やライニングとして耐ガス・薬液透過性が要求されている。
【0003】
従来、様々な分野においてより高い性能を有する樹脂組成物が必要とされており、樹脂に充填材を分散させることで機械的強度、寸法安定性、導電性、熱伝導性、耐ガス・薬液透過性、圧縮クリープ特性などを改善することが行われている。しかし、カーボンブラックやクレイ、グラファイトの様に粒子の大きさが可視光の波長より大きい従来の充填材を樹脂にいれると樹脂複合材料は不透明になるため、透明部材にすることが出来ない。従って、耐熱性や耐薬品性が要求される貯槽などの覗き窓や液面計などの透明部材、薬液が流れる状況が目視で確認できる配管などの用途には適してない。
【0004】
例えば、WO2004/074371 A1には溶融成形可能なフッ素樹脂にクレイまたはグラファイトのような層状化合物を入れて溶融混合することで、溶融成形可能なフッ素樹脂の耐ガス・薬液透過性、弾性率などの力学物性などを向上させたフッ素樹脂複合体組成物が記載されている。また、特開2000−190431号公報にも鱗片状充填材を含む溶融成形可能なフッ素樹脂層と、溶融成形可能なフッ素樹脂のみからなる層とを積層することでガスや薬液の透過度を低くした多層積層体が記載されている。しかし、使用した充填材の粒子径が少なくとも2μm以上であるため、成形品は不透明になる。
【0005】
更に、特開2002−167488号公報には溶融成形可能なフッ素樹脂に結晶化度が高いポリテトラフルオロエチレンを混合して耐ガス透過度を改善した組成物が記載されている。しかし、結晶化度が高いポリテトラフルオロエチレン粒子は不透明であるため、ポリテトラフルオロエチレン含量を増やすとガス透過度は低くなるが、この組成物からなる成形品の透明度も低下する。
【0006】
最近、高分子材料に無機微粒子などのナノ粒子を直接溶融混合して機械的特性、熱変形温度、寸法安定性などを向上させる手法が多くなされている。しかし、無機微粒子或いは無機ナノ粒子を樹脂に溶融混合すると、微粒子の凝集力は粒径が小さくなるほど大きくなり、粒子同士の再凝集が起こるため、ナノ粒子を樹脂と直接溶融混合してもナノ粒子をそのままナノ分散させることは極めて難しい(第47回 日本学術会議材料研究連合講演会、vol47,p150,2003)。
【0007】
また、フッ素樹脂エマルジョンに、アミノシラン系表面処理剤で表面処理された平均粒子径4μmの炭化珪素粒子を添加した後、硝酸を加えてフッ素樹脂のエマルジョンを破壊して、ついでトリクロロトリフロロエタンを加え凝集・造粒して平均粒子径3mmの凝集粉体を得る方法が実施例に開示されている(特公平7−64936号公報)。しかし、この明細書には無機微粒子のコロイド溶液の代わりに粒子径4μmの炭化珪素粉末をフッ素樹脂のエマルジョンに加えて、凝集しているため、溶融成形品は不透明になる。
【0008】
【特許文献1】WO2004/074371 A1
【特許文献2】特開2000−190431号公報
【特許文献3】特開2002−167488号公報
【特許文献4】特公平7−64936号公報
【非特許文献1】第47回 日本学術会議材料研究連合講演会、vol47,p150,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、樹脂一次粒子が界面活性剤(以下、乳化剤ということがある)に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したフッ素樹脂エマルジョン(以下、ラテックスということがある)と無機微粒子表面に電気二重層が形成され、無機微粒子間の反発力によって無機微粒子が安定に分散されているコロイダル溶液(以下、無機微粒子ゾルということがある)とを攪拌して、樹脂一次粒子と無機微粒子を均一に分散した水性分散液を作り、この分散液を0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけるかでフッ素樹脂1次粒子と無機微粒子の均一混合状態を固定した後(以下、この過程を凝集ということがある)、得られた凝集体を水性の溶液から分離・乾燥することで無機微粒子を樹脂中にナノレベルに均一に分散させたフッ素樹脂複合体組成物が、透明性を維持しながら耐ガス・薬液透過性にも優れていることを発見した。従って、本発明の目的は、無機微粒子をフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散したフッ素樹脂複合体組成物からなる耐ガス・薬液透過性、力学物性に優れている透明部材を提供することにある。また、従来のマイクロレベルの充填材入りフッ素樹脂複合体組成物とは異なって、シリカなどの無機微粒子含量を15〜20重量%まで増やしても、MFRや伸び率を維持しながら弾性率などの力学物性が改善されたフッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子のコロイダル溶液とを攪拌下に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることで得られる凝集体を水性の溶液から分離・乾燥して得られたフッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材を提供する。
【0011】
前記フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライドおよびビニルフルオライドから選ばれるモノマーの重合体または共重合体のエマルジョンである透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライドおよびビニルフルオライドから選ばれる少なくとも1つのモノマーと、エチレンまたはプロピレンとの共重合体のエマルジョンである透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0013】
前記無機微粒子のコロイダル溶液が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛と五酸化アンチモンを結合させた複酸化物から選ばれる少なくとも1つの無機微粒子のコロイダル溶液である透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0014】
フッ素樹脂複合体組成物中の無機微粒子の含量がフッ素樹脂複合体に対し0.5〜40重量%であることを特徴とする、透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0015】
無機微粒子のコロイダル溶液中の無機微粒子の平均粒径が、400nm以下である透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0016】
フッ素樹脂複合体組成物の厚さ1mmのシートの全光線透過率が60%以上である、透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0017】
フッ素樹脂複合体組成物の窒素ガス透過度がフッ素樹脂の75%以下である、透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0018】
乾燥して得られたフッ素樹脂複合体組成物を溶融押出ししたペレットからなる透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0019】
フッ素樹脂複合体組成物を圧縮成形、押出し成形、トランスファー成形、ブロー成形、射出成形、回転成形またはライニング成形して得られる成形品からなる透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【0020】
容器類、チューブ類、シート類、棒類、繊維類、ライニング類、電線被覆類である透明部材は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、無機微粒子をフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散させたフッ素樹脂複合体組成物からなる耐ガス・薬液透過性、力学物性に優れている透明部材が提供される。
また、本発明によって、従来のマイクロレベルの充填材入りフッ素樹脂複合体組成物とは異なって、シリカなどの無機微粒子含量を15〜20重量%まで増やしても、MFRや伸び率を維持しながら弾性率などの力学物性が改善されたフッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において用いられフッ素樹脂エマルジョンとしては、公知のフッ素樹脂エマルジョンから適宜選択して使用することができる。このようなフッ素樹脂エマルジョンの例としては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)、ビニリデンフルオライド(VdF)およびビニルフルオライド(VF)から選ばれるモノマーの重合体または共重合体、あるいはこれらモノマーとエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等の2重結合を有するモノマーやアセチレン、プロピン等の3重結合を有するモノマーとの共重合体のエマルジョンなどを挙げることができる。
【0023】
フッ素樹脂の具体的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、TFE/PAVE共重合体(以下、PFAという)、TFE/HFP共重合体(以下、FEPという)、TFE/HFP/PAVE共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエテレン・エチレン共重合体(ECTFE)、TFE/VdF共重合体、TFE/VF共重合体、TFE/HFP/VF共重合体、HFP/VdF共重合体、VdF/CTFE共重合体、TFE/VdF/CTFE共重合体、TFE/HFP/VdF共重合体、などを挙げることができる。この内、テトラフルオロエチレンとパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合体においては、パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基が炭素数1〜5、特に1〜3が好ましい。これらの重合体の粒子の分散液は、通常乳化重合によって製造される。
【0024】
本発明では、樹脂一次粒子が界面活性剤に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したフッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子表面に電気二重層が形成され、無機微粒子間の反発力によって無機微粒子が安定に分散されているコロイダル溶液とを攪拌して、樹脂一次粒子と無機微粒子を均一に混合した水性分散液を得る。その後、これを凝集することで樹脂1次粒子と無機微粒子の均一混合状態を固定し、得られた凝集体を水性の溶液から分離・乾燥することで無機微粒子を樹脂中にナノレベルに均一に分散したフッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。従って、本発明では混合溶液の凝集・乾燥によって樹脂一次粒子と無機微粒子が均一に分散されている凝集体の乾燥粉末が得られるので、使用するフッ素樹脂の融点や溶融混合特性などに関係なく、乳化重合で得られるあらゆるフッ素樹脂エマルジョンを使用することができる。
フッ素樹脂エマルジョン中の樹脂一次粒子の粒子径としては、使用するコロイド溶液中の無機粒子の粒子径にもよるが、例えば50〜500nm、好ましくは70〜300nmである。
【0025】
本発明の溶融成形可能なフッ素樹脂に無機微粒子がナノレベルまで均一に分散されたフッ素樹脂複合体組成物は、無機微粒子凝集体を15重量%入れても溶融成形可能なフッ素樹脂の伸び率や溶融成型性をある程度維持することができる。このため、これらのフッ素樹脂の溶融粘度或は分子量には特に制限がなく、使用目的によって適宜好適な範囲を選択することができる。例えば、射出成形の目的では、メルトフローレート(MFR)で表わすと7〜40g/10分程度が好ましい。
【0026】
本発明では、無機微粒子が安定に分散されているゾルを使用するが、ゾルの無機微粒子としては、酸化ケイ素(SiO),酸化チタン(TiO),ゼオライト、酸化ジルコニウム(ZrO),アルミナ(Al),酸化亜鉛(ZnO),五酸化アンチモンが好ましい。また、目的に応じて単独または組み合わせで使用しても良いし、上記のまたは他の微粒子を選択して組み合わせで使用しても良い。他の微粒子としては、炭化ケイ素(SiC),窒化アルミニウム(AlN),窒化ケイ素(Si)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ボロンナイトライト、酸化鉛、酸化すず、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト、酸化セリウム、酸化マグネシウム、セリウムジルコネイト、カルシウムシリケート、ジルコニウムシリケート、金、銀、銅、遷移金属などの金属微粒子が挙げられる。
【0027】
本発明の無機微粒子ゾルは、各種電解質や有機系添加剤などによって溶液状態で安定化されたものであるのが好ましい。例えば、コロイダルシリカゾルで説明すると、負に帯電した酸化ケイ素ナノ粒子を水中に分散させたコロイド溶液であり、粒子の表面にはシラノール基および水酸基が存在し、アルカリイオンにより電気2重層が形成され、粒子間の反発により安定化されている。一般に樹脂中に分散されている充填材の粒子径が可視光の波長より大きくなると、樹脂複合体が不透明になる傾向があるので、ゾルにおける無機微粒子の粒子径については、通常は平均粒子径10nm〜400nm、好ましくは15nm〜350nm、更に好ましくは20〜300nmである。一般には無機微粒子の粒径が500nm以上になると、無機微粒子が沈降し、コロイダルゾルの貯蔵安定性が悪くなる場合がある。
【0028】
無機微粒子のゾルとして純度の高いゾルと不純物が少ないフッ素樹脂エマルジョンを使用すると、得られるフッ素樹脂複合体組成物として、純度の高いフッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。例えば、シリカゾルとして超高純度コロイダルシリカと金属イオンなどの不純物が少ないフッ素樹脂エマルジョンとを使用すると、極めて純度が高いフッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。このようにして得られる極めて純度が高いフッ素樹脂複合体組成物からなる成形品は、純粋性が要求される半導体製造装置などに用いられる部品としても好適に用いられる。超高純度コロイダルシリカとしては、例えば、扶桑化学のPLシリーズが市販されている。
【0029】
本発明では、樹脂一次粒子が界面活性剤に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したフッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子表面に電気二重層が形成され、無機微粒子間の反発力によって無機微粒子が安定に分散されているコロイダル溶液とを攪拌して、樹脂一次粒子と無機微粒子が均一に分散した水性分散液を得る。その後、これを凝集することで樹脂1次粒子と無機微粒子の均一混合状態を固定し、凝集体を水性の溶液から分離・乾燥することで無機微粒子を樹脂中にナノレベルに均一に分散したフッ素樹脂複合体組成物を得る。樹脂一次粒子と無機微粒子を均一に混合した水性分散液の凝集法としては、攪拌装置による強いせん断力で樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾル混合液を攪拌してフッ素樹脂エマルジョンの中の界面活性剤のミセル構造を破壊して凝集する方法(物理的凝集)、樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾル混合液に電解物質を入れてイオン強度またはpHを変化させることで樹脂エマルジョンまたは無機微粒子コロイドの安定性を急に低下させて凝集する方法(化学的凝集)、樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾル混合液を凍結して発生する氷晶の成長によって氷晶間でラテックス粒子またはコロイド粒子を圧着させて凝集する方法(凍結凝集)などを挙げることができる。
【0030】
中でも、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルの混合液に無機塩などの電解物質を加えて樹脂エマルジョンまたは無機微粒子コロイド溶液の安定性を急速に低下させて、一気に樹脂1次粒子と無機微粒子の均一混合状態を固定して異種粒子が均一に分散された凝集体を得る化学的凝集方法が好ましい。化学的に凝集する前の混合液中の樹脂一次粒子または無機微粒子の種類およびその割合にもよるが、例えば、フッ素樹脂エマルジョンのフッ素樹脂一次粒子を化学的に凝集させる目的として使用される電解物質としては、水に可溶なHCl,HSO,HNO,HPO,NaSO,MgCl,CaCl,ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸アンモニウムなどの無機または有機の化合物を例示することができる。これらの中では、後の凝集体の乾燥工程で揮発可能な化合物、例えばHCl,HNO,炭酸アンモニウムなどを使用するのが好ましい。また上記電解物質以外にもハロゲン水素酸、燐酸、硫酸、モリブデン酸、硝酸のアルカリ金属塩、アルカリ土金属塩、アンモニウムの塩など、好ましくは、臭化カリウム、硝酸カリウム、ヨウ化カリウム(KI)、モリブデン酸アンモニウム、リン酸ニ水素ナトリウム、臭化アンモニウム(NHBr)、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化銅、硝酸カルシウムなどの無機塩を単独または組み合わせで使用することもできる。これらの電解物質は、電解物質の種類、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルの固形分濃度にもよるが、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルの混合液の重量に対して0.001〜15重量%、特に0.05〜10重量%の割合で使用することが好ましい。なお、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾル混合液に水溶液の形で添加するのが好ましい。電解物質の使用量が少なすぎる場合には、部分的にゆっくり凝集が起こる所があるため、全体的に一気に樹脂1次粒子と無機微粒子の均一混合状態を固定することが出来ず、無機微粒子が樹脂中に均一に分散された樹脂複合体組成物を得ることができない場合がある。
【0031】
また、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルの固形分濃度にもよるが、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルを攪拌して均一な混合液を得る目的で、フッ素樹脂エマルジョンまたは無機微粒子ゾルを予め純水などで薄めて固形分濃度を調整してから攪拌・混合することも可能である。
【0032】
フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルとを攪拌して、樹脂一次粒子と無機微粒子を均一に混合してから、更に物理的または化学的に混合液を凝集させる装置は、特に制限されるものではないが、攪拌速度が制御できる攪拌手段、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、かい型翼、馬蹄形型翼、螺旋翼などと排水手段を備えた装置であることが好ましい。このような装置中にフッ素樹脂エマルジョン、無機微粒子ゾルおよび電解物質を加え攪拌することにより、樹脂のコロイド粒子または/および無機微粒子が凝集して凝集体となり、水性媒体から分離する。凝集体から水性媒体を分離する工程の攪拌速度は、フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルの混合工程の攪拌速度より1.5倍以上早いことが好ましい。この凝集体を、水性媒体を排出し必要に応じて水洗した後、樹脂の融点または熱分解開始温度以下の温度で乾燥してフッ素樹脂複合組成物の粉末を得る。乾燥する温度は、フッ素樹脂の熱劣化や分解が起こらない温度以下で、電解物質や界面活性剤などが揮発できる温度が好ましい。
【0033】
フッ素樹脂複合体組成物中の無機微粒子の含量は樹脂複合体組成物の用途にもよるが、フッ素樹脂複合体に対して0.1〜80重量%、更に好ましくは0.3〜50重量%、もっとも好ましくは0.5〜40重量%である。無機微粒子が樹脂中にナノレベルで分散されたナノ樹脂複合体混合物或いはいわゆる高分子ナノコンポジットは、フィラーがミクロンレベルで分散された従来の樹脂複合体混合物に比べて、ナノ粒子と樹脂マトリックス間の界面面積が大幅に増えるため、無機微粒子を従来の樹脂複合体混合物より少量入れても物性の改善が期待できる。また、可視光の波長より粒径が小さい無機微粒子がナノレベルに均一に分散されると樹脂ナノコンポジットは透明になることがある。更に、フッ素樹脂にシリカなどの金属酸化物をナノレベルに分散させたフッ素樹脂複合体組成物では、シリカ含量の増加と共にガス・薬液透過速度が低くなる。
【0034】
本発明において、上記乾燥工程で得られるフッ素樹脂一次粒子と無機微粒子が均一に分散されている凝集体の乾燥粉末は、通常の溶融押出し機を通してペレットにしてから押出成型、射出成型、トランスファー成型、ブロー成型などの溶融成型をすることができる。勿論、前記のようにペレット化していない凝集体の粉末を直接成型原料にするか、あるいは成型機ホッパーで凝集体粉末の食い込みをよくするためコンパクターで乾燥した凝集体の粉体を固めて溶融成型することもできる。凝集体の乾燥粉末試料とそれを更に溶融押出し機を通してペレット化した試料とで、フッ素樹脂中に分散されている無機微粒子の分散状態はほぼ同じである(図1、図2参照)。更に、本発明で得られるフッ素樹脂一次粒子と無機微粒子が均一に分散されている異種粒子の凝集体の粉末を更に造粒して粉末成型や粉末コーティング、回転成形用材料としても用いることができる。
【0035】
溶融押出し機を通してペレットにする場合は、せん断応力が大きな2軸押し出し機を用いるのが好ましい。乾燥工程で得られるフッ素樹脂一次粒子と無機微粒子が均一に分散されている異種粒子の凝集体は、2軸押出機を用いて溶融混合しても均一な分散を維持することができ、且つ溶融混合することにより更に均一に分散させることができる。
また、溶融押出し機を通してペレット化する過程で、透明性が損なわれない範囲で、任意に添加剤を配合するか他の樹脂とブレンドすることができる。添加剤の配合は、溶融押出し工程では勿論、前記の樹脂エマルジョンと無機微粒子ゾルの混合工程で行うこともできる。このような添加剤として、マイカ、クレイのような層状ケイ素化合物のナノ粒子などを例示することができる。
【0036】
本発明の成型品を得るための成型方法および条件に関しては特に制限がない。従来から溶融成形可能なフッ素樹脂について適用されている成型方法および条件、即ち、チューブ類、シート類、フィルム類、棒類、繊維類、電線被覆などについての押出し条件や容器類などについてのブロー成型条件、トレイ類などについての射出成型条件をそのまま利用することができる。粉末成型品や粉末コーティング成型品、回転成型品を得ることもできる。
【0037】
特に、粒子径400nm以下、好ましくは350nm以下の無機微粒子がフッ素樹脂マトリックス中にナノレベルまで均一に分散されたフッ素樹脂複合体組成物を成形して得られる成形品は、無機微粒子の粒径が可視光の波長より小さいため透明になる。そのため、耐熱性や耐薬品性が要求される貯槽などの覗き窓や液面計などの透明部材、薬液が流れる状況が目視で確認できる配管などの用途に有用である。更に、フッ素樹脂にシリカなどの金属酸化物をナノレベルに分散させたフッ素樹脂複合体組成物では、シリカ含量の増加と共にガス・薬液透過速度が低くなるため、耐ガス・薬液透過性が必要な薬液の移送設備や貯蔵容器などのための成型材料として、あるいは配管やライニング材料としても有用である。また、耐スクラッチ性フィルム、透明フィルム、透明チューブ、電子材料などの種々の用途にも使用できる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
本発明において、PFAについての各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0039】
(A.物性の測定)
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料約10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0040】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238−95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を用いて、5gの試料粉末を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストンおよび重り)下でダイオリフィスを通して押出し、この時の押出速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0041】
(3)シリカ分散状態
フッ素樹脂複合体組成物試料を350℃で溶融圧縮成形することによって作製された厚さ約0.2mm試料より、10mm×10mmの試片を3ヶ所切り取り、光学顕微鏡(NIKON製、OPTIPHOT2−POL)を使用して、大きさが10μm以上のシリカナノ粒子からなる凝集体があるか否かで分散状態を評価した。10μm以上のシリカナノ粒子からなる凝集体が観察されない試料のみについて、液体窒素に入れ作製した破断面を走査型電子顕微鏡で各試料につき3ヶ所観察し、シリカの分散状態を下記の基準に従って評価した。
◎:電子顕微鏡観察で、殆どのシリカが1次粒子まで分散されている。
○:シリカナノ粒子からなる凝集体が僅かに残っている。
×:光学顕微鏡で10μm以上のシリカナノ粒子の凝集体が数多く残っている。
【0042】
(4)引っ張り物性(引っ張り強度、伸び率、引っ張り弾性率)
フッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作製された厚さ約1mmの試料より、JIS K 7127に準じて、引っ張り速度50mm/分で測定した。
【0043】
(5)光線透過率
フッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作製された厚さ約1mmの試料より50mm×50mmの試験片を作り、日本電色工業(株)製、ヘイズメーターNDH2000(光源は、ハロゲンランプ D65)を使用して測定し、JIS K7136に準じて測定し、5つの試料の平均値から光線透過率を計算した。
【0044】
(6)窒素ガス透過度
フッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形によって作成された厚さ約0.3mm、直径130mmのシートについて、柴田科学工業製ガス透過度測定装置(S−69型160ml)を使用し、温度23℃で測定した。測定値は10-11 cm3(STP)cm/cm2.sec.cmHgで示した。
【0045】
(B.原料)
本発明の実施例、および比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)PFAエマルジョン
乳化重合で得られたPFA水性分散液(PFA固形分:29重量%、PFA 一次粒子の平均粒子径:200nm、pH:9、融点:309℃、メルトフローレート:2g/10分)。
【0046】
(2)シリカゾル(扶桑化学工業製、超高純度コロイダルシリカ)
(a)PL−3(シリカ:19.5重量%、シリカ1次粒径:35nm、pH:7.2)
(b)PL−7(シリカ:22.7重量%、シリカ1次粒径:70nm、pH:7.4)
(c)PL−13(シリカ:24重量%、シリカ1次粒径:130nm、pH:7.4)
(d)PL−20(シリカ:24重量%、シリカ1次粒径:220nm、pH:7.4)
【0047】
(3)溶融シリカ
電気化学工業製、FB−74(シリカ平均粒子径:32000nm)
【0048】
(実施例1)
シリカゾル(PL-3)269.9gと純水270gをビーカー(8L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、シリカ含量がPFA樹脂複合体に対して5重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、また300rpmで30分間攪拌し均一な分散液を得た後、60%硝酸13gを加えて、ゲル化が進み流動しなくなるまで攪拌しフッ素樹脂一次粒子とシリカナノ粒子を一気に凝集させた。得られたゲル状の凝集体をさらに450rpmで10分攪拌し凝集体を水性媒体から分離させることで余分の水を除去した。後に残った凝集体を170℃で10時間乾燥し、凝集体の乾燥粉末を得た。凝集体の乾燥粉末は、溶融混合装置(東洋精機製作所製KF−70V小型セグメントミキサー)を用い、340℃、240rpmで1分40秒間溶融混合し、フッ素樹脂複合体組成物を得た。大きさ約3mmの小片にしてフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた厚さ約1.0mmの試料を用いて引っ張り物性・MFR測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定を行い、結果を表1および表2に示す。また、窒素ガス透過度測定用試料は、厚さ約0.3mmの圧縮成型シートを用いた。
【0049】
(実施例2)
シリカゾル(PL-7)231.9gと純水230gをビーカー(8L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、シリカ含量が5重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた厚さ約1mmの試料の電子顕微鏡観察を図1および図2に示す。また、溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物の引っ張り物性・MFR測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定、窒素ガス透過度測定を行い、結果を表1および表2に示す。
【0050】
(実施例3)
シリカゾル(PL-7)489.5gと純水490gをビーカー(8L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、シリカ含量がPFA樹脂複合体に対して10重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。溶融混合して得られたフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、引っ張り物性・MFR測定、窒素ガス透過度測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定を行い、結果を表1および表2に示す。
【0051】
(実施例4)
シリカゾル(PL-7)777.4gと純水770gをビーカー(8L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、シリカ含量がPFA樹脂複合体に対して15重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。溶融混合して得られたフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、引っ張り物性・MFR測定、窒素ガス透過度測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定を行い、結果を表1および表2に示す。
【0052】
(実施例5)
シリカゾル(PL-7)1107.3gと純水1100gをビーカー(8L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、シリカ含量がPFA樹脂複合体に対して20重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。溶融混合して得られたフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、引っ張り物性・MFR測定、窒素ガス透過度測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定を行い、結果を表1および表2に示す。
【0053】
(実施例6)
シリカゾル(PL-13)219.3gと純水220gをビーカー(8L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、シリカ含量がPFA樹脂複合体に対して5重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。溶融混合して得られたフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、引っ張り物性・MFR測定、窒素ガス透過度測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定を行い、結果を表1および表2に示す。
【0054】
(実施例7)
シリカゾル(PL-20)219.3gと純水220gをビーカー(8L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、シリカ含量がPFA樹脂複合体に対して5重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。溶融混合して得られたフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、引っ張り物性・MFR測定、窒素ガス透過度測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定を行い、結果を表1および表2に示す。
【0055】
(比較例1)
平均粒子径が32000nmの溶融シリカと熱溶融性樹脂であるPFAペレットを溶融混合装置(東洋精機製作所製KF−70V小型セグメントミキサー)を使用して、340℃、240rpmで1分40秒間溶融混合し、平均粒子径が32000nmのマイクロスケールのシリカがフッ素樹脂中に分散されている複合体組成物を得た。得られた試料を350℃で圧縮成形し、厚さ約1.0mmの試料を用いて引っ張り物性、MFR測定および光学・電子顕微鏡観察、光線透過率測定を行い、結果を表1、表2および図3に示す。
【0056】
(参考例1)
シリカを含まないフッ素樹脂のみの物性を表1および表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1に示された結果では、本発明によるフッ素樹脂複合体組成物(実施例1〜7)はシリカがナノ分散されていた。また、シリカ含量が5%の場合、シリカがナノ分散されるとMFRはフッ素樹脂単体(参考例1)より若干高くなる。しかし、シリカがナノ分散されてない場合(比較例1)は、5%でも、従来のマイクロコンポジットの様にMFRがフッ素樹脂単体より低くなった。
シリカの1次粒径が一定の場合、シリカ含量が5%、10%、15%に増えると、MFRと伸び率をある程度維持しながら弾性率が高くなった。従来のマイクロコンポジットでは、充填材の含量が増えるとMFRと伸び率が著しく減少することから、シリカ含量を増やしてもMFRと伸び率をある程度維持できるのはシリカ1次粒子のナノ分散のため現れるいわゆる高分子ナノコンポジットによる結果であると思われる。
【0060】
また、凝集体の乾燥粉末状態のフッ素樹脂複合体組成物(図1)と乾燥粉末を更に溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物(図2)の電子顕微鏡観察結果からは、両方ともシリカのナノ分散状態には差は見られなかった。従って、凝集体は乾燥粉末状態でもシリカはフッ素樹脂中にナノ分散されていると思われる。
【0061】
表2に示された結果では、シリカがナノ分散され試料の光線透過率は70%以上になり、透明になった。特に、シリカの粒径が70nmの場合は、シリカ含量を5%から20%までに増やしても光線透過率は約70%を維持した(実施例2〜5)。また、シリカの1次粒径が220nm(実施例7)なっても光線透過率は約70%であり、透明性を維持した。これは、可視光の波長(400nm〜700nm)より小さい粒径のシリカがフッ素樹脂中に均一にナノ分散されているためであると思われる。しかし、シリカの粒径が32000nmの場合は(比較例1)、光線透過率が35%になり、不透明になった。また、シリカ含量の増加とともに窒素ガス透過度が低くなった(実施例2〜5)。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により提供される透明部材は、無機微粒子をフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散させたフッ素樹脂複合体組成物からなる耐ガス・薬液透過性、力学物性に優れている透明部材である。
本発明によって提供される透明部材は、従来のマイクロレベルの充填材入りフッ素樹脂複合体組成物とは異なって、シリカなどの無機微粒子含量を15〜20重量%まで増やしても、MFRや伸び率を維持しながら弾性率などの力学物性が改善されたフッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材である。
本発明の透明部材は、容器類、チューブ類、シート類、フィルム類、棒類、繊維類、電線被覆、電子材料など各種の成型品へと成型することができる。
本発明の透明部材は、耐熱性や耐薬品性が要求される貯槽などの覗き窓や液面計などの透明部材、薬液が流れる状況が目視で確認できる配管などの用途に有用である。更に、フッ素樹脂にシリカなどの金属酸化物をナノレベルに分散したフッ素樹脂複合体組成物のでは、シリカ含量の増加と共にガス・薬液透過速度が低くなるため、耐ガス・薬液透過性が必要な薬液の移送設備や貯蔵容器などのための成型材料として、あるいは配管やライニング材料としても有用である。また、耐スクラッチ性フィルム、透明フィルム、透明チューブ、電子材料などの種々の用途にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例2で得られた凝集体の乾燥粉末試料のシリカ分散状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で使用した溶融混合後のフッ素樹脂複合体組成物のシリカ分散状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1で使用したフッ素樹脂複合体組成物のシリカ分散状態を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂エマルジョンと無機微粒子のコロイダル溶液とを攪拌下に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることで得られる凝集体を水性の溶液から分離・乾燥して得られたフッ素樹脂複合体組成物からなる透明部材。
【請求項2】
フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれるモノマーの重合体又は共重合体のエマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の透明部材。
【請求項3】
フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれる少なくとも1つのモノマーと、エチレン又はプロピレンとの共重合体のエマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の透明部材。
【請求項4】
無機微粒子のコロイダル溶液が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛と五酸化アンチモンを結合させた複酸化物から選ばれる少なくとも1つの無機微粒子のコロイダル溶液である、請求項1〜3のいずれかに記載の透明部材。
【請求項5】
前記フッ素樹脂複合体組成物中の無機微粒子の含量がフッ素樹脂複合体に対し0.5〜40重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明部材。
【請求項6】
無機微粒子のコロイダル溶液中の無機微粒子の平均粒径が、400nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明部材。
【請求項7】
前記フッ素樹脂複合体組成物の厚さ1mmのシートの全光線透過率が60%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明部材。
【請求項8】
前記フッ素樹脂複合体組成物の窒素ガス透過度がフッ素樹脂の75%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明部材。
【請求項9】
前記フッ素樹脂複合体組成物が乾燥して得られたフッ素樹脂複合体組成物を溶融押出ししたペレットである請求項1〜8のいずれかに記載の透明部材。
【請求項10】
透明部材が、圧縮成形、押出し成形、トランスファー成形、ブロー成形、射出成形、回転成形またはライニング成形により得られる成形品である請求項1〜9のいずれかに記載の透明部材。
【請求項11】
透明部材が、容器類、チューブ類、シート類、棒類、繊維類、ライニング類、電線被覆類から選ばれるものである請求項1〜10のいずれかに記載の透明部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−115335(P2008−115335A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302120(P2006−302120)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】