説明

フッ酸含有廃液の処理方法

【課題】攪拌槽内の被混合流体の混合を短時間で効率良く行うことができ、経済性に優れた、フッ酸含有廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】フッ酸含有廃液に水酸化カルシウム2を接触させる工程と、下記(A)の振動型攪拌混合装置3を準備し,上記接触処理後の廃液と,炭酸ガスとを上記装置3内に供給して少なくとも2秒間,攪拌混合させる工程とを備えている。
(A)管状のケーシング内に,駆動軸と,この駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、上記駆動軸を軸方向に振動することにより上記ケーシング内の被混合流体を混合する振動型攪拌混合装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ酸(フッ化水素酸)を含有する廃液中のフッ素濃度を低下させるフッ酸含有廃液の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス加工(液晶のノングレア加工),半導体のエッチング,金属の表面処理等を行う工場においては、フッ酸(フッ化水素酸)が使用されている。このフッ酸は、毒劇物取締法による毒物に指定されている猛毒物質であり、工場等からのフッ酸含有廃液を排出する際には、フッ素濃度の排水基準を満たす必要がある。
【0003】
このようなフッ酸含有廃液中のフッ素濃度を低下させる処理方法としては、例えば、フッ酸含有廃液中に水酸化カルシウム(消石灰)等を添加して、難溶性のフッ化カルシウムを生成させる等の処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−54791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記フッ素含有廃液中には、過剰に添加した水酸化カルシウムが残留しているため、攪拌槽内に炭酸ガス(二酸化炭素)を吹き込み、タービン型等の攪拌羽根を用いた攪拌装置で攪拌して中和反応を行い、炭酸カルシウムを生成させている。しかしながら、上記攪拌羽根を用いた攪拌装置では、攪拌槽内の被混合流体を均一に混合するには、長時間を必要とし、反応効率が悪いという難点がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、攪拌槽内の被混合流体の混合を短時間で効率良く行うことができ、経済性に優れた、フッ酸含有廃液の処理方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明のフッ酸含有廃液の処理方法は、フッ酸含有廃液中のフッ素濃度を低下させるフッ酸含有廃液の処理方法であって、上記フッ酸含有廃液に水酸化カルシウムを接触させる工程と、下記(A)の振動型攪拌混合装置を準備するとともに,上記接触処理後の廃液と,炭酸ガスとを上記装置内に供給して少なくとも2秒間,攪拌混合させる工程とを備えているという構成をとる。
(A)管状のケーシング内に,駆動軸と,この駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、上記駆動軸を軸方向に振動することにより上記ケーシング内の被混合流体を混合する振動型攪拌混合装置。
【0007】
すなわち、本発明者は、被混合流体の混合を短時間で効率良く行うことができ、経済性に優れた、フッ酸含有廃液の処理方法を得るため鋭意研究を重ねた。そして、管状のケーシング内に,駆動軸と,この駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、上記駆動軸を軸方向に振動することにより上記ケーシング内の被混合流体を混合する振動型攪拌混合装置を用いると、フッ酸含有廃液を水酸化カルシウムで接触処理した廃液と,炭酸ガスとの攪拌混合(中和反応)を短時間で効率良く行うことができることを見いだし、本発明に到達した。すなわち、攪拌羽根を上下方向に振動することにより、循環渦の発生と,循環渦の崩壊(または反転)とによる乱流が常時発生し、流体の混合が促進される結果、上記ケーシング内の被混合流体を効率良く混合攪拌することができ、経済性に優れるようになる。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明のフッ酸含有廃液の処理方法は、フッ酸含有廃液を水酸化カルシウムで接触処理した廃液と,炭酸ガスとの混合を、上記特殊な振動型攪拌混合装置を用いて行うため、攪拌羽根の上下方向の振動により、循環渦の発生と,循環渦の崩壊(または反転)とによる乱流が常時発生し、流体の混合が促進される結果、上記ケーシング内の被混合流体を効率良く混合攪拌することができる。そのため、高濃度のフッ酸含有廃液を短時間で処理することができ、経済性に優れている。
【0009】
また、上記振動型攪拌混合装置の攪拌羽根が、螺旋状の攪拌羽根であると、上記ケーシング内での被混合流体の混合攪拌をより効率良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。但し、これに限定されるわけではない。
【0011】
本発明のフッ酸含有廃液の処理方法は、フッ酸含有廃液を水酸化カルシウムで接触処理した廃液と,炭酸ガスとを攪拌混合(中和)させる際に、下記(A)の振動型攪拌混合装置を用いて、被混合流体の混合を短時間(少なくとも2秒間)で効率良く行うのであって、これが最大の特徴である。
(A)管状のケーシング内に,駆動軸と,この駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、上記駆動軸を軸方向に振動することにより上記ケーシング内の被混合流体を混合する振動型攪拌混合装置。
【0012】
本発明のフッ酸含有廃液の処理方法の一例について、図1に基づいて説明する。すなわち、廃液槽1に貯蔵されたフッ酸含有廃液中に、水酸化カルシウム(消石灰)2を添加して、所定時間(好ましくは、5〜60分間)、混合攪拌を行い、フッ酸と水酸化カルシウム2とを反応させて、フッ化カルシウムを生成させる。つぎに、このフッ化カルシウムを含有する処理液(廃液)を、ポンプ(図示せず)等の供給手段によって、振動型攪拌混合装置3内に供給する。この例では、2個の振動型攪拌混合装置3(図1では、大きめに図示している。)を連結しており、1個目の振動型攪拌混合装置3(図1では、左側)から排出された反応液は、2個目の振動型攪拌混合装置3(図1では、右側)に供給される。一方、ボンベ4等に充填された炭酸ガス(二酸化炭素)を各振動型攪拌混合装置3内に供給し、上記処理液中の過剰の水酸化カルシウムと二酸化炭素とを攪拌混合(中和反応)させて、炭酸カルシウムを生成させ、この炭酸カルシウムに反応液中の未反応のフッ素イオンを吸着させる。そして、この反応液(2個目の振動型攪拌混合装置3から排出された反応液)を汚泥槽5に供給した後、ポンプ(図示せず)等の供給手段によって、ベルトプレス等の脱水装置6に供給する。ここで高分子凝集剤7を必要に応じて添加して、フッ化カルシウム等を分離し易くするため凝集させる。また、上記ベルトプレス等の脱水装置6では、上記反応液を脱水処理し、ろ液8と脱水ケーキ9とに分離する。このろ液8は、フッ素濃度が規制値(1リットル当たり8mg)以下に低下しており、下水道10に排水される。本発明の処理方法によると、処理後の下水中におけるフッ素濃度を1m3 当たり8g(1リットル当たり8mg)以下とすることが可能である。一方、上記脱水ケーキ9は、炭酸カルシウムやフッ化カルシウム等を含有するため、例えば、土木材料、セメント原料、フィラー原料等として再利用することもできる。
【0013】
なお、上記脱水装置6としては、上記ベルトプレスに限定されるものではなく、例えば、ベルトプレスに代えてフィルタープレス等を用いてもよく、またベルトプレスとフィルタープレスとを併用等しても差し支えない。
【0014】
上記水酸化カルシウム2は、例えばフッ酸含有廃液のpHが10〜12の範囲内、好ましくはpHが11〜12の範囲内となるように、モル比過剰で添加・混合することが必要である。すなわち、このように過剰添加することによって、水酸化カルシウム2はフッ酸廃液中のフッ素と結合して、フッ化カルシウムを効率的に生成することができるからである。
【0015】
上記水酸化カルシウム2の比表面積は、特に限定はないが、通常、1〜4m2 /gの範囲内であり、好ましくは2〜4m2 /gの範囲内である。
【0016】
そして、上記2個の振動型攪拌混合装置3内における、上記水酸化カルシウム処理を行った廃液の滞留時間〔上記水酸化カルシウム処理を行った廃液と炭酸ガス(二酸化炭素)とを攪拌混合させる時間〕は、水酸化カルシウム処理を行った廃液の振動型攪拌混合装置3への供給量,振動型攪拌混合装置3内の容量等に応じて適宜決定することができるが、通常、上記滞留時間が2秒間以上(最大でも300秒間、好ましくは3〜60秒)あれば、上記廃液中のフッ素濃度を充分に低下させることができ、その結果、その後の上記ろ液8中のフッ素濃度を規制値(1リットル当たり8mg)以下にすることができる。例えば、振動型攪拌混合装置3内の容量が一定の場合、上記廃液の供給量(1時間当たりの質量)を増加させるほど、上記滞留時間が短くなるが、上記滞留時間が短過ぎる(2秒間未満)と、上記廃液中のフッ素濃度を充分に低下させることができないおそれがある。
【0017】
上述のように、上記水酸化カルシウム処理後のフッ化カルシウムを含有する廃液はアルカリ性になっているが、これに炭酸ガスを吹き込むと、廃液が次第に中和されて水酸化カルシウム2が炭酸カルシウムへと変化するためにpHが徐々に低下してゆき、水酸化カルシウム2と二酸化炭素の反応により炭酸カルシウムが析出してくる。このように、中和処理を行う場合の、処理液のpHは5.0〜11.0の範囲内にすることが好ましく、特に好ましくは7.0〜9.0の範囲内である。
【0018】
ここで、上記振動型攪拌混合装置3の構成について、図2に基づいて説明する。この振動型攪拌混合装置3は、図2に示すように、管状のケーシング31内に,駆動軸32と,この駆動軸32の外周に取り付けられた複数の攪拌羽根33とからなる攪拌体34を備え、この攪拌体34は、バイブレーター等の振動源35に連結された駆動軸32の駆動により軸方向上下に振動する。上記管状のケーシング31の内部は、仕切り板36により、複数の混合室(図では5室)37に仕切られている。流入口38から流入した流体(廃液)と、流入口39から流入した流体(炭酸ガス)とが、ケーシング31内の各混合室37を流通する間に、上記攪拌羽根33が軸方向上側に振動すると、攪拌羽根33の各羽根(セル)間に、循環渦が発生するとともに、上記攪拌羽根33が軸方向下側に振動すると、攪拌羽根33の各セル間で、循環渦の崩壊(または反転)が生じる。すなわち、攪拌羽根33を上下方向に振動することにより、各混合室37内で、循環渦の発生と,循環渦の崩壊(または反転)とによる乱流が常時発生し、流体の混合が促進される結果、上記ケーシング内の被混合流体を効率良く混合攪拌することができる。混合攪拌後の反応液は流出口40から流出され、汚泥槽5(図1参照)に導入される。
【0019】
なお、上記攪拌羽根の形状は、混合攪拌性の点から、螺旋状構造が好ましいが、これに限定するものではない。
【0020】
上記図1においては、上記振動型攪拌混合装置3を2個連結して用いた例を示したが、これに限定されるものではなく、上記振動型攪拌混合装置3を単独でまたは3個以上連結して用いることも可能である。そして、用いる上記振動型攪拌混合装置3の数が多い程、振動型攪拌混合装置3内の全容量が大きくなるため、振動型攪拌混合装置3内における、水酸化カルシウム処理を行った廃液の滞留時間を長くすることができ、それにより、上記廃液中のフッ素濃度をより低下させることができる。また、上記振動型攪拌混合装置3の数が多い程、上記廃液の上記振動型攪拌混合装置3への供給量(1時間当たりの質量)を増加させたり、高濃度フッ酸含有廃液の処理をより効率的に行ったりすることが可能となる。
【0021】
このように、本発明のフッ酸含有廃液の処理方法によると、フッ素を1m3 当たり1kg以上(1リットル当たり1g以上)含有する高濃度フッ酸含有廃液を、極めて短時間(2〜300秒間、好ましくは3〜60秒間)で、処理後の下水中におけるフッ素濃度を1m3 当たり8g(1リットル当たり8mg)以下とすることが可能である。
【実施例】
【0022】
〔実施例1〕
フッ素を1m3 当たり100kg(1リットル当たり100g)含有するフッ酸(塩酸混合)含有廃液1×10-33 (1リットル)を準備した。この廃液に対して、水酸化カルシウム(比表面積2.0m2 /g)15%含有するスラリーを4kg添加して、10分間混合攪拌を行い、フッ化カルシウムを生成させた。このフッ化カルシウムを含有する廃液を、2個の振動型攪拌混合装置(冷化工業社製、バイブロミキサーVM−H200S型、混合室:5室/個、全室容量:21リットル/個)を連結したものの1個目に、供給量(1時間当たりの質量)15t/hで供給するとともに、上記各振動型攪拌混合装置に炭酸ガスを供給した。そして、攪拌羽根を振動(振動数:15サイクル/秒)させて混合攪拌を行い、反応液のpHが7.5になるまで中和して炭酸カルシウムを生成させた。上記フッ化カルシウムを含有する廃液の、2個の振動型攪拌混合装置内での滞留時間は10.0秒間であった。その後、上記反応液を、2個目の振動型攪拌混合装置から排出して汚泥槽に供給し、ここで高分子凝集剤を添加して、反応液中の未反応のフッ素イオンを吸着させてフッ化カルシウム等を凝集させた。この処理液をベルトプレス(脱水装置)にて脱水処理を行い、ろ液と脱水ケーキとに分離した。ろ液中のフッ素濃度は、1m3 当たり6g(1リットル当たり6mg)であった。
【0023】
〔実施例2〕
上記実施例1において、フッ化カルシウムを含有する廃液の供給量(1時間当たりの質量)75t/hとし、その廃液の上記滞留時間を2.0秒間とした。それ以外は、実施例1と同様にして、廃液処理を行った。その結果、ろ液中のフッ素濃度は、後記の表1に示すとおりであった。
【0024】
〔実施例3〕
フッ酸含有廃液の濃度、水酸化カルシウムの添加量、水酸化カルシウムの比表面積、反応液のpH、フッ化カルシウムを含有する廃液の供給量(1時間当たりの質量)、その廃液の上記滞留時間を、後記の表1に示すように変更した。また、この実施例3では、振動型攪拌混合装置を3個連結した。それ以外は、実施例1と同様にして、廃液処理を行った。その結果、ろ液中のフッ素濃度は、後記の表1に示すとおりであった。
【0025】
〔実施例4〕
上記実施例3において、フッ化カルシウムを含有する廃液の供給量(1時間当たりの質量)113t/hとし、その廃液の上記滞留時間を2.0秒間とした。それ以外は、実施例3と同様にして、廃液処理を行った。その結果、ろ液中のフッ素濃度は、後記の表1に示すとおりであった。
【0026】
〔比較例1〕
上記実施例1において、フッ化カルシウムを含有する廃液の供給量(1時間当たりの質量)125t/hとし、その廃液の上記滞留時間を1.2秒間とした。それ以外は、実施例1と同様にして、廃液処理を行った。その結果、ろ液中のフッ素濃度は、後記の表1に示すとおりであった。
【0027】
〔比較例2〕
上記実施例3において、フッ化カルシウムを含有する廃液の供給量(1時間当たりの質量)188t/hとし、その廃液の上記滞留時間を1.2秒間とした。それ以外は、実施例1と同様にして、廃液処理を行った。その結果、ろ液中のフッ素濃度は、後記の表1に示すとおりであった。
【0028】
【表1】

【0029】
上記結果から、実施例1〜4および比較例1,2では、特殊な振動型攪拌混合装置を用いて、攪拌混合(中和反応)を行うため、極めて短時間で攪拌混合(中和反応)を効率良く行うことができ、そのため、ろ液中のフッ素濃度を低下させることができた。しかし、比較例1,2では、滞留時間が短過ぎるため、規制値(ろ液1リットル当たり8mg)以下にすることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、ガラス加工(液晶のノングレア加工),半導体のエッチング,金属の表面処理等を行う工場からの高濃度のフッ酸を含有するフッ酸含有廃液を、短時間で効率良く、経済的に、環境基準以下のフッ素濃度に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のフッ酸含有廃液の処理方法の概略を示す説明図である。
【図2】振動型攪拌混合装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
2 水酸化カルシウム
3 振動型攪拌混合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ酸含有廃液中のフッ素濃度を低下させるフッ酸含有廃液の処理方法であって、上記フッ酸含有廃液に水酸化カルシウムを接触させる工程と、下記(A)の振動型攪拌混合装置を準備するとともに,上記接触処理後の廃液と,炭酸ガスとを上記装置内に供給して少なくとも2秒間,攪拌混合させる工程とを備えたことを特徴とするフッ酸含有廃液の処理方法。
(A)管状のケーシング内に,駆動軸と,この駆動軸に取り付けられた攪拌羽根とからなる攪拌体を備え、上記駆動軸を軸方向に振動することにより上記ケーシング内の被混合流体を混合する振動型攪拌混合装置。
【請求項2】
上記(A)の振動型攪拌混合装置の攪拌羽根が、螺旋状の攪拌羽根である請求項1記載のフッ酸含有廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−38162(P2007−38162A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226681(P2005−226681)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(393004018)株式会社ダイセキ (7)
【Fターム(参考)】