説明

フラックスゲートセンサおよびその製造方法

【課題】磁性体素子の形状を変更することなく、フラックスゲートセンサの製造時に感度とレンジを調整可能にする。
【解決手段】薄膜磁性体素子1と、薄膜磁性体素子の周囲または近傍に配された検出コイルと、薄膜磁性体素子1に対して所定の方向に通電するための配線2とを備えるフラックスゲートセンサにおいて、薄膜磁性体素子1は、一軸磁気異方性が、素子の通電方向Iに対し直角方向から傾斜した方向に付与されている。検出コイルは薄膜コイルが好ましい。フラックスゲートセンサの製造時には、前記所定の方向に対する一軸磁気異方性の角度θを調整することにより、感度およびレンジを調整する工程を含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、携帯電話、その他各種機器において高感度磁気センサとして使用されるフラックスゲートセンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高感度な磁気センサの1つとして、フラックスゲートセンサが知られている。以前のフラックスゲートセンサは、ヘッド長が20〜30mmと非常に大型であり、小型化への要求が強い携帯電話機器に採用することができなかった。しかし、最近になって小型のフラックスゲートセンサが提案されている(特許文献1,2を参照)。
また、磁性膜と薄膜コイルを積層したフラックスゲートセンサ(非特許文献1を参照)や、磁気インピーダンス効果素子(MI素子)の検出方式に直交フラックスゲートセンサの原理を応用した方位センサおよび電子コンパス(非特許文献2,3を参照)のように、非常に小型であるフラックスゲートセンサも販売されている。
【特許文献1】特許第2617498号公報
【特許文献2】特開2006−201123号公報
【非特許文献1】“TMF−FG素子[高周波駆動フラックスゲートタイプ]”、[online]、キヤノン電子株式会社、[平成19年11月2日検索]、インターネット<URL: http://www.canon−elec.co.jp/products/compo/tmf/feature/index−fg.html>
【非特許文献2】“アモルファス材料のMI効果を利用した方位センサ ワンチップ電子コンパスICの概要と使い方”、[online]、アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社、[平成19年11月2日検索]、インターネット<URL: http://www.aichi−mi.com/5_2_transistor_gijutu/transistor_gijutu.htm>
【非特許文献3】“MIセンサを使った携帯電話用電子コンパスの開発”、[online]、アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社、[平成19年11月2日検索]、インターネット<URL: http://www.aichi−mi.com/5_4_MSJ/MSJ.HTM>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のフラックスゲートセンサの磁気コアとなる磁性体薄膜またはアモルファスワイヤは、還流磁区が接する磁壁を除けば、図1に示すように、磁壁3が通電方向Iに対してほぼ90°の方向を向いた磁区構造を備えており、磁気コアの一軸磁気異方性の方向も、通電方向に対してほぼ90°の方向を向いたものであった(特許文献2の図9および非特許文献2,3を参照)。この場合、センサ形状が決まると、センサの感度や使用磁界範囲(磁界レンジ)も決まってしまうため、異なった磁気特性仕様のセンサが必要な場合は、センサ形状を設計から変更しなければならないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、磁性体素子の形状を変更することなく、感度とレンジを調整して製造することが可能なフラックスゲートセンサおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、薄膜磁性体素子と、前記薄膜磁性体素子の周囲または近傍に配された検出コイルと、前記薄膜磁性体素子に対して所定の方向に通電するための配線とを備えるフラックスゲートセンサにおいて、前記薄膜磁性体素子は、一軸磁気異方性が、素子の通電方向に対し直角方向から傾斜した方向に付与されていることを特徴とするフラックスゲートセンサを提供する。
本発明のフラックスゲートセンサでは、前記薄膜磁性体素子は、還流磁区が生成する磁壁以外の磁壁が、素子の通電方向に対し直角方向から傾斜した方向に形成されていることが好ましい。
前記検出コイルが薄膜コイルであることが好ましい。
【0006】
また、本発明は、上述のフラックスゲートセンサを製造するための方法であって、前記所定の方向に対する一軸磁気異方性の角度を調整することにより、感度およびレンジを調整する工程を含むことを特徴とするフラックスゲートセンサの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フラックスゲートセンサを製造する際に、磁性体素子の形状を変更することなく、感度とレンジを調整することが可能であり、センサ形状の設計変更を省略でき、コストを低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図2は、本発明のフラックスゲートセンサにおける薄膜磁性体素子の無通電時における磁区構造を模式的に示す図である。
【0009】
本形態例のフラックスゲートセンサは、薄膜磁性体素子1と、薄膜磁性体素子の周囲または近傍に配された検出コイルと、薄膜磁性体素子1に対して所定の方向(以下、「通電方向」という場合がある。)に通電するための配線2とを備えており、薄膜磁性体素子1は、一軸磁気異方性が、素子の通電方向Iに対し直角方向から傾斜した方向に付与されているものである。なお、本発明においては、一軸磁気異方性の方向とは、磁化容易軸の方向とする。
【0010】
フラックスゲートセンサの磁性体素子としては、導電性を有する線状、帯状あるいは棒状の磁性体を用いることができるが、本形態例においては、例えば帯状やメアンダ形状等の形状を有する薄膜磁性体素子1が好ましい。
【0011】
本形態例のフラックスゲートセンサにおいて、配線2は、薄膜磁性体素子1の長手方向の両端に設けられ、薄膜磁性体素子1に対して所定の方向に通電するための駆動電源(図示せず)に接続される。すなわち、薄膜磁性体素子1に対する通電方向Iは、配線2間の方向(ここでは、薄膜磁性体素子1の長手方向)となる。
【0012】
検出コイル(図示せず)は、薄膜磁性体素子1の周囲または近傍に配され、センサ出力を取り出すために用いられる。検出コイルは、特に限定されるものではなく、従来のフラックスゲートセンサに用いられるものと同様のものを用いることができる。
薄膜磁性体素子1の周囲に検出コイルを配する場合は、導線を薄膜磁性体素子1の周囲に巻いて形成したコイルが挙げられる。また、薄膜磁性体素子1より上側の層に配された第1の導体層と、下側の層に配された第2の導体層と、第1の導体層の一方の端と第2の導体層の一方の端とを接続する貫通配線と、第1の導体層の他方の端と第2の導体層の他方の端とを接続する貫通配線とにより、薄膜磁性体素子1の周囲に配されたコイルを形成しても良い。
薄膜磁性体素子1の近傍に検出コイルを配する場合は、薄膜磁性体素子1より上側の層または下側の層に、スパイラルコイルなどの薄膜コイルを形成しても良い。
【0013】
薄膜磁性体素子1への一軸磁気異方性の付与は、例えば磁界中熱処理を行うことで、任意の方向に付与することができる。磁界中熱処理の方法としては、例えば回転磁界中熱処理後に静磁界中熱処理を行う方法が挙げられる。ここで、回転磁界中熱処理は、センサの素子が回転される条件下で、例えば400℃、3kG、1時間行う方法を採用することができる。また、静磁界中熱処理は、付与したい一軸磁気異方性の方向に応じて、センサの素子に対する静磁界の印加角度を固定した条件下で、例えば400℃、3kG、1時間行う方法を採用することができる。
【0014】
本形態例のフラックスゲートセンサは、薄膜磁性体素子1の一軸磁気異方性が、素子の通電方向Iに対し直角方向から傾斜した方向(傾斜角度θ)に付与されている。これにより、還流磁区が生成する磁壁以外の磁壁3が、素子の通電方向Iに対し直角方向から傾斜した方向に形成されているものとなる。
【0015】
薄膜磁性体素子1は、上述の通電方向に対し直角方向から傾斜した角度θが大きい(90°に近づく)ほど、感度が高くなり、かつレンジが狭くなる。反対に、角度θが小さい(0°に近づく)ほど、感度は低くなるが、レンジは広くなる。なお、ここでレンジとは、磁界−電圧特性がほぼ直線となる磁界の範囲であり、これがフラックスゲートセンサの使用可能な磁界範囲となる。
【0016】
したがって、本形態例のフラックスゲートセンサによれば、製造時に、通電方向に対し直角方向から傾斜した角度θを調整することにより、感度およびレンジを調整することができる。これにより、磁性体素子の形状を変更することなく、感度とレンジを調整することが可能であり、センサ形状の設計変更を省略でき、コストを低減することが可能になる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
薄膜磁性体素子となる磁性体薄膜と、この磁性体薄膜の両端に接続された配線と、薄膜コイルからなる検出コイルを形成して、フラックスゲートセンサを作製し、磁性体薄膜に一軸磁気異方性を付与する際、一軸磁気異方性(磁化容易軸)の方向が、薄膜磁性体素子への通電方向に対し直角方向から傾斜した方向(角度θが、70°、45°、または0°)となるように、磁界中熱処理を行った。薄膜磁性体素子への一軸磁気異方性の付与は、センサの素子が回転される条件下で、例えば400℃、3kG、1時間、回転磁界中熱処理をした後に、付与したい一軸磁気異方性の方向に応じて、センサの素子に対する静磁界の印加角度を固定した条件下で、400℃、3kG、1時間、静磁界中熱処理をすることにより行った。
【0019】
それぞれの場合で、外部磁界の大きさを変化させながら、フラックスゲートセンサの薄膜磁性体素子に通電したときに検出コイルに発生する誘導出力の大きさを測定し、磁界−電圧特性を求めた。その結果、図3に示す磁界−電圧特性と、表1に示す感度およびレンジが得られた。
【0020】
【表1】

【0021】
これらの結果から分かるように、薄膜磁性体素子1は、通電方向に対し直角方向から傾斜した角度θが大きいほど、感度が高くなり、かつレンジが狭くなる。反対に、角度θが小さい(0°に近づく)ほど、感度は低くなるが、レンジは広くなる。この特性を利用することで、同一形状のセンサを用いて、角度θを調整することにより、感度やレンジが異なる種々のセンサを作製し、コストを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のフラックスゲートセンサは、自動車、携帯電話、その他各種機器において高感度磁気センサとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のフラックスゲートセンサにおける薄膜磁性体素子の無通電時における磁区構造を模式的に示す図である。
【図2】本発明のフラックスゲートセンサにおける薄膜磁性体素子の無通電時における磁区構造を模式的に示す図である。
【図3】本発明のフラックスゲートセンサの実施例を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1…薄膜磁性体素子、2…配線、3…還流磁区が接する磁壁以外の磁壁、I…通電方向、M…スピンの向き、θ…通電方向に対し直角方向から傾斜した方向の角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜磁性体素子と、前記薄膜磁性体素子の周囲または近傍に配された検出コイルと、前記薄膜磁性体素子に対して所定の方向に通電するための配線とを備えるフラックスゲートセンサにおいて、
前記薄膜磁性体素子は、一軸磁気異方性が、素子の通電方向に対し直角方向から傾斜した方向に付与されていることを特徴とするフラックスゲートセンサ。
【請求項2】
前記薄膜磁性体素子は、還流磁区が生成する磁壁以外の磁壁が、素子の通電方向に対し直角方向から傾斜した方向に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフラックスゲートセンサ。
【請求項3】
前記検出コイルが薄膜コイルであることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックスゲートセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のフラックスゲートセンサを製造するための方法であって、
前記所定の方向に対する一軸磁気異方性の角度を調整することにより、感度およびレンジを調整する工程を含むことを特徴とするフラックスゲートセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−145074(P2009−145074A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319860(P2007−319860)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】