説明

フラット引戸装置および引戸

【課題】 構造が簡単なフラット引戸装置を提供する。
【解決手段】 フラット引戸装置の引戸2の上縁部には、第1,第2の走行体10,20が設けられ、下縁部には第3走行体30が設けられている。第1走行体10は引戸2の幅方向の中心より手先側に偏って位置し、第2走行体20は第1走行体10より手先側に位置し、第3走行体30は第1,第2走行体10,20の真下に位置している。本体開口の上縁部には、第1走行体10を案内するための第1軌道がもうけられるとともに,その上方に第2走行体20を案内するための第2軌道が設けられている。本体開口の下縁部には、第3走行体を案内するための第3軌道が設けられている。第1走行体10が第1軌道に乗って引戸の荷重を支持し、第2走行体20が第2軌道に当たることにより、引戸の荷重に起因して引戸に付与される回転モーメントを受け止める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の引戸をフラットに左右に並べて本体の開口を閉じる装置およびこの装置に用いるのに適した引戸に関する。
【背景技術】
【0002】
本体の開口の上下縁部にそれぞれ設けた2本の平行な軌道に沿って2枚の引戸を案内する引戸装置は周知である。この引戸装置は構成が非常に簡単であるが、2枚の引戸に段差ができて外観が良くない。
【0003】
そこで、例えば特許文献1に記載されているようなフラット引戸装置が開発されている。このフラット引戸装置は、本体の開口を左右2枚の引戸で閉じ、この閉じ状態で引戸が互いにフラットをなしている。そして、いずれか一方の引戸を一旦前方へ引出してから左右方向に移動させることにより、他方の引戸に重なる開き位置にする。
【特許文献1】特開2003−239612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に見られるように、上記フラット引戸装置は、2枚の引戸が閉じている時に、引戸がフラットになるので、外観が良いが、構造が非常に複雑である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、本体の開口の全領域または一部領域が左右2枚の引戸で開閉され、2枚の引戸が閉じ位置にある時に互いにフラットをなし、いずれか一方の引戸が一旦前方へ引出されてから左右方向に移動されることにより、他方の引戸に重なる開き位置に至るフラット引戸装置において、各引戸の上下縁部の一方には、互いに左右方向に離れた第1,第2の走行体が設けられ、他方の縁部には、第3走行体が設けられ、本体の開口の上縁部には上側ガイド構造が設けられ、開口の下縁部には下側ガイド構造が設けられ、上側,下側のガイド構造の一方は、第1,第2の走行体をそれぞれ案内するための第1,第2軌道を有し、他方のガイド構造は、第3走行体を案内するための第3軌道を有し、これら第1〜第3軌道は、左右方向に真っ直ぐ延びる主軌道部分と、この主軌道部分から奥に向かって延びる左右の副軌道部分とを有し、第1軌道は上方を向く面により構成され、第2軌道は下方を向く面により構成され、各引戸において、第1走行体は引戸の幅方向の中心より手先側に偏って位置し、第2走行体は第1走行体より手先側に位置し、第3走行体は第1走行体と引戸の幅方向において同位置かこれより手先側に位置しており、第1走行体が第1軌道に乗って引戸の荷重を支持し、第2走行体が第2軌道に当たることにより、引戸の荷重に起因して引戸に付与される回転モーメントを受け止めることを要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、左右の引戸の第1,第2,第3走行体が、手先側に偏って配置されているので、引戸の走行体同士が干渉することなく、引戸を開くことができる。しかも、引戸を案内するための構造は、基本的に第1〜第3走行体と第1〜第3軌道により構成され、簡単な構造となる。また、第1走行体が第1軌道に乗って引戸の荷重を支持し、第2走行体が第2軌道に当たることにより、引戸の荷重に起因して引戸に付与される回転モーメントを受け止めるため、引戸は安定して支持される。
【0007】
好ましくは、上記第1走行体全体が、引戸の幅方向中心から分割した左右半分の領域のうち手先側の領域に配置される。この構成によれば、一方の引戸を他方の引戸に完全に重ねることが可能になり、引戸に対応する開口部分を全開にすることができる。
【0008】
好ましくは、各引戸には上記第3走行体が2つ設けられ、上記第1,第2走行体と引戸の幅方向において同位置にある。この構成によれば、引戸をより安定して支持しかつ案内することができる。
【0009】
好ましくは、上記第2軌道は上記第1軌道の上方に位置しており、上記第1,第2走行体はこれら第1,第2軌道間に入り込んでいる。この構成によれば、第1,第2軌道を有するガイド構造を簡単にすることができる。
【0010】
好ましくは、上記第1走行体は下方に突出して上記第1軌道に乗る走行部を有し、上記第2走行体は、上方に突出して上記第2軌道に当たる走行部を有するとともに、下側に位置して上記第1軌道を構成する部材に当たるか僅かな隙間で対峙する振れ止め部を有する。この構成によれば、引戸が外力により引戸の自重によるモーメントと反対方向のモーメントを受けても、引戸を安定して支持することができる。
【0011】
好ましくは、上記一方のガイド構造は、上記開口の上縁部または下縁部に沿って延びるレール部材を含み、このレール部材は前方が開口した断面ほぼコ字形をなし、上記レール部材の下辺部に上記第1軌道の主軌道部分が一体に形成され、この下辺部に固定された左右一対のガイド部材の上面に、上記第1軌道の副軌道部分が形成されており、上記レール部材の上辺部に上記第2軌道の主軌道部分が一体に形成され、この上辺部に固定された左右一対のガイド部材の下面に、上記第2軌道の副軌道部分が形成されている。この構成によれば、レール部材により、第1,第2走行体からの荷重を分散させることができる。
【0012】
他の態様として、本発明は、本体の開口の全領域または一部領域が左右に並べられた3枚の引戸で開閉され、3枚の引戸が閉じ位置にある時に互いにフラットをなし、いずれか一方の引戸が一旦前方へ引出されてから左右方向に移動されることにより、隣接する他の引戸に重なる開き位置に至るフラット引戸装置において、左右の引戸の上下縁部の一方には、互いに左右方向に離れた第1,第2の走行体が設けられ、中央の引戸の上下縁部の一方には、互いに離れた一対の第1走行体が設けられ、各引戸の他方の縁部には第3の走行体が設けられ、上記本体の開口の上縁部には上側ガイド構造が設けられ、開口の下縁部には下側ガイド構造が設けられ、上側,下側のガイド構造の一方は、上記第1,第2の走行体をそれぞれ案内するための第1,第2軌道を有し、他方のガイド構造は、上記第3走行体を案内するための第3軌道を有し、これら第1〜第3軌道は、左右方向に真っ直ぐ延びる主軌道部分と、この主軌道部分から奥に向かって延びる各引戸に対応した副軌道部分とを有し、第1軌道は上方を向く面により構成され、第2軌道は下方を向く面により構成され、中央の引戸において、一対の第1走行体および第3走行体は引戸を幅方向に3つに等分割した領域のうちの中央の領域にほぼ配置され、左右の引戸において、第1,第2の走行体は引戸を幅方向に3つに等分割した領域のうちの手先側の領域にほぼ配置され、第2走行体は第1走行体より手先側に位置し、第3走行体は第1走行体と引戸の幅方向において同位置かこれより手先側に位置しており、左右の引戸に関しては、上記第1走行体が第1軌道に乗って引戸の荷重を支持し、第2走行体が第2軌道に当たることにより引戸の荷重に起因して引戸に付与される回転モーメントを受け止めることを要旨とする。
上記構成によれば、3枚の引戸を備えたフラット引戸装置でも、簡単な構造でありながら、引戸の走行体同士が干渉することなく引戸を開くことができ、また、引戸を安定して支持できる。
【0013】
さらに、本発明はフラット引戸装置に用いられる引戸において、上下縁部の一方に、互いに左右方向に離れた第1,第2の走行体が設けられ、他方の縁部に第3の走行体が設けられ、第1走行体は、引戸の幅方向の中心より手先側に偏るとともに、下方に突出して軌道に当たるべき走行部を有し、 第2走行体は、第1走行体より手先側に位置するとともに、上方に突出して他の軌道に当たるべき走行部を有し、第3走行体は第1走行体と引戸の幅方向において同位置かこれより手先側に位置していることを要旨とする。
この引戸は、簡単な構造のフラット引戸装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単な構造のフラット引戸装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施形態をなすフラット引戸装置について、図1〜図14を参照しながら説明する。図1〜図4に示すように、直方体形状のキャビネット1(本体)は、背板1aと左右の側板1b,1bと、天板1cと、底板1dとを有し、前側に開口1xを有している。なお、背板1aと側板1b,1bの上縁は天板1cより高く、これら板により浅い凹部が形成されている。同様に、背板1aと側板1b,1bの下縁は底板1dより低く、これら板により浅い凹部が形成されている。
【0016】
上記開口1xの全領域は、左右2枚の矩形の引戸2,2により閉じられるようになっている。図1,図2に示すように、引戸2、2が閉じ位置にある時、互いに面一(フラット)をなしている。
【0017】
図3に示すように、右側の引戸2は一旦前に引出した後、左側の引戸2と完全に重なる開き位置まで左に移動させることができる。この開き位置では、右側の引戸2に対応する開口部分は完全に開かれる。同様にして図4に示すように、左側の引戸2も一旦前に引出した後、右側の引戸2と重なる開き位置まで右に移動させることができる。
【0018】
図5,図6に示すように、上記引戸2は、パネル2aと、パネル2aの召し合わせ側の縁部に嵌め込まれた枠材2bと、手先側の縁部に嵌め込まれた枠材2cと、パネル2aの上下縁部に嵌め込まれた枠材2d,2eとを備えている。これら枠材2b〜2eはアルミ押出型材からなる。なお、左右の枠材2b,2cは、把手部2x、2yをそれぞれ有している。
【0019】
図1〜図4に示すように、各引戸2の上縁部には、第1走行体10と第2走行体20とがそれぞれ1個ずつ固定されており、各引戸2の下縁部には2個の第3走行体30,30が固定されている。
【0020】
上記走行体10,20,30の引戸2への取り付け位置は重要な特徴をなす。図1を参照しながら説明すると、第1走行体10は、引戸2の幅方向(左右方向)の中心Cから偏った位置にある。すなわち、左側の引戸2において、第1走行体10は、中心Cより左側(手先側)に偏っており、第2走行体20は第1走行体10から離れてその左側(手先側)に位置している。同様に、右側の引戸2において、第1走行体10は、中心Cより右側(手先側)に偏っており、第2走行体20は第1走行体10から離れてその右側(手先側)に位置している。
【0021】
本実施形態では、左側の引戸2において、中心Cを通るラインで分割された引戸2の左半分の領域(手先側領域)に、第1走行体10全体が位置している。換言すれば第1走行体10の中心は、引戸2の中心Cより第1走行体10の幅の1/2以上離れている。同様に右側の引戸2において、中心Cを通るラインで分割された引戸2の右半分の領域(手先側領域)に、第1走行体10全体が位置している。
【0022】
本実施形態では第1走行体10は、引戸2の中心Cに近いが、もっと離れていてもよい。 第2走行体20は、引戸2の手先側の側縁近傍に配置されている。
各引戸2の2個の第3走行体30は、第1走行体10と第2走行体20の真下に位置している。
【0023】
図5,図7に示すように、上記第1走行体10は、引戸2の上枠2dに固定されて後方に延びるブラケット11と、このブラケット11の後端部に支持されたサポート12と、このサポート12に回転可能に支持されたボール13(走行部,走行車)とを有している。このボール13は、サポート12から下方に突出している。
【0024】
より詳しく説明すると、ブラケット11の奥端部は断面矩形をなして左右に延びる支持部11aを有し、この支持部11aの上下壁の中央部には穴11b,11cが形成されている。支持部11aの上壁には、穴11bを跨ぐ取付板14の両端部が固定されており、この取付板14の中央にサポート12が固定されている。サポート12の下部は穴11cから突出し、さらにサポート12の下面からボール13が突出している。なお、穴11bはサポート12を取付板14に固定する際の作業穴として提供される。
【0025】
上記第2走行体20も第1走行体10と同様にして引戸2に取りつけられている。図8に示すように、第2走行体20は、前端部が引戸2の上枠2dに固定されて後方に延びるブラケット21と、このブラケット21の後端部に支持されたサポート22と、このサポート22に回転可能に支持されたボール23(走行部,走行車)とを有している。このボール23は、サポート22から上方に突出している。
【0026】
より詳しく説明すると、ブラケット21は第1走行体10のブラケット11とほぼ同じ高さに位置し、ブラケット21の奥端部は断面矩形をなして左右に延びる支持部21aを有し、この支持部21aの上下壁の中央部には穴21b,21cが形成されている。上記支持部21aには、取付板24が収容されており、この取付板24の中央に上記サポート22が固定されている。サポート22の上部は穴21bから突出し、さらにサポート22の上面からボール23が突出している。なお、穴21cはサポート22を取付板24に固定する際の作業穴として提供される。
【0027】
上記取付板24には、支持部21aの上壁を貫通する左右一対のボルト25が螺合しており、取付板24と支持部21aの上壁との間には、上記ボルト25を巻回する圧縮コイルスプリング26が介在されている。ボルト25を回すことにより取付板24の高さが調節され、ひいてはボール23の高さが調節されるようになっている。
【0028】
上記支持部21aの下面には、後述の作用をなす板形状の振れ止め部材29(振れ止め部)が固定されている。
【0029】
上記第3走行体30は、図5,図6に示すように、前端部が引戸2の下枠2eに固定されて後方に延びるブラケット31と、このブラケット31の後端部に垂直軸を中心として回転可能に支持されたローラ32(走行部)とを有している。
【0030】
さらにフラット引戸装置は、図5,図6に示すように、キャビネット1に設置された上側ガイド構造4と下側ガイド構造5とを備えている。上側ガイド構造4は上記第1走行体10と第2走行体20とを案内するためのものであり、開口1xの上縁部に設けられている。下側ガイド構造5は上記第3走行体30を案内するためのものであり、開口1xの下縁部に設けられている。
【0031】
図5に示すように、上側ガイド構造4は、キャビネット1の上側の浅い凹部に配置されており、押出型材からなるレール部材40を有している。このレール部材40は、前方が開放された断面ほぼコ字形をなし、キャビネット1の開口1xの上縁部に沿ってほぼその全長にわたって延びている。レール部材40の下辺部41は、キャビネット1の天板1cの前縁部上面に固定されている。レール部材40の下辺部41と上辺部42の前縁部には上下に対峙する断面円弧形状の突条41a,42aが形成されている。これら突条41a,42aは、レール部材40の長手方向に真っ直ぐに延びている。
【0032】
図9(A)に示すように、レール部材40の下辺部41の突条41aが左右2箇所において切り欠かれている。樹脂からなる左右一対のガイド部材45がこれら切欠部41xに収容され、下辺部41に固定されている。突条41aの左右の切欠41xまでの領域の断面円弧をなす上面が、開口1xの上縁部に沿って左右に真っ直ぐに延びる主軌道部分71として提供される。上記ガイド部材45の上面には上記主軌道部分71の端と連なる断面円弧の副軌道部分72が形成されている。この副軌道部分72は比較的急な傾斜をなして奥へと延びている。これら主軌道部分71と副軌道部分72とで、第1軌道70が構成される。この第1軌道70は、上記第1走行体10を案内するためのものであり、図13(A)にも概略的に示されている。
【0033】
図9(B)に示すように、上記ガイド部材45は上下対称に形成されており、左右どちらにも用いることができるようになっている。
【0034】
図10(A)に示すように、レール部材40の上辺部42の突条42aが左右端部において切り欠かれている。樹脂からなる左右一対のガイド部材46がこれら切欠部42xに配置され、上辺部42に固定されている。突条42aの左右の切欠42xまでの領域の断面円弧をなす下面が、開口1xの上縁部に沿って左右に真っ直ぐに延びる主軌道部分81として提供される。上記ガイド部材45の下面には、上記主軌道部分81の左右端と連なる断面円弧の副軌道部分82が形成されている。この副軌道部分82は比較的緩やかな傾斜をなして奥へと延びている。これら主軌道部分81と副軌道部分82とで、第2軌道80が構成される。この第2軌道80は、上記第2走行体20を案内するためのものであり、図13(B)にも概略的に示されている。第2軌道80の主軌道部分81は、第1軌道70の主軌道部分71より長い。
【0035】
図10(B)に示すように、上記ガイド部材46は上下対称に形成されており、左右どちらにも用いることができるようになっている。
【0036】
図5に示すように、下側ガイド構造5はキャビネット1の下側の浅い凹部に配置されており、押出型材からなるレール部材50を有している。このレール部材50は、キャビネット1の開口1xの下縁部に沿って延びこの下縁部の全長より若干短く形成されている。レール部材50は断面ほぼL字形をなし、キャビネット1の底板1dの下面と、この底板2dから下方に延びる補助板2eの前面に固定されている。レール部材50の水平辺部の前縁部には、下方に突出する突条51,52が形成されている。これら突条51,52は、レール部材40の長手方向に真っ直ぐに延びている。
【0037】
図11に示すように、突条51,52は、レール部材50の長手方向中心から左および右に所定距離離れた2箇所と、左右端部で切り欠かれている。上記突条51,52の中間の左右切欠部50xには、樹脂製のガイド部材55が収容され、レール部材50に固定されている。このガイド部材55の下面には、上記突条51,52間の溝53と一直線をなして連なる溝55aが形成されている。直線上に並んだ溝53と溝55aにより、主軌道部分91が構成されている。さらに上記ガイド部材55の下面には、上記溝55aと交差し比較的急な傾斜をなして奥へと延びる溝状の副軌道部分92が形成されている。
【0038】
上記突条51,52の左右両端部の切欠部50yには、樹脂製のガイド部材56が配置され、レール部材50に固定されている。このガイド部材56の下面には、上記突条51,52間の溝53の端に連なり比較的緩やかな傾斜をなして奥へと延びる溝状の副軌道部分93が形成されている。
【0039】
上記主軌道部分91と、中間の2つの副軌道部分92と両端の2つの副軌道部分93により、第3軌道90が構成される。この第3軌道90は、第3走行体30を案内するためのものであり、図13(C)にも概略的に示されている。
【0040】
上記第3軌道90の主軌道部分91は、第2軌道80の主軌道部分81と同じ長さをなしてその真下に位置し、副軌道部分92は第1軌道70の副軌道部分71と等しい平面形状をなしてその真下に位置し、副軌道部分93は第2軌道部分80の副軌道部分82と等しい平面形状をなしてその真下に位置している。
【0041】
引戸2の上縁部に固定された第1走行体10と第2走行体20は、レール部材40の下辺部41と上辺部42との間に入り込んでおり、第1走行体10のボール13は第1軌道70に乗り、第2走行体20のボール23は第2軌道80に当たっている。
【0042】
第1走行体10のボール13が第1軌道70に乗ることにより、引戸2の荷重を支持している。図12に概略的に示すように、第1走行体10は引戸2の中心Cから偏って設けられているため、引戸2の重心がボール13と第1軌道70の当接点P1から偏倚している。それ故に引戸2には、その自重により当接点P1を中心として回転モーメントMが付与される。この回転モーメントMは、第2走行体20のボール13が第2軌道80に当接点P2で当たることにより受け止められる。その結果、引戸2は安定して支持される。
【0043】
引戸2の下縁部に固定された第3走行体30のローラ32は、下部ガイド構造5の溝状の第3軌道90に入り込んでおり、これにより、引戸2が前後方向に揺れるのを防止している。
【0044】
次に、引戸2、2の開閉動作について説明する。引戸2、2が開口1xを閉じ、フラットをなしている状態では、第1走行体10のボール13は図13(A)に示すように第1軌道70の副軌道部分72の奥端に位置しており、第2走行体20のボール23は図13(B)に示すように第2軌道80の副軌道部分72の奥端に位置しており、第3走行体30のローラ32は図13(C)に示すように第3軌道90の副軌道部分92,93の奥端に位置している。
【0045】
右側の引戸2を開く際には、召し合わせ側の把手2xを掴んで引出し、左方向へ移動させる。これにより、右側の引戸2の第1走行体10のボール13は第1軌道70の副軌道部分72を抜けて主軌道部分71に至り、第2走行体20のボール23は第2軌道80の副軌道部分82を抜けて主軌道部分81に至り、第3走行体30のローラ32は第3軌道90の副軌道部分92,93を抜けて主軌道部分91に至る。
【0046】
さらに右側の引戸2を左方向に移動させると、左側の引戸2に完全に重なった開き位置に至る。この開き位置では、図14(A)に示すように右側の引戸2の第1走行体10は、第1軌道70の長手方向中心を通り過ぎて左側の引戸2の第1走行体10に近づくが、当たらない。前述したように、各引戸2の第1走行体10が引戸2の中心Cより手先側の領域に設けられているからである。
【0047】
上記右側の引戸2の開き位置では、図14(B)に示すように、右側の引戸2の第2走行体20は、第2軌道80の長手方向中心を所定量を通り過ぎる。また、図14(C)に示すように、右側の引戸2の中間の第3走行体30は左側の引戸2の中間の第3走行体30に近づくが当たらない。
【0048】
右側の引戸2は上記開き位置から右方向へ移動することにより、元の閉じ位置に戻る。第1,第2走行体10,20のボール13、23,および第3走行体30のローラ32は、軌道70,80,90の主軌道部分71,81,91を走行し副軌道部分72,82,92,93の奥端に戻る。
左側の引戸2の開閉動作も同様であるので説明を省略する。
【0049】
引戸2の開閉動作の際に、第1,第2走行体10,20のボール13,23が第1,第2軌道70,80の主軌道部分71,81を走行している過程で、第2走行体20の振れ止め部材29は、レール部材40の下辺部41の突条41aと僅かな隙間を介して対峙している。引戸2に付与される外力により、図12に示す引戸2の自重に基づくモーメントMと逆方向のモーメントが付与されることがあるが、上記振れ止め部材29がレール部材40の下辺部41の突条41aに当たることにより、上記逆方向のモーメントによる引戸2の振れを防止することができる。
なお、第1,第2走行体10,20のボール13,23が第1,第2軌道70,80の副軌道部分72,82に位置している時にも上記逆方向のモーメントによる引戸2の振れを防止するために、上記振れ止め部材29と僅かな隙間をもって対峙する受板を、レール部材40の下辺部41に固定してもよい。
【0050】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。これらの実施形態において第1実施形態に対応する構成部には同番号を付してその詳細な説明を省略する。
図15に示す本発明の第2実施形態では、本体の開口を4枚の引戸で開閉する。この実施形態では、第1実施形態と同様のフラット引戸装置を左右2組設置する。このように、本体の開口を偶数の引戸で開閉する場合には第1実施形態のフラット引戸装置を適用できる。
【0051】
図16,図17に示す本発明の第3実施形態では、3つの引戸3で本体の開口を開閉する。中央の引戸3は左右一対の第1走行体10によって引戸の荷重を支える。この第1走行体10は引戸3の中央を挟んでその左右に配置されているので引戸2に自重による回転モーメントは生じない。上記一対の第1走行体10は、中央の引戸2を幅方向に3つに訪う分割した場合の中央の領域に配置されている。
【0052】
左右の引戸2において、第1,第2の走行体10,20は引戸2を幅方向に3つに等分割した領域のうちの手先側の領域に配置され、第2走行体20は第1走行体10より手先側に位置している。なお、各引戸2の第3走行体30は、第1,第2走行体10,20の真下に配置されている。
【0053】
上側のレール構造4の第1軌道70は、第1実施形態と同様に、1本の主軌道部分71と左右の引戸2の第1走行体10のための副軌道部分72を有するとともに、中央の引戸の2つの第1走行体10のための副軌道部分74,75を有している。これに対応して、第3軌道90も第1軌道70の副軌道部分74,75の真下に副軌道部分94,95を有している。
【0054】
本実施形態では、左右の引戸2は走行体同士の干渉なく中央の引戸2に重なる開き位置にまで移動できる。中央の引戸2は右の引戸2に重なる開き位置まで移動できる。他の構造および作用は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0055】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の態様を採用可能である。例えば、第1実施形態のガイド構造4を本体開口の下縁部に設け、第1実施形態のガイド構造5を上下逆にして本体開口の上縁部に設けるようにしてもよい。この場合、第1,第2の走行体は引戸の下縁部に設けられ、第3走行体が引戸の上縁部に設けられることになる。
【0056】
隣接する引戸は完全に重ならなくてもよい。この場合、第1走行体の引戸の中心からの偏倚量は小さい。
第3軌道は溝の代わりに突条であってもよい。この場合、第3走行体は突条に嵌る凹部を有している。
第1〜第3軌道の副軌道部分は主軌道部分と直交していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施形態をなすフラット引戸装置を閉じ状態で示す正面図である。
【図2】同フラット引戸装置を閉じ状態で示す斜視図である。
【図3】同フラット引戸装置において、右側の引戸を開いた状態を示す斜視図である。
【図4】同フラット引戸装置において、左側の引戸を開いた状態を示す斜視図である。
【図5】図1におけるV−V線に沿う縦断面図である。
【図6】図1におけるVI−VI線に沿う平断面図である。
【図7】(A)は、同フラット引戸装置の第1走行体の縦断面図であり、(B)は(A)におけるVII−VII線に沿う縦断面図である。
【図8】(A)は同フラット引戸装置の第2走行体の縦断面図であり、(B)は(A)におけるVIII−VIII線に沿う縦断面図である。
【図9】(A)は同フラット引戸装置の上側ガイド構造におけるレール部材の下辺部の平面図であり、(B)は(A)におけるIX−IX線に沿うガイド部材の断面図である。
【図10】(A)は同上側ガイド構造におけるレール部材の上辺部の底面図であり、(B)は(A)におけるX−X線に沿うガイド部材の断面図である。
【図11】同フラット引戸装置の下側ガイド構造の底面図である。
【図12】引戸の支持原理を概略的に説明する正面図である。
【図13】引戸が閉じらている状態を示すもので、(A)は第1軌道と第1走行体の位置関係を示し、(B)は第2軌道と第2走行体の位置関係を示し、(C)は第3軌道と第3走行体の位置関係を示す。
【図14】右側の引戸が開き位置にある状態を示すもので、(A)は第1軌道と第1走行体の位置関係を示し、(B)は第2軌道と第2走行体の位置関係を示し、(C)は第3軌道と第3走行体の位置関係を示す。
【図15】本発明の第2実施形態に係わるフラット引戸装置の概略正面図である。
【図16】本発明の第3実施形態に係わるフラット引戸装置の概略正面図である。
【図17】同第3実施形態における図13相当図である。
【符号の説明】
【0058】
1 キャビネット(本体)
2 引戸
4 上側ガイド構造
5 下側ガイド構造
10 第1走行体
13 ボール(走行部)
20 第2走行体
23 ボール(走行部)
30 第3走行体
32 ローラ(走行部)
40,50 レール部材
70 第1軌道
80 第2軌道
90 第3軌道
71,81,91 主軌道部分
72,82,92,93 副軌道部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体の開口の全領域または一部領域が左右2枚の引戸で開閉され、2枚の引戸が閉じ位置にある時に互いにフラットをなし、いずれか一方の引戸が一旦前方へ引出されてから左右方向に移動されることにより、他方の引戸に重なる開き位置に至るフラット引戸装置において、
各引戸の上下縁部の一方には、互いに左右方向に離れた第1,第2の走行体が設けられ、他方の縁部には、第3走行体が設けられ、
本体の開口の上縁部には上側ガイド構造が設けられ、開口の下縁部には下側ガイド構造が設けられ、上側,下側のガイド構造の一方は、第1,第2の走行体をそれぞれ案内するための第1,第2軌道を有し、他方のガイド構造は、第3走行体を案内するための第3軌道を有し、これら第1〜第3軌道は、左右方向に真っ直ぐ延びる主軌道部分と、この主軌道部分から奥に向かって延びる左右の副軌道部分とを有し、
第1軌道は上方を向く面により構成され、第2軌道は下方を向く面により構成され、
各引戸において、第1走行体は引戸の幅方向の中心より手先側に偏って位置し、第2走行体は第1走行体より手先側に位置し、第3走行体は第1走行体と引戸の幅方向において同位置かこれより手先側に位置しており、
第1走行体が第1軌道に乗って引戸の荷重を支持し、第2走行体が第2軌道に当たることにより、引戸の荷重に起因して引戸に付与される回転モーメントを受け止めることを特徴とするフラット引戸装置。
【請求項2】
上記第1走行体全体が、引戸の幅方向中心から分割した左右半分の領域のうち手先側の領域に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフラット引戸装置。
【請求項3】
各引戸には上記第3走行体が2つ設けられ、上記第1,第2走行体と引戸の幅方向において同位置にあることを特徴とする請求項1または2に記載のフラット引戸装置。
【請求項4】
上記第2軌道は上記第1軌道の上方に位置しており、上記第1,第2走行体はこれら第1,第2軌道間に入り込んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフラット引戸装置。
【請求項5】
上記第1走行体は下方に突出して上記第1軌道に乗る走行部を有し、上記第2走行体は、上方に突出して上記第2軌道に当たる走行部を有するとともに、下側に位置して上記第1軌道を構成する部材に当たるか僅かな隙間で対峙する振れ止め部を有することを特徴とする請求項4に記載のフラット引戸装置。
【請求項6】
上記一方のガイド構造は、上記開口の上縁部または下縁部に沿って延びるレール部材を含み、このレール部材は前方が開口した断面ほぼコ字形をなし、
上記レール部材の下辺部に上記第1軌道の主軌道部分が一体に形成され、この下辺部に固定された左右一対のガイド部材の上面に、上記第1軌道の副軌道部分が形成されており、
上記レール部材の上辺部に上記第2軌道の主軌道部分が一体に形成され、この上辺部に固定された左右一対のガイド部材の下面に、上記第2軌道の副軌道部分が形成されていることを特徴とする請求項4または5に記載のフラット引戸装置。
【請求項7】
本体の開口の全領域または一部領域が左右に並べられた3枚の引戸で開閉され、3枚の引戸が閉じ位置にある時に互いにフラットをなし、いずれか一方の引戸が一旦前方へ引出されてから左右方向に移動されることにより、隣接する他の引戸に重なる開き位置に至るフラット引戸装置において、
左右の引戸の上下縁部の一方には、互いに左右方向に離れた第1,第2の走行体が設けられ、中央の引戸の上下縁部の一方には、互いに離れた一対の第1走行体が設けられ、各引戸の他方の縁部には第3の走行体が設けられ、
上記本体の開口の上縁部には上側ガイド構造が設けられ、開口の下縁部には下側ガイド構造が設けられ、上側,下側のガイド構造の一方は、上記第1,第2の走行体をそれぞれ案内するための第1,第2軌道を有し、他方のガイド構造は、上記第3走行体を案内するための第3軌道を有し、これら第1〜第3軌道は、左右方向に真っ直ぐ延びる主軌道部分と、この主軌道部分から奥に向かって延びる各引戸に対応した副軌道部分とを有し、
第1軌道は上方を向く面により構成され、第2軌道は下方を向く面により構成され、
中央の引戸において、一対の第1走行体および第3走行体は引戸を幅方向に3つに等分割した領域のうちの中央の領域にほぼ配置され、
左右の引戸において、第1,第2の走行体は引戸を幅方向に3つに等分割した領域のうちの手先側の領域にほぼ配置され、第2走行体は第1走行体より手先側に位置し、第3走行体は第1走行体と引戸の幅方向において同位置かこれより手先側に位置しており、
左右の引戸に関しては、上記第1走行体が第1軌道に乗って引戸の荷重を支持し、第2走行体が第2軌道に当たることにより引戸の荷重に起因して引戸に付与される回転モーメントを受け止めることを特徴とするフラット引戸装置。
【請求項8】
フラット引戸装置に用いられる引戸であって、
上下縁部の一方に、互いに左右方向に離れた第1,第2の走行体が設けられ、他方の縁部に第3の走行体が設けられ、
第1走行体は、引戸の幅方向の中心より手先側に偏るとともに、下方に突出して軌道に当たるべき走行部を有し、
第2走行体は、第1走行体より手先側に位置するとともに、上方に突出して他の軌道に当たるべき走行部を有し、
第3走行体は第1走行体と引戸の幅方向において同位置かこれより手先側に位置していることを特徴とする引戸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−322252(P2006−322252A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147661(P2005−147661)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000187057)昭和鋼機株式会社 (7)
【Fターム(参考)】