説明

フランジ片強度試験装置

【課題】フランジ片強度試験装置において、強度試験中にフランジ片の一端部に局所的に大きな荷重がかかることを抑制して適切なコーナ部の強度評価を可能とする。
【解決手段】コーナ部を介して両端が接続する板状のフランジ片10の第1端部10bを把持すると共に第1端部10bの表裏面と交差する方向を載荷方向とする載荷装置1と、フランジ片10の第2端部10cを把持して固定する固定部2とを備えるフランジ片強度試験装置であって、上記載荷装置1が、上記フランジ片10の第1端部10bを把持する第1把持治具1aと、上記載荷方向に移動するロッド部1bと、上記第1把持治具1a及び上記ロッド部1bの各々に対して軸支される第1連結部1cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ片強度試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ターボファンエンジン等のジェットエンジンでは、複数の構成部品を接続することによって構成されており、例えば、各構成部品同士がフランジを介して接続されている。
ジェットエンジンの稼動中には、このようなフランジには、大きな荷重がかかる。このため、ジェットエンジンにおける構成部品の強度を予め評価し、この評価結果を用いてジェットエンジンの設計やメンテナンスを行う。特に、ジェットエンジン等で使用されるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)積層板で構成部品が形成されている場合には、フランジで板厚方向での剥離が生じ易く、強度評価の要求が高い。
【0003】
通常、このような構成部品の強度を評価は、非特許文献1に示されているように、構成部品の試作体を形成し、ジェットエンジンに組み込まれた際と同様の荷重を試作体に対してかける方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proceedings of ASME Turbo Expo 2003, Power for Land, Sea, and Air, June 16-19, 2003 Atlanta, Georgia, USA, [UNIQUE CHALLENGES FOR BOLTED JOINT DESIGN IN HIGE-BYPASS TURBOFAN ENGINES], GT2003-38042, ROBERT P CZACHOR
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特にジェットエンジンの構成部品となると、それ自体が大きな構造物であるため、試作体の製作には、多大な時間とコストが必要となる。
このため、近年においては、構成部品が有するフランジのみを切り出したフランジ片を用いて強度試験を行う方法が提案されている。
【0006】
このような強度試験を行うフランジ片強度試験装置は、フランジ片の一端部を把持する載荷装置と、フランジ片の他端部を把持して固定する固定部とを備えており、載荷装置によってフランジ片のコーナ部が開くように荷重をかけ、その際の挙動を取得するように構成されている。
より詳細には、従来のフランジ片強度試験装置では、フランジ片のコーナ部が開くように載荷装置によってフランジ片の一端部をその表裏面と直交する方向に引っ張っている。
【0007】
ところで、フランジ片のコーナ部に対して開くように荷重をかけるということは、フランジ片に対して回転モーメントを作用させることに等しい。
ところが、フランジ片は、一端部及び他端部が移動できないように固定されており、上記回転モーメントの方向において拘束されている。
この結果、載荷装置が把持するフランジ片の一端部に局所的に大きな荷重がかかり、コーナ部よりも載荷装置が把持するフランジ片の一端部にかかる荷重の方が大きくなる。この場合、フランジ片のコーナ部よりも先に一端部が破壊に至るため、コーナ部における強度評価を適切に行うことができない。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、フランジ片強度試験装置において、強度試験中にフランジ片の一端部に局所的に大きな荷重がかかることを抑制して適切なコーナ部の強度評価を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0010】
第1の発明は、コーナ部を介して両端が接続する板状のフランジ片の一端部である第1端部を把持すると共に第1端部の表裏面と交差する方向を載荷方向とする載荷装置と、上記フランジ片の他端部である第2端部を把持して固定する固定部とを備えるフランジ片強度試験装置であって、上記載荷装置が、上記フランジ片の第1端部を把持する第1把持治具と、上記載荷方向に移動するロッド部と、上記第1把持治具及び上記ロッド部の各々に対して軸支される第1連結部とを備えるという構成を採用する。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記固定部が、設置面に固定される基部と、該基部に対して軸支されると共に上記フランジ片の第2端部を把持する第2把持治具とを備えるという構成を採用する。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記第1把持治具と上記第2把持治具とは、上記フランジ片の上記第1端部の表裏面と上記第2端部の表裏面とが上記載荷方向と交差するように上記フランジ片を把持するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
コーナ部を介して両端が接続する板状のフランジ片の一端部である第1端部に、載荷装置によって当該第1端部の表裏面と交差する載荷方向に荷重がかけられると、フランジ片には、コーナ部を開く方向に回転モーメントが作用する。
ここで、本発明は、フランジ片の一端部である第1端部を把持すると共に第1端部の表裏面と交差する方向を載荷方向とする載荷装置が、フランジ片の第1端部を把持する第1把持治具と、載荷方向に移動するロッド部と、第1把持治具及びロッド部の各々に軸支される第1連結部とを備えている。つまり、本発明においては、第1連結部が第1把持治具及びロッド部の各々に対して回動可能とされている。
そして、上述のようにフランジ片に対して回転モーメントが作用した場合には、当該回転モーメントによって第1連結部が第1把持治具及びロッド部の各々に対して回動し、この結果、上記回転モーメントの一部が吸収され、載荷装置に把持されたフランジ片の一端部に局所的に大きな荷重がかかることを抑制することができる。
したがって、本発明によれば、強度試験中にフランジ片の一端部に局所的に大きな荷重がかかることを抑制して適切なコーナ部の強度評価を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態におけるフランジ片強度試験装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるフランジ片強度試験装置の概略構成を示す側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態におけるフランジ片強度試験装置によって強度試験が行われるフランジ片の斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態におけるフランジ片強度試験装置の動作を説明するための模式図である。
【図5】従来のフランジ片強度試験装置を用いた強度試験を想定して行われた有限要素法解析によって得られたフランジ片の剪断応力分布を示す図である。
【図6】本実施形態のフランジ片強度試験装置を用いた強度試験を想定して行われた有限要素法解析によって得られたフランジ片の剪断応力分布を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態におけるフランジ片強度試験装置の概略構成を示す正面図である。
【図8】本発明の第2実施形態におけるフランジ片強度試験装置の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係るフランジ片強度試験装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
(第1実施形態)
図1及び図2は、本実施形態のフランジ片強度試験装置S1の概略構成を示す図であり、図1が正面図、図2が側面図である。
本実施形態のフランジ片強度試験装置S1は、フランジ片10の強度試験を行うものであり、図1及び図2に示すように、載荷装置1と、固定部2とを備えている。
【0017】
ここで先にフランジ片10について説明する。図3は、フランジ片10の斜視図である。この図に示すように、フランジ片10は、コーナ部10aを介して両端が接続する板状の試験片であり、例えば、CFRP積層板によって構成されている。より詳細には、フランジ片10は、フランジ片10の一端部である第1端部10bとフランジ片の他端部である第2端部10cとが滑らかに湾曲するコーナ部10aを介して接続されており、第1端部10bと第2端部10cとが直角に配置された略L字型を有している。そして、第1端部10bは、第2端部10cよりも長さが短く設定されている。
また、第1端部10b及び第2端部10cには、後述のボルト(ボルト1a3、ボルト2a2)が挿通する貫通孔10dが各々2つずつ形成されている。
【0018】
図1及び図2に戻り、載荷装置1は、フランジ片10の第1端部10bを把持すると共に第1端部10bの表裏面と交差する方向を載荷方向としてフランジ片10に荷重をかけるものである。なお、本実施形態のフランジ片強度試験装置S1において載荷装置1は、変形前のフランジ片の第1端部10bの表裏面と直交する方向を載荷方向としている。また、載荷装置1は、図2に示すように第1端部10bを上にして姿勢設定されたフランジ片10の上記第1端部10bを上方から引っ張ることによって、コーナ部10aが開くようにフランジ片10に対して荷重をかける。
そして、この載荷装置1は、第1把持冶具1aと、ロッド部1bと、第1連結部1cとを備えている。
【0019】
第1把持冶具1aは、フランジ片10の第1端部10bを把持するものであり、第1端部10bを上下方向から挟み込む狭持部1a1と、フランジ片10の第1端部10bに形成された貫通孔10dに挿通されると共に狭持部1a1に形成されたネジ孔1a2に螺合するボルト1a3とを備えている。
【0020】
ロッド部1bは、載荷装置1が備える不図示の動力源から動力を伝達されることによって、載荷方向(上下方向)に移動するものである。
【0021】
第1連結部1cは、第1把持冶具1aとロッド部1bとを連結するもとであり、第1把持冶具1aとロッド部1bとの各々に対して軸支されている。
この第1連結部1cは、図2に示すように略H型の連結片1c1と、連結片1c1の上部とロッド部1bの下部とに挿通される第1ピン1c2と、内輪が第1ピン1c2に固定されると共に外輪がロッド部1bに固定される軸受1c3と、連結片1c1の下部と第1把持冶具1aの上部とに挿通される第2ピン1c4と、内輪が第2ピン1c4に固定されると共に外輪が第1把持冶具1aに固定される軸受1c5とを備えている。
第1ピン1c2は、中央部が軸受1c3の内輪に固定され、端部が連結片1c1と固定されている。この結果、第1連結部1cは、ロッド部1bに対して回動可能とされている。
また、第2ピン1c4は、中央部が軸受1c5の内輪に固定され、端部が連結片1c1と固定されている。この結果、第1連結部1cは、第1把持冶具1aに対して回動可能とされている。
【0022】
固定部2は、フランジ片10の第2端部10cを把持して固定するものである。この固定部2は、フランジ片10の第2端部10cを把持する第2把持冶具2aを備えている。そして、第2把持冶具2aは、第2端部10cを側方から挟み込む狭持部2a1と、当該狭持部2a1に形成された貫通孔及びフランジ片10の第2端部10cに形成された貫通孔10dに挿通されてベース部に螺合されるボルト2a2とを備えている。
【0023】
そして、このように構成された本実施形態のフランジ片強度試験装置S1では、フランジ片10の第1端部10bを載荷装置1によって把持し、フランジ片10の第2端部10cを固定部2によって把持し、さらに載荷装置1によって鉛直方向(載荷方向)に第1端部10bを引っ張ることによってフランジ片10の強度試験を行う。
【0024】
このような本実施形態のフランジ片強度試験装置S1において、コーナ部を介して両端が接続する板状のフランジ片10の第1端部10bに、載荷装置1によって当該第1端部10bの表裏面と交差する載荷方向に荷重がかけられると、フランジ片10には、コーナ部10aを開く方向に回転モーメントが作用する。
ここで、本実施形態のフランジ片強度試験装置S1は、フランジ片10の第1端部10bを把持すると共に第1端部10bの表裏面と交差する方向を載荷方向とする載荷装置1が、フランジ片10の第1端部10bを把持する第1把持治具1aと、載荷方向に移動するロッド部1bと、第1把持治具1a及びロッド部1bの各々に軸支される第1連結部1cとを備えている。つまり、本実施形態のフランジ片強度試験装置においては、第1連結部1cが第1把持治具1a及びロッド部1bの各々に対して回動可能とされている。
そして、図4に示すように、上述のようにフランジ片10に対して回転モーメントが作用した場合には、当該回転モーメントによって第1連結部1cが第1把持治具1a及びロッド部1bの各々に対して回動し、この結果、上記回転モーメントの一部が吸収され、載荷装置1に把持されたフランジ片10の一端部に局所的に大きな荷重がかかることを抑制することができる。
したがって、本実施形態のフランジ片強度試験装置S1によれば、強度試験中にフランジ片10の一端部に局所的に大きな荷重がかかることを抑制して適切なコーナ部の強度評価を行うことが可能となる。
【0025】
図5は、従来のフランジ片強度試験装置を用いた強度試験を想定して行われた有限要素法解析によって得られたフランジ片の剪断応力分布を示す図である。
また、図6は、本実施形態のフランジ片強度試験装置S1を用いた強度試験を想定して行われた有限要素法解析によって得られたフランジ片の剪断応力分布を示す図である。
図5及び図6を比較して分かるように、従来のフランジ片強度試験装置においてはフランジ片10の第1端部10bに局所的に大きな剪断応力が発生しているが、本実施形態のフランジ片強度試験装置においてはフランジ片10の第1端部10bに局所的に大きな剪断応力が生じていない。
【0026】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0027】
図7及び図8は、本実施形態のフランジ片強度試験装置S2の概略構成を示す図であり、図7が正面図、図8が側面図である。なお、図7においては、フランジ片10の図示を省略し、図8においては、フランジ片10を図示している。
これらの図に示すように、本実施形態のフランジ片強度試験装置S2において固定部2は、上述の第2把持冶具2aと、設置面D1を備える設置台Dに固定される基部2bとを備えている。そして、第2把持冶具2aは、基部2bに対して摺動可能に軸支された支持ピン2cに側方から固定されており、この結果、基部2bに対して回動可能とされている。
【0028】
また、本実施形態のフランジ片強度試験装置S2では、上述のように載荷方向が鉛直方向とされており、強度試験を開始する準備段階において、載荷方向に対してフランジ片10が傾けて取り付けられる。
より詳細には、第1把持治具1aと第2把持治具2aとが、フランジ片10の第1端部10bの表裏面と第2端部10cの表裏面とが載荷方向と交差するようにフランジ片10を把持することによって、フランジ片10が載荷方向に対して傾けて取り付けられる。
【0029】
上記第1実施形態のように、第2端部10cの表裏面が載荷方向と平行である場合には、フランジ片10のコーナ部10aが開くに連れて、第1端部10bのみが変位することとなる。一方、本実施形態のフランジ片強度試験装置S2のように、フランジ片10が載荷方向に対して傾けて取り付けられることによって、フランジ片10のコーナ部10aが開くに連れて、第1端部10b及び第2端部10cの両方が変位することとなる。
そして、本実施形態のフランジ片強度試験装置S2では、第2把持冶具2aが基部2bに対して回動可能とされているため、第2端部10cの変位に追従して第2把持冶具2aが基部2bに対して回動する。
このような本実施形態のフランジ片強度試験装置S2によれば、フランジ片10のコーナ部10aが開く方向に上述の回転モーメントが発生した場合に、第1把持冶具1aの回動に加えて、第2把持冶具2aの回動によっても上記回転モーメントの吸収を行うことができる。つまり、回転モーメントを、第1把持冶具1aと、第2把持冶具2aと分散して吸収することができる。
【0030】
なお、本実施形態のフランジ片強度試験装置S2において支持ピン2cの回転軸は、第2把持冶具2aにおいてフランジ片10が把持される領域を貫通するように設定されている。また、連結片1c1の下部が幅広に設定されており、第1把持冶具1aが連結片1c1に挟み込まれて配置され、さらには、第2ピン1c4の回転軸が第1把持冶具1aにおいてフランジ片10が把持される領域を貫通するように設定されている。
このため、フランジ片10のコーナ部10aが開くに連れて、第1端部10b及び第2端部10cが自らを貫通する回転軸を中心として回動しながら変位する。したがって、フランジ片の移動を最小限に抑えることが可能となる。
【0031】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
S1,S2……フランジ片強度試験装置、1……載荷装置、1a……第1把持冶具、1b……ロッド部、1c……連結部、2……固定部、2a……第2把持冶具、2b……基部、2c……支持ピン、10……フランジ片、10a……コーナ部、10b……第1端部、10c……第2端部、D1……設置面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーナ部を介して両端が接続する板状のフランジ片の一端部である第1端部を把持すると共に第1端部の表裏面と交差する方向を載荷方向とする載荷装置と、前記フランジ片の他端部である第2端部を把持して固定する固定部とを備えるフランジ片強度試験装置であって、
前記載荷装置は、
前記フランジ片の第1端部を把持する第1把持治具と、
前記載荷方向に移動するロッド部と、
前記第1把持治具及び前記ロッド部の各々に対して軸支される第1連結部と
を備えることを特徴とするフランジ片強度試験装置。
【請求項2】
前記固定部は、
設置面に固定される基部と、
該基部に対して軸支されると共に前記フランジ片の第2端部を把持する第2把持治具と
を備えることを特徴とする請求項1記載のフランジ片強度試験装置。
【請求項3】
前記第1把持治具と前記第2把持治具とは、前記フランジ片の前記第1端部の表裏面と前記第2端部の表裏面とが前記載荷方向と交差するように前記フランジ片を把持することを特徴とする請求項2記載のフランジ片強度試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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