説明

フラーレンを内外壁表面に有し光電導特性をチューニングした自己組織化ナノチューブ

【課題】本発明は、電子ドナー部位及び電子アクセプター部位としてのフラーレンを同一分子内に有する分子を用いた、光電導性を調整することができる新規なナノサイズ構造体、及びそれを用いた光電導性材料を提供する。
【解決手段】本発明は、金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体、並びに前記ナノサイズ構造体を用いた光検出素子、光スイッチング素子、及び光応答性電荷輸送素子などの各種の光関連素子に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体及び金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体並びに前記ナノサイズ構造体を用いた光検出素子、光スイッチング素子及び光応答性電荷輸送素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子や有機トランジスタ、有機薄膜太陽電池など、有機分子や高分子化合物を用いた電子デバイスに関する研究、開発が盛んに行われている。有機化合物を電子デバイスとして用いる利点としては、素子の軽量化やフレキシブル化、またプロセスを簡便化できる点などが挙げられる。中でも、近年のエネルギー問題や地球温暖化などの環境問題ともあいまって、有機薄膜太陽電池の開発には大きな注目が集まっている。
有機薄膜太陽電池においては、
A.光吸収
B.生成した電子−ホール対の分離(電子供与体分子からアクセプター分子への光誘起電子移動)
C.電子及びホールそれぞれを対向する電極へ流す。
の3プロセスが必要である。
この3プロセスを有効に実現して有機薄膜太陽電池における光−電気変換効率を向上するための方法として、電子供与体と受容体が分子レベルで相分離した構造を実現することが重要である。
【0003】
本発明者らがすでに提案している電子供与体であるヘキサベンゾコロネン(HBC)と電子受容体であるフラーレン(C60)が1分子層レベルでヘテロ接合した化合物からなる自己組織化同軸ナノチューブ(特許文献1)は、電子供与体と受容体のナノ相分離構造と広い面積での各層の接合という2つの条件を満たしており、今後有機太陽電池開発へ向けた応用研究が期待されている。
【0004】
【特許文献1】特願2008−52565号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子ドナー部位及び電子アクセプター部位としてのフラーレンを同一分子内に有する分子を用いた、光電導性を調整することができる新規なナノサイズ構造体及びそれを用いた光電導性材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、フラーレンを分子中に有する化合物からなる自己組織化ナノチューブを既に報告してきた(特許文献1参照)。このものは図1に示されるように層状の構造を有するナノチューブであり、π−スタックを形成するHBC骨格と、ナノチューブ壁の内面及び外面の両面を覆うフラーレンにより構成される。このナノチューブは、顕著な光電導性を示し、今後有機太陽電池開発へ向けた応用研究が期待されているが、光電導特性が固定化されており、光電導特性を変化させることが困難であった。
本発明者らは、このような光電導性を有するナノチューブ材料に、更に他のナノチューブ材料を導入させることにより、ナノチューブ表面の電子受容性の基の被覆率を系統的に変化させることにより、ナノチューブの光電導性をチューニング(調整)することができることを見出した。さらに、本発明者らは、このような調整により、フラーレンを分子中に有する化合物のみからなる自己組織化ナノチューブよりも、大きな光電導特性を示すナノチューブを得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち、本発明は、金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体及び金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体、より詳細には、本発明は、次の一般式(1)、
【0008】
【化6】

[式中、Rはアルキル基を表し、R及びRはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子、アルキル基又は金属を内包していてもよいフラーレンCmを有する基を表し、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方はフラーレンCmを有する基を有する(nは正の整数を表しmはCmが球殻状構造を形成し得る正の整数)。]
で表される金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び次の一般式(2)、
【0009】
【化7】

[式中、Rはアルキル基を表し、RはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子又はアルキル基を表し、nは正の整数を表す。]
で表される金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体に関する。
本発明の自己組織化ナノサイズ構造体は光電導特性を有しており、本発明は、前記した本発明の自己組織化ナノサイズ構造体を用いてなる光検出素子、光スイッチング素子、及び光応答性電荷輸送素子などの各種の光関連素子、並びにこれらの素子の少なくとも1種を含有してなる電子部品材料に関する。
【0010】
本発明をさらに詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体及び金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体。
(2)自己組織化ナノサイズ構造体が、自己組織化により形成されるナノチューブである前記(1)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(3)金属を内包していてもよいフラーレンが、C60フラーレンである前記(1)又は(2)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(4)金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体及び金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の合計のモル数に対する、金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が5〜90%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(5)金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が5〜50%である前記(1)〜(4)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(6)金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(1)、
【0011】
【化8】

【0012】
[式中、Rはアルキル基を表し、R及びRはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子、アルキル基又は金属を内包していてもよいフラーレンCmを有する基を表し、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方はフラーレンCmを有する基を有する(nは正の整数を表しmはCmが球殻状構造を形成し得る正の整数)。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体であり、金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(2)、
【0013】
【化9】

【0014】
[式中、Rはアルキル基を表し、RはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子又はアルキル基を表し、nは正の整数を表す。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(7)一般式(1)のR基が、式(3)で表されるメタノ[60]フラーレンカルボン酸基である前記(6)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【0015】
【化10】

【0016】
(8)一般式(1)のR、及び一般式(2)のRが、それぞれ独立して炭素数10〜30のアルキル基である前記(6)又は(7)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(9)一般式(1)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(4)
【0017】
【化11】

【0018】
で表される化合物である前記(6)〜(8)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(10)
一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(5)
【化12】

で表される化合物である前記(6)〜(9)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光検出素子。
(12)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光スイッチング素子。
(13)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光応答性荷輸送素子。
(14)
前記(11)〜(13)のいずれかに記載の素子の少なくとも1種を含有してなる電子部品材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、分子内に金属を内包していてもよいフラーレンを有する自己組織化ナノサイズ構造体における光電導性が調整されたナノサイズ光電導性構造体を提供するものである。本発明のナノサイズ構造体は、金属を内包していてもよいフラーレン分子を有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び金属を内包していてもよいフラーレン分子を有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を混合するという極めて簡便な方法により光電導性が調整されたナノサイズ光電導性構造体を得ることができ、これらのヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体は、親水性及び疎水性置換基を有し、両親媒性の特性とHBCによるπ−πスタッキング効果を介して自己集積し、超分子ナノチューブを形成することができるだけでなく、さらに調整された光伝導特性を併せ持ち、光応答性の新規な素子材料を提供するものである。
本発明のナノサイズ構造体は、光検出素子、光スイッチング素子、光応答性電荷輸送素子などとして多くの電子部品材料に適用されるだけでなく、光を利用した各種の電子材料の新規な機能性素子を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の金属を内包していてもよいフラーレンを有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体は、電子供与体であるHBCと電子受容体であるフラーレンを同一分子内に有していることを特徴とするものであり、さらに親水性の部分及び疎水性の部分の両方を有しており、この化合物の溶液中での自己集合化により形成される超分子ナノチューブは、πスタックを形成するHBC骨格をナノチューブの内面及び外面をフラーレンが被覆することにより構成されることを特徴とするものである(図1参照)。
本発明の金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、前記した一般式(1)で表されるようなポリエーテル構造などの親水性の基を有し、かつ金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を有するものであって、両親媒性と疎水効果、更に、分子面の重なりによるπ−πスタッキングの共同効果を介して自己集積し、自己組織化してナノサイズの集積体を形成することができるものであればよい。
【0021】
前記一般式(1)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは10〜30、より好ましくは10〜20の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、好ましい具体例としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシルル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基などが挙げられ、これらは直鎖状、分枝状又は環状の何れであってもよい。また、炭素数が10以下のアルキル基の場合は、例えばt−ブチル基のような嵩高い基が好ましい。
【0022】
前記一般式(1)において、R及びRで表されるCOCHCH(OCHCHORにおけるRで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0023】
また前記一般式(1)において、R及びRで表されるCOCHCH(OCHCHORにおけるRで表されるフラーレンCmを有する基としてはポリエチレングリコール鎖の先端に結合できるものであれば特に制限はないが、カルボキシル基を有するフラーレンCmが合成の容易さから好適である。フラーレンCmにおけるmはCmが球殻状構造を形成し得る正の整数をとりうるが、30,60,70,76,78,80,82,84,86,88,90,92,94,96が好ましく、60が特に好ましい。また金属を内包するフラーレン類も用いることができる。nは任意の正の整数であるが、2以上の整数がより好ましい。R及びRで表されるCOCHCH(OCHCHORの好ましい具体例としては、例えば、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOCH
等が挙げられ、中でも、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOR、[Rは前記式(3)で表されるメタノ[60]フラーレンカルボン酸基]
等がより好ましい例として挙げられるが、勿論これに限定されるものではない。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物として最も好ましい化合物の例は前記式(4)で表される。
【0025】
本発明の金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を有しないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、前記一般式(2)で表されるようなポリエーテル構造などの親水性の基を有し、かつ金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を有しないものであって、両親媒性と疎水効果、更に、分子面の重なりによるπ−πスタッキングの共同効果を介して自己集積し、自己組織化してナノサイズの集積体を形成することができるものであればよい。
【0026】
前記一般式(2)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは10〜30、より好ましくは10〜20の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、好ましい具体例としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシルル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基などが挙げられ、これらは直鎖状、分枝状又は環状の何れであってもよい。また、炭素数が10以下のアルキル基の場合は、例えばt−ブチル基のような嵩高い基が好ましい。
【0027】
前記一般式(2)において、Rで表されるCOCHCH(OCHCHORにおけるRで表されるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。nは任意の正の整数であるが、2以上の整数がより好ましい。
で表されるCOCHCH(OCHCH)nORの好ましい具体例としては、例えば、
OCHCH(OCHCH)nOH、
OCHCH(OCHCH)nOCH
等が挙げられ、中でも、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOH、
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
OCHCH(OCHCHOCH
等がより好ましい例として挙げられるが、勿論これらに限定されるものではない。
【0028】
前記一般式(2)で表される化合物として最も好ましい化合物の例は前記式(5)で表される。
【0029】
一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物の合計のモル数に対する一般式(1)化合物で表される化合物のモル分率は5〜90%が好ましく、5〜80%がより好ましく、5〜50%が更に好ましい(後述する実施例6、7及び8参照)。
【0030】
本発明の一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物は、任意の公知の方法又はこれに準じた方法で製造することができる。例えば、特許文献1に準じて、基R又はRにフラーレンを有する基を有する中間体を製造し、これを特許文献1に記載の方法に準じて閉環することにより製造することができる。
【0031】
本発明の一般式(1)で表される化合物の製造法の例として、例えば、前記した式(4)で表される化合物の具体的の製造方法の例を次の反応経路で示しておく。
【0032】
まず、トシル基(Ts)で保護された化合物1を製造し、これをブロモビフェニル化して化合物2とし、これをアセチル化して化合物3を製造する。化合物3とビフェニルアセチレン誘導体とを反応させてアセチレン誘導体(化合物4)を製造し、これとテトラフェニルシクロペンタジエノン誘導体とを反応させて、ヘキサフェニルベンゼン誘導体(化合物5)を製造する。得られたヘキサフェニルベンゼン誘導体5の末端のアセトキシ基を加水分解してヒドロキシ体(化合物6)とした後、ルイス酸の存在下に環化することにより、コロネン骨格を有する化合物7とする。
得られた化合物7とフラーレンのカルボン酸誘導体(化合物8)とを、DCCなどの縮合剤の存在下にエステル化、目的の式(4)で表される化合物9を製造することができる。
【0033】
このようにして製造される本発明の一般式(1)で表される化合物は、以前に本発明者らが報告してきた側鎖に疎水性の基と親水性の基を有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体(HBC誘導体)(特許文献1参照)と同様な挙動をとることがわかった。
即ち、トルエンなどの溶媒中で図1に模式的に示されるような自己集積体を形成し、らせん状リボン構造やチューブ構造が形成される。
このようならせん状リボン構造やチューブの形成は、本発明の一般式(1)で表される化合物が有する両親媒性とπ−πスタッキング効果により、2層からなる幅〜20nmのリボン状集積体が形成され、次いで、このリボンは、らせん状にぐるぐる巻きになると考えられる。このときの巻きの強さは基R及びRの部分のポリエチレングリコール鎖の水和の程度によって調整されと考えられる。
【0034】
本発明の一般式(1)で表される化合物の例として、前記式(4)で表される化合物9、一般式(2)で表される化合物の例として、前記式(5)で表される化合物13について、種々の混合比率で溶媒中での自己組織化を試みたところ、黄色から茶色の自己組織化により形成されるナノサイズの構造体を得た。
得られた析出物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、この構造体は、均一な20〜22nmのナノチューブであることがわかった。さらに透過型電子顕微鏡(TEM)でくわしく観察した結果、化合物9と化合物13の合計のモル数に対する壁の内外表面が系統的にフラーレンで覆われている様子が確認された。
【0035】
本発明者らは前記ナノチューブの被覆率(化合物9のモル分率)を0%〜100%まで変化させた場合における光電導特性の変化を、フラッシュフォトリシスによるマイクロ波電導度測定(FP−TRMC)法により評価した。その結果、被覆率が5−90%の範囲で、被覆率100%(つまり、化合物9のみからなるナノチューブ)と同等もしくはそれ以上の大きな光電導特性を示すことが明らかとなった。中でも被覆率25%の時に最大値(被覆率100%の時の約12倍)を示すことが明らかとなった。光子から電荷キャリアへの変換効率(φ)は被覆率が高くなるにつれ大きくなると考えられるが、同時に逆電子移動による電荷再結合も加速されるため、電荷分離状態の寿命も短くなる。被覆率を減少させることにより、電荷再結合を抑制した結果、光電導特性の向上に成功した。
【0036】
以上のように、本発明は、同時自己組織化により形成されるナノサイズの構造体、好ましくは超分子ナノチューブからなる光伝導性材料を提供するものであり、本発明の光伝導性材料は、新規な電子材料を提供するものであり、光検出素子、光スイッチング素子、光応答性電荷輸送素子などとして多くの電子部品材料に適用されるものである。本発明の電子部品材料は、例えば、太陽電池材料、光検出素子材料、分子導線などナノデバイスなどへ応用可能なものである。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
以下に示す実施例においては、試薬は特に断らない限り、市販品をそのまま使用した。ジクロロメタン(CHCl)及びブロモベンゼンはアルゴン雰囲気下にカルシウムハイドライド(CaH)で乾燥し、使用前に蒸留した。H及び13CNMRはJEOL model NM-Excalibur500スペクトロメーターを用いて298°Kで、それぞれ500MHz及び125MHzで測定した。MALDI−TOF質量分析はApplied Biosystems BioSpectrometryTM Workstation model Voyager-DETM STRスペクトロメーターを用いて、ジスラノールをマトリックスとして測定した。電子スペクトルは温度制御機構付きJASCO model V-560 UV/VISスペクトロメーターを用いて光路長1cmの石英セルで測定した。赤外吸収スペクトルはJASCO model FT/IR-660Plusフーリエ変換赤外スベクトロメーターを用いて25℃で測定した。X線回折パターンはRigaku model RINT-2500回折計を用いてCuKαを線源として室温で測定した。走査型電子顕微鏡写真(SEM)はJEOL model JSM-6700F FE-SEMを用いて5KVで撮影した。透過型電子顕微鏡写真はPhilips model Tecnai F20電子顕微鏡を用い、Gatan slow scan CCDカメラで低線量状態下に測定した。メタノ[60]フラーレンカルボン酸(化合物8)は、Y-P. Sunらの方法により合成した。
【実施例1】
【0038】
化合物9(前記式(4)で表される化合物)の合成:
【0039】
合成ルート


【0040】
(1)化合物1の合成
トリエチレングリコール(20.00g,133.18mmol)をテトラヒドロフラン(THF,50ml)に溶解させ、水酸化ナトリウム(10ml,2.66M水溶液)を0℃で加え、30分攪拌した。この溶液に20mlのTHFに溶解させたp−トルエンスルフォニルクロライド(5.07g,26.62mmol)を滴下し1時間攪拌して室温まで昇温し、さらに9時間攪拌した。反応液を氷水に注ぎ、ジクロロメタン(CHCl)で抽出し、有機層を水、次いで塩酸(0.5N)、更に水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/メタノール(MeOH))により精製し、化合物1を無色油状物として得た(6.67g,収率82.24%)。
【0041】
(2)化合物2の合成
アルゴン雰囲気下、化合物1(6.00g,19.71mmol)と4−ブロモ−4’ −ヒドロキシビフェニル(4.46g,17.92mmol)を乾燥THF(100ml)に溶解させ、水酸化カリウム(2.01g,35.84mmol)を加えた後、19時間加熱還留させた。反応混合物を室温まで降温させた後、水を加え、CHClで抽出し、有機層を水、次いで塩酸(0.5N)、更に水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物2を白色個体として得た(4.80g,収率70%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.504 (d, J = 8.5Hz, 2H), 7.453 (d, J = 8.5 Hz, 2H),
7.386 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.970 (d, J = 8.5 Hz, 2H),
4.161 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.872 (t, J = 5.0 Hz, 2H),
3.700 (m, 6H), 3.611 (t, J = 4.0 Hz, 2H)
【0042】
(3)化合物3の合成
アルゴン雰囲気下、化合物2を乾燥CHCl(35ml)に溶解させ、0℃まで冷却した。この溶液にピリジン(1.16ml,15.74mmol)を加え、無水酢酸(1.49ml,15.74mmol)を加えて1時間攪拌し、室温まで昇温し、さらに一晩攪拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で2回、ついで水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物3を白色個体として得た(3.37g,収率76%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.506 (d, J = 9.0Hz, 2H), 7.452 (d, J = 9.0Hz, 2H),
7.387 (d, J = 9.0Hz, 2H), 6.963 (d, J = 9.0Hz, 2H),
4.211 (t, J = 5.0Hz, 2H), 4.156 (t, J = 5.0Hz, 2H),
3.865 (t, J = 5.0Hz, 2H), 3.696 (m, 6H), 2.052 (s, 3H)
【0043】
(4)化合物4の合成
アルゴン雰囲気下、化合物3(3.24g,7.64mmol)とビス−トリフェニルフォスフォパラジウムジクロライド(0.27g,0.38mmol)、ヨウ化銅(0.14g,0.76mmol)を1,8−ジアゾビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)(35ml)と、ベンゼン(25ml)に溶解し、ベンゼン(25ml)に溶解した4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン(2.06g,7.64mmol)を滴下し、60℃で一晩加熱攪拌した。室温まで降温後、反応混合物にCHClを加えて抽出し、飽和塩化アンモニウム水溶液にて洗浄、有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥した。デカンテーションにて硫酸ナトリウムを除去し、CHCl懸濁液から白色固体状の化合物4を濾取して得た(3.13g,収率60%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.567(d, J = 8.0Hz, 4H), 7.526 (m, 8H), 6.982 (d, J = 8.0Hz, 4H),
4.219 (t, J = 4.5Hz, 2H), 4.168 (t, J = 4.5Hz, 4H),
3.873 (t, J = 5.0Hz, 4H), 3.690 (m, 13H), 3.539 (t, J = 5.0Hz, 2H),
3.366 (s, 3H), 2.057 (s, 3H) ;
MALDI−TOF−MS: m/z:
4146として、計算値: [M] 682.3;
実測値: 682.4.
【0044】
(5)化合物5の合成
アルゴン雰囲気下、化合物4(1.00g,1.46mmol)と2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(1.06g,1.46mmol)をジフェニルエーテル(4ml)に溶解し、350℃で 2日間加熱攪拌した。反応混合物を室温まで降温しシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)、さらに中圧液体クロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物5を白色個体として得た(1.47g,収率73%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.320 (d, J = 8.0Hz, 4H), 7.047 (d, J = 8.0Hz, 4H), 6.830 (m, 18H),
6.662 (d, J = 8.0Hz, 4H), 6.610 (d, J = 8.0Hz, 4H),
4.195 (t, J = 4.5Hz, 2H), 4.090 (t, J = 4.5Hz, 4H), 3.819 (m, 4H),
3.678 (m, 12H), 3.515 (m, 2H), 3.342 (s, 3H), 2.321(t, J = 4.5 Hz, 4H),
2.037 (s, 3H), 1.369 (m, 4H), 1.236 (s, 32H), 1.073 (b, 4H),
0.859 (t, J = 7.0Hz, 6H),
MALDI−TOF−MS: m/z:
93115として、計算値: [M+H] 1375.8;
実測値: 1375.5.
【0045】
(6)化合物6の合成
化合物5(300mg,0.22mmol)をメタノール(20ml)とTHF(10ml)に溶解し、水酸化カリウム(002g,0.33mmol)を水(1ml)に溶解させた溶液を加え、室温で1時間攪拌した。溶媒を留去後、残渣にCHClを加え水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去後し、化合物6を白色固体として得た(0.27g,収率93%)。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
7.320 (m, 4H), 7.046 (d, J = 9.0 Hz, 4H), 6.827 (m, 18H),
6.663 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 6.611 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 4.194 (m, 4H),
3.821 (m, 4H), 3.647 (m, 14H), 3.513 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.342 (s, 3H),
2.322 (t, J = 8.0 Hz, 4H), 1.370 (m, 4H), 1.236 (m, 32H), 1.071 (b, 4H),
0.860 (t, J = 7.0 Hz, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
91113として、計算値: [M+H] 1333.8;
実測値: 1333.8.
【0046】
(7)化合物7(HBC−TNF)の合成
化合物6(300mg,0.22mmol)を乾燥CHCl(100ml)に溶解し、溶液に乾燥アルゴンを10分間バブリングした後、MeNO(4ml)に溶解した塩化鉄(III)を徐々に加え、さらに25℃で1時間攪拌した。反応混合物を攪拌しながらメタノール(200ml)中に注ぎ込み、析出した固体を濾取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO/hot THF)で精製した。さらにTHFから再結晶して化合物7を黄色粘脹固体として得た(140mg,収率62%)。
H−NMR(500MHz,THF−d,55℃)δ:
8.47 (s, 2H), 8.38 (s, 2H), 8.23-8.07 (br, 8H), 7.73 (br, 4H),
7.37 (br, 2H), 7.14 (br, 4H), 4.30 (br, 4H), 3.98(br, 4H),
3.79-3.61 (m, 16H), 3.35 (s, 3H), 2.88 (br, 4H), 1.89 (br, 4H),
1.58-1.28 (br, 36H), 0.85 (br, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
91100として、計算値: [M] 1320.74 ;
実測値: 1320.89.
【0047】
(8)化合物9の合成
アルゴン雰囲気下、化合物7(107mg,0.081mmol)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(62mg,0.30mmol)及びジメチルアミノピリジン(DMAP)(37mg,0.30mmol)を室温で乾燥CHCl−Bromobenzene混合溶媒(8ml)(V/V,3/1)に溶解し、メタノ[60]フラーレンカルボン酸(化合物8)(94mg,0.12mmol)を加えて生成した懸濁液を還流下に24時間反応させた。反応液を濾過して沈殿物を除去した後、濾液を塩酸(0.1N)、NaHCO飽和水溶液及びBrainで洗浄した。有機層を分離して、MgSOで乾燥した後、溶媒を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/CHOH,100/1,v/v)で精製し、更に、CHCl/THFから3回再沈殿で精製して化合物9を茶色固体として得た(100mg,収率59%)。
MALDI−TOF−MS: m/z:
153100として、計算値: [M] 2080.74 ;
実測値: 2080.88.
紫外可視吸収スペクトル測定で、365,395nmにヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に基づく吸収が観測された(図2)。
【実施例2】
【0048】
化合物13(前記式(5)で表される化合物)の合成:
【0049】
合成ルート

【0050】
(1)化合物2(4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}ビフェニル)の合成
4−(4’−ブロモフェニル)フェノール(3.00g,0.012mol)と1−(4−トルエンスルホニル)トリエチレングリコールモノメチルエーテル(化合物1)(4.2g,0.0132mol,1.1当量)を最少量の無水N,N−ジメチルホルムアミド(〜30ml)に溶解し、無水炭酸カリウム(4g,3.3当量)を添加した。生成した懸濁液を撹拌しながら24時間加熱し反応させ、反応液を室温まで冷却した後、水(100ml)に注ぎ生成した白色沈殿を濾過した。濾別した白色沈殿はジクロロメタン(100ml)に溶解しNaSOで一晩乾燥した。NaSOを濾別後、濾液のジクロロメタンを留去して4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}ビフェニル(化合物2)を白色粉末として得た(4.3g,0.0109mol,収率91%)。得られた白色粉末はそのまま次の反応に供した。
分析値:H−NMR(500MHz,CDCl): δ
7.50 (d, J = 8.55 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 8.55 Hz, 2H),
7.39 (d, J = 8.55 Hz, 2H), 6.96 (d, J = 8.55 Hz, 2H),
4.15 (t, J = 4.88 Hz, 2H), 3.86(t, J = 4.88 Hz, 2H),
3.74(m, 2H), 3.67(m, 2H), 3.65(m, 2H) 3.53(m, 2H), 3.36(s, 3H).
【0051】
(2)化合物10(1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン)の合成
4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−ビフェニル(化合物2)(4g,0.01mol),DBU(9.2g,6eq), PdCl(PPh(425mg,6%)及びCuI(192mg,10%)をベンゼン(20ml)中、室温で撹拌して溶解させ、60℃に加温してトリメチルシリルエチン(TMSE)(0.71ml,0,496g,0.5eq) を加え、直ちに水 (70μL,0.4eq)を加えた。60℃で24時間反応させたのち生成物を濾別し、少量の氷冷したジクロロメタンで洗浄した。生成物はシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーでジクロロメタン/メタノール(濃度勾配1−5%メタノール)で溶離して精製するか又はトルエン溶液から再結晶して、うす茶色のフレークとして1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン(化合物10)を得た(2.3g,収率71%)。
分析値:H−NMR(500MHz,CDCl): δ
7.57 - 7.51 (m, 6H), 6.97 (d, J = 9.15 Hz, 4H),
4.15 (t, J = 4.88 Hz, 4H), 3.86 (t, J = 4.89 Hz, 4H),
3.74 (m, 4H), 3.68, (m, 4H), 3.64 (m, 4H), 3.54 (m, 4H),
3.36 (s, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=655.31(M+H)
【0052】
(3)化合物11(2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン)の合成
1,2−ビス−(4−n−ドデシルフェニル)−1,2−ジケトン(1.5g,2.75×10−3mol)とジベンジルケトン(0.58g,2.76×10−3mol)をジオキサンに溶解し100℃に加熱して、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(1.0M solution in methanol)(1eq,2.76ml)を一度に加え、更に15分間加熱した。反応混合物を水に注ぎジクロロメタンで抽出し、抽出液を蒸発乾涸した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーでジクロロメタン/ヘキサン(濃度勾配10−50% ジクロロメタン)で溶離して精製した。ジクロロメタン/n−ヘキサン(1:3)を溶離液として分取HPLCで更に精製し、蒸発乾涸して2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(化合物11)を紫色の粉末として得た(0.88g,収率44%)。
分析値:H−NMR(500MHz,CDCl):δ
〜7.24(m),6.96(d, J = 7.94 Hz, 4H), 6.80 (d, J = 7.94 Hz, 4H),
2.55 (t, J = 7.63 Hz, 4H), 1.56 (br., 4H), 1.26 (br., 36H),
0.88 (t, J = 6.71 Hz, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=720(M).
【0053】
(4)化合物12(1,4−ジフェニル−2,3−ビス(4−n−ドデシルフェニル) −5,6−ビス(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリル)ベンゼン)の合成
2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(化合物11)(0.6g,8.3×10−4mol)と1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン(化合物12)(0.52g,7.9×10−4mol)をシュレンク中でジフェニルエーテル(1.5ml)に懸濁させ、24時間リフラックス(〜300℃)させた後、室温まで冷却した。反応混合液はアセトンに溶解させシリカのカラムを通して未反応の1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチンを除去した。次いで溶液から溶媒を留去した後、シリカゲルのクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン、濃度勾配ジクロロメタン/ヘキサン(3/2)〜ジクロロメタン(100%))にかけて精製してうす茶色の粉末を得た(0.75g,収率70%)。
分析値:1H−NMR(500MHz,CDCl):δ
7.32 (d, J = 9.16 Hz, 4H), 7.05 (d, J = 8.55 Hz, 4H),
6.82 (m, 18H) 6.67 (d, J = 7.94 Hz, 4H), 6.61 (d, J = 8.55 Hz, 4H),
4.09 (t, J = 4.88 Hz, 4H), 3.82, (t, J = 4.88 Hz, 4H),
3.71 (m, 4H), 3.64 (m, 8H) 3.52 (m, 4H), 3.34 (s, 6H),
2.33 (t, J = 7.63 Hz, 4H), 1.37 (m, 4H) 1.24 (m, 34H),
1.08 (br., 4H), 0.86 (t, J = 6.71 Hz, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=1348.27(M).
【0054】
(5)化合物13(2,5−ジn−ドデシル−11,14−ビス(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}フェニル)−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン)の合成
1,4−ジフェニル−2,3−ビス(4−n−ドデシルフェニル)−5,6−ビス(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリル)ベンゼン(0.70g,5×10−4mol)を乾燥したジクロロメタン(200ml) に溶解させガラス管の中でアルゴンガスを吹き込みながら室温で撹拌した。無水FeCl(2.7g,0.017mol,34eq)をニトロメタン(5ml)に溶解し上記の溶液に少しずつ加えると溶液の色が暗赤色〜黒色からオレンジ色に変化した。更に90分間撹拌を続けその後、メタノール(100ml)を加えクエンチした。生成した黄色の沈殿を濾別し、最初にカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/メタノール=300:10)で精製し、次いでGPC(Bio-Rad BioBeads X-1,ジクロロメタン溶離液)で精製した。更にジクロロメタン/メタノールで精製すると、黄色のゲル状物が得られ、これを真空乾燥して2,5−ジn−ドデシル−11,14−ビス(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}フェニル)−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンを黄褐色の固体として得た(0.49g,収率73%)。
分析値:H−NMR(500MHz,CDCl):δ
8.05 (s, 2H), 7.95 (s, 2H), 7.79 (d, J = 8.54 Hz, 2H),
7.71 (d, J = 7.94 Hz, 2H) 7.59 (s, 2H), 7.56 (s, 2H),
7.52 (d, J = 7.93 Hz, 4H), 7.10 (d, J = 7.93 Hz, 4H),
7.07 (m, 2H), 4.32 (br. 2H), 4.06 (t, J = 4.56 Hz, 4H),
3.92 (m, 4H), 3.85 (m, 4H), 3.79 (m, 4H), 3.67 (m, 4H),
3.47 (s, 6H), 2.59 (br. t, 4H), 1.69 (br., 4H),
1.46-1.30 (m, 36H), 0.89 (t, J = 7.02 Hz, 6H).
MALDI−TOF (dithranol):m/z=1335.75(M
【実施例3】
【0055】
同時自己組織化
実施例1で得た化合物9と実施例2で得た化合物13をモル比0:100,10:90,25:75,40:60,50:50,60:40,75:25,90:10,100:0で混合し加熱溶解して得たトルエン溶液(いずれも両分子をあわせて0.2mM)を室温まで放冷し1日静置したところ、黄色から茶色の懸濁液を得た。
【実施例4】
【0056】
電子顕微鏡観察
実施例3で得たそれぞれの懸濁液から析出物を回収し、走査型電子顕微鏡(SEM)像及び透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察した。結果を図3及び図4に示す(化合物9と化合物13の混合比率(a)0:100、(b)25:75、(c)50:50、(d)75:25、(e)100:0)。いずれの混合比においてもナノチューブ構造体が定量的に生成していることが確認できた(図3、図4)。
また、透過型電子顕微鏡より観測されたナノチューブの直径をプロットしたところ、化合物9の混合比が増すにつれ直径が20ナノメートルから22ナノメートルに増大していることが確認できた(図5)。
さらには、ナノチューブの壁の構造を詳細にみてみると、化合物13のモル分率が100%のときは壁が黒い線一本で観測されているのに対し、化合物9の割合が増えるにつれ、2本線に変化しており、壁の内外表面が系統的にフラーレンで覆われている様子が確認できた(図6)。これらのことは、同時自己組織化により、それぞれの分子が別々にナノチューブを形成しているのではなく、それぞれのナノチューブ内に両分子が混合されていることを強く示唆している。
【実施例5】
【0057】
蛍光の消光
実施例3で得たそれぞれの懸濁液から析出物を回収し、蛍光を測定して図7に示す結果を得た。化合物13からなるナノチューブにおいて励起波長355ナノメートルの光照射により520ナノメートル付近に観測される蛍光が、化合物9を10モル%添加することにより、90%以上が消光し、25モル%以上ではほぼ完全に消光した。このことは、光照射により励起されてHBC部位で生成した電子がフラーレン部位へ移動していることを示している。
【実施例6】
【0058】
過渡光吸収スペクトル
実施例3で得た化合物13のみよりなる懸濁液及び化合物9を10%含有する懸濁液をそれぞれ、基板上に滴下して作製した薄膜を用いて、過渡光吸収スペクトルを測定し図8及び図9に示す結果を得た。化合物13のみからなるナノチューブの薄膜を用いた、波長355ナノメートルの励起光照射後の過渡光吸収スペクトルにおいては、460ナノメートルに強いブリーチが観測されるのみであるが、化合物9が10モル%添加されたナノチューブの過渡光吸収スペクトルにおいては、605ナノメートル付近に、HBCラジカルカチオンに由来するピークが観測された(図8)。このことは、光励起後のHBCからフラーレンへの電子移動が起こることを強く示唆している。
化合物9を10%添加したナノチューブ薄膜の過渡光吸収スペクトルにおいて605ナノメートルに観測されたピークの時間分解プロファイルは、同じ試料を用いたマイクロ波伝導度の時間分解プロファイルと非常によい一致を示した(図9)。このことは、光誘起電子移動による電荷分離状態の生成・消滅が、光キャリアの生成・消滅と一致していることを強く示す。
【実施例7】
【0059】
定常光による光伝導特性の測定
酸化シリコン膜(200ナノメートル)を有するシリコン基板上にナノチューブ薄膜を作製し、その上から金電極を真空熱蒸着し、定常光照射による光伝導度測定を行った。図11(a)に、化合物9からなるナノチューブの定常光(キセノンランプ、波長300−650ナノメートル)照射時及び非照射時における電流−電圧特性を、図11(b)に、光の照射/非照射にともなう電流のスイッチング特性を、また図11(c)にナノチューブ中の化合物9のモル分率を変えた場合の電流−電圧特性を示す。光照射下での電流−電圧特性はオーミックな挙動を示し、また光量にほぼ比例して光電流が観測された。このことは、光の強度に応じて光キャリアが生成していることを示す。また、光のオンオフにより、急峻かつ繰り返し再現性よく光電流のスイッチングができることを明らかとした。
【実施例8】
【0060】
定常光伝導度とマイクロ波伝導度の相関
一般に光電流は、キャリアの移動度(μ)、寿命(/1/e)、光−キャリア変換効率(φ)の積に比例する。そこで、マイクロ波伝導度で求められたφΣμmax X τ/1/eをナノチューブのモル分率に対してプロットしたところ、この挙動と、定常光伝導測定における一定条件下(外部電圧+10V、光密度0.91mW/mm)における光電流値のプロットの挙動が大変よく一致することを確認した(図12)。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明は、同時自己組織化により形成されるナノサイズの構造体、好ましくは超分子ナノチューブからなる光伝導性材料を提供するものであり、本発明の光伝導性材料は、新規な電子材料を提供するものであり、光検出素子、光スイッチング素子、光応答性電荷輸送素子などとして多くの電子部品材料に適用されるものである。本発明の電子部品材料は、例えば、太陽電池材料、光検出素子材料、分子導線などナノデバイスなどへ応用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を同時に自己組織化させたナノチューブの層構造を模式的に示したものである。
【図2】図2は、本発明の化合物9(HBC−C60)のクロロホルム溶液中での紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【図3】図3は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブのSEM像を示す、図面に代わる写真である。
【図4】図4は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブのTEM像を示す、図面に代わる写真である。
【図5】図5は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブの直径を示すチャートである。
【図6】図6は、本発明の化合物9及び化合物13を各混合比率(化合物9:化合物13)において同時自己組織化することにより生成したナノチューブの壁厚み(TEM像)を示す、図面に代わる写真である。
【図7】図7は、本発明の化合物9及び化合物13から成るナノチューブの蛍光スペクトルのチャートを示す(図7(a))。図7(a)において、化合物9のモル分率は0%(原図では赤),10%(原図では青),100%(原図では緑)である。図7(b)は化合物9のモル分率に対する蛍光強度をプロットしたグラフである。
【図8】図8は、化合物13から成るナノチューブの過渡光吸収スペクトルのチャートを示す(図8(a))。図8(b)は10モル%の化合物9及び90モル%の化合物13から成るナノチューブの過渡光吸収スペクトルのチャートを示す。
【図9】図9は、10モル%の化合物9及び90モル%の化合物13から成るナノチューブにおける、波長605ナノメートルにおける過渡光吸収スペクトル強度(原図では赤)とマイクロ波伝導度の時間分解プロファイル(原図では青)のチャートを示す。
【図10】図10は、化合物9及び化合物13から成るナノチューブの時間分解マイクロ波伝導度プロファイルのチャートを示す(図10(a))。図10(a)において、化合物9のモル分率はそれぞれ0%(原図では赤),10%(原図では青),25%(原図ではオレンジ),40%(原図では黄),50%(原図ではピンク),75%(原図では紫),100%(原図では緑)である。図10(b)は光伝導度の最大値をプロットしたグラフである。
【図11】図11は、化合物9から成るナノチューブの光非照射時(原図では紫)及び光照射時の電流−電圧特性(光密度0.076mW/mm(原図では青),0.35mW/mm(原図では赤),0.91mW/mm(原図では緑))を示す(図11(a))。図11(b)は光密度0.91mW/mmにおける光照射/非照射による電流のスイッチング特性のチャートを示す。図11(c)は光密度0.91mW/mmにおける、化合物9を種々のモル分率で含むナノチューブの光照射時の電流−電圧特性を示すグラフであり、図中の数字は化合物9のモル分率を表す。
【図12】図12は、時間分解マイクロ波伝導度プロファイルから求めた光キャリアの寿命をプロットしたグラフである(図12(a))。図12(b)定常光伝導測定において、10V電圧印加時、0.91mW/mmの光照射下における光電流値のプロット(原図では緑)と時間分解マイクロ波伝導度測定における光伝導度の最大値と光キャリアの寿命の積(原図では赤)のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項2】
自己組織化ナノサイズ構造体が、自己組織化により形成されるナノチューブである請求項1に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項3】
金属を内包していてもよいフラーレンが、C60フラーレンである請求項1又は2に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項4】
金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の合計のモル数に対する、金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が5〜90%である請求項1〜3のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項5】
金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が5〜50%である請求項1〜4に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項6】
金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(1)、
【化1】

[式中、Rはアルキル基を表し、R及びRはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子、アルキル基又は金属を内包していてもよいフラーレンCmを有する基を表し、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方はフラーレンCmを有する基を有する(nは正の整数を表しmはCmが球殻状構造を形成し得る正の整数)。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体であり、金属を内包していてもよいフラーレンを有する基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(2)、
【化2】

[式中、Rはアルキル基を表し、RはCOCHCH(OCHCH)nOR(但し、Rは水素原子又はアルキル基を表し、nは正の整数を表す。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体である請求項1〜5のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項7】
一般式(1)のR基が、式(3)で表されるメタノ[60]フラーレンカルボン酸基である請求項6に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【化3】

【請求項8】
一般式(1)のR及び一般式(2)のRが、それぞれ独立して炭素数10〜30のアルキル基である請求項6又は7に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項9】
一般式(1)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(4)
【化4】

で表される化合物である請求項6〜8に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項10】
一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(5)
【化5】

で表される化合物である請求項6〜9のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光検出素子。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光スイッチング素子。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光応答性電荷輸送素子。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載の素子の少なくとも1種を含有してなる電子部品材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−53109(P2010−53109A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222836(P2008−222836)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日社団法人日本化学会発行の「日本化学会第88春季年会(2008)講演予稿集II」において発表及び平成20年5月8日高分子学会発行の「高分子学会年次大会予稿集57巻第1号」CD−ROMにおいて発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】