説明

フラーレンファイバーの生成方法

【課題】フラーレンファイバーのアスペクト比を調整することができる方法を提供する。
【解決手段】フラーレンを良溶媒に溶解した飽和溶液とフラーレンに対して貧溶媒となる液との界面にフラーレンファイバーを析出させる方法において、貧溶媒液中に水を混合する方法を用いれば、混合する水の分量とアスペクト比は図に示されるような比例関係にあり、水の分量によってアスペクト比を調整できることがわかった。また、従来用いていた高純度溶媒を用いずとも、より安価な溶媒を用いてフラーレンファイバーを合成することが可能であることがわかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンファイバーの生成方法、特に、フラーレンを溶解した飽和溶液と前記フラーレンに対して貧溶媒となる液との界面に前記フラーレンからなるナノファイバーを生成させるフラーレンファイバーの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アスペクト比が3以上(非特許文献1参照)のフラーレンファイバーを生成する方法については非特許文献2から5に示されているように各種のものが紹介されている。
しかし、いずれのものも、合成中の照射光、合成温度や溶媒の混合比率などにより調整することが示されているのみであり、従来の方法で、フラーレンファイバーの形状を特徴づけるアスペクト比を変化させるためには、温度と時間のパラメータを変化させて行う成長制御に頼らざるを得ず、結果的には、所望のアスペクト比のものを得るのは偶然に近い確率であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、フラーレンファイバーのアスペクト比を確実に調整することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1のフラーレンファイバーの生成方法は、貧溶媒液中に水が混合されてなることを特徴とする。
発明2は、発明1のフラーレンファイバーの生成方法において、前記混合される水の分量を、生成されるフラーレンのアスペクト比に比例して調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
従来、液−液界面析出法によってフラーレンファイバーを合成するためには、高純度の溶媒を用いており、不純物として含まれる水を、合成において積極的に利用することは考慮しなかった。しかし、本発明によって、少量の水を不純物として含むアルコールを用いて、フラーレンファイバーを効率的に合成できることが可能であることがわかった。
この結果は、高価な高純度溶媒を用いずとも、より安価な低純度の溶媒を用いてフラーレンファイバーを合成することを可能としたものであり、価格を低下させることにより、フラーレンファイバーが社会に普及し、広く利用されるための方法が得られるという効果をもたらした。
さらに、水の量が増加すればアスペクト比が増加する関係にあることを知見するに至り、所望するアスペクト比のフラーレンファイバーを水の量の調整のみにより、容易確実に生成することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】蒸留水を添加していないIPAを用いて合成し、合成開始24時間後のフラーレンナノファイバーのSEM写真(実験No.a)。
【図2】蒸留水添加IPAを用いてのフラーレンファイバーの合成。合成開始24時間後のガラス瓶の写真。
【図3】蒸留水添加量のIPAを用いてフラーレンファイバーを合成した時の合成開始24時間後のフラーレンファイバーの長さの平均値と直径の平均値から算出したアスペクト比を示すグラフ。
【図4】実験No.eのフラーレンナノファイバーのSEM写真。
【図5】実験No.fのフラーレンナノファイバーのSEM写真。
【図6】実験No.gのフラーレンナノファイバーのSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0007】
合成時の温度によってフラーレンファイバーの長さが変わるという速度論的研究を行った結果から、高い成長の活性化エネルギーが得られ、そのほとんどは脱溶媒和エネルギーであると考えられる。
今回、一定温度での合成で水を少量添加しただけでフラーレンファイバーの長さが長く成長したことから、水には脱溶媒和を促進させるような触媒作用があると考えられる。また、メタノールと水の混合溶媒では、水−メタノールクラスターを作っているという報告があり、今回用いたIPAと水の混合溶媒においても、クラスターを作っている可能性がある。溶媒の構造が変化したことでフラーレンファイバーの成長が促進されたことの可能性もあり得る。
いずれにしても、明快な理由はわからないが、合成時の温度やフラーレン濃度を一定にしておいても、水の分量により、生成されるフラーレンファイバーのアスペクト比を調整できることを知見するに至った。
下記実施例で用いた良溶媒はトルエン、貧溶媒はIPAであるが、良溶媒としてキシレン、ベンゼン、ピリジン等が使用できることは非特許文献6から8に示され公知の事実であるから、前記トルエンに代えてこれら溶媒を用いることに何らの困難性はない。
また、下記実施例では貧溶媒としてイソプロピルアルコールを用いたが、これと同じく極性溶媒として知られるメタノール、エタノール、ブタノールなどを用いることに何らの困難性はない。
さらに、水の添加によってフラーレンファイバーの成長が促進されたことから、合成が難しいフラーレンの誘導体やC70から成るフラーレンファイバーや中空のフラーレンファイバーの合成におけるアスペクト比の制御においても、本発明を適用でき、水の添加は有効であると考えられる。
水の添加量は、常温(20℃)における合成では、3質量%を上限とするのが適切であるが、反応温度がより高い場合は、直径が小さくなるので、アスペクト比が大きくなる。
また、温度を高くすることは、脱溶媒和プロセスをより速やかに進めることになるので、活性化エネルギーが低下し、より少量の水の添加量で成長が促進されることになると考えられる。温度が高くなると、同じアスペクト比のフラーレンファイバーは、より少量の水を添加したイソプロピルアルコールを用いて合成されると予想される。
フラーレンのアスペクト比と創製温度及び水の添加量は、以下の(式1)に示す関係が成立するものと思われる。
<式1>


【実施例1】
【0008】
60の良溶媒として、トルエン(特級、99.5%、和光純薬(株))を用いた。C60粉末(99.5%、MTR Ltd.)を2.8g/lでトルエンに加えて、30分間超音波処理をした。これを、シリンジフィルター(膜孔450 nm、PuradiscTM; Whatman Inc.,Clifton, NJ, USA)を用いてろ過してC60飽和トルエン溶液を作成した。貧溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA、特級、99.7%、和光純薬(株))を用いた。IPAに添加したのは蒸留水(和光純薬(株))である。IPAに添加する水の量は表1に示すように、0、0.4、0.6、0.9、1.3、2.5、3.8、5、6.3、7.5、8.7、9.9、11.2、12.4%(質量%)になるようにした。20°Cに設定した恒温水槽で、C60飽和トルエン溶液4mlを入れたバイアル瓶に、蒸留水を添加したIPA4mlをゆっくり滴下して液−液界面を形成させた。そして手で混合し20°Cに保った恒温器(SANYO MIR−153)中で24時間静置させた。全試薬は、納品されたままのものを用いて、精製は行なわなかった。
図1に、典型的なフラーレンナノファイバーのSEM写真を示す。図2は蒸留水を添加したIPAを用いて合成した24時間後のバイアル瓶の写真である。
図2において、蒸留水添加IPAで合成したものは、蒸留水添加量2.5%以下でフラーレンファイバーの沈殿物が観察された。3.8%以上の蒸留水を添加したIPAを用いて合成したものでは、フラーレンファイバーを作成することはできなかった。図3は蒸留水0〜2.5%添加IPAで合成したフラーレンファイバーを光学顕微鏡で観察し、長さを測定した結果とSEM観察を行って測定した直径の結果から算出したアスペクト比を示す。3%以下、より好ましくは2.5%以下では、蒸留水の添加量が増加するとともにアスペクト比も増加した。


【表1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nanoscience and nanotechnologies : opportunities and uncertainties (The Royal Society & The Royal Academy of Engineering, 2003, http: //www. nanotech. org.uk/ final Report. htm), P.37.
【非特許文献2】Chemical Physics Letters 374(2003)279
【非特許文献3】Journal of Crystal Growth 274 (2005)617−621
【非特許文献4】Diamond & Related Materials 17(2008)529−534
【非特許文献5】NANO 3(2008)329−333
【非特許文献6】Minato, J.; Miyazawa, K. Carbon 2005, 43, 2837−2841.
【非特許文献7】M. Sathish,K. Miyazawa,and T. Sasaki, Chem. Mater., 19(2007)2398−2400
【非特許文献8】K.Miyazawa,J.Minato, T.Yoshii, M.Fujino and T.Suga, J.Mater.Res. 20[3](2005)688−695

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンを溶解した飽和溶液と前記フラーレンに対して貧溶媒となる液との界面に前記フラーレンからなるナノファイバーを析出させるフラーレンファイバーの生成方法であって、前記貧溶媒液中に水が混合されてなることを特徴とするフラーレンファイバーの生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフラーレンファイバーの生成方法において、前記混合される水の分量を、生成されるフラーレンファイバーのアスペクト比に比例して調整することを特徴とするフラーレンファイバーの生成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−248642(P2010−248642A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96566(P2009−96566)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】