説明

フラーレン結合ゲル化剤

【課題】本発明の課題は、これまでの3,4,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体ゲル化剤を改良し、電子特性を持つフラーレンを結合したゲル化剤およびそれを有効成分とするゲルを提供することにある。
【解決手段】式(1)で示されるベンズアミド誘導体。
【化8】


(式中、Rはその中にフラーレンに由来する構造を含む部分構造を、AはNHCO(Rの親化合物の末端が一級アミンの場合)またはNCO(Rの親化合物の末端が二級アミンの場合)またはCONH(Rの親化合物の末端がカルボン酸の場合)のアミド結合を、BはNHCOまたはCONHのアミド結合を、mは1から6までの整数を、nは1から6までの整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンを分子構造内に有するゲル化剤およびそれを有効成分とするゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
低分子ゲルは、低分子化合物が分子間力による自己組織化により繊維状の構造を形成し、それが複雑に絡み合った3次元ネットワークを形成することによって、溶媒分子を捕捉したゲルである(例えば、非特許文献1参照)。
ゲルを形成する低分子化合物の分子設計が可能なことから、分離膜、センサー、触媒、無機材料、電子材料、バイオ素材等、様々な分野への応用が期待されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
我々も、新規な構造を有する3,4,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体を合成し(特許文献1参照)、その一部の化合物が有機溶媒をゲル化することを見出した。また、これらの化合物を改良して、より高いゲル化能を有する化合物を得ることに成功した(特許文献2参照)。さらに、末端官能基をアルコール以外の、アミン、カルボン酸とした化合物の合成を行い、広範な機能性分子を導入したゲル化剤を提供している(特願2005−62409参照)。
しかし、これまでに、電子特性を有する3,4,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体の報告は無かった。
【特許文献1】特開2001−122889号公報
【特許文献2】特開2004−262809号公報
【非特許文献1】ケミカル・レビュー(Chem. Rev.)、1997年、97巻、p.3133−3159
【非特許文献2】アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション(Angew. Chem. Int. Ed.)、2000年、39巻、p.2263−2266
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、これまでの3,4,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体ゲル化剤を改良し、電子特性を有するフラーレンを結合したゲル化剤及びそれを有効成分とするゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を鋭意検討した結果、本発明者らは、式(3)で示される化合物に、式(4)で示されるフラーレン誘導体を縮合して、式(2)で示される化合物を合成し、そのゲル形成能を確認して、本発明を完成するに至った。
【化3】

【化4】

【0006】
すなわち、本発明は、式(1)で示されるフラーレンを結合したベンズアミド誘導体を提供する。
【化5】

(式中、Rはその中にフラーレンに由来する構造を含む部分構造を、AはNHCO(Rの親化合物の末端が一級アミンの場合)またはNCO(Rの親化合物の末端が二級アミンの場合)またはCONH(Rの親化合物の末端がカルボン酸の場合)のアミド結合を、BはNHCOまたはCONHのアミド結合を、mは1から6までの整数を、nは1から6までの整数を表す。)
【0007】
また、本発明は、式(2)で示されるフラーレンを結合したベンズアミド誘導体を提供する。
【化6】

さらに、本発明は、式(1)または式(2)で示される化合物を有効成分とするゲル化剤、及び、式(1)または式(2)で示される化合物を有効成分とするゲルを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の化合物の合成は如何なる方法によっても構わない。
例えば、既に報告した方法(特開2001−122889参照)に従い、3,4,5−トリス(ドデシルオキシ)安息香酸を合成し、そのカルボキシル基に、各種のアミノ酸またはジアミンを、必要に応じてカルボキシル基または一端のアミノ基を適当な保護基で保護して、通常のアミド縮合に用いられる試薬を用いて縮合させ、必要に応じて脱保護することにより、1つめのアミド結合を導入した中間体が得られる。
続いて、各種のアミノ酸あるいはジアミンあるいはジカルボン酸を、必要に応じて一端のカルボキシル基またはアミノ基を適当な保護基で保護して、通常のアミド縮合に用いられる試薬を用いて縮合させ、2つめのアミド結合を導入し、必要に応じて脱保護することにより、式(5)で示すゲル化剤が得られる(特願2005−62409参照)。
【化7】

(式中、AはNH2またはCO2Hを、BはNHCOまたはCONHのアミド結合を、mは1から6までの整数を、nは1から6までの整数を表す。)
式(5)で示される化合物に、末端がカルボキシル基またはアミノ基であるフラーレン誘導体を、通常のアミド縮合に用いられる試薬を用いて縮合することにより、式(1)で示すフラーレンを結合したゲル化剤が得られる。
【0009】
フラーレンにはC60以外にC70、C76、C78、C84等様々な同族体が知られ(例えば、別冊日経サイエンス138、2002年、22−27参照)、その誘導体として、例えば、特定の二重結合への付加反応を用いた様々なアミンやカルボン酸等が報告されている(例えば、別冊日経サイエンス138、2002年、70−73参照)が、本発明のフラーレン誘導体は、式(5)で示される化合物等の3,4,5−長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体との結合が可能な官能基を持つものであれば、如何なる誘導体でも構わない。例えば、式(4)で示されるC60のピロリジン誘導体のようにアミノ基を持つ誘導体であれば、式(5)で示される化合物においてAがCO2Hである化合物と縮合を行って、目的物を得ることができる。
【0010】
この様にして合成されたゲル化剤を、適当量のサンプルを有機溶媒に懸濁させ、サンプルが完全に溶解するまで加熱した後、室温に放置するか、必要によって、さらに冷却することによってゲルが得られる。
以下に、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記述に限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
(式(2)で示される化合物の合成)
式(4)で示される化合物のトリチル保護体(42mg、0.041mmol;アメリカ化学会誌、1993年、115巻、p.9798−9799)をジクロロメタン8mLに懸濁させ、トリフルオロメチル硫酸を0.1mL加えて室温で1時間撹拌の後、ジエチルエーテルを加えて沈殿物を分取し、ジエチルエーテルで洗浄して式(4)で示される化合物の粗精製物を粉末として得た。
式(3)で示される化合物(55mg、0.063mmol)、水溶性カルボジイミド(14mg、0.073mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(9mg、0.058mmol)を乾燥ジクロロメタン7mLに溶解し、アルゴン雰囲気で、氷冷下、1時間撹拌した。この溶液に、上で得た式(4)で示される化合物の粗生成物を5mLのジメチルホルムアミドと0.5mLのピリジンに溶解したものを加え、3時間反応させた。反応溶液にジクロロメタンを加え、塩酸水溶液、水、飽和食塩水で洗浄の後、有機層をエバポレーターにより濃縮しエタノールを加えて沈殿を析出させた。沈殿物を分取し、温めたエタノールで洗浄し、残渣をクロロホルムに溶解し、不溶物をろ別し、約4mLに濃縮した後、高速液体クロマトグラフィーを用いて精製し、式(2)で示される目的物(10mg、0.006mmol)を得た。
1H-NMR (CDCl3): δ0.88 (9H, t, J = 6.8 Hz), 1.2-1.3 (48H, m), 1.46 (4H, m), 1.57 (2H, m), 1.63 (2H, m), 1.73 (4H, m), 1.81 (6H, m), 1.95 (4H, m), 2.36 (2H, t, J = 5.7 Hz), 2.80 (2H, t, J = 7.3 Hz), 3.35 (2H, q, J = 6.2 Hz), 3.50 (2H, q, J = 6.2 Hz), 3.97 (2H, t, J = 6.2 Hz), 4.03 (4H, t, J = 6.6 Hz), 5.36 (2H, s), 5.45 (2H, s), 6.29 (1H, t, J = 5.7 Hz), 7.06 (2H, s), 7.17 (1H, t, J = 5.3 Hz).
FAB-MS : found 1619.6, calc. for [M+H]+ (C115H100N3O6) 1620.
【0012】
(参考例)
(式(3)で示される化合物(N−(N−(3,4,5−トリス(ドデシルオキシ)ベンゾイル)−4−アミノブチリル)−6−アミノヘキサン酸)の合成)
6−アミノヘキサン酸(1.42 g, 13.8 mmol)と炭酸水素ナトリウム(1.73 g, 20.6 mmol)を純水(20 ml)に溶かし、塩化ベンジルオキシカルボニル(2.4 ml)を滴下し、室温で一夜撹拌した。生じた沈殿物をろ取し、ヘキサンで洗浄した。ろ液はヘキサンで洗浄後、水層に1M塩酸を加えて酸性にし、クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、硫酸ナトリウムをろ別後、溶媒を留去した。濃縮後の残渣とろ別しておいた沈澱物を合わせてシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、N−ベンジルオキシカルボニル−6−アミノヘキサン酸(2.34 g, 8.81 mmol, 95%)を得た。
1H-NMR (CDCl3) δ1.37 (2H, quint, J = 7. 6 Hz), 1.53 (2H, quint, J = 7.6 Hz), 1.65 (2H, quint, J = 7.6 Hz), 2.35 (2H, t, J = 7.6 Hz), 3.20 (2H, q, J = 7.6 Hz), 4.77 (1H, m), 5.27 (2H, s), 7.36 (5H, m).
【0013】
N−ベンジルオキシカルボニル−6−アミノヘキサン酸(1.08 g, 4.04 mmol)をエタノール(20 ml)に溶かし、フッ化ホウ素エーテル錯体(0.5 ml, 2.37 mmol)を加え2時間加熱還流した。反応終了後、トリエチルアミン(2 ml)を加えて濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=8:2)で精製し、N−ベンジルオキシカルボニル−6−アミノヘキサン酸エチル(1.12 g, 3.83 mmol, 94%)を得た。
1H-NMR (CDCl3) δ1.25 (3H, t, J = 6.9 Hz), 1.36 (2H, quint, J = 7. 6 Hz), 1.52 (2H, quint, J = 7.6 Hz), 1.64 (2H, quint, J = 7.6 Hz), 2.29 (2H, t, J = 7.6 Hz), 3.20 (2H, q, J = 7.6 Hz), 4.12 (2H, q, J = 6.9 Hz), 4.74 (1H, m), 5.09 (2H, s), 7.36 (5H, m).
N−ベンジルオキシカルボニル−6−アミノヘキサン酸エチル(1.10 g, 3.76 mmol)をエタノール(20 ml)に溶かし、10%パラジウム−炭素を加え、水素雰囲気下で一夜撹拌し、6−アミノヘキサン酸エチルのエタノール溶液を調製した。
【0014】
N−(3,4,5−トリス(ドデシルオキシ)ベンゾイル)−4−アミノ酪酸(843 mg, 1.11 mmol)、水溶性ガルボジイミド(260 mg, 1.36 mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(203 mg, 1.33 mmol)を乾燥ジクロロメタン(30 ml)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、室温で30分撹拌した後、先に調製しておいた6−アミノヘキサン酸エチルのエタノール溶液を加え、さらに室温で2時間撹拌した。1M塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ別し、溶媒を減圧下留去後、粗生成物をメタノールから再結晶し、N−(N−(3,4,5−トリス(ドデシルオキシ)ベンゾイル)−4−アミノブチリル)−6−アミノヘキサン酸エチル(956 mg, 1.06 mmol, 96%)を得た。
1H-NMR (CDCl3) δ0.88 (9H, t, J = 7.6 Hz), 1.24-1.36 (H, m), 1.49 (8H, m), 1.62 (2H, quint, J = 7.6 Hz), 1.73 (2H, quint, J = 7.6 Hz), 1.81 (4H, quint, J = 7.6 Hz), 1.96 (2H, m), 2.28 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.32 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.24 (2H, q, J = 6.2 Hz), 3.49 (2H, q, J = 6.2 Hz), 3.98 (2H, t, J = 6.9 Hz), 4.03 (4H, t, J = 6.9 Hz), 4.11 (2H, q, J = 6.9 Hz), 6.03 (1H, t, J = 6.2 Hz), 7.04 (2H, s), 7.10 (1H, t, J = 6.2 Hz).
【0015】
N−(N−(3,4,5−トリス(ドデシルオキシ)ベンゾイル)−4−アミノブチリル)−6−アミノヘキサン酸エチル(930 mg, 1.03 mmol)をエタノール(30 ml)に溶かし、純水(8 ml)に溶かした水酸化カリウム(421 mg, 7.50 mmol)を加え、40℃で30分撹拌した。反応終了後、1M塩酸で中和し、クロロホルムで抽出後、クロロホルム層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、硫酸ナトリウムをろ別し、溶媒を減圧下留去した。残渣はメタノールから再結晶し、N−(N−(3,4,5−トリス(ドデシルオキシ)ベンゾイル)−4−アミノブチリル)−6−アミノヘキサン酸(854 mg, 0.978 mmol, 95%)を得た。
1H-NMR (CDCl3) δ0.88 (9H, t, J = 7.6 Hz), 1.24-1.34 (H, m), 1.46 (8H, m), 1.63 (2H, quint, J = 7.6 Hz), 1.73 (2H, quint, J = 6.8 Hz), 1.81 (4H, quint, J = 7.6 Hz), 1.97 (2H, quint, J = 6.9 Hz), 2.30 (2H, t, J = 6.9 Hz), 2.33 (2H, t, J = 6.9 Hz), 3.26 (2H, q, J = 6.2 Hz), 3.49 (2H, q, J = 6.2 Hz), 3.99 (2H, t, J = 6.9 Hz), 4.03 (4H, t, J = 6.9 Hz), 6.03 (1H, m), 6.87 (1H, m), 7.02 (2H, s).
【実施例2】
【0016】
(式(2)で示される化合物のゲル化)
式(2)で示される化合物の54mMのクロロホルム溶液が−18℃においてゲル化することを倒立試験で確認した。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、センサー、電子材料、バイオ素材等の分野への応用が可能な、電子特性を持った機能性分子ゲル化剤を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるフラーレンを結合したベンズアミド誘導体。
【化1】

(式中、Rはその中にフラーレンに由来する構造を含む部分構造を、AはNHCO(Rの親化合物の末端が一級アミンの場合)またはNCO(Rの親化合物の末端が二級アミンの場合)またはCONH(Rの親化合物の末端がカルボン酸の場合)のアミド結合を、BはNHCOまたはCONHのアミド結合を、mは1から6までの整数を、nは1から6までの整数を表す。)
【請求項2】
式(2)で示されるフラーレンを結合したベンズアミド誘導体。
【化2】

【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した化合物を有効成分とするゲル化剤。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載した化合物を有効成分とするゲル。

【公開番号】特開2007−238531(P2007−238531A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65096(P2006−65096)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】