説明

フラーレン誘導体、フラーレン誘導体の製造方法、ナノ・メゾスコピック材料、および、ナノ・メゾスコピック材料の製造方法

【課題】新規なナノ・メゾスコピック材料の設計に好ましいフラーレン誘導体及びその製造方法の提供。
【解決手段】フラーレン部位(A)とアルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)とを含むピロリジン環がベンゼン環に縮合したフラーレン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体、それを用いたナノ・メゾスコピック材料、および、それらの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、集合力の異なる部位を有するフラーレン誘導体、それを用いた種々の次元を有するナノ・メゾスコピック材料、および、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンに体表されるナノカーボンは、電子材料、電極材料、触媒、生体材料への応用が期待され、注目されている。
【0003】
フラーレンに種々の置換基を付与したフラーレン誘導体の合成も行われており、さらなる機能が明らかになってきた。例えば、炭素数1〜20の有機基が6個または7個結合したフラーレン誘導体がある(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1に記載のフラーレン誘導体は、フラーレンC60またはC70と1価の有機銅試薬とを反応させることにより得られる。このようなフラーレン誘導体は、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位等に有用である。
【0004】
また、フラーレン誘導体を金属イオンと錯形成させることによって、触媒活性にも応用可能である。
【0005】
また、別のフラーレン誘導体を用いて細線を形成する例もある(例えば、特許文献2を参照。)。特許文献2に記載のフラーレン誘導体は、例えば、C60のマロン酸ジエチルエステル誘導体、C60のN−メチルピロリジン誘導体、C60のフェロセン誘導体、C60の白金誘導体であり得る。これらフラーレン誘導体に基づく細線は、フラーレン誘導体溶液またはフラーレン誘導体とフラーレンとの混合溶液を用いて、液−液界面法により、結晶性が高く繊維長の長いフラーレン誘導体細線を得ることができる。このような細線の電気的・化学的性質は、フラーレン誘導体の官能基を変更することによって、制御され得る。また、このような細線は、結晶性が高いので良質な半導体として作用する。
【特許文献1】特開2005−232165号公報
【特許文献2】特開2005−112776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述してきたフラーレンおよびフラーレン誘導体は、ナノ・メゾスコピックサイズの電子部品に用いられることが期待されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、ナノ構造体形成の構成単位としてのフラーレン誘導体を示唆しているものの、具体的なナノ構造体の形成技術の開発には至っていない。一方、特許文献2に記載の技術は、フラーレン誘導体を用いて1次元の構造体である細線を製造できるものの、その他の次元の構造体を形成することはできない。1つのフラーレン誘導体に基づいて、種々の次元(0次元〜3次元)のナノ・メゾスコピック材料(構造体)を任意に製造できれば有利である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、種々の次元を有する新規なナノ・メゾスコピック材料の設計に好ましいフラーレン誘導体およびその製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、そのようなフラーレン誘導体を用いた種々の次元を有する新規なナノ・メゾスコピック材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による式(1)に示されるフラーレン誘導体は、フラーレン部位(A)と、置換基を有するまたは有しない少なくとも1つのアルキル置換基を含むアルキル鎖部位(B)と、前記フラーレン部位(A)と前記アルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)とを含み、
【化12】

ここで、Xは、水素原子またはメチル基であり、前記結合部位(R)は、少なくとも1つのベンゼン環を有し、前記アルキル鎖部位(B)を実質的に平面上に維持し、前記アルキル鎖部位(B)の前記少なくとも1つのアルキル置換基のそれぞれは、実質的に同一の方向に伸びており、これにより上記目的を達成する。
【0009】
前記フラーレン部位(A)は、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択されるフラーレンを含み得る。
【0010】
前記アルキル鎖部位(B)は、3つのアルキル置換基を有し得る。
【0011】
前記少なくとも1つのアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコ
キシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数であり得る。
【0012】
前記nは、12〜20であり得る。
【0013】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択され得る。
【化13】

【0014】
前記結合部位(R)は、式(3)で示される、さらなる置換基Yを有するまたは有しない、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、および、ピレンからなる群から選択され得る

【化14】

【0015】
本発明によるフラーレン誘導体を製造する方法は、式(4)からなる群から選択される結合要素とフラーレンと式(5)で示されるN−メチルグリシンとを反応させるステップを包含し、
【化15】

ここで、R1は、置換基を有するまたは有しないアルキル置換基であり、R2およびR3
、それぞれ、水素原子、または、置換基を有するまたは有しないアルキル基であり、Xは、水素原子またはメチル基であり、Yは、水素原子またはさらなる置換基であり、これにより上記目的を達成する。
【0016】
前記フラーレンは、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択され得る。
【0017】
前記R1、R2およびR3のアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコキシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数であり得る。
【0018】
前記nは、12〜20であり得る。
【0019】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択され得る。
【化16】

【0020】
前記反応させるステップは、トルエン中、110℃の温度で、12〜24時間還流させ得る。
【0021】
本発明による複数のフラーレン誘導体からなるナノ・メゾスコピック材料は、前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、式(1)に示されるフラーレン部位(A)と、置換基を有するまたは有しない少なくとも1つのアルキル置換基を含むアルキル鎖部位(B)と、前記フラーレン部位(A)と前記アルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)とを含み、
【化17】

ここで、Xは、水素原子またはメチル基であり、前記結合部位(R)は、少なくとも1つのベンゼン環を有し、前記アルキル鎖部位(B)を実質的に平面上に維持し、前記アルキル鎖部位(B)の前記少なくとも1つのアルキル置換基のそれぞれは、実質的に同一の方向に伸びており、前記複数のフラーレン誘導体は、複数の、一対のフラーレン誘導体からなり、前記複数の一対のフラーレン誘導体のそれぞれは、一方のフラーレン部位(A )と他方のアルキル鎖部位(B)とがそれぞれ結合するように交互に配列しており、これにより上記目的を達成する。
【0022】
前記フラーレン部位(A)は、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択されるフラーレンを含み得る。
【0023】
前記アルキル鎖部位(B)は、3つのアルキル置換基を有し得る。
【0024】
前記少なくとも1つのアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコ
キシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数であり得る。
【0025】
前記nは、12〜20であり得る。
【0026】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択され得る。
【化18】

【0027】
前記結合部位(R)は、式(3)で示される、さらなる置換基Yを有するまたは有しない、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、および、ピレンからなる群から選択され得る。
【化19】

【0028】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、中空球体であり、前記複数の一対のフラーレン誘導体は、前記中空球体の壁厚の方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体それぞれの長手方向とが一致するように位置し得る。
【0029】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、ファイバ材料であり、前記複数の一対のフラーレン誘導体は、前記ファイバ材料の長手方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体それぞれの長手方向とが直交するように位置し得る。
【0030】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、ディスク材料であり、前記複数の一対のフラーレン誘導体は、前記ディスク材料の厚さ方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体の長手方向とが一致するように位置し得る。
【0031】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、前記ディスク材料のランダムな集合体であるフラワ材料であり得る。
【0032】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、コーン材料であり、前記複数の一対のフラーレン誘
導体は、前記コーン材料の壁厚の方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体それぞれの長手方向とが一致するように位置し得る。
【0033】
前記コーン材料の先細りの端部は、孔を有し得る。
【0034】
本発明による複数のフラーレン誘導体からなるナノ・メゾスコピック材料を製造する方法は、前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれが、式(1)に示されるフラーレン部位(A)と、置換基を有するまたは有しない少なくとも1つのアルキル置換基を含むアルキル鎖部位(B)と、前記フラーレン部位(A)と前記アルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)とを含み、
【化20】

ここで、Xは、水素原子またはメチル基であり、前記結合部位(R)は、少なくとも1つのベンゼン環を有し、前記アルキル鎖部位(B)を実質的に平面上に維持し、前記アルキル鎖部位(B)の前記少なくとも1つのアルキル置換基のそれぞれは、実質的に同一の方向に伸びており、複数のフラーレン誘導体に所定の溶液を加え、加熱するステップであって、前記所定の溶液は、前記複数のフラーレン誘導体に対して貧溶媒であり、テトラヒドロフランの極性よりも高い極性を有する、ステップと、前記加熱するステップで得られた反応溶液を保持するステップとを包含し、これにより上記目的を達成する。
【0035】
前記フラーレン部位(A)は、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択されるフラーレンを含み得る。
【0036】
前記アルキル鎖部位(B)は、3つのアルキル置換基を有し得る。
【0037】
前記少なくとも1つのアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコ
キシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数であり得る。
【0038】
前記nは、12〜20であり得る。
【0039】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択され得る。
【化21】

【0040】
前記結合部位(R)は、式(3)で示される、さらなる置換基を有するまたは有しない、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、および、ピレンからなる群から選択され得る。
【化22】

【0041】
前記加熱するステップは、60℃の温度で、2時間保持し得る。
【0042】
前記ナノ・メゾスコピック材料が中空球体である場合、前記所定の溶液は2−プロパノール溶液であり、前記ナノ・メゾスコピック材料がファイバ材料である場合、前記所定の溶液は直鎖系mアルキルアルコールであり(ただし、mは炭素数を表し、3≦m≦5である)、前記ナノ・メゾスコピック材料がディスク材料である場合、前記所定の溶液は1,4−ジオキサンであり、前記ナノ・メゾスコピック材料がコーン材料である場合、前記所定の溶液はテトラヒドロフラン溶液であり得る。
【0043】
前記ナノ・メゾスコピック材料が中空球体である場合、前記2−プロパノール溶液は2−プロパノールとトルエンとの混合溶液であり、前記混合溶液の割合は、前記2−プロパノール中前記トルエンが0%〜50%であり得る。
【0044】
前記ナノ・メゾスコピック材料がファイバ材料である場合、前記直鎖系mアルキルアルコールは1−プロパノールであり得る。
【0045】
前記ナノ・メゾスコピック材料がコーン材料である場合、前記テトラヒドロフラン溶液は水またはメタノールとテトラヒドロフランとの混合溶液であり、前記混合溶液の割合は、前記テトラヒドロフラン中前記水または前記メタノールが20%〜50%であり得る。
【0046】
前記保持するステップは、前記反応溶液を室温にて12〜24時間保持し得る。
前記保持するステップは、前記ナノ・メゾスコピック材料がフラワ材料である場合、前記所定の溶液は1,4−ジオキサンであり、前記反応溶液を5℃以下の温度で12〜24時間保持し得る。
【0047】
前記ナノ・メゾスコピック材料が中空球体であり、前記2−プロパノール溶液は2−プロパノールとトルエンとの混合溶液である場合、前記反応溶液を5℃以下の温度で12〜24時間保持し、超音波処理をするステップをさらに包含し得る。
【0048】
本発明による素子は、上記材料を含み得る。
【発明の効果】
【0049】
本発明によるフラーレン誘導体は、球状のフラーレン部位に対して、結合部位を介してアルキル鎖部位が平面性を保持し得る。その結果、sp2炭素からなるフラーレン部位の
π−π相互作用による集合力と、sp3炭素からなるアルキル鎖部位の疎水性相互作用に
よる集合力との間に差(バランス)が生じる。このような差を利用することによって、分子の組織化を促進し得るとともに、種々の新規なナノ・メゾスコピック材料の構築が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明によるフラーレン誘導体の模式図である。
本発明によるフラーレン誘導体は、式(1)に示される構造を有する。
【化23】

【0051】
本発明のフラーレン誘導体は、フラーレン部位(A)と、アルキル鎖部位(B)と、フラーレン部位(A)とアルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)とを含む。
【0052】
フラーレン部位(A)は、フラーレンと含窒素五員環部とを含む。フラーレンは、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択される。好ましくは、フラーレンはC60である。これは、C60は、極めて高いIh対象性を持ち、最も安定且つ安価であるので、取り
扱いが便利であり、化学修飾も容易となり得るためである。含窒素五員環部は、後述する結合部位(R)とフラーレンとを結合するよう機能する。含窒素五員環部のXは、水素またはメチル基である。
【0053】
フラーレン部位(A)は、sp2炭素からなるフラーレンのπ−π相互作用による集合
力を有している。
アルキル鎖部位(B)は、置換基を有するまたは有しない、1〜3のアルキル置換基を含む。
【0054】
図1の構造110は、アルキル置換基が1の場合を示し、構造120は、アルキル置換基が2の場合を示し、構造130は、アルキル置換基が3の場合を示す。1〜3のアルキル置換基のそれぞれは、実質的に同一の方向に伸びている。同一の方向は、例えば、水平方向であるが、これに限定されない。なお、実質的に「同一」とは、アルキル置換基の骨格によっては、それぞれのアルキル置換基の長手方向が完全に一致しないが、全体として同一方向に伸びていることを意味する。このようなアルキル置換基は、sp3炭素からな
り、疎水性相互作用による集合力を有する。
【0055】
アルキル鎖部位(B)は、好ましくは、3つのアルキル置換基を有する(構造130)。これは、フラーレン部位(A)の直径とアルキル鎖部位(B)の幅とを考慮した場合、フラーレン誘導体全体として構造が安定となり、ナノ・メゾスコピック材料を製造(組織化構造を形成)しやすいためである。
1〜3のアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコキシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択される。ここで、
nは、2以上の整数である。好ましくは、nは、12〜20である。nが12未満の場合、アルキル鎖部位(B)の分子の集合力が低下するので、組織化構造の形成が困難になる。一方、nが20を越えると、アルキル鎖部位(B)の分子の集合力が増大するが、フラーレン部位(A)の集合力とのバランスが保たれず、組織化構造の形成が困難になる。なお、アルキル鎖部位(B)が、2以上のアルキル置換基を有する(構造120または構造130)場合、それぞれ、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
1〜3のアルキル置換基のそれぞれは、嵩高さの小さい置換基150または170(図1)を、それぞれの中間部位、または、それぞれの末端部位に有してもよい。嵩高い置換基の場合、組織化構造を崩壊し得る場合がある。図1の構造140に示されるようにアルキル置換基が中間部位に置換基を有する場合、置換基150は、好ましくは、式(2)に示されるジアセチレン基、アゾベンゼン基、および、スチルベンゼン基からなる群から選択される。ジアセチレン基は、重合によってジアセチレンポリマーを形成するので、アルキル鎖部位(B)が導電性を有し得る。アゾベンゼン基またはスチルベンゼン基は、それぞれ、光異性化可能であるため、組織化構造形成後のナノ・メゾスコピック材料のモルフォロジーを光によって変化させることができる。
【化24】

【0057】
図1の構造160に示されるようにアルキル置換基が末端部位に置換基を有する場合、分子認識または水素結合可能な置換基170が好ましい。このような置換基を有すれば、組織化構造形成後のナノ・メゾスコピック材料におけるホストゲスト反応が期待できる。このような置換基170は、例えば、カルボン酸、アミン、アミノ酸、アルコール、および、ボロン酸であり得る。
【0058】
結合部位(R)は、少なくとも1つのベンゼン環を有し、アルキル鎖部位(B)を実質的に平面上に維持する。結合部位(R)は、好ましくは、さらなる置換基Yを有するまたは有しない、式(3)に示されるベンゼン、ナフタレン、アントラセン、および、ピレンからなる群から選択される。これら結合部位(R)であれば、アルキル鎖部位(B)は、実質的に平面上に維持され、かつ、アルキル鎖部位(B)のそれぞれのアルキル置換基は実質的に同一方向に配向することができる。なお、実質的に「平面状」とは、アルキル鎖部位(B)のそれぞれのアルキル置換基が、完全に1つの平面上に配置するわけではないが、全体として平面上に配置された状態を意図する。さらなる置換基Yは、例えば、メチル、アルコールおよびアミンであり得るか、または、水素原子である。
【化25】

【0059】
以上、説明してきたように、本発明によるフラーレン誘導体は、フラーレン部位(A)の集合力とアルキル鎖部位(B)の集合力との間に差(バランス)を有し得る。後述するように、このような差を利用することによって、分子の組織化を促進し得るとともに、種々の新規なナノ・メゾスコピック材料の構築を可能とする、新規なフラーレン誘導体である。
【0060】
次に、本発明によるフラーレン誘導体の製造方法を説明する。
本発明によるフラーレン誘導体の製造方法は、式(4)からなる群から選択される結合要素と、フラーレンと、式(5)で示されるN−メチルグリシンとを反応させるステップを含む。
【化26】

ここで、R1は、置換基を有するまたは有しないアルキル置換基であり、R2およびR3
は、それぞれ、水素原子、または、置換基を有するまたは有しないアルキル置換基であり、Xは、水素原子またはメチル基であり、Yは、水素原子またはさらなる置換基である。R1、R2およびR3の接続位置は、任意であるが、水平になるように位置する。
【0061】
1、R2およびR3のアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコキシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択される。ここで、nは、2以上の整数である。好ましくは、nは、12〜20である。なお、R1、R2およびR3のアルキル置換基は、それぞれ、同一であってもよいし、異なっていて
もよい。
【0062】
1、R2およびR3のアルキル置換基のそれぞれは、嵩高さの小さい置換基を、それぞ
れの中間部位、または、それぞれの末端部位に有してもよい。嵩高い置換基の場合、組織化構造を崩壊し得る場合がある。アルキル置換基が中間部位に置換基を有する場合、置換基は、好ましくは、式(2)に示されるジアセチレン基、アゾベンゼン基、および、スチルベンゼン基からなる群から選択される。アルキル置換基が末端部位に置換基を有する場合、分子認識または水素結合可能な置換基が好ましい。このような置換基は、例えば、カルボン酸、アミン、アミノ酸、アルコール、および、ボロン酸であり得る。式(4)で示される結合要素は、合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【化27】

【0063】
フラーレンは、C60、C70、C76およびC86からなる群から選択される。
反応させるステップは、より詳細には、溶媒としてトルエン中、110℃の温度で、12〜24時間(12時間、24時間を含む)還流させる。反応させるステップで得られた反応物を冷却し、トルエン、次いで溶離剤としてトルエン/n−ヘキサン(1:1で混合)を用いて、クロマトグラフ処理してもよい。
【0064】
(実施の形態2)
次に、本発明によるフラーレン誘導体を用いたナノ・メゾスコピック材料について説明する。
図2は、本発明によるフラーレン誘導体を用いた種々のナノ・メゾスコピック材料の模式図である。
本発明による種々のナノ・メゾスコピック材料は、複数のフラーレン誘導体200を含む。フラーレン誘導体200は、実施の形態1で説明したフラーレン誘導体であり、フラーレン部位210とアルキル鎖部位220とを含む。図2に示されるフラーレン誘導体200では、簡単のため、結合部位を省略して示す。本発明のナノ・メゾスコピック材料は、複数の、一対のフラーレン誘導体230を用いて0次元〜3次元にわたる種々の構造をとることができる。一対のフラーレン誘導体230は、図に示されるように、それぞれのフラーレン誘導体200が交互に、すなわち、一方のフラーレン部位210と他方のアルキル鎖部位220とが結合するように、配列している。このような交互配列は、フラーレン部位210の集合力とアルキル鎖部位220の集合力との差(バランス)によって、自己組織化的に生じる。より詳細には、比較的低い温度において、このような交互配列が生じ、比較的高い温度において、このような交互配列が分解し、フラーレン誘導体200は単独で存在し得る。このような特徴は、可逆であるため、適宜、再生・分解が可能である
ため、設計において極めて有利である。
【0065】
次に、本発明による種々のナノ・メゾスコピック材料の製造方法を説明する。
図3は、本発明によるフラーレン誘導体を用いた種々のナノ・メゾスコピック材料を製造するステップを示す図である。
ステップS310:フラーレン誘導体200に所定の溶液を加え加熱する。所定の溶液は、フラーレン誘導体200に対して貧溶媒であり、テトラヒドロフランの極性よりも高い極性を有する。加熱するステップは、好ましくは、60℃の温度で、2時間行われる。
ステップS320:ステップS310で得られた反応溶液を保持する。
なお、所定の溶液の取捨選択および反応溶液の保持条件によって、1種類のフラーレン誘導体200から種々のナノ・メゾスコピック材料が得られ得る。
なお、ステップS310の前に、フラーレン誘導体200を溶媒(例えば、クロロホルム)に溶解させ、次いで、溶媒を乾燥させてフラーレン誘導体200のキャスト膜を作製しておいてもよい。これにより、加熱反応の進行を促進させることができる。
【0066】
次に、複数の一対のフラーレン誘導体230からなる種々のナノ・メゾスコピック材料およびその製造方法について詳述する。
<1.0次元ナノ・メゾスコピック材料>
再度図2を参照する。中空球体240は、0次元のナノ・メゾスコピック材料である。構造Aに示されるように、中空球体240の壁厚の方向と一対のフラーレン誘導体230の長手方向とが一致するように、フラーレン誘導体200は配列する。中空球体240の壁厚は、一対のフラーレン誘導体230の長手方向の整数倍に相当し得る。
【0067】
中空球体240の壁厚は、フラーレン誘導体200の長手方向の長さの整数倍に相当することから、アルキル鎖部位220の鎖長を変化させることによって、または、一対のフラーレン誘導体230を多層構造にすることによって、壁厚を任意に制御することができる。このことは、材料設計において有利である。また、中空球体240の大きさは、製造条件によってナノメータオーダからマイクロメータオーダの範囲であるので、その中空のサイズを可変に制御できる。
【0068】
このような中空球体240は、中空空間、または、中空球体そのものを利用したアプリケーションに適用される。中空空間を利用したアプリケーションには、中空空間に種々の材料を内包させたものがある。より詳細には、内包物が磁性材料の場合には、フラーレン誘導体200の光応答性と磁性との相互作用による新規材料が期待される。また、内包物が薬剤の場合には、ドラッグデリバリとして機能し得る。特に、中空球体240は、温度に対してその構造を変化させることができるので、患部にて中空球体240を分解し、薬剤を直接患部に適用することも可能である。一方、中空球体そのものを利用したアプリケーションには、フラーレン誘導体200のフラーレン部位210の有する導電性を利用した、ナノメータまたはマイクロメータサイズの部品がある。より詳細には、ナノメータサイズの導電性ボールであり得、その導電性ボールに配線を接続することもできる。
【0069】
本発明による中空球体240は、従来の球体材料に比べて極めて真円に近く、単分散性に優れているため、アプリケーションにおいて信頼性および歩留まりが向上し得る。
図4は、本発明によるフラーレン誘導体を用いた種々のナノ・メゾスコピック材料を製造する詳細なステップを示す図である。
【0070】
本発明による中空球体240を製造するステップを詳述する。
ステップS310A:フラーレン誘導体200に、所定の溶液として2−プロパノール溶液を加え、加熱する。好ましくは、所定の溶液として、2−プロパノールとトルエンとの混合溶液を用いる。混合溶液の割合は、2プロパノール中のトルエンが0%〜50%で
ある。混合溶液を用いることにより、フラーレン部位210との親和性が増し、曲率を持つ構造体を形成しやすくなるためである。
ステップS320A:ステップS310Aで得られた反応溶液を室温(20℃〜25℃)にて12時間〜24時間保持する。
【0071】
これにより、自己組織化的に図2に示す中空球体240が得られる。さらに、ステップS320Aに続いて、反応溶液を5℃以下の温度で12〜24時間保持しつつ、超音波処理をしてもよい。これにより、得られた中空球体240の粒径が成長し、ミクロンメータサイズの中空球体が得られる。さらに超音波処理を続けると、成長した中空球体が合体し、ファイバ材料となり得る。
【0072】
<2.1次元ナノ・メゾスコピック材料>
再度図2を参照する。ファイバ材料250は、1次元のナノ・メゾスコピック材料である。構造Aに示されるように、ファイバ材料250の長手方向と、一対のフラーレン誘導体230の長手方向とが直交するように、フラーレン誘導体200は配列し得る。すなわち、ファイバ材料250の幅および厚さは、それぞれ一対のフラーレン誘導体230の長手方向の長さ(または、長さの整数倍)、および、フラーレン部位210またはアルキル鎖部位220の厚さに相当する。
【0073】
このようなファイバ材料250は、フラーレン誘導体200の集合体であるため、柔軟性(フレキシビリティ)を有し、複雑な形状にも対応でき、従来のカーボンナノチューブの欠点を克服できる。また、フラーレン誘導体200のフラーレン部位210の導電性を利用して、ファイバ材料250を導電性ワイヤとして用いてもよい。
【0074】
再度図4を参照して、ファイバ材料250を製造するステップを詳述する。
ステップS310B:フラーレン誘導体200に、所定の溶液として直鎖系mアルキルアルコール(ただし、mは炭素数を表し、3≦m≦5である)を加え、加熱する。好ましくは、所定の溶液として、1−プロパノールを用いる。
ステップS320A:ステップS310Bで得られた反応溶液を室温(20℃〜25℃)にて12時間〜24時間保持する。
これにより、自己組織化的に図2に示すファイバ材料250が得られる。
【0075】
<3.2次元ナノ・メゾスコピック材料>
再度図2を参照する。ディスク材料260は、2次元のナノ・メゾスコピック材料である。構造Bに示されるように、ディスク材料260の厚さ方向と、一対のフラーレン誘導体230の長手方向とが一致するように、フラーレン誘導体200は配列し得る。すなわち、ディスク材料260の厚さは、一対のフラーレン誘導体230の長手方向の長さ(または、長さの整数倍)に相当する。
このようなディスク材料260は、ディスク材料260の厚さ方向の両端部に導電性のフラーレン部位210が位置し、ディスク材料260の内部に絶縁性のアルキル鎖部位220が位置するので、ナノメータレベルにおけるキャパシタまたはコンデンサとして利用可能である。さらには、SNOM/STMプローブを用いた局所的光重合を利用した、記憶素子としても期待できる。
【0076】
再度図4を参照して、ディスク材料260を製造するステップを詳述する。
ステップS310C:フラーレン誘導体200に、所定の溶液として、室温(20℃〜25℃)においてもフラーレン誘導体200に対してわずかな溶解性を示す溶媒を加え、加熱する。詳細には、所定の溶液として1,4−ジオキサンが好ましい。
ステップS320A:ステップS310Cで得られた反応溶液を室温(20℃〜25℃)にて12時間〜24時間保持する。
これにより、自己組織化的に図2に示すディスク材料260が得られる。ステップS320Aに続いて、基板上に反応溶液をスピンコートまたはディップコートを行うことによって、ディスク材料260の厚さを単層(すなわち、一対のフラーレン誘導体230の単層状態)から多層(すなわち、一対のフラーレン誘導体230の積層状態)へと制御することができる。
【0077】
<4.3次元ナノ・メゾスコピック材料>
再度図2を参照する。コーン材料270は、3次元のナノ・メゾスコピック材料である。構造Aに示されるように、コーン材料270の壁厚の方向と、一対のフラーレン誘導体230の長手方向とが一致するように、フラーレン誘導体200は配列し得る。すなわち、コーン材料270の壁厚は、一対のフラーレン誘導体230の長手方向の長さ(または、長さの整数倍)に相当する。コーン材料270の先細りの端部は、孔を有する。孔のサイズは、ナノメータレベルである。
このようなコーン材料270は、コーン内の空間にたんぱく質等の比較的大きな物質を吸着させることができ、センシング機能を有し得る。本発明のコーン材料270は、ナノメータからマイクロメータの範囲であり、従来のカーボンナノホーンがカバーできなかった範囲をカバーすることができる。
【0078】
再度図4を参照して、コーン材料270を製造するステップを詳述する。
ステップS310D:フラーレン誘導体200に、所定の溶液としてテトラヒドロフラン溶液を加え、加熱する。テトラヒドロフラン溶液は、フラーレン誘導体200をモノマー分散させ得る。このようなテトラヒドロフラン溶液は、テトラヒドロフランと極性を有する溶媒との混合溶液であり得る。好ましくは、水またはメタノールと、テトラヒドロフランとの混合溶液であり得る。混合溶液の割合は、テトラヒドロフラン中の水またはメタノールが20%〜50%である。
ステップS320A:ステップS310Dで得られた反応溶液を室温(20℃〜25℃)にて12時間〜24時間保持する。
これにより、自己組織化的に図2に示すコーン材料270が得られる。
【0079】
<5.3次元ナノ・メゾスコピック材料>
再度図2を参照する。フラワ材料280は、別の3次元のナノ・メゾスコピック材料である。フラワ材料280は、複数のディスク材料260の任意の(ランダムな)集合体である。したがって、フラワ材料280は、構造Bに示されるように、フラワ材料280の一枚一枚の厚さ方向にフラーレン部位210が向き、かつ、フラーレン誘導体200それぞれが交互に配列している。
【0080】
このようなフラワ材料280は、上述してきた中空球体240、ファイバ材料250、ディスク材料260およびコーン材料270に比べて比表面積が大きいため、触媒担体、燃料電池および水素貯蔵素材に有効である。また、フラワ材料280は、ナノメータレベルにおける装飾用オブジェクトとして利用される。例えば、フラワ材料280に蛍光材料を混合させることによって、極めて鮮やかに発光させることができる。
【0081】
再度図4を参照して、フラワ材料280を製造するステップを詳述する。
ステップS310C:フラーレン誘導体200に、所定の溶液として、室温(20℃〜25℃)においてもフラーレン誘導体200に対してわずかな溶解性を示す溶媒を加え、加熱する。詳細には、所定の溶液として1,4−ジオキサンが好ましい。このステップS310Cは、ディスク材料260を製造するステップS310Cと同様である。
ステップS320B:ステップS310Cで得られた反応溶液を5℃以下の温度にて12時間〜24時間保持する。
これにより、自己組織化的に図2に示すフラワ材料280が得られる。フラワ材料28
0は、ステップS310(図3)において、所定の溶液としてディスク材料260と同様の1,4−ジオキサンを用いるが、ステップS320(図3)の保持温度をディスク材料260の場合と変えるだけで、異なる次元のナノ・メゾスコピック材料が得られる。
【0082】
以上、説明してきたように、本発明によるフラーレン誘導体200を用いて、0次元〜3次元にわたる種々のナノ・メゾスコピック材料を容易に製造することができる。得られるナノ・メゾスコピック材料は、フラーレン誘導体200のフラーレン部位210の集合力とアルキル鎖部位220の集合力との差を利用しているため、一旦分解しても再度構築することができる(可逆)。これにより、状況に応じて、分解・再生を操作できるので、有利であり得る。
【0083】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0084】
3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒド(430mg、2.5mmol)と、臭化ヘキサデシル(4.58g、15mmol)と、K2CO3(1.04g、7.5mmol)と、KI(25mg)と、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)15mLとの混合物を70℃で14時間攪拌した。得られた反応物を室温まで冷却し、水と混合させた。得られた水溶性の上層をCHCl3で抽出した。有機層を食塩水で処理し、Na2SO4
乾燥させた。減圧下にて溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィ(シリカゲル、溶離剤としてCHCl3/n−ヘキサン=2/3)を用いて精製した。次いで、CHCl3/MeOHから再結晶化し、得られた生成物(白色粉末、2.05g、2.48mmol)を分析した。
【0085】
得られた生成物を重クロロホルムに溶解させ、核磁気共鳴(NMR分光法)を用いて同定した。用いた装置は、FT−NMR装置(JEOL model AL300、JEOL、Japan)であった。同定結果を示す。
1H NMR(300MHz、CDCl3、20℃、TMS):δ9.83(s,1H)、7.08(s,2H)、4.06(t,2H,J=6.6Hz)、4.03(t,4H,J=6.4Hz)、1.87−1.70(m,6H)、1.47−1.26(m,78H)、0.88(t,9H,J=6.8Hz)
【0086】
次いで、生成物に高速原子衝撃マススペクトロメトリ(FABMS)(JMS−700、JEOL、Japan)を行った。同定結果を示す。
FABMS:827.9(C551024理論値; 826.8)
組成分析:C79.64%(C551024のCの理論値;79.84%)、H12.48%(C551024のHの理論値;12.34%)
【0087】
以上の結果から、得られた生成物は、3,4,5−トリヘキサデシルオキシベンズアルデヒドであることを確認した。
【0088】
合成した3,4,5−トリヘキサデシルオキシベンズアルデヒド(827mg、1.0mmol)と、C60(720mg、1.0mmol)と、N−メチルグリシン(445mg、5.0mmol)と、トルエン(800mL)とを混合し、21時間還流させた。冷却後、反応物を、溶離剤としてトルエン次いでトルエン/n−ヘキサン(1/1)を用いて、シリカゲルにてクロマトグラフ処理をした。反応物を1,4−ジオキサンから再結晶させて合成品(468mg、0.297mmol、29.7%)を得た。
【0089】
同様に、合成品に核磁気共鳴を行った。結果を示す。
1H NMR(300MHz、CDCl3、20℃、TMS);δ7.24−6.80(br,2H)、4.98(d,1H,J=9.2Hz)、4.81(s,1H)、4.24(d,1H,J=9.4Hz)、3.95(m,6H)、2.85(s,3H)、1.69(m,6H)、1.41−1.24(m,78H)、0.88(t,9H,J=7.1Hz)
13C NMR(75MHz、CDCl3、20℃、TMS);δ156.2、154.
15、153.97、153.5、147.37、147.36、147.08、146.52、146.37、146.26、146.20、146.12、146.00、145.98、145.81、145.59、145.55、145.37、145.31、145.28、145.21、144.74、144.73、144.43、143.20、143.02、142.74、142.63、142.61、142.27、142.19、142.15、142.11、142.05、141.91、141.86、141.71、141.62、140.24、140.13、139.70、138.54、136.61、136.22、135.79、131.88、83.74、73.30、70.07、69.43、68.98、40.11、31.96、30.33、29.75、29.70、29.64、29.47、29.40、29.32、26.13、26.08、22.72、14.13、14.11
【0090】
合成品にレーザイオン飛行時間型質量分析計MALDI TOF−MS(Voyager−DE STR、Applied Biosystem、USA)を用いて高分解能質量分析および組成分析を行った。同定結果を示す。
MALDI−TOF−MS(マトリックス、2−アミノ−5ニトロピリジン);1174.96(C1171073N理論値; 1174.83)
組成分析:C88.68%(C1171073N・0.5H2OのCの理論値;88.71%)、H7.02%(C1171073N・0.5H2OのHの理論値;6.87%)、N0.85%(C1171073N・0.5H2OのNの理論値;0.88%)
【0091】
さらに、得られた合成品について、フーリエ変換赤外分光光度計(Nicolet Nexus670、Thermo Electron、USA)を用いて、赤外吸収スペクトルを測定した。同定結果を示す。
IR (KBr, cm-1) 2918.8、2850.3、2777.0、1587.2、1114.7
【0092】
UV−VIS−NIRスペクトロメータ(V−570、JASCO、USA)を用いて、紫外・可視吸収スペクトル測定を行った。同定結果を示す。
UV−vis(n−ヘキサン、1.0×10-5M);λmax(ε,mol-1dm3cm-1)=210(186605)、254.5(130666)、309(43051)、430(5017)、701.5(461)
【0093】
以上より、得られた合成品が、フラーレン誘導体C60Ph3,4,5O316(以降で
は単にフラーレン誘導体と称する)であることを確認した。結果を式(6)にまとめる。
【化28】

【実施例2】
【0094】
実施例1で得られたフラーレン誘導体をクロロホルム溶液1mL(4.0mM)に溶解させ、溶媒のみ蒸発させ、キャスト膜を作製した。次いで、キャスト膜に2−プロパノールを加え、60℃で2時間加熱した(図3のS310)。次いで、室温まで冷却し、24時間保持し(図3のS320)、フラーレン誘導体による組織化構造(以降では単にオブジェクト(I)と称する)を作製した。
【0095】
得られたキャスト膜について、X線回折装置(RINT Ultima III、Rigaku、Japan)を用いて構造解析を行った。X線回折による結果を図5に示し、後述する。
次に、キャスト膜について、示差走査熱量測定(DST)および赤外吸収スペクトル測定を行い、アルキル鎖の熱による挙動を調べた。DSTは、示差走査熱量計(DSC6220、SII、USA)を用い、赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(Nicolet Nexus670、Thermo Electron、USA)を用いた。結果を図6および図7にそれぞれ示し、詳述する。
【0096】
得られたオブジェクト(I)を透過電子顕微鏡TEM(JEM−1010、JEOL、Japan)で観察した。観察は、加速電圧100kVで室温にて行った。観察用の試料は、オブジェクト(I)を含む溶液を、炭素膜がコーティングされた銅製グリッドに滴下し、高真空下で乾燥させて調整した。結果を図8(A)および(B)に示し、後述する。
さらに、オブジェクト(I)の粒径分布を測定した。結果を図9に示す。
次に、オブジェクト(I)を5℃に冷却し、その構造を走査電子顕微鏡SEM(S−4800、Hitachi、Japan)で観察した。観察は、加速電圧を5〜10kVで行った。観察用の試料は、シリコン(100)基板にオブジェクト(I)を付与し、チャージアップを防ぐための白金膜をコーティングすることによって調整した。なお、白金膜のコーティングにはイオンスパッタ(E−1030、Hitachi、Japan)を用いた。観察結果を図8(C)に示す。
【実施例3】
【0097】
実施例3は、2−プロパノールに代えて、2−プロパノールとトルエンとの混合溶液(混合比1:1)を用いた以外は、実施例2と同様であるため、説明を省略する。実施例2と同様に、得られた組織化構造(以降では単にオブジェクト(II)と呼ぶ)のSEMおよびTEMによる観察結果を、図10(A)および(B)にそれぞれ示し、後述する。
さらに、高分解能透過電子顕微鏡HR−TEM(JEM−2100F、JEOL、Japan)を用いて、より詳細に観察した。観察は、加速電圧200kVで室温にて行った
。観察用の試料は、TEMと同様に、オブジェクト(II)を含む溶液を、炭素膜がコーティングされた銅製グリッドに滴下し、高真空下で乾燥させて調整した。観察結果を図11に示し、後述する。
実施例2と同様に、オブジェクト(II)を5℃に冷却し、その構造をSEMおよびTEMで観察した。結果を図10(C)および(D)にそれぞれ示し、後述する。
さらに、オブジェクト(II)を5℃に冷却し、かつ、超音波処理を行った。超音波処理後のオブジェクト(II)をSEMで観察した。結果を図12(A)および(B)に示し、後述する。
【実施例4】
【0098】
実施例4は、2プロパノールに代えて、1−プロパノールを用いた以外は、実施例2と同様であるため説明を省略する。得られた組織化構造(以降では単にオブジェクト(III)と呼ぶ)のSEMおよびTEMによる観察結果を図13(A)〜(C)に示し、後述する。
【実施例5】
【0099】
実施例5は、2−プロパノールに代えて、1,4−ジオキサンを用いた以外は、実施例2と同様であるため、説明を省略する。得られた組織化構造(以降では単にオブジェクト(IV)と呼ぶ)のSEMによる観察結果を図14に示し、後述する。
オブジェクト(IV)の表面形態を、原子間力顕微鏡AFM(E−Sweep、SII、Japan)を用いて観察した。観察は、タッピングモードで行った。観察用の試料は、シリコン(100)基板にオブジェクト(IV)を含む1,4−ジオキサン溶液をスピンコート(回転速度r=1200rpm)することによって調整した。観察結果を図15に示し、詳述する。
【実施例6】
【0100】
実施例6は、保持温度を5℃とした以外は、実施例5と同様であるため説明を省略する。得られた組織化構造(以降では単にオブジェクト(V)と呼ぶ)のSEMによる観察結果を図16に示し、詳述する。
【実施例7】
【0101】
実施例7は、2−プロパノールに代えて、テトラヒドロフラン(THF)と水(H2
)との混合溶液(混合比1:1)を用いた以外は、実施例2と同様であるため、説明を省略する。得られた組織化構造(以降では単にオブジェクト(VI)と呼ぶ)のSEMおよびTEMによる観察結果を図17に示し、詳述する。
以上の実施例2〜実施例7の実験条件を表1にまとめる。
【表1】

【0102】
図5は、クロロホルム溶液に溶解させたフラーレン誘導体によるキャスト膜のX線回折
パターンを示す図である。
X線回折パターンは、(001)、(002)、(003)、(004)、(005)および(006)の周期的な明瞭なピークを示した。また、2θ≒9.5°近傍に見られるブロードなピークは、フラーレンC60の二次元性を示すピークである(面間隔d=0.93nmに相当)。以上より、キャスト膜中では、フラーレン誘導体が、規則的かつ周期的に、多層構造で配列していることを示唆する。その多層構造の周期(面間隔)は、4.3nmであることが分かった。
【0103】
ここで、周期4.3nmは、実施例1で作製したフラーレン誘導体の長手方向の長さにフラーレン部位の大きさを加えた長さに相当する。このことから、キャスト膜においては、フラーレン誘導体は、それぞれの長手方向に揃うように配列し、かつ、互いのフラーレン部位が対向するように対(すなわち、二分子膜構造)をなしていることが示唆される(図2の一対のフラーレン誘導体230)。
【0104】
図6は、クロロホルム溶液に溶解させたフラーレン誘導体によるキャスト膜の示差熱量の温度依存性を示す図である。
図より、低温側から高温側へと温度を変化させた場合に、26.5℃と30.6℃とに2つの吸熱ピークが観察された。30.6℃におけるエンタルピーΔHおよびエントロピ
ーΔSの値は、それぞれ、ΔH=41.6kJmol-1およびΔS=136.9kJmol-1-1と算出された。このエントロピーの値は、アルキル鎖の相転移のエントロピー(ヘキサデシル3つのエントロピーはΔS=92.6kJmol-1-1と算出される(メチレン1つ当たりのエントロピーはΔS=1.93kJmol-1-1と知られている))と、フラーレン部位C60のエントロピー(ΔS=30〜40kJmol-1-1)との合計に良好な一致を示した。これらの結果からも、キャスト膜において、フラーレン誘導体が、対を為している(すなわち、二分子膜構造)ことが示された。
【0105】
図7は、クロロホルム溶液に溶解させたフラーレン誘導体によるキャスト膜の赤外吸収スペクトルの温度依存性を示す図である。
図に示されるように、20℃の赤外吸収スペクトルは、2849cm-1(νsym)と2918cm-1(νasym)とにCH2の伸縮振動によるピークを示した。一方、60
℃の赤外吸収スペクトルでは、上記ピークは、2852cm-1および2922cm-1にブルーシフトすることが分かった。このことからも、低温において、フラーレン誘導体は二分子膜構造(図2の一対のフラーレン誘導体230)を維持し、高温において、フラーレン誘導体のアルキル鎖に相転移を生じ、二分子膜構造を解消する性質があることが示された。
【0106】
図8は、オブジェクト(I)のTEMおよびSEMによる観察結果を示す図である。
図8(A)および(B)は、倍率の異なるTEMによる写真である。オブジェクト(I)は、直径約100nmの中空球体構造(0次元)を有していることが分かった。図8(C)のSEMによる写真に示されるように、オブジェクト(I)を5℃に冷却すると、球体構造が崩壊した。
【0107】
図9は、オブジェクト(I)の粒径分布を示す図である。
本発明の方法によれば、約100nmの平均粒径を有するオブジェクト(I)が単分散で得られたことが分かった。このように、極めて容易に単分散の中空球体構造のオブジェクトが得られることは、歩留まり向上につながり有利である。
【0108】
図10は、オブジェクト(II)のTEMおよびSEMによる観察結果を示す図である。
オブジェクト(II)は、図10(A)および(B)から、オブジェクト(I)と同様
の中空球体構造を有していることが分かった。しかしながら、オブジェクト(II)は、図10(C)および(D)に示されるように、5℃まで冷却しても球体構造を維持した。このことから、2−プロパノールにトルエンを添加することによって、球体構造に温度耐性を持たせることができることがわかった。
【0109】
図11は、オブジェクト(II)のHR−TEMによる観察結果を示す図である。
図より、オブジェクト(II)は、極めて真円に近い中空球体であり、その壁厚は、8〜9nmであった。この壁厚は、フラーレン誘導体の二分子膜の2つ分に相当することが分かった。
【0110】
図12は、低温・超音波処理されたオブジェクト(II)のSEMによる観察結果を示す図である。
図12(A)は、比較的短時間低温かつ超音波処理された後のオブジェクト(II)のSEMによる観察結果である。処理後のオブジェクト(II)もまた、中空球体構造であるが、図10(A)と比較して、約15倍の粒径を有することが分かる。すなわち、処理によってオブジェクト(II)は、粒成長し得ることが分かった。
図12(B)は、比較的長時間低温かつ超音波処理された後のオブジェクト(II)のSEMによる観察結果である。図12(A)からさらに粒成長を続け、球体同士が結合し、ファイバ状(1次元)になることが分かった。
このように、温度、処理条件によって、粒径の大きさ(すなわち、中空空間の大きさ)、形状を制御できるのは、材料設計において有利である。
【0111】
図13は、オブジェクト(III)のSEMおよびTEMによる観察結果を示す図である。
図13(A)は、オブジェクト(III)のSEMによる観察結果を示す。オブジェクト(III)は、ファイバ状(1次元)の構造を有していることが分かる。図13(B)および(C)は、オブジェクト(III)のTEMによる観察結果を示す。ファイバ状のオブジェクト(III)の長さは、約20μmあり、ナノチューブのような空間を有するのではなく、リボン状であることが分かった。このようなオブジェクト(III)は、導電性ワイヤとして有用である。
【0112】
図14は、オブジェクト(IV)のSEMによる観察結果を示す図である。
図14(A)および(B)に示されるように、オブジェクト(IV)は、直径約0.2〜1.5μmのディスク状(2次元)の構造を有する。例えば、図10とは異なり、中空球体ではなく、平板構造である。
【0113】
図15は、オブジェクト(IV)のAFMによる観察結果を示す図である。
図15に示されるように、オブジェクト(IV)は、厚さ約4.4nmを有することが分かった。この厚さは、図5を参照して説明したように、フラーレン誘導体の二分子膜構造(図2の一対のフラーレン誘導体230)の長手方向の長さに一致する。このことから、ディスク状のオブジェクト(IV)は、フラーレン誘導体の二分子膜構造が、図15の模式図に示されるように配列していることが示唆される。
【0114】
図16は、オブジェクト(V)のSEMによる観察結果を示す図である。
オブジェクト(V)は、カーネーションに類似したフラワ状(3次元)の構造を有し、図14に示したオブジェクト(IV)がランダムに集合した状態にあることが分かる。なお、オブジェクト(V)は、冷却速度、冷却時間等の条件によって、ボタン、カーネーション等の種々の形状を取り得ることを確認した。オブジェクト(V)は、比表面積が大きく、花弁に類似する部分に触媒等を担持することができる。
【0115】
図17は、オブジェクト(VI)のSEMおよびTEMによる観察結果を示す図である。
オブジェクト(VI)は、約1μm〜2μmのコーン状(3次元)の構造を有する。オブジェクト(VI)の壁厚は、約150nmであり、これは、二分子膜構造が多層なっていると予想される。図17の挿入図(TEM写真)に示されるように、オブジェクト(VI)の先細りの端部は、約60nmの直径の孔を有する。コーン内の空洞の大きさは、マイクロメータレベルであるため、比較的大きな物質(例えば、たんぱく質)をセンシングすることができる。
以上の結果を表2にまとめる。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0116】
以上説明してきたように、本発明によるフラーレン誘導体を用いれば、反応時の所定の溶液および保持温度を適宜選択するだけで、0次元から3次元まで種々の構造を有するナノ・メゾスコピック材料を製造することができる。このようなナノ・メゾスコピック材料は、自身の導電性を利用したナノ部品(ナノワイヤ、ナノボール)、中空空間や比表面積を利用した応用(触媒の担持、物質のセンシング、ドラッグデリバリ、磁性/光応用)、コンデンサ、キャパシタ等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明によるフラーレン誘導体の模式図
【図2】本発明によるフラーレン誘導体を用いた種々のナノ・メゾスコピック材料の模式図
【図3】本発明によるフラーレン誘導体を用いた種々のナノ・メゾスコピック材料を製造するステップを示す図
【図4】本発明によるフラーレン誘導体を用いた種々のナノ・メゾスコピック材料を製造する詳細なステップを示す図
【図5】クロロホルム溶液に溶解させたフラーレン誘導体によるキャスト膜のX線回折パターンを示す図
【図6】クロロホルム溶液に溶解させたフラーレン誘導体によるキャスト膜の示差熱量の温度依存性を示す図
【図7】クロロホルム溶液に溶解させたフラーレン誘導体によるキャスト膜の赤外吸収スペクトルの温度依存性を示す図
【図8】オブジェクト(I)のTEMおよびSEMによる観察結果を示す図
【図9】オブジェクト(I)の粒径分布を示す図
【図10】オブジェクト(II)のTEMおよびSEMによる観察結果を示す図
【図11】オブジェクト(II)のHR−TEMによる観察結果を示す図
【図12】低温・超音波処理されたオブジェクト(II)のSEMによる観察結果を示す図
【図13】オブジェクト(III)のSEMおよびTEMによる観察結果を示す図
【図14】オブジェクト(IV)のSEMによる観察結果を示す図
【図15】オブジェクト(IV)のAFMによる観察結果を示す図
【図16】オブジェクト(V)のSEMによる観察結果を示す図
【図17】オブジェクト(VI)のSEMおよびTEMによる観察結果を示す図
【符号の説明】
【0118】
110、120、130、140、160 構造
150、170 置換基
200 フラーレン誘導体
210 フラーレン部位
220 アルキル鎖部位
230 一対のフラーレン誘導体
240 中空球体
250 ファイバ材料
260 ディスク材料
270 コーン材料
280 フラワ材料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)に示されるフラーレン誘導体であって、
フラーレン部位(A)と、
置換基を有するまたは有しない少なくとも1つのアルキル置換基を含むアルキル鎖部位(B)と、
前記フラーレン部位(A)と前記アルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)と
を含み、
【化1】

ここで、Xは、水素原子またはメチル基であり、
前記結合部位(R)は、少なくとも1つのベンゼン環を有し、前記アルキル鎖部位(B)を実質的に平面上に維持し、
前記アルキル鎖部位(B)の前記少なくとも1つのアルキル置換基のそれぞれは、実質的に同一の方向に伸びている、フラーレン誘導体。
【請求項2】
前記フラーレン部位(A)は、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択されるフラーレンを含む、請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
前記アルキル鎖部位(B)は、3つのアルキル置換基を有する、請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
前記少なくとも1つのアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコ
キシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数である、請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
前記nは、12〜20である、請求項4に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択される、
【化2】

請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項7】
前記結合部位(R)は、式(3)で示される、さらなる置換基Yを有するまたは有しない、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、および、ピレンからなる群から選択される、
【化3】

請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項8】
フラーレン誘導体を製造する方法であって、
式(4)からなる群から選択される結合要素とフラーレンと式(5)で示されるN−メチルグリシンとを反応させるステップ
を包含し、
【化4】

ここで、R1は、置換基を有するまたは有しないアルキル置換基であり、R2およびR3
、それぞれ、水素原子、または、置換基を有するまたは有しないアルキル基であり、Xは
、水素原子またはメチル基であり、Yは、水素原子またはさらなる置換基である、方法。
【請求項9】
前記フラーレンは、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記R1、R2およびR3のアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコキシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記nは、12〜20である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択される、
【化5】

請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記反応させるステップは、トルエン中、110℃の温度で、12〜24時間還流させる、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
複数のフラーレン誘導体からなるナノ・メゾスコピック材料であって、
前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、式(1)に示されるフラーレン部位(A)と、置換基を有するまたは有しない少なくとも1つのアルキル置換基を含むアルキル鎖部位(B)と、前記フラーレン部位(A)と前記アルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)とを含み、
【化6】

ここで、Xは、水素原子またはメチル基であり、前記結合部位(R)は、少なくとも1つのベンゼン環を有し、前記アルキル鎖部位(B)を実質的に平面上に維持し、前記アルキル鎖部位(B)の前記少なくとも1つのアルキル置換基のそれぞれは、実質的に同一の
方向に伸びており、
前記複数のフラーレン誘導体は、複数の、一対のフラーレン誘導体からなり、
前記複数の一対のフラーレン誘導体のそれぞれは、一方のフラーレン部位(A)と他方のアルキル鎖部位(B)とがそれぞれ結合するように交互に配列している、材料。
【請求項15】
前記フラーレン部位(A)は、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択されるフラーレンを含む、請求項14に記載の材料。
【請求項16】
前記アルキル鎖部位(B)は、3つのアルキル置換基を有する、請求項14に記載の材料。
【請求項17】
前記少なくとも1つのアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコ
キシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数である、請求項14に記載の材料。
【請求項18】
前記nは、12〜20である、請求項17に記載の材料。
【請求項19】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択される、
【化7】

請求項14に記載の材料。
【請求項20】
前記結合部位(R)は、式(3)で示される、さらなる置換基Yを有するまたは有しない、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、および、ピレンからなる群から選択される、
【化8】

請求項14に記載の材料。
【請求項21】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、中空球体であり、
前記複数の一対のフラーレン誘導体は、前記中空球体の壁厚の方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体それぞれの長手方向とが一致するように位置する、請求項14に記載の材料。
【請求項22】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、ファイバ材料であり、
前記複数の一対のフラーレン誘導体は、前記ファイバ材料の長手方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体それぞれの長手方向とが直交するように位置する、請求項14に記載の材料。
【請求項23】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、ディスク材料であり、
前記複数の一対のフラーレン誘導体は、前記ディスク材料の厚さ方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体の長手方向とが一致するように位置する、請求項14に記載の材料。
【請求項24】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、前記ディスク材料のランダムな集合体であるフラワ材料である、請求項23に記載の材料。
【請求項25】
前記ナノ・メゾスコピック材料は、コーン材料であり、
前記複数の一対のフラーレン誘導体は、前記コーン材料の壁厚の方向と前記複数の一対のフラーレン誘導体それぞれの長手方向とが一致するように位置する、請求項14に記載の材料。
【請求項26】
前記コーン材料の先細りの端部は、孔を有する、請求項25に記載の材料。
【請求項27】
複数のフラーレン誘導体からなるナノ・メゾスコピック材料を製造する方法であって、前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、式(1)に示されるフラーレン部位(A)と、置換基を有するまたは有しない少なくとも1つのアルキル置換基を含むアルキル鎖部位(B)と、前記フラーレン部位(A)と前記アルキル鎖部位(B)とを結合する結合部位(R)とを含み、
【化9】

ここで、Xは、水素原子またはメチル基であり、前記結合部位(R)は、少なくとも1つのベンゼン環を有し、前記アルキル鎖部位(B)を実質的に平面上に維持し、前記アルキル鎖部位(B)の前記少なくとも1つのアルキル置換基のそれぞれは、実質的に同一の方向に伸びており、
前記方法は、
前記複数のフラーレン誘導体に所定の溶液を加え、加熱するステップであって、前記所定の溶液は、前記複数のフラーレン誘導体に対して貧溶媒であり、テトラヒドロフランの極性よりも高い極性を有する、ステップと、
前記加熱するステップで得られた反応溶液を保持するステップと
を包含する、方法。
【請求項28】
前記フラーレン部位(A)は、C60、C70、C76およびC84からなる群から選択されるフラーレンを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記アルキル鎖部位(B)は、3つのアルキル置換基を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つのアルキル置換基は、それぞれ、アルキル(Cn2n+1)、アルコ
キシル(OCn2n+1)、および、チオアルキル(SCn2n+1)からなる群から選択され、ここで、nは、2以上の整数である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記nは、12〜20である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記置換基は、式(2)で示されるジアセチレン、アゾベンゼンおよびスチルベンゼンからなる群から選択される、
【化10】

請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記結合部位(R)は、式(3)で示される、さらなる置換基を有するまたは有しない、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、および、ピレンからなる群から選択される、
【化11】

請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記加熱するステップは、60℃の温度で、2時間保持する、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
前記ナノ・メゾスコピック材料が中空球体である場合、前記所定の溶液は2−プロパノール溶液であり、前記ナノ・メゾスコピック材料がファイバ材料である場合、前記所定の
溶液は直鎖系mアルキルアルコールであり(ただし、mは炭素数を表し、3≦m≦5である)、前記ナノ・メゾスコピック材料がディスク材料である場合、前記所定の溶液は1,4−ジオキサンであり、前記ナノ・メゾスコピック材料がコーン材料である場合、前記所定の溶液はテトラヒドロフラン溶液である、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記ナノ・メゾスコピック材料が中空球体である場合、前記2−プロパノール溶液は2−プロパノールとトルエンとの混合溶液であり、前記混合溶液の割合は、前記2−プロパノール中前記トルエンが0%〜50%である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ナノ・メゾスコピック材料がファイバ材料である場合、前記直鎖系mアルキルアルコールは1−プロパノールである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記ナノ・メゾスコピック材料がコーン材料である場合、前記テトラヒドロフラン溶液は水またはメタノールとテトラヒドロフランとの混合溶液であり、前記混合溶液の割合は、前記テトラヒドロフラン中前記水または前記メタノールが20%〜50%である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記保持するステップは、前記反応溶液を室温にて12〜24時間保持する、請求項35〜38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記保持するステップは、前記ナノ・メゾスコピック材料がフラワ材料である場合、前記所定の溶液は1,4−ジオキサンであり、前記反応溶液を5℃以下の温度で12〜24時間保持する、請求項27に記載の方法。
【請求項41】
前記ナノ・メゾスコピック材料が中空球体であり、前記2−プロパノール溶液は2−プロパノールとトルエンとの混合溶液である場合、前記反応溶液を5℃以下の温度で12〜24時間保持し、超音波処理をするステップをさらに包含する、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
請求項14〜26のいずれかに記載の材料を含む、素子。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2007−137809(P2007−137809A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332390(P2005−332390)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】