説明

フリクションベルト

【課題】仮撚りされる糸の品質に影響を与えることなく、耐摩耗性に優れ且つ湾曲による問題を解消したフリクションベルトを提供する。
【解決手段】仮撚りする糸と接触するゴム状弾性体からなる上層11と、上層11の裏面に設けられたゴム状弾性体からなる下層12とを具備する無端ベルトからなるフリクションベルト10において、下層12の上層11と反対側となる裏面側に幅方向への収縮性を有する部材からなる芯体13が設けられ且つこの芯体13の上層11側の下層12に芯糸14が埋設されており、上層11の表面が、平坦又は幅方向中央部が幅方向両端部より突出する凸形状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本の互いに反対方向に走行するフリクションベルト間に糸をニップして仮撚りするベルト式仮撚り装置のフリクションベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフリクションベルトに求められるのは、高品質な糸を製造できるということと、耐摩耗性に優れているということであり、両者を満足するために、相対的に低ゴム硬度の表面層と、高ゴム硬度の補強層とからなる2層構造としたフリクションベルトが提案されている(特許文献1等参照)。
【0003】
一方、ベルトに所定の張力を付与するために、芯体として糸を埋設する必要があり、この糸を覆うようにベルト本体のプーリ側表面(ベルト裏面)に機械的強度のある織布を設けた構造が必須となっていたが、上述した糸品質から要求される条件をも満足する条件下においては、ベルトの加硫時のゴム収縮による反りが避けられず、ベルトの糸と接する面が凹状に湾曲し、糸撚りの際に幅方向端部に応力が集中するという問題があった(特許文献2等参照)。
【0004】
そこで、特許文献2には、糸に接触する表面ゴム層と、該表面ゴム層に積層された補強層と、を有し、該表面ゴム層の硬さは、JIS Aスケールで70〜80であり、該補強層内に芯体コードが埋設され、該補強層の表面側には第1の織布が配設され、該補強層と該表面ゴム層との間に第2の織布が配設されている構造が提案されているが、上述した湾曲の問題を完全に解消することができなかった。
【0005】
なお、表面が凹状に湾曲したベルトの表面側の幅方向両側の角部を丸く研磨加工することも提案されているが、根本的な解決とはならなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−46439号公報
【特許文献2】特開2002−13033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、仮撚りされる糸の品質に影響を与えることなく、耐摩耗性に優れ且つ湾曲による応力の集中の問題を解消したフリクションベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、仮撚りする糸と接触するゴム状弾性体からなる上層と、前記上層の裏面に設けられたゴム状弾性体からなる下層とを具備する無端ベルトからなるフリクションベルトにおいて、前記下層の前記上層と反対側となる裏面側に幅方向への伸縮性を有する部材からなる芯体が設けられ且つこの芯体の前記上層側の前記下層に芯糸が埋設されており、前記上層の表面が、平坦又は幅方向中央部が幅方向両端部より突出する凸形状となっていることを特徴とするフリクションベルトにある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のフリクションベルトにおいて、前記上層と下層との間に第2の芯体が埋設されていることを特徴とするフリクションベルトにある。
【0010】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載のフリクションベルトにおいて、前記第2の芯体が織布からなることを特徴とするフリクションベルトにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベルトの裏面側に伸縮性を有する部材からなる芯体を設けたことにより、ゴム加硫後に芯体が収縮するため、表面が凹状に湾曲する反りが低減され、表面が平坦又は幅方向中央部が幅方向両端部より突出する凸形状となり、糸撚りの際の応力の集中の問題が解消されるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1には、本発明の一実施形態に係るフリクションベルトの横断面構造を示す。図1(a)、(b)に示すように、フリクションベルト10A、10B(以下、フリクションベルト10と総称する)は、糸と接触するゴム状弾性体からなる上層11A、11B(以下、上層11と総称する)と、その裏面側に設けられたゴム状弾性体からなる下層12A、12B(以下、下層12と総称する)とを具備し、下層12の裏面側には編物からなる第1の芯体13A、13B(以下、第1の芯体13と総称する)が設けられていると共に、第1の芯体13の内側(上層11側)の下層12に糸からなる芯糸14A、14B(以下、芯糸14と総称する)が埋設され、さらに、上層11と下層12との間に第2の芯体15A、15B(以下、第2の芯体15と総称する)が設けられている。
【0014】
上層11及び下層12のゴム状弾性体を形成するゴム基材は、従来からフリクションベルトに用いられていたものであればよい。糸撚り特性及び耐摩耗性などが優れる点から、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、水添ニトリルゴム(H−NBR)、ポリウレタンなどから選択されるゴム基材が好ましい。これらのゴム基材に適宜、加硫剤、可塑剤、充填剤等を配合したゴム組成物を加硫することで、所定のゴム硬度、耐摩耗性などを有するゴム状弾性体となる。上層11のゴム状弾性体は、相対的に低硬度で糸撚り特性に優れたものとするのが好ましく、下層12のゴム状弾性体は、補強層的な機能を有するように、相対的にゴム硬度が高いものとするのが好ましい。
【0015】
このような特性を考慮すると、上層11のゴム状弾性層のゴム硬度は60〜85°が好ましく、下層12のゴム状弾性層のゴム硬度は60〜95°が好ましい。ただし、上層11のゴム状弾性体の硬度が、下層12のゴム状弾性体の硬度より高くなるようにしてもよい。
【0016】
本実施形態のフリクションベルト10は、下層12の下面(裏面)側に第1の芯体13を具備するものである。この第1の芯体13は、幅方向への伸縮性を有する部材である編物からなる。ここでいう幅方向への伸縮性を有する部材とは、少なくとも幅方向への伸縮性を有する部材であり、勿論、長手方向への伸縮性を有していてもよい。また、ここでいう幅方向への伸縮性を有する部材は、伸長した状態で収縮性を有するものであり、熱収縮等による収縮性を有するものであってもよい。このような幅方向への伸縮性を有する部材は、製造用金型に被覆する際に伸長した状態、すなわち、収縮性を保持した状態で被覆することができ、製造用金型から脱型する際にゴム組成物の加硫の際のゴム収縮と同等又はそれ以上に収縮する。
【0017】
本実施形態の第1の芯体13は、伸縮性のある編物からなるため、フリクションベルトの製造の際に第1の芯体13を伸ばした状態で製造用金型に被覆することができる。そして、上層11及び下層12の加硫の際にこれらが収縮しても、第1の芯体13も成形体(フリクションベルト)を製造用金型から脱型した際に収縮する。これにより、上層11の表面の幅方向中央部が幅方向両端部より突出する凸形状となるように湾曲するか(図1(a))、ほぼ平坦となる(図1(b))。すなわち、第1の芯体13は、脱型時に大きく収縮するものであり、フリクションベルトの表面を凹形状に湾曲させず、平坦とさせるものか、むしろフリクションベルトの表面が凸形状となるように湾曲させるものである。なお、ここでいう「平坦」は、プーリに装着した際に実質的に平坦と同等に作用するものを指し、わずかに凹形状となっているものも含む。
【0018】
このような第1の芯体13を構成する編物は、上述した作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、15デニール(d)〜300デニール(d)の糸を用いた編物を用いるのが好ましい。15デニール未満の糸を用いると芯体13による効果が十分には発揮できず、300デニールより太い糸を用いるとプーリとの接触する裏面が凹凸となり、駆動性が低下するからである。また、編物の編み方は、幅方向への伸縮性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、丸編、平編等が好ましい。
【0019】
また、本実施形態では第1の芯体13は編物としたが、第1の芯体13は幅方向への伸縮性を有する部材であればよい。例えば、伸縮性のある織り方の織布又は不織布、伸縮性のあるシート状に成形された糸、エラストマーゴムからなるシート又はシート状成形体、伸縮性のある樹脂成形体等が挙げられる。
【0020】
第1の芯体13の材質は、特に限定されないが、例えば、綿、ナイロン、ポリエステル、芳香族ポリアミド等を挙げることができ、特にナイロンが好ましい。
【0021】
本実施形態のフリクションベルト10において、下層12の第1の芯体13の上層側にほぼ密着するように設けられる芯糸14は、ベルトに所定の張力(腰力)を与えるものである。すなわち、芯糸14は、仮撚りする糸をニップする際には必要な張力をベルトに付与するものである。芯糸14は、従来から用いられているものを用いればよく、特に限定されないが、例えば、綿、ナイロン、ポリエステル、芳香族ポリアミド、ガラス繊維等を挙げることができ、例えば#8〜#100の太さのものを用いるのが好ましい。
【0022】
上層11と下層12との間に設けられている第2の芯体15は、編物を用いても織布を用いてもよく、また、必ずしも設ける必要はない。しかしながら、ベルトに腰力を与える観点からは、織布を用いるのが好ましい。
【0023】
上述した構成とすることにより、フリクションベルト10は、上層11の表面の幅方向中央部が幅方向両端部より突出する凸形状、すなわち太鼓状となるように湾曲したもの(図1(a)参照)、あるいは、平坦なもの(図1(b)参照)となる。これにより、ベルト式仮撚り装置のプーリに装着されたフリクションベルト10は、その表面の幅方向端部のみで糸と接触するものではなく、幅方向中央部又はベルト表面全体で糸と接触することになる。すなわち、フリクションベルト10を使用することで、糸の応力が幅方向端部に集中してしまい糸が切れるということがなく、安定した仮撚りを行うことができ、撚った糸の品質も向上する。
【0024】
ここで、フリクションベルト10の製造方法について説明する。
【0025】
まず、金属製の円筒状金型に、第1の芯体13となる伸縮性を有する部材を被覆し、これに芯糸14を巻いて、接着剤を塗布する。
【0026】
次に、第1の芯体13及び芯糸14を設けた円筒状金型上に押出し機により下層12となる未加硫のゴム組成物を被覆する。
【0027】
その後、この上にさらに第2の芯体15を被せ、この上に接着剤を塗布する。さらに、押出し機により上層11となる未加硫のゴム組成物を被覆し、その上から包帯状のシートを巻く。
【0028】
上層11と下層12のゴム組成物を加硫・硬化させた後脱型し、筒状部材を得る。
【0029】
得られた筒状部材の表面を研磨機によって研磨した後、所定の幅で突っ切りして所望の無端ベルトを得る。
【0030】
なお、製造方法はこれに限定されず、ゴムチューブはプレス成形等で形成してもよい。また、表面の研磨工程は必要に応じて行えばよく、表面にしぼ加工や型模様等を付与してもよい。
【0031】
また、上述した方法においては、接着剤を塗布したが、代わりにゴム基材を用いた共糊を用いてもよい。
【0032】
以下、具体的な一実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0033】
(実施例1)
金属製の円筒状金型に、第1の芯体として糸の太さ70デニールのナイロンからなる編物を被覆し、これにポリエステルの芯糸を巻いて、接着剤を塗布した。これに下層となるNBRからなるゴム組成物を押出し機により押し出して被覆し、この上にさらに第2の芯体としてナイロンからなる織布を被せ、接着剤を塗布した。そして、この上に上層となるH−NBRからなるゴム組成物を押出し機により押し出して被覆し、その上から包帯状の布を巻き締めた。これを150℃で50分間、加熱処理して加硫した後脱型し、無端筒状部材を得た。無端筒状部材の表面を研磨機によって研磨し、所定の幅で突っ切りして、厚さ1.6mm、幅8.0mm、上層の硬度80°、下層の硬度80°の実施例1の無端ベルトを得た。
【0034】
(実施例2)
第2の芯体として、ナイロンからなる織布の代わりにナイロンからなる編物を用いた以外は実施例1と同様にして実施例2の無端ベルトを得た。
【0035】
(実施例3)
第2の芯体を用いなかった以外は、実施例1と同様にして実施例3の無端ベルトを得た。
【0036】
(実施例4)
上層となるゴム組成物として、H−NBRの代わりにNBRを用いた以外は、実施例2と同様にして、上層の硬度80°、下層の硬度80°の実施例4の無端ベルトを得た。
【0037】
(実施例5)
加硫後の硬度が90°となるゴム組成物を下層に用いた以外は、実施例2と同様にして、上層の硬度80°、下層の硬度90°の実施例5の無端ベルトを得た。
【0038】
(比較例1)
第1の芯体として、糸の太さ70デニールのナイロンからなる編物の代わりに、ナイロンからなる実質的に伸縮性のない織布を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1の無端ベルトとした。
【0039】
(比較例2)
第1の芯体として、糸の太さ70デニールのナイロンからなる編物の代わりに、ナイロンからなる実質的に伸縮性のない織布を用いた以外は、実施例2と同様にして比較例2の無端ベルトとした。
【0040】
(比較例3)
第1の芯体として、糸の太さ70デニールのナイロンからなる編物の代わりに、ナイロンからなる実質的に伸縮性のない織布を用いた以外は、実施例3と同様にして比較例3の無端ベルトとした。
【0041】
(比較例4)
第1の芯体として、糸の太さ70デニールのナイロンからなる編物の代わりに、ナイロンからなる実質的に伸縮性のない織布を用いた以外は、実施例4と同様にして比較例4の無端ベルトとした。
【0042】
(比較例5)
第1の芯体として、糸の太さ70デニールのナイロンからなる編物の代わりに、ナイロンからなる実質的に伸縮性のない織布を用いた以外は、実施例5と同様にして比較例5の無端ベルトとした。
【0043】
(比較例6)
芯糸を用いなかった以外は、実施例2と同様にして上層の硬度80°、下層の硬度80°の比較例6の無端ベルトを得た。
【0044】
(比較例7)
第1の芯体として、糸の太さ70デニールのナイロンからなる編物の代わりに、ナイロンからなる実質的に伸縮性のない織布を用いた以外は、比較例6と同様にして比較例7の無端ベルトを得た。
【0045】
(試験例)
各実施例及び各比較例で作製した無端ベルト各2本について、表面(糸と接触する面)の反り量を測定した。反り量は、表面粗さ計(サーフコーダSE−40D:小坂研究所社製)により、幅方向両端及び中央の3点の表面位置を測定し、幅方向両端を結んだ線と、これに対して平行でベルト中央を通る線との距離を反り量とした。なお、水平の状態を0とし、無端ベルトの表面が凸形状となる反り量は正、表面が凹形状となる反り量は負とした。
【0046】
なお、反り量はそれぞれ長さ方向に亘って各8点測定し、その平均値とした。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
この結果より、伸縮性のある編物を第1の芯体とした実施例1〜3及び5の無端ベルトは、反り量が一番小さい部分は0、すなわち反りがなく、また、反り量の平均はいずれもプラスであった。また、実施例4の無端ベルトも反り量はプラスであった。これより、実施例1〜5の無端ベルトの表面部分はいずれも平坦、又は中央部が凸形状(太鼓状)となっていることがわかった。
【0049】
これに対し、実質的に伸縮性のない織布を第1の芯体とした比較例1〜5の無端ベルトは、反り量の平均はいずれもマイナスであった。これより、比較例1〜5の無端ベルトの表面部分はいずれも上層の中央部が凹形状となっていることがわかった。
【0050】
これより、本発明のフリクションベルトは、表面が凹形状に湾曲する反りが低減され、表面が平坦又は幅方向中央部が幅方向両端部より突出する凸形状となり、湾曲による問題を解消したものであることがわかった。
【0051】
なお、実質的に伸縮性のない織布を第1の芯体とした比較例7の無端ベルトは反り量の平均はマイナスであり中央部が凹形状となっていたのに対し、伸縮性のある編物を第1の芯体とした比較例6の無端ベルトは反り量の平均がプラスであり中央部が凸形状となっており、糸の有無によらず反りをなくすことができるものの、いずれも芯糸を埋設していないものであるため、糸撚りの際に必要とされる張力を有するものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のフリクションベルトの横断面を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 フリクションベルト
11 上層
12 下層
13 第1の芯体
14 芯糸
15 第2の芯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮撚りする糸と接触するゴム状弾性体からなる上層と、前記上層の裏面に設けられたゴム状弾性体からなる下層とを具備する無端ベルトからなるフリクションベルトにおいて、前記下層の前記上層と反対側となる裏面側に幅方向への伸縮性を有する部材からなる芯体が設けられ且つこの芯体の前記上層側の前記下層に芯糸が埋設されており、前記上層の表面が、平坦又は幅方向中央部が幅方向両端部より突出する凸形状となっていることを特徴とするフリクションベルト。
【請求項2】
請求項1に記載のフリクションベルトにおいて、前記上層と下層との間に第2の芯体が埋設されていることを特徴とするフリクションベルト。
【請求項3】
請求項2に記載のフリクションベルトにおいて、前記第2の芯体が織布からなることを特徴とするフリクションベルト。

【図1】
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【公開番号】特開2008−106416(P2008−106416A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239178(P2007−239178)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】