説明

フルオレン誘導体およびその製造方法

【課題】樹脂モノマー原料などとして有用な単官能性のフルオレン骨格を有する新規な化合物を提供する。
【解決手段】酸触媒およびチオール類の存在下、下記式(2)で表されるフルオレノン類と、下記式(3)で表される化合物とを反応させ、下記式(1)で表される新規な化合物を得る。


(式中、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、R〜Rはアルキル基などの置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは0〜2の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格)を有する新規な化合物(単官能性化合物)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂や樹脂原料において、熱的特性(耐熱性など)、光学的特性(高屈折率など)などの特性を付与又は改善するため、単量体成分を選択したり、樹脂を改質可能な化合物を添加するなどの方法がとられている。例えば、フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格など)を有する化合物は、屈折率、耐熱性などにおいて優れた機能を有することが知られている。このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現する方法としては、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを樹脂のベース成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。例えば、このようなフルオレン骨格を有する樹脂を用いた例として、特開2002−284864号公報(特許文献1)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂で構成された成形材料が開示されている。また、特開2004−339499号公報(特許文献2)には、ビスフェノールフルオレン、ビスアミノフェニルフルオレン、ビスフェノキシエタノールフルオレンなどのフルオレン骨格を有する化合物を重合成分とする樹脂(ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール系樹脂、アニリン系樹脂など)と、添加剤とを含有する組成物が開示されている。
【0003】
このように、BPF、BCF、BPEFなどの多官能性(特に二官能性)のフルオレン化合物は、樹脂のモノマーとして知られている。
【0004】
一方、9−フルオレノール、9−フルオレニルメタノールなどの一官能性のフルオレン化合物も知られている。例えば、9−フルオレニルメタノールに関し、特開平8−268941号公報(特許文献3)には、特定のジルコニウム系触媒の存在下、2級アルコール類とフルオレン−9−カルバアルデヒド類とを反応させて9−フルオレニルメタノール類を製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特開2009−13096号公報(特許文献4)には、下記式(1A)で表される化合物と、下記式(1B)で表される化合物とを反応させることにより、下記式(1)で表される化合物を製造できることが記載されている。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、環Zおよび環Zは同一又は異なって芳香族炭化水素環、Eは酸素原子、硫黄原子又はイミノ基、Rは非反応性置換基、Rはアルキレン基、RおよびRは、同一又は異なって、非反応性置換基を示す。kは0〜4の整数、m、nおよびpはそれぞれ0以上の整数である。)
しかし、この文献の化合物は、一官能であるものの、フルオレンの9位に2つの芳香族炭化水素基を有しており、粘度が高く、ハンドリング性が十分でない場合がある。
【0008】
なお、特開2000−26349号公報(特許文献5)には、酸触媒(塩化水素など)およびアルキルメルカプタンの存在下で、9−フルオレノンとアルキルフェノール類(2,5−キシレノールなど)とを反応させることにより、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,5−アルキルフェニル)フルオレンが得られることが開示されている。
【0009】
また、特開2003−221352号公報(特許文献6)には、チオール類および硫酸の共存下、フルオレノンとフェノール類とを反応させて、ビスフェノールフルオレン類を製造する方法が開示されている。そして、この文献には、フェノール類として、ジアルキルフェノール(2,3−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールなど)などを例示しているものの、2,5−ジメチルフェノールのような2,5−ジアルキルフェノールを使用した例については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−284864号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−339499号公報(特許請求の範囲、段落番号[0032])
【特許文献3】特開平8−268941号公報(特許請求の範囲、段落番号[0001])
【特許文献4】特開2009−13096号公報(特許請求の範囲、段落番号[0001])
【特許文献5】特開2000−26349号公報(特許請求の範囲、段落[0017]、段落[0045](実施例4))
【特許文献6】特開2003−221352号公報(特許請求の範囲、段落[0017]、段落[0045](実施例4))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、希釈剤(又は希釈剤原料)、樹脂モノマー原料などとして有用な新規な単官能性のフルオレン骨格含有化合物、およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、上記のような新規な単官能性のフルオレン骨格含有化合物を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、酸触媒(硫酸など)およびチオール類(例えば、メルカプトカルボン酸など)の存在下で、フルオレノン類と、2,5−ジアルキルフェノール(例えば、2,5−キシレノールなど)などの特定のフェノール類などとを反応させると、意外にも、フルオレン類の9位に2つのフェノール類などが置換した化合物[例えば、9,9−(4−ヒドロキシ−2,5−ジアルキルフェニル)フルオレンなど]ではなく、フルオレン類の9位に1つの2,5−ジアルキルフェニル基などが置換した特定の一官能化合物が得られること、およびこのような化合物は、モノマー原料や希釈剤(又は希釈剤原料)などとして有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明のフルオレン化合物は、下記式(1)で表される。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、R〜Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは0〜2の整数である。)
上記式(1)において、R〜Rは、例えば、同一又は異なって、炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基など)又はアルコキシ基であってもよい。特に、前記式(1)において、RおよびRがアルキル基(例えば、メチル基などのC1−4アルキル基)であり、nが0であってもよい。
【0017】
このようなフルオレン化合物は、ヒドロキシル基を有する単官能性化合物であり、そのまま又は必要に応じて誘導体化した化合物(例えば、(メタ)アクリレート化、グリシジルエーテル化など)として、樹脂原料(樹脂モノマーなど)や希釈剤として好適に利用できる。そのため、前記フルオレン化合物(又はその誘導体、例えば、前記フルオレン化合物の(メタ)アクリレート、前記フルオレン化合物のグリシジルエーテルなど)は、特に、樹脂原料又は希釈剤に用いるための化合物であってもよい。
【0018】
本発明には、酸触媒およびチオール類の存在下、下記式(2)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R、kは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、R〜R、m、nは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させ、前記式(1)で表される化合物を製造する方法も含まれる。
【0023】
特にこの方法では、酸触媒として脱水作用を有する酸(硫酸など)を好適に使用してもよく、代表的には、酸触媒としての硫酸を前記式(2)で表される化合物100重量部に対して30重量部以上使用してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の化合物は、特定のフルオレン骨格を有する単官能性の化合物であり、希釈剤(又は希釈剤原料)、モノマー原料、樹脂用開始剤などとして有用である。そして、このような単官能性化合物(又はその誘導体、例えば、(メタ)アクリレート(単官能性(メタ)アクリレート)、グリシジルエーテル(モノグリシジルエーテル)など)は、9−フェニルフルオレン骨格を有しており、特に、高耐熱性や優れた光学的特性(低複屈折、高屈折率など)を付与できる樹脂改質剤又はその原料(特に、希釈剤又は希釈剤原料)として有用である。また、本発明では、上記のような新規な単官能性のフルオレン骨格含有化合物を高純度で効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[式(1)で表されるフルオレン化合物]
本発明の化合物(フルオレン化合物)は、下記式(1)で表される。
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、R〜Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは0〜2の整数である。)
上記式(1)において、基Rで表される置換基としては、非反応性置換基であれば特に限定されず、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などであってもよく、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0028】
前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−10アルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、ヘキシレン基などのC2−6アルキレン基)などが例示でき、特に、C2−4アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基などのC2−3アルキレン基)が好ましい。なお、Rは、同一の又は異なるアルキレン基であってもよい(すなわち、mが複数である場合、Rは同一又は異なっていてもよい)。すなわち、mが2以上の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基[−(OR−]は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、複数のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)で構成されていてもよい。
【0029】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)mは、例えば、0〜15程度の範囲から選択でき、例えば、0〜10(例えば、1〜10)、好ましくは0〜8(例えば、1〜8)、さらに好ましくは0〜6(例えば、1〜6)、特に0〜4(例えば、1〜4)であってもよく、通常0〜2(例えば、1〜2)であってもよい。なお、mが1以上である化合物は、後述の方法の他、mが0である化合物に、オキシアルキレン基(OR)に対応する化合物[例えば、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)、アルキレンカーボネート(例えば、エチレンカーボネートなどのC2−4アルキレンカーボネート)など]を反応させて得ることもできる。
【0030】
また、前記式(1)において、置換基RおよびRとしては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−12アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;メルカプト基;カルボキシル基;アミノ基;カルバモイル基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など);スルホニル基;これらの置換基同士が結合した置換基[例えば、アルコキシアリール基(例えば、メトキシフェニル基などのC1−4アルコキシC6−10アリール基)、アルコキシカルボニルアリール基(例えば、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニルC6−10アリール基など)]などが挙げられる。
【0031】
これらのうち、代表的には、基RおよびRは、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などであってもよい。
【0032】
好ましい基RおよびRとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などの炭化水素基(特に、アルキル基)であるのが好ましい。
【0033】
なお、RおよびRは、同一又は異なる基であってもよい。
【0034】
また、前記式(1)において、置換基Rとしては、前記RおよびRの項で例示した基と同様の置換基(例えば、アルキル基などの炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子など)が挙げられる。Rは、R及び/又はRと同一又は異なる基であってもよく、nが2である場合、2つのRは同一又は異なる基であってもよい。nは0〜2であればよく、好ましくは0〜1、さらに好ましくは0であってもよい。なお、基Rの置換位置は特に限定されないが、nが1である場合、フルオレンの9位に置換するフェニル基の3位又は6位のいずれであってもよい。
【0035】
代表的な前記式(1)で表される化合物には、例えば、9−(4−ヒドロキシ−3,5−ジアルキルフェニル)フルオレン[例えば、9−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−(4−ヒドロキシ−3,5−ジC1−4アルキルフェニル)フルオレン]などの前記式(1)においてmが0である化合物;9−[4−(ヒドロキシアルコキシ)−3,5−ジアルキルフェニル]フルオレン{例えば、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)]フルオレンなどの9−[4−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)−3,5−ジC1−4アルキルフェニル]フルオレンなど}などの前記式(1)においてmが1以上である化合物が含まれる。
【0036】
(製造方法)
本発明の化合物は、特に限定されないが、通常、酸触媒の存在下、下記式(2)
【0037】
【化6】

【0038】
(式中、R、kは前記と同じ。)
で表されるフルオレノン類と、下記式(3)
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、R〜R、m、nは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させることにより製造できる。
【0041】
従来、酸触媒の存在下で、フルオレノン類とフェノール類(例えば、フェノール、クレゾール、2,6−キシレノールなど)とを反応させると、フルオレノン類の9位に2つのフェノール類が置換した化合物(9,9−ビスフェノールフルオレン類)が得られることが知られているが、本発明では、フェノール類の中でも、特に、上記式(3)で表される化合物(すなわち、2,5−置換フェノール)を使用すると、フルオレノン類の9位に1つのフェノール類が置換した化合物が選択的に得られることを見出した。このような化合物が得られる理由は定かではないが、2,5位の置換基による立体的影響の他、反応に使用する触媒(硫酸など)およびその使用量や反応条件により、選択的に前記式(1)で表される化合物が得られるようである。
【0042】
原料として使用する前記式(2)で表される化合物(フルオレノン類)としては、例えば、フルオレノンが挙げられる。フルオレノン類の純度は、特に限定されないが、通常、95重量%以上であり、好ましくは98重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上である。
【0043】
また、原料として使用する前記式(3)で表される化合物(2,5−置換フェノール類など)としては、例えば、2,5−ジアルキルフェノール(例えば、2,5−キシレノールなどの2,5−ジC1−4アルキルフェノール)などの前記式(3)においてmが0である化合物;アルキレングリコールモノ(2,5−ジアルキルフェニル)エーテル{例えば、2−(2,5−ジメチルフェノキシ)エタノールなどのC2−4アルキレングリコールモノ(2,5−ジC1−4アルキルフェニル)エーテル}などが挙げられる。なお、前記式(3)において、Rは、基−[O−(RO)−H]の4位には置換していない。
【0044】
前記式(3)で表される化合物の純度は、特に限定されないが、通常、95重量%以上であり、好ましくは98重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上である。
【0045】
反応において、前記式(3)で表される化合物の割合(使用割合)は、特に限定されないが、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば、0.5〜100モル(例えば、0.7〜70モル)程度の範囲から選択でき、例えば、1〜50モル(例えば、1.2〜30モル)、好ましくは1.5〜20モル(例えば、1.8〜15モル)、さらに好ましくは2〜10モル(例えば、2.5〜8モル)程度であってもよい。
【0046】
酸触媒としては、無機酸{例えば、硫酸、ハロゲン化水素(塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素など)、ハロゲン化水素酸[例えば、塩酸(例えば、5〜36重量%、好ましくは20〜36重量%程度の塩化水素の水溶液など)、臭化水素酸、ヨウ化水素酸など]、リン酸など}、有機酸{例えば、カルボン酸、スルホン酸[例えば、アルカンスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸などのC1−4アルカンスルホン酸など)、アレーンスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸(p−トルエンスルホン酸など)などのC6−10アレーンスルホン酸)、ハロアルカンスルホン酸(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸などのハロC1−4アルカンスルホン酸など)など]など}などが挙げられる。前記硫酸には、希硫酸(例えば、濃度30〜90重量%程度の硫酸)、濃硫酸(例えば、濃度90重量%以上の硫酸)、発煙硫酸などが含まれ、反応系において硫酸に転化可能であれば、硫酸前駆体として、三酸化硫黄を使用してもよい。通常、硫酸として、HSO換算で、80〜99重量%(例えば、85〜98重量%)、好ましくは90〜97.5重量%程度の硫酸(濃硫酸)を使用してもよい。
【0047】
また、酸触媒として固体酸を使用することもできる。固体酸としては、無機固体酸[金属化合物(SiO、Al、TiO、Fe、ZrO、SnO、Vなどの酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、TiO−ZrO、SiO−ZrOなどの複合酸化物、ZnSなどの硫化物、CaSO、Fe(SO、CuSO、NiSO、Al(SO、MnSO、BaSO、CoSO、ZnSOなどの硫酸塩、P、Mo、V、W、Siなどの元素を含有するポリ酸(AlPO、Tiのリン酸塩などのリン酸塩など)など);(NHSOなどの非金属硫酸塩;粘土鉱物(酸性白土、モンモリロナイトなど);ゼオライト(酸性OH基を有するY型、X型、A型、ZSM5、モルデナイト、VIPI、AlPO−5、AlPO−11など);カオリンなど]、有機固体酸(イオン交換樹脂など)などを例示できる。固体酸は、固体酸の種類に応じて多孔性又は非多孔性であってもよい。
【0048】
イオン交換樹脂としては、主に、強酸性陽イオン交換樹脂[例えば、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂[スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーなどの架橋ポリスチレンのスルホン化物、スルホン酸基(又は−CFCFSOH基)を有する含フッ素樹脂(例えば、[2−(2−スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとのブロック共重合体(デュポン社製のナフィオン)などの含フッ素イオン交換樹脂など]など]、弱酸性陽イオン交換樹脂[例えば、カルボン酸基を有するイオン交換樹脂(メタクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマーなど)など]などの陽イオン交換樹脂(酸型イオン交換樹脂)などを使用できる。また、分子内に臭素を導入した耐熱性のイオン交換樹脂も使用できる。これらの固体酸の中でも、陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0049】
イオン交換樹脂は、ゲル型イオン交換樹脂であってもよいが、通常、触媒活性の点より、ポーラス型イオン交換樹脂[ミクロポアーの他にマクロポアー(例えば、孔径が50〜1000Å程度の細孔)を有するイオン交換樹脂]が好ましい。ポーラス型イオン交換樹脂のうち、例えば、ジビニルベンゼンの比率(架橋度)の高いスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーを基体としたイオン交換樹脂は、ハイポーラス樹脂と呼ばれる。ポーラス型イオン交換樹脂の多孔度は、通常、0.03〜0.6cm/g程度であり、例えば、0.05〜0.55cm/g、好ましくは0.1〜0.5cm/g、さらに好ましくは0.15〜0.45cm/g(特に0.2〜0.4cm/g)程度であってもよい。イオン交換樹脂の窒素吸着比表面積は、通常、10〜90m/g程度であり、例えば、15〜80m/g、好ましくは20〜70m/g、さらに好ましくは25〜60m/g(特に30〜50m/g)程度であってもよい。固体酸として、例えば、バイエル社製の「レバチットK2649」;オルガノ社製の「アンバーリスト31」、「アンバーリスト131」、「アンバーリスト121」;デュポン社製の「ナフィオン」などの市販のイオン交換樹脂を使用してもよい。
【0050】
固体酸の形態は、特に制限はなく、膜状であってもよいが、通常、粒状であり、微粒状であってもよい。
【0051】
好ましい酸触媒には、硫酸、スルホン酸、固体酸などが含まれ、特に、硫酸などの脱水作用がある酸が好ましい。
【0052】
酸触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0053】
なお、本発明において、フルオレンの9位に1つの前記式(3)で表される化合物が置換する理由は定かではないが、以下の理由により、使用する酸触媒の種類も重要であるものと考えられる。すなわち、フルオレノンとフェノール類とを酸触媒及びチオール類の存在下で反応させると、フルオレノンにまず1つのフェノール類が置換(付加)するとともに、フルオレンの9位にヒドロキシル基が生成し、このヒドロキシル基が酸触媒によりプロトン化され、水の脱離を伴って2つ目のフェノール類が置換することにより、フルオレンの9位に2つのフェノール類が置換した化合物が得られる。一方、本発明では、比較的立体的障害が大きい前記式(3)で表される化合物を用いるとともに、脱水作用を有する酸(硫酸など)を使用することで、フルオレンの9位に生成したヒドロキシル基のプロトン化に伴う水の脱離(脱水)が優位に進行し、フルオレンの9位に最早2つ目の前記式(3)で表される化合物の置換が生じないようである。このように脱水を優位に生じさせるためには、酸の種類を脱水作用が強い酸に選択したり、その量を比較的多く使用することも重要である。なお、塩酸には、脱水作用がない。
【0054】
酸触媒(例えば、前記無機酸又は前記有機酸)の使用量は、酸触媒の種類に応じて選択できるが、例えば、前記式(2)で表される化合物100重量部に対して、0.1〜1000重量部(例えば、1〜800重量部)、好ましくは3〜700重量部、さらに好ましくは5〜500重量部、特に10〜300重量部(例えば、20〜200重量部)程度であってもよく、通常30重量部以上(例えば、30〜500重量部、好ましくは40〜400重量部、さらに好ましくは50〜300重量部)程度であってもよい。前記のように、酸触媒の使用量を、比較的多くすると、前記式(3)で表される化合物との組み合わせにより、より一層前記式(1)で表される化合物を優位に生成させることができる。
【0055】
また、酸触媒の使用量は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、0.1〜100モル(例えば、0.3〜50モル)、好ましくは0.5〜30モル、さらに好ましくは0.7〜20モル(例えば、1〜10モル)程度であってもよく、通常0.5〜5モル(例えば、1〜3モル)程度であってもよい。
【0056】
さらに、酸触媒の使用量は、前記式(2)で表される化合物および前記式(3)で表される化合物の総量100重量部に対して、0.01〜800重量部(例えば、0.05〜500重量部)、好ましくは0.5〜300重量部、さらに好ましくは1〜200重量部、特に2〜100重量部(例えば、3〜80重量部)程度であってもよく、通常5〜50重量部程度であってもよい。
【0057】
反応は、通常、酸触媒に加えて、助触媒としてのチオール類を併用して行ってもよい。酸触媒とチオール類とを組み合わせると、反応を有効に進行できる。
【0058】
チオール類としては、助触媒として機能する慣用のチオール類、例えば、メルカプトカルボン酸(チオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸など)、アルキルメルカプタン(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのC1−20アルキルメルカプタン、好ましくはC1−16アルキルメルカプタンなど)、アラルキルメルカプタン(ベンジルメルカプタンなど)などが挙げられる。
【0059】
これらのチオール類のうち、メルカプトカルボン酸[例えば、メルカプトC2−6アルカン酸(例えば、β−メルカプトプロピオン酸)などのメルカプトアルカン酸]、アルキルメルカプタン(例えば、C1−16アルキルメルカプタン)が好ましく、特に、メルカプトカルボン酸が好ましい。チオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0060】
チオール類を使用する場合、チオール類の使用量は、前記式(2)で表される化合物1重量部に対して、0.001〜1重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.005〜0.8重量部、好ましくは0.01〜0.7重量部、さらに好ましくは0.03〜0.5重量部程度であってもよい。また、チオール類の使用量は、前記式(2)で表される化合物および前記式(3)で表される化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.001〜0.8重量部、好ましくは0.005〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.3重量部程度であってもよい。
【0061】
また、チオール類の使用量は、酸触媒1重量部に対して、0.001〜30重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.005〜20重量部、好ましくは0.03〜8重量部、特に0.05〜5重量部程度であってもよい。
【0062】
反応は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルカノール)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ハロゲン系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類など)、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アニソールなど)などの有機溶媒が挙げられる。また、過剰の前記式(3)で表される化合物を溶媒として使用してもよい。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0063】
溶媒の使用量は、前記式(2)で表される化合物および前記式(3)で表される化合物の総量1重量部に対して、1〜300重量部程度の範囲から選択でき、例えば、3〜200重量部、好ましくは5〜100重量部程度であってもよい。
【0064】
反応温度は、使用する前記式(2)で表される化合物、前記式(3)で表される化合物、酸触媒、チオール類などの種類に応じて選択できるが、通常、0〜150℃、好ましくは10〜120℃、好ましくは20〜100℃程度で行う場合が多い。また、反応時間は、原料の種類、反応温度や溶媒中の濃度などに応じて調整でき、例えば、30分〜48時間、好ましくは1〜36時間、さらに好ましくは2〜24時間程度であってもよい。
【0065】
また、反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧又は加圧下でおこなってもよい。なお、反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)などにより確認(又は追跡)することもできる。
【0066】
反応終了後の反応混合物には、通常、生成した前記式(1)で表される化合物以外に、未反応の前記式(2)で表される化合物、未反応の前記式(3)で表される化合物、触媒(酸触媒、チオール類)、副反応生成物などが含まれている。そのため、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0067】
前記晶析溶媒としては、炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタンなど)など]、水、アルコール類[メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコール(C1−3アルカノールなど)]、ケトン類[アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトンなどの低級脂肪族ケトン(C3−7ジアルキルケトンなど)、シクロヘキサノンなど]、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテルなど)などが挙げられる。晶析溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0068】
晶析溶媒の使用量は、特に限定されず、反応混合物(固形分換算)1重量部に対して、0.5〜50重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度であってもよい。このような晶析操作は一回行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。
【0069】
以上のような工程により、前記式(1)で表される化合物を得ることができる。なお、前記式(1)において、mが1以上である化合物は、効率よく反応させるためには、前記方法により製造するのが好ましいが、前記式(3)で表される化合物として、mが0である化合物を用いて、前記式(1)においてmが0である化合物を生成した後、生成した化合物(前記式(1)において、mが0である化合物)と、アルキレン基R(又はオキシアルキレン基OR)に対応する化合物とを反応させて製造することもできる。
【0070】
アルキレン基Rに対応する化合物としては、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド、特にC2−3アルキレンオキシドなど)、アルキレンカーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのC2−4アルキレンカーボネート、特にC2−3アルキレンカーボネートなど)、ハロアルカノール(例えば、3−クロロプロパノールなどのハロC2−6アルカノールなど)などが挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、アルキレンオキシド又はアルキレンカーボネートを反応させると、前記式(1)で表される化合物(mが0である化合物)のヒドロキシル基を介して(ポリ)オキシアルキレン単位を導入できる。アルキレンカーボネートを使用する場合、アルキレンカーボネートが付加したのち、脱炭酸反応が生じることにより、オキシアルキレン単位(アルコキシ単位)が導入される。
【0071】
本発明のフルオレン化合物は、ヒドロキシル基を有する単官能性のフルオレン骨格含有化合物であり、種々の用途(希釈剤など)に使用できる。このような用途において、本発明のフルオレン化合物は、そのまま使用してもよく、誘導体化して使用してもよい。例えば、樹脂(例えば、エポキシ樹脂、熱(又は光)硬化性(メタ)アクリル系樹脂などの熱又は光硬化性樹脂)の希釈剤として使用する場合、前記式(1)で表される化合物の誘導体(例えば、(メタ)アクリレート(単官能性(メタ)アクリレート)、グリシジルエーテルなど)として使用してもよい。このため、本発明には、前記式(1)で表されるフルオレン化合物の誘導体も含まれる。
【0072】
[式(1)で表されるフルオレン化合物の誘導体]
式(1)で表されるフルオレン化合物の誘導体としては、用途に応じて特に限定されないが、代表的な誘導体には、例えば、式(1)で表される化合物を原料とする重合性不飽和基を有する単官能性化合物、式(1)で表される化合物を原料とする架橋性基を有する含有化合物などが含まれる。
【0073】
代表的な前記重合性不飽和基を有する単官能性化合物としては、例えば、下記式(1A)で表される化合物((メタ)アクリル基含有単官能性化合物、すなわち、前記式(1)で表される化合物の(メタ)アクリレート)が含まれる。
【0074】
【化8】

【0075】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。R、R、R、R、R、k、m、およびnは前記と同じ。)
上記式(1A)で表される化合物において、R、R、R、R、R、k、m、nは前記と同じであり、好ましい態様も前記と同様である。
【0076】
前記式(1A)で表される代表的な化合物としては、例えば、9−(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3,5−ジアルキルフェニル)フルオレン[例えば、9−(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3,5−ジC1−4アルキルフェニル)フルオレン]などの前記式(1A)においてmが0である化合物;9−[4−((メタ)アクリロイルオキシアルコキシ)−3,5−ジアルキルフェニル]フルオレン{例えば、9−[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−[4−((メタ)アクリロイルオキシC2−4アルコキシ)−3,5−ジC1−4アルキルフェニル]フルオレンなど}などの前記式(1A)においてmが1以上である化合物が含まれる。
【0077】
なお、前記式(1A)で表される化合物は、慣用の方法、例えば、前記式(1)で表される化合物と、(メタ)アクリル酸又はその誘導体(酸ハライド、酸無水物など)とを反応させることにより製造できる。
【0078】
また、代表的な前記架橋性基を有する単官能性化合物としては、例えば、下記式(1B)で表される化合物(グリシジル基含有単官能性化合物、すなわち、前記式(1)で表される化合物のグリシジルエーテル)が含まれる。
【0079】
【化9】

【0080】
(式中、R、R、R、R、R、k、m、およびnは前記と同じ。)
上記式(3)で表される化合物において、R、R、R、R、R、k、m、nは前記と同じであり、好ましい態様も前記と同様である。
【0081】
前記式(1B)で表される代表的な化合物としては、例えば、9−(4−グリシジルオキシ−3,5−ジアルキルフェニル)フルオレン[例えば、9−(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−(4−グリシジルオキシ−3,5−ジC1−4アルキルフェニル)フルオレン]などの前記式(1B)においてmが0である化合物;9−[4−(グリシジルオキシアルコキシ)−3,5−ジアルキルフェニル]フルオレン{例えば、9−[4−(2−グリシジルオキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−[4−(グリシジルオキシC2−4アルコキシ)−3,5−ジC1−4アルキルフェニル]フルオレンなど}などの前記式(1B)においてmが1以上である化合物が含まれる。
【0082】
なお、前記式(1B)で表される化合物は、慣用の方法、例えば、前記式(1)で表される化合物と、エピクロロヒドロリンとを反応させることにより製造できる。
【0083】
本発明の化合物(又はその誘導体)は、前記のように種々の用途に利用でき、特に、樹脂モノマー、樹脂用改質剤(希釈剤、重合開始剤、末端封鎖剤、共重合性単量体(又は樹脂の変性剤)など)として好適に用いることができる。特に、希釈剤(又は希釈剤の構成成分)として、前記化合物(又はその誘導体)を用いることにより、熱又は光硬化性樹脂のハンドリング性を向上させつつ、高耐熱性や優れた光学的特性(低複屈折、高屈折率など)を熱又は光硬化性樹脂(又はその硬化物)に付与できるため、極めて有用である。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
なお、実施例において、H−NMRスペクトルは、内標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒としてCDClを用いて、JEOL GTX−400分光計によって測定した。
【0086】
(実施例1)
1Lのセパラブルフラスコに、9−フルオレノン(大阪ガスケミカル(株)製、純度99.5%)18g(0.1モル)、2,5−キシレノール48.9g(0.4モル)、3−メルカプトプロピオン酸1gおよび溶媒としてのジオキサン30gを投入した後に、65℃まで加温して完全に溶解させた。その後、触媒としての硫酸13.5gを1時間かけて滴下した後、65℃で維持して6時間攪拌下で反応させた。得られた反応液からHPLCにて分取した成分をFD−MSおよびNMRにて分析し、下記式で表される化合物[9−(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)フルオレン]であることを確認した。なお、FD−MSにより分析された分子量は286であった。
【0087】
【化10】

【0088】
H−NMR(CDCl−300MHz):δ(ppm)=7.8(d,2.3H)、7.3(s,2H),7.2(s,3.5H)、6.6(s,0.5H,)、6.3(s,0.4H)、6.0(s,0.4H),5.3(s,0.5H).4.9(s,0.3H),2.2(s,1.3H),2.0(s,0.8H),1.8(s,0.8H)
なお、上記式で表される化合物の純度は91.6%であり、反応液中に、下記式で表される特許文献6の実施例4の化合物[すなわち、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)フルオレン]の存在を認めることはできなかった。
【0089】
【化11】

【0090】
(比較例1)
2,5−キシレノールに代えて、2,6−キシレノールを使用したこと以外は、実施例1と同様に反応させたところ、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンが得られた。
【0091】
(比較例2)
2,5−キシレノールに代えて、3,5−キシレノールを使用したこと以外は、実施例1と同様に反応させたところ、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどのフルオレンの9位に3,5−キシレノールが2つ置換した種々の化合物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の化合物(又はその誘導体)は、ヒドロキシル基を有する単官能性のフルオレン骨格含有化合物(又はその誘導体)であり、樹脂原料、重合開始剤、末端封鎖剤[又は封止剤、例えば、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)の末端封鎖剤、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂など)の末端封鎖剤など]、希釈剤などの用途に好適に使用できる。特に、前記化合物の誘導体((メタ)アクリレート、グリシジルエーテルなど)は、樹脂原料(モノマー)、希釈剤(反応性希釈剤)として好適に使用できる。そして、本発明の化合物(又はどの誘導体)をこのような用途に使用することにより、高耐熱性、高屈折率などの優れた特性を有するフルオレン骨格(9−フェニルフルオレン骨格)を簡便に樹脂(又はその硬化物)などに導入できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオレン化合物。
【化1】

(式中、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、R〜Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは0〜2の整数である。)
【請求項2】
式(1)において、R〜Rが、同一又は異なって、炭化水素基又はアルコキシ基である請求項1記載のフルオレン化合物。
【請求項3】
式(1)において、RおよびRがアルキル基であり、nが0である請求項1又は2記載のフルオレン化合物。
【請求項4】
樹脂原料又は希釈剤に用いるための化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のフルオレン化合物。
【請求項5】
酸触媒およびチオール類の存在下、下記式(2)
【化2】

(式中、R、kは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【化3】

(式中、R〜R、m、nは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させ、前記式(1)で表される化合物を製造する方法。
【請求項6】
酸触媒としての硫酸を前記式(2)で表される化合物100重量部に対して30重量部以上使用する請求項5記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−190223(P2011−190223A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58787(P2010−58787)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】