説明

フルオレン誘導体

【課題】透明で高純度な結晶体であるフルオレン誘導体を製造する。
【解決手段】チオール類(β−メルカプトプロピオン酸など)および硫酸の共存下、フルオレノンとフェノキシアルキルアルコール類(フェノキシC2−4アルキルアルコールや3−C1−4アルキル−フェノキシC2−4アルキルアルコールなど)との縮合反応により生成する酸性反応混合液にアルカリ水溶液(アルカリ金属の水酸化物など)を添加した後、目的化合物と硫酸塩とを共沈させ、フルオレン誘導体[9,9−ビス(4−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル)フルオレンや9,9−ビス(4−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)−3−C1−4アルキルフェニル)フルオレンなど]を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ、フィルム、光ファイバー、光ディスク、耐熱性樹脂やエンジニアリングプラスチックなどの素材原料として有用なフルオレン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビスフェノール類を原料とするポリマー(例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂など)において、従来品よりも一層の耐熱性、透明性および高屈折率を備えた材料が強く要望されている。9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどのフルオレン誘導体は、耐熱性に優れ、高透明性で高屈折なポリマーを製造するための原料として有望であり、自動車用ヘッドランプレンズ、CD、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθレンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ、位相差フィルム、拡散フィルムなどのフィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基板などの素材原料として期待されている。
【0003】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの合成方法としては、塩化水素およびチオール類(メルカプトプロピオン酸など)を触媒として用い、フルオレノンとフェノール類とを縮合反応させ、得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに酸化エチレンを付加させる方法が知られている。
【0004】
しかし、この方法では、反応が二段階であるとともに、得られる9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが大きく着色しているため、再結晶により光学樹脂原料となり得る高純度な製品を得るのが困難である。
【0005】
特開平7−165657号公報(特許文献1)には、硫酸及びチオール類を触媒として、フルオレノンとフェノキシエタノールとを一段階で縮合させる方法が開示されている。この文献には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗結晶を効率的に得る方法として、メタノールなどの低級脂肪族アルコールを再結晶溶媒として用いる方法も記載されている。
【0006】
しかし、この方法においても、得られた粗結晶中には硫酸が混入しているため、粗結晶で放置している間、あるいは、続く抽出工程における加熱中に除々に酸化もしくは芳香環のスルホン化反応が起こり、製品の純度が低下する。そのため、光学樹脂原料などに使用する高純度な製品を得るためには、繰り返し精製が必要となり、工業的に不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−165657号公報(請求項1〜3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、触媒に硫酸を用いても高純度なフルオレン誘導体を製造できる方法及びこの方法により得られたフルオレン誘導体を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、純度99.5重量%以上の高純度なフルオレン誘導体を簡便かつ効率よく製造できる方法及びこの方法により得られたフルオレン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、硫酸及びチオール類の共存下、フルオレノンとフェノキシアルコール類との反応により生成する目的化合物を含む酸性反応混合液に、アルカリ水溶液を添加して、目的化合物と硫酸塩とを同時に析出させると、触媒として硫酸を用いても、高純度のフルオレン誘導体が効率よく得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のフルオレン誘導体は、硫酸及びチオール類の共存下、フルオレノンと式(I)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Aはアルキレン基、Rはアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基又はアリール基を表し、nは1以上の整数、mは0〜4の整数を表す)
で表される化合物との反応により生成する目的化合物を含む酸性反応混合液に、アルカリ水溶液を添加した後、目的化合物と硫酸塩とを共沈させて得られ、かつ式(II)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、A、R、n及びmは前記に同じ)
で表されるフルオレン誘導体である。
【0016】
前記式(I)において、AがC2−6アルキレン基(特にC2−4アルキレン基)、RがC1−4アルキル基、nが1〜5の整数、mが0又は1であってもよい。具体的に、化合物(I)としては、例えば、フェノキシエタノールなどが使用できる。前記チオール類としては、β−メルカプトプロピオン酸などのメルカプトカルボン酸などが使用できる。前記アルカリとしては、アルカリ金属の水酸化物などが使用できる。フルオレノンと硫酸との割合(重量比)は、例えば、フルオレノン/硫酸=1/0.3〜1/5程度であってもよい。また、フルオレノンとチオール類との割合(重量比)は、例えば、フルオレノン/チオール類=1/0.001〜1/0.1程度であってもよい。本発明のフルオレン誘導体を得る方法において、共沈物を、水と、この水に対して分液可能な有機溶媒とで構成された抽剤を用いて、フルオレン誘導体を有機相に分配させてもよい。このような反応により、フルオレン誘導体(II)、例えば、9,9−ビス(4−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル)フルオレン又は9,9−ビス(4−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)−3−C1−4アルキルフェニル)フルオレンなどを製造できる。特に、本発明のフルオレン誘導体は、硫酸及びチオール類の共存下、フルオレノンとフェノキシエタノールとの反応により生成する目的化合物を含む酸性反応混合液に、アルカリ金属水酸化物水溶液を添加した後、晶析溶媒を添加し、目的化合物と硫酸塩との混合結晶を析出させ、析出した混合結晶を、水と、この水に対して分液可能な有機溶媒とで構成された抽剤を用いて、目的化合物を有機相に分配させ、有機相から目的化合物の結晶を析出させて得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンであってもよい。本発明のフルオレン誘導体(9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンなど)は、純度が99.7重量%以上(特に99.9重量%以上)の結晶であってもよく、透明性の高い高純度品であるため、光学樹脂原料などの光学用途に適している。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、硫酸及びチオール類の共存下、目的化合物と硫酸塩とを共沈させることにより、触媒に硫酸を用いても高純度なフルオレン誘導体を得ることができる。さらに、純度99.5重量%以上の高純度なフルオレン誘導体を簡便かつ効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のフルオレン誘導体の製造方法は、硫酸及びチオール類の共存下、フルオレノンと、前記化合物(I)との縮合反応により生成する酸性反応混合液に、アルカリ水溶液を添加した後、目的化合物と硫酸塩とを共沈させる方法である。
【0019】
フルオレノンと前記化合物(I)との反応において、フルオレノンの純度は特に限定されず、通常、95重量%以上、好ましくは99重量%以上である。
【0020】
前記式(I)で表される化合物(フェノキシアルコール類)において、Aで表されるアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン基等のC2−6アルキレン基が例示でき、通常、C2−4アルキレン基(特にC2−4アルキレン基)である。Aで表されるアルキレン基は、オキシアルキレン基の付加モル数nによって異なっていてもよい。nは1以上の整数であり、好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜12(特に、1〜5)程度であり、反応の工程数を少なくする点から、通常、1である。
【0021】
Rはアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、又はアリール基を表し、mは0〜4の整数(好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2、特に0又は1)を表す。なお、置換基Rの種類は置換基の数を示すmによって異なっていてもよい。
【0022】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基が例示できる。
【0023】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−4アルコキシ基が例示できる。
【0024】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC4−8シクロアルキル基(好ましくはC5−6シクロアルキル基)が例示できる。
【0025】
アリール基としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基などのC1−4アルキルフェニル基、ナフチル基などが例示できる。
【0026】
Rとしては、アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、アリール基(例えば、フェニル基)が好ましい。
【0027】
ベンゼン環上の置換基−O(AO)Hと、置換基Rの置換位置は、特に制限されず、例えば、置換基−O(AO)Hは、置換基Rに対して、2−位、3−位、4−位のいずれであってもよく、好ましくは2−位である。置換基Rが複数の場合、その置換位置は、置換基−O(AO)Hに対して、例えば、2,3−位、2,4−位、2,6−位、3,4−位、3,5−位などが例示できる。
【0028】
前記化合物(I)の具体例としては、例えば、n=1の化合物として、フェノキシアルキルアルコール(フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、フェノキシブタノールなどのフェノキシC2−6アルキルアルコールなど)、アルキルフェノキシアルキルアルコール[(2−メチル−フェノキシ)エタノール、(3−メチル−フェノキシ)エタノール、(3−エチル−フェノキシ)エタノール、(3−t−ブチル−フェノキシ)エタノール、(3−メチル−フェノキシ)プロパノールなどのC1−4アルキル−フェノキシC2−6アルキルアルコールなど]、ジアルキルフェノキシアルキルアルコール[(2,3−ジメチルフェノキシ)エタノール、(2,5−ジメチルフェノキシ)エタノール、(2,6−ジメチルフェノキシ)エタノール、(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)エタノールなどのジC1−4アルキルフェノキシC2−6アルキルアルコールなど]、アルコキシフェノキシアルキルアルコール[(2−メトキシフェノキシ)エタノールなどのC1−4アルコキシフェノキシC2−6アルキルアルコールなど]、シクロアルキルフェノキシアルキルアルコール[(2−シクロヘキシルフェノキシ)エタノールなどのC4−8シクロアルキルフェノキシC2−6アルキルアルコールなど]、アリールフェノキシアルキルアルコール(ビフェニリルオキシエタノールなどのビフェニリルオキシC2−6アルキルアルコールなど)などが挙げられる。また、nが2以上の化合物としては、これらのフェノキシアルキルアルコールに対応するポリオキシアルキレンフェニルエーテルなどが例示できる。化合物(I)の純度は特に限定されないが、通常、95重量%以上、好ましくは99重量%以上である。
【0029】
これらの化合物(I)のうち、フェノキシC2−6アルキルアルコールやC1−4アルキルフェノキシC2−6アルキルアルコール、特にフェノキシC2−4アルキルアルコール(例えば、フェノキシエタノールなど)が好ましい。
【0030】
前記化合物(I)の使用量は、副反応抑制及び経済性の点から、フルオレノン1モルに対して、2〜10モル、好ましくは2.2〜7モル、さらに好ましくは2.5〜5モル程度である。なお、化合物(I)を過剰量使用し、反応溶媒として用いることもできる。
【0031】
触媒としての硫酸の種類は特に制限されず、例えば、希硫酸(例えば、30〜90%程度の硫酸)、濃硫酸(例えば、濃度90%以上の硫酸)、発煙硫酸などが使用でき、反応系で硫酸に転化可能であれば、必要により前駆体としての三酸化硫黄を反応系に添加してもよい。
【0032】
硫酸(HSO換算)の使用量は、反応性の点から、フルオレノン1重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、さらに好ましくは0.001〜3重量部程度である。硫酸の混入を抑制しながら、共沈効率を高めるためには、硫酸(HSO換算)の使用量は、フルオレノン1重量部に対して、0.3〜5重量部、好ましくは0.7〜2.5重量部、さらに好ましくは0.8〜2.3重量部(特に1〜2重量部)程度であってもよい。
【0033】
チオール類としては、助触媒として機能する慣用のチオール類、例えば、メルカプトカルボン酸(メルカプト酢酸(チオグリコール酸)、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸など)、チオカルボン酸(チオ酢酸、チオプロピオン酸など)、チオグリコール(メルカプトエタノールなど)、アルキルメルカプタン(メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、1−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのC1−16アルキルメルカプタン(特にC1−4アルキルメルカプタン)など)、アラルキルメルカプタン(ベンジルメルカプタンなど)又はこれらの塩などが挙げられる。塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)が例示できる。チオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
これらのチオール類の中でも、メルカプトC1−6カルボン酸、好ましくはメルカプトC2−6カルボン酸、さらに好ましくはメルカプトC2−4カルボン酸(例えば、β−メルカプトプロピオン酸)が好ましい。
【0035】
フルオレノンに対するチオール類の使用量は、製品への混入を抑制する点から、例えば、フルオレノン1重量部に対して、チオール類0.001〜0.1重量部、好ましくは0.003〜0.03重量部、さらに好ましくは0.005〜0.02重量部程度である。
【0036】
チオール類に対する硫酸の使用量は、例えば、チオール類1モルに対して硫酸1〜1000モル、好ましくは30〜500モル、さらに好ましくは50〜400モル(特に100〜300モル)程度である。
【0037】
反応は、フルオレノン及びフェノキシアルコール類を反応器に仕込み、チオール類及び硫酸の存在下、不活性ガス雰囲気中、攪拌することにより行うことができる。硫酸は、全量を反応系に仕込んでもよく、連続的又は間欠的に反応系に滴下してもよい。例えば、反応は、フルオレノン、フェノキシアルコール類及びチオール類を不活性ガスで置換した反応器に仕込み、攪拌しつつ濃硫酸を滴下することにより行ってもよい。硫酸を滴下する場合、滴下に要する時間は使用する硫酸量によっても異なるが、通常1〜5時間程度である。滴下終了後、1〜5時間程度撹拌する。不活性ガスとしては、慣用のガス成分、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどが利用できる。
【0038】
反応温度は、使用するフェノキシアルコール類やチオール類の種類によって異なるが、通常、10〜100℃(例えば、10〜80℃)程度、好ましくは20〜70℃(例えば、40〜65℃)程度である。
【0039】
反応は、不活性溶媒、例えば、トルエン、キシレンなどの溶媒の存在下で行ってもよいが、通常、溶媒の非存在下で行うことができる。また、過剰量のフェノキシアルコール類を溶媒として用いる場合には、反応をよりスムーズに行うことができる。
【0040】
反応の進行は、液体クロマトグラフィーなどの分析手段により追跡でき、反応混合物中に未反応のフルオレノンが0.5重量%以下となった時点を終点とすることができる。このような方法では、触媒として硫酸を用いるため、不純物の生成を抑制しながら、フルオレン誘導体を生成できる。式(II)で表されるフルオレン誘導体の具体例としては、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−ジアルキルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−シクロアルキルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールフェニル)フルオレンなどが例示できる。
【0041】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレンには、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(2−ヒドロキシプロポキシ)プロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシポリエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−6アルコキシフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0042】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルキルフェニル)フルオレンには、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチル−フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチル−フェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−(2−ヒドロキシエトキシ)−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−(2−ヒドロキシエトキシ)−4−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチル−フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−t−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチル−フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシジエトキシ)−3−メチル−フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−6アルコキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0043】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−ジアルキルフェニル)フルオレンには、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチル−フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2,6−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−6アルコキシ−ジC1−4アルキルフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0044】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルコキシフェニル)フルオレンには、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−6アルコキシ−C1−4アルコキシフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0045】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−シクロアルキルフェニル)フルオレンには、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−6アルコキシ−C4−8シクロアルキルフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0046】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールフェニル)フルオレンには、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−6アルコキシ−アリールフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0047】
これらのフルオレン誘導体の中でも、9,9−ビス(ヒドロキシC2−6アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシC2−6アルコキシ−C1−4アルキル−フェニル)フルオレン、特に9,9−ビス(4−(ヒドロキシC2−6アルコキシ)−フェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)フルオレンなど]が好ましい。
【0048】
反応混合物には、通常、反応生成物であるフルオレン誘導体以外に、未反応のフルオレノン、未反応のフェノキシアルコール類、触媒、副反応生成物などが含まれており、通常、フルオレン誘導体は着色している。
【0049】
本発明では、生成した酸性反応混合液にアルカリ水溶液を添加した後、目的化合物と硫酸塩との混合結晶(又は共晶物)を生成させることにより、目的化合物の粗結晶中に不純物の原因となる硫酸が混入するのを抑制し、高純度の目的化合物を高収率で得ることができる。例えば、この得られた粗結晶を従来製法にしたがって抽出、再結晶を行うと、一回の再結晶で光学樹脂原料に供する程度の高純度なフルオレン誘導体を得ることができる。
【0050】
アルカリとしては、種々の塩基、例えば、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩、アンモニアなど)、有機塩基(脂肪族、脂環族、芳香族又は複素環式アミン類など)が例示できる。アルカリとしては、アルカリ金属の水酸化物(特に水酸化ナトリウム)が好ましい。塩基の使用量は、通常、中性域pH、例えば、pH6〜8(特にpH7〜8)程度となる量であり、例えば、硫酸1当量に対して、例えば、0.5〜1.5当量、好ましくは0.7〜1.3当量程度である。
【0051】
アルカリは固体のまま投入すると反応液が固化するため、アルカリは水溶液として投入することが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は10〜60重量%、好ましくは30〜60重量%(例えば、30〜55重量%)、さらに好ましくは40〜60重量%(特に40〜55重量%)程度である。
【0052】
アルカリ水溶液の添加は、連続的又は間欠的に酸性反応混合液に滴下してもよい。アルカリ水溶液の滴下において、酸性反応混合液の温度は、50〜90℃、好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは70〜90℃程度に保持してもよい。アルカリ滴下完了時には硫酸とアルカリが反応して得られた硫酸塩が析出し始める。
【0053】
アルカリ水溶液添加後の反応混合液には、目的化合物及び硫酸塩に対する貧溶媒(晶析溶媒)を添加してもよい。貧溶媒の添加においても、反応混合液の温度は、50〜90℃、好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは70〜90℃程度に保持又は加熱してもよい。貧溶媒としては、低級脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどC1−10アルキルアルコール、好ましくはC1−6アルキルアルコール、さらに好ましくはC1−4アルキルアルコール(例えば、メタノールなど)を使用できる。貧溶媒の添加方法は、徐々に添加するのが好ましい。貧溶媒の使用量は、特に制限されないが、フルオレノン1重量部に対して2〜50重量部、好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは5〜10重量部程度である。貧溶媒の添加後、反応混合液を−10〜50℃、好ましくは0〜30℃、さらに好ましくは5〜20℃程度まで冷却してもよい。このようにして、前記反応混合液からフルオレン誘導体と硫酸塩との共沈物が析出する。
【0054】
目的化合物であるフルオレン誘導体を有効に回収するため、得られた共沈物(混合結晶物)を含む溶液を濾過した後、抽剤を添加して抽出してもよい。抽剤としては、フルオレン誘導体に対する貧溶媒(例えば、水)と、前記貧溶媒と分液可能であり、フルオレン誘導体を可溶な有機溶媒(例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類など)とで構成された混合溶媒が使用できる。このような抽剤を利用すると、フルオレン誘導体を有機相に分配又は移行させ、硫酸塩を水相に分配又は移行させることができる。共沈物を析出させることによって、不純物が除去され、透明性の高い高純度品が得られる。
【0055】
フルオレン誘導体は、硫酸塩が溶解した水相を除去することにより得られる。硫酸塩の水相への分配効率を高めるために、通常、共沈物を含む抽剤溶液を、50〜90℃、好ましくは70〜90℃程度に加熱する。
【0056】
水相を除去した後、有機相を冷却することにより、フルオレン誘導体を析出させてもよい。有機相の冷却温度は、−10〜30℃、好ましくは0〜20℃程度である。また、有機相は、水相を除去した後、必要により加熱した水(50〜90℃、好ましくは70〜90℃程度)で洗浄してもよい。析出したフルオレン誘導体は、さらに晶析操作を行ってもよい。
【0057】
また、水相を除去した後、有機溶媒を蒸留などにより除去して有機相を濃縮した後、残渣に対して晶析操作を行ってもよい。
【0058】
晶析操作は、慣用の方法、例えば、晶析溶媒に溶解し、混合液を冷却することにより行うことができる。通常、有機相の残渣と晶析溶媒とを、溶媒の沸点以下の温度で加温して溶解し、生成した溶液を、適当な温度(例えば、−10℃〜30℃、特に0〜30℃程度)に冷却することにより結晶を析出させることができる。晶析溶媒は、トルエン、キシレンなどのフルオレン誘導体が溶解する溶媒であれば、幅広く使用できる。析出した結晶は濾過などにより回収され、必要により洗浄し、乾燥することにより高純度で透明性の高い目的化合物フルオレン誘導体を得ることができる。なお、晶析操作は必要により繰り返してもよいが、本発明では、1回の晶析操作によりフルオレン誘導体を高純度の結晶として得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、着色度は、JIS K1504に準拠して測定した。
【0060】
実施例1
攪拌機、冷却管及びビュレットを備えたガラス製反応器に純度99.5重量%のフルオレノン350g(1.94モル)とフェノキシエタノール1070g(7.78モル)を仕込み、β−メルカプトプロピオン酸2.3gを加えて撹拌した混合液に、反応温度を50℃に保持しつつ、98重量%の硫酸570gを60分かけて滴下した。滴下終了後、反応温度を50℃に保ち、さらに5時間撹拌することにより反応を完結させた。
【0061】
反応終了後、反応混合液に48重量%水酸化ナトリウム水溶液920gを温度80℃を保持しつつ滴下した。滴下終了後のpHは約8であった。メタノール2.5kgを加えて、10℃まで冷却したところ、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンと硫酸ナトリウムの混合結晶が析出した。ろ過により混合結晶を取り出したのち、トルエン3.5kg、水1.0kgを加えて85℃に加熱して硫酸ナトリウムを溶解させた。水相を除去したのち、有機相をさらに85℃の水で2回洗浄した。トルエン相を10℃に冷却することにより、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン700g(使用したフルオレノンに対する収率82%)が得られた。生成物を150℃に溶融させて、着色度を測定したところ、APHA値は10であり、光学樹脂原料として使用できる高い透明性を有することを確認した。
【0062】
比較例1
実施例1と同じ方法で反応を完結させたのち、水酸化ナトリウムを添加することなく、反応混合物にメタノール2.5kgを投入し、10℃に冷却することによって、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を析出させた。
【0063】
ろ過により結晶を取り出したのち、トルエン3.5kg、水1.0kgを加えて85℃に加熱して撹拌した。水相を除去したのち、有機相をさらに85℃の水でpHが約7となるまで4回洗浄した。トルエン相を10℃に冷却することにより、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン640g(使用したフルオレノンに対する収率75%)が得られた。生成物を150℃に溶融させて、着色度を測定したところ、APHA値は50であり、光学樹脂原料として使用するためにはさらに再結晶による精製が必要であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
得られたフルオレン誘導体は、高純度(例えば、99.5重量%以上、好ましくは99.7重量%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上)であるため、光学レンズ、フィルム、光ファイバー、光ディスクなどの光学樹脂、耐熱性樹脂やエンジニアリングプラスチックなどの素材原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸及びチオール類の共存下、フルオレノンと式(I)
【化1】

(式中、Aはアルキレン基、Rはアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基又はアリール基を表し、nは1以上の整数、mは0〜4の整数を表す)
で表される化合物との反応により生成する目的化合物を含む酸性反応混合液に、アルカリ水溶液を添加した後、目的化合物と硫酸塩とを共沈させて得られ、かつ式(II)
【化2】

(式中、A、R、n及びmは前記に同じ)
で表されるフルオレン誘導体。
【請求項2】
式(I)において、AがC2−6アルキレン基、RがC1−4アルキル基、nが1〜5の整数、mが0又は1である請求項1記載のフルオレン誘導体。
【請求項3】
チオール類がメルカプトカルボン酸である請求請1又は2記載のフルオレン誘導体。
【請求項4】
アルカリがアルカリ金属の水酸化物である請求項1〜3のいずれかに記載のフルオレン誘導体。
【請求項5】
フルオレノンと硫酸との割合(重量比)が、フルオレノン/硫酸=1/0.3〜1/5である請求項1〜4のいずれかに記載のフルオレン誘導体。
【請求項6】
フルオレノンとチオール類との割合(重量比)が、フルオレノン/チオール類=1/0.001〜1/0.1である請求項1〜5のいずれかに記載のフルオレン誘導体。
【請求項7】
共沈物を、水と、この水に対して分液可能な有機溶媒とで構成された抽剤を用いて、フルオレン誘導体を有機相に分配させる請求項1〜6のいずれかに記載のフルオレン誘導体。
【請求項8】
光学樹脂原料である請求項1〜7のいずれかに記載のフルオレン誘導体。
【請求項9】
純度が99.7重量%以上の結晶である請求項1〜8のいずれかに記載のフルオレン誘導体。
【請求項10】
純度が99.9重量%以上の結晶である請求項1〜9のいずれかに記載のフルオレン誘導体。
【請求項11】
硫酸及びチオール類の共存下、フルオレノンとフェノキシエタノールとの反応により生成する目的化合物を含む酸性反応混合液に、アルカリ金属水酸化物水溶液を添加した後、晶析溶媒を添加し、目的化合物と硫酸塩との混合結晶を析出させ、析出した混合結晶を、水と、この水に対して分液可能な有機溶媒とで構成された抽剤を用いて、目的化合物を有機相に分配させ、有機相から目的化合物の結晶を析出させて得られた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
【請求項12】
光学樹脂原料である請求項11記載の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
【請求項13】
純度が99.7重量%以上の結晶である請求項11又は12記載の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。
【請求項14】
純度が99.9重量%以上の結晶である請求項11〜13のいずれかに記載の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。

【公開番号】特開2010−24248(P2010−24248A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252094(P2009−252094)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【分割の表示】特願2003−339830(P2003−339830)の分割
【原出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】