説明

フルオレン骨格を有するアルコール類の製造方法

【課題】9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどのフルオレン骨格を有するアルコール類を、硫酸、無機固体酸(ヘテロポリ酸)、チオール類などを使用することなく効率よく製造する。
【解決手段】陽イオン交換樹脂の存在下、下記式(1)で表されるフルオレノン類と、下記式(2)で表されるアルコール類とを、反応系の液相中の水分濃度を0.1重量%以下に脱水しつつ反応させる。


(式中、環Zは芳香族炭化水素環、Rは置換基、Rはアルキレン基、Rは置換基を示す。kは0〜4の整数、mは1以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ、フィルム、光ファイバー、光ディスク、耐熱性樹脂、エンジニアリングプラスチック、機能性化合物(光硬化性樹脂など)などの素材原料として有用な9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどのフルオレン骨格を有するアルコール類(フルオレン誘導体)を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビスフェノキシエタノール類を原料とするポリマー(例えば、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂など)において、従来品よりも一層の耐熱性、透明性及び高屈折率を備えた材料が強く要望されている。特に、ビスフェノキシエタノール類のうち、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(9,9−ビスフェノキシエタノールフルオレン)などのフルオレン骨格を有するビスフェノキシエタノール類は、耐熱性に優れ、高透明性で高屈折率のポリマーを製造するための原料として有望であり、自動車用ヘッドランプレンズ、CD(コンパクトディスク)[CD−ROM(シーディーロム:コンパクトディスク−リードオンリーメモリー)など]、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθ(エフシータ)レンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ、位相差フィルム、拡散フィルムなどのフィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基板などの素材原料として期待されている。
【0003】
このようなフルオレン骨格を有するビスフェノキシエタノール類の合成方法として、例えば、特許第2559332号公報(特許文献1)には、フルオレンを空気酸化して得られるフルオレノンを出発原料とし、硫酸及びチオール(メルカプトプロピオン酸など)を触媒として使用し、フェノキシエタノールと縮合反応させる方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、この文献の方法では、酸触媒として使用する硫酸を反応液中から抽出作業によって取り除く必要があるため、操作が煩雑になり、バッチ式などの大量生産のために連続生産することは困難である。
【0005】
そこで、硫酸を使用しない方法として、特開2000−191577号公報(特許文献2)には、触媒として液体の硫酸に代わり金属交換型のモンモリロナイトを使用する方法が提案されている。なお、この文献には、フェノールとケトンの脱水縮合によるビスフェノール類の製造において一般的に用いられる塩化水素ガスや陽イオン交換樹脂、固体酸などは、フルオレノンとフェノキシエタノールの反応系では全く活性を示さないことが記載されている。
【0006】
しかし、この文献の方法では、反応効率が低く、工業的に製造するには適さない。また、触媒としての前記モンモリロナイトは、非常に高価であるとともに、大量入手が困難であり、大量に連続して生産する方法に適していない。また、収率を向上させるためには、β−メルカプトプロピオン酸などのチオール類が必須であり、生成物の精製操作が煩雑である。さらに、反応活性が低いため、現実的には、24時間程度の反応時間を要する。
【0007】
また、特開2007−23016号公報(特許文献3)には、ヘテロポリ酸の存在下で、フルオレノン類とフェノキシエタノール類とを反応させる方法が提案されている。しかし、この文献の方法では、依然として反応効率が低い。また、ヘテロポリ酸は、高価である場合が多く、大量に連続して生産する方法に適していない。さらに、この文献の方法では、反応温度を高くする必要があるため、操作上、不利であるとともに、熱により着色しやすい9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの製造において好ましくない。なお、この文献には、触媒含有水や反応生成水など、反応系内の水分を除去する脱水条件下で反応を行うことにより、脱水しない場合より反応が早く進行し、副生成物の生成が抑制され、より高収率で目的物を得ることができることが記載されているものの、水分除去の程度など、その詳細については記載されていない。また、この文献の実施例では、トルエン還流下で脱水を行ったことが記載されているが、トルエンを用いると、反応副生成物が大量に生成する。また、フェノキシエタノール類は沸点が高く、フェノキシエタノール類の存在下でトルエンを還流させるためには、かなりの高温で反応を行う必要がある。このような高温での反応では、生成物の劣化や生成物の着色を招く虞がある。また、高温での反応は工業的およびコスト的な観点からも好ましくなく、出来る限り低温で反応させることが好ましい。
【0008】
以上のように、連続生産又は大量生産に適し、効率よくフルオレン骨格を有するビスフェノキシエタノール類を合成する方法が求められている。
【0009】
なお、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類においては、特開2006−193505号公報(特許文献4)には、連続生産に適した固体酸(マクロポーラス型イオン交換樹脂など)を用い、チオール類の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法が開示されている。
【0010】
しかし、前記特許文献2に記載の通り、フェノール類とフェノキシエタノール類とは、フルオレノン類との反応における活性が大きく異なり、これまで、フルオレン骨格を有するビスフェノキシエタノール類を効率よく連続的に製造する方法は知られていない。
【特許文献1】特許第2559332号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2000−191577号公報(請求項1、段落番号[0002]、[0003])
【特許文献3】特開2007−23016号公報(請求項1、段落番号[0022])
【特許文献4】特開2006−193505号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどのフルオレン骨格を有するアルコール類を効率よく製造する方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、フルオレン骨格を有するアルコール類を簡便にかつ工業的に有利に製造する方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、穏和な条件下であっても、高収率でフルオレン骨格を有するアルコール類を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、脱水条件下で、陽イオン交換樹脂を用いると、硫酸などの通常の酸触媒では反応が進行しないフルオレノン類と芳香族アルコール類(フェノキシエタノールなど)との反応が進行し、対応するフルオレン骨格を有するアルコール類(9,9−ビスフェノキシエタノールフルオレン類など)が得られること、特に、脱水しつつ反応系中の水分濃度を所定の濃度まで低減することにより、通常、活性が低い陽イオン交換樹脂を用いても、前記反応が進行し、高収率でフルオレン骨格を有するアルコール類が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、陽イオン交換樹脂の存在下、下記式(1)で表されるフルオレノン類と、下記式(2)で表されるアルコール類とを脱水しつつ[特に、反応系の液相中の水分濃度を0.1重量%以下に脱水しつつ(又は保持しつつ)]反応させて、下記式(3)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール類(フルオレン誘導体)を製造する方法である。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基、Rはアルキレン基、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示す。kは0〜4の整数、mは1以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数である。)
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
本発明の方法では、特に他の成分を要することなく、前記式(1)で表されるフルオレノン類と前記式(2)で表されるアルコール類とを反応させることができる。このため、簡便な分離精製であっても、高純度でかつ高品質のフルオレン誘導体が得られる。例えば、前記方法は、チオール類の非存在下で反応させてもよい。
【0020】
代表的には、前記方法では、陽イオン交換樹脂以外の他の酸触媒、チオール類および溶媒をいずれも実質的に用いることなく、陽イオン交換樹脂の存在下、反応温度70〜125℃で、反応系の液相中の水分濃度を0.07重量%以下に脱水しつつ反応させてもよい。
【0021】
前記方法において、脱水方法は特に限定されないが、高レベルで水分濃度を小さくするという観点から、例えば、減圧下(例えば、1〜500Torrの減圧下)、反応系の気相に不活性ガスを供給しつつ、気相を排出することにより脱水してもよい。
【0022】
なお、本発明の方法において、式(2)で表される化合物は、例えば、RがC2−4アルキレン基であり、mが1〜10である化合物であってもよい。代表的には、RがC1−4アルキル基であり、kが0〜1であり、環Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、Rがエチレン基であり、mが1〜4であり、nが1〜3であり、RがC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、pが0〜2であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法では、陽イオン交換樹脂を使用することにより、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどのフルオレン骨格を有するアルコール類を効率よく製造できる。特に、硫酸などの液体触媒やチオール類等の助触媒を使用しなくても製造できるので、これらの成分の分離操作が不要である。そして、包接結晶を形成する溶媒(アセトンなど)などを使用しなくても、一回の晶析により、簡便な操作でフルオレン骨格を有するアルコール類を簡便に単離できる。
【0024】
また、本発明の方法では、安価な陽イオン交換樹脂を用いることができ、しかも、チオール類や溶媒、さらには他の酸触媒(硫酸、ヘテロポリ酸)などを実質的に用いなくても、フルオレノン類と芳香族アルコール類(フェノキシエタノールなど)とを反応させることができるため、フルオレン骨格を有するアルコール類を簡便にかつ工業的に有利に製造できる。さらに、本発明の方法では、穏和な条件下(例えば、140℃以下の温度条件など)であっても、高収率でフルオレン骨格を有するアルコール類を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の方法では、陽イオン交換樹脂の存在下、下記式(1)で表されるフルオレノン類と、下記式(2)で表されるアルコール類とを脱水しつつ反応させて、下記式(3)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール類(フルオレン誘導体)を製造する。
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環、Rは非反応性置換基、Rはアルキレン基、Rは、非反応性置換基を示す。kは0〜4の整数、mは1以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数である。)
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
上記式(1)(および式(3))において、基Rで表される置換基としては、非反応性置換基であれば特に限定されず、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などであってもよく、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0030】
前記式(1)で表される代表的なフルオレノン類は、9−フルオレノンである。フルオレンノン類は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、使用するフルオレノン類の純度は、特に限定されないが、通常、95重量%以上、好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上である。
【0031】
なお、フルオレノン類は、市販品を使用してもよく、フルオレン類を空気酸化するなどの方法により製造することもできる。
【0032】
前記式(2)(および前記式(3))において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環に対応する縮合多環式芳香族炭化水素としては、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素としては、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられ、特にナフタレンが好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0033】
好ましい環Zには、ベンゼン環およびナフタレン環(特にベンゼン環)が含まれる。なお、環Zが、縮合多環式芳香族炭化水素環である場合、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に置換するナフチル基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0034】
また、前記式(2)(および前記式(3))において、基Rで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−10アルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、ヘキシレン基などのC2−6アルキレン基)などが例示でき、特に、C2−4アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基などのC2−3アルキレン基)が好ましく、通常エチレン基であってもよい。なお、Rは、同一の又は異なるアルキレン基であってもよい(すなわち、mが複数である場合、Rは同一又は異なっていてもよい)。すなわち、mが2以上の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基[−(OR−]は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、複数のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)で構成されていてもよい。通常、Rは環Zにおいて、同一のアルキレン基であってもよい。
【0035】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)mは、例えば、1〜15(例えば、1〜10)程度の範囲から選択でき、例えば、1〜8(例えば、1〜6)、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。
【0036】
環Zに置換する基−[(OR−OH]の置換数nは、1以上であればよく、環Zの種類などに応じて選択でき、例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。
【0037】
環Zに置換する置換基Rとしては、非反応性置換基であれば特に限定されず、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−20アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などのエーテル基;アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0038】
好ましい置換基Rは、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などである。
【0039】
特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などであってもよい。置換基Rは、環Zにおいて、それぞれ、単独で又は2種以上組み合わせて置換していてもよい(すなわち、pが複数である場合、複数のRは同一又は異なっていてもよい)。
【0040】
置換基Rの置換数pは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、0〜4、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2程度であってもよい。特に、環Zが、ベンゼン環である場合には、置換数pは、例えば、0〜3、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0〜1である。また、環Zが、ナフタレン環などの縮合芳香族炭化水素環である場合、好ましい置換数pは、例えば、0〜6、好ましくは0〜4、さらに好ましくは0〜1、特に0であってもよい。
【0041】
代表的な式(2)で表されるアルコール類としては、アルキレングリコールモノフェニルエーテル類[例えば、アルキレングリコールモノフェニルエーテル(例えば、2−フェノキシエタノール(エチレングリコールモノフェニルエーテル)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、テトラエチレングリコールモノフェニルエーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノフェニルエーテル)、アルキレングリコールモノアルキルフェニルエーテル(例えば、2−(2−メチルフェノキシ)エタノール、2−(2,6−ジメチルフェノキシ)エタノールなどのC2−4アルキレングリコールモノ(モノ又はジC1−4アルキルフェニル)エーテル)、アルキレングリコールモノ(アリールフェニル)エーテル(例えば、エチレングリコールモノビフェニリルエーテル(エチレングリコールモノ(2−ビフェニリル)エーテルなど)などのC2−4アルキレングリコールモノ(モノ又はジC6−10アリールフェニル)エーテル)、アルキレングリコールモノ(アルキル−アリールフェニル)エーテル(例えば、エチレングリコールモノ(3−メチル−2−ビフェニリル)エーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノ(モノ又はジC1−4アルキル−モノ又はジC6−10アリール−フェニル)エーテル)など]などの前記式(2)において、nおよびmがいずれも1であるアルコール類;ジアルキレングリコールモノフェニルエーテル類[例えば、ジアルキレングリコールモノフェニルエーテル(例えば、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテルなどのジC2−4アルキレングリコールモノフェニルエーテル)など]などのnが1、mが2以上であるアルコール類;これらに対応し、nが3以上であるアルコール類;これらに対応し、環Zがナフタレン環であるアルコール類(アルキレングリコールモノナフチルエーテル類など)などが挙げられる。
【0042】
好ましい式(2)で表されるアルコール類は、(ポリ)エチレングリコールモノフェニルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(アルキルフェニル)エーテルなどの(ポリ)エチレングリコールモノフェニルエーテル類であり、特に、エチレングリコールモノフェニルエーテル類(特に、2−フェノキシエタノール)が好ましい。
【0043】
前記式(2)で表されるアルコール類は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0044】
なお、前記式(2)で表されるアルコール類の純度は、特に限定されないが、通常、95重量%以上、好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上である。
【0045】
副反応を抑制しつつ、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの収率を高くする点から、フルオレノン類に対して過剰の前記アルコール類が使用される場合が多い。反応において、前記式(1)で表されるフルオレノン類と、前記式(2)で表されるアルコール類との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2〜1/50(例えば、1/3〜1/50)であり、好ましくは1/5〜1/40(例えば、1/7〜1/30)、さらに好ましくは1/7〜1/20(特に1/10〜1/20)程度であってもよい。
【0046】
反応は、前記のように、陽イオン交換樹脂の存在下で行われる。陽イオン交換樹脂は、通常の酸触媒(硫酸、ヘテロポリ酸など)に比べて、活性が低いため、通常の反応条件下では、フルオレノン類と反応性が高いフェノール性水酸基を有する化合物(フェノール、クレゾールなど)との反応は進行させても、前記フルオレノン類と前記式(2)で表されるアルコール類との反応においては、触媒活性を示さない。しかし、本発明では、このような陽イオン交換樹脂を用いるともに、反応系における水分量を調整する(特に所定の濃度まで著しく水分量を低減する)ことにより、陽イオン交換樹脂を触媒として、前記フルオレノン類と前記アルコール類との反応が進行することを見出した。
【0047】
陽イオン交換樹脂(カチオン型イオン交換樹脂、酸型イオン交換樹脂)としては、例えば、強酸性陽イオン交換樹脂[例えば、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂[スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーなどの架橋ポリスチレンのスルホン化物、スルホン酸基(又は−CF2CF2SO3H基)を有する含フッ素樹脂(例えば、[2−(2−スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとのブロック共重合体(例えば、デュポン社製のナフィオン)などの含フッ素イオン交換樹脂など]など]、弱酸性陽イオン交換樹脂[例えば、カルボン酸基を有するイオン交換樹脂(メタクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマー、アクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマーなど)など]などを使用できる。これらの陽イオン交換樹脂の中でも、強酸性陽イオン交換樹脂、特に、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーを基体(又は母体)とする強酸性陽イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0048】
陽イオン交換樹脂は、ゲル型イオン交換樹脂[例えば、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーなどを基体とし、ミクロポアー(例えば、孔径が15〜30Å程度の細孔)を有するイオン交換樹脂など]であってもよく、ポーラス型イオン交換樹脂[ミクロポアーの他にマクロポアー(例えば、孔径が50〜1000Å程度の細孔)を有するイオン交換樹脂]であってもよい。
【0049】
ミクロポアーの平均孔径は、例えば、5〜50Å、好ましくは10〜40Å、さらに好ましくは15〜30Å程度であってもよい。また、ポーラス型イオン交換樹脂において、マクロポアーの平均孔径は、例えば、50〜1000Å、好ましくは70〜950Å、さらに好ましくは100〜900Å、特に150〜850Å(特に200〜800Å)程度であってもよい。
【0050】
また、ポーラス型イオン交換樹脂の多孔度は、通常、0.03〜0.6cm3/g程度であり、例えば、0.05〜0.55cm3/g、好ましくは0.1〜0.5cm3/g、さらに好ましくは0.15〜0.45cm3/g(特に0.2〜0.4cm3/g)程度であってもよい。
【0051】
なお、フルオレノン類とフェノール類との反応では、通常、ポーラス型イオン交換樹脂を用いるが(前記特許文献4)、本発明の反応(フルオレノン類と前記アルコール類との反応)では、特定の架橋度を有する陽イオン交換樹脂(ポーラス型イオン交換樹脂、ゲル型イオン交換樹脂)の使用により、効率よく反応が進行する場合がある。
【0052】
陽イオン交換樹脂のイオン交換容量は、通常、0.2当量/L以上(例えば、0.3〜8当量/L)、例えば、0.4〜5当量/L(例えば、0.5〜4当量/L)、好ましくは0.6〜3当量/L(例えば、0.7〜2.5当量/L)、さらに好ましくは0.8〜2当量/L(例えば、1〜1.7当量L)程度であってもよい。
【0053】
また、ジビニルベンゼンコポリマー(スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、メタクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマー、アクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマーなど)を基体とする陽イオン交換樹脂において、架橋度(ジビニルベンゼンの割合)は、例えば、1〜30%、好ましくは1.2〜25%、さらに好ましくは1.5〜20%程度であってもよい。特に、前記架橋度は、2〜13%、好ましくは3〜12.5%、さらに好ましくは3.5〜12%程度であってもよい。
【0054】
陽イオン交換樹脂としては、例えば、バイエル社(ランクセス社)製の「レバチットK1131」、「レバチットK1221」、「レバチットK2361」、「レバチットK2420」、「レバチットK2431」、「レバチットK2620」、「レバチットK2649」;オルガノ社製の「アンバーリスト31」、「アンバーリスト131」、「アンバーリスト121」、「アンバーリスト15JWet」、「アンバーリスト31Wet」;三菱化学(株)製の「ダイヤイオンSK104H」、「ダイヤイオンSK1BH」、「ダイヤイオンSK112H」、「ダイヤイオンPK208LH」、「ダイヤイオンPK216LH」、「ダイヤイオンPK228LH」、「ダイヤイオンRCP160M」;デュポン社製の「ナフィオン」などの市販の陽イオン交換樹脂を使用してもよい。
【0055】
陽イオン交換樹脂の形態は、例えば、フルオレノン類と前記アルコール類との反応の効率、イオン交換樹脂と反応液との分離などに悪影響がなければ、特に制限はないが、通常、粒状であり、微粒状であってもよい。また、粒状(微粒状)の陽イオン交換樹脂の形状は、例えば、無定形状、球状、多角体状、ペレット状などであってもよい。粒状の陽イオン交換樹脂の平均粒径は、通常、0.1〜1.5mm程度であり、例えば、0.15〜1.2mm、好ましくは0.2〜1mm、さらに好ましくは0.25〜0.8mm(特に0.3〜0.6mm)程度であってもよい。
【0056】
なお、触媒として、陽イオン交換樹脂に加えて、他の酸触媒(例えば、硫酸、塩化水素、塩酸、リン酸などの無機酸(非固体状の無機酸);ヘテロポリ酸、モンモリロナイトなどの無機固体酸;スルホン酸などの有機酸)などを使用してもよいが、本発明では、このような他の酸触媒の実質的な非存在下で行う場合が多い。また、本発明では、酸触媒としての陽イオン交換樹脂に加えて、助触媒(例えば、チオール類)を使用してもよいが、通常、このような助触媒の実質的な非存在下で行う場合が多い。代表的には、無機酸[例えば、非固体状の酸(硫酸、塩酸、リン酸などの液体状の無機酸)、無機固体酸]、非固体状有機酸(液体状の有機酸)、およびチオール類(さらには後述の溶媒)の非存在下で反応させる場合が多い。本発明では、このような他の成分を使用しなくても、効率よくフルオレン誘導体を製造できるため、反応混合物から簡便にフルオレン誘導体を分離精製でき、また、得られるフルオレン誘導体は高純度かつ高品質である。
【0057】
前記フルオレノン類と前記アルコール類との反応は、通常、液相反応である(又は液相反応系で行われる)。このような反応は、例えば、バッチ式で行ってもよく、流通式(連続式)で行ってもよい。バッチ式反応は、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガス;アルゴンガス、ヘリウムガスなどの希ガスなどの不活性ガス)雰囲気中、前記フルオレノン類、前記アルコール類及び陽イオン交換樹脂を、混合攪拌下で行うことができる。流通式反応(連続式反応)は、例えば、陽イオン交換樹脂を充填した流通式反応器に、フルオレノン類及びアルコール類の混合液を流通させることにより行うことができる。
【0058】
陽イオン交換樹脂の使用量と反応時間は反応様式などに応じて選択できる。バッチ式では、陽イオン交換樹脂の使用量は、通常、フルオレノン類1重量部に対して、0.01〜5重量部程度であり、例えば、0.05〜4.5重量部、好ましくは0.1〜4重量部、さらに好ましくは0.2〜3.5重量部(特に0.3〜3重量部)程度であってもよい。バッチ式における反応時間は、特に制限はないが、例えば、フルオレノン類の転化率などを考慮して、通常、0.5〜50時間程度である。一方、流通式(連続式)では、陽イオン交換樹脂を充填したカラムに、フルオレノン類及び前記アルコール類を混合した混合液(例えば、溶液)を通じて反応を行う。流通式反応における液空間速度(流量/固体酸体積)LHSVは、通常、0.1〜10hr-1、であり、例えば、0.15〜8hr-1、好ましくは0.2〜5hr-1であってもよい。
【0059】
反応温度は、使用する陽イオン交換樹脂、フルオレノン類及び前記アルコール類の種類によって異なるが、通常、10〜200℃程度であり、例えば、30〜170℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは130℃以下(例えば、70〜125℃)、特に120℃以下(例えば、80〜115℃)程度であってもよく、100℃以下(例えば、80〜95℃)で行うこともできる。反応温度が低すぎると反応速度が低下し、反応温度が高すぎると副反応が生じて収率が低下する。本発明では、比較的低温においても、反応を進行させることができる。
【0060】
また、反応(液相反応)は、反応溶媒[例えば、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アニソールなど)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ハロゲン系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類など)などの反応に不活性な溶媒]の存在下で行ってもよいが、通常、実質的に溶媒の非存在下(又は低濃度の溶媒の存在下)で行うことができる。溶媒の非存在下で反応を行うと、効率よく高収率で反応生成物(前記式(3)で表されるフルオレン誘導体)を得ることができる。特に、フルオレノン類に対して過剰のフェノキシエタノールを使用する場合、フェノキシエタノールを反応溶媒として利用でき、反応がスムーズに進行する場合が多い。
【0061】
なお、反応系における溶媒(前記式(2)で表されるアルコール類以外の溶媒)の割合は、混合物(反応混合物)全体に対して、例えば、10重量%以下(例えば、0〜8重量%)、好ましくは5重量%以下(例えば、0〜3重量%)、さらに好ましくは1重量%以下(例えば、0〜0.5重量%)であってもよい。
【0062】
なお、反応系には、不可避的に水が存在する。このような水は、前記フルオレノン類と前記式(2)で表されるアルコール類との反応に伴って生成する水、原料や陽イオン交換樹脂に含まれる水などが挙げられる。通常、反応系に存在する水の多くは、前者の水(反応により生成する水)である。しかも、前記式(2)で表されるアルコール類(例えば、2−フェノキシエタノール)は、アルコールであるため、吸湿しやすい。本発明では、このような反応系に存在する水が、陽イオン交換樹脂を触媒とする反応系において、反応を阻害していること、このような反応系における水の存在を極力低減することにより、陽イオン交換樹脂を用いても、反応が進行することを見出した。
【0063】
すなわち、本発明では、脱水しつつ[詳細には、反応系に存在する水を除去(又は分離)しつつ]、反応を行う。なお、本明細書において、「脱水」とは、厳密には、反応を阻害しない程度(特に、後述する所定の水分濃度よりも大きくならない程度)に反応系の液相中の水分濃度を保持することを意味し、反応初期段階などの所定の水分濃度に満たない場合などにおいては、必ずしも脱水(脱水処理)が必要でない場合もある。
【0064】
反応系の水分濃度は、極力低減するのが好ましく、反応系の液相全体に対する水分濃度(液相中の水分濃度、液相反応系の水分濃度)は、通常、0.1重量%以下(例えば、0又は検出限界〜0.09重量%)の範囲から選択でき、例えば、0.08重量%以下(例えば、0.001〜0.075重量%)、好ましくは0.07重量%以下(例えば、0.002〜0.06重量%)、さらに好ましくは0.05重量%以下(例えば、0.005〜0.04重量%)、特に0.03重量%以下(例えば、0.008〜0.02重量%)に脱水してもよい。なお、フルオレノン類とフェノール類との反応においては、陽イオン交換樹脂を触媒としても、上記のようなレベルまで水分濃度を低減しなくても(具体的には、1重量%程度水が存在しても)十分に反応が進行し、さらに多くの水分が存在しても、収率が徐々に低下する程度であり、反応そのものを極端に阻害するということはない。
【0065】
脱水(水分濃度の保持)は、上記水分濃度を維持できる限り、連続的に行ってもよく、段階的に行ってもよい。脱水方法(水分濃度の保持方法)としては、(i)反応系を加熱しつつ脱水(又は反応)させる方法[例えば、前記式(2)で表されるアルコール(2−フェノキシエタノールなど)の蒸気圧が十分に大きくなる温度(例えば、180℃以上(例えば、180〜300℃程度)の温度)で反応させる方法]、(ii)反応系を減圧して脱水する(又は反応させる)方法[例えば、減圧下(例えば、1〜500Torr、好ましくは5〜300Torr、さらに好ましくは10〜250Torr、特に50〜200Torr程度の圧力下)で脱水する(反応させる)方法]、(iii)反応系内の気相を留去(又は排出又は流通)して脱水する(又は反応させる)方法、(iv)これらを組み合わせた方法(例えば、方法(ii)および方法(iii)を組み合わせた方法)などが挙げられる。これらのうち、水分濃度を高いレベルで低減するためには、少なくとも方法(iii)を含む方法(方法(iii)、方法(ii)および方法(iii)を組み合わせた方法など、特に方法(ii)および方法(iii)を組み合わせた方法)により脱水するのが好ましい。
【0066】
なお、方法(iii)では、反応系内の気相に含まれる水を留去することにより脱水する。留去する気相には、水の他、原料(フェノキシエタノールなどの前記式(2)で表される化合物など)が含まれていてもよい。気相は、空気で充填されていてもよく、不活性ガス(窒素ガスなど)で充填されていてもよい。
【0067】
代表的には、方法(iii)では、反応系外から反応系の気相にかけてガスを流通させつつ、すなわち、反応系の気相にガス(特に窒素ガスなどの不活性ガス)を供給しつつ、気相を排出(又は留去、詳細には、反応系外に排出)してもよい[又はガス気流下(特に、窒素ガスなどの不活性ガス気流下)で反応させてもよい)]。特に、減圧下で脱水(反応)させる方法(ii)と方法(iii)とを組み合わせると、反応により生成した水が気相に移動しやすくなるとともに、気相の水はすみやかに反応系外に排出されるため好ましい。
【0068】
方法(iii)において、気相を排出(又は留去)する速度(又はガスを気相に供給する速度)は、原料の量などに応じて選択でき、例えば、フルオレノン類100重量部に対して、0.03〜50m/分、好ましくは0.1〜30m/分、さらに好ましくは0.3〜15m/分程度であってもよい。
【0069】
また、方法(iii)において、気相を排出(又は留去)する速度(又はガスを気相に供給する速度)は、反応器の大きさに応じて選択することもでき、例えば、反応器1Lあたり、0.1L/分以上(例えば、0.3〜5000L/分)、好ましくは0.5L/分以上(例えば、0.8〜3000L/分)、さらに好ましくは1L/分以上(例えば、2〜2000L/分)であってもよい。
【0070】
具体的には、脱水は、慣用の方法を用いることができるが、通常、上記のようなレベルまで極端に水分濃度を低減するという観点から適当な方法を選択してもよい。例えば、バッチ式においては、(1)反応温度を上げる方法、(2)反応圧力を下げることにより水の飽和蒸気圧を下げる方法、(3)不活性ガス(窒素など)気流下で反応させる方法、(4)これらを組み合わせた方法などにより脱水してもよい。また、流通式においては、連結(例えば、縦列に連結)した複数(例えば、2基)の反応器を使用し、反応器間に脱水缶を設けて脱水を行ってもよい。
【0071】
なお、前記のように、本発明では、反応系において存在する水を極力少なくすることが好ましい。そのため、原料や反応開始前に存在する水を予め除去しておくことも好ましい。
【0072】
本発明では、高い転化率および選択率で目的生成物(式(3)で表されるアルコール類)を得ることができる。例えば、本発明の方法において、前記フルオレノン類の転化率は、通常98モル%以上(例えば、98.2〜100モル%)であり、好ましくは98.5モル%以上(例えば、98.7〜99.95モル%)、さらに好ましくは99モル%以上(例えば、99.2〜99.9モル%)である。フルオレノン類の転化率を向上させると、未反応のフルオレノン類の量が少なくなるため、目的化合物の分離生成が容易になる。例えば、転化率は、反応時間を長くすることや前記のように生成する水を除去することにより、より一層向上できる。また、転化率を向上することにより、さらに反応時間を短縮できる。なお、フルオレノン類の転化率は、例えば、液体クロマトグラフィーにより、測定できる。
【0073】
なお、反応終了後の反応混合物(反応混合液)には、目的生成物又は反応生成物である前記フルオレン誘導体(例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなど)以外に、未反応のフルオレノン類、未反応の前記式(2)で表されるアルコール類(フェノキシエタノールなど)、水、副反応生成物などが含まれる。なお、バッチ式反応において、陽イオン交換樹脂は、例えば、慣用の固液分離法(ろ過、デカンテーションなど)により、反応混合液から容易に分離でき、流通式反応では、陽イオン交換樹脂の分離操作なしに反応混合液を得ることができる。従って、これらの反応混合液からは、陽イオン交換樹脂が混入していない混合液を簡便に回収できる。
【0074】
さらに、反応混合液から前記フルオレン誘導体を単離する方法は特に限定されず、汎用の方法であっても、高純度のフルオレン誘導体を単離できる。反応混合液からフルオレン誘導体を単離する方法としては、例えば、液状又は溶媒成分(未反応の式(2)で表されるアルコール類など)を蒸発させる方法、冷却晶析させる方法、晶析溶媒を使用して晶析させる方法、再結晶させる方法、抽出溶媒により抽出する方法、これらの2種以上を組み合わせた方法などが挙げられる。例えば、溶媒成分を蒸発させる方法と冷却晶析させる方法とを組み合わせてもよい。
【0075】
反応混合液から、フルオレン誘導体の結晶を析出させる際に、種結晶(目的とするフルオレン誘導体の結晶)を添加してもよいが、添加しなくてもよい。反応混合液に種結晶を添加することにより、結晶の析出速度を速め、かつ微少結晶の生成を防ぎ、結晶の大きさをそろえることができる。
【0076】
例えば、まず、反応混合液を減圧(特に加熱減圧)して、前記式(2)で表されるアルコール類の少なくとも一部を留去して、濃縮液を得てもよい。加熱減圧には、例えば、減圧蒸留塔(真空蒸留塔)を使用できる。加熱温度は、通常、60℃以上であり、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜200℃(特に130〜180℃)程度であってもよい。減圧時の圧力は、通常、50mPa(ミリパスカル)以下であり、例えば、0〜30mPa、好ましくは0〜20mPa、さらに好ましくは0〜10mPa(特に0〜8mPa)程度であってもよい。通常、濃縮液中のフルオレン誘導体の濃度が10〜50重量%(例えば、15〜40重量%)程度になるまで溶媒成分(フェノキシエタノールなど)を留去してもよい。
【0077】
次に、得られた濃縮液を冷却して、フルオレン誘導体の結晶を析出させることができる。濃縮液を冷却することにより、結晶を効率よく析出させることができ、例えば、アセトンなどの晶析溶媒を使用しなくとも、高純度なフルオレン誘導体が得られる。冷却温度は、フルオレン誘導体が析出する温度であり、通常、70℃以下(例えば、0〜60℃)であり、好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜45℃(特に20〜40℃)程度であり、室温(10〜25℃)程度であってもよい。
【0078】
析出した結晶(フルオレン誘導体)は、ろ液と分離して回収できる。結晶は、さらに、洗浄溶媒を使用して洗浄してもよい。洗浄溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサンなどのC5−10アルカンなど)、脂環式炭化水素(例えば、シクロヘキサンなどのC5−10シクロアルカンなど)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、キシレンなどのC6−10芳香族炭化水素など)、アルコール類、ケトン類、エステル類などを使用でき、通常、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素を使用する場合が多い。洗浄溶媒は、単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。
【0079】
洗浄溶媒の使用量は、通常、粗製品(洗浄前の結晶)100重量部(ウエット又は湿潤重量)に対して、5〜1000重量部程度であり、例えば、20〜500重量部程度であってもよい。洗浄回数は、0〜10回、好ましくは1〜5回、さらに好ましくは2〜4回程度であってもよい。また、リパルプ洗浄を実施してもよい。
【0080】
本発明によれば、陽イオン交換樹脂を使用するので、副反応を抑制しつつ、また、反応液への酸触媒(塩化水素、硫酸など)の混入を防止でき、さらにチオール類等の助触媒も使用しなくてよいため、1回の晶析でも(再結晶などの精製を行わなくても)、例えば、透明性が要求されるポリマー(ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂など)の原料として使用できる高純度(例えば、純度99重量%以上)かつ残留硫黄分が極めて少ないフルオレン誘導体を単離できる。
【0081】
上記のようにして目的化合物(前記式(3)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール類)が得られる。このような前記式(3)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール類(フルオレン誘導体)において、Z、R、R、R、k、m、n、p、およびこれらの好ましい態様は前記の通りである。
【0082】
代表的なフルオレン誘導体としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)などの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC1−6アルキルフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アリールフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC6−8アリールフェニル)フルオレンなど}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類;これらの化合物に対応し、mが2以上である化合物[例えば、9,9−ビス[4−{2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ}フェニル]フルオレンなど];これらの化合物に対応し、nが2以上である化合物[例えば、9,9−ビス{ジ又はトリ(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル}フルオレンなど];これらの化合物に対応し、環Zがナフタレン環である化合物[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレンなど]などが挙げられる。
【0083】
このような本発明の方法により得られるフルオレン誘導体の残留硫黄濃度は、通常、50ppm以下であり、例えば0.1〜30ppm、好ましくは0.5〜20ppm(特に1〜10ppm)程度であってもよい。このような残留硫黄濃度は、前記のように、1回の晶析でも実現できる。
【0084】
また、フルオレン誘導体の黄色度は、通常、0〜5程度であり、例えば、0.1〜4、好ましくは0.2〜3、さらに好ましくは0.3〜2(特に0.5〜1.5)程度であってもよい。本発明で得られるフルオレン誘導体は、黄色度の点からも、そのまま、さらに精製することなく、透明性が要求されるポリマー(ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂(フルオレン誘導体をポリオールとする多官能性(メタ)アクリレートなど)など)の原料として使用できる。フルオレン誘導体の黄色度は、例えば、可視紫外線吸収装置を使用して測定した透過率に基づいて算出できる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の方法で得られるフルオレン誘導体は、薬品(精密化学薬品など)、医薬、農薬、電子・電気材料、光学材料などの原料又は中間体、透明性が要求されるポリマー(ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂など)の製造原料に利用でき、例えば、光学レンズ、フィルム、光ファイバー、光ディスクなどの光学樹脂、耐熱性樹脂、エンジニアリングプラスチック、機能性化合物(光硬化性樹脂など)、エポキシ硬化剤などの素材原料として有用である。
【0086】
また、前記フルオレン誘導体は、前記のような方法により得られるので、リン、金属成分(タングステンなど)の含有割合が著しく少ない。そのため、このようなフルオレン誘導体は、半導体用途などにおいて好適に用いることができる。例えば、前記フルオレン誘導体のポリグリシジルエーテル[例えば、9,9−ビス(2−グリシジルオキシエトキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレンなどのジグリシジルエーテル]は、半導体用エポキシ樹脂(半導体用封止剤など)として好適に使用できる。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0088】
なお、以下の実施例において、目的化合物(9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン)の純度は、逆相カラムを使用した液体クロマトグラフィー(東ソー(株)製)を使用して分析し、面積百分率で表示した値とした。
【0089】
また、反応系の液相における水分濃度は、カールフィッシャー水分計(平沼産業製、AQV−200)を用いて測定した。
【0090】
さらに、収率、残留硫黄濃度、黄色度は以下のようにして測定又は算出した。
【0091】
(収率)
目的化合物の収率は、以下の計算式により算出した。
【0092】
収率=(目的化合物のモル数÷原料に使用したフルオレノンのモル数)×100(%)。
【0093】
(残留硫黄濃度)
目的化合物における残留硫黄濃度は、酸化分解・電量滴定型の塩素・硫黄分析装置(ダイアインスツルメンツ製、TOX−100)を使用して測定した。
【0094】
(黄色度)
目的化合物(目的化合物)の黄色度は、可視紫外吸収装置(日立(株)製)を使用して測定した透過率より計算した。
【0095】
(実施例1)
温度調節器および脱水装置を備えたバッチ式反応装置(1L)に、陽イオン交換樹脂(ランクセス社製、ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂、「レバチットK2420」)48重量部、フルオレノン36重量部(0.2モル)及び2−フェノキシエタノール552重量部(2.0モル)を充填し、110℃に加温した後、150Torrの減圧下、窒素を1m/minの条件で流通させて脱水しながら反応させた。なお、脱水により、反応系の液相の水分濃度は0.06重量%に保持した。
【0096】
HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)で確認した結果、5時間で反応液中のフルオレノンの残存量は0.3重量%以下に達した。その後、得られた反応液を、130℃、5mPaにて、加熱減圧して、反応液の450重量部(主にフェノキシエタノール)を留去した。得られた濃縮液にトルエン250重量部を添加した後、撹拌下、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ過して取り出した。
【0097】
得られた結晶を、結晶重量(ウエット重量)と同重量のトルエンを使用して洗浄したところ、目的化合物である9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)が得られた。フルオレノン基準のBPEFの収率は84モル%であった。得られたBPEFの純度は99.3重量%であり、残留硫黄濃度は9ppm、黄色度は1.5(無色透明)であった。
【0098】
(実施例2)
実施例1において、反応温度を110℃から105℃に代え、反応時間を6時間から20時間に代えたこと以外は、実施例1と同様にして20時間反応させた結果、BPEFが得られた。なお、脱水により、反応系の液相の水分濃度は0.04重量%に保持した。20時間後のフルオレノンの残存量は0.1%以下であり、フルオレノン基準のBPEFの収率は84%、純度は98.6%、残留硫黄濃度は10ppm、黄色度は1.0であった。
【0099】
(比較例1)
脱水処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にBPEFを合成した。20時間経過後の反応液をHPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は93%とほとんど反応していなかった。なお、20時間経過後の反応系の液相の水分濃度は0.3重量%であった。
【0100】
(比較例2)
反応温度を110℃から160℃まで上げた以外は比較例1と同様にBPEFを合成した結果、フルオレノンの残存量は89%とほとんど反応していなかった。
【0101】
(比較例3)
比較例1において、2−フェノキシエタノール552重量部(2.0モル)に代えて、トルエン92重量部(1.0モル)およびフェノキシエタノール226重量部(1.0モル)を使用し、反応温度を120℃とした以外は、比較例1と同様にBPEFを合成した結果、反応時間が14時間経過しても、フルオレノンの転化率は45%にとどまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換樹脂の存在下、下記式(1)で表されるフルオレノン類と、下記式(2)で表されるアルコール類とを、反応系の液相中の水分濃度を0.1重量%以下に脱水しつつ反応させて、下記式(3)で表されるフルオレン骨格を有するアルコール類を製造する方法。
【化1】

(式中、環Zは芳香族炭化水素環、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基、Rはアルキレン基、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示す。kは0〜4の整数、mは1以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数である。)
【化2】

(式中、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
【請求項2】
反応系の液相中の水分濃度を0.08重量%以下に脱水しつつ反応させる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
チオール類の非存在下で反応させる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
陽イオン交換樹脂以外の他の酸触媒、チオール類および溶媒をいずれも実質的に用いることなく、陽イオン交換樹脂の存在下、反応温度70〜125℃で、反応系の液相中の水分濃度を0.07重量%以下に脱水しつつ反応させる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
減圧下、反応系の気相に不活性ガスを供給しつつ、気相を排出することにより脱水する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
1〜500Torrの減圧下で脱水する請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
がC2−4アルキレン基であり、mが1〜10である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
がC1−4アルキル基であり、kが0〜1であり、環Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、Rがエチレン基であり、mが1〜4であり、nが1〜3であり、RがC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、pが0〜2である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−46416(P2009−46416A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213299(P2007−213299)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】