説明

フルオロオレフィンの製造方法

電気化学的フッ化によって、少なくとも1個の炭素結合水素を含む出発原料をペルフルオロ化するステップと、この分離された流出物を熱分解で解離するステップと、この流出物を急冷し、かつ分離して、テトラフルオロエチレンおよび/またはヘキサフルオロプロピレンを生成するステップと、を含むフルオロオレフィンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン(TFE)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)は、プラスチックおよびエラストマのフルオロポリマーの製造の際、モノマーとして広く使われている。例えば、(非特許文献1)を参照されたい。TFEの世界的な消費量は、10トン/年を超える。HFPは、熱可塑性およびエラストマのフルオロポリマーを製造するためのコモノマーとして、およびヘキサフルオロプロペンオキシド(HFPO)を製造するための出発原料として、使用される。世界的な消費量は、30,000トン/年と算定される。
【0003】
TFEおよびHFPの周知の製造方法がいくつかある。最も一般的な方法で、工業的規模でほとんど独占的に使用される方法は、CHClF(R−22)を熱分解することに関係する。例えば、(特許文献1)を参照されたい。CHClFの高温度(600℃〜1000℃)熱分解により、高収率でTFEおよびHFPが生成する。しかし、R−22に関する環境への懸念がある。この方法では、等モル量の水溶性の塩化水素酸、および相当量の部分フッ化塩素化化合物が製造されるが、これらをTFEから分離して、重合品位のTFEを得るのは難しい((特許文献2))。水溶性の塩化水素酸の場合、水溶性の塩化水素酸を使用できる工業的用途が広く探索されている。フッ化物および他の副生物は、熱酸化機によって焼却しなければならず、それは、費用のかかる別のプロセスであり、多量のCOを生成する。
【0004】
(特許文献3)は、フッ素元素が炭素と反応してCFを生成し、それを、炭素の存在下でプラズマトーチ中でTFEに転化する方法を記載している。未反応CFは、プラズマに送り戻される。したがって、この技術は、好都合にも「閉ループ」であり、環境への放出が最小であることを意味する。しかし、この方法は、費用のかかるフッ素元素を使用し、高いエネルギー消費量が必要になるため、決して経済的には現実的でない。
【0005】
(特許文献4)および(特許文献5)は、費用効率のよいフッ素供給源として、金属フッ化物、具体的にはCaFがプラズマ中で炭素と反応するプラズマ法を記載している。したがって、フッ素元素の費用は回避される。この技術は、依然として高いエネルギー消費量を必要とする。
【0006】
当技術分野で解説されている別の方法は、TFEおよび/またはHFPをエチレンと反応させ、次に、電気化学的フッ化(ECF)によって、シクロブタンをフッ素と化合させることに関係する。次いで、このパーフルオロシクロブタン生成物を、例えば、その中の引用文献を含めて(特許文献6)および(特許文献7)に記載されているような、従来の熱分解技術を使用して熱分解する。(特許文献7)の教示によれば、ECF法において形成されるどの副生物も分離されるが、さらに使用されることはない。したがって、この方法によってかなりの廃棄物が生成され、それは、環境負荷の原因となり、その方法を経済的に魅力的にはしない。加えて、この方法は、出発化合物の1つとしてTFEの使用が必要であり、そのため、生成されるTFEの一部がさらなるTFEを生成する必要があるので、追加の経済的欠点が作り出される。
【0007】
(特許文献8)は、TFEの調製方法を開示しており、その方法は、連続式電気アークに飽和ペルフルオロカーボンを供給するステップと、出てくるガス状生成物を、2000℃〜2700℃の温度の炭素床を通過させるステップと、得られたガス状の製品混合物を、1秒未満で500℃未満まで急冷するステップと、を含む。
【0008】
(特許文献9)は、Ar、HF、CO、CF、およびCOから選択されるガスの存在下で、フッ素および水素を含み、F対Hの比が1以上であり、かつ、F対Cの比が1以上であるC〜C10化合物を、少なくとも2000°Kの温度で加熱することによって、TFEを製造する方法を開示している。加熱は、直流(Direct Current)(DC)プラズマ法で、または高周波エネルギー法によって行われる。
【0009】
1分子あたり少なくとも3個の炭素を有するフルオロカーボンを熱分解することによって、TFEを製造するための塩素を含まない別の方法が、(特許文献10)に開示されている。熱分解は、好ましくはアーク中に発生した少なくとも1500℃の温度で起こる。熱分解の副生物は、TFEを分離した後、熱分解炉に送り戻される。熱分解すべきフルオロカーボンは、フッ素元素を使用して石油留分の徹底的なフッ化から得られるが、それは、その方法を経済的に魅力のないものにする。
【0010】
塩素を含まないさらに別のTFE製造方法は、(特許文献11)に記載されている。PTFE、または、ペルフルオロもしくは高度フッ化共重合体などの細かく分割されたフルオロポリマーを、過熱蒸気で熱分解する。この原料材の供給源は、使用できない破片材料、または摩滅した装置からの材料である。この方法は、廃棄物の経済的な処理方法である。塩素を含まない別のTFE製造方法は、(特許文献12)に記載されている。固体の微粒子フルオロカーボン、具体的にはPTFE、および高度もしくはペルフルオロ化ポリマーをDCプラズマにかけて、TFEを生成する。塩素を含まないさらに別のTFE製造方法は、(特許文献13)に開示されており、そこでは、ガスまたは液体フルオロカーボンは、DCプラズマによって熱分解される。塩素を含まない別のTFE製造方法は、(特許文献14)に記載されている。ガス、液体、および固体のペルフルオロカーボン、具体的にはペルフルオロポリマーが、誘導加熱によって熱分解される。これらの技術は、新たなC−F結合を生成せず、したがって、TFEに対する要求を満たすことができないので、これらの方法は、R−22を介する標準技術に代わることができない。
【0011】
【特許文献1】米国特許第2,551,573号明細書
【特許文献2】米国特許第4,898,645号明細書
【特許文献3】米国特許第5,611,896号明細書
【特許文献4】米国特許第5,633,414号明細書
【特許文献5】米国特許第5,684,218号明細書
【特許文献6】欧州特許第455,399号明細書
【特許文献7】国際公開第00/75092号パンフレット
【特許文献8】米国特許第3,081,245号明細書
【特許文献9】欧州特許第371,747号明細書
【特許文献10】英国特許第766 324号明細書
【特許文献11】欧州特許第0 647 607号明細書
【特許文献12】国際公開第01/58840−A2号パンフレット
【特許文献13】国際公開第01/58841−A1号パンフレット
【特許文献14】国際公開第01/58584−A2号パンフレット
【特許文献15】国際公開第98/50603号パンフレット
【特許文献16】米国特許第5,322,597号明細書
【特許文献17】米国特許第2,519,983号明細書
【特許文献18】米国特許第5,387,323号明細書
【特許文献19】米国特許第3,753,976号明細書
【特許文献20】米国特許第3,957,596号明細書
【特許文献21】米国特許第4,203,821号明細書
【特許文献22】米国特許第4,406,768号明細書
【特許文献23】特開平2−30785号公報
【特許文献24】ソヴィエト連邦特許第1,666,581号明細書
【特許文献25】米国特許第4,139,447号明細書
【特許文献26】米国特許第4,950,370号明細書
【特許文献27】米国特許第5,858,065号明細書
【特許文献28】米国特許第5,919,285号明細書
【特許文献29】米国特許第5,814,127号明細書
【特許文献30】米国特許第5,759,237号明細書
【特許文献31】国際公開第95/21126号パンフレット
【特許文献32】米国特許第5,110,996号明細書
【特許文献33】国際公開第01/00156号パンフレット
【特許文献34】独国特許出願公開第37 29 106−A1号明細書
【特許文献35】米国特許第2,567,011号明細書
【特許文献36】米国特許第5,814.127号明細書
【非特許文献1】J.シェイアーズ(Scheirs)著、「最新のフルオロポリマー(Modern Fluoropolymers)」(ワイリー(Wiley)、1996年)
【非特許文献2】J.バードン(Burdon)およびJ.C.タットロー(Tatlow)著、「フッ素化学の進歩(Advances in Fluorine Chemistry)」(M.ステーシー(Stacey)、J.C.タットロー、およびA.G.シャープ(Sharpe)編集、巻1、ページ129−37、ブッタースワース(Buttersworths)サイエンティフィック出版、ロンドン、1960年)
【非特許文献3】W.V.チャイルズ(Childs)、L.クリステンセン(Christensen)、F.W.クリンク(Klink)、およびC.F.コルピン(Kolpin)著、「有機電気化学(Organic Electrochemistry)」(H.ルンド(Lund)、およびM.M.バイツァー(Baizer)編集、第3版、ページ1103−12、マルセル・デッカー社(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク、1991年)
【非特許文献4】A.J.ルッジ(Rudge)著、「工業用電気化学プロセス(Industrial Electrochemical Processes)」(A.T.クーン(Kuhn)編集、ページ71−75、マルセル・デッカー社、ニューヨーク、1967年)
【非特許文献5】F.G.ドラケスミス(Drakesmith)著、「現代化学のトピック(Topics Curr.Chem.)」(193、197(1997年))
【非特許文献6】「フッ素化学(Fluorine Chemistry)」第1巻のページ416−418(J.H.シモンズ編集、アカデミック・プレス社(Academic Press,Inc.)によって1950年発行、ニューヨーク)
【非特許文献7】W.V.チャイルズら著、「有機電気化学におけるアノードフッ化」(H.ルンド、およびM.バイツァー編集、マルセル・デッカー社、ニューヨーク、1991年)
【非特許文献8】「ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサエティ(J.Electrochem.Soc.)」:総説およびニュース(REVIEWS AND NEWS)(D.E.ダンリー(Danly)、131(10)、435C−42C(1984年))
【非特許文献9】「電気有機プロセスの出現可能性(Emerging Opportunities for Electroorganic Processes)」(D.E.ダンリー、ページ132−36、マルセル・デッカー社、ニューヨーク、(1984年))
【非特許文献10】「プラズマ中のフッ素反応(Fluorine Reactions in Plasma)」(バリー・ブロンフィン(Barry Bronfin)著、MITプレス(MIT PRESS)、マサチューセッツ州、(1967年))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、効率がよく、環境にやさしく、および/または費用効率のよいTFEおよび/またはHFPの製造方法に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願出願人らは効率のよい収率を有し(全体の収率は、炭化水素原料を基準にして、好ましくは90%を超える)、塩化水素酸廃棄物流れをなくすことができるTFE製造方法を見出した。本発明の方法はまた、HFPを製造することができ、したがって、これを使用して、所望ならTFEとHFPの両方を製造することができる。本方法は、一般に、TFEを精製するための分離の労力を少ししか含まず、費用効率のよいやり方で設計することができ、かつ、廃棄材料の量が全くないか、またはごく少量作り出されるいわゆる閉ループとして設計することができる。この閉ループプロセスは、環境保護の点で有利である。
【0014】
本発明は、テトラフルオロエチレンおよび/またはヘキサフルオロプロピレンの製造方法を提供し、
(a)線状もしくは分岐した炭化水素化合物および/または部分的にフッ化した線状もしくは分岐した炭化水素化合物を含む出発原料を、出発原料の少なくとも一部における全ての水素をフッ素で置換するのに十分な温度および圧力条件下で、電気化学セル(ECFセル)中の無水液体フッ化水素溶液中で、電気化学的フッ化(ECF)によってペルフルオロ化して、ECF流出物を生成するステップと、
(b)前記ECF流出物を分離して、ペルフルオロ化供給原料を生成するステップと、
(c)前記ペルフルオロ化供給原料を熱分解して、反応混合物を生成するステップと、
(d)前記反応混合物を急冷して、製品混合物を生成するステップと、
(e)前記製品混合物からテトラフルオロエチレンおよび/またはヘキサフルオロプロピレンを回収するステップと、
を含む。
【0015】
一実施形態によれば、ステップ(c)の熱分解は、炭素の存在下で行われる。これにより、CFおよびCなどのF対Cの比が高いペルフルオロ化化合物の転化が可能になる。これらの化合物は、一般にECFセルのオフガス流れ中に存在し、本発明の一実施形態によれば、そこから分離することができ、したがって、炭素の存在下で熱分解できる。熱分解は、DCプラズマによって、または誘導加熱によって進めることができ、炭素の存在下で行うことが好ましい。誘導加熱の場合、熱分解は、少なくとも500℃、一般には500℃〜3000℃(含む)、典型的には700℃と3000℃(含む)の間、または900℃と1500℃(含む)の間の温度で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、閉ループとしての本発明方法の一実施形態を概略的に示す。炭化水素原料材は、ECFセル(10)で電気化学的にフッ化される。低沸点フルオロカーボンは、オフガス、すなわち主に水素である流れ10aから分離され(11)、場合により熱分解炉(20)に供給されるペルフルオロ化化合物、すなわち流れ11aに、および、ECFセル(10)へ供給される部分的にフッ化した化合物、すなわち流れ11bに、さらに分離される。高沸点フッ化化合物、すなわち流れ10bは、ECFセルのECF流出物またはいわゆるブラインから分離される(12)。これらのフッ化した化合物は、熱分解炉(20)のペルフルオロ化供給原料として供給されるペルフルオロ化化合物に、および、ECFセル(10)へ送り戻される部分的にフッ化した化合物、すなわち流れ12bに、さらに分離される。
【0017】
流れ11aおよび12aのペルフルオロ化化合物は、熱分解チャンバ(20)で500℃〜3000℃の温度で熱分解され、急冷される。急冷されたガス、すなわち流れ20aは蒸留(30)にかけられ、TFEおよび場合によりHFP、並びに望まない副生物を生成し、副生物、すなわち流れ30bは、熱分解炉(20)へ送り戻される。
【0018】
図2は、本発明の別の実施形態を示す。図1の流れ30bは、ここではDCプラズマ炉(40)に供給され、すなわち流れ30cである。急冷された熱分解ガス、すなわち流れ40aは、そこからTFEおよび場合によりHFPを回収するために、蒸留(30)へ送り戻される。本実施形態では、ECFセルのオフガス流れ10aからのペルフルオロ化化合物の全部または一部を、キャリヤガス(流れ11c)としてDCプラズマ炉(40)に供給することができる。
【0019】
これらの図は、共通の尺度を持たず、単に例示するだけで、限定しないことを意図する。
【0020】
本発明は、テトラフルオロエチレンおよび/またはヘキサフルオロプロピレンの製造方法を提供する。本方法は、出発原料を、電気化学的フッ化を使用してペルフルオロ化し、次に、ペルフルオロ化材料を熱分解炉に供給して、TFEおよび場合によりHFPを生成することに関係する。
【0021】
本発明の方法は、全てのペルフルオロ化化合物をフルオロオレフィンに転化でき、全ての望まない副生物(例えばC−H含有/部分的にフッ化した材料)を完全に再利用できる閉ループプロセスとして設計するのが好ましい。これにより、プロセス費用、および廃棄物流れ中のフッ化化合物が低減される。したがって、本発明の方法は、環境保護について信頼性がある。様々な炭化水素(線状、分岐、飽和、不飽和)をECFセルに供給することができる。ペルフルオロ化ECF流出物は熱分解炉に供給され、部分的にフッ化した材料はECFセルに送り戻される。本発明において、ECFセルに送り戻される部分的にフッ化した材料は、一般に出発原料と呼ばれる。熱分解で、所望のTFEおよび/またはHFPが製造される。どのペルフルオロ化廃棄物生成物も再利用することができ、再び熱分解にかけられる。熱分解は、炭素の存在下で行うのが好ましい。誘導加熱を使用するのが有利であるが、しかしまた、DCプラズマも使用することができる。誘導加熱が使用される場合、熱分解は、少なくとも500℃でかつ3000℃以下の温度で進行し得る。廃棄物流れ中の部分的にフッ化した化合物はどれも、ECFセルの中へ再供給できる。
【0022】
好都合にも、本発明は、特にTFEの分離および精製の際、当技術分野で知られているプロセスに比べて、少しの分離労力しか必要としない。これにより、関係する費用が低減される。R−22の熱分解と対比して、設備費およびエネルギー費用は、単蒸留が含まれるので(より少ない塔)、より少額である。加えて、本発明の方法は、当技術分野で知られているプロセスに比べて、小さい容積規模(例えば1000トン/年)でさえ経済的に実行可能になり、したがって、少額の設備投資しか必要としないだろう。TFEは、その不安定性の故に、効率的に輸送することができない。したがって、TFEは、典型的には輸送の前にポリマーに転化されるか、またはさらに処理される。したがって、目的のポリマーが製造される現場でTFEを製造できることが有利である。本発明の方法が少量生産で経済的に実行可能であるので、TFEを、目的のポリマーが製造される現場で容易に製造することができる。
【0023】
「フッ化」は、少なくとも1個の炭素結合水素がフッ素によって置換された化合物を指し、具体的には、ペルフルオロ化化合物、および部分的にフッ化した化合物、すなわち分子中にC−FとC−H結合を有する化合物が含まれる。
【0024】
「ペルフルオロ化」化合物は、実質的に全ての炭素結合水素がフッ素によって置換された化合物を指すが、ただし、典型的には、若干の残留水素化物、例えば、好ましくは2重量%未満のペルフルオロ化生成物がペルフルオロ化組成物に存在する。
【0025】
本発明方法の一実施形態が図1に記載されている。図1で、HFおよび出発原料がECFセル10に供給される。次いで、ECF流出物10bが分離プロセス12に供給され、ECFセルからのオフガス10aが膜プロセス11に供給される。膜プロセスにより、オフガス10aが、部分的にフッ化した化合物11b、およびペルフルオロ化化合物11aに分離される。部分的にフッ化した化合物は、さらなる処理のためにECFセルに返送される。オフガス(H)は、排出されるか、または、エネルギー製造に使用することができる。ECF流出物10bは12で分離されて、所望のペルフルオロ化化合物12a、およびペルフルオロ化化合物11aは、熱分解炉20に供給される。熱分解の後、次いで、製品混合物20aは、典型的には単蒸留である分離プロセス30に供給される。所望の製品TFEおよび/またはHFPが分離される(30a)。望ましくないフッ素含有生成物30bは、さらなる処理のために熱分解炉に返送される。
【0026】
図2では、オフガス10aからのペルフルオロ化化合物11c、および蒸留30からのペルフルオロ化化合物は(流れ30c)、DCプラズマ(40)にかけられる。DCプラズマの反応混合物は急冷され、次いで、分離プロセス30に供給される(流れ40a)。オフガス・ペルフルオロ化化合物の全てを、DCプラズマに供給することができ(流れ11c)、その場合、流れ11aは存在しないか、または、流れ11aおよび11cが共存するように、その一部だけをDCプラズマに供給することができる。同様に、流れ40aだけを使用してもよく、または、その代わりに流れ40aは流れ30bと共存してもよい。
【0027】
出発原料
ECFの出発原料として、様々な材料を使用することができる。出発原料は、ガス、液体、またはそれらの混合物とすることができる。出発原料は、一般に、線状もしくは分岐した炭化水素化合物、部分的にフッ化した線状もしくは分岐した炭化水素化合物、またはそれらの混合物を含む。線状もしくは分岐した炭化水素化合物は、一般に炭素および水素からなるが、しかし、ヒドロキシ、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、およびアミド基などの1個もしくはそれ以上の置換基を有する炭化水素化合物は、本発明に使用されるとき、用語「炭化水素化合物」の範囲内である。しかし、出発原料は、塩素、臭素、またはヨウ素が望ましくない廃棄材料を生み出すような材料を含めて、塩素、臭素、またはヨウ素を実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」は、出発原料は、材料を含まないか、あるいは、出発原料の全体重量と比較して1または2重量%以下の量で材料を含むことを意味する。出発原料は、線状もしくは分岐した(部分的にフッ化した)炭化水素化合物と混和した環式炭化水素などの、環式化合物を含むことができる。このプロセスは、出発原料として、化合物の混合物を使用することに対応しており、これらの混合物は、それらが多種多様な異なる化合物を含むという点で複雑であってもよい。
【0028】
出発原料は、完全に炭化水素である直鎖もしくは分岐したアルカン(例えば、直鎖アルカンC2n+2、式中、nは約3〜25、好ましくは約4〜8または10であり、より好ましくはnは4〜6である)、または、部分的にフッ化したその類似物(例えば、C、式中、Xはフッ素であり、xは少なくとも1であり、かつx+y=2n+2である)を含むことが好ましい。この炭化水素化合物は、オレフィン、および、ベンゼン、トルエン、またはキシレンなどの芳香族化合物を含めて、飽和および不飽和の化合物を含むことができる。特に好適な出発原料の例には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、およびオクタンが含まれる。容易に利用できる好適な出発原料の例には、メタン、および最高でC10の炭化水素、並びにこれらの混合物、並びに、炭化水素とオレフィン(例えばイソブチレンなど)の混合物が含まれる。具体的な炭化水素出発原料には、原油および石油留分、並びに、原油の精製に、並びにエチレンおよびプロピレンなどのオレフィン製造に由来するいわゆる蒸留留分が含まれる。これらの石油留分の沸点は、200℃以下、より好ましくは150℃または100℃以下であることが好ましい。
【0029】
ECFセルの全体圧力を低く保持するために、ガス状の出発原料は、少なくとも−50℃の沸点を有し、液化するのが容易であるもの、例えば、プロパン(b.p.−42℃)、プロペン(b.p.−47℃)、ブタン(b.p.0℃)、ブテン(b.p.−6℃)、イソブチレン(b.p.−7℃)が好ましい。速くて、かつ完全なフッ化を確実にするため、液体出発原料は、10個以下の炭素原子を有する化合物であることが好ましい。そうでない場合は、フッ化はゆっくりと進行し、広範囲にわたる枝分れおよび分解が起こる可能性があり、そのため、分離ステップがより難しくなる。炭化水素およびそれらの異性体、並びにオレフィンの混合物を、出発原料としてECFセルに加えることができる。注目すべきは、本発明において、ECFセルに送り戻される部分的にフッ化した材料11bは、用語出発原料に含まれる。
【0030】
電気化学的フッ化
一般に、どの電気化学的フッ化プロセスも、出発原料をペルフルオロ化するのに使用できる。例えば、シモンズ(Simons)電気化学的フッ化プロセス、断続電流プロセス(interrupted current process)((特許文献15)を参照のこと)、双極形フローセル(bipolar flow cell)((特許文献16)を参照のこと)、ソルーシャ(SOLUTIA)EHDプロセス等を使用することができる。
【0031】
シモンズ電気化学的フッ化(シモンズECF)プロセスは、1950年代に、ミネソタ・マイニング・マニュファクチュアリング・カンパニー(Minnesota Mining and Manufacturing Company)によって最初に商業化された。このECFプロセスは、電解液(すなわち、フッ化可能な有機出発化合物、無水の液体フッ化水素、および多分導電性添加物の混合物)を経由して直流電流を通して、所望のフッ化化合物またはフッ素化合物を製造することを含む。シモンズECFセルは、典型的には、単極形電極組立体、すなわち、低電圧(例えば、4〜8ボルト)で、電極ポストを経由して直流の供給源に並列に接続される電極を利用する。シモンズECFセルは、一般に分割されていない単一区画セルであり、すなわち、このセルは、典型的には、膜またはダイアフラムによって分離されるアノードまたはカソード区画を含まない。シモンズECFプロセスは、(特許文献17)に開示されており、また、(非特許文献2)、(非特許文献3)、(非特許文献4)、(非特許文献5)に若干詳細に記載されている。
【0032】
シモンズECFは、本質的に以下のように行うことができる。出発原料および任意選択の導電性添加物を、無水のフッ化水素に分散または溶解し、電解質の「反応溶液」を形成する。1個もしくはそれ以上のアノードおよび1個もしくはそれ以上のカソードを、反応溶液中に置き、アノードとカソードの間に電位(電圧)を確立すると、反応溶液を経由してカソードとアノードの間に電流が流れるようになり、アノードで酸化反応(主にフッ化、すなわち、1個もしくはそれ以上の炭素結合水素の炭素結合フッ素による置換)、および、カソードで還元反応(主に水素発生)が得られる。本明細書で使用されるとき、「電流」は、句の普通の意味の電流、すなわち電子の流れを指し、また、正または負に帯電した化学種(イオン)の流れを指す。シモンズECFプロセスは、周知であり、多数の技術上の刊行物の主題である。シモンズECFプロセスを記載した初期の特許は、(特許文献17)(シモンズ)であり、それには、シモンズ・セルおよびその付属装置の図が含まれている。シモンズECFプロセスを実施するのに適切な実験室およびパイロット・プラント規模の電気化学的フッ化セルの詳細な説明および写真は、(非特許文献6)に記載されている。(特許文献16)(チャイルズ(Childs)ら)および(特許文献18)(ミンディ(Minday)ら)それぞれは、シモンズECFプロセスおよびシモンズECFセルを引用している。
【0033】
一般に、シモンズECFプロセスは、電解液を通過する一定電流で、すなわち、一定電圧および一定電流で実施される。例えば、(非特許文献7)の「アノードのフッ化(Anodic Fluorination)」を参照のこと。電解液を通過する電流によって、出発原料の1個もしくはそれ以上の水素がフッ素により置換されるようになる。
【0034】
1950年代以来、これらに限らないが、(特許文献19)(ボス(Voss)ら)、(特許文献20)(セト(Seto))、(特許文献21)(クラマー(Cramer)ら)、(特許文献22)(キング(King))、(特許文献23)(徳山曹達KK)、(特許文献24)(グリベル(Gribel)ら)、(特許文献25)(ファロン(Faron)ら)、および(特許文献26)(タランコン(Tarancon))に記載されているものを含めて、様々な修正形態および/または改良が、シモンズECFプロセスに導入されてきた。
【0035】
別の有用な電気化学的フッ化セルには、電気化学的フッ化技術においてフローセルとして知られているタイプが含まれる。フローセルは、アノードおよびカソードの1セット(それぞれ1つ)、スタック、または一連のアノードおよびカソードを含んでなり、その場合、強制循環の使用により、反応溶液がアノードおよびカソードの表面にわたって流れるようになる。これらのタイプのフローセルは、一般に単極形フローセル(単一のアノードおよび単一のカソードを有し、普通の電気化学的フッ化セルの場合と同様に、場合により単一プレート以上の形をしている)、および、双極形フローセル(一連のアノードおよびカソードを有する)と呼ばれる。
【0036】
引用により本明細書に組み込まれる(特許文献16)(チャイルズら)は、つい最近、強制対流によって、双極形電極スタックの電極間で連続的な液相が実質的に維持される温度および圧力で、無水のフッ化水素およびフッ化可能な有機化合物を含む液体混合物を通すことを含む、電気化学的フッ化プロセスの双極形フローセルの実施法を記載している。この双極形電極スタックは、導電性材料、例えばニッケルで製造された、複数の実質的に並列の間隔を置いた電極を含んでなり、それは、無水のフッ化水素に実質的に不活性であり、アノードとして使用した場合、電気化学的フッ化に対し活性である。このスタックの電極は、直列または直並列のいずれかの電気的な配置で取付けられる。双極形電極スタックは、フッ化有機化合物を生成させ得る直流を発生する、印加電圧差を有する。
【0037】
双極形フローセルの別の例は、ソルーシャ(Solutia)EHD(電解水素二量化(electrohydrodimerization))セルである。(非特許文献8)、および(非特許文献9)を参照のこと。
【0038】
断続電流電気化学的フッ化プロセスでは、一般に、フッ化水素および出発原料を含む反応溶液が調製される。フッ化水素は、無水のフッ化水素であることが好ましく、それは、最高でもわずかな水量、例えば約1重量パーセント(重量%)未満の水、好ましくは約0.1重量パーセント未満の水だけを含むことを意味する。ECFセル内の反応溶液には、HFおよびその中に溶解した量の出発原料を含む電解液相が含まれる。一般に、出発原料は、液体フッ化水素中にある程度まで可溶または分散可能であることが好ましい。ガス状の出発原料を、フッ化水素を経由して泡立せるか、または圧力下にセルに充填して、反応溶液を調製することができる。固体または液体出発原料を、フッ化水素に溶解または分散することができる。相対的に少ししかフッ化水素に溶解しない出発原料は、フッ素化合物流体に溶解した溶質として、セルに導入することができる。
【0039】
反応溶液は、出発原料をフッ化させるのに十分な反応条件(例えば温度、圧力、電圧、電流、および電力)に暴露される。具体的なフッ化プロセスとして選択される反応条件は、ECFセルの大きさおよび構造、反応溶液の組成、導電性添加物の有無、並びに流速などの因子に依存する。
【0040】
反応温度は、出発原料のフッ化が有効な程度に可能になる任意の温度とすることができる。温度は、先行の段落に議論した因子、並びに、出発原料の溶解性、および、出発原料またはフッ化生成物の物理的状態に依存するだろう。
【0041】
反応溶液を通過する電気量は、出発原料のフッ化が得られることになる任意の量とすることができる。電流は、フッ化の間、出発原料の過大な分解を引き起こすか、または、フッ素ガスの遊離を引き起こすのに不十分であることが好ましい。
【0042】
ECF流出物は、蒸留などの従来技術を使用して分離することができる。次いで、所望のペルフルオロ化化合物は、熱分解炉に供給される。十分にフッ化してない化合物は、ペルフルオロ化するためにECFセルに返送される。
【0043】
熱分解に至る原料中における部分的にフッ化した材料の量(すなわち、依然としてC−H結合を含む)は、好ましくは10重量パーセント未満、より好ましくは5重量パーセント未満、最も好ましくは2重量パーセント未満である。
【0044】
膜プロセス/分離
ECFセルは、オフガスを捕集するための1つもしくはそれ以上の膜システムを有することができる。一般に、オフガスは水素(H)である。若干のフッ素含有化合物(すなわち、ペルフルオロ化および非ペルフルオロ化化合物)は、一般にオフガスに同伴される。膜プロセスを使用して、部分的にフッ化した化合物およびペルフルオロ化化合物を捕集することができ、次に、部分的にフッ化した化合物を、ECFセルへ送り戻すことができる。膜分離を導入することによって、Hだけが全体のプロセスから放出され、好都合にも閉ループプロセスが得られる。放出される水素ガスは、プロセス用にエネルギーを発生させる別の使い道を見つけるか、または、製造プラントの他の場所でエネルギーを提供することができる。
【0045】
膜は、膜壁両端間での選択透過の原理によって、ガスを分離する。高分子膜の場合、各ガスの透過速度は、膜材料中への溶解度および膜壁中の分子自由体積を経由する拡散速度によって定められる。膜中で高い溶解度を示すガス、および分子の大きさが小さいガスは、より大きく、少ししか溶解しないガスに比べて、より速く透過する。
【0046】
ECFプロセスからの産出物には、大容積の水素、ペルフルオロ化生成物、および部分的にフッ化した材料が含まれる。膜プロセスは、フッ化した材料(透過する)を濃縮しながら、より小さい、より溶解する水素を膜通過させることによって、フッ化した化学種から水素を分離する。要求されることは、99.9%超の純度( <<1%H2)で99%超のフッ化された材料を回収することである。
【0047】
適切な膜は、商業的に入手可能である。商業的に入手可能な一つの膜は、エアー・リキッド(Air Liquide)(テキサス州ヒューストン(Houston))から市販のメダールガス分離(MEDAL(商標) Gas−separation)膜である。(さらに、(特許文献27)、(特許文献28)、(特許文献29)、および(特許文献30)を参照されたい。)
【0048】
あるいは、極低温蒸留プロセスを使用して、オフガス(H)を分離することができる。加えて、Oの存在下で、金属(例えば白金)による触媒的なHの「低温燃焼」を使用することができる。
【0049】
熱分解
熱分解は、ECFから得たペルフルオロ化材料、すなわち流れ11aおよび12aを、例えば、熱分解炉(図1の(20))中で、500℃より上の温度にさらし、それによってペルフルオロ化材料を加熱分解させることとして定義される。ペルフルオロ化化合物は、ガスとして、ほとんどの場合大気圧より低い圧力下で、炉に供給することができる。このペルフルオロ化化合物は、これらの条件下で、主にジフルオロ・カルベン|CF2に分解する。
【0050】
こうして得た高温「反応混合物」は、続いて急冷され、すなわち、一般に1秒未満内、好ましくは0.1秒未満で、400℃未満、一般に300℃未満、好ましくは100℃未満まで急速冷却される。10〜10K/秒の冷却速度を使用することができる。このような高い冷却速度は、高温反応混合物を、外部冷却されている管の束を経由して導くことによって、または、反応混合物中に冷却材を注入することによって、達成することができる。後者の技術は湿式急冷とも呼ばれ、前者は乾式急冷と呼ばれる。液体ペルフルオロ化炭素または水のような低温のガスまたは液体を、冷却材として使用することができる。急冷プロセスの効率は、一般にTFEの選択性を制御する。冷却速度が速くなるほど、選択性が高くなり、コーキングが少なくなる。コーキングは、炭素およびCFへの|CFの不均化を経由して生じる炭素の形成である。コーキングは、急冷プロセスを妨害する。
【0051】
熱分解チャンバの加熱は、電力または過熱蒸気のような外部供給源により達成することができる。典型的には、誘導加熱を使用する場合、熱分解は、少なくとも500℃〜3000℃以下の温度で行われる。最新の技術は、マイクロ波による誘導加熱である。必要とされる強力なマイクロ波発生装置は、商業的に入手可能である。周波数は、通常約50〜3000kHzである。温度は、典型的には600〜3000℃、例えば700℃〜2500℃の範囲である。マイクロ波による誘導加熱は、(特許文献31)、(特許文献32)、(特許文献7)、および(特許文献14)に記載されている。
【0052】
熱分解は、炭素の存在下で進行させることが好ましい。誘導加熱が使用される場合、炭素は、熱パッキング材料として供給することができる。炭素を使用することは、フッ素原子対炭素原子の比が有意に2を超える、例えば、2.5または2.7を超える場合、CF、C、および他のペルフルオロ化化合物をTFEに転化するのに特に有利である。このような化合物は、炭素がない場合、化学量論的制約の故に、TFEに容易に転化することができない。炭素の存在下で、これらのペルフルオロ化化合物をTFEに転化するのに必要になる温度は、誘導加熱によって容易に達成することができる。
【0053】
熱分解の別の方法は、例えば、引用により本明細書に組み込まれる(特許文献3)に記載されているような、直流(DC)プラズマ技術である。電極間に火炎を維持するためにキャリヤガスが必要である。火炎温度は、10000°Kを超えることができる。DCプラズマ熱分解も、炭素の存在下で行うことが好ましい。CFがキャリヤガスである場合、フッ素対炭素の比が低い他のペルフルオロ化化合物だけでなく、CFもTFEに転化される。炭素は、粉状炭素の噴射によって、または、「自己消費」炭素電極を作動させることによって、DCプラズマ熱分解炉に供給することができる。DCプラズマで得られた高温反応混合物を、上記のように急冷して、高い選択性でTFEおよび/またはHFPを得ることができる。プラズマ技術は、例えば、(非特許文献10)に含まれている。別の適切なDCプラズマ炉は、例えば、(特許文献33)に記載されている。
【0054】
具体的な実施形態では、例えば、誘導加熱による3000℃以下の温度での熱分解を使用して、ECF流出物に由来するペルフルオロ化化合物(図2、流れ12a)を熱分解し、DCプラズマを使用して、ECFオフガス(流れ11c)および蒸留物(流れ30c)に由来するペルフルオロ化化合物を熱分解する。これらの熱分解のそれぞれは、炭素の存在下で行うことが好ましい。
【0055】
そのプロセスまたはそのプロセスの一部は、回分式か、または連続式のいずれかとすることができる。ECFセルは、熱分解炉にバッチ式で供給されるペルフルオロ化流出物を生成することができ、または、ECFセルは、熱分解炉に連続式で供給されるペルフルオロ化流出物を生成することができる。いずれの方法によっても、このプロセスは、閉ループとして設計することができる。
【0056】
蒸留
TFEおよびHFPは、ガスを急冷した混合物、すなわち流れ20aおよび40aから、蒸留(30)によって単離される。この混合物は、典型的には、TFE、HFP、ペルフルオロイソブチレン(PFIB)、および、CF、C6、またはオクタフルオロシクロブタンのような飽和ペルフルオロアルカンを含む。R−22を介して普通に使用される「塩素」プロセスとは対照的に、水素および塩素含有化合物は、実質的に存在しない。このため、PTFEを生成するための以降の重合においてTFEが使用されることになる場合でさえ、R−22プロセスと比較して、蒸留を経由するTFEおよびHFPの分離が相対的に単純になる。
【0057】
重合品位のTFEを製造する場合、特にPTFEを製造する場合、ビニルフッ化物、フッ化ビニリデン、トリフルオロクロロエチレン等のような水素および塩素含有モノマーは、それらが、所望の品質および特性を有するPTFEの製造を妨害するので、1ppmレベル未満に除去することが好ましい。したがって、既存のプロセスは、例えば、(特許文献34)に詳述されているように、複雑なモードで運転される多くの蒸留塔が必要になる。結果として、数1000トンTFE/年の容量を有する装置だけが経済的に競争力があった。
【0058】
本発明の方法では、少数の蒸留塔だけで重合品位のTFEを生成することができる。PFIBのような高沸点成分から、CF、C、環式のCのような「低沸点」成分を分離するのに実質的に2つの塔が必要になるだけである。これらの副生物の蒸留留分は、熱分解炉に送り戻され、例えば、図1の流れ30bは、誘導加熱を使用する低温熱分解炉に、または、本発明の別の実施形態では、図2の流れ30cは、DCプラズマ炉(40)に、送り戻される。
【0059】
飽和ペルフルオロ化成分は、重合時、妨害せず、したがって、高濃度時でさえ、汚染物として許容される。同じことが、「単離された」水素原子を含む飽和「ペルフルオロ」化合物にも当てはまる。単離された水素は、C−F結合が側面に位置する単一の水素として理解される。このような水素は、重合時、実質的に連鎖移動反応を誘発しない。したがって、蒸留に関する装置費用は少ない。したがって、1000トンTFE/年未満の容量を有する小さい装置を、経済的に運転することができる。
【実施例】
【0060】
次の実施例は、本発明の様々な特有の特徴、利点、および他の詳細を例示する。これらの実施例において詳述される具体的な材料および量、並びに他の条件および詳細は、本発明の技術的範囲を不当に限定しようとする方法で解釈されるべきでない。全ての割合、百分率、および比は、特に明記しない限り、重量による。
【0061】
実施例1:オクタンのシモンズ電気化学的フッ化
2つの塔頂留出コンデンサを備え、表面積0.037mのニッケル・アノードを有する、(特許文献35)に記載されているタイプの1リットルの電気化学的フッ化セルに、C141000グラム、ジメチル二硫化物40グラム、オクタン40グラム、および無水のHF200グラムを仕込んだ。このセルを、45℃および2バールで作動させた。電圧は、5〜6ボルトの間、電流密度は約1500A/mであった。電圧を、4ボルト未満まで4秒間下げると、それぞれ80秒後、電流が実質的にゼロに低下するようになった(「電流の一時中断」)。オクタンをセルに連続的に供給して、循環しているフッ化化合物相中のその濃度を約5重量%に維持した。循環速度を、フッ化速度に関して著しく異なる影響を伴わずに、外部ポンプによって0.3から1セル容積/時間まで変化させた。
【0062】
この実験は、500時間行なった。断続的に、一部のフッ化化合物相を除去し、ペルフルオロアルカンを分離し、一部分は保存し、一部分はECFセルに戻して再利用した。HFを、電力消費量に従って補充した。フルオロカーボン1.7体積%を含むオフガスを、8バールで容器に保存し、以下の実施例2に述べる膜プロセスにかけた。
【0063】
ペルフルオロアルカンは、ガスクロマトグラフィによって、ペルフルオロオクタンについて分析した。その収率は15重量%であった。他の生成物は、最高でCFまで断片化した低級フルオロアルカンであった。電流効率は、約95%であった。
【0064】
実施例2:膜プロセス
実施例1の実験で塔頂留出コンデンサの後のECFセルから出てくるオフガス流れには、約1.7体積%のペルフルオロ化アルカンが含まれていた。典型的な組成を、表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
オフガス流れを、水溶NaOH溶液で洗浄し、ろ過して、あらゆる液体および固体粒子を除去し、8バールに圧縮し、およびポリイミド非対称複合材中空糸膜からなる2段膜システムに供給した。エアー・リキッド(テキサス州ヒューストン)からのメダール(商標)ガス分離プロセスを、(特許文献36)の実施例4に従って使用した。2番目の膜モジュールの産出では、99.9%のフルオロカーボンおよび0.1%未満のHが生成した。その組成を表2に与えた。「廃棄物流れ」は、99.7%の水素を含んでいた。回収したフルオロカーボンは、DCプラズマ熱分解でキャリヤガスとして、およびまた、誘導加熱熱分解の原料材として、直接使用することができた。
【0067】
【表2】



【0068】
実施例3:DC−プラズマ熱分解によるTFEの調製
(特許文献13)に記載されているような、30kWのDCプラズマトーチを使用した。炭素の存在は、「自己消費」炭素電極によって与えた。乾式急冷を使用した。この方法の効率は、純粋なフルオロカーボン(表3)、および、実施例2のオフガスからのフルオロカーボン混合物(表4)によって例示される。使用したキャリヤガスはCFであった。CF流れは、調査したフルオロカーボンを含む蒸発器を経由して供給された。流速を、約3.5から7.5kg/時間まで変化させた。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】





HFPは、ごく低い収率で生成した。
【0070】
表4は、オフガスから回収したときのフルオロカーボン混合物(実施例2)についての結果を与える。キャリヤガスとして、追加のCFを全く使用しなかった。
【0071】
【表4】




【0072】
実施例4:誘導加熱熱分解によるTFEおよびHFPの調製
(特許文献14)に記載されているような10kWの装置を使用した。マイクロ波の周波数は800kHzであった。使用した熱パッキング材料は黒鉛であった。乾式急冷を使用した。モデル物質としてペルフルオロオクタンを調査した。それは、蒸発器によってガス状態で装置に供給した。圧力は約0.4バールであった。供給速度および平均温度を変化させた。結果を表5に示す。
【0073】
【表5】



【0074】
実施例5
実施例4と同じ装置を使用して、 CFのTFEおよびHFPへの転化を調査した。結果を表6に与えた。CFを、加熱パッキング材料(黒鉛)の温度を変化させ、2kg/時間の流速で装置に供給した。実施例4と同じ急冷を実施した。結果を表6に与えた。
【0075】
【表6】

【0076】
表6は、CFが、合理的速度でTFEおよびHFPに転化され得ることを例示する。これらのモノマーの収率は、高い熱分解温度では、急冷速度が下がることが欠点である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】閉ループとしての本発明方法の一実施形態を概略的に示す。
【図2】本発明の別の実施形態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)線状もしくは分岐した炭化水素化合物、部分的にフッ化した線状もしくは分岐した炭化水素化合物、またはそれらの混合物を含む出発原料を、前記出発原料の少なくとも一部における全ての水素をフッ素で置換するのに十分な温度および圧力条件下で、電気化学セル(ECFセル)中の無水液体フッ化水素溶液中で、電気化学的フッ化(ECF)によってペルフルオロ化して、ECF流出物を生成するステップと、
(b)前記ECF流出物を分離して、ペルフルオロ化供給原料を生成するステップと、
(c)前記ペルフルオロ化供給原料を熱分解して、反応混合物を生成するステップと、
(d)前記反応混合物を急冷して、製品混合物を生成するステップと、
(e)前記製品混合物からテトラフルオロエチレンおよび/またはヘキサフルオロプロピレンを回収するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記出発原料が、ガス、液体、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発原料が、式C2n+2(式中、nは約3〜約25である)によって表される直鎖もしくは分岐したアルカン、またはオレフィンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
nが、約4〜約10である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記出発原料が、式Cによって表され、式中、Xはフッ素であり、xは少なくとも1であり、かつ、x+y=2n+2である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記出発原料が、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記出発原料が、200℃以下の沸点を有する石油留分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記出発原料が、塩素、臭素、ヨウ素、またはこれらの混合物を実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ECFプロセスが、シモンズECF、断続電流ECF、または双極形フローセルECFである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ECF流出物が、単蒸留を使用して分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ペルフルオロ化供給原料が、炭素の存在下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記熱分解が、3000℃以下の温度で誘導加熱を使用して、またはDCプラズマを使用して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ECF流出物が、オフガスを含んでなり、前記オフガスを他の流出物成分から分離するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
部分的にフッ化した材料が、前記オフガスから分離され、前記部分的にフッ化した材料を、出発原料として前記ECFセルに再導入するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ペルフルオロ化材料が、前記オフガスから分離され、かつ、3000℃以下の温度で炭素の存在下で熱分解される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ペルフルオロ化材料が、前記オフガスから分離され、前記ペルフルオロ化材料を、キャリヤガスとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、またはこれらの混合物を回収するための前記製品混合物の蒸留で得た廃棄物生成物と共に、DCプラズマの中に導入するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−509831(P2006−509831A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565003(P2004−565003)
【出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2003/036577
【国際公開番号】WO2004/061160
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】