説明

フルオロベンゼン誘導体及びこの化合物を含有する液晶組成物

【課題】 誘電率異方性が負であってその絶対値が大きく、液晶性が高く、他の液晶材料との相溶性が優れた液晶化合物を提供することであり、これを用いた液晶組成物及び液晶表示素子を提供することである。
【解決手段】 一般式(1)
【化1】


で表されるフルオロベンゼン誘導体及びそれを用いたネマチック液晶組成物、更にこれを用いた液晶表示素子を提供する。本発明の化合物を用いて、垂直配向方式、IPSなどに適した、負の誘電率異方性値を有する液晶組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルオロベンゼン誘導体及びこれを用いた液晶組成物、更にこれを用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、低電圧作動、薄型表示等の優れた特徴から、現在広く用いられている。従来の液晶表示素子、特に中小型のものの表示方式にはTN(ねじれネマチック)、STN(超ねじれネマチック)、又はTNをベースにしたアクティブマトリックス(TFT:薄膜トランジスタ)等があり、これらは誘電率異方性値が正の液晶組成物を利用するものである。
【0003】
しかし、これら表示方式の欠点の一つとして視野角の狭さがあり、近年高まっている液晶パネルへの大型化の要求に伴い、その改善が大きな課題となっている。この解決策として近年、垂直配向方式、IPS(インプレインスイッチング)等の表示方式が新たに実用化されてきた。垂直配向方式は液晶分子を垂直に配向させ、更にマルチドメイン化して視野角の改善を図った方式であり、誘電異方性値(Δε)が負の液晶組成物が使用される。またIPSは、ガラス基板に対して水平方向の横電界を用いて液晶分子をスイッチングさせることで視野角の改善を図った方法であり、誘電異方性値が正又は負の液晶組成物が使用される。このように、視野角改善のために有効な表示方式である垂直配向方式及びIPSには誘電率異方性値が負である液晶化合物及び当該化合物を用いた液晶組成物が必要であり、その開発が強く要望されている。
【0004】
このような要望に対して、誘電率異方性値が負の液晶化合物として、2,3-ジフルオロフェニレン骨格を有する式(A−1)
【0005】
【化1】

【0006】
で表される液晶化合物(特許文献1参照)が開発され、垂直配向方式等の液晶表示素子に広く用いられるに至った。しかし、フッ素原子2個の双極子モーメントから発生する誘電率異方性では、その絶対値が高度化する要求には十分対応できないのが実態であった。
【0007】
双極子モーメントに起因する誘電率異方性を増大するためには、分子短軸方向に更にフッ素原子を導入することが有用と考えられることから、分子内にフッ素原子を4個導入した式(A−2)
【0008】
【化2】

【0009】
で表されるテトラフルオロトラン構造を有する液晶化合物(非特許文献2参照)が開発されるに至った。この化合物は、トラン骨格中の二つのベンゼン環の2位及び3位にそれぞれフッ素原子を置換した骨格を有する。ベンゼン環を有する化合物の分子単軸方向にフッ素原子を導入し双極子モーメントを増大する場合、ベンゼン環上の置換位置の制約からフッ素原子の置換位置は必然的に2位及び3位に限定されることとなる。このため、同一のベンゼン環上には2個までしかフッ素原子を導入することは出来ず、同一分子中に2個以上のフッ素原子を導入するには式(A−2)で表される化合物のように、骨格中に存在する複数のベンゼン環上にそれぞれフッ素原子を導入することが必然的となる。しかしこの場合、4つのフッ素原子は炭素-炭素三重結合を介する二つのベンゼン環にまたがった形となる。トラン骨格中のベンゼン環は相互に回転することが可能であると考えられることから、その回転により骨格中に置換されたフッ素原子は式(A−2)の化学式に示すように同じ方向を常に向いているとは限らない。両方のベンゼン環上のフッ素原子が同じ方向を向いているとフッ素原子により生じる双極子モーメントは足し算され、誘電率異方性の絶対値は大きくなる。しかし周りの置換基や環境によりフッ素原子同士の相対的な位置関係は変わり、右側のベンゼン環上のフッ素原子の向きと左側のベンゼン環上のフッ素原子の向きが、互いに逆向きとなる構造をとることも考えられる。このように互いに向きが異なると双極子モーメントは打ち消しあい、誘電率異方性の値はフッ素原子を分子内に4つも持つにもかかわらず、その絶対値はあまり大きな値とはならない。このように分子内のフッ素原子数を増やしても、導入する環が異なると、誘電率異方性値の絶対値がそれに伴って大きくなるとは限らない。
【0010】
また、文献中、式(A−2)で表される化合物の誘電率異方性は-8.5と示されているが、実際に同化合物を調製し、物性値を測定したところ、-4.16と中程度の誘電率異方性であった。
【0011】
以上のように、誘電率異方性値が負であってその絶対値が大きく、液晶性が高く、他の液晶材料との相溶性が優れた液晶材料の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表平2−503441号公報
【非特許文献1】The International Display Research Conference (IDRC) 2008, 35-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
誘電率異方性が負であってその絶対値が大きく、液晶性が高く、他の液晶材料との相溶性が優れた液晶化合物を提供することであり、これを用いた液晶組成物及び液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、フルオロベンゼン誘導体における、置換基の選択及びその置換位置と、双極子モーメントとの関係を精査し、特定の骨格を有するテトラフルオロトラン骨格を有する化合物が前記課題を解決することができることを見出し本件発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、一般式(I)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R及びRは、それぞれ独立的に炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシ基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基を表し、それぞれの1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の非隣接の−CH−基は独立的に−O−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよく、
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基、トランス−1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基又は無置換であるか1個以上水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表し、
及びXは、それぞれ独立的に−CH−又は−CF−を表し、
及びYは、それぞれ独立的に単結合、−OCH−、−CHO−、−C−、−C−、―COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CFO−、−OCF−、−CFCF−又は−C≡C−を表すが、R−Y−及び−Y−Rにおいて酸素原子が直接結合することはなく、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1又は2を表すが、
m又はnが2を表す場合に複数存在するA、A、Y及び/又はYは、同一であっても異なっていてもよく、
p及びqは、それぞれ独立的に0又は1を表す。)で表されるフルオロベンゼン誘導体及びこれを用いた液晶組成物、更にこれを用いた液晶表示素子を提供する。
【0018】
本願発明の液晶化合物は、トラン骨格中の二つのフェニレン基に電子吸引性のフッ素原子が4つ置換されており、更にトラン構造の4位及び4’位が酸素原子を介して炭素原子と結合している構造を有することに特徴を有する。そのため、この骨格を有する液晶化合物はフェニレン基に隣接した酸素原子の非共有電子対と、フェニレン基上のフッ素原子との相互作用により、酸素原子の非共有電子対が分子単軸方向においてフッ素原子と同じ方向を向くため、分子の短軸方向に大きな分極を有することとなり、結果として絶対値の大きい負の誘電率異方性を示す。また、分子内にエーテル結合を2つ持つことにより他の液晶材料との良好な相溶性を有しつつ、高い液晶性を示すことがわかった。また、本願発明の化合物は、フッ素原子を有する二つのフェニレン基同士が−C≡C−により連結し、各フェニレン基上のπ電子と−C≡C−上のπ電子が共役しているためベンゼン同士が単結合で直接結合している場合と比較して、自由回転が抑制される効果も期待できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフルオロベンゼン誘導体は、誘電率異方性が負であってその絶対値が大きいという特徴を有する。また液晶性に優れ、広い温度範囲で安定な液晶相を示す。更に、熱、光、水等に対し、化学的に安定であり、現在汎用されている液晶化合物あるいは液晶組成物との相溶性に優れているため、低電圧駆動が可能である実用的で信頼性の高い液晶組成物の成分として適している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般式(I)で表される化合物は多くの化合物を包含するものであるが、次に記載の化合物が好ましい。
【0021】
一般式(I)においてR及びRは、それぞれ独立的に炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシ基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基を表し、それぞれの1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの−CH−基は独立的に−O−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよいが、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜7のアルコキシ基又は炭素数2〜7のアルケニルオキシ基が好ましく、炭素原子数2〜5の直鎖状アルキル基、ビニル基、3-ブテニル基、3-ブテニルオキシ基、トランス-1-プロペン-1-イル基、4-ペンテニルオキシ基又はトランス-3-ペンテン-1-イル基がより好ましい。
【0022】
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基、トランス−1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基又は無置換であるか1個以上水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表し、トランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1個以上のフッ素原子に置換されていてもよい1,4-フェニレン基が好ましく、トランス-1,4-シクロヘキシレン基又は無置換の1,4-フェニレン基がより好ましい。
【0023】
及びXは、それぞれ独立的に−CH−又は−CF−を表し、
及びYは、それぞれ独立的に単結合、−OCH−、−CHO−、−C−、−C−、―COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CFO−、−OCF−、−CFCF−又は−C≡C−を表すが、R−Y−及び−Y−Rにおいて酸素原子が直接結合することはなく、それぞれ独立的に単結合、−OCH−、−CHO−、−C−、−CF=CF−、−CFO−、−OCF−、又は−CFCF−であることが好ましく、単結合又は−C−であることがより好ましい。
【0024】
m及びnは、0、1又は2を表し、誘電率異方性を改善するにはm+nは1であることが好ましく、液晶相温度範囲を拡大するにはm+nが2であることが好ましく、m又はnが2を表す場合に複数存在するA、A、Y及び/又はYは、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
p及びqは、0又は1を表すが、液晶性を改善するには分子形状が棒状となる1が好ましい。
【0026】
上述のように一般式(I)の化合物はそのR1、R2、A1、A2、X1、X2、Y1、Y2、m、n、p及びqの選択により多種の化合物を包含しうるわけであるが、これらの中では以下の一般式(A-1)〜一般式(E-10)で表される各化合物が好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立的に式(I)におけるR1及びR2と同じ意味を表し、式中シクロヘキシル基はトランス体を表す。)
一般式(A-1)〜一般式(A-13)、一般式(B-1)〜一般式(B-13)、一般式(C-1)〜一般式(C-12)、一般式(D-1)、(D-13) 、一般式(E-1)〜一般式(E-4)、一般式(E-9)、(E-10)の各化合物が好ましく、他の液晶材料との相溶性、誘電率異方性及び応答速度を改善するには一般式(A-1)、(A-2)、(A-5)、(A-6)、(A-10)、(A-11)、(A-13)、(B-1)、(B-2)、(B-6)、(B-10)、(B-11)、(B-13)、(C-1)、(C-2)、(C-6)、(C-10)、(C-11)、(D-1)、(D-2)、(D-6)、(D-10)、(D-11)、(D-13)、(E-1)、(E-2)、(E-3)、(E-4)及び(E-10)の各化合物が更に好ましく、液晶性を改善するには一般式(A-1)、(A-13)、(B-1)、(B-13)、(C-1)、(D-1)、(D-13)、(E-2)、(E-3)及び(E-10)の各化合物が更に好ましい。
【0033】
本発明において、一般式(I)の化合物について、製造例を以下に挙げる。勿論本発明の主旨、及び適用範囲は、これら製造例により制限されるものではない。
【0034】
(製法1) 一般式(II)
【0035】
【化9】

【0036】
(式中、R1、A1、X1、Y1、m及びpはそれぞれ独立的に一般式(I)と同じ意味を表す。)で表されるアセチレン誘導体と、一般式(III)
【0037】
【化10】

【0038】
(式中、R2、A2、X2、Y2、n及びqはそれぞれ独立的に一般式(I)と同じ意味を表し、Zは塩素、臭素、よう素、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトリフロオロメタンスルホニルオキシ基を表す。)で表される化合物を、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)、あるいは二塩化ビス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム(II)等のパラジウム系遷移金属触媒存在下、アミン、銅塩を共存させてカップリング反応を行うことにより、一般式(IV)
【0039】
【化11】

【0040】
(式中、R1、R2、A1、A2、X1、X2、Y1、Y2、m、n、p及びqはそれぞれ独立的に一般式(I)と同じ意味を表す。)で表されるフルオロベンゼン誘導体を得ることができる。
【0041】
好ましいアミンの例としてブチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジンを挙げることができ、中でもトリエチルアミンが好ましい。銅塩としては、よう化銅、臭化銅をそれぞれ好ましく挙げることができる。このときZは臭素、よう素、トリフロオロメタンスルホニルオキシ基が好例として挙げられるが、よう素、トリフロオロメタンスルホニルオキシ基がより好ましい。
【0042】
このとき溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、極性溶媒等を好ましく用いることができ、アミンを溶媒として用いることもできる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を、塩素系溶媒としてはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を、芳香族系溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を好例として挙げることができる。中でも、テトラヒドロフラン、及びN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の極性溶媒がより好ましい。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0043】
反応温度は溶媒の凝固点から還流温度範囲で行うことができるが、-20℃から120℃が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
なお、相転移温度の測定は温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡および示差走査熱量計(DSC)を併用して行った。また、化合物の構造は核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外共鳴スペクトル(IR)、質量スペクトル(MS)等により確認した。
【0046】
以下の実施例及び比較例の「%」は『質量%』を意味する。
【0047】
化合物記載に下記の略号を使用する。
【0048】
THF:テトラヒドロフラン
DMF:N, N-ジメチルホルムアミド
Tf:トリフルオロメタンスルホニル基
TMS:トリメチルシリル基
(実施例1) 1-エトキシ-4-{2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)メトキシフェニルエチニル}-2,3-ジフルオロベンゼン(I)の合成
【0049】
【化12】

【0050】
窒素雰囲気下、トリメチルシリルアセチレン60g、4-エトキシ-2,3-ジフルオロブロモベンゼン120g、ヨウ化銅1.9g、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム11.7gをDMF 500mLに溶解し、70℃で2時間撹拌した。反応混合物にトルエン、水を加え、撹拌した後有機層を分取した。有機層を、水、アンモニア水、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた結晶を、再結晶とカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製し、トリメチル-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)シラン120gを得た。
【0051】
【化13】

【0052】
窒素雰囲気下、トリメチル-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)シラン 60gをTHF 1000mLに溶解した溶液に、テトラブチルアンモニウムフロリドTHF溶液(1mol/L) 250mLを滴下した。室温で2時間撹拌後、反応混合物にヘキサン、水を加え、撹拌した後有機層を分取した。有機層をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製し、4-エトキシ-1-エチニル-2,3-ジフルオロベンゼン41gを得た。
【0053】
【化14】

【0054】
窒素雰囲気下、4-エトキシ-1-エチニル-2,3-ジフルオロベンゼン9.0g、トリフルオロメタンスルホン酸4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)メトキシ-2,3-ジフルオロフェニル18.5g、ヨウ化銅380mg、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム1.1g、トリエチルアミン20mLをDMF 60mLに溶解し、60℃で2時間撹拌した。反応混合物にトルエン、水を加え、撹拌した後有機層を分取した。有機層を、塩酸、アンモニア水、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた結晶を、再結晶とカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製し、1-エトキシ-2,3-ジフルオロ-4-{2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)メトキシフェニルエチニル}ベンゼン(I)を5.8g得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3):0.89 (t, J = 5.4Hz, 3H), 0.96-1.21 (m, 9H), 1.32 (t, J = 5.4Hz, 3H), 1.45-1.88 (m,5H), 3.85 (d, J = 10.4, 5.2Hz, 2H), 4.15 (dd, J = 10.4, 5.3Hz, 2H) , 6.69-7.18 (m, 2H), 7.18-7.26 (m, 2H).
MS m/z : 448 (M+, 100)
相転移温度(℃) Cr 129 N 178 I
(比較例1) 4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロ-4’-ペンチルビフェニル(II)の合成
【0055】
【化15】

【0056】
窒素雰囲気下、4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル15g、2,3-ジフルオロ-4-ヨード-4’-ペンチルビフェニル30g、ヨウ化銅600mg、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム1.8g、トリエチルアミン30mLをDMF 90mLに溶解し、60℃で2時間撹拌した。反応混合物にヘキサン、トルエン、水を加え、撹拌した後有機層を分取した。有機層を、塩酸、水、アンモニア水、飽和食塩水の順で洗浄後、再結晶とカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製し、4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロ-4’-ペンチルビフェニル(II)を30g得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3):0.91 (t, J = 5.1Hz, 3H), 1.33-1.39 (m, 4H), 1.48 (t, J = 5.1Hz, 3H), 1.64-1.68 (m, 2H), 2.66 (t, J = 5.8Hz, 2H), 4.17 (t, J = 5.3Hz, 2H), 6.70-6.74 (m, 1H), 7.16-7.31 (m, 3H), 7.31-7.49 (m, 2H).
MS m/z : 440 (M+, 100)
相転移温度(℃) Cr 74 N 196 I
(比較例2)1-エトキシ-4-{4-(トランス-4’-ペンチルシクロヘキシル)フェニルエチニル}-2,3-ジフルオロベンゼン(III)の合成
【0057】
【化16】

【0058】
窒素雰囲気下、4-エトキシ-1-エチニル-2,3-ジフルオロベンゼン15g、4-(トランス-4’-ペンチルシクロヘキシル)-2,3-ジフルオロヨードベンゼン30g、ヨウ化銅600mg、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム1.8g、トリエチルアミン30mLをDMF 90mLに溶解し、60℃で2時間撹拌した。反応混合物にヘキサン、トルエン、水を加え、撹拌した後有機層を分取した。有機層を、塩酸、水、アンモニア水、飽和食塩水の順で洗浄後、再結晶とカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製し、1-エトキシ-4-{4-(トランス-4’-ペンチルシクロヘキシル)フェニルエチニル}-2,3-ジフルオロベンゼン(III) 27gを得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3):0.90 (t, J = 5.3Hz, 3H), 1.07-1.13 (m, 2H), 1.22-1.33 (m, 9H), 1.22-1.33 (m, 5H), 1.34-1.54 (m, 4H), 1.86-1.89 (m, 1H), 4.15 (dd, J = 10.5, 5.4Hz, 2H), 6.69-6.73 (m, 1H), 6.93-6.97 (m, 1H), 7.18-7.23 (m, 2H).
MS m/z : 446 (M+, 100)
相転移温度(℃) Cr 75 N 206 I
(実施例2) 4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロフェニルオキシ-トランス-4-プロピルシクロヘキシルジフルオロメタン(IV)の合成
【0059】
【化17】

【0060】
2,3-ジフルオロフェニル=トランス-4-プロピルシクロヘキシルカルボキシラートとローソン試薬のトルエン溶液を、耐圧容器で、150℃とし反応させた。反応終了後、トルエンで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。溶媒を留去後に得られた固体をジクロロメタン溶液とした後、N−ブロモスクシンイミドのジクロロメタン懸濁液に、−78℃でフッ化水素−ピリジンを滴下し調製した反応溶液中に滴下した。更に撹拌した後、飽和炭酸ナトリウム水溶液に注ぎ反応を終了させ、有機層を亜硫酸水素ナトリウム水溶液、水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2,3-ジフルオロフェニルオキシ-トランス-4-プロピルシクロヘキシルジフルオロメタンを得た。得られた2,3-ジフルオロフェニルオキシ-トランス-4-プロピルシクロヘキシルジフルオロメタンに実施例2と同様の方法によりフェノール性水酸基を導入し、実施例6と同様の方法によりトリフルオロメタンスルホン酸誘導体を得た後、アセチレン誘導体とカップリングし、4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロフェニルオキシ-トランス-4-プロピルシクロヘキシルジフルオロメタン(IV)を得た。
【0061】
MS m/z : 484 (M+, 100)
(実施例3)1,1-ジフルオロ-1-[4-{2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)メトキシフェニルエチニル)}-2,3-ジフルオロフェニルオキシ]プロパン(V)の合成
【0062】
【化18】

【0063】
実施例1と同様にトリフルオロメタンスルホン酸誘導体と、アセチレン誘導体をカップリングし、1,1-ジフルオロ-1-[4-{2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)メトキシフェニルエチニル}-2,3-ジフルオロフェニルオキシ]プロパン(V)を得た。
【0064】
MS m/z : 498 (M+, 100)
(実施例4)1,1-ジフルオロ-1-[4-{2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)ジフルオロメトキシフェニルエチニル}-2,3-ジフルオロフェニルオキシ]プロパン(VI)の合成
【0065】
【化19】

【0066】
実施例1と同様にトリフルオロメタンスルホン酸誘導体と、アセチレン誘導体をカップリングし、1,1-ジフルオロ-1-[4-{2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)ジフルオロメトキシフェニルエチニル}-2,3-ジフルオロフェニルオキシ]プロパン(VI)を得た。
【0067】
MS m/z : 534 (M+, 100)
(実施例5) 1-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-4-(2-フルオロ-4-プロピルベンジルオキシ)-2,3-ジフルオロベンゼン(VII)の合成
【0068】
【化20】

【0069】
実施例1と同様に4-ブロモ-2,3-ジフルオロフェノールと、アセチレン誘導体とカップリングし、4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロフェノールを得る。4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロフェノールと、2-フルオロ-4-プロピルベンジルアルコールを、アゾジカルボン酸ジイソプロピル、トリフェニルホスフィン存在下、反応させることで、 1-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-4-(2-フルオロ-4-プロピルベンジルオキシ)-2,3-ジフルオロベンゼン(VII)を得た。
【0070】
MS m/z : 460 (M+, 100)
(実施例6) 1-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-4-[ 4-{2-(4-プロピルシクロヘキシル)エテニル}]-シクロヘキシルメトキシ-2,3-ジフルオロベンゼン(VIII)の合成
【0071】
【化21】

【0072】
実施例5と同様に4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロフェノールと、(E)-トランス、トランス-4-[2-(4-プロピルシクロヘキシル)エテニル]-シクロヘキシルメタノールを、アゾジカルボン酸ジイソプロピル、トリフェニルホスフィン存在下、反応させることで、 1-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-4-[ 4-{2-(4-プロピルシクロヘキシル)エテニル}]-シクロヘキシルメトキシ-2,3-ジフルオロベンゼン(VIII)を得た。
【0073】
MS m/z : 556 (M+, 100)
(実施例7) 1-(3-ブテノキシ)-4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロベンゼン(IX)の合成
【0074】
【化22】

【0075】
実施例5と同様に4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロフェノールと、3-ブテノールを、アゾジカルボン酸ジイソプロピル、トリフェニルホスフィン存在下、反応させることで、 1-(3-ブテノキシ)-4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロベンゼン(IX)を得た。
【0076】
MS m/z : 364 (M+, 100)
(実施例8) 1-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロ-4-(2-メチル-5-ピリミジン-5-イル)メトキシベンゼン(X)の合成
【0077】
【化23】

【0078】
実施例5と同様に4-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロフェノールと、(2-メチル-5-ピリミジン-5-イル)-メタノールを、アゾジカルボン酸ジイソプロピル、トリフェニルホスフィン存在下、反応させることで、 1-(4-エトキシ-2,3-ジフルオロフェニルエチニル)-2,3-ジフルオロ-4-(2-メチル-5-ピリミジン-5-イル)メトキシベンゼン(X)を得た。
【0079】
MS m/z : 416 (M+, 100)
(実施例9) 液晶組成物の調製(1)
以下の組成からなるホスト液晶組成物(H)
【0080】
【化24】

【0081】
を調製した。ここで(H)の物性値は以下の通りである。
【0082】
ネマチック相上限温度(TN-I): 103.2℃
誘電率異方性(Δε): 0.04
屈折率異方性(Δn): 0.098
粘度(η20): 15.5 mPa・s
このホスト液晶(H)98%と実施例1で得られた(I)2%からなる液晶組成物(M-I)を調製した。この組成物の物性値は以下の通りである。
【0083】
ネマチック相上限温度(TN-I): 104.3℃
誘電率異方性(Δε): −0.10
屈折率異方性(Δn): 0.101
粘度(η20): 16.0 mPa・s
また、この結果より算出された、(I)の物性値(外挿値)は以下の通りである。
【0084】
誘電率異方性(Δε): −6.82
本発明の化合物(I-1)を含有する液晶組成物(M-I)は、母体液晶(H)に比べ、誘電率異方性(Δε)は大きく減少して負の値となった。また、ここから算出された(I)の誘電率異方性(Δε)の外挿値は、−6.82と極めて絶対値の大きい負の値であった。
【0085】
また、(M-I)の電圧保持率を80℃で測定したところ、ホスト液晶組成物(H)の電圧保持率に対して98%以上と高い値を示した。また経時劣化も見られなかった。このことから本発明の化合物(I)は安定性の面からも液晶表示材料として優れた特性を有することがわかった。
【0086】
液晶組成物(M-I)を用いることにより、優れた表示品位を有する垂直配向方式の液晶表示素子を作製することができた。
(比較例3) 液晶組成物の調製(2)
比較例1で調製したホスト液晶(H)95%と化合物(II)5%からなる液晶組成物(M-II)を調製した。この組成物の物性値は以下の通りである。
【0087】
ネマチック相上限温度(TN-I): 106.9℃
誘電率異方性(Δε): −0.17
屈折率異方性(Δn): 0.110
また、この結果より算出された、(II)の物性値(外挿値)は以下の通りである。
【0088】
誘電率異方性(Δε): −4.16
化合物(II) の誘電率異方性(Δε)(外挿値)は、実施例7記載の化合物(I) の誘電率異方性(Δε)(外挿値)−6.82と比べ、絶対値が2.66も小さいことがわかる。このことからテトラフルオロトラン構造の両端に酸素原子を導入することにより分子内の電子状態及び分子構造が大きく影響を受け、誘電率異方性を極めて効率的に改善していることがわかる。
(比較例4) 液晶組成物の調製(3)
比較例2で調製したホスト液晶(H)95%と化合物(III)5%からなる液晶組成物(M-III)を調製した。この組成物の物性値は以下の通りである。
【0089】
ネマチック相上限温度(TN-I): 107.6℃
誘電率異方性(Δε): −0.19
屈折率異方性(Δn): 0.106
また、この結果より算出された、(III)の物性値(外挿値)は以下の通りである。
【0090】
誘電率異方性(Δε): −4.56
化合物(III)を含有する液晶組成物(M-III)は、実施例2記載の液晶組成物(M-I)の誘電率異方性−6.82と比べ、絶対値が2.26も小さいことがわかる。このことからテトラフルオロトラン構造の両端に酸素原子を導入することにより分子内の電子状態及び分子構造が大きく影響を受け、誘電率異方性を極めて効率的に改善していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立的に炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシ基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基を表し、それぞれの1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の非隣接の−CH−基は独立的に−O−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよく、
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基、トランス−1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基又は無置換であるか1個以上水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表し、
及びXは、それぞれ独立的に−CH−又は−CF−を表し、
及びYは、それぞれ独立的に単結合、−OCH−、−CHO−、−C−、−C−、―COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CFO−、−OCF−、−CFCF−又は−C≡C−を表すが、R−Y−及び−Y−Rにおいて酸素原子が直接結合することはなく、
m及びnは、それぞれ独立的0、1又は2を表すが、m+nは1又は2を表し、
m又はnが2を表す場合に複数存在するA、A、Y及び/又はYは、同一であっても異なっていてもよく、
p及びqは、それぞれ独立的0又は1を表す。)で表されるフルオロベンゼン誘導体。
【請求項2】
一般式(I)において、A及びAが、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は無置換であるか1個以上水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表す請求項1記載のフルオロベンゼン誘導体。
【請求項3】
一般式(I)において、Y及びYが、単結合、−OCH−、−CHO−、−C−、−CFO−又は−OCF−を表す請求項1又は2記載のフルオロベンゼン誘導体。
【請求項4】
一般式(I)において、m+nが、1を表す請求項1〜3のいずれか1項に記載のフルオロベンゼン誘導体。
【請求項5】
及びRが、それぞれ独立的に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表す請求項1〜4のいずれか1項に記載のフルオロベンゼン誘導体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の一般式(I)で表される化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項7】
請求項6記載の液晶組成物を構成要素とする液晶表示素子。

【公開番号】特開2011−241153(P2011−241153A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111999(P2010−111999)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】