説明

フルオロポリマー水性分散液からフッ素系界面活性剤を除去する方法におけるカラム漏出のモニタリング

陰イオン交換樹脂の第1固定床に分散液を通してフッ素系界面活性剤含有量を低減することによって、安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減する方法。第1固定床は、イオン交換樹脂が飽和するにしたがってカラムを通って移動する作業領域を有する。この方法は、分散液が固定床から出た際の分散液の特性をモニターし、固定床の飽和を示している作業領域の漏出を決定する工程を含む。モニターされる特性は、pHおよび導電率からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂を使用して、フルオロポリマー水性分散液からフッ素系界面活性剤を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系界面活性剤は一般に、フルオロポリマーの分散重合における重合助剤として使用され、フッ素系界面活性剤は非テロゲン(non−telogenic)分散剤として機能する。例えば、フッ素系界面活性剤のこの使用の初期の説明が、米国特許公報(特許文献1)(ベリー(Berry))に記述されている。環境上の問題のため、かつフッ素系界面活性剤のコストが高いことから、廃水およびフルオロポリマー水性分散液からそれを回収するためのプロセスが開発されている。
【0003】
フルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を除去する一方法が、米国特許公報(特許文献2)(クールズ(Kuhls)ら)に開示されており、その方法は、安定化用界面活性剤を添加し、続いて限外濾過によって濃縮することを含む。この特許では、透過水によって高い割合のフッ素系界面活性剤を除去することができることが教示されている。米国特許公報(特許文献3)(セキ(Seki)ら)および米国特許公報(特許文献4)(クールズ(Kuhls))に教示されているように、イオン交換樹脂上に吸着することによってフッ素系界面活性剤が除去されることも知られている。クールズ(Kuhls)は、分散液からポリマーが凝集した後に水相中に、または濃縮されるポリマー水性分散液中に溶解されたフッ素化乳化剤の回収を教示している。米国特許公報(特許文献5)(ブラーデル(Bladel)ら)もまた、陰イオン交換体との接触による、フルオロポリマー分散液からのフッ素含有乳化剤の除去を教示している。
【0004】
フルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を除去するための、陰イオン交換樹脂を使用した公知のプロセスでは、強塩基性陰イオン交換樹脂または弱塩基性陰イオン交換樹脂のいずれかが使用される。弱塩基性樹脂は容易に再生することができるため有用であるが、フッ素系界面活性剤を非常に低いレベルに低減することが望まれる場合、および樹脂の高い利用率のためには、強塩基性樹脂が好ましい。強塩基性イオン交換樹脂は、媒体のpHに対する感受性が低いという利点も有する。
【0005】
低フッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー分散液の実際の工業生産については、陰イオン交換樹脂のカラムなどの固定床にフルオロポリマー分散液を通すことが知られている。しかしながら、均一な分散液製品、つまり標準的な低レベルの低減界面活性剤を有する分散液を生成する必要がある。フッ素系界面活性剤濃度分析は通常、オフラインで行われ、測定が完了するのに約8時間要する。かかる時間経過は、許容可能な製品が生成されたかどうかを決定するのに実用的な方法ではない。固定床が飽和し、その結果、イオン交換部位がもはや適切に十分なフッ素系界面活性剤を吸収せず、それによって、高い、許容できないフッ素系界面活性剤含有量を有する分散液が生成される場合には、高フッ素系界面活性剤含有量を有する許容できない製品が生成され得る。
【0006】
カラムなどの固定床には、その作業領域においてイオン交換樹脂上にフッ素系界面活性剤が吸収されるように、分散液の流れの方向にカラムを通って徐々に移動する、作業領域(物質移動領域)がある。具体的には、フルオロポリマー分散液は、初期フッ素系界面活性剤含有量を有する作業領域に入り、低減されたフッ素系界面活性剤含有量を有する領域を出る。低減されたフッ素系界面活性剤含有量を有するフルオロポリマー分散液は、不飽和カラムの残りを通り、そのカラムから出る。カラムが完全に飽和するまで、作業領域はカラムを通って徐々に移動する。カラムが完全に飽和し、その結果作業領域がカラムを通って完全に移動し、イオン交換樹脂によってもはや適切に吸収されないポイントは、漏出と呼ばれる。
【0007】
望まれるものは、安定化されたフルオロポリマー分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減し、カラムの末端での作業領域の漏出、つまり、カラムの飽和を検出する方法である。
【0008】
【特許文献1】米国特許第2,559,752号明細書
【特許文献2】米国特許第4,369,266号明細書
【特許文献3】米国特許第3,882,153号明細書
【特許文献4】米国特許第4,282,162号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0125421A1号明細書
【特許文献6】米国特許第3,037,953号明細書
【特許文献7】米国特許第3,704,272号明細書
【特許文献8】米国特許第6,153,688号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1472307 A1号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、陰イオン交換樹脂の第1固定床に分散液を通してフッ素系界面活性剤含有量を低減することによって、安定化されたフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減する方法に関する。第1固定床は、イオン交換樹脂が飽和するにしたがって、カラムを通って移動する作業領域を有する。この方法は、分散液が固定床から出て行くにしたがって分散液の特性をモニターし、固定床の飽和を示している作業領域の漏出を決定する工程を含む。モニターされる特性は、pHおよび導電率からなる群から選択される。
【0010】
好ましい実施形態において、この方法では、第2固定床を使用し、安定化されたフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液が第2固定床に通され、モニタリングした場合に、第1固定床の飽和が示される。
【0011】
この方法は好ましくは、約300ppm以下の所定のレベル、さらに好ましくは約100ppm以下の所定のレベル、最も好ましくは50ppm以下の所定のレベルにフッ素系界面活性剤含有量を低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上述のように、陰イオン交換樹脂の固定床に分散液を通すことによって、安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減することができる。本発明に従って、分散液の特性、pHおよび導電率からなる群から選択される特性をモニターすることによって、陰イオン交換樹脂の第1固定床の飽和を決定することが可能である。好ましい実施形態において、固定床はカラム内に収容される。
【0013】
本発明は、作業領域(上記で定義される)が第1固定床を通って移動し、固定床が飽和するにしたがって、作業領域がカラムの末端に到達した際、つまり漏出が起こった際に、分散液のpHおよび導電率の変化があることを確認する。pHまたは導電率の変化のいずれかをモニターすることによって、フッ素系界面活性剤濃度の上昇を示す、作業領域の漏出を決定することができる。この移行では、pHが減少し、導電率が増加する。pHおよび導電率の変化は、かなり明確であり、カラムを通過する分散液の体積の狭いバンド内の漏出が正確に特定される。例えば、水酸化物イオンの状態の強塩基性陰イオン交換カラムでは、ペルフルオロオクタン酸アンモニウムなどのフッ素系界面活性剤でのカラムの飽和は、水酸化物イオンの放出を減速するか、または実質的に停止し、その結果、モニター可能なpHの低下、例えば1pH単位の低下が起こり、導電率の増加、例えば100μSの増加が起こる。この変化が起こる間を通して、分散液の体積は非常に小さい。
【0014】
モニタリングは好ましくは、インラインで行われ、処理プロセスを止める時、または好ましくは、不飽和陰イオン交換樹脂の第2固定床に安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液の流れを逸らす時が示される。
【0015】
本発明に従って、以下にさらに完全に記述されているように、フッ素系界面活性剤含有量を低減するために陰イオン交換樹脂の第1固定床に安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を通すことによって、フッ素系界面活性剤含有量が、約300ppm以下の所定のレベル、さらに好ましくは約100ppm以下の所定のレベル、特に約50ppm以下の所定のレベルに低減される。
【0016】
(フルオロポリマー)
本発明に従って処理される安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液は、分散重合(乳化重合としても知られる)によって調製される。フルオロポリマー水性分散液は、フッ素系界面活性剤含有量が低減された場合に、分散液の凝集を防ぐのに十分な非イオン界面活性剤を含有することを意味する、安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液である。以下にさらに詳細に説明されるように、本発明の方法が用いられる時に応じて、つまり濃縮分散液中で行われる場合には、非イオン界面活性剤は既に存在し、あるいは、本発明による処理の前に安定化のために添加される。濃縮後、フルオロポリマー水性分散液は、コーティングまたは含浸組成物として、かつキャストフィルムを製造するのに有用である。
【0017】
フルオロポリマー分散液は、そのモノマーのうちの少なくとも1つがフッ素を含有するモノマーから製造されたポリマーの粒子で構成される。本発明で使用される水性分散液の粒子のフルオロポリマーは、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルエチレンモノマー、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)モノマー、フッ化ビニリデン、およびフッ化ビニルのポリマーおよびコポリマーの群から独立して選択される。
【0018】
本発明は、分散液のフルオロポリマー成分が、溶融加工性ではない、変性PTFEなどのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である場合に特に有用である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とは、重要なコモノマーが存在しない、単独での重合テトラフルオロエチレンを意味する。変性PTFEとは、得られるポリマーの融点がPTFEの融点未満に実質的に下がらないような低い濃度のコモノマーとTFEとのコポリマーを意味する。かかるコモノマーの濃度は、好ましくは1重量%未満、さらに好ましくは0.5重量%未満である。変性PTFEは、パーフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)(そのアルキル基が炭素原子1〜5個を含有する)など、焼付け(融合)中の塗膜形成能力を向上させる少量のコモノマー改質剤を含有し、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)が好ましい。クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、または分子中に嵩高い側基を導入する他のモノマーも含まれる。本発明のこの好ましい形態において、PTFEは一般に、少なくとも1×10Pa・sの溶融クリープ粘度を有する。このような高い溶融粘度から、PTFEは溶融状態で流動せず、したがって溶融加工性ではないことが示されている。PTFEおよび変性PTFEは、分散液の状態で販売され、運送用コンテナで輸送される場合が多く、本発明の方法は、かかる分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減するために容易に用いることができる。
【0019】
分散液のフルオロポリマー成分は、溶融加工性であり得る。溶融加工性とは、ポリマーを溶融状態で加工することができる(つまり、その意図する目的に有用であるのに十分な強度および靱性を示す、フィルム、繊維、チューブ等の成形物品に溶融物から製造される)ことを意味する。かかる溶融加工性フルオロポリマーの例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)と、例えばTFEホモポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の融点より実質的に低いコポリマーの融点を315℃以下の溶融温度に低減するのに十分な量でポリマー中に存在する少なくとも1つのフッ素化共重合性モノマー(コモノマー)と、のコポリマーが挙げられる。かかるフルオロポリマーとしては、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のコポリマーが挙げられる。TFEとの好ましいコモノマーは、炭素原子3〜8個を有するパーフルオロオレフィン、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、および/またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)であり、その直鎖状または分岐状アルキル基は炭素原子1〜5個を含有する。好ましいPAVEモノマーは、そのアルキル基が炭素原子1、2、3または4個を含有するモノマーであり、コポリマーはいくつかのPAVEモノマーを使用して製造することができる。好ましいTFEコポリマーとしては、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、TFE/HFP/PAVEが挙げられ、PAVEは、PEVEおよび/またはPPVEおよびMFAである(PAVEのアルキル基が少なくとも2個の炭素原子を有する、TFE/PMVE/PAVE)。溶融加工性コポリマーは、特定のコポリマーに標準的な温度でASTM D−1238に従って測定されたメルトフローレート約1〜100g/10分を一般に有するコポリマーを提供するために、コポリマー中に一定量のコモノマーを組み込むことによって製造される。一般に、米国特許公報(特許文献5)に記載のように、変更が加えられたASTM D−1238の方法によって372℃で測定される溶融粘度は、10Pa・s〜約10Pa・s、好ましくは10〜約10Pa・sの範囲である。更なる溶融加工性フルオロポリマーは、エチレンまたはプロピレンと、TFEまたはCTFE、特にETFE、ECTFEおよびPCTFEと、のコポリマーである。更なる有用なポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の塗膜形成ポリマーおよびフッ化ビニリデンのコポリマーならびにポリフッ化ビニルおよびフッ化ビニルのコポリマーである。
【0020】
(フッ素系界面活性剤)
このプロセスにおいて低減されるフッ素系界面活性剤含有分散液中のフッ素系界面活性剤は、水に可溶性であり、かつ親水性イオン基および疎水性部分を含有する、非テロゲン、イオン性分散剤である。好ましくは、疎水性部分は、少なくとも4個の炭素原子を含有する脂肪族フルオロアルキル基であり、その炭素原子のうちの多くて1つを除いてすべて、および可溶化基に最も近いその1つが少なくとも2個のフッ素原子を有し、末端炭素原子は、水素またはフッ素からなる原子をさらに有する。これらのフッ素系界面活性剤は、分散のための重合助剤として使用されるが、それらは連鎖移動しないため、望ましくない短い鎖長を有するポリマーの形成を引き起こさない。適切なフッ素系界面活性剤の広範なリストは、米国特許公報(特許文献2)(ベリー(Berry))に開示されている。好ましくは、フッ素系界面活性剤は、炭素原子6〜10個を有する過フッ素化カルボン酸であり、かつ一般に塩の状態で使用される。適切なフッ素系界面活性剤は、パーフルオロカルボン酸アンモニウム、例えば、パーフルオロカプリル酸アンモニウムまたはペルフルオロオクタン酸アンモニウムである。フッ素系界面活性剤は通常、形成されるポリマーの量を基準にして0.02〜1重量%の量で存在する。
【0021】
(イオン交換樹脂)
使用される陰イオン交換樹脂は、強塩基性または弱塩基性である。適切な弱塩基性陰イオン交換樹脂は、第1級、第2級アミン、または第3級アミン基を含有する。適切な強塩基性陰イオン交換樹脂は、第4級アンモニウム基を含有する。弱塩基性樹脂は容易に再生することができるため有用であるが、フッ素系界面活性剤を非常に低いレベルに低減することが望まれる場合、および樹脂の高い利用率のためには、強塩基性樹脂が好ましい。強塩基性イオン交換樹脂は、媒体のpHに対する感受性が低いという利点も有する。強塩基性陰イオン交換樹脂は、会合対イオンを有し、通常、塩化物または水酸化物の状態で利用可能であるが、所望の場合には容易に他の形態に変換される。フッ素系界面活性剤を除去するために、水酸化物、塩化物、硫酸塩、および硝酸塩を有する陰イオン交換樹脂を使用することができるが、細菌の増殖を抑制するために輸送前の製品において高いpH、つまり9を超えるpHが望ましいことから、望ましくないアニオンの導入を防ぐため、かつ陰イオン交換中にpHを上昇させるためには、水酸化物の形態の陰イオン交換樹脂が好ましい。トリメチルアミン部分を有する第4級アンモニウム基を有する、市販の適切な強塩基性陰イオン交換樹脂の例としては、ダウエックス(DOWEX)(登録商標)550A、USフィルター(US Filter)A464−OH、シブロン(SYBRON)M−500−OH、シブロン(SYBRON)ASB1−OH、ピュロライト(PUROLITE)A−500−OH、イトチュー(Itochu)TSA 1200、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)IR 402が挙げられる。ジメチルエタノールアミン部分を有する第4級アンモニウム基を有する、市販の適切な強塩基性陰イオン交換樹脂の例としては、USフィルター(US Filter)A244−OH、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)410、ダウエックス(DOWEX)(登録商標)マラソン(MARATHON)A2、およびダウエックス(DOWEX)(登録商標)アップコア・モノ(UPCORE Mono)A2が挙げられる。
【0022】
本発明の方法において使用される陰イオン交換樹脂は、好ましくは単分散である。さらに好ましくは、陰イオン交換樹脂ビーズは、ビーズの95%が、ビーズ数平均直径の100μm±以内の直径を有する、数平均粒径分布を有する。
【0023】
単分散陰イオン交換樹脂は、床を通して適切な圧力低下を提供する粒径を有する。上述のように、非常に大きなビーズは脆く、破損し易い。非常に小さなイオン交換ビーズは、密な粒子の充填に影響を受けやすく、その結果、床に曲がりくねった流路が生じる。この結果、床に高せん断条件が生じ、高い圧力低下が起こる。好ましい陰イオン交換樹脂は、数平均ビーズ粒径約450〜約800μmを有し、さらに好ましくは、陰イオン交換樹脂ビーズは、数平均ビーズ粒径約550〜約700μmを有する。
【0024】
(非イオン界面活性剤)
マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献6)およびホルムズ(Holmes)の米国特許公報(特許文献7)の教示に従って、イオン交換処理前にフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を安定化するため、およびかかる分散液を濃縮するためにも、非イオン界面活性剤として芳香族アルコールエトキシレートが使用される。しかしながら、芳香族化合物は環境上の影響を及ぼす可能性があるという問題のために、好ましい非イオン界面活性剤は、脂肪族アルコールエトキシレートである。適切な非イオン界面活性剤としては、濃縮中に所望の曇点を提供し、かつ分散液の所望の特性、例えば低い燃焼温度、分散液安定性等を提供する、様々な脂肪族アルコールエトキシレートのいずれかまたはその混合物が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤の多くは、マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献6)およびミウラ(Miura)らの米国特許公報(特許文献8)に開示されている。特に好ましい非イオン界面活性剤は、キャバノー(Cavanaugh)の(特許文献9)に開示されている、次式:
R(OCHCHOH
(式中、Rが、炭素原子8〜18個を有する分岐状アルキル、分岐状アルケニル、シクロアルキル、またはシクロアルケニル炭化水素基であり、nは、5〜18の平均値である)の化合物または化合物の混合物である。
【0025】
(プロセス)
好ましいポリマーPTFEの水性分散重合の一般的なプロセスは、フッ素系界面活性剤、パラフィンワックスおよび脱イオン水を含有する加熱反応器にTFE蒸気を供給するプロセスである。PTFEの分子量を低減することが望まれる場合には、連鎖移動剤も添加される。ラジカル開始剤溶液が添加され、重合が進むにしたがって、圧力を維持するためにさらにTFEが添加される。発熱反応熱は、反応器の外装を介して冷却水を循環させることによって除去される。数時間後、供給を停止し、反応器をガス抜きし、窒素でパージし、容器中の未処理分散液を冷却容器に移す。パラフィンワックスを除去し、分散液を分離し、非イオン界面活性剤で安定化する。安定化された分散液は好ましくは、分散液中のフルオロポリマー固形分の重量に対して非イオン界面活性剤を2〜11重量%含有する。
【0026】
このようにして生成されたフルオロポリマー分散液は、重合および加工に使用される金属製装置から、または触媒等の鉄化合物の添加から、または水中にそれ自体が存在するために、いくらかの第二鉄イオンを含有する。本発明の方法において、水酸化物形態の陰イオン交換樹脂とフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を接触させる前に、有効な量の適切なキレート剤が、安定化されたフッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液に添加されることが好ましい。このようにして、強く結合した鉄錯体が形成され、スカムの形成が防止される。
【0027】
1つまたは複数のコモノマーを最初にバッチに添加し、かつ/または重合中に導入することを除いては、溶融加工性TFEコポリマーの分散重合は同様である。さらに、炭化水素などのテロゲンを用いて、分子量を制御し、意図する目的のためにポリマーの所望のメルトフローが達成される。
【0028】
陰イオン交換プロセスは、陰イオン交換樹脂の固定床、好ましくは陰イオン交換樹脂の固定床を含有するカラムに安定化分散液を通すことによって行うことができる。流れは、固定床を通って上にまたは下に流れ、樹脂は固定床に残るため、別の分離工程は必要ない。
【0029】
安定化分散液が固定床に入る前に、モニターされる特性の値、つまり安定化分散液のpHおよび/または導電率が、インラインのpHメーターおよび/または導電率計を使用することなどによって決定される。分散液が固定床から出た際に、pHおよび/または導電率の値を再度測定する。pHの減少および/または導電率の増加は、カラムの作業領域の漏出を示す。モニタリングは好ましくは、インラインで行われるため、陰イオン交換処理によって、所望のレベルの界面活性剤を有する安定化分散液がもはや生成されない時、および固定床が飽和しており、取り替えが必要であることが示される。本発明の好ましい実施形態において、第1固定床が飽和していることが示されると、安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液の流れは、不飽和陰イオン交換樹脂の第2固定床に逸らされる。
【0030】
所望の場合には、陰イオン交換樹脂からフッ素系界面活性剤を回収することができ、または環境上許容できる方法において、例えば灰化によってフッ素系界面活性剤を有する樹脂を処分することができる。フッ素系界面活性剤を回収することが望ましい場合には、溶離によって樹脂からフッ素系界面活性剤を取り除くことができる。陰イオン交換樹脂に吸着されたフッ素系界面活性剤の溶離は、米国特許公報(特許文献4)にクールズ(Kuhls)によって示されるように希鉱酸と有機溶媒との混合物(例えば、HCl/エタノール)によって、硫酸および硝酸などの強鉱酸によって、吸着されたフッ素化カルボン酸を溶離剤に移行して容易に達成される。溶離剤における高濃度のフッ素系界面活性剤は、酸析出(acid−deposition)、塩析、および濃縮の他の方法等の一般的な方法によって、純粋な酸の状態で、または塩の状態で容易に回収することができる。
【0031】
イオン交換処理後、フッ素系界面活性剤含有量が低減されたフルオロポリマー水性分散液を分散液濃縮作業に移す。分散液濃縮作業において、分散液は、マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献6)およびホルムズ(Holmes)の米国特許公報(特許文献7)に教示されているように非イオン界面活性剤を用いて濃縮され、公称上35重量%〜約60重量%の固形分に高められる。ミウラ(Miura)らの米国特許公報(特許文献8)に、同様なプロセスが開示されている。イオン交換処理のために分散液が単離される場合(ワックスの除去後)、選択される非イオン界面活性剤は一般に、安定化のために選択される界面活性剤である。
【0032】
上述のように、安定化分散液と陰イオン交換樹脂との接触は、濃縮前に行われている。低固形分分散液が低い粘度を有し、処理が容易になることから、このことは有利である。本発明の方法は、濃縮されている安定化分散液でも行うことができる。TFE分散液に使用されるのと同じ陰イオン交換処理および分散液濃縮作業をTFEコポリマー分散液に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下に、濃縮前の安定化PTFE水性分散液についての本発明の方法を説明する。分散液は、フルオロポリマー固形分約42重量%を有し、ダウ・ケミカル社(Dow Chemical Corporation)から市販されている非イオン界面活性剤、タージトール(Tergitol)TMN−100Xを約4重量%含有する。分散液は、パーフルオロオクタン酸アンモニウムを約1800ppm含有し、導電率600μSおよびpH4を有する。
【0034】
長さ約8フィート、直径14インチのカラムに収容される、水酸化物の形態でトリメチルアミン部分を有する第4級アンモニウム基を有する市販の強塩基性陰イオン交換樹脂の固定床(ダウエックス(Dowex)550A)に安定化分散液を通す。カラム飽和前の通常の作業において、安定化分散液は作業領域を通過し、カラムから出る。安定化分散液約250ガロンがカラムを通過した後、それがカラムから出た際に分散液は、導電率200μSおよびpH10を有する。導電率は、導電率計を使用してインラインで決定される。pHは、pHメーターを使用してインラインで決定される。フッ素系界面活性剤含有量はオフラインで決定され、19ppmであると決定され、カラムが良い作業条件にあり、使い果たされてないことが示されている。約6000ガロンがカラムを通って流れた後、300μSへの導電率の激増および9へのpHの激減が、カラムから出た分散液で検出される。これらの変化は、飽和カラムの作業領域の漏出およびこのカラムの使用を中止する必要を示す。次いで、流れが、不飽和陰イオン交換樹脂を収容する上記のカラムと同様な第2固定床に逸らされる。
【0035】
第1カラムの飽和を確認するために、第2カラムに界面活性剤を逸らす前に、安定化界面活性剤のフッ素系界面活性剤含有量が、オフラインで約200ppmであると決定され、作業領域の漏出、つまりカラムの飽和が確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液のフッ素系界面活性剤含有量を低減する方法であって、
陰イオン交換樹脂の第1固定床に前記安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を通して、フッ素系界面活性剤を低減する工程であって、前記第1固定床が、前記イオン交換樹脂が飽和するにしたがって前記固定床を通って移動する作業領域を有する工程と、
前記分散液が前記第1固定床から出た際に、前記分散液の特性をモニターし、前記第1固定床の飽和を示している前記作業領域の漏出を決定する工程であって、前記特性が、pHおよび導電率からなる群から選択される工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記モニタリングが、前記第1固定床の飽和を決定した場合に、第2固定床に前記分散液を通す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固定床が、カラムに収容されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記陰イオン交換樹脂が、ポリマーマトリックスおよび第4級アンモニウム基を含む官能基を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記陰イオン交換樹脂が、陰イオン交換樹脂のビーズを含み、前記ビーズが単分散であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
陰イオン交換樹脂の第1固定床に前記安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を通してフッ素系界面活性剤含有量を低減する前記工程が、約300ppm以下の所定のレベルにフッ素系界面活性剤含有量を低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
陰イオン交換樹脂の第1固定床に前記安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を通してフッ素系界面活性剤含有量を低減する前記工程が、約100ppm以下の所定のレベルにフッ素系界面活性剤含有量を低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
陰イオン交換樹脂の第1固定床に前記安定化フッ素系界面活性剤含有フルオロポリマー水性分散液を通してフッ素系界面活性剤含有量を低減する前記工程が、約50ppm以下の所定のレベルにフッ素系界面活性剤含有量を低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−530313(P2008−530313A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555394(P2007−555394)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/006982
【国際公開番号】WO2006/086793
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】