説明

フルフラールの製造方法

【課題】バイオマス資源からフルフラールを安価に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】上記製造方法を、ペントサンを含むバイオマスを原料として、フルフラールを製造する方法において、第1工程により、バイオマス原料を加水分解してペントースを含む混合物を得たのち、第2工程により、ペントースを含む混合物を脱水反応に付してフルフラールを生成させるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藁、籾殻、トウモロコシ穂軸、バガス、廃木材等のバイオマス資源を用いて、プラスチック材料であるフラン樹脂の原料となるフルフラールを安価に効率よく製造するための、フルフラールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマス資源を原料とするフルフリルアルコールから作られるフラン樹脂は、石油資源に依存しないプラスチック材料であり、ナフサ価格との非連動、石油資源枯渇問題の解消、環境性能に優れる点で、重要である。フラン樹脂は、耐熱性、絶縁性、難燃性に優れており、最適な樹脂合成を行うことで、パイプ、FRP、コーティング材料、砂型結着剤等、重要な工業製品として適用が可能となる。
フルフリルアルコールは、フルフラールを水素添加して、製造されており、バイオマス資源として得ることができる重要なモノマーはフルフラールである。
フルフラールを、バイオマス資源から抽出する技術は古くから研究されており、1921年 米国クエーカーオーツ社がフルフラールバッチプロセスを工業化してから、すでに90年が近く経過する。また、国内では、1963年 北海道木糖化学株式会社で実用化プラントが稼働している。いずれも、ヘミセルロースに酸を加え、蒸気で抽出する方法で、ヘミセルロースから一段でフルフラールに変換するものである。
しかし、バイオマス資源に含まれるヘミセルロースからフルフラールへの変換効率は未だにせいぜい10%程度であり、理想効率の約半分程度で、製造コストが高く、国内での製造は現在ではなく、主な生産国は中国や南米、アフリカといった地域に移行しているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、このような事情の下、バイオマス資源からフルフラールを安価に効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来の一段変換を多段変換に変え、さらに各段に至適条件を設けるのが課題解決に資することを見出し、この知見に基いて本発明をなすに至った。
【0005】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ペントサンを含むバイオマスを原料として、フルフラールを製造する方法において、第1工程により、バイオマス原料を加水分解してペントースを含む混合物を得たのち、第2工程により、ペントースを含む混合物を脱水反応に付してフルフラールを生成させることを特徴とするフルフラールの製造方法が提供される。
【0006】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、第1工程において、加水分解は、バイオマス原料の乾燥重量に対し1〜5%濃度の酸を用い、固体/液体比を1.5〜5の範囲に調整した上、120〜180℃で3〜20分加熱することにより行われることを特徴とするフルフラールの製造方法が提供される。
【0007】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、第2工程において、脱水反応は、第1工程で得られたペントースを含む混合物に水と硫酸を加え、ペントース濃度0.5〜5%、かつ硫酸濃度0.5〜5%に調整した上、140〜190℃で2〜30分加熱することにより行われることを特徴とするフルフラールの製造方法が提供される。
【0008】
また、本発明の第4の発明によれば、第2又は3の発明において、加水分解に使用する酸は、硫酸であることを特徴とするフルフラールの製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の第5の発明によれば、第2〜4のいずれかの発明において、加熱方法として、蒸気を使用することを特徴とするフルフラールの製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、ペントースがキシロースであることを特徴とするフルフラールの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、バイオマス資源からフルフラールを安価に効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
(バイオマス原料)
バイオマス原料として適したものは、ヘミセルロースを多く含むもの、例えば草木系バイオマスや木質系バイオマス等である。
草木系バイオマスの例としては、トウモロコシの穂軸、茎、葉、バガス、稲藁、稲籾殻、麦藁、麦籾殻、綿実の外皮、オリーブ油抽出残渣等が挙げられ、中でもヘミセルロースの含有量が多いトウモロコシ穂軸、稲藁、バガスが好適である。
木質系バイオマスの例としては、林地残材、製材所等の残廃材、建築廃材、廃建材、木質チップ、木屑、おが屑、古紙等が挙げられる。
木材の樹種としては、広葉樹系のものがヘミセルロースの含有量が多く適している。
建築廃材、廃建材としては、例えば合板、集成材、製材品、ファイバーボード、パーティクルボード等が挙げられる。
これらのバイオマス原料は単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
(ペントース製造)
使用される酸としては、硫酸、塩酸等が挙げられるが、特に硫酸が好ましい。
また、酸濃度は、バイオマス原料(乾燥物)に対し、0.5〜10wt%程度が好ましく、より好ましくは1〜5wt%程度である。
バイオマス原料(乾燥物)に対して、固/液比が2〜10、好ましくは2〜5程度で酸を含有させ、乾燥重量に対して、1〜5%程度に保持する。
このように調整したバイオマス原料を、加熱、加圧する。加熱温度は、好ましくは120〜180℃、より好ましくは130〜160℃である。圧力は、加熱温度によるが、好ましくは1.2〜5Kg/cmである。加熱時間は、加熱温度、圧力によるが、3〜20分、好ましくは5〜10分である。加熱、加圧後、急冷してペントースを回収する。
加熱、加圧は、蒸気により行うのが好ましい。
その他、酵素法等でもキシロースの製造が可能である。
【0014】
(フルフラールの製造)
使用される硫酸は、濃度が、好ましくは0.5〜5wt%、より好ましくは1〜3wt%であるのがよい。
ペントース濃度は、好ましくは2〜10wt%、より好ましくは2〜4wt%である。
このような条件に設定し、オートクレーブにて加圧加熱する。加熱温度は、好ましくは140〜190℃である。圧力は、加熱温度に依存するが、好ましくは1.2〜5kg/cmである。加熱温度は、加熱温度、圧力によるが、5〜30分である。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によりなんら限定されるものではない。
【0016】
<実施例1>
(硫酸含浸トウモロコシ試料の調製)
トウモロコシの穂軸部分を60℃で24時間熱風循環オーブンで乾燥した後、破砕し、80メッシュのふるいにかけ、乾燥粉末を得た。
この乾燥粉末1000gを、1.5%硫酸水溶液5000g中に投入し、10分間攪拌した後、吸引濾過し、硫酸含浸トウモロコシ試料(ウエット重量3000g、乾燥粉末1000gに対する硫酸濃度3%、固体/液体比2)を得た。
【0017】
(キシロースの抽出)
オートクレーブとして、容量30Lの圧力容器であって、容器外側は電熱ヒーターで加熱可能であり、内部には蒸気を引き込む構造としたものを用いた。
このオートクレーブを130℃に加熱した後、上記硫酸含浸トウモロコシ試料を金網に入れ設置し、130℃の蒸気を10分間吹き込んで加熱した後、金網から試料をとりだし、さらに水を3250g加えて液状物とした。
この液状物は液体クロマトグラフィーで測定した結果、37968μg/mlの濃度のキシロースを含み、これは理論収率の約70%相当する。
【0018】
(フルフラールの製造)
上記液状物に4%硫酸を4250g添加し、30Lオートクレーブに投入し、160℃で30分間加熱した。得られた液中のフルフラールの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した結果、11785μg/mlであり、これは理論収率に対して92%に相当する。
【0019】
<実施例2>
硫酸含浸トウモロコシ試料を、ウエット重量4000g、乾燥粉末1000gに対する硫酸濃度4.5%、固体/液体比3のものに変え、またキシロースの抽出における蒸気温度を120℃、加える水量を4125gとした他は実施例1と同様にしてキシロース濃度80%の液状物を得た。
上記液状物に4%硫酸を3875g添加し、30Lオートクレーブに投入し、180℃で20分間加熱した。得られた液中のフルフラールの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した結果、10873μg/mlであり、これは理論収率に対して85%に相当する。
【0020】
<比較例1>
実施例1と同様にしてトウモロコシの穂軸部分から得られた乾燥粉末1000gに4%硫酸4250g及び水を加え、合計17000gとし、これを30Lオートクレーブで160℃で30分間加熱した。得られた液中のフルフラールの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した結果、511μg/mlであり、これは理論収率に対して6.3%に相当する。
【0021】
<比較例2>
加熱温度を180℃とした他は比較例1と同様にして得られた液中のフルフラールの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した結果、799μg/mlであり、これは理論収率に対して9.4%に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明方法は、バイオマス資源からフルフラールを安価に効率よく製造することができるので、産業上大いに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペントサンを含むバイオマスを原料として、フルフラールを製造する方法において、第1工程により、バイオマス原料を加水分解してペントースを含む混合物を得たのち、第2工程により、ペントースを含む混合物を脱水反応に付してフルフラールを生成させることを特徴とするフルフラールの製造方法。
【請求項2】
第1工程において、加水分解は、バイオマス原料の乾燥重量に対し1〜5%濃度の酸を用い、固体/液体比を1.5〜5の範囲に調整した上、120〜180℃で3〜20分加熱することにより行われることを特徴とする請求項1記載のフルフラールの製造方法。
【請求項3】
第2工程において、脱水反応は、第1工程で得られたペントースを含む混合物に水と硫酸を加え、ペントース濃度0.5〜5%、かつ硫酸濃度0.5〜5%に調整した上、140〜190℃で2〜30分加熱することにより行われることを特徴とする請求項1又は2記載のフルフラールの製造方法。
【請求項4】
加水分解に使用する酸は、硫酸であることを特徴とする請求項2又は3記載のフルフラールの製造方法。
【請求項5】
加熱方法として、蒸気を使用することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のフルフラールの製造方法。
【請求項6】
ペントースがキシロースであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフルフラールの製造方法。

【公開番号】特開2012−87054(P2012−87054A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232141(P2010−232141)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】