説明

フルフラール化合物の製造方法及びフルフローラル化合物製造用の混合物

【課題】収率の高いフルフラール化合物の製造方法と、フルフローラル化合物製造用の混合物の提供。
【解決手段】有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤を混合することにより溶液を調製する工程と、前記溶液に炭水化物を加えることにより混合物を調製する工程と、前記炭水化物がフルフラール化合物に転換する反応温度まで、前記混合物を加熱する工程と、を含むフルフラール化合物の製造方法。該有機アンモニウム塩は好ましくは鎖状有機アンモニウム塩あるいは環状有機アンモニウム塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルフラール化合物の製造方法及びフルフローラル化合物製造用の混合物に関する。本願は、2011年7月21日に台湾に出願された特願100125871号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロメチルフルフラール)はフルフラール誘導体のうちの一つである。フルフラールは、各種の農業副産物に由来する工業用化学物質である。フルフラールはCHOの化学式を持つ芳香族アルデヒドであり、その環状構造を以下の化学式(1)に示す。HMFは果糖やグルコースの脱水反応を介して調製することができる。石油資源が徐々に枯渇しつつある今日、HMFは再生可能エネルギーの分野で注目されている。HMFはCHOの化学式を有する有機化合物である。下記化学式(2)で示されるように、HMFは、ヒドロキシル官能基と、アルデヒド官能基と、4つのC原子とO原子で構成されている複素環とを含んでいる。
【0003】
【化1】

【0004】
【化2】

【0005】
フルフラールの一種であるHMFは、溶液中の微生物の増殖を抑制する性質を有するため、生物発酵によって製造することができない。このため、HMFは、C6糖とともに炭水化物(carbohydrate)のみから化学的に転換されることができる。しかしながら、このHMFの転換反応における副反応は制御が困難であるため、反応効率が低くなりやすい。このため、HMFの単離や精製は困難とされている。多くの著名な科学系企業や研究機関は、HMFの低収率の問題を解決すべく、精力的にこの問題に取り組んできている。例えば、Zhaoら(米国特許公開広報2008/0033187)は、イオン液体中でのHMFの調合について開示している。そして、[1] Hiroyuki Ohno「イオン液体の電気化学的様相」ジョンワイリーサンズ社、2005年、 [2]ピーター・ワッサーシールド、トム・ウェルトン(「合成イオン液体(Ionic liquids in synthesis)」 、Wily-VCH、2003年)、 [3] ジョン・エフ・ブレネック、エドワード・ジェイ・マージン(AIChE Journal、2001年、 47巻、2384-2389 ページ)、 [4] スターク・A・セダン・K(カーク・オスマー化学技術百科事典2007、26巻、836〜920ページ、ジョンワイリーアンドサンズ・ニューヨーク社)らは、イオン液体はイオンだけを含有する溶液であり、イオン液体の融解温度は100℃よりも低く設定する必要があることを開示している。
【0006】
なお、融解温度が100℃より低い有機塩を約100℃の反応温度で反応させて調製したイオン液体は、溶剤として使用される。そして、イオン液体(溶媒)と、塩素化金属(触媒)を用いることにより、炭水化物はHMFへ転換される。 Zhangら(米国特許公開広報2009/0313889)は、溶剤としてイオン液体を用い、触媒としてN-複素環カルベンの複合体を用いるHMFの調製方法を開示している。
【0007】
Zhangの挙げた例では、単糖類(saccharide)と、触媒として用いられたN-複素環カルベンの金属錯体を含む反応混合物とが反応の最初から用いられている。ヒドロキシメチルフルフラールを形成するために、単糖類を約70℃もしくはそれ以下の温度で反応させる。また、バインダーら(米国特許公開広報2010/0004437)は、塩化物、臭化物、またはヨウ化物塩またはそれの任意の混合物が存在する非プロトン性の極性溶媒中で、酸触媒、金属ハロゲン化物触媒および/またはイオン液体(最大40重量%)を用いて、炭水化物をフランに転換する方法を公開している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公開広報2008/0033187
【特許文献2】米国特許公開広報2009/0313889
【特許文献3】米国特許公開広報2010/0004437
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】オオノヒロユキ「イオン液体の電気化学的様相」ジョンワイリーサンズ社、2005年
【非特許文献2】ピーター・ワッサーシールド、トム・ウェルトン「合成化学溶液」 、Wily-VCH、2003年
【非特許文献3】ジョン・エフ・ブレネック、エドワード・ジェイ・マージン、AIChEJournal、2001年、 47巻、2384-2389 ページ
【非特許文献4】スターク・A・セダン・K、カーク・オスマー化学技術百科事典2007、26巻、836〜920ページ、ジョンワイリーアンドサンズ・ニューヨーク社
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるフルフラール化合物の製造方法は、有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤を混合することにより溶液を調製する工程と前記溶液に炭水化物を加えることにより混合物を調製する工程と、前記炭水化物がフルフラール化合物に転換する反応温度まで、前記混合物を加熱する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるフルフラール化合物の製造方法は、前記有機アンモニウム塩は鎖状有機アンモニウム塩あるいは環状有機アンモニウム塩であり、前記鎖状有機アンモニウム塩は一般化学式[III]で表され、前記環状有機アンモニウム塩は、一般化学式[I]、[II]、[IV]で表される化合物の少なくともいずれか一つであり、前記化学式中のR〜R11は、水素(H)、アルキル官能基、シクロアルキル官能基、アリール官能基またはアルカリール官能基のうちからそれぞれ独立に選択され、これら官能基が水素(H)、OH、Cl、Br、I、もしくはCNのいずれかに選択的に結合することを特徴とする。
【0012】
【化3】

【0013】
また、本発明にかかるフルフラール化合物の製造方法は、前記有機アンモニウム塩の陰イオンYはF-, Cl-, Br-, I-, NO3-,
HSO4-, BF4-, CN-, SO3CF3-,
または COOCF3-であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるフルフラール化合物の製造方法は、前記ヒドロキシル有機溶剤が一価アルコール、ジオール、トリオールまたは多価アルコールのC−C化合物を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるフルフラール化合物の製造方法は、前記ヒドロキシル有機溶剤が炭素鎖にエーテル基(−COC−)を有する化合物を含み、前記炭素鎖は、ジエチレングリコールあるいはHO(CH2CH2O)nH,(n =1〜15)であるポリエチレングリコール化合物を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明にかかるフルフローラル化合物の製造用の混合物は、有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤と炭水化物とを含み、前記有機アンモニウム塩の前記ヒドロキシル有機溶剤に対するモル比は、1〜9の範囲であり、前記炭水化物の量は前記混合物全体の5〜20重量%であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかるフルフローラル化合物の製造用の混合物は、前記有機アンモニウム塩は鎖状有機アンモニウム塩あるいは環状有機アンモニウム塩であり、前記鎖状有機アンモニウム塩は一般化学式[III]で表され、前記環状有機アンモニウム塩は、一般化学式[I]、[II]、[IV]で表される化合物の少なくともいずれか一つであり、前記化学式中のR〜R11は、水素(H)、アルキル官能基、シクロアルキル官能基、アリール官能基またはアルカリール官能基のうちからそれぞれ独立に選択され、これら官能基は水素、OH、Cl、Br、IもしくはCNのいずれかと選択的に結合することとしてもよく、前記有機アンモニウム塩の陰イオンYがF-, Cl-, Br-, I-, NO3-, HSO4-, BF4-, CN-, SO3CF3-,もしくはCOOCF3-であることを特徴とする。
【0018】
【化4】

【0019】
また、本発明にかかるフルフローラル化合物の製造用の混合物は、前記ヒドロキシル有機溶剤が一価アルコール、ジオール、トリオールまたは多価アルコールのC−C化合物を含むことを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかるフルフローラル化合物の製造用の混合物は、前記ヒドロキシル有機溶剤が炭素鎖にエーテル基(−COC−)を有する化合物を含み、前記化合物は、ジエチレングリコールあるいはHO(CH2CH2O)nH,(n =1〜15)であるポリエチレングリコール化合物を含む前記炭素鎖に、エーテル基(−COC−)を有することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態においては、フルフラールの化合物の製造方法について説明する。ここに挙げる溶液は、有機アンモニウム塩とヒドロキシ基を有する有機溶剤とを混合することによって調製されるものである。そして、混合物を形成するために炭水化物を溶液に加え、その後、炭水化物がフルフラール化合物に転換する反応温度まで、炭水化物と溶液の混合物を加熱する。
【0022】
他の実施形態においては、フルフラール化合物を製造するための混合物について説明する。他の実施形態に挙げる混合物は、少なくとも有機アンモニウム塩、水酸基、有機溶剤、および、炭水化物から構成されている。
【0023】
フルフラール化合物とフルフローラル化合物製造用の混合物の製造方法については、ともに下記実施例に示すとおりである。
【0024】
まず、溶液を作るために、有機アンモニウム塩とヒドロキシ基を有する有機溶剤とを混合する。次いで、溶液に炭水化物を加えることにより混合物を調製する。次いで、炭水化物が例えばHMFまたはフルフラールなどのフルフラール化合物に転換可能な反応温度になるまで、混合物を加熱する。この際のヒドロキシル有機溶剤(有機アンモニウム塩/ヒドロキシル有機溶剤)に対しての有機アンモニウム塩のモル比は1〜9の範囲であり、好ましくは2.5〜4の範囲である。また、混合物全体に対する炭水化物の重量%の範囲は5〜20重量%であり、好ましくは10重量%である。
【0025】
なお、本実施形態における有機アンモニウム塩は、鎖状の有機アンモニウム塩であっても、環状の有機アンモニウム塩であっても構わない。
【0026】
本実施形態における鎖状の有機アンモニウム塩は一般化学式で表される[III]で表され、環状の有機アンモニウム塩としては、一般化学式[I]、[II]、[IV]で表される化合物のうちの少なくともいずれか一つである。
【0027】
【化5】

【0028】
上記化学式中のR〜R11は、例えば、水素(H)、アルキル官能基(例えば、C−Cアルキル)、シクロアルキル官能基、アリール官能基またはアルカリール官能基うちからそれぞれ独立に選択される。さらに、それら官能基には、必要に応じて選択的に水素(H)、水酸基(OH)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)またはシアノ基(CN)などが結合される。有機アンモニウム塩である陰イオン(アニオン)Yとしては、例えば、フッ化物(F)、塩化物(Cl )、臭化物(Br)、ヨウ化物(I)、硝酸イオン(NO3)、硫酸水素塩(HSO4)、テトラフルオロボラート(BF4)、シアン化物イオン(CN)、トリフルオロメタンスルホン酸(SO3CF3)、カルボキシトリフルオロメタンスルホナート(COOCF3)などのいずれかが挙げられる。
【0029】
本実施形態における有機アンモニウム塩の溶融温度は、例えば100℃以上とする。
【0030】
本実施形態における鎖状の有機アンモニウム塩としては、例えば、シクロアルキルトリアルキルアンモニウム塩や、アリルトリアルキルアンモニウム塩、アルカリトリアルキルアンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩のいずれか、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0031】
他の実施形態における鎖状の有機アンモニウム塩として用いられるものは、例えば、塩化コリン、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化トリエチルメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムのいずれか、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0032】
本実施形態における環状有機アンモニウム塩としては、例えば、複素環に含まれる有機アンモニウム塩が挙げられる。また、このように複素環に含まれる有機アンモニウム塩としては、ピリジニウム官能基、イミダゾリウム官能基、ピロリジ官能基が挙げられる。
【0033】
また、環状有機アンモニウム塩として他に用いられるものとしては例えば、1 - エチルピリジクロリド、1 - ブチルピリジニウム塩化物のいずれか、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0034】
さらに、本実施形態におけるヒドロキシル有機溶剤としては、例えば一価アルコール、ジオール、トリオールまたは多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセロール)などのC−C化合物や、炭素鎖にエーテル基(−COC−)を含む化合物(例えば、炭素鎖がジエチレングリコールあるいはHO(CH2CH2O)nH,(n =1〜15)であるポリエチレングリコール化合物(例えば、PEG200、ポリエチレングリコール))等が挙げられる。
【0035】
また、本実施形態の反応後、混合物からHMFを分離するためのHMF抽出においては、ベンゼンやエーテルを用いることができる。HMFの単離および精製はこのように簡略化されている。
【0036】
本実施形態で用いられる炭水化物としては、例えば、六炭糖、二糖類、オリゴ糖、多糖、果糖、グルコース、ショ糖、澱粉、五炭糖、キシロースが挙げられる。本実施形態においては、用いる炭水化物の種類に応じて、最適な触媒を混合物に添加することができる。
【0037】
炭水化物の種類に応じて添加される最適な触媒としては、酸触媒、又は、クロム(Cr)あるいは錫(Sn)を含有する塩化物あるいは臭化物、または、表1に記載されているN-複素環式カーボンのクロム錯体が挙げられる。また、本実施形態で用いられる酸触媒としては、ゼオライトまたはスルホン酸イオン交換樹脂を挙げることができる。本実施形態における混合物は、炭水化物と溶媒を混合することにより調製される。その後、180℃以下の反応温度でその混合物を加熱し、混合物中の炭水化物をHMFまたはフルフラールへ転換する。 本実施形態における炭水化物をHMFまたはフルフラールへ転換するための反応温度は、例えば室温(例えば25℃)〜180℃であり、好ましくは80〜140℃、さらに好ましくは100〜140℃、特に好ましくは120〜140℃あるいは80〜120℃である。
【0038】
【表1】

【0039】
これら実施形態においては、適切な組み合わせで炭水化物と触媒を選択し、炭水化物をHMFあるいはフルフローラルへ転換させるために必要な反応温度下で反応させる。例えば、炭水化物としてグルコースを用いる場合は、クロム(Cr)あるいはスズ(Sn)を含む塩化物あるいは臭化物、又は、N-複素環式カーボンのクロム錯体を触媒として用い、約100〜120℃の反応温度でグルコースを加熱することによりHMFに転換させる。
【0040】
また、炭水化物としてフルクトースまたはキシロースを用いる場合は、触媒として酸触媒、又は、クロム(Cr)あるいはスズ(Sn)を含む塩化物あるいは臭化物、又は、N-複素環式カーボンのクロム錯体を用いて、約80〜100℃の反応温度でフルクトースまたはキシロースを加熱することにより、HMFに転換させる。
【0041】
また、炭水化物として澱粉またはセルロースを用いる場合は、触媒としてクロム(Cr)あるいはスズ(Sn)を含む塩化物あるいは臭化物を用い、約120〜140℃の反応温度で澱粉またはセルロースをHMFに転換させる。
【0042】
HMF、フルーラル、フルーラル化合物製造用の混合物の製造方法の実施例は以下に示すとおりである。なお、ここに挙げる工程や材料は単に一例であり、ここに挙げた一例に本発明が限定されないことは当業者にとって明らかである。また、本実施例は権利範囲を限定するものではない。本実施例の変更版や応用版は、開示された下記実施例と同様に行うことができる。
【実施例1】
【0043】
まず、塩化コリンと各種水酸基を有する有機溶剤との混合物と、触媒として用いられる塩化クロム(II)(CrCl2)とにより、グルコースをHMFに転換する例について説明する。
【0044】
実施例1においては、有機アンモニウム塩として塩化コリン(Choline chloride)を用い、触媒としてCrCl2を用い、炭水化物としてグルコースを用いた。まず、塩化コリンと様々な水酸基を有する有機溶剤を各モル比に応じて混合し、必要に応じて100℃(加熱温度は120℃未満とする)に加熱して溶液を調製した。次いで、グルコースを溶液に混合し、そこに、CrCl2触媒(グルコースのモル数に基づいて使用量を調製する)を添加した。これにより、100℃の条件下で転換が進行し(反応温度は例えば100〜120℃とした)、グルコースはHMFに転換された。表2に、実験の条件と、実施例1におけるHMF収率の実験結果を示す。
【0045】
実施例1−1においては1,3-プロピレングリコール(1,3-propylene glycol)をヒドロキシル有機溶剤として用い、実施例1−2においては1,4-ブタンジオール(1,4-butanediol)をヒドロキシル有機溶剤として用い、実施例1−3においてはジエチレングルコールをヒドロキシル有機溶剤として用い、実施例1−4においてはポリエチレングリコール200(PEG200) をヒドロキシル有機溶剤として用い、実施例1−5においてはグリセリンをヒドロキシル有機溶剤として用いた。表2に示すように、全ての実施例1におけるHMFの収率は30%以上であり、50%以上の例も見られた。
【0046】
【表2】

【実施例2】
【0047】
次いで、塩化コリンと様々な比率で混合されたジエチレングリコール溶剤、あるいはグルコースの濃度を変えた例について説明する。グルコースは、触媒として用いるCrCl2により、HMFに転換される。
【0048】
実施例2においては、有機アンモニウム塩として塩化コリンを用い、ヒドロキシル有機溶剤としてジエチレングリコールを用い、触媒としてCrCl2を用い、炭水化物としてグルコースを用いた。まず、塩化コリンとジエチレングリコールを各モル比に応じて混合し、100℃に加熱して溶液を調製した。次いで、グルコースを溶液に混合し、そこに、触媒としてCrCl2(グルコースのモル数に基づいて使用量を調製する)を、6mol/%の濃度となるように加えた。これにより100℃の条件下で反応が進行し、グルコースはHMFに転換された。
【0049】
表3に、この実験の条件と、実施例2におけるHMF収率の実験結果とを示す。表3に示すように、実施例2−1〜2−3におけるHMF収率はそれぞれ、57%、61%、56%であった。
【0050】
【表3】

【実施例3】
【0051】
次いで、種々の有機アンモニウム塩と、様々な水酸基の有機溶剤とを、種々の比率で混合した混合物を用いた例について説明する。グルコースは、触媒として用いるCrCl2によりHMFに転換される。
【0052】
実施例3においては、種々の有機アンモニウム塩を用いた。実施例3−1〜3−3、3−5と3−6においてはヒドロキシル有機溶剤としてジエチレングリコールを用い、実施例3−4においてはPEG200を用いた。また、実施例3全体としては、触媒としてCrCl2を用い、炭水化物としてグルコースを用いた。
【0053】
まず、種々の有機アンモニウム塩と各ヒドロキシル有機溶剤を各モル比に応じて混合し、100℃に加熱して溶液を調製した。次いで、グルコースを溶液に混合し、そこに、CrCl2触媒(グルコースのモル数に基づいて使用量を調製する)を加えた。
これにより100℃の条件下で反応が進行し、グルコースはHMFに転換された。表4に、この実験の条件と、実施例3におけるHMF収率の実験結果とを示す。
【0054】
実施例3−1においては有機アンモニウム塩としてトリエチルメチルアンモニウムクロリド(Triethylmethylammonium chloride)(TEMAC)を用い、実施例3−2〜3−4においては有機アンモニウム塩としてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(benzyltriethylammonium chloride)(BTEAC)を用い、実施例3−5においては有機アンモニウム塩としてベンジルトリブチルアンモニウムブロマイド(BTBAB)(benzyltributylammonium bromide)を用い、実施例3−6においては有機アンモニウム塩として1−ブチルピリジニウム塩化物(1-butylpyridinium chloride)(BPyC)を用いた。All of them can convert glucose to HMF efficiently. これら全ての実施例において、効率的にグルコースからHMFに転換することができた。また、実施例3−1と3−4におけるHMF収率はそれぞれ、75%と74%に達することができた。
【0055】
【表4】

【実施例4】
【0056】
次いで、有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤の混合物と、グルコースとを、各種触媒によりをHMFに転換する例について説明する。
【0057】
実施例4−1、4−2においては有機アンモニウム塩として塩化コリンを用い、実施例4−3〜4−5においては有機アンモニウム塩としてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(benzyltriethylammonium chloride)(BTEAC)を用い、実施例4−1〜4−3においてはヒドロキシル有機溶剤としてジエチレングリコールを用い、実施例4−4、4−5においてはポリエチレングリコール200(PEG200)を用い、実施例4全体においては、炭水化物としてグルコースを用いた。
【0058】
これにより、各種触媒、例えば、塩化クロム(III)六水和物(CrCl3.6H2O)、塩化スズ(IV)五水和物(SnCl4.5H2O)、三臭化クロム(III)六水和物(CrBr3.6H2O)、1,3ービス(2,6ービスイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロライドの複合体(complex of 1,3-bis(2,6-bisisopropylphenyl)imidazolium chloride/CrCl2)(Cr−カルベンと略記する)によりグルコースがHMFに転換された。
【0059】
なお、有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤は必要なモル比に応じて混合し、溶液の調製のため100℃に加熱した。次いで、グルコースを溶液に混合し、そこに触媒(グルコースのモル数に基づいて使用量を調製した。実施例4−5については触媒の濃度を重量%で示す。)を添加した。これにより100℃の条件下で反応が進行し、グルコースはHMFに転換された。
【0060】
表5に、この実験の条件と、実施例4におけるHMF収率の実験結果とを示す。表5に示すように、実施例4−3と4−4におけるHMF収率はそれぞれ、65%と66%に達することができた。
【0061】
【表5】

【実施例5】
【0062】
有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤との混合物と、果糖とを、酸触媒によりHMFに転換する例について説明する。
【0063】
実施例5−1、5−3においては有機アンモニウム塩として塩化コリンを用い、実施例5−2においては有機アンモニウム塩としてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(benzyltriethylammonium chloride)(BTEAC)を用い、実施例5−1、5−2においてはヒドロキシル有機溶剤としてジエチレングリコールを用い、実施例5−3においてはヒドロキシル有機溶剤としてエチレングリコールを用い、スルホン酸型イオン交換樹脂触媒(sulfonic acid ion-exchange resin catalyst)としてアンバーリスト−15(AMBERLYST高分子触媒。Am−15と略記する。米国のロームアンドハース社より入手可能)を用い、実施例5全体においては、炭水化物として果糖を用いた。
【0064】
実施例5−1に示すように、有機アンモニウム塩として用いられる塩化コリンを溶剤のジエチレングリコールに75モル%の比率で混合し、100℃に加熱して溶液を調製した。次いで、果糖を溶液に混合し、そこに触媒(果糖の重量比に基づいて使用量を調製した。)を添加した。これにより80℃の条件下で反応が進行し、果糖はHMFに転換された。そして、実施例5−1と同様の条件で実施例5−2,5−3を行った。
【0065】
表6に、実験の条件と、実施例5におけるHMF収率の実験結果を示す。
【0066】
表6に示すように、実施例5−1、5−2,5−3におけるHMF収率はそれぞれ、72%、80%、73%に達することができた。
【0067】
【表6】

【実施例6】
【0068】
有機アンモニウム塩とエチレングリコール溶剤との混合物と、触媒とにより、様々な炭水化物をHMFに転換した。
【0069】
実施例6−1、6−2においては有機アンモニウム塩として塩化コリンを用い、実施例6−3においては有機アンモニウム塩としてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(BTEAC)を用い、ヒドロキシル有機溶剤としてジエチレングリコールを用い、実施例6−1、6−3においては触媒としてCrCl2を用い、実施例6−2においては触媒としてCrCl3.6H2Oを用い、実施例6全体においては、炭水化物としてスクロース、澱粉、あるいはキシロースを用いた。
【0070】
次いで、有機アンモニウム塩を溶剤のジエチレングリコールに75モル%の比率で混合し、100℃に加熱して溶液を調製した。次いで、スクロースや澱粉やキセロースを溶液に混合し、そこに触媒(炭水化物のモル比に基づいて使用量を調製した。)を6mol/%の濃度となるように加えた。
【0071】
これによりスクロースは100℃の条件下で、澱粉は120℃の条件下で、キセロースは100℃の条件下でそれぞれ反応が進行した。そしてスクロースと澱粉とキセロースはHMFに転換された。
【0072】
表7に、この実験の条件と、実施例6におけるHMF収率の実験結果とを示す。表7に示すように、実施例6−1におけるHMF収率は69%に達することができた。
【0073】
【表7】

【0074】
本実施形態に開示されている製造方法は、反応において用いる有機アンモニウム塩の融点を100度以下にする必要がある点で、従来の製造法における既知のイオン液体を用いる方法とは異なっている。
【0075】
本実施例に開示されているHMFあるいはフルフラールの製造方法においては、有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤をモル比に応じて適切に混合することで溶液が形成される。そして、その溶液の融点は100℃以下とされる。そして、溶液と炭水化物(例えば果糖やグルコース)とを混合し、混合物を調製する。
【0076】
次いで、その混合物を加熱することで、混合物はHMFあるいはフルフローラルに転換する。本実施形の製造方法によれば、少なくとも20mol%あるいはそれよりもはるかに高い収率でHMFやフルーラルを製造することができる。
【0077】
本実施形態においては、イオン液体を非商業的に生産するため、HMFの製造において高価なイオン液体を用いる必要がない。このため、高価なイオン液体を用いる従来の製造方法に比べ、製造におけるコストを低く抑えることができる。
【0078】
以上、例示的に複数の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。むしろ、本実施形態は様々な工程や類似の改変、手順を意図したものである。したがって、本願の特許請求の範囲は、そのような全ての変更と同様の構成と工程とを包含可能な、できる限り広い解釈が与えられるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤を混合することにより溶液を調製する工程と、
前記溶液に炭水化物を加えることにより混合物を調製する工程と、
前記炭水化物がフルフラール化合物に転換する反応温度まで、前記混合物を加熱する工程と、を含むことを特徴とするフルフラール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記有機アンモニウム塩は鎖状有機アンモニウム塩あるいは環状有機アンモニウム塩であり、
前記鎖状有機アンモニウム塩は一般化学式[III]で表され、
前記環状有機アンモニウム塩は、一般化学式[I]、[II]、[IV]で表される化合物の少なくともいずれか一つであり、
前記化学式中のR〜R11は、水素(H)、アルキル官能基、シクロアルキル官能基、アリール官能基またはアルカリール官能基のうちからそれぞれ独立に選択され、
これら官能基が水素(H)、OH、Cl、Br、I、もしくはCNのいずれかに選択的に結合することを特徴とする請求項1に記載のフルフラール化合物の製造方法。
【化1】

【請求項3】
前記有機アンモニウム塩の陰イオンYは、F-, Cl-, Br-, I-, NO3-, HSO4-, BF4-, CN-, SO3CF3-, またはCOOCF3-であることを特徴とする請求項2に記載のフルフラール化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシル有機溶剤が一価アルコール、ジオール、トリオールまたは多価アルコールのC−C化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のフルフラール化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシル有機溶剤が炭素鎖にエーテル基(−COC−)を有する化合物を含み、前記炭素鎖は、ジエチレングリコールあるいはHO(CH2CH2O)nH,(n =1〜15)であるポリエチレングリコール化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のフルフラール化合物の製造方法。
【請求項6】
有機アンモニウム塩とヒドロキシル有機溶剤と炭水化物とを含み、
前記有機アンモニウム塩の前記ヒドロキシル有機溶剤に対するモル比は、1〜9の範囲であり、前記炭水化物の量は前記混合物全体の5〜20重量%である、ことを特徴とするフルフローラル化合物製造用の混合物。
【請求項7】
前記有機アンモニウム塩は鎖状有機アンモニウム塩あるいは環状有機アンモニウム塩であり、
前記鎖状有機アンモニウム塩は一般化学式[III]で表され、
前記環状有機アンモニウム塩は、一般化学式[I]、[II]、[IV]で表される化合物の少なくともいずれか一つであり、
前記化学式中のR〜R11は、水素(H)、アルキル官能基、シクロアルキル官能基、アリール官能基またはアルカリール官能基のうちからそれぞれ独立に選択され、これら官能基は水素(H)、OH、Cl、Br、I、もしくはCNのいずれかと選択的に結合することとしてもよく、
前記有機アンモニウム塩の陰イオンYがF-, Cl-, Br-, I-, NO3-, HSO4-, BF4-, CN-, SO3CF3-,もしくはCOOCF3-であることを特徴とする請求項6に記載のフルフローラル化合物製造用の混合物。
【化2】

【請求項8】
前記ヒドロキシル有機溶剤が一価アルコール、ジオール、トリオールまたは多価アルコールのC−C化合物を含むことを特徴とする請求項6に記載のフルフローラル化合物製造用の混合物。
【請求項9】
前記ヒドロキシル有機溶剤が炭素鎖にエーテル基(−COC−)を有する化合物を含み、
前記化合物は、ジエチレングリコールあるいはHO(CH2CH2O)nH, (n =1〜15)であるポリエチレングリコール化合物を含む前記炭素鎖に、エーテル基(−COC−)を有することを特徴とする請求項6に記載のフルフローラル化合物製造用の混合物。

【公開番号】特開2013−23497(P2013−23497A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290166(P2011−290166)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(390023582)財團法人工業技術研究院 (524)
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】