説明

フレキシブル固定治具

【課題】複雑な形状を持つ部品や製品を簡単且つ迅速に固定できるフレキシブル固定治具を提供する。
【解決手段】ワーク部材を保持する固定治具であって、前記ワーク部材の被保持面形状に対応して変移する複数の点保持部材と、該点保持部材を固定する固定機構とからなり、前記点保持部材がその上方から圧接される前記ワーク部材により変移し、前記固定機構によって所定の変移位置において固定される。前記点保持部材としては、多数の球状体或いは複数のピンが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑な形状を有する部品や製品などのワークを保持する治具であって、とくにワークの形状に合わせて簡単且つ迅速に作成することができるフレキシブル固定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車や電化製品の部品は複雑な形状を持つものが多く、それらの部品の製造または組立てラインにおいては様々な固定治具が必要とされている。
【0003】
現在一般に使用される固定治具は、部品の形状に基づき、機械切削して形成された樹脂製ブロックであり、部品毎に専用の固定治具となっている。そのため部品の形状が変更されると使用することができないため、新たに固定治具を作成する必要があった。しかも部品の点数に応じた多数の固定治具が必要となり、その製造と保管に多大のコストを必要とするものであった。
【0004】
そこで、少なくとも一部が剛体で形成され、少なくとも上面が柔軟性を有する薄板で形成された密封容器と、該密封容器内に装入された粒状体と、該密封容器内の気体を吸引する真空ポンプとからなり、前記密封容器の上面に工作物等ワークをロボットハンドリングや加工機に適応した状態で載置すると共に密封容器内を真空状態に保ち、該密封容器の上面を前記載置したワークの下面状態に保ち数々のワークに対応してワークを支持する方法及びワーク受け台が提案されている(特許文献1参照。)。またワークに可撓性袋を載せて可撓性袋をワークに倣って上方に窪ませ、可撓性袋内の粉末を上昇させて粉末の上面を通気性板の下面に密着し、排気手段によって可撓性袋内の空気を排気するワーク保持用の汎用治具も提案されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−33862号公報
【特許文献2】特許第3887143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記の特許文献1及び2の技術は、いずれもワークの形状に対して柔軟性を有する材料の面によってワークを保持する技術であり、真空ポンプなどの排気装置によって容器内の気体を吸引する必要がありランニングコストが係るという問題があった。また、特許文献2の技術においては可撓性袋を載せて可撓性袋をワークに倣って上方に窪ませ、可撓性袋内の粉末を上昇させて粉末の上面を通気性板の下面に密着し、排気手段によって可撓性袋内の空気を排気することによって、ワークの形状に合わせた汎用治具を得るものであり、ワークの大きさや形状によって袋内の粉末を選択する必要があり、また空気を排気する通気性板に目詰まりの虞がありワークの形状に倣う際にムラとなることがあった。
【0007】
上記の問題点に鑑み本発明者らは、鋭意研究の結果、複雑な形状を有する部品や製品などのワーク部材を点で保持して固定することによって、固定治具の作成や交換が容易となるフレキシブル固定治具を提供するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明のフレキシブル固定治具は、ワーク部材を保持する固定治具であって、前記ワーク部材の被保持面形状に対応して変移する複数の点保持部材と、該点保持部材を固定する固定機構とからなり、前記点保持部材がその上方から圧接される前記ワーク部材により変移し、前記固定機構によって所定の変移位置において固定されることを第1の特徴とする。
【0009】
また、前記点保持部材は多数の球状体からなり、所定の容器内の球状態と熱可塑性樹脂からなる固定部材を加熱し、前記球状体が上方から圧接されるワーク部材により変移した後、冷却によって固化した前記固定部材によって、球状体が所定の位置において固定されることを第2の特徴とする。
【0010】
尚、前記ワーク部材を前記点保持部材に上方から圧接する際に、ワーク部材に着脱可能に取り付けた複数の専用ピンを介して圧接し、該専用ピンを前記固定部材及び球状体と一体に固定してもかまわない。
【0011】
そして、前記点保持部材は複数のピンからなり、該ピンを上下方向に変移自在に保持する多数の孔部を有する受け治具体と、前記ピンを上下方向に変移可能とする弾性体と、該受け治具体の少なくとも一端側から圧着する圧着装置とからなり、前記複数のピンが上方から圧接される前記ワーク部材により変移し、前記圧着装置によって前記ピンが所定の変移位置において固定されることを第3の特徴とする。
【0012】
この受け治具体に設けられた多数の孔部は、同径でマトリックス状に穿設されており、また前記ピンを変移可能とする弾性体は、バネ部材、発泡樹脂、ゴム部材などが選択して使用される。
【0013】
さらに、前記受け治具体は金属製板材からなり、前記複数のピンを挿通可能な挿通孔部と、該孔部の径方向に切削して連接する溝部を有し、前記金属製板材の側面の、前記溝部に対して直角位置に設けた圧着装置によって圧着し、前記複数のピンを固定することを第4の特徴とする。
【0014】
しかも、前記受け治具体は、両端部にガイド孔部を有し、且つ長手方向の両側面の同位置に前記ピンの略半柱形状に対応する複数の溝部を刻設した複数の柱状体と、該柱状体を前記溝部と対向させ、前記ガイド孔部を介して接続する一対のガイドピンとからなることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るフレキシブル固定治具によれば、ワーク部材の被保持面形状に対応して変移する複数の点保持部材と、該点保持部材を固定する固定機構とから構成されており、ワーク部材の形状が変化しても、点保持部材を圧接して変移させて固定することによって簡単にしかも迅速に固定治具を形成させることができるという優れた効果を有する。
【0016】
多数の球状体からなる点状保持部材と、熱可塑性樹脂からなる固定部材を、容器内に投入して加熱し、ワーク部材を多数の球状体に圧接させた状態で、固定部材を冷却して固定治具を形成する構成であり、簡単な構成であるため安価であると共に、熱可塑性樹脂を使用しているためワーク部材の形状の変更毎の作り直しが容易であるという優れた効果を有する。
【0017】
そして、複数のピンからなる点保持部材と、該ピンを上下方向に変移自在に保持する多数の孔部を有する受け治具体と、前記ピンを上下方向に変移可能とする弾性体と、該受け治具体の少なくとも一端側から圧着する圧着装置とから構成されており、ワーク部材を複数のピンの上方から圧接することによって簡単にワーク部材の被保持面形状に対応した固定治具が作成できるという効果を有する。
【0018】
さらに、受け治具として、両端部に取付け用孔部を有し、且つ長手方向の上下両面の同位置に前記ピンの略半柱形状に対応する複数の溝部を刻設した複数の柱状体と、該柱状体を前記溝部と対向させ、前記取付け用孔部を介して接続する一対のガイドピンとで構成したため、受け治具の規格化が可能となり、品質が一定となると共に、ワーク部材の大きさによって受け治具のサイズの変更も容易となるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のフレキシブル固定治具の一実施例を示す説明図である。
【図2】図1の他の使用例を示す説明図である。
【図3】本発明のフレキシブル固定治具の他の実施例を示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施例の基本部材を示す説明図である。
【図5】図4の基本部材を複数連結した状態を示す斜視図である。
【図6】図4乃至図5から構成される本発明のフレキシブル固定治具の他の実施例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のフレキシブル固定治具を図面に基づいて説明する。図1は本発明のフレキシブル固定治具の一実施例を示す説明図、図2は図1の他の使用例を示す説明図、図3は本発明のフレキシブル固定治具の他の実施例を示す説明図、図4は本発明のフレキシブル固定治具の他の実施例の基本部材を示す斜視図、図5は図4の基本部材アを複数連結した状態を示す斜視図、図6は図4乃至図5から構成される本発明のフレキシブル固定治具の他の実施例を示す斜視図である。
【実施例1】
【0021】
図1及び図2に示すように、本発明のフレキシブル固定治具1は、上方を開放した矩形の金属製容器2に、多数の鋼球3が投入されており、この鋼球3同士或いは鋼球3と容器2とが形成する隙間に適量の熱可塑性樹脂4が投入され、加熱装置(図示せず)によって熱可逆樹脂性4が加熱される構成となっている。
【0022】
金属製容器2は、剛性を有し、且つ熱伝導性に優れたものであればよく、アルミ合金などが使用可能である。また鋼球3は、ワーク部材5の被保持面と点接触する径の金属球であればよく、例えば直径数mm〜十数mmのものが望ましい。そして、熱可塑性樹脂4は、金属との接着性を持つオレフィン系の熱可塑性樹脂が使用され、例えばビーズ状に形成されたものが上記鋼球3と共に容器2に投入され、加熱装置によって軟化して鋼球3及び容器2と接着する。尚、加熱温度は熱可塑性樹脂4の素材によって異なるが、150℃未満が望ましく、ワーク部材5の材質によって最適の素材、及び温度が選択される。
【0023】
上記構成のフレキシブル固定治具1の使用方法を、図1及び図2に従って説明する。尚、図2はワーク部材をピン部材によって保持した構成を示している。
【0024】
図1に示すように、ワーク部材5の被保持面6をフレキシブル固定治具1の開口部7の上方から、被保持面6と鋼球3とが点接触した状態で押し込み、この被保持面6の形状に応じた凹部8が形成される。この際熱可塑性樹脂4は予め約150℃に加熱されており、鋼球3の隙間で粘性を持った状態であるため、鋼球3はワーク部材5の押圧によって移動自在であり、所望の凹部8の形成が可能となる。
【0025】
次に、上記の状態において熱可塑性樹脂4を常温に冷却すると、鋼球3は熱可塑性樹脂4によって接着されて固定され、ワーク部材3の被保持面6の形状に対応する凹部8を保った固定治具となる。この固定治具は、外部加熱装置によって再度過熱することによって、熱可塑性樹脂4が軟化させることが可能となり、異なる形状のワーク部材5を圧接することで新たな固定治具を作成することができる
【0026】
図2は、図1のフレキシブル固定治具1の他の使用例を示しており、ワーク部材5に設けられた支持用孔部6に予め支持ピン9が着脱自在に差込まれている。このワーク部材5をフレキシブル固定治具1の開口部7の上方から、支持ピン9と鋼球3とが点接触した状態で押し込み、上述した熱可塑性樹脂4の加熱と冷却によって支持ピン9を固定することができる。そして、ワーク部材5を支持ピン9に合わせて差込むことによって常に同じ位置に固定することが可能となる。尚、ワーク部材5の形状が変更となった場合には、図1で示した使用例と同様に、新たな固定治具を形成することができる。
【0027】
上記の構成からなる本発明のフレキシブル固定治具は、多数の球状体からなる点状保持部材と、熱可塑性樹脂からなる固定部材を、容器内に投入して加熱し、ワーク部材を多数の球状体に圧接させた状態で、固定部材を冷却して固定治具を形成する構成であり、非常に簡単な操作で固定治具を作成することができると共に、熱可塑性樹脂を再度過熱することによって、異なるワーク部材の固定治具として再使用できるため、同じ固定治具の材料を繰り返し使用することができる。
【実施例2】
【0028】
次に、図3に従って本発明のフレキシブル固定治具の他の実施例を説明する。図3(a)は斜視図、図3(b)は平面図である。
【0029】
図に示すように、本発明のフレキシブル固定治具10は、金属製平板からなる受け治具台11と、この受け治具台11に多数穿設された孔部12に上下移動自在に挿入された複数のピン13と、孔部12を直径方向に連結する溝14と、受け治具台11の側面に溝14と直交して取り付けられた複数のボルト15とから構成されている。また、受け治具台11の底部には弾性部材(図示せず)が設けられ、ピン13を上下方向に変移可能とする。
【0030】
受け治具台11は、寸法安定性に優れた鋼材やアルミ合金が使用され、穴あけ用ドリルや放電加工機によって孔部12とこの孔部12を直径方向に連結する溝14が形成されている。尚、孔部12はピン13の外径と同等か略大きく穿設され、マトリックス状に均等な位置に形成されることが望ましい。
【0031】
ピン13は金属、プラスチック、セラミックなどの柱状体が使用され、必要に応じて先端が球面状あるいは平面に形成され、ワーク部材(図示せず)の大きさに応じた数が使用されて孔部12に挿入される。またピン13を上下方向へ変移可能とする弾性体としては、バネや発泡材、ゴム部材が使用される。
【0032】
上記の構成からなる本発明のフレキシブル固定治具は、多数のピンからなる点保持部材と、ワーク部材を圧接し、ピンを上下方向に変移させた状態で、受け治具台の側面に設けたボルトを締め付けることにより溝部14が締まり、ピンと孔部との間の摩擦によって固定し、固定治具を形成する構成であり、非常に簡単な操作で固定治具を作成することができる。しかもボルトの締め付けを解除することによって溝部14の隙間が復帰してピンの固定が解消され、弾性体によってピンは初期の位置に移動し、異なるワーク部材用の固定治具として再使用できる。
【実施例3】
【0033】
次に図4乃至図6に従って、本発明のフレキシブル固定治具の他の実施例を説明する。尚、本実施例は上記実施例2で説明した受け治具台と、ピンの組合せである点において共通であり、とくにピンは同じものが使用される。
【0034】
図4は、受け治具台の基本部材である柱状体22を示しており、鋼材若しくはアルミ合金製の直方体からなり、その両端部には夫々連結用孔部23が同方向に穿設されており、このガイド用孔部23が形成された面には後述するピンの半円柱形状に対応する溝24が夫々対向して複数形成されている。
【0035】
図5は受け治具台21を示しており、図4に示す柱状体22を溝24と夫々対向させて複数配置し、一対のガイドピン25によって接続して構成されている。この対向する溝24によって複数の孔部26が平面視マトリックス状に形成され、後述するピンを挿通可能とする。そして、柱状体22の長手方向に対して直交して配置された加圧板27を介して圧着される。
【0036】
図6は、本発明のフレキシブル固定治具20の斜視図であり、上記した受け治具台21に多数のピン28が挿入された状態を示している。尚、このピン28の下方にはピン28を上下方向に変移可能とする弾性体(図示せず)が設けられている。
【0037】
上記の構成からなる本発明のフレキシブル固定治具は、多数のピンからなる点保持部材と、ワーク部材を圧接し、ピンを上下方向に変移させた状態で、受け治具台の側面に設けた加圧板をクランプなどによって締め付け、ピンと孔部との間の摩擦によって固定し、固定治具を形成する構成であり、非常に簡単な操作で固定治具を作成することができる。しかもクランプによって加圧板の締め付けを解除することによってピンの固定が解消され、異なるワーク部材用の固定治具として再使用できる。しかも、受け治具台は基本部材である柱状体を複数組み合わせることによって構成するため、ワーク部材の大きさによって固定治具のサイズ変更が容易であると共に、治具部材の規格化が可能となり、製造コストの低減が可能となる。
【0038】
以上、本発明によるフレキシブル固定治具によれば、ワーク部材の被保持面形状に対応して変移する複数の点保持部材と、該点保持部材を固定する固定機構とから構成されており、ワーク部材の形状が変化しても、点保持部材を圧接して変移させて固定することによって簡単にしかも迅速に固定治具を形成させることができる。
【符号の説明】
【0039】
1、10、20 フレキシブル固定治具
2 金属製容器
3 鋼球
4 熱可塑性樹脂
5 ワーク部材
6 被保持面
7 開口部
8 凹部
9 支持ピン
11、21 受け治具台
12、26 孔部
13、28 ピン
14、24 溝
15 ボルト
22 柱状体
23 ガイド用孔部
25 ガイドピン
27 加圧板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク部材を保持する固定治具であって、前記ワーク部材の被保持面形状に対応して変移する複数の点保持部材と、該点保持部材を固定する固定機構とからなり、前記点保持部材がその上方から圧接される前記ワーク部材により変移し、前記固定機構によって所定の変移位置において固定されることを特徴とするフレキシブル固定治具。
【請求項2】
前記点保持部材は多数の球状体からなり、所定の容器内の該球状態と熱可塑性樹脂からなる固定部材を加熱し、ワーク部材を上方から圧接して前記球状体を変移させた後、冷却により固化した前記固定部材によって、球状体が所定の変移位置において固定されることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル固定治具。
【請求項3】
前記点保持部材は複数のピンからなり、該ピンを上下方向に変移自在に保持する多数の孔部を有する受け治具体と、前記ピンを上下方向に変移可能とする弾性体と、該受け治具体の少なくとも一端側から圧着する圧着装置とからなり、前記複数のピンが上方から圧接されるワーク部材により変移し、前記圧着装置によって前記ピンが所定の変移位置において固定されることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル固定治具。
【請求項4】
前記受け治具体は金属製板材からなり、前記複数のピンを挿通可能な挿通孔部と、該孔部の径方向に切削して連接する溝部を有し、前記金属製板材の側面の、前記溝部に対して直角位置に設けた圧着装置によって圧着し、前記複数のピンを固定することを特徴とする請求項3に記載のフレキシブル固定治具。
【請求項5】
前記受け治具体は、両端部にガイド孔部を有し、且つ長手方向の両側面の同位置に前記ピンの略半柱形状に対応する複数の溝部を刻設した複数の柱状体と、該柱状体を前記溝部と対向させ、前記ガイド孔部を介して接続する一対のガイドピンとからなることを特徴とする請求項3に記載のフレキシブル固定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−188469(P2010−188469A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35084(P2009−35084)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(000155067)株式会社ホンダロック (164)
【Fターム(参考)】