説明

フレッチングによる異音発生予測方法

【課題】 フレッチングの発生箇所を予測するとともに、フレッチング量も予測し、これにより、フレッチングに起因する異音発生有無を判定することができるフレッチングによる異音発生予測方法を提供する。
【解決手段】 接触条件の変動に伴う接触面圧変動分布を解析により導出し、この接触面圧変動分布より有効接触面を特定し、有効接触面内の平均面圧とすべり量を解析により導出し、これらを用いて、有効仕事量=有効接触面積×平均面圧×すべり量×摩擦係数を求め、有効仕事量より、フレッチングによる異音発生を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、接触する二面間に相対的な微動が繰り返されるときに生じるフレッチング現象について、その発生の有無および発生箇所を予め推定して、フレッチングによる異音発生の有無を予測する異音発生予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フレッチングを評価するには、試験片をその軸と垂直な水平方向に押し付ける押し付け片と、軸方向にすべり可能なように押し付け片に支持された試験片を軸方向に変位させるアクチュエータとを備えたフレッチング疲労試験装置が使用されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−219964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フレッチング疲労試験装置による評価は、試験片の形状に制限があり、また、試験期間も長く必要であるため、これに代えて、フレッチングを予測することが望まれているが、フレッチング発生の予測は不可能とされており、試験するしかないというのが実情であった。
【0004】
例えば、車両に使用されているハブユニットでは、タイヤにかかる接地荷重が変化することから、ハブユニットとこれに接触する部材との間でフレッチングが発生しやすい条件となっており、その適切な評価方法が望まれている。
【0005】
また、フレッチングに起因する異音(スティックスリップ)を机上で予測することは、より一層困難であり、この異音発生を予測することは従来全く考えられていなかった。
【0006】
この発明の目的は、フレッチングの発生箇所を予測することができ、したがって、対象部材の形状、厚み、材質等の仕様を変更した場合について、各仕様の耐フレッチング性の良否を判定することができるとともに、フレッチング量も予測し、これにより、フレッチングに起因する異音発生有無を判定することができるフレッチングによる異音発生予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるフレッチングによる異音発生予測方法は、接触条件が変動する2つの部材同士の接触面に生じるフレッチングによる異音発生を予測する方法であって、前記接触条件の変動に伴う接触面圧変動分布を解析により導出し、この接触面圧変動分布より有効接触面を特定し、有効接触面内の平均面圧とすべり量を解析により導出し、これらを用いて、有効仕事量=有効接触面積×平均面圧×すべり量×摩擦係数を求め、有効仕事量より、フレッチングによる異音発生を予測することを特徴とするものである。
【0008】
フレッチングは、互いに接触する2つの部材の接触面のうち、接触状態が変化する箇所、すなわち、接触したり離れたりする箇所で発生し、常に接触している箇所および常に離れている箇所ではフレッチングは発生しない。この点に着目し、使用条件下で接触状態が変化する箇所の面圧分布を有効接触面圧分布と定義し、以下のようにして、フレッチングを予測する。
【0009】
1.適当な解析手法(例えば、有限要素法=FEM解析等の理論解析、または実験解析)を用いて、荷重条件を変更して複数の荷重条件につき対象とする部材の接触面圧分布を求める。
【0010】
2.すべての荷重条件に対して常に離れている箇所および常に接触している箇所を除くことにより、有効接触面圧分布を求める。
【0011】
フレッチングが発生した部材について、上記のようにして得られた有効接触面圧分布と実際のフレッチングとを比較すると、よく一致しており、この方法により、机上検討でフレッチング発生の有無の予測、フレッチング防止対策効果の評価などが可能となり、製品開発期間の短縮、設計品質の向上につなげることができる。
【0012】
上記フレッチング発生予測において、接触条件の変動に伴う接触面圧変動分布を解析により導出し、この接触面圧変動分布より有効接触面を特定し、有効接触面内の平均面圧とすべり量を解析により導出し、これらを用いて、有効仕事量=有効接触面積×平均面圧×すべり量×摩擦係数を求め、有効仕事量が相対的に大きいものでは、フレッチングが起こりやすく、有効仕事量が相対的に小さいものでは、フレッチングが起こりにくいと予測することが可能であり、これにより、より精度の高い予測が可能となる。
【0013】
上記フレッチング発生予測方法は、接触条件が変動する2つの部材同士の接触面に生じるフレッチングによる異音発生を予測する方法への適用が可能であり、この場合に、「有効仕事量」を求めることが好ましい。
【0014】
有効仕事量は、摩擦力のする仕事量を有効接触領域内ですべての荷重方向について積分した値であり、試験結果から得られた異音発生までの時間とこの有効仕事量とは高い相関を有している。なお、異音発生までの時間は、異音発生までの荷重繰返し数と相関するため、有効仕事量は荷重繰返し数とも高い相関を有する。
【0015】
上記フレッチングによる異音発生予測方法において、解析手法は、FEMに限られるものではないが、対象とする部材が3次元形状を有する場合に、条件変更が容易である点などで、FEM解析によって接触面圧を求めることがより好ましい。
【0016】
また、対象とする部材については、全く制限されないが、好適な適用例として、車輪およびこれが取り付けられているハブユニットの車輪取付けフランジ、同フランジに取り付けられるホイール、および車輪取付けフランジとホイールとの間に配置されるブレーキロータのうちの少なくとも1つを対象部材とすることが挙げられる。ハブユニットの車輪取り付け部分では、荷重変化が大きく、ある荷重条件で接触面圧がゼロとなりかつ他の荷重条件で接触面圧が正となる箇所が生じやすく、フレッチングが発生しやすい使用条件となっている。そのため、長時間使用した場合に、フレッチングに起因する異音の発生が懸念される。したがって、この部分に上記フレッチングによる異音発生予測方法を適用することにより、適正なハブユニットおよび車輪の設計が容易となる。
【0017】
また、各種軸受も、ハブユニットと同様に荷重が変化する条件下で使用されるため、フレッチングが発生しやすいものであり、軸受にこのフレッチングによる異音発生予測方法を適用することにより、軸受の耐フレッチング性を向上させることができ、また、異音の発生を防止することもできる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のフレッチングによる異音予測方法によると、試験結果から得られた異音発生までの時間とこの有効仕事量とは高い相関を有しており、異音発生の判定基準とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1は、この発明によるフレッチングによる異音発生予測方法を適用する一例としてのハブユニットを示している。以下の説明において、左右は図1の左右をいうものとする。なお、左が車両の外側に、右が車両の内側となっている。
【0021】
ハブユニット(1)は、ホイール(2)が取り付けられている車輪側軌道部材(4)、車体(3)側に固定される車体側軌道部材(5)、および両軌道部材(4)(5)の間に配置された二列の転動体(6)を有している。
【0022】
車輪側軌道部材(4)は、中空状のハブホイール(11)と、ハブホイール(11)の右端部外径に嵌め止められた内輪部材(12)とからなる。ハブホイール(11)の左端近くには、車輪取付けフランジ(13)が設けられている。車輪取付けフランジ(13)と内輪部材(12)との間にあるハブホイール(11)の外径部分には、内輪軌道(11a)が形成されており、内輪部材(12)には、この内輪軌道(11a)と並列するように、内輪軌道(12a)が形成されている。ハブホイール(11)の車輪取付けフランジ(13)には、ホイール(2)を取り付ける複数(5本)のボルト(14)が固定されており、ディスクブレーキ装置のブレーキロータ(15)がここに取り付けられている。
【0023】
車体側軌道部材(5)は、軸受の外輪(固定輪)機能を有しているもので、内周面に二列の外輪軌道(16a)が形成されている円筒部(16)と、円筒部(16)の右端部に設けられて懸架装置(車体)(3)にボルト(図示略)で取り付けられているフランジ部(17)とを有している。フランジ部(17)には、ボルト挿通孔(図示略)が設けられている。
【0024】
二列の転動体(6)は、それぞれ保持器(18)に保持されて両軌道部材(4)(5)の軌道(11a)(12a)(16a)間に配置されている。車体側軌道部材(5)の左端部とハブホイール(11)との間および車体側軌道部材(5)の右端部と内輪部材(12)の右端部とのには、それぞれシール装置(19)(20)が設けられている。
【0025】
このハブユニット(1)は、自動車の駆動輪側に使用されるタイプであって、等速ジョイント(7)と結合されている。等速ジョイント(7)は、ハブホイール(11)内に嵌め入れられて固定されている軸部(21)と、軸部(21)の右端部に連なる凹球面状の外輪(22)と、外輪(22)に対向しかつデファレンシャル装置(図示略)に取り付けられている駆動シャフト(26)に固定されている内輪(23)と、両輪(22)(23)間に配置された玉(24)および保持器(25)などとからなる。
【0026】
ハブホイール(11)の車輪取付けフランジ(13)、ディスクブレーキ装置のブレーキロータ(15)およびホイール(2)は、共通のボルト(14)によって結合されており、これらの結合部分には、タイヤ(図示略)を介して車両にかかる荷重が作用し、結合部分が受ける力は、接地位置に近い部分と接地位置から遠い部分とで大きく変動している。したがって、接触する二面間に相対的な微動が繰り返されるときに生じるフレッチングが起こりやすいものとなっている。
【0027】
図2は、フレッチング発生予測方法を上記ハブユニットの結合部分に適用して得られた結果を示している。この結果は、次のようにして得られたものである。
【0028】
1.車輪取付けフランジ(13)、ブレーキロータ(15)、ホイール(2)およびボルト(14)のそれぞれを要素分割し、FEM解析を行って、各部材(13)(15)(2)間の接触面圧を求める。荷重条件としては、例えば、ボルト(14)の中心部分に接地荷重が集中荷重として作用したときと、ボルト(14)とボルト(14)の中間部分に接地荷重が集中荷重として作用したときとの複数の荷重条件について計算される。
【0029】
2.荷重の方向が変化した際に接触状態が変化する箇所の接触面圧を有効接触面圧と定義し、各要素毎に有効接触面圧を求めその分布図を作成する。FEM解析によると、所定荷重条件における部材中の所定の範囲内の接触面圧(複数位置の接触面圧)を容易に求めることができる。
【0030】
図2は、車輪取付けフランジ(13)をホイール(2)側から見た有効接触面圧分布であり、図2において、ハッチングで示す部分(F)は、ボルト(14)の中心部分(車輪取付けフランジ(13)では、ボルト挿通孔(13a)の中心部分)およびボルト(14)とボルト(14)の中間部分に、荷重(接地荷重の集中荷重)を順次負荷していった際に、離れたり(接触面圧がゼロ)接触したり(接触面圧が正)する部分であり、その他の部分は、接触面圧が変動してもゼロになることはないところ(例えば、ボルト締付け部分の近傍(B))か、または、常に接触面圧がゼロのところ(ホイールの凹所に対向する部分(W))である。なお、有効接触面圧の出力は、カラー表示され(図示略)、接触面圧変化の大小についても視覚によって判定することができる。この結果は、試験時間を100時間としたときの実際の車輪取付けフランジ(13)におけるフレッチングの発生箇所にほぼ合致している。
【0031】
また、車輪取付けフランジ(13)の厚みおよび形状を変更したモデルについて解析を行ったところ、有効接触面圧分布が変化し、この傾向と、フレッチングの実験結果の傾向も一致した。
【0032】
次いで、ラジアル荷重の方向を20通りとしたFEM解析を行い、図3に矢印で示すように荷重の方向を順次変化させていくとともに、有効接触面積だけでなく、平均面圧および有効仕事量を求めた。ここで、有効仕事量=有効接触領域内の節点摩擦力×相対すべり量を全荷重条件で全節点について積分したもの、ただし、有効接触領域内の節点摩擦力=有効接触面圧×有効接触面積×摩擦係数である。なお、図3において、ハッチングで示す部分は、矢印で示す方向の荷重(接地荷重の集中荷重)を順次負荷して得られた有効接触面であり、面圧が相対的に大きい箇所を十字のハッチングとしている。
【0033】
そして、荷重変化の繰り返しに伴うフレッチングに起因する異音発生時間が異なる複数のモデルについて、試験結果と上記解析結果とを考察して、上記の有効接触面積、平均面圧および有効仕事量と異音発生時間との関係を求めたところ、有効接触面積および平均面圧と異音発生時間との相関は低いが、有効仕事量と異音発生時間との相関は非常に高いことが確認された。
【0034】
すなわち、有効仕事量は、ハブユニット軸受が1回転した際にハブユニットの車輪取付けフランジ(13)とブレーキロータ(15)間の摩擦力がする仕事量であり、これには、有効接触面積、有効接触面圧、相対すべり量の情報が含まれている。そして、この有効仕事量は、試験結果(異音発生時間あるいは異音発生までの軸受の回転総数)とよく一致しており、異音発生の判定基準になることが分かる。したがって、車輪取付けフランジ(13)やホイール(2)の形状を机上で変更し、上記解析を実行することにより、異音発生を改良するのにより適した車輪取付けフランジ(13)やホイール(2)の形状を求めることも可能である。
【0035】
なお、上記においては、ハブユニットを対象とする部材としたが、この発明による異音発生予測方法は、ハブユニット以外の転がり軸受や転がり軸受以外の種々の装置に対しても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明によるフレッチングによる異音発生予測方法が適用される1例としてのハブユニットを示す縦断面図である。
【図2】フレッチング発生予測結果の一例を示す図である。
【図3】この発明によるフレッチングによる異音発生予測方法の結果の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0037】
(1) ハブユニット
(2) ホイール
(11) ハブホイール
(13) フランジ部
(14) ボルト
(15) ブレーキロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触条件が変動する2つの部材同士の接触面に生じるフレッチングによる異音発生を予測する方法であって、前記接触条件の変動に伴う接触面圧変動分布を解析により導出し、この接触面圧変動分布より有効接触面を特定し、有効接触面内の平均面圧とすべり量を解析により導出し、これらを用いて、有効仕事量=有効接触面積×平均面圧×すべり量×摩擦係数を求め、有効仕事量より、フレッチングによる異音発生を予測することを特徴とするフレッチングによる異音発生予測方法。
【請求項2】
FEM解析によって有効仕事量を求めることを特徴とする請求項1のフレッチングによる異音発生予測方法。
【請求項3】
車輪およびこれが取り付けられているハブユニットの車輪取付けフランジ、同フランジに取り付けられるホイール、および車輪取付けフランジとホイールとの間に配置されるブレーキロータのうちの少なくとも1つを対象部材とすることを特徴とする請求項1または2のフレッチングによる異音発生予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−185592(P2008−185592A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75099(P2008−75099)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【分割の表示】特願2003−308340(P2003−308340)の分割
【原出願日】平成15年9月1日(2003.9.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】