説明

フレネル型ミラー

【課題】フレネル型ミラー特有の眩光現象を実質的に生じないようにしたフレネル型ミラーを提供する。
【解決手段】透明な樹脂板1に、該樹脂板の面方向に対する傾斜角θaが小さい傾斜面2aと該傾斜角θaよりも大きな傾斜角θbの段差面2bとが縦断面でL形をなす多数の環状溝2を直径の大きさの順に同心状に配置している。傾斜面2aには金属の反射膜3を被覆する一方、段差面2bには該反射膜3を被覆せず、さらに反射膜3と段差面2bの外側に塗料層4を非反射層として被覆した構成からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレネル型ミラーに関し、さらに詳しくは多重反射による眩光が発生しないように鏡面を改良したフレネル型ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
図5はフレネル型ミラーの原理について説明するもので、図5(A)に球面の一部からなる凸面鏡Qの縦断面図を、図5(B)に、この凸面鏡Qと同等の機能を有するフレネル型ミラーQf の鏡面だけを縦断面図で示している。
【0003】
フレネル型ミラーQf は、上記凸面鏡Qを中心軸Oに対して小円板q0 と同心円状の多数のリングq1 , q2 , q3 , ・・・・qn に分割し、これら小円板q0 とリングq1 , q2 , q3 , ・・・qn とを、図5(B)のように平面状に並べ変えたときの鏡構造体を基礎として成り立つものである。このように形成されたフレネル型ミラーQf は、凸面鏡Qに比べると薄く偏平であるため、省スペース品として注目されている。
【0004】
図6は、上記フレネル型ミラーQf を透明な樹脂板を利用して具体化したものを示す。ミラー本体が透明な樹脂板1から構成され、その片面に上記リングq1 , q2 , q3 , ・・・qn を構成する多数の径の異なる環状溝2が中心軸Oの周りに同心円状に配置され、かつこれら環状溝2の全面にアルミニウムなどの反射膜3が蒸着されている。
【0005】
しかし、このように透明な樹脂板1から構成されたフレネル型ミラーQf では、ミラー表面に比較的小さな角度で入射した光SLに対して多重反射する現象があり、光SLが入射した方向から見たときの鏡面が眩光によって白濁状態になり、反対側から入射する反射映像GLが見え難くなるという欠点を有していた。
【0006】
即ち、環状溝2は傾斜面2aと段差面2bとが縦断面においてL形をなすように形成され、鏡面となる傾斜面2aは中心軸Oから遠い位置の環状溝2ほど樹脂板1の面方向に対する傾斜角が順次大きくなり、そのため中心軸Oから遠い位置の環状溝2ほど段差面2bの面積が広くなっている。
【0007】
そのため図6に示すように、太陽光SLがミラー表面に小さな角度で入射すると、樹脂板1内に入射した光の一部が段差面2bに入射及び反射し、その反射光が更に傾斜面2aに多重反射して、再び最初に入射した方向へ戻るという現象がある。入射方向へ戻った太陽光SLは人の目Eに直接入る眩光になるので、破線のように反対側から入射する映像光GLを見え難くすることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フレネル型ミラー特有の眩光現象を実質的に生じないようにしたフレネル型ミラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明のフレネル型ミラーは、透明な樹脂板に、該樹脂板の面方向に対する傾斜角θaが小さい傾斜面(2a)と該傾斜角θaよりも大きな傾斜角θbの段差面(2b)とが縦断面でL形をなす多数の環状溝(2)を直径の大きさの順に同心状に配置し、前記傾斜面(2a)には金属の反射膜(3)を被覆する一方、前記段差面(2b)には該反射膜(3)を被覆せず、さらに前記反射膜(3)と段差面(2b)の外側に塗料層(4)を非反射層として被覆した構成からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環状溝を縦断面L形に形成する傾斜面と段差面のうち一方の傾斜面だけを金属反射膜で被覆し、他方の段差面は被覆しないような構成にしたので、樹脂板内に小さな角度で入射した光の一部が環状溝の段差面に入射したとしても、光はその段差面では反射せずに吸収されてしまうようになるため、眩光現象を発生しないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に係るフレネル型ミラーを例示し、(A)は要部の縦断面図、(B)は(A)におけるX部分の拡大図である。
【0012】
図1(A),(B)において、フレネル型ミラーQf の本体は透明な樹脂板1から構成されており、その樹脂としてはポリカーボネート、ポリアクリル、ポリエチレンなどの透明性に優れた樹脂が使用されている。この樹脂板1の片面に、平面視がリング状の直径の異なる多数の環状溝2が中心軸Oの周りに直径の小さいものから大きいものの順に同心円状に配置されている。環状溝2は微細な溝幅から形成され、その溝幅しては0.01〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.5の範囲に形成されている。
【0013】
各環状溝2は縦断面が傾斜面2aと段差面2bとからL形に形成されている。二つの面2a,2bのうち、傾斜面2aは鏡面として作用し、樹脂板1の面方向に対して傾斜角θaをなし、また段差面2bは隣接の環状溝2との境界壁となるもので、樹脂板1の面方向に対する傾斜角θbが傾斜角θaよりも大きな角度に設定されている。また、傾斜面2aは平滑な面に形成されるが、段差面2bの方は平滑である必要はなく、むしろ梨地状の粗面であることが好ましい。
【0014】
各傾斜面2aは、図5の原理図で説明した凸面鏡Qから分離された小円板q0 やリングq1 , q2 , q3 , ・・・qn に相当しており、球面の一部を構成するものである。しかし、これら傾斜面2aは極めて微小幅に形成されているので、図示のように縦断面において直線状になっていてもよい。この傾斜面2aの傾斜角θaは、中心軸Oから遠い直径の大きい環状溝2ほど順に大きくなり、それに伴って段差面2bの深さ(即ち壁面積)が順に大きくなっている。
【0015】
本発明のフレネル型ミラーQf を形成する環状溝2の表面には、図1(B)に示すように、傾斜面2aだけに金属の反射膜3が蒸着され、段差面2bの方には反射膜3が蒸着されていない。さらに反射膜3と段差面2bとの外側を被覆するように塗料層4が非反射層として塗布されている。
【0016】
本発明のフレネル型ミラーQf は、上述したように反射膜3が傾斜面2aだけに蒸着され、段差面2bには設けられていないので、ミラー表面に太陽光SLが比較的小さな角度で入射すると共に、更に一部が段差面2bに入射した場合であっても、この段差面2bにおいて光SLが反射することなく、段差面2b内に吸収されてしまう。したがって、従来のフレネル型ミラーに生じていた多重反射が起こらず、入射した光SLが再び元の入射方向に戻るようなことがないから、眩光現象を生ずることはない。
【0017】
さらに、段差面2bを梨地状の粗面に加工しておくと、眩光現象の防止効果を一層向上することができる。即ち、段差面2bが平滑である場合には、反射膜3が設けられていなくても所謂「全反射」による反射は発生するため、その全反射の影響を回避することは難しい。しかし、上記のように段差面2bが梨地状に粗面加工されていると、その粗面によって入射光を拡散させることができるため、眩光の現象防止効果を一層良好にすることができるのである。
【0018】
図2〜図4は本発明のフレネル型ミラーの製造方法の一例を説明する概略図である。
図4は、樹脂板1に金属の反射膜3を真空蒸着する真空蒸着装置10を、横断平面図として示したものである。真空蒸着装置10の真空蒸着室20は高真空に減圧され、その中にアルミニウム,スズ等の金属を蒸発する金属蒸発源30が設けられている。
【0019】
金属蒸発源30には、出来るだけ点に近い点蒸発源が好ましくは使用され、蒸着距離に比べて十分に小さな球状の蒸発源を形成するものが好ましい。蒸発法は加熱法が好ましく、例えば、金属材料を直接通電により蒸発させる抵抗加熱法、るつぼに装填した金属材料の表面に電子ビームを照射して加熱蒸発させる電子ビーム加熱法などが好ましく使用される。真空蒸着室20を高真空度に減圧し、金属蒸発源30から金属を蒸発させると、蒸発した金属粒は破線で示すように直線状に樹脂板1に向けて飛翔し、樹脂板1の表面に凝縮して薄膜を形成する。
【0020】
本発明によるフレネル型ミラーの製造方法では、金属反射膜を被覆加工する樹脂板1に対して、金属蒸発源30を図2及び図3に示すように配置することを特徴とするものである。
【0021】
図2において、真空蒸着装置10の金属蒸発源30は、樹脂板1に同心状に配置された多数の環状溝2の中心軸O(樹脂板1の面方向に直交)の延長線L上の点OM に配置され、しかもフレネル型ミラーQf の球面を規定する球心Os よりも樹脂板1側に近い位置に配置される。球心Os は、図5でフレネル型ミラーの原理を説明したときの、多数の同心円状のリングqn (傾斜面2aに相当)に分離する前の凸面鏡Q(球面)の球心に相当するものである。
【0022】
上記のように真空中に配置された金属蒸発源30から蒸発した金属粒は、図2及び図3に破線で示すように直線状に飛翔する。このように金属粒が直線状に飛翔するため、金属粒は樹脂板1上に設けられた環状溝2の傾斜面2aだけに衝突し、段差面2bには傾斜面2aによって遮られることにより衝突することがない。このように金属粒が傾斜面2aによって遮られるようにするため、段差面2bの傾斜角θbも調整するようにするとよい。
【0023】
上述したように金属蒸発源30を樹脂板1上の環状溝2の傾斜面2aと段差面2bとに対して図2および図3のような関係に配置することにより、金属蒸発源30から蒸発した金属粒を傾斜面2aだけに反射膜3を形成するように蒸着させ、段差面2bには蒸着させないので、本発明のフレネル型ミラーQf を製造することができる。
【0024】
しかも、図2および図3のように配置することによって樹脂板1全体の環状溝2に対して均等な蒸着分布を得るようにすることができる。また、金属蒸発源30を図4の配置にした場合には、1台の真空蒸着装置で複数枚の樹脂板を同時に同一条件で蒸着処理することができるため、最大で上下左右6面を使って6枚の樹脂板を同時に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るフレネル型ミラーを例示したもので、(A)は要部の縦断面図、(B)は(A)におけるX部の拡大図である。
【図2】本発明のフレネル型ミラーの製造方法を示す要部の説明図である。
【図3】本発明のフレネル型ミラーの製造方法を例示する縦断面図である。
【図4】本発明のフレネル型ミラーの製造方法の全体を例示する説明図である。
【図5】フレネル型ミラーの構成原理を説明する図であり、(A)は凸面鏡の縦断面図、(B)は該凸面鏡に対応するフレネル型ミラーの原理図である。
【図6】従来のフレネル型ミラーの要部を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1(透明な)樹脂板
2 環状溝
2a 傾斜面
2b 段差面
3 反射膜
4 塗料層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂板に、該樹脂板の面方向に対する傾斜角θaが小さい傾斜面(2a)と該傾斜角θaよりも大きな傾斜角θbの段差面(2b)とが縦断面でL形をなす多数の環状溝(2)を直径の大きさの順に同心状に配置し、前記傾斜面(2a)には金属の反射膜(3)を被覆する一方、前記段差面(2b)には該反射膜(3)を被覆せず、さらに前記反射膜(3)と段差面(2b)の外側に塗料層(4)を非反射層として被覆した構成からなるフレネル型ミラー。
【請求項2】
前記環状溝(2)の溝幅が0.01〜1.0mmである請求項1に記載のフレネル型ミラー。
【請求項3】
前記段差面(2b)が梨地状に粗面加工されている請求項1又は2に記載のフレネル型ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−34337(P2007−34337A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305920(P2006−305920)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【分割の表示】特願平9−306979の分割
【原出願日】平成9年11月10日(1997.11.10)
【出願人】(390010526)コミー株式会社 (10)
【Fターム(参考)】