説明

フロアマット

【課題】面ファスナの一方のような係止手段を裏面に有した自動車用のフロアマットについて、固定状態の確保と着脱の容易性確保の両立を図ることができる有効な固定状態を低コストで得る。
【解決手段】係止手段として、弾力性と剛性を有したモノフィラメントからなる線状の突起21aを有する線状体21を用いる。この線状体21を、不織布13等からなる基材に対して、基材の片面に露出するように固定する。捩れたり回転したりしやすい線状体21が突起21aを有するので、突起21aの向きは自動的に又はごく簡単な処理でばらばらになり、高い係止力を得ることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば車両の車室内の床面に敷設されるフロアマットに関し、より詳しくは、裏面に面ファスナ状の係止手段が形成されたフロアマットに関する。
【背景技術】
【0002】
裏面に面ファスナ状の係止手段を有するマットとしては、たとえば下記特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
このマットは、モノフィラメント糸からなるループパイルを有するラッセル編地をマットの裏面に貼り合わせたもので、ラッセル編地のループパイルの先端に球状溶融塊が形成されている。この球状溶融塊を形成する加熱時に、ループパイルを押圧してばらばらに傾斜させ、その状態でループパイルの姿勢を熱セットする。
【0004】
すなわち、自動車の床面に敷き込まれている敷物に載せると、ばらばらに傾斜したループパイルが敷物のパイルに係止して、敷設位置が固定される。
【0005】
同様のものは、下記特許文献2に開示されている。このマットは、パイルの向きをばらばらにするために工夫されたもので、ラッセル編地の経糸を、鎖編みされている地糸と、一定コースでループパイルを形成し、該一定コース間では鎖編みされているパイル糸で構成し、このパイル糸を、2本以上のモノフィラメントで構成するとともに、このループパイルの長さ中において1回以上の撚りを施すというものである。すなわち、上記のモノフィラメントの本数と撚りにより、ループパイルを頂上近傍でカットしてカットパイルにしたときに、2本以上のモノフィラメントがばらばらに傾斜して起立する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−60483号公報
【特許文献2】特許第4074657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の構成によれば、パイルをばらばらに傾斜させる熱セットを省略できる利点がある。しかし、特許文献2の構成のラッセル編地は、一般のラッセル編機では製造できず、コストがかかる。
【0008】
また、係止手段が敷物のパイル立毛に係止する構造のため、強固に位置固定しつつ、着脱作業性を確保するためには、敷設箇所に応じて係止力を変えることが望ましい。つまり、力がかかってずれ易い敷設箇所では係止力を高め、そうでない敷設箇所では係止力を低くすると、係止力に過不足のない有効な固定状態を得ることができる。
【0009】
しかし、係止手段を編地で構成しているため、パイルの密度を変更するには、目合いを異にする別の織物を製造する必要がある。
【0010】
また、フロアマットには様々な形状のものがあり、フロアマットのすべての部分が同じ係止力を有する必要性はない。しかし、フロアマットの形状に応じて部分ごとにパイルの密度を変えることはできない。
【0011】
さらに、経糸を二次元的に接合する緯糸である挿入糸を有するので、フロアマットの着脱の繰り返しによって挿入糸の部分が浮き上がってラッセル編地の剥がれの端緒になるおそれもある。
【0012】
そこでこの発明は、安価に製造できるようにすることを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのための手段は、敷設面に対して係止する係止手段が裏面に形成されたフロアマットであって、前記係止手段が、線状の突起を有する線状体を配設して構成されたフロアマットである。
【0014】
このフロアマットでは、線状体の線状の突起が敷設面に対して突き刺さることによって係止し、フロアマットの敷設位置が固定される。線状体の線状の突起の向きは、編地の場合とは異なり向きが定まっていないか、定まっていたとしても固定時に向きを変えることが容易である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によれば、特殊なラッセル編地ではなく、線状の突起を有する線状体で係止手段を構成するので、特殊な編成も加工も不要であって、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フロアマットの裏面を示す平面図。
【図2】フロアマットの一部拡大斜視図。
【図3】線状体を固定した不織布の裏面を示す平面図。
【図4】線状体を固定した不織布の裏面を示す平面図。
【図5】線状体の例を示す説明図。
【図6】線状体の例を示す説明図。
【図7】線状体の例を示す説明図。
【図8】線状体の例を示す説明図。
【図9】線状体を不織布に供給する工程を示す斜視図。
【図10】フロアマットの他の例を示す裏面の平面図。
【図11】フロアマットの他の例を示す裏面の平面図。
【図12】フロアマットの他の例を示す裏面の平面図。
【図13】線状体を供給するときに線状体を動かす手段を示す説明図。
【図14】線状体を供給するときに線状体を動かす別の手段であるローラの一部正面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0018】
図1は、自動車用のフロアマット11の裏面を示す平面図であり、図2は、図1の一部を拡大して断面と共に示す斜視図である。
【0019】
これらの図に示したように、フロアマット11の裏面には、自動車の車室内の床面に敷き込まれた、敷設面としての敷物(図示せず)に対して係止する係止手段12が形成されている。そしてこの係止手段12は、線状の突起21aを有する線状体21を配設して構成されている。突起21aは図2に示したようにばらばらの方向を向いており、前記敷物のパイルに対して突き刺さって係止する。
【0020】
なお、突起21aは弾力性と剛性を有する合成樹脂のモノフィラメントで構成されており、取り扱いに際して手などに刺さって痛くないように、先端が熱処理によって丸められ、球状部21bが形成されている。
【0021】
前記線状体21は、図2に示したように基材としての不織布13の片面に露出するように固定され、この不織布13の反対側の面がマット本体14の裏面に固定されている。
【0022】
不織布13に対する線状体21の固定は、ニードルパンチで固定する方法(図3参照)や、線状体21を直接縫い付ける縫着による方法(図4参照)などで行えばよい。また、不織布13をマット本体14に対して固定するには、ホットメルト接着剤等の適宜の手段が用いられ、外周縁(図1参照)にはパイピングや加熱圧着等が必要に応じて適宜施される。
【0023】
前記線状体21は、線状体21の長さ方向と交差する方向に延びる多数の線状の突起21aを有するもので、図5〜図8に例示したように構成される。
【0024】
図5に示した線状体21は、合成樹脂製モノフィラメントのダブルラッセル編地を細幅の線状にカットしたもの又はダブルラッセル紐25(図5(a)参照)を、センターカットしてニ分割(図5(b)参照)して形成される。図中、25aがフロント側鎖編み部で、25bがバック側鎖編み部で、25cがフロント側鎖編み部25aとバック側鎖編み部25bを三次元的に連結する渡り糸であり、この渡り糸が突起21aとなる。この線状体21では、長さ方向の一方側に多数の突起を有する。また、図5中、二点鎖線はカット位置を示すラインである。図6〜図8においても同じ。
【0025】
なお、ダブルラッセル編地又はダブルラッセル紐を構成するモノフィラメントがセンターカットによってばらけることがないように、センターカットの前段において熱処理をしてモノフィラメントの結節部分の結合を保つようにするとよい。そのためモノフィラメントには、溶融可能なものを用いたり、溶融する鞘を有する芯鞘二層構造のものを用いたり、熱溶着糸(図示せず)を添わせたりして熱処理する。
【0026】
図6に示した線状体21は、合成樹脂製のモノフィラメントの平織り織地26(図6(a)参照)を長さ方向にカットして形成される(図6(b)参照)。
【0027】
織地26は、複数本の経糸26aからなる経糸群26bの間に、所望の長さの突起が得られるように隙間26cが形成されたもので、経糸群26bの間でカットすると、図6(b)に示したような複数本の線状体21が得られる。この線状体では、長さ方向の両側に多数の突起21aを有する。
【0028】
この場合も、モノフィラメントがばらけることがないように、カットの前段において熱処理をしてモノフィラメントの結節部分の結合を保つようにするとよい。そのためモノフィラメントには、溶融可能なものを用いたり、溶融する鞘を有する芯鞘二層構造のものを用いたり、熱溶着糸を添わせたりして熱処理する。
【0029】
図7に示した線状体21は、合成樹脂製のモノフィラメントのからみ織り織地27(図7(a)参照)を長さ方向にカットして形成される(図7(b)参照)。経糸27aの織り方の点で図6の場合とは異なるが、その他の点については図6に示した場合と同一であるので、図6に図示したのと同様の部位について同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0030】
図8に示した線状体21は、合成樹脂製のモノフィラメントを用いてモール糸様に構成したものである。モール糸は、周知のごとく2本の糸(芯糸と押え糸)を撚る際に別の糸(花糸)を巻き付けて巻きつけた糸をカットすれば得られる構造である。図示例では便宜上平面的に描いた(図8(a),(b)参照)が、突起21aとなる花糸は四方に広がる。
【0031】
なお、この場合も、モノフィラメントがばらけることがないように、カットの前段において熱処理をしてモノフィラメントの結節部分の結合を保つようにするとよい。そのためモノフィラメントには、溶融可能なものを用いたり、溶融する鞘を有する芯鞘二層構造のものを用いたり、熱溶着糸を添わせたりして熱処理する。
【0032】
また、突起となる花糸の本数が多すぎる場合には、図8(b)に示したように、一部の花糸を突起とするべく、その他の花糸21cを短く切断するとよい。短く切断された花糸21cは、不織布13に対して固定したときに刺さったり絡まったりして、不織布13に対するアンカー効果を発揮する。
【0033】
これらのような線状体を用いたフロアマット11の製造方法について次に説明する。
まず、線状体21を不織布13に対して、不織布13の片面に露出するように固定する。この固定は、前述のようにニードルパンチや縫着によって行えるが、固定に際しては複数本の線状体21を用意し、これらを平行に並べるようにする。たとえば図9に示したように、順次搬送される不織布13に対して線状体21を降ろしてローラ31で押し付け、ニードルパンチを行う。
【0034】
このときの線状体21間の間隔は、フロアマット11の必要とする係止力(どこに敷設するフロアマット11であるか、フロアマット11のどの部分であるか)や線状体21の係止能力等によって適宜設定される。
【0035】
図10に示したように間隔が狭い部分と広い部分を部分的に設けて、間隔が狭い高密度部12aと、それよりも間隔が広くて密度と係止力が低い低密度部12bを形成することもできる。使用時に位置ずれ方向への負荷がかかりやすい部分や、形状の点で強い係止力が必要な部分に高密度部を形成するとよい。
【0036】
また図11に示したように、載せる線状体21はすべてまっすぐに固定するのではなく、部分的に又は全体的に曲げて固定して、高密度部12aと低密度部12bを形成することもできる。
【0037】
図12に示したように、1本の線状体21をジグザグに固定して係止手段12を形成することも可能である。
【0038】
なお、線状体21が不織布13に供給される前段においては線状体21が巻き取られた状態であり、しかも線状であるので、突起21aの方向性もばらばらである。このため、巻き取られた状態から繰り出してそのまま載せたり、縫着したりするだけでも、突起21aはあらゆる方向に向くことになり、図2に示したような状態が得られる。しかし、たとえば前記図6、図7に示したように突起21aの方向が一定方向に向いている場合には、巻き方によっては巻き取られていても方向性が定まっている傾向が強い可能性がある。このような場合には、先に固定された部分とは異なる姿勢になるように線状体21を動かしながら不織布13に固定するとよい。
【0039】
そのためには、たとえば図13に示したように、線状体を21巻き取っているビーム32を回転可能に垂設し、モータ33からの回転力でゆっくりと回転させるとよい。線状体21は回転しながら不織布13に供給されるので、線状体21の突起21aの向きは順次変わり、あらゆる方向を向く突起21aが得られる。
【0040】
また、図14に示したように、線状体21を不織布13に押さえつけるローラの外周面に、不規則な形態の多数の突部31aを設けるもよい。ローラ31が回転して多数の突部31aが線状体21を次々に押さえつけると、突部31aの有無やその形態によって線状体21の突起21aの向きは変えられる。
【0041】
以上のようにして線状体21を供給した後は、前述の如く、ニードルパンチ等の適宜の方法で線状体21が不織布13に固定される。
【0042】
そして次に、線状体21が固定された不織布13を、別に製造されたマット本体14の裏面に貼り合わせて、必要に応じて、パイピング等の加工をすれば、フロアマット11が完成する。
【0043】
このようにして完成したフロアマット11は、車室内の床面の敷物の上に載せるだけで、位置ずれのない固定が可能である。すなわち、フロアマット11裏面の係止手段12を構成する線状体21の突起21aが、敷物のパイルに突き刺さって係止し、敷設状態が固定される。
【0044】
しかも、前述のように、フロアマット11の形態や固定箇所等に応じて高密度部12aと低密度部12bを形成すれば、確実な固定状態確保と着脱の容易性を両立した過不足のない有効な固定が行える。特に、線状体21を並設すると、粗密を設けることが容易である。
【0045】
また、係止手段12に線状体21を用いているので、従来のような特殊な編地を用いる場合に比して、安価に製造できるうえに、線状体21の突起21aの向きがばらばらでない場合でも、線状体21の突起21aの向きをばらばらにして固定することが容易である。
【0046】
以上はこの発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することもできる。
たとえば線状体が固定される基材は、不織布以外のものであるもよい。
【符号の説明】
【0047】
11…フロアマット
12…係止手段
12a…高密度部
12b…低密度部
13…不織布
21…線状体
21a…球状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷設面に対して係止する係止手段が裏面に形成されたフロアマットであって、
前記係止手段が、線状の突起を有する線状体を配設して構成された
フロアマット。
【請求項2】
前記線状体の配設密度に部分的に粗密が設けられた
請求項1に記載のフロアマット。
【請求項3】
前記線状体が並設された
請求項1または請求項2に記載のフロアマット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−207530(P2010−207530A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59838(P2009−59838)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(500564493)株式会社イレブンインターナショナル (8)
【Fターム(参考)】