説明

フロアマーキング用シート及びフロアマーキング用シートの施工方法。

【課題】敷設する床面やグラフィックシートなどを傷めることがないフロアマーキング用シートを提供する。
【解決手段】床面Faに密着する面2bと反対の面2aに接着剤層5が設けられている、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)組成物からなる加硫ゴムシート2と、おもて面3aに広告や誘導サイン等のデザインが施されている高極性の有機高分子材料からなるグラフィックシート3とを、接着剤層5を介して積層させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1)店舗、展示会場、駅構内、官公庁、公共施設などの屋内フロアサイン、(2)工事現場の歩行者専用通路誘導サイン、(3)駐車場案内及び駐車ブロックサインなど、広告や案内表示等を行うフロアマーキング用シート及びフロアマーキング用シートの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロアマーキング用シートの従来例として、おもて面に広告や誘導サイン等のデザインが施されているグラフィックシートを、その裏面に設けられた粘着剤層により床面(例えば、プラスチックタイル、コンクリート床、塗装床などの表面)に直接貼り付けるものがある。
【0003】
このようなフロアマーキング用シートは次のような不都合な点を備えている。
(1)グラフィックシートを床面に密着させるために、施工時に床面のワックスや汚れを落とす必要があり、グラフィックシートを撤去したあとは、施行時に落としたワックスの復旧作業が必要となる。
(2)グラフィックシートの粘着剤が強粘着性の場合、グラフィックシートを床面にしっかりと定着させることができるものの剥がれにくいため、撤去する際に作業が煩雑になる他、床面の塗装が剥離するなど床を傷めたり、床面に粘着剤が残って床を汚したりすることがある。
(3)グラフィックシートの粘着剤が弱粘着性の場合は、床面から剥がれ易いため撤去作業が比較的楽になるものの、使用中の清掃及びワックスがけの作業や人や機器の通行等によって端部から剥がれる場合がある。
(4)施工ならびに撤去の際に、専門の清掃業者や施工業者が必要で時間も要する。
【0004】
そこで、これらの不都合な点を解消するため、以下のようなフロアマーキング用シートの提案が為されている。即ち、ゴム基材と同ゴム基材の上に配設される図柄の付いたグラフィックシート材とからなり、ゴム基材の下面には滑り止めのためのパターンが形成され、グラフィックシート材は図画が描かれた下地層と同下地層の上に設けられる保護層とにより構成されている広告シートである(例えば、特許文献1参照)。この広告シートは接着剤などを用いることなく床面に敷設されるので、施工作業や撤去作業が容易で、且つ接着剤などによって床面を傷めることがない。
【特許文献1】特開2005−234392号公報(第4頁〜第6頁、第1図〜第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記広告シートには次のような不都合な点がある。つまり、一般に加硫ゴムシートは可塑剤やオイルを多量に含有しているため、これらが滲出し塗装床やプラスチックタイル(Pタイル)の床面、さらにグラフィックシートに付着し、これらを変質させたり、汚染したりする場合がある。特に近年では、フロアマーキング用シートにおいても、インクジェットをはじめとするデジタル印刷を用いて高彩色でデザイン性の高いグラフィックデザインなどが採用され始めており、このような品質の高いデザインを損なわないためにも、加硫ゴムシートがグラフィックシートに悪影響を及ぼさないような対策が強く求められている。
【0006】
そこで本発明は、敷設する床面やグラフィックシートなどを傷めることがないフロアマーキング用シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のフロアマーキング用シートは、床面に敷設して広告や案内表示等を行うフロアマーキング用シートにおいて、前記床面に密着する面と反対の面に接着剤層が設けられている、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)組成物からなる加硫ゴムシートと、おもて面に広告や誘導サイン等のデザインが施されている高極性の有機高分子材料からなるグラフィックシートとを、前記接着剤層を介して積層させることを特徴としている。
【0008】
この請求項1に記載のフロアマーキング用シートによれば、前記加硫ゴムシートによる前記床面や前記グラフィックシートへの悪影響をなくすことができる。
【0009】
即ち、前記加硫ゴムシート中の可塑剤やオイなど(以下、可塑剤などとも言う)による悪影響が問題となりやすい床の材質として塗装床やPタイルが挙げられる。塗装床では通常ウレタン系塗料やアクリル系塗料が使用される。一方、Pタイルの材質としては塩化ビニル樹脂が一般的である。また、前記グラフィックシートとしては耐久性の観点から塩化ビニル樹脂製のものが一般的に用いられている。これらの塗装床やPタイルの床材及び前記グラフィックシートの材質は全て高極性の有機高分子材料である。したがって、前記加硫ゴムシート中に高極性の可塑剤などの液体成分が存在すると、滲出した前記液体成分が移行することによって膨潤が発生し、汚れや強度低下、剥離、ひび割れなどのトラブルを誘発する。
【0010】
これに対して、前記EPDM組成物は低極性の有機高分子材料であるため、可塑剤などの配合剤にはパラフィンオイルをはじめとする低極性オイルが用いられる。この低極性オイルに対して高極性の有機高分子材料からなる床材や前記グラフィックシートは膨潤しないため、汚染や強度低下、剥離、ひび割れなどのトラブルが発生しにくい。さらに、前記EPDM組成物は離型性が高いため前記加硫ゴムシートが前記床面にこびり付きにくく剥がしやすくなる。
【0011】
一方、前記EPDM組成物は前記グラフィックシートとの密着性が乏しく、使用中に前記グラフィックシートが剥がれやすいという問題があるため、前記グラフィックシートとの密着性を高めるための前記接着剤層を設けることによって、前記グラフィックシートの不用意な剥離を防ぐことができる。
【0012】
EPDMのような低極性のゴム材料としては他にも天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムなどがある。しかし、天然ゴムならびにスチレン−ブタジエンゴムはエチレン−プロピレンゴムと比較して耐熱性と耐候性に劣るため、これらを補強するために老化防止剤が大量に添加される。この老化防止剤が滲出して床面やグラフィックシートを汚すことがあり、本用途には適さない。一方、シリコーンゴムは非汚染性で優れた素材であるが、価格が高いため価格競争力がなく不向きである。
【0013】
このように構成された本発明のフロアマーキング用シートは接着剤などを介さずに、前記加硫ゴムシートを前記床面に密着させることにより定着させているため、施工時(敷設時)においてはワックスがけなどの特別な清掃作業をする必要がなく、撤去時においても接着剤などの居付きによる前記床面の汚れや塗装やコーティングなどの剥離による前記床面の損傷を防ぐことができる。また、専門の業者でなくとも施工することができるため、使用中の一時的な撤去や施工場所の修正を容易に行うことができる。
【0014】
なお、前記グラフィックシートの前記デザインを形成する方法としては、デジタル印刷の他、通常のグラビア印刷やスクリーン印刷をはじめとするアナログ印刷などの公知の印刷技法が適用可能である。デジタル印刷のうち、インクジェット印刷については媒体が水を主成分とするものから有機溶剤を主成分とするものまで種々あるが、いずれも適用可能である。また、前記グラフィックシートに切り文字を貼り付ける方法も適用可能であり、前記デザインの各種形成方法に応じた公知の材料を採用することができる。なお、インクの種類や前記グラフィックシートの材質によっては、前記グラフィックシートの表面にインク受容層を設ける場合がある。
【0015】
このフロアマーキング用シートは床面に置くだけで施工が完了するが、粘着テープなどを用いて部分的に補強を行っても良い。また前記加硫ゴムシートの裏面(前記床面に接触する面)にエンボス加工等により凹凸を設けても良く、これにより使用中は吸盤に似た効果が現れ、前記床面にしっかりと定着させることができる。特に、前記床面が水に濡れている場合でも、前記床面と前記加硫ゴムシートとの摩擦係数の低下が抑えられ、前記床面に対してずれにくくすることができる。一方、撤去する際は凹凸があるので剥がしやすい。また、凹凸を設けることによって見かけの体積(厚さ×面積)あたりの重量を削減することができるので軽量化を図ることができ、施工時の作業者の負担を軽減することができる。
【0016】
請求項2記載のフロアマーキング用シートは、加硫ゴムシートを厚さ1〜3mm、比重1.2〜1.4とすることを特徴としている。この請求項2に記載のフロアマーキング用シートによれば、通行人の歩行等を妨げない薄さで床面にしっかりと定着させることができる。
【0017】
つまり、前記フロアマーキング用シートは、前記加硫ゴムシートの重さとしなやかさによって前記床面への定着を図るとともに、極力厚みを薄くして通行人の歩行等の妨げにならないようにしている。これらを満足する最適な条件が、前記加硫ゴムシートの厚さ1〜3mm及び比重1.2〜1.4である。
【0018】
厚さが1mm以下の場合は、使用中に端部がめくれあがるおそれがあり、3mm以上の場合は、前記床面との段差が顕著になり、この段差で通行人がつまずくおそれがある。一方、比重が1.2未満の場合は、前記加硫ゴムシートが軽くなりすぎ前記床面に密着させることができず、1.4を超える場合は、使用中において特に問題は発生しないものの、重量が重くなるので施工および撤去作業時の作業者の負担が大きくなる。
【0019】
請求項3記載のフロアマーキング用シートは、エチレン−プロピレンゴム組成物が、エチレン−プロピレンゴム100重量部に対して充填剤50〜100重量部と可塑剤20〜50重量部とを配合したもとすることを特徴としている。
【0020】
この請求項3に記載のフロアマーキング用シートによれば、施工性を損なったり、前記床面を汚したりすることがなく、床面にしっかりと定着させることができる重さとしなやかさとを備えた加硫ゴムシートを得ることができる。つまり、前記充填剤の合計量が50重量部未満の場合は前記加硫ゴムシートが柔らかくなりすぎて施工性に欠け、200重量部を超える場合は前記加硫ゴムシートが硬くなり、床面に密着しにくくなる。さらに、前記充填剤が50重量部未満或いは200重量部を超える場合は、通常使用可能な充填剤を用いて所望の比重を実現させるのが困難である。
【0021】
一方、前記可塑剤が20重量部未満の場合は前記加硫ゴムシートが硬くなって床面に密着しにくくなり、50重量部を超える場合は、可塑剤の種類によっては温度の急激な変化で前記加硫ゴムシートからブリード(滲出)することがある。
【0022】
前記充填剤としては、通常のゴムの配合に使用されるものを用いることができる。なかでも、種々のカーボンブラック、重質炭酸カルシウム、タルクが、前記加硫ゴムシートとしての比重の実現性、前記充填剤の添加量を高めても前記加硫ゴムシートのしなやかさが損なわれない点、コストパフォーマンスの観点から特に好ましい。前記可塑剤はEPDMの可塑剤として通常使用されるものを使用することができる。特にパラフィンオイルが好ましい。また、前記充填剤及び前記可塑剤ともに複数種類を組み合わせて使用しても良い。
【0023】
請求項4記載のフロアマーキング用シートは、加硫ゴムシートの接着剤層にクロロプレンゴム(CR)組成物を含有する接着剤を用いることを特徴としている。この請求項4記載のフロアマーキング用シートによれば、前記CR組成物は、前記加硫ゴムシートを構成するEPDM組成物との密着性が良好であるため、前記グラフィックシートを前記加硫ゴムシートにしっかりと定着させることができる。
【0024】
前記グラフィックシートとしては塩化ビニル樹脂製が一般的であるが、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートなどの塩化ビニル樹脂以外の樹脂組成物のフィルムや、紙、合成紙なども使用される。ここで、前記グラフィックシートが紙や合成紙の場合は、使用条件によっては前記加硫ゴムシートの可塑剤が滲出して浸透し、汚染される場合がある。しかしながら、高極性の前記CR組成物を含有する接着剤を用いて前記接着剤層を形成することにより、前記加硫ゴムシート中の低極性の可塑剤などの移行をより阻止し、前記グラフィックシートが汚れたり変質したりすることを防ぐことができる。
【0025】
また、前記CR組成物は、ほとんどの粘着剤に対して良好な密着性を示すので、前記グラフィックシートに設けられる後述の粘着剤層がどのようなものであっても、使用中に剥がれるおそれがない。
【0026】
請求項5記載のフロアマーキング用シートは、グラフィックシートの裏面に粘着剤層を設けることを特徴としている。この請求項5に記載のフロアマーキング用シートによれば、前記加硫ゴムシート中の低極性の可塑剤などの移行をより阻止することができるようになるとともに、前記グラフィックシートを前記加硫ゴムシートから剥離して交換することが可能になり、前記加硫ゴムシートを再利用することができる。
【0027】
また、前記グラフィックシートを前記加硫ゴムシートに対して着脱することができるため、前記加硫ゴムシートと前記グラフィックシートとを現場に個別に持ち込み作業することができる。例えば、グラフィックシートのデザインがデジタル印刷によるものである場合、現場に印刷機を持ち込んで、現場において前記グラフィックシートにデザインを印刷しながら施工することも可能である。これによって、現場の周囲の状況や床の状況によってデザインを微調整しながら施工することができる。
【0028】
請求項6記載のフロアマーキング用シートは、グラフィックシートの粘着剤層にアクリル系粘着剤を用いることを特徴としている。この請求項6記載のフロアマーキング用シートによれば、前記アクリル系粘着剤は高極性であるため、前記加硫ゴムシートに含まれる低極性の可塑剤が前記グラフィックシートに移行することをより一層阻止し、前記グラフィックシートへの影響をなくすことができる。なお、前記アクリル系粘着剤は前記加硫ゴムシートに対しても良好な粘着性を示す。
【0029】
請求項7記載のフロアマーキング用シートは、グラフィックシートのおもて面に保護層を積層することを特徴としている。この請求項7記載のフロアマーキング用シートによれば、前記グラフィックシートの前記デザインを汚れや傷から守るとともに、前記グラフィックシート自体の耐久性を向上させることができる。前記保護層としては、ラミネートフィルと呼ばれている公知の透明のフィルムを使用することができる。その中でも、耐擦傷性、透明性の観点から塩化ビニル樹脂製が好ましい。このような保護層の表面に凹凸を設けることによって水に濡れたときの摩擦係数の低下を抑え、通行人のスリップによる転倒事故を予防することができる。
【0030】
請求項8記載のフロアマーキング用シートは、グラフィックシートのデザインをデジタル印刷により形成することを特徴としている。この請求項8記載のフロアマーキング用シートによれば、少量多品種のデザインに容易に且つ低コストで対応できるようになる。また、現場にインクジェットプリンタなどの印刷機を持ち込んで前記デザインを印刷することが可能であるため、現場の周囲の状況や床の状況によって前記デザインを微調整しながら施工することができる。
【0031】
請求項9記載のフロアマーキング用シートの施工方法は、加硫ゴムシートの片面に設けられている接着剤層と、おもて面に広告や誘導サインなどのデザインが施されているグラフィックシートの裏面に設けられている粘着剤層とを貼り合わせることによって、前記加硫ゴムシートと前記グラフィックシートとを積層し、前記加硫ゴムシートの前記接着剤層が設けられていない面と床面とが接するようにして、前記床面に敷設することを特徴としている。
【0032】
この請求項9記載のフロアマーキング用シートの施工方法によれば、接着剤などを用いることなく前記床面に定着させるため、専門技術を有していなくても手軽に施工を行うことができる。また、前記加硫ゴムシートと前記グラフィックシートとは分離可能になっているため、前記床面に敷設したあとでも前記グラフィックシートを交換することができる。
【発明の効果】
【0033】
本願発明のフロアマーキング用シートは次のような効果を有している。
(1)加硫ゴムシートによる床面やグラフィックシートへの悪影響がなく、鮮明で見やすい宣伝広告や案内表示等が行える。また、使用期間が終わると床面を完全に元の状態に戻すことができるため、安心して使用することができる。
(2)床面に対してずれることがなく、且つ使用中の捲れ上がりも生じないため、通行人の通行を妨げることなく案内表示や宣伝広告を行うことができる。
(3)加硫ゴムシートのクッション性により、通行人の通行を妨げることなく注意を惹くことができる。
(4)種々のデザイン形成方法に対応し、広い用途に応用することができる。
(5)加硫ゴムシートに対してグラフィックシートの貼り替えが手軽に行えるので、数日から数ヶ月単位の比較的短期間で入れ替わるフロアマーキングに容易に対応することができる。
(6)加硫ゴムシートを再利用することができるため、コスト低減及び環境保護を図ることができる。
(7)施工は、床面の塵や埃などを取り除いて置くだけなので専門の清掃業者や施工業者が不要となり、施工に要する人員の削減を図ることができるとともに、施工時間を短縮することができる。これによって、施工コストを抑えることができる。
(8)撤去の際、床面から簡単に剥がすことができるため、専門の清掃業者や施工業者による特殊資材を用いての作業が不要となるとともに、撤去作業時間の短縮を図ることができる。これによって、撤去に要するコストを抑えることができる。
(9)ポリッシャなどを使用して床面を清掃する場合、床面から一時的に移動させ、清掃後はまた元の場所に置くだけで良いので、接着剤などによる貼り直しを行う必要がない。
(10)フロアマーキングが簡単に行えるようになり市場が拡大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に係るフロアマーキング用シート1の実施形態を図1に基づいて説明する。
【0035】
図1(a)はフロアマーキング用シートの実施例1を模式的に示した側面図であり、図の符号Fは床材を示している。このフロアマーキング用シート1は、床面Faに密着して床面Faに対し定着させる加硫ゴムシート2と、おもて面3aに広告や誘導サイン等のデザインが施されているグラフィックシート3と、グラフィックシート3のおもて面3aを保護するラミネートフィルム4(請求項7の保護層に相当)とで構成されている。
【0036】
加硫ゴムシート2は、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)100重量部に対して充填剤50〜100重量部と可塑剤20〜50重量部とを配合し、比重が1.2〜1.4になるように調整したEPDM組成物の生地を、ロータリープレスにて連続加硫して厚み1mm〜3mmのシート状に形成したものである。そして、床面Faと密着している面2bの反対の面2aには、クロロプレンゴム(CR)組成物を含有する接着剤が塗布されて接着剤層5が設けられている。このような加硫ゴムシート2としては、例えば、バンドー化学株式会社製のバンドーシートCDE(商品名)が好適である。
【0037】
グラフィックシート3は、耐久性や耐候性に優れる塩化ビニル樹脂で形成されており、そのおもて面3aには、広告や誘導サイン等のデザインがインクジェットプリンタによるデジタル印刷によって印刷されている。
【0038】
ラミネートフィルム4は、耐擦傷性や透明性などの観点から塩化ビニル樹脂で形成されたものが用いられており、そのおもて面4aにはエンボス加工により滑り止めの凹凸が設けられている。このラミネートフィルム4は、粘着剤などによってグラフィックシート3のおもて面3aに貼着され、グラフィックシート4に印刷されているデザインを汚れや傷、退色などから保護している。
【0039】
このように構成されているフロアマーキング用シート1は、加硫ゴムシート2が低極性の有機高分子材料であるEPDMであるため、高極性の有機高分子材料の塗料が使用されている塗装床や同材料からなるプラスチックタイル(Pタイル)やグラフィックシート3に対して、加硫ゴムシートに含まれる可塑剤などの低極性オイルが悪影響を及ぼしにくい。したがって、床面Faやグラフィックシート3の強度低下、剥離、ひび割れなどのトラブルを避けることができる。また、接着剤層5が高極性のCRゴム組成物を含有する接着剤からなるので、加硫ゴムシート2中の低極性の可塑剤などのグラフィックシート3への移行が阻止され、グラフィックシート3が汚れたり変質したりすることを避けることができる。
【0040】
加硫ゴムシート2は厚さが1mm〜3mmで且つ比重が1.2〜1.4であるため、その重量としなやかさによって床面に密着し、フロアマーキング用シート1の上を通行人などが通ってもずれたりすることがない。しかも、施工は塵や埃などを取り除いた床面に置くだけであるため専門技術を必要とせず、撤去や移設する場合も床面から剥がすだけで作業が終了するため、誰でも手軽に扱うことができる。
【0041】
グラフィックシート3に貼着されているラミネートフィルム4は、耐擦傷性や透明性に優れているため、グラフィックシート3に印刷されているデザインの視認性が長期間維持されるとともに、退色もしにくくなっている。また、表面4aにはエンボス加工による凹凸(図示せず)が設けられているため防滑性に優れており、雨天時においてもフロアマーキング用シート上でスリップしにくく、安全性も備えている。
【0042】
続いて、フロアマーキング用シートの実施例2について図1(b)を参照しつつ説明する。図1(b)は実施例2のフロアマーキング用シート1’を模式的に示した側面図である。なお、符号については実施例1のフロアマーキング用シート1と同一又は相当するものについては同一の符号を用いて表している。
【0043】
実施例2のフロアマーキング用シート1’は、グラフィックシート3’の裏面3b’にアクリル系粘着剤が塗布されて粘着剤層6が設けられている点が実施例1のフロアマーキング用シート1と異なっている。つまり、グラフィックシート3’は、粘着剤層6が加硫ゴムシート2の接着剤層5と接するようにして加硫ゴムシート2に積層されている。なお、加硫ゴムシート2の接着剤層5に使用されているCR組成物は、ほとんどの粘着剤に対して良好な密着性を示すので、グラフィックシート3’が使用中不用意に剥がれるおそれがない。
【0044】
このような粘着剤層6を有するグラフィックシート3’としては、例えば、バンドー化学株式会社製の溶剤インク用インクジェットメディアのグランメッセMYC(商品名)が好適である。また、塩化ビニル製のグラフィックシート3’の代わりに、合成紙からなる同社製の水系インク用ジェットメディアのグランメッセPSP(商品明)も用いることができる。この合成紙のグラフィックシートを用いた場合でも、高極性のCR組成物を含有する接着剤からなる接着剤層5によって、加硫ゴムシート2中の低極性の可塑剤などの移行が阻止されるので、合成紙のグラフィックシートが汚れたり変質したりすることを回避できる。
【0045】
この実施例2のフロアマーキング用シート1’によれば、グラフィックシート3’の粘着剤層6に高極性のアクリル系粘着剤が用いられており、加硫ゴムシート2から滲出した低極性の可塑剤などのグラフィックシート3への移行がよい一層阻止され、グラフィックシート3が汚れたり損傷したりするおそれがない。また、グラフィックシート3’を加硫ゴムシート2に対して容易に着脱することができるため、グラフィックシート3’だけを交換すれば加硫ゴムシート2の再利用が可能となり、無駄を省くことができる。
【0046】
次に、この実施例2のフロアマーキング用シート1’の敷設方法について図2のフロー図に基づいて説明する。
グラフィックシート3’にはあらかじめおもて面3a’に広告や誘導サインなどのデザインをインクジェットプリンタでデジタル印刷しておく(手順1)。
【0047】
この手順1において、グラフィックシート3’の裏面3b’には粘着剤層6を保護するためのセパレータが貼り付けられた状態になっている。デザインの形成は、デジタル印刷に限らずグラビア印刷やスクリーン印刷などのアナログ印刷で行っても良く、切り文字を貼り付ける方法でデザインを形成することもできるが、インクジェットプリンタによるデジタル印刷であれば、現場の周囲の状況や床の状況によってデザインを微調整しながら施工することができる。
【0048】
次に、ラミネートフィルム4をグラフィックシート3’のおもて面3a’に貼着する(手順2)。この手順2において、ラミネートフィルム4の裏面にはあらかじめ粘着剤が塗布されており、粘着剤を保護するセパレータが貼り付けられた状態になっている。グラフィックシート3への貼着はこのセパレータを剥してから行う。そして、加硫ゴムシート2とグラフィックシート3’との位置合わせを行う(手順3)。その後、加硫ゴムシート2に貼り付けられている接着剤層5を保護するためのセパレータとグラフィックシート3のセパレータとを剥しながら、端から順に両者を貼り合わせて積層する(手順4)。加硫ゴムシート2とグラフィックシート3’及びラミネートフィルム4が一体になったフロアマーキング用シート1を、あらかじめ塵や埃などを取り除いた床面の所定の位置に敷設し作業が完了する(手順5)。
【0049】
移設や撤去を行う場合は、フロアマーキング用シートを床面から剥がし、移設する場合は他の場所に置くだけで作業が終了する。また、グラフィックシートを交換する場合は、加硫ゴムシートの接着剤層とグラフィックシートの粘着剤層とを剥がすようにして、加硫ゴムシートとグラフィックシートとを分離し、別のグラフィックシートをその粘着剤層と加硫ゴムシートの接着剤層と貼り合せるようにして両者を積層すれば作業完了となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)は本発明に係るフロアマーキング用シートの実施例1を模式的に示した側面図であり、(b)は実施例2を模式的に示した側面図である。
【図2】本発明に係るフロアマーキング用シートの施工方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0051】
1 フロアマーキング用シート
2 加硫ゴムシート
3 グラフィックシート
3a おもて面
4 ラミネートフィルム(保護層)
5 接着剤層
6 粘着材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に敷設して広告や案内表示等を行うフロアマーキング用シートにおいて、
前記床面と密着する面の反対の面に接着剤層が設けられている、エチレン−プロピレンゴム組成物からなる加硫ゴムシートと、おもて面に広告や誘導サイン等のデザインが施されている高極性の有機高分子材料からなるグラフィックシートとが、前記接着剤層を介して積層されていることを特徴とするフロアマーキング用シート。
【請求項2】
前記加硫ゴムシートが厚さ1〜3mm、比重1.2〜1.4であることを特徴とする請求項1記載のフロアマーキング用シート。
【請求項3】
前記エチレン−プロピレンゴム組成物が、エチレン−プロピレンゴム100重量部に対して充填剤50〜100重量部と可塑剤20〜50重量部とを配合したものであることを特徴とする請求項1又は2記載のフロアマーキング用シート。
【請求項4】
前記加硫ゴムシートの前記接着剤層がクロロプレンゴム組成物を含有する接着剤からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフロアマーキング用シート。
【請求項5】
前記グラフィックシートの裏面に粘着剤層が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフロアマーキング用シート。
【請求項6】
前記グラフィックシートの前記粘着剤層がアクリル系粘着剤からなることを特徴とする請求項5記載のフロアマーキング用シート。
【請求項7】
前記グラフィックシートの前記おもて面に保護層が積層されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフロアマーキング用シート。
【請求項8】
前記グラフィックシートの前記デザインがデジタル印刷により形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフロアマーキング用シート。
【請求項9】
加硫ゴムシートの片面に設けられている接着剤層と、おもて面に広告や誘導サインなどのデザインが施されているグラフィックシートの裏面に設けられている粘着剤層とを貼り合わせることによって、前記加硫ゴムシートと前記グラフィックシートとを積層し、前記加硫ゴムシートの前記接着剤層が設けられていない面と床面とが接するようにして、前記床面に敷設することを特徴とするフロアマーキング用シートの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−244630(P2009−244630A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91665(P2008−91665)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【特許番号】特許第4217811号(P4217811)
【特許公報発行日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(597074321)バンドーエラストマー株式会社 (3)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】