説明

フロック供給量均等化装置及び固液分離システム

【課題】多軸方式の固液分離システムにおいて、各脱水装置に対するフロック供給量のムラを高精度に抑制することができ、フロック分離の問題等を生じることなく安定した処理能力を維持でき、コスト低下にも寄与できるフロック供給量均等化装置を提供する。
【解決手段】凝集反応槽100でパドル104により攪拌されたフロック化汚泥はオーバーフローによりフロック供給量均等化装置2に流入する。流入した汚泥は、複数の羽根を有しモータによって回転駆動される回転部材16によりその波打ち特性を崩されて整流化される。これにより複数の脱水装置102に対応して並設された各供給口には、フロック化汚泥が均等に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥(畜産糞尿、食品工場などの排水処理から発生する含油汚泥、下水処理から発生する余剰汚泥、建設現場から発生する無機汚泥等の概念を含む)中に含まれる固形物と水分とを分離する固液分離システムに係り、詳しくは、1つの凝集反応槽から複数の脱水装置へフロック化汚泥を供給する方式の固液分離システム、及びこれに用いられ各脱水装置への供給量を均一にするのに好適なフロック供給量均等化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の固液分離システムでは、例えば特許文献1に開示されているように、凝集反応槽に汚泥と高分子凝集剤を投入して攪拌し、フロック化された汚泥を軸方向(排出方向)に圧縮するスクリュープレス方式の脱水装置に投入して脱水する構成となっている。
この例では凝集反応槽と脱水装置とが一対一で対応する構成であるが、例えば図8に示すように、コストメリットを出すために、1台の凝集反応槽100に対して小型の脱水装置102を複数並設し、時間当たりの処理能力を大きくするシステムも採用されている。いわゆる多軸方式の固液分離システムと呼ばれるものである。
【0003】
凝集反応槽100の内部には上下方向に複数の羽根が固定された攪拌手段としてのパドル104が設置されており、このパドル104で汚泥と高分子凝集剤とを混ぜて攪拌することにより汚泥のフロック化がなされる。
図8において、符号106はパドル104を回転駆動するためのモータを、108は各脱水装置102に対する供給口を、110は供給口108と脱水装置102とを接続する移流ホースをそれぞれ示している。所定の水位を超えるオーバーフローによって各供給口108へフロック化汚泥を供給するようになっている。
しかしながら、この種の攪拌方式では、槽内の水面がパドル104の回転力の作用で大きく波打つ現象が生じ易い。特に、上記供給口の配設が容易でシステム全体構成のコンパクト形状も得られるために多く採用されている角型の凝集反応槽では角部が存在するため顕著である。
【0004】
この波打ち現象を模式的に示すと、図9に示すような状態となる。同図に示すように、供給口108へ流入するオーバーフロー流(ハッチングで表示)は波打ち現象によって流入方向下流側の水位が高くなる。
このため、各供給口108に対する流入量は均一ではなく、各脱水装置102に均等に流入すべきフロック供給量が異なる場合がある。ここでは図中右側(図8では左上)に位置する脱水装置に対する供給口への流入量が最も多くなる。
このように供給量に偏りが生じると、1軸(脱水装置1台)当たりの能力×軸数の能力が当初の設計通りに発揮されなくなる。
極端に流入量(供給量)が少なくなると、これに対応した脱水装置ではスクリュー内部に十分な圧力を掛けるための条件が満たされずに脱水性能が悪化することもあった。
この問題を回避すべく、波の影響を受けないように凝集反応槽内に邪魔板を設置してオーバーフローの流れの偏りを是正する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−12380号公報
【特許文献2】特許第4183740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように邪魔板を設置する方式では、邪魔板による仕切りスペースを大きくして容積が大きくなるとフロックが分離し、小さいと邪魔板としての機能が十分に発揮されないという問題があった。
脱水装置の多軸化を回避して単一の脱水装置の処理能力を大きくすれば、オーバーフローの流れの偏りに係る問題は生じないが、コスト上昇を避けられない。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたもので、多軸方式の固液分離システムにおいて、各脱水装置に対するフロック供給量のムラを高精度に抑制することができ、フロック分離の問題等を生じることなく安定した処理能力を維持でき、コスト低下にも寄与できるフロック供給量均等化装置の提供を、その主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、内部に攪拌手段を有する凝集反応槽に汚泥と凝集剤を投入して攪拌し、フロック化された汚泥を前記凝集反応槽から2系列以上の脱水装置へオーバーフローによって供給する固液分離システムに用いられるフロック供給量均等化装置であって、前記各脱水装置への供給口を有し、オーバーフローしたフロック化汚泥が流入するオーバーフロー流入部と、前記オーバーフロー流入部に設けられているとともに、前記脱水装置への各供給口が並設された方向へ沿って延び、流入したフロック化汚泥を攪拌する回転部材と、を有していることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のフロック供給量均等化装置において、前記凝集反応槽に一体に形成されていることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のフロック供給量均等化装置において、前記回転部材を回転駆動する駆動源を有し、前記回転部材は螺旋状の羽根を有し、前記回転部材の回転数を可変できることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のフロック供給量均等化装置において、前記回転部材は、回転軸と、該回転軸に軸方向に積層状態に配置されて支持された取り外し可能な複数の平板状の平羽根とを備え、前記平羽根をそれぞれ上記回転軸の軸方向と略直交する面内で周方向に略一定の間隔でずらして位置固定することにより上記軸方向に連続的に連なる螺旋状の羽根を形成したことを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項4記載のフロック供給量均等化装置において、前記回転軸が多角形状を有し、前記平羽根は前記多角形状に対応した形状の挿通穴を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1又は2記載のフロック供給量均等化装置において、前記回転部材がオーバーフロー流の当接によって回転することを特徴とする。
請求項7記載の発明は、内部に攪拌手段を有する凝集反応槽に汚泥と凝集剤を投入して攪拌し、フロック化された汚泥を前記凝集反応槽から2系列以上の脱水装置へオーバーフローによって供給する固液分離システムにおいて、請求項1〜6のいずれかに記載のフロック供給量均等化装置を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つの凝集反応槽から複数の脱水装置へフロック化汚泥を供給する多軸方式の固液分離システムにおいて、各脱水装置への供給量のムラを高精度に抑制することができ、フロック分離等の問題を来たすことなく安定した処理能力を維持することができる。
また、邪魔板で仕切る方式に比べて少ないスペースで効率的な供給量均等化機能を得ることができる。
また、邪魔板方式の不具合を回避するために単一の脱水装置の処理能力を大きくするものと比べて製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る固液分離システムの概要平面図である。
【図2】同固液分離システムの概要側面図である。
【図3】凝集反応槽におけるフロック供給量均等化装置の概要平面図である。
【図4】平羽根を示す図である。
【図5】スペーサを示す図である。
【図6】回転部材の一部省略の斜視図である。
【図7】フロック供給量均等化装置の機能を示す図である。
【図8】従来の多軸方式の固液分離システムの概要平面図である。
【図9】従来の固液分離システムにおける不具合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
図1は本実施形態に係る固液分離システムの平面図、図2はその側面図である。従来例と同一の部分は同一の符号で示し、既にした説明は適宜省略する。
固液分離システム1は、凝集反応槽100と、この凝集反応槽100に接続された複数(ここでは3軸)のスクリュープレス方式の脱水装置102と、凝集反応槽100と脱水装置102との間に配置されたフロック供給量均等化装置2と、フロック供給量均等化装置2と脱水装置102とを接続する移流ホース110等を備えている。
各脱水装置102は、パンチングメタルで形成された円筒状のケーシング4内にスクリュー6を備えた構成を有し、スクリュー6はモータ8で回転駆動される。勿論、脱水装置102の構成はこれに限定される趣旨ではない。例えば特許文献2に記載のフィルタ脱水方式のものを用いてもよい。
図1において、符号5はモータ106を凝集反応槽100の上面に設置するためのプレートを示している。
【0015】
図2に示すように、凝集反応槽100には、その底面側から図示しないパイプを介して汚泥と高分子凝集剤が個別に投入される。ここでの処理対象物としての汚泥は、例えば食品工場などの有機系排水処理施設から排出される、含水率98〜99%程度(濃度1〜2%)の汚泥である。
凝集反応槽100の内部に設けられた攪拌手段としてのパドル104は、回転軸10と、この回転軸10に上下方向に間隔をおいて複数固定された攪拌羽根12を有している。図2において符号WLは凝集反応槽100内の水面を示している。
フロック供給量均等化装置2は、凝集反応槽100の脱水装置側に設けられバルコニー状に突出したオーバーフロー流入部14と、このオーバーフロー流入部14において供給口108が並設された方向へ沿って延びる回転部材16等を有している。
オーバーフロー流入部14は、底面部14aと、複数の供給口108が紙面厚み方向に並設された側面部14b等を有している。
回転部材16は、図1に示すように、角型の凝集反応槽100の両側板間に軸受18を介して回転自在に支持された回転軸20と、この回転軸20に取り付けられた螺旋状の羽根22を有しており、凝集反応槽100の一側板側に配置固定された駆動源としてのモータ24により回転駆動される。軸受18は図示しないボルトで凝集反応槽100の側板に固定されている。図2において、符号26は脱水装置102の底面ケースを示している。
【0016】
図3は、フロック供給量均等化装置2の周辺の平面図である。但し、オーバーフロー流入部14等の側板の厚みは省略している。
回転部材16の回転軸20は、断面六角形の棒の両端部を丸形にした形状を有している。羽根22は、回転軸20の六角形の部分に挿通される平板状の平羽根28と、これよりも軸方向の厚みが大きいスペーサ30とからなり、これらを交互に挿入して両端部はセットカラー32で止めている。
平羽根28は、図4に示すように、回転軸20の六角形に対応した形状の挿通穴34aを有する挿通部34と、この挿通部34に一体に形成された平板状の羽根部36を有している。
スペーサ30は、図5に示すように、回転軸20の六角形に対応した形状の挿通穴30aを有する円形状に形成され、平羽根28の挿通部34と同等の外径を有している。
【0017】
図6に示すように、平羽根28は、回転軸20の軸方向と略直交する面内で周方向に略一定の間隔でずらして位置固定することにより上記軸方向に連続的に連なる螺旋状の羽根を形成している。ここでは平羽根28の周方向の位置を60°ずつずらしている。ずらす角度を変えることにより回転部材16の羽根ピッチを変えることができ、汚泥の種類に応じた回転作用を得ることができる。本実施形態では回転軸20として六角形を例示したが、さらに角数の多い多角形とすれば、平羽根28の位置調整の単位角度を小さくでき、回転作用の微調整ができる。
【0018】
以下にフロック供給量均等化装置2の機能を説明する。
オーバーフロー流入部14に流入する汚泥流は、上述のように凝集反応槽100の攪拌手段の回転力の作用を受けるため波打ちした状態で流入するが、図7に示すように、回転部材16の回転によりその波打ち特性を崩されて整流化される。ここで、「整流化」とは、波のうねりが消失する消波の意味である。
具体的に説明すると、流入した汚泥は各平羽根28によって移動を邪魔されて方向を変えられ、せん断され、あるいは各平羽根28の回転移動に伴って回転軸20の軸方向と直交する方向へ送られる。これらの作用が複合的に生じ、流入汚泥は整流化される。
これによって各供給口108に供給されるフロック供給量は均等化される。実験の結果、良好な消波機能が得られ、フロック供給量が各供給口108で均一となった。
【0019】
回転部材16の回転数は、汚泥の種類によって予め実験により求められた最適値に設定される。平羽根28の羽根部36の厚みや軸方向の設置間隔(=スペーサ30の厚み)も実験により最適値を決定することができる。
回転部材16としては、一般的な螺旋形状のスクリュー(無軸タイプを含む)を採用することもできるが、軸方向の送りが大きくなりすぎて波打ち特性が維持されやすい。このため、回転数を小さくして使用する必要がある。
軸方向と直交する方向の作用を大きくする場合には、上記のようにスクリューに比べてその螺旋形状が連続的でない平羽根28による羽根構造が有利である。また、スペーサ30の厚みを変えることでフロック通過量の変更も簡単に行うことができ、回転部材16の攪拌・整流化機能を容易に調整することができる。
1つの供給口108の直径を60mm程度とした場合、概ねその半分程度が常時水没する状態に回転部材16の機能を設定するのが望ましい。この場合の平羽根28の軌道半径R(図4参照)は、60mm以上が望ましい。
【0020】
上記のように、オーバーフローして流入する汚泥を回転部材により波打ちを崩す構成とすることにより、邪魔板で仕切る方式に比べて少ないスペースで効率的に各供給口108への供給の偏りを是正できるとともに、低コスト化を実現できる。
また、回転部材16をその回転数を可変可能に駆動する構成とすることにより、汚泥の種類に応じて最適な供給量均等化機能を得ることができる。
さらにまた、回転部材16を平羽根28の周方向の位置をずらして螺旋状に組み立てる構成とすることにより、汚泥の種類に応じて最適な回転部材とすることができる。
【0021】
上記実施形態では、回転部材16をモータで回転駆動する構成としたが、オーバーフローした汚泥流の当接力(流動エネルギー)で直に回転させるようにしてもよい。この場合、回転部材16の平羽根28を汚泥流を直接受けるような角度を有するように設定すればよい。また、スクリュー形状としてもよい。
このようにすれば、モータ等の駆動源を必要としないので一層のコスト低減を図ることができる。
また、上記実施形態ではフロック供給量均等化装置2を凝集反応槽100に一体に形成した構成としたが、着脱自在な構成としてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 固液分離システム
2 フロック供給量均等化装置
14 オーバーフロー流入部
16 回転部材
20 回転軸
22 螺旋状の羽根
24 駆動源としてのモータ
28 平羽根
34a 挿通穴
100 凝集反応槽
102 脱水装置
104 攪拌手段としてのパドル
108 供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に攪拌手段を有する凝集反応槽に汚泥と凝集剤を投入して攪拌し、フロック化された汚泥を前記凝集反応槽から2系列以上の脱水装置へオーバーフローによって供給する固液分離システムに用いられるフロック供給量均等化装置であって、
前記各脱水装置への供給口を有し、オーバーフローしたフロック化汚泥が流入するオーバーフロー流入部と、
前記オーバーフロー流入部に設けられているとともに、前記脱水装置への各供給口が並設された方向へ沿って延び、流入したフロック化汚泥を攪拌する回転部材と、
を有していることを特徴とするフロック供給量均等化装置。
【請求項2】
請求項1記載のフロック供給量均等化装置において、
前記凝集反応槽に一体に形成されていることを特徴とするフロック供給量均等化装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフロック供給量均等化装置において、
前記回転部材を回転駆動する駆動源を有し、前記回転部材は螺旋状の羽根を有し、前記回転部材の回転数を可変できることを特徴とするフロック供給量均等化装置。
【請求項4】
請求項3記載のフロック供給量均等化装置において、
前記回転部材は、回転軸と、該回転軸に軸方向に積層状態に配置されて支持された取り外し可能な複数の平板状の平羽根とを備え、前記平羽根をそれぞれ上記回転軸の軸方向と略直交する面内で周方向に略一定の間隔でずらして位置固定することにより上記軸方向に連続的に連なる螺旋状の羽根を形成したことを特徴とするフロック供給量均等化装置。
【請求項5】
請求項4記載のフロック供給量均等化装置において、
前記回転軸が多角形状を有し、前記平羽根は前記多角形状に対応した形状の挿通穴を有していることを特徴とするフロック供給量均等化装置。
【請求項6】
請求項1又は2記載のフロック供給量均等化装置において、
前記回転部材がオーバーフロー流の当接によって回転することを特徴とするフロック供給量均等化装置。
【請求項7】
内部に攪拌手段を有する凝集反応槽に汚泥と凝集剤を投入して攪拌し、フロック化された汚泥を前記凝集反応槽から2系列以上の脱水装置へオーバーフローによって供給する固液分離システムにおいて、
請求項1〜6のいずれかに記載のフロック供給量均等化装置を有していることを特徴とする固液分離システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−284623(P2010−284623A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142679(P2009−142679)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(502141393)ジャステック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】