説明

フロントバンパー

【課題】フロントバンパーをフロントフェンダと別体に形成し、衝突安全性を高めつつ、フロントフェンダの設計自由度を大きくする。
【解決手段】自動二輪車のフロントバンパー40は車体前部に設けられており、後上がりに配置したアッパーリンク41の前端41aと後下がりに配置したロアリンク42の前端42aを回動可能に連結し、ロアリンク42の後端42bをフロントフォーク3のアウターチューブ3aに回動可能に支持し、アッパーリンク41の後端41bをフロントフォーク3のインナーチューブ3bに回動可能に支持し、アッパーリンク41の前端41aとロアリンク42の前端42aの連結部を車体のほぼ最前端に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車または自動三輪車のフロントバンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の前輪を覆うフロントフェンダに衝撃吸収機能を付与したものが知られており、このフロントフェンダでは、フロントフェンダの前部を圧縮変形し易い構造体(以下、この部分をバンパー部と称す)に形成し、衝突時にバンパー部が潰れることによって衝撃力を吸収している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−225767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のフロントフェンダは、バンパー部の潰れ代を見込んで寸法設定されているため、嵩が大きくなるという課題があった。
また、バンパー部に衝撃吸収構造を採用することから、フロントフェンダ全体も形状、大きさに制約を受け、フロントフェンダの設計自由度が狭められるという課題があった。
【0004】
そこで、この発明は、フロントフェンダの設計自由度を高められるように、フロントフェンダとは別体にしたフロントバンパーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係るフロントバンパーでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、自動二輪車(例えば、後述する実施例における自動二輪車1)または自動三輪車の車体前部に設けられたフロントバンパー(例えば、後述する実施例におけるフロントバンパー40)において、互いに回動可能に連結された一対のリンクのうちの一方のリンク(例えば、後述する実施例におけるロアリンク42)の後端(例えば、後述する実施例における後端42b)がテレスコピック式フロントフォーク(例えば、後述する実施例におけるフロントフォーク3)のアウターチューブ(例えば、後述する実施例におけるアウターチューブ3a)に回動可能に支持され、他方のリンク(例えば、後述する実施例におけるアッパーリンク41)の後端(例えば、後述する実施例における後端41b)が前記フロントフォークのインナーチューブ(例えば、後述する実施例におけるインナーチューブ3b)に回動可能に支持され、前記一対のリンクの少なくともいずれか一方のリンクの前端が車体のほぼ最前端に位置し、前記一対のリンクのうちの一方のリンクが後下がりに他方のリンクが後上がりに配置されていることを特徴とするフロントバンパーである。
このように構成することにより、衝突時にフロントバンパーの前端が障害物に当たると、フロントバンパーの両リンクには両リンクの後端を互いに離反させる力が作用する。その結果、フロントフォークのインナーチューブがアウターチューブから引き出され、車体の前部が上方に持ち上げられるので、後輪側の浮き上がりを抑制することができ、衝突時においてより効果的にエネルギー吸収を行うことができる。また、フロントバンパーをフロントフェンダとは別体に設けることができるので、フロントフェンダの設計自由度を大きくすることができる。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、車体のほぼ最前端に位置する前記リンクの前端が、車体と乗員を合わせたときの重心(例えば、後述する実施例における重心G)の高さよりも高い位置に配置されていることを特徴とする。
このように構成することにより、衝突時に障害物に接触したフロントバンパーの前端回りに車体を下方に押さえる方向のモーメントが車体に作用するので、後輪側の浮き上がりを抑制することができ、より効果的にエネルギー吸収を行うことができる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、衝突時に車体の前部を持ち上げて、後輪側の浮き上がりを抑制することができ、より効果的にエネルギー吸収を行うことができる。また、フロントバンパーをフロントフェンダとは別体にすることにより、フロントフェンダの設計自由度を大きくすることができる。
請求項2に係る発明によれば、後輪側の浮き上がりを抑制して、より効果的にエネルギー吸収を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明に係るフロントバンパーの実施例を図1から図5の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例は、この発明を自動二輪車に適用した態様であり、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【0009】
図1に示すように、自動二輪車1の前輪2は左右一対のフロントフォーク3に回動可能に支持されている。フロントフォーク3は、アウターチューブ3aにインナーチューブ3bが伸縮可能に取り付けられその内部にダンパ機構を有する、いわゆるテレスコピック式のフロントフォークで構成されている。また、この実施例では、アウターチューブ3aを下側に配置しインナーチューブ3bを上側に配置した、いわゆる正立フロントフォークを採用しており、前輪2はアウターチューブ3aに支持されている。
また、両フロントフォーク3のインナーチューブ3bの中間部にはステアリングステム4のブリッジ部4aが固定され、両インナーチューブ3bはブリッジ部4aによって連結されており、インナーチューブ3bはステアリングステム4を介して車体フレーム5の前端部のヘッドパイプ6に操舵可能に枢支されている。
ステアリングステム4の上部には、前輪転舵用のハンドル13が取り付けられている。ヘッドパイプ6からは左右一対のメインフレーム7が斜め下後方に延び、このメインフレーム7の下方には、自動二輪車1の原動機である水冷4ストローク水平対向六気筒型のエンジン10が搭載されている。
【0010】
各メインフレーム7の後端部に連なるピボットプレート8には、後輪9を軸支するスイングアーム11の前端部が揺動可能に枢支されている。スイングアーム11は、中空片持ちアームの後端部で後輪9を軸支する片持ち式のもので、該片持ちアーム内には、エンジン10から導出される不図示のドライブシャフトが挿通され、このドライブシャフト及び後輪中央のギヤボックス12を介して、エンジン10と後輪9との間の動力伝達が可能とされている。
【0011】
ピボットプレート8近傍には、乗員用のシート15を支持するシートフレーム14の前端部が接合されている。シート15は、その前部が運転者用の着座部、後部が後部搭乗者用の着座部とされるもので、シート15の後方には、後部搭乗者用のシートバック16を形成するリアトランク17が配置されている。
【0012】
自動二輪車1の車体前部には、左右一対のヘッドランプ18を備えた大型のフロントカウル19が設けられると共に、フロントカウル19の前部上方に大型のウインドスクリーン20が設けられている。また、フロントカウル19後側からシート15前部に渡って車体を覆うトップシェルタ21が設けられており、トップシェルタ21後部及びシート15前部の下方に燃料タンク22が配置されている。
シート15後部及びリアトランク17の下方両側には左右のサドルバッグ23が配置され、左右サドルバッグ23の下方には、エンジン排気用のサイレンサ24が配置されている。
【0013】
車体フレーム5における左右ピボットプレート8の下端近傍には、車体を直立状態で支持するメインスタンド25が格納可能に設けられ、左ピボットプレート8の下部前方には、車体を左側に傾けた状態(車体上部が左側に位置するように傾けた状態)で支持するサイドスタンド26が格納可能に設けられている。
【0014】
また、左右のフロントフォーク3には、剛性の高い金属製のフロントバンパー40が取り付けられている。すなわち、フロントバンパー40は自動二輪車1の車体前部に設けられている。
図2に示すように、フロントバンパー40は、前端同士が互いに回動可能に連結された金属製のアッパーリンク41とロアリンク42を左右一対備え、アッパーリンク41の前端41aに平面視略円弧状をなす金属製の連結バー43が固定され、この連結バー43によって左右のアッパーリンク41の前端41a同士が連結されている。そして、ロアリンク42の後端42bはフロントフォーク3のアウターチューブ3aの略中間部に固定されたブラケット44に回動可能に支持されており、アッパーリンク41の後端41bはステアリングステム4のブリッジ部4aに固定されたブラケット45に回動可能に支持されている。すなわち、アッパーリンク41の後端41bはステアリングステム4を介してインナーチューブ3bに回動可能に支持されている。
【0015】
連結バー43とアッパーリンク41の前端41aとロアリンク42の前端42aは、乗車時において車体と乗員を合わせたときの重心Gの高さhよりも高い位置Hに配置されており、ロアリンク42の後端42bの回動中心は連結バー43よりも下方に配置され、アッパーリンク41の後端41bの回動中心は連結バー43よりも上方に配置されている。つまり、ロアリンク42は後下がりに配置され、アッパーリンク41は後上がりに配置されている。また、図3に示すように、連結バー43の前端位置Xは、前輪2のタイヤ2aの前端位置Xよりも後方であってホイール2dの前端位置Xよりも前方に配置されている。アッパーリンク41の前端41aとロアリンク42の前端42aも、前輪2のタイヤ2aの前端位置Xよりも後方であってホイール2dの前端位置Xよりも前方に配置されている。
【0016】
また、図1に示すように、左右のアウターチューブ3aには、前輪2の上部をその周方向に沿って覆う樹脂製のフロントフェンダ30が取り付けられている。フロントフェンダ30はフロントバンパー40のアッパーリンク41およびロアリンク42の内側に配置されており、フロントフェンダ30の前端はフロントバンパー40の前端よりも後方に位置している。なお、図2ではフロントフェンダ30を省略している。
つまり、フロントバンパー40の前端を構成する連結バー43とアッパーリンク41の前端41aとロアリンク42の前端42aは、前面衝突時に圧縮変形するタイヤ2aを除くと車体の最前端に位置しており、自動二輪車1の車体のほぼ最前端に位置していると言える。
なお、この実施例ではフロントバンパー40を露出させているが、フロントバンパー40の全体をフロントフェンダ30で覆い外観上はフロントバンパー40を見えないようにしてもよいし、フロントバンパー40の先部だけを露出させてフロントバンパー40をフロントフェンダ30で覆ってもよい。
【0017】
前記構成の自動二輪車1において、フロントバンパー40は走行時(非制動時)、図3に示す姿勢を維持している。
【0018】
一方、図4に示すように、自動二輪車1が前方の障害物100に衝突したときには、前輪2のタイヤ2aが圧縮されて、自動二輪車1を構成する剛性部材の中ではフロントバンパー40の連結バー43が最初に障害物に突き当たり、車体は障害物100から相対的に後方へ押し付ける力を受ける。このとき、連結バー43は車体と乗員を合わせたときの重心Gの高さhよりも高い位置Hに配置されているので、車体には連結バー43の障害物に対する接触点回りに該車体を下方に押さえる方向のモーメントが働き、後輪9側の浮き上がりを抑制することができる。
【0019】
これと同時に、車体が障害物100から後方へ押し付ける力を受けると、図5に示すように、フロントバンパーのアッパーリンク41とロアリンク42には両リンク41,42の後端41b,42bを互いに離反させる方向の力が作用する。その結果、フロントフォーク3のインナーチューブ3bがアウターチューブ3aから引き出され、車体の前部が上方に押し上げられるので、後輪9側の浮き上がりを抑制することができる。
これら相乗効果により、後輪9側の浮き上がりを確実に抑制することができるので、衝突時においてより効果的にエネルギー吸収を行うことができる。
【0020】
このフロントバンパー40は、極めて構成部材が少なく、左右のフロントフォーク3間に収まっているので、コンパクトで軽量にできる。また、フロントバンパー40をフロントフェンダ30とは別体に設けているので、フロントフェンダ30の設計自由度を大きくすることができる。
このフロントバンパー40は、エアバッグ装置を装備した自動二輪車1に設けた場合に、補助的な保護装置として特に有効である。
【0021】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、フロントバンパー40を金属製としたが、所定の剛性が確保されてさえいれば、樹脂あるいは弾性材で構成してもよい。
また、前述した実施例では、アッパーリンク41の後端41bをステアリングステム4を介してフロントフォーク3のインナーチューブ3bに回動可能に支持しているが、アッパーリンク41の後端41bを直接にインナーチューブ3bに回動可能に支持してもよい。
さらに、前述した実施例では、アッパーリンク41の前端41aとロアリンク42の前端42aとを連結しているが、例えばロアリンク42の前端42aをアッパーリンク41の中間部に回動可能に連結し、アッパーリンク41の前端42aを車体のほぼ最前端に配置してもよい。
また、前述した実施例では、アウターチューブ3aを下側に配置した正立フロントフォーク3の場合で説明したが、この発明はアウターチューブ3aを上側に配置した倒立フロントフォークにも適用可能である。また、前述した実施例では左右のリンクを連結したが、連結しなくてもよく、また、左右のフロントフォークのいずれかに設けたものであってもよい。
また、車両は自動二輪車に限るものではなく、自動三輪車にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係るフロントバンパーを備えた自動二輪車の側面図である。
【図2】前記フロントバンパーの取り付け部の拡大斜視図である。
【図3】走行時(非制動時)の前記フロントバンパーの側面図である。
【図4】衝突初期の前記フロントバンパーの側面図である。
【図5】衝突時にリンクが開いた状態を示すフロントバンパーの側面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 自動二輪車
3 フロントフォーク
3a アウターチューブ
3b インナーチューブ
40 フロントバンパー
41 アッパーリンク
41a 前端
41b 後端
42 ロアリンク
42a 前端
42b 後端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車または自動三輪車の車体前部に設けられたフロントバンパーにおいて、
互いに回動可能に連結された一対のリンクのうちの一方のリンクの後端がテレスコピック式フロントフォークのアウターチューブに回動可能に支持され、他方のリンクの後端が前記フロントフォークのインナーチューブに回動可能に支持され、前記一対のリンクの少なくともいずれか一方のリンクの前端が車体のほぼ最前端に位置し、前記一対のリンクのうちの一方のリンクが後下がりに他方のリンクが後上がりに配置されていることを特徴とするフロントバンパー。
【請求項2】
車体のほぼ最前端に位置する前記リンクの前端が、車体と乗員を合わせたときの重心の高さよりも高い位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のフロントバンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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