説明

フロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガス中の塩素およびフッ素の選択的固定化と回収物のリサイクル

【課題】フロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガス中の塩化水素、および、フッ化水素を、ナトリウム化合物を用いて乾式法により選択的に固定化し、塩素分は塩化ナトリウムの固形物として、フッ素分はフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとして回収・再利用する方法を提供する。
【解決手段】塩素を含有するフロンを破壊処理して生成したガス、または、ドライエッチング排ガス中の塩化水素、および、フッ化水素を、炭酸水素ナトリウムを主成分とする多段の固形物層を用いた乾式法により、前方の層では塩素分だけを選択的に固定化した塩化ナトリウムとして回収し、後方の層ではフッ素分を固定化したフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとして回収する。そして、これらの回収物を工業用原料として再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガス中に含まれる塩化水素、および、フッ化水素を乾式法により選択的に固定化し、塩素分は塩化ナトリウムの固形物として、フッ素分はフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとして分別回収する方法と、これらの回収物を再利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガス中に含まれる塩化水素、および、フッ化水素の処理は、通常、水、または、アルカリ水溶液洗浄塔にてこれらを吸収させた後、その吸収液中のフッ素分は、生石灰、消石灰、塩化カルシウムなどのカルシウム化合物と反応させて難溶性のフッ化カルシウムとしてフッ素を固定化処理する方法、いわゆる湿式処理を行っている。時には、高次処理(アルミニウム塩法、フルオロアパタイト法、活性アルミナ法、塩基性陰イオン交換樹脂法、A1形キレート樹脂法、特殊金属胆持樹脂法など)を行って排水のフッ素規制値をクリヤーしている。
【0003】
また、最近、煩雑な湿式法ではなく、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、ドロマイトなどのアルカリ性固形分を用いたフッ素の乾式固定化処理が種々検討され、一部商品化されている。その中で最近の傾向として、固定化処理で直接再資源化できるフッ素化合物を回収する開発がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1によると、フロンを含有する排ガスおよび半導体産業におけるドライエッチング排ガスを燃焼法により完全に分解させた後、生成したフッ化水素などの酸性ガスを反応器内の粒状炭酸カルシウムと反応させる。この場合において、粒状炭酸カルシウムの表面部分しか反応しないため、表面剥離機にて表面部分を削り取ることにより表面のフッ化カルシウムを除き、未反応の芯部分は反応器に戻して再使用する。剥離した粒紛物は分級装置で細粒と中粒に分離し、フッ化カルシウム含量の高い細粒をフッ素、または、フッ化カルシウム回収工程に送る。
【0005】
【特許文献1】特開2005−028241号公報(出願人:株式会社INAX、発明の名称:排ガス処理装置、フッ化カルシウムの回収方法及びフッ素の回収方法)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この場合には、回収したフッ化カルシウムに多量の炭酸カルシウムとシリカが含まれており、フッ化カルシウム含量が60〜90%で、純度が低い上に変動が大きいため、工業用としての用途が鉄鋼用に限定される。
【0007】
本発明者らのうちの1人は、六フッ化硫黄などのフッ素と硫黄を含む排ガスの処理において、水素、または、水素を含む化合物を添加して排ガスを分解してフッ化水素を発生させ、生成したフッ化水素を、炭酸水素ナトリウムなどの吸着剤と200〜800℃で反応させ、硫黄成分の混在しない、再資源化が可能になるような純度の高いフッ素化合物を回収可能とする技術を開発した(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献2】特開2004−174391号公報(発明者:安井 晋二ほか3名、出願人:(財)電力中央研究所、発明の名称:排ガスからフッ素成分を選択的に除去する方法)
【0009】
また、塩素を含まないフッ素含有ガスと、水素含有化合物からなる被処理ガスを高い分解率で熱処理する熱分解炉、および、熱分解炉から排出される分解ガスと、固定化材料供給装置から供給される固定化材料を乾式反応させ、分解ガス中のフッ素成分固定化に関する具体的な装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献3】特開2006−122790号公報(発明者:安井 晋二、出願人:(財)電力中央研究所、発明の名称:フッ素含有ガス分解処理装置、及びこれを用いたフッ素化合物回収方法)
【0011】
この方法は、塩素を含まない六フッ化硫黄、三フッ化窒素、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類などの分解ガスに対しては非常に有効で、固定化剤に炭酸水素ナトリウムを用いた場合、純度99%以上のフッ化ナトリウムの回収が可能である。
しかしながら、三フッ化塩素、ハイドロクロロフルオロカーボン類、クロロフルオロカーボン類などのような塩素を含有するガスを分解処理した排ガスに対しては、塩化物とフッ化物の混合物ができるため、再資源化は困難であった。
【0012】
本発明の目的は、フッ化塩素類、ハイドロクロロフルオロカーボン類、クロロフルオロカーボン類などのような少なくとも塩素とフッ素を含有するガスを分解処理したものに対して、装置上の工夫と固定化条件により、固定化処理により再資源化できる塩化物およびフッ化物を同時に分別した状態で回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、反応条件によりアルカリ金属フッ化物が塩化水素によりアルカリ金属塩化物に変わる(例えば、特許文献4、または、非特許文献1)ことに着眼し、かかる目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、炭酸水素ナトリウムを主成分とする物質を固定化剤に使用し、反応温度を130〜250℃に保持した場合、固定化反応器の前方に塩化物ができ、中間部には塩化物とフッ化物の混合物、後方にフッ化物、さらにその後方にフッ化物と固定化剤の混合物として回収できることを見出し、固定化反応器を3つ以上区切ることにより塩化物とフッ化物を別途に回収できる方法を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明では、塩素を含有するフロンの破壊装置から排出されるフロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガスを熱分解処理した排ガス中の塩化水素、および、フッ化水素を、130〜250℃に加熱した炭酸水素ナトリウムを主成分とする固定化剤を入れた多段の容器または層に通すことにより、前方の容器、または、層では、塩素分だけを選択的に固定化した塩化ナトリウムとして回収し、後方の容器、または、層では、フッ素分をフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとして回収し、これらの回収物を工業用原料として再利用する。
【0015】
この場合においては、排ガス中の塩化水素とフッ化水素を、炭酸水素ナトリウムを用いた乾式法により、前方の層では塩素分だけを選択的に固定化した塩化ナトリウムとして回収し、後方の層ではフッ素分を固定化したフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとして回収し、これらの回収物を工業用原料として再利用することができるという利点を有する。
【0016】
上記の場合において、炭酸水素ナトリウムを主成分とする固定化剤を入れた容器または層は、個別に内容物の充填と取り出しが出来る3個以上、より好ましくは4個以上の容器、または、3層以上、より好ましくは4層以上に区切られた多段の容器を使用し、塩化ナトリウム、塩化ナトリウムとフッ化物の混合物、フッ化物、および、フッ化物と炭酸水素ナトリウムの混合物とに分けることにより、高純度の塩化ナトリウム、および、フッ化物を得るのが好ましい。
【0017】
このようにした場合には、塩化水素を固定化した塩化ナトリウムとフッ化水素を固定化したフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとを分別して回収することができるという利点を有する。
【0018】
また、上記の場合において、特に加熱温度を130〜180℃に保持することにより、フッ素分の大半を酸性フッ化ナトリウムとして回収するのが好ましい。
【0019】
このようにした場合には、フッ素分を酸性フッ化ナトリウムとして効率よく回収でき。その分だけ炭酸水素ナトリウムの使用量を軽減できる。
【0020】
さらに、上記の場合においては、回収した塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、および、酸性フッ化ナトリウムを工業用原料に使用することができる。
【0021】
この場合には、回収した塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムを、工業用の原料として提供できる利点を有する。
【0022】
【特許文献4】特開2001−199711号公報(出願人:ダイキン工業株式会社、発明の名称:フッ酸の製造方法)
【0023】
【非特許文献1】JIS K8815 「ふっ化カリウム(試薬)」,平成7年3月1日改正,日本工業標準調査会,
【0024】
本発明を具体的かつ詳細に説明すると、本発明において反応器中で起こる反応は、次式に示すように炭酸水素ナトリウムと塩化水素、または、フッ化水素との反応((1)式〜(3)式)と、生成したフッ化ナトリウムまたは酸性フッ化ナトリウムと塩化水素の反応((4)式、(5)式)である。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
反応温度は、炭酸水素ナトリウムの分解((6)式)を防ぐために、炭酸水素ナトリウムの分解温度270℃より低い温度で行うのが好ましい。炭酸水素ナトリウムが分解して炭酸ナトリウムになる際に微粉化したり、炭酸ナトリウムと塩化水素またはフッ化水素の反応は、炭酸水素ナトリウムとの反応に比べて発熱量が大きく、凝結し易く芯部まで反応し難くなり、高純度の塩化物やフッ化物が得られ難くなるからである。
【0031】
【化6】

【0032】
100℃以下では水の凝縮、および、フッ化ナトリウム塩の凝結や閉塞の恐れがある。また、反応性が悪くなり効率的な処理ができなくなる。そのため反応器の温度は、温度130℃以上で行うのが良い。
【0033】
フッ化水素を固定化したナトリウム塩は、温度により変わる。フッ化ナトリウムと酸性フッ化ナトリウムとは、(7)式に示すような平衡関係にあり、温度が高くなるほどフッ化水素の平衡圧力は上昇する。従って、200〜250℃での炭酸水素ナトリウムとフッ化水素の反応生成物は、フッ化ナトリウムが主であり、130〜180℃では酸性フッ化ナトリウムが主となる。なお、フッ化水素の解離平衡圧を、数式(1)で示す。
【0034】
【化7】

【0035】
【数1】

【0036】
フッ化ナトリウムによるフッ化水素の化学吸着は良く知られており、フッ化ナトリウムペレットはフッ素ガス中のフッ化水素の除去に使われている。この場合、一般的には、100〜120℃に加熱したフッ化ナトリウムペレットを充填した塔に、フッ素電解槽で発生させた数パーセントのフッ化水素を含有するフッ素ガスを通すことにより、フッ化水素を化学吸着させる。この温度条件下では、フッ化ナトリウムに対して等量のフッ化水素を吸収し、酸性フッ化ナトリウムとなる。これよりも低い温度では、当量以上のフッ化水素を吸着して固化したり溶融したりするので、閉塞の問題だけでなく、再生処理時に粉化して再使用できなくなる。
【0037】
フッ化水素を吸収して酸性フッ化ナトリウムになったペレットは、窒素などの不活性ガスを流しながら200℃以上に加熱することにより、フッ化水素を放出してフッ化ナトリウムに再生でき、繰り返し使用することができる。
【0038】
塩素とフッ素を含有するガスを熱分解処理により生成したフッ化水素、および、塩化水素を含む排ガスは、130〜250℃に加温した炭酸水素ナトリウム層に通すと、直ちに反応を起こし排ガス入り口部分から塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、および、酸性フッ化ナトリウム(フッ化物)に変化していくが、生成したフッ化ナトリウム、または、酸性フッ化ナトリウムと塩化水素の反応((4)式、(5)式)でフッ化水素を放出し、そのフッ化水素は後方の炭酸水素ナトリウムと反応する。従って、排ガス中の塩化水素とフッ化水素の固定化処理における反応器内の炭酸水素ナトリウム層は、図1に示すように組成が(a)〜(e)と変化する。左側が分解ガス入口で、右側が反応器のガス入口から反応器内で固定化処理された後のガス出口を示し、縦軸は反応器内の固体成分の当量比率を示す。
【0039】
(a)は、処理前で、固形層はすべて炭酸水素ナトリウムで満たされている。
(b)は、初期で、ガス入口部分に炭酸水素ナトリウム、フッ化物および塩化ナトリウムが混在し、他の部分は炭酸水素ナトリウムが存在する。
(c)は、ガス入口付近の炭酸水素ナトリウムが完全に反応してしまい、ガス入口付近のフッ化物が(4)式、(5)式により塩化ナトリウムに変化し、フッ化物のゾーンが後方へと押しやられる。
(d)は、さらに反応が進み、反応器のガス入口から塩化ナトリウムの層、塩化ナトリウムとフッ化物の層、フッ化物の層、そしてガス出口付近にフッ化物と炭酸水素ナトリウムの層になる。
(e)は、反応器内の炭酸水素ナトリウムがなくなり、反応器のガス出口から高濃度でフッ化水素が出始める状態で、反応器内はガス入口から塩化ナトリウムの層、塩化ナトリウムとフッ化物の層、フッ化物の層の3つのゾーンになる。この場合、ガス出口から排出されるフッ化水素を冷却・凝縮、水洗浄、または、アルカリ洗浄すると、フッ化水素酸、または、フッ化物として回収できる。
【0040】
図2に示すように、内径50mmの反応器中に各25gの粒状炭酸水素ナトリウム(例えば、旭硝子(株)製エコクリーンNo20)を充填した5段のトレイを配し、所定温度に保持しながら、1000℃に加熱した分解炉に標準状態で代表的な塩素を含むフロンとしてジフルオロクロロメタン(R−22)を150ml/分、水蒸気180ml/分、空気450ml/分に導入して熱分解((8)式で示す反応)させたものを導入して、フッ化水素と塩化水素の固定化処置((1)式〜(5)式の反応)を行った。供給される熱分解ガスの標準状態で、流量は、フッ化水素300ml/分、塩化水素150ml/分、炭酸ガス150ml/分、窒素355ml/分、水蒸気30ml/分、酸素20ml/分と推定される。反応器に所定量通過させた後、反応器を窒素置換した。放冷後、各トレイの内容物を取り出し、その重量の測定と化学組成の分析を行った。反応温度条件、および、反応後の各段トレイ中の成分分析結果を、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【化8】

【0043】
表1の結果は、反応器内で(1)〜(5)式の反応が起こり、反応器内の状態が(a)〜(e)と変化して行くことを示しており、220℃では酸性フッ化ナトリウムの生成は見られないが、160℃では生成する主なフッ化物は酸性フッ化ナトリウムであった。同様の効果が、三フッ化塩素をクリーニングガスに用いて排ガス燃焼分解処理したガスにおいても得られた。
【0044】
そこで、反応器を図3に示すような個別に内容物の充填と取り出しが出来る4個以上の容器に排ガスを直列に通すことにより処理するか、あるいは、図4に示すような3層以上、より好ましくは個別に内容物の充填と取り出しが出来るように4層以上に区切られた多段の容器を使用する方法を用いて処理して、反応系全体として、図1の(d)の様な状況をつくると、反応後に高純度の塩化ナトリウム固形物、塩化ナトリウムとフッ化物の混合固形物、高純度のフッ化物の固形物、および、フッ化物と炭酸水素ナトリウムの混合固形物の4種の固形物を回収することができる。また、図1の(e)の様な状況をつくると、高純度の塩化ナトリウム固形物、塩化ナトリウムとフッ化物の混合固形物、および、高純度のフッ化物の固形物の3種の固形物を回収することができる。(e)の場合は、後段に反応器から出てくるフッ化水素を回収するための凝縮器、または、洗浄塔が必要となるが、ここでは塩化水素を含まないためにフッ化水素のみを回収することができる。
【0045】
さらに、例えば図5に示すように設備的に工夫をすれば、塩化ナトリウムとフッ化物の混合固形物、および、フッ化物と炭酸水素ナトリウムの混合固形物を取り出さずに、高純度の塩化ナトリウム固形物、および、高純度のフッ化物の固形物のみを取り出し、取り出した部分に炭酸水素ナトリウムを充填した後、バルブ操作で経路の順番を切り替えて反応を開始することができる。
【0046】
ここでは、図5に示す装置を用いた実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は要するに、炭酸水素ナトリウムを主成分とする固定化剤を入れた容器、または、層は、個別に内容物の充填と取り出しが出来る3個以上、より好ましくは4個以上の容器、または、3層以上、より好ましくは4層以上に区切られた多段の容器を使用することを特徴とするフロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガスからの塩素、および、フッ素の回収方法であり、容器や層の組み合わせ方に何ら制限されるものではない。
【0047】
アルカリ金属炭酸水素塩としては、NaHCOの他にLiHCO、KHCO、CsHCO、RbHCOが考えられるが、いずれも熱安定性が低いので、本発明の目的のためには使用できない。また、アルカリ金属の炭酸水素塩は極度に不安定でほとんど存在しない。
【0048】
本発明で回収した塩化ナトリウムは98wt%以上の純度を有しており、各種工業用原料として使用できる。また、溶解・濃縮・晶析により、さらに高純度の塩化ナトリウムを得ることが出来る。回収したフッ化物は、そのまま硫酸と反応させてフッ化水素を製造することもできるし、人造氷晶石を始め各種のナトリウム含有フッ化物として利用できる。また、鉄鋼や窯業用のフラックス剤として使用できる。
【発明の効果】
【0049】
請求項1記載の発明によれば、排ガス中の塩化水素とフッ化水素を、炭酸水素ナトリウムを用いた乾式法により、前方の層では塩素分だけを選択的に固定化した塩化ナトリウムとして回収し、後方の層ではフッ素分を固定化したフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとして回収し、これらの回収物を工業用原料として再利用することができる。
【0050】
請求項2記載の発明によれば、塩化水素を固定化した塩化ナトリウムとフッ化水素を固定化したフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとを分別して回収することができる。
【0051】
請求項3記載の発明によれば、フッ素分を酸性フッ化ナトリウムとして効率よく回収でき。その分だけ炭酸水素ナトリウムの使用量を軽減できる。
【0052】
請求項4記載の発明によれば、回収した塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムを工業用の原料として提供できる。
【実施例】
【0053】
以下、図5に示す装置を用いた実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
図5に示す装置の詳細を説明すると、主要機器は、処理するガス入口、処理後のガス排出口、固定化薬剤の投入口、固定化回収物の抜き出し口、固定化薬剤を保持するための巣板、温度計を備えた内径100mm−直胴部250mmの同じ型のステンレス製反応器と温度制御ができる電気炉を組み合わせたもの4セットと、ガス経路を変更するための配管、および、12個のバルブからなる。
【0054】
ガスの流れが反応器1→反応器2→反応器3→反応器4の時は、バルブV2、V3、V4、V8、V9、V10が閉で、他のバルブは開になる。反応後、反応器1の回収固形分(塩化ナトリウム)と反応器3の回収固形分(フッ化物)を抜き出した後、反応器1と反応器3に新しい炭酸水素ナトリウムを充填し、ガスの流れを反応器2→反応器1→反応器4→反応器3となるように、バルブV2、V3、V4、V8、V9、V10が開で、他のバルブは閉にし、反応を開始する。この2つのパターンで反応を繰り返すことにより、塩化ナトリウムとフッ化物、および、フッ化物と炭酸水素ナトリウムの混合物は取り出さずに済む。
【0055】
(実施例1)
図5に示す反応装置を用いて、反応器1と反応器2にそれぞれ750g(8.93mol)の粒状炭酸水素ナトリウム(旭硝子(株)製エコクリーンNo20:粒径約2mm)を入れ、反応器3と反応器4にそれぞれ1500g(17.86mol)の粒状炭酸水素ナトリウム入れた。反応器1〜4の温度を220℃に設定し、反応器内の温度が設定温度に達したのを確認後、1000℃に加熱した分解炉に標準状態でジフルオロクロロメタン(R−22)を600ml/分、水蒸気720ml/分、空気1800ml/分に導入して熱分解((8)式で示す反応)させたものを反応器1に導入した。反応器1に供給される熱分解ガスの標準状態で流量は、フッ化水素1200ml/分、塩化水素600ml/分、炭酸ガス600ml/分、窒素1420ml/分、水蒸気120ml/分、酸素80ml/分と推定される。この時の図5に示すバルブの開閉状態は、バルブV2、V3、V4、V8、V9、V10が閉で、他のバルブは開であり、導入された分解ガスの流れは反応器1→反応器2→反応器3→反応器4である。分解ガスを8時間20分(R−22の処理量:1160g)固定化処理した後、反応器を窒素置換した。放冷後、各反応器の内容物を取り出し、その重量の測定と化学組成の分析を行った。反応器1から99.1wt%の塩化ナトリウム含量の固形物521g、反応器2から58.2wt%の塩化ナトリウムと41.0wt%のフッ化ナトリウムを含有する固形物449g、反応器3から98.7wt%のフッ化ナトリウム含量の固形物752g、反応器4から14.2wt%のフッ化ナトリウムと85.2wt%の炭酸水素ナトリウムを含有する固形物1312gを回収した。
【0056】
(実施例2)
実施例1と全く同じ条件で反応を行った。反応後、反応器1と反応器3の固形物だけを取り出し、反応器1から99.2wt%の塩化ナトリウム含量の固形物523g、反応器3から98.9%のフッ化ナトリウム含量の固形物754gを回収した。
【0057】
(実施例3)
実施例2の後、固形物を抜き出した反応器1に粒状炭酸水素ナトリウム750g、反応器3には粒状炭酸水素ナトリウム1500gを入れ、分解ガスの流れを反応器2→反応器1→反応器4→反応器3にするために、バルブV2、V3、V4、V8、V9、V10を開で、他のバルブを閉にした。反応器1〜4の温度を220℃に設定し、反応器内の温度が設定温度に達したのを確認後、1000℃に加熱した分解炉に標準状態でジフルオロクロロメタン(R−22)を600ml/分、水蒸気720ml/分、空気1800ml/分に導入して熱分解させたものを反応器2に導入した。分解ガスを5時間30分(R−22の処理量:773g)固定化処理した後、反応器を窒素置換した。放冷後、反応器2と反応器4の内容物を取り出し、その重量の測定と化学組成の分析を行った。反応器2から99.0wt%の塩化ナトリウム含量の固形物522g、反応器4から98.9wt%のフッ化ナトリウム含量の固形物753gを回収した。
【0058】
(実施例4)
実施例3の後、固形物を抜き出した反応器2に粒状炭酸水素ナトリウム750g、反応器4には粒状炭酸水素ナトリウム1500gを入れ、分解ガスの流れを反応器1→反応器2→反応器3→反応器4にするために、バルブV2、V3、V4、V8、V9、V10を閉で、他のバルブを開にした。反応器1〜4の温度を220℃に設定し、反応器内の温度が設定温度に達したのを確認後、1000℃に加熱した分解炉に標準状態でジフルオロクロロメタン(R−22)を600ml/分、水蒸気720ml/分、空気1800ml/分に導入して熱分解させたものを反応器2に導入した。分解ガスを5時間30分(R−22の処理量:773g)固定化処理した後、反応器を窒素置換した。放冷後、反応器1と反応器3の内容物を取り出し、その重量の測定と化学組成の分析を行い、実施例2と同様の結果を得た。
【0059】
(実施例5)
反応器1〜4にそれぞれ750gの粒状炭酸水素ナトリウムを入れた。反応器1〜4の温度を160℃に設定し、反応器内の温度が設定温度に達したのを確認後、1000℃に加熱した分解炉に標準状態でジフルオロクロロメタン(R−22)を600ml/分、水蒸気720ml/分、空気1800ml/分に導入して熱分解させたものを反応器1に導入した。この際に導入された分解ガスの流れは反応器1→反応器2→反応器3→反応器4である。分解ガスを8時間20分(R−22の処理量:1160g)固定化処理した後、反応器を窒素置換した。放冷後、反応器1と反応器3の固形物だけを取り出し、反応器1から98.7wt%の塩化ナトリウム含量の固形物525g、反応器3から97.6wt%の酸性フッ化ナトリウムと1.2wt%のフッ化ナトリウムを含有する固形物511gを回収した。
【0060】
(実施例6)
実施例5の後、固形物を抜き出した反応器1と反応器3に粒状炭酸水素ナトリウム750gを入れ、分解ガスの流れを反応器2→反応器1→反応器4→反応器3にするために、バルブV2、V3、V4、V8、V9、V10を開で、他のバルブを閉にした。反応器1〜4の温度を160℃に設定し、反応器内の温度が設定温度に達したのを確認後、1000℃に加熱した分解炉に標準状態でジフルオロクロロメタン(R−22)を600ml/分、水蒸気720ml/分、空気1800ml/分に導入して熱分解させたものを反応器2に導入した。分解ガスを5時間30分(R−22の処理量:773g)固定化処理した後、反応器を窒素置換した。放冷後、反応器2と反応器4の内容物を取り出し、その重量の測定と化学組成の分析を行った。反応器2から98.7wt%の塩化ナトリウム含量の固形物524g、反応器4から98.1wt%の酸性フッ化ナトリウムと1.2wt%のフッ化ナトリウムを含有する固形物509gを回収した。
【0061】
(実施例7)
反応器1と反応器2にそれぞれ500g、反応器3と反応器4にそれぞれ750gの粒状炭酸水素ナトリウムを入れた。反応器1〜4の温度を160℃に設定し、反応器内の温度が設定温度に達したのを確認後、ガスの流れが反応器1→反応器2→反応器3→反応器4となるようにバルブを開閉し、三フッ化塩素をメタンと空気で燃焼分解処理した得られた排ガス(フッ化水素3.0wt%、塩化水素1.8wt%含有)を5.0g/分(マスフローメーター)の質量流速で反応器1に導入した。燃焼分解ガスを60時間固定化処理した後、反応器を窒素置換した。放冷後、反応器1と反応器3の固形物だけを取り出し、反応器1から98.5wt%の塩化ナトリウム含量の固形物347g、反応器3から97.2wt%の酸性フッ化ナトリウムと1.6wt%のフッ化ナトリウムを含有する固形物365gを回収した。
【0062】
(実施例8)
実施例7の後、固形物を抜き出した反応器1に500g、反応器3に750g粒状炭酸水素ナトリウムを入れ、燃焼分解ガスの流れを反応器2→反応器1→反応器4→反応器3にした。反応器1〜4の温度を160℃に設定し、反応器内の温度が設定温度に達したのを確認後、三フッ化塩素をメタンと空気で燃焼分解処理した得られた排ガス(フッ化水素3.0wt%、塩化水素1.8wt%含有)を5.0g/分(マスフローメーター)の質量流速で反応器2に導入した。燃焼分解ガスを40時間固定化処理した後、反応器を窒素置換した。放冷後、反応器2と反応器4の固形物だけを取り出し、反応器2から98.7wt%の塩化ナトリウム含量の固形物345g、反応器4から97.2wt%の酸性フッ化ナトリウムと1.8wt%のフッ化ナトリウムを含有する固形物363gを回収した。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による塩素およびフッ素の反応器内での反応進行状況を示すための、固定化剤、および、生成物の分布状況を示すリサイクルシステム図である。
【図2】予備試験に使用した反応器の一例を示す装置図である。 予備試験に使用した反応器を示す。
【図3】反応器のモデルパターンの一例を示す装置図である。
【図4】反応器のモデルパターンの別の例を示す装置図である。
【図5】実施例で使用した反応器をより具体的に示す装置図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含有するフロンの破壊装置から排出されるフロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガスを熱分解処理した排ガス中の塩化水素、および、フッ化水素を、130〜250℃に加熱した炭酸水素ナトリウムを主成分とする固定化剤を入れた多段の容器または層に通すことにより、前方の容器、または、層では、塩素分だけを選択的に固定化した塩化ナトリウムとして回収し、後方の容器、または、層では、フッ素分をフッ化ナトリウム、および/または、酸性フッ化ナトリウムとして回収し、これらの回収物を工業用原料として再利用することを特徴とするフロン破壊ガス、または、ドライエッチング排ガスからの塩素、および、フッ素の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、炭酸水素ナトリウムを主成分とするものを入れた容器または層は、個別に内容物の充填と取り出しが出来る3個以上、より好ましくは4個以上の容器、または、3層以上、より好ましくは4層以上に区切られた多段の容器を使用し、塩化ナトリウム、塩化ナトリウムとフッ化物の混合物、フッ化物、および、フッ化物と炭酸水素ナトリウムの混合物とに分けることにより、高純度の塩化ナトリウム、および、フッ化物を得る方法。
【請求項3】
請求項1において、特に加熱温度を130〜180℃に保持することにより、フッ素分の大半を酸性フッ化ナトリウムとして回収する方法。
【請求項4】
請求項1において、回収した塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、および、酸性フッ化ナトリウムを工業用原料に使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−120807(P2010−120807A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295446(P2008−295446)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(390024419)森田化学工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】