説明

フローセルサイトメーター用静電分類器の粒子軌跡の変動補償のための方法および装置

フローサイトメーターサブシステムは、それを通って進行する粒子(例えば、血液細胞)の存在について流体輸送チャンバ内の粒子感知ゾーンを監視して、出力パルスを生成し、その幅は軌跡を表し、それによって、粒子が流体輸送チャンバを通って進行する時に粒子感知ゾーン内にある時間の長さを表す。次いで、この出力パルスは、粒子を感知してから粒子を含有する流体液滴が担体流体から離脱する時間までの複合時間遅延を導出するために、粒子が通過する粒子流体輸送チャンバの連続時間遅延ゾーンの形状パラメータに従って処理される。複合時間遅延は、その時間に液滴が担体流体から離脱するように、粒子が制御可能に荷電された時間を正確に確立するために利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、フローサイトメーターシステムおよびそれのサブシステムに関し、特に、本発明は、それを通って進行する粒子(例えば、血液細胞)の存在について流体輸送チャンバ内の粒子感知ゾーンを監視するように、かつ出力パルスを生成するように動作し、その幅は軌跡を代表し、それによって、粒子が流体輸送チャンバを通って進行する時に粒子感知ゾーン内にある時間の長さを表す、新しい改善された信号処理およびそのための制御機構を目的とする。次いで、この出力パルスは、粒子を感知したときから粒子を含有する流体液滴が担体流体から離脱する時間までの複合時間遅延を導出するために、粒子が通過する粒子流体輸送チャンバの連続時間遅延ゾーンの形状パラメータに従って処理される。複合時間遅延は、その時間に液滴が担体流体から離脱するように、粒子が制御可能に荷電された時間を正確に確立するために利用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
フローサイトメーターは、疾患の診断および治療の補助的手段として、患者の体液中の粒子(例えば、血液細胞)を分析するために、医療業界において一般的に用いられている機器である。非限定的な一実施例として、化学療法治療中に、このような機器は、化学療法の前に患者の骨髄から取り除かれたある量の血液から、健康な血液細胞(幹細胞)を分類して収集するために使用されてもよい。化学療法治療期間が完了すると、移入および健康な血液細胞の再生を容易にするために、収集された多量のこれらの細胞が患者に再注入される。
【0003】
フローサイトメーターの通例の動作によれば、遠心分離された血液試料の血液細胞等の分析される粒子は、貯蔵容器から流体輸送チャンバを通って進行する(加圧された)連続的なまたは途切れない担体流体(例えば、生理食塩水)の流れ中に注入され、該チャンバ内で、個々の粒子は感知されて、流体輸送チャンバから出る流体流れから離脱する液滴中に含有される。「センスインクォーツ」式フローサイトメーターシステムの流体輸送チャンバ10の一部を示している図1に概略的に示されているように、粒子を含有する担体流体11およびその周囲シース流体層12は、流体フローチャンバ10の比較的に大径の部分14から小径の出口オリフィス15へ軸流方向13に沿って導かれる。
【0004】
チャンバの上流ゾーン21に導入された粒子担体流体11は、粒子感知ゾーン22において、1つ以上のレーザ30等の光照明サブシステムによって放射される出力(レーザ)ビーム31と交差する。担体流体流れによって遮断された後に、レーザ出力ビーム31の経路内には、光検出器サブシステム32の1つ以上のセンサが光学的に位置付けられる。光検出サブシステムは、担体流体流れ(内の粒子/細胞)の内容物によって変調された光を受容するように配置され、典型的には、細胞から反射した光と、細胞による光の遮断、および細胞に付着させた蛍光色素抗体からの光の放射とを含む。
【0005】
粒子感知ゾーン22の下流は、流体流れ収縮ゾーン23であり、ここでは、担体流体流れの横断面およびその周囲シースは、担体流体が、チャンバ内を進行する速度に対して比較的に速い速度で、出口開口部またはオリフィス15を通ってチャンバを出て、空間出口ゾーン24に入るように縮小または収縮される。この場所から、収縮された流体流れは、その横断面が、流体輸送チャンバを通って進行する間よりもはるかに小さく、単一の粒子を収容するようにサイズ設定され、液滴分離および荷電ゾーン25を通過し続けるが、電荷は、液滴が適切に分離するか、または流体流れ11から離脱するように、液滴に選択的に印加される。
【0006】
図1に示されているタイプの、従来のセンスインクォーツ技術のシステムは、粒子が感知ゾーン22内で感知および分析される時間と、下流の荷電および液滴分子ゾーン25内での液滴分類電荷を印加する時間との間に、固定した時間遅延期間を組み込んでいる。固定遅延の使用は、全ての粒子が流体の輸送方向に沿って同一の有効速度で進行するわけではないという事実から、かつ全ての粒子がフローチャンバを通って同一の軌跡を横断するわけではないという事実から、荷電/分類動作におけるエラー原因を構成する。
【0007】
より具体的には、確立されたチャンバ内部の流れは、概して、ある程度放物線状の流れであると記述することができる。ゾーン21の範囲内の放物線状の流れにおいて、チャンバの壁のより近くを進行するそれらの粒子と中心軸に沿って流れる粒子との間に相対的な関係が存在する。これらの粒子は、外的な影響が作用しない限り、それらのそれぞれの(放物線プロファイルに基づく)速度を持続する。このような影響は、流体フローが、出口オリフィス15等の形状の変化を強制的に受ける時に作り出される。このオリフィスのすぐ上流において、流れの収縮およびその後の断面積の変化と関連する粒子の加速が存在する。この加速は一様ではなく、したがって、粒子が流体流れ内を流れている場所に応じて、より大きな粒子の加速を生じさせ、それによって、チャンバの感知ゾーン22内で生じるよりも速い速度で粒子を分離する。流れが、出口オリフィスによって影響を受ける領域から出ると、ゾーン24において速度が一定になると推定することができるので、それ以上の分子の分離が生じない。
【0008】
速度と軌跡とにおける差は、図2を参照することによって容易に理解され得、この図は、担体流体チャネルの軸13に沿って進行する第1の粒子Aと、流体輸送チャンバを通って進行するときに軸13からある距離だけ位置がずれている第2の粒子Bとを示している。図2の流体輸送チャンバの概略図の上に、流体輸送軸13に対して粒子の異なる位置に関連する異なる速度の3つの例を示す、一組の速度プロファイルが重ね表示されている。図示の実施例において、ゾーン21の範囲において、粒子Aは速度ベクトル(矢印41)で表される速度VAを有し、チャンバの上流部分を通る担体流体の進行速度の、概して放物線状の速度プロファイルのピーク値と一致する。
【0009】
同様に、ゾーン21の範囲において、(軸外の)粒子Bは大きさが減少した速度ベクトル(矢印42)によって表される速度VBを有し、チャンバを通る担体流体の進行速度の速度プロファイルに沿って減少した値と一致する。図2はまた、ゾーン21の範囲において、関連する速度VAとVBとの間に位置する(軸外の)速度VCをさらに示しており、同軸粒子Aと軸外粒子Bとの間に位置する軸外粒子(図示せず)と関連している。
【0010】
図2から、軸13に近い粒子ほど、それらが感知ゾーン22を通過する時には、より速い速度で進行することは明らかである。図2の速度プロファイルのオーバーレイはまた、粒子が感知ゾーン22を出て、出口オリフィス15に隣接する加速ゾーン23に接近するにつれて、粒子を含有する流体の速度を質量保存則に従うために増加させなければならないことを示している。粒子Aの場合、その速度は、感知ゾーン22内において、出口オリフィス15への入口ゾーン23まで、VAの値から第1の加速プロファイルf1Aに沿って増加する。その後、粒子Aの速度は、オリフィス15を通過し、オリフィス15の下流側に直接隣接するゾーン24からVAの最終速度の下流ゾーン25までの自由空間領域を通って進行するときに、第2の加速プロファイルf2A(a)に沿ってわずかに増加(加速)する。同様に、粒子Bの速度は、VBの値から第1の加速プロファイルf1B(a)に沿って増加し、出口オリフィス15への入口ゾーン23においてより速い速度に到達する。その後、粒子Bの速度は、オリフィス15を通過し、オリフィス15の下流側に直接隣接するゾーン24からVBの最終速度に到達する下流のゾーン25まで自由空間領域を通って進行するときに、第2の加速プロファイルf2B(a)に沿ってわずかに増加(加速)する。
【0011】
これらの異なる速度プロファイルから、粒子AおよびBの異なる軌跡は、出力オリフィス15の下流のゾーン25内の液滴分類電荷の印加地点で異なる到着時間を生じさせるので、固定した時間遅延は、適切な粒子が分類された液滴内に含まれることを補償しないことが分かる。質量保存を維持するためには、粒子B等の軸外粒子は、流体流れの速度でチャンバ10から出るために、ゾーン23に接近するにつれて、粒子Aよりも急速な加速を受けなければならない。2つの粒子AおよびBが、感知ゾーン22内に同時に存在する場合、速度が速い同軸粒子Aは、オリフィス15でチャンバから出る流体流れの速度まで加速しなければならない遅い粒子Bよりも先にチャンバから出ることになる。この課題に対処するために、従来のシステムは、2つ以上の液滴を分類している。その結果、このことは、分類された個体群の純度を低下させ、粒子の希釈度を増加させる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、前述のように、従来のフローサイトメーターの分類機構において固定遅延を使用する欠点は、分析された粒子の異なる軌跡を補償する調整された遅延を導出するように、他の分析パラメータ、特に、担体流体フローチャンバを通るそれぞれ異なるゾーンの形状パラメータとともに、感知ゾーンを通る粒子の測定された速度を利用することによって、効果的に取り除かれる。後述するように、粒子の相対的な速度を知ることによって、チャンバの出力/分類オリフィスでの粒子の予想到達時間の計算を行い、液滴を荷電する時間を制御するように一式の可変遅延の発生を行うことができる。この遅延期間の可変制御は、分類された試料の精選度を増加させ、かつその希釈化を縮小する。粒子の進行速度は、非限定的な実施例として、1つ以上のレーザビームを使用し、散乱パルス間の時間を判定することで、容易に測定することができる。加えて、飛行時間またはパルス幅は、時間遅延アルゴリズムの因子として粒子サイズを挿入するように、追加パラメータとして使用することができる。
【0013】
この目的のために、本発明の信号処理システムは、光検出器ユニット等の粒子センサを含み、粒子と、感知ゾーンを通過する時に流体を照明するレーザビームとの相互作用の結果として、担体流体中の粒子によって生成される出力パルス信号を発生させるように動作する。パルス信号は、デジタル信号プロセッサに連結され、流体フローチャンバの出力オリフィスを出た液滴の流れを対象となる滴が離脱する時点で、分類される粒子含有滴が、下流の荷電カラーによって制御可能に荷電される時間を正確に定義するために、分類遅延計算を含む所定のパルス評価ルーチンを行う。
【0014】
パルス信号の幅は、流体フローチャネル内の粒子の速度を示し、粒子が進行する流体流れの軸にどのくらい近いかの初期指示を提供する。パルスが所定の最小幅を有する場合、粒子は、チャンバを通って進行してそこから出る流体流れの軸と一致し、可能な最高速度でシステムを通って移動する軌跡を有すると推測される。この場合、出口オリフィスの下流の場所での、粒子の感知と、その選択的な分類との間の時間遅延は最小遅延となる。
【0015】
しかしながら、粒子がチャンバに入る比較的に幅の広い上流ゾーンから、出口オリフィスでの収縮まで、流体フローチャンバを通って上流から下流方向へ進むにつれて、チャンバを通る流体流路の横断面が変化するという事実から、担体流体中の粒子の軌跡は、変化するものと予想することができる。したがって、軸外の粒子は、フローチャンバを通って軸と一致して進行する粒子のピーク速度ベクトルよりも小さい速度ベクトルを有することになるので、軸外の粒子によって生成されるセンサ出力パルスの幅は、流体フローの軸上を進行する粒子によって生成されたものよりも広くなる。感知された信号が、分類される粒子を示すかどうかは、信号分類ステップによって判定されるが、該ステップは、雑音と関連するものとは対称的に、粒子と関連するパルスを識別するように、振幅等の1つ以上の所定の基準を用いる。粒子を表すパルスが検出された場合は、分類遅延計算ステップが実行される。パルス幅判定情報が測定されて、分類遅延計算に適用される。分類遅延計算ステップの出力は、電荷が液滴荷電カラーに印加され、それによって、対象となる粒子を含有する液滴を荷電する時間の制御に使用される、時間遅延値である。
【0016】
本発明によれば、分類遅延計算は、対象となる粒子が通過するフローチャンバの異なるゾーンにそれぞれ関連する複数の構成要素から成る。第1のゾーンは、レーザ照明サブシステムによって粒子が感知される、粒子感知ゾーンである。粒子センサによって生成される出力パルスは、対象となる電位粒子に関連するパルスの幅を定義する、立ち上がりおよび立ち下がり縁部を有する。粒子感知ゾーンは、対象となる粒子が感知ゾーン内である等速度を有するように、流体フローチャンバの2つの流体収縮ゾーンの上流にある。
【0017】
流体の軸と一致して進行する粒子の場合、等速度は、フローチャンバを通じた速度プロファイルのピークにおいて定義される。分類時間遅延計算内で、判定される第1の成分は、粒子が粒子感知ゾーンの幅を通行するのにかかる時間である。
【0018】
第2の時間遅延成分は、粒子の等速度感知ゾーンから、出口オリフィスへ至る第1の加速ゾーンを通る粒子の進行に関連する時間遅延である。このゾーン内には担体流体の収縮があるので、粒子は、出口オリフィスに接近するにつれて加速を受けることになる。したがって、粒子がこの距離を横断するのに必要な時間は、距離を、その距離にわたる速度で割ったものに等しい。粒子は、この領域内で加速を受けているので、速度は一定ではなく、粒子感知ゾーンの下流端のゾーン境界と、そこから出口オリフィスまでの距離との間の加速関数を積分する必要がある。加速関数は、流体フローシステムの形状パラメータに基づいて、経験的または確定的に判定されてもよい。出口オリフィスを通る粒子にはさらなる加速が存在し、それに関連する通行時間が計算される。
【0019】
粒子は、オリフィスから出ると、流体流れの軸に沿って等流出速度で進行している。出口オリフィスから液滴荷電場所までの距離をこの速度で割ったものは、複合時間遅延の最終的な時間成分である。言い換えると、任意の粒子Aの場合、複合時間遅延TAは、次式のように定義されてもよい。
【0020】
【数1】

したがって、粒子が最初に感知された瞬間から、粒子が出口オリフィスの下流の離脱、荷電場所に到達するまで、記述された漸増的遅延成分の合計に等しい、複合遅延時間Tが存在することを理解されるであろう。この複合遅延時間は、制御信号の液滴電荷増幅器への適用を遅延させるのに使用され、該増幅器の出力は、液滴配列の進行経路を囲む静電荷カラーに連結される。荷電カラーは、流体チャンバの出口オリフィスの下流および関連する一式の静電(異極性、高電圧)偏向プレートの上流に垂直に配置され、その間を荷電された液滴の流れが下方へ進行する時に通り、また、該液滴は、分類経路に沿って、分類された液滴の収集容器内へ分類されるか、または別個の進行経路に沿って、中止または廃棄された廃棄物容器内へ分類せずに通すことができる。
【0021】
有利には、本発明の荷電機構は、流体フローチャンバ内の流体流れ内で、分類される粒子が位置付けられる所に適合するので、動的である。これは、分類された試料の精選度を増加させる役目を果たし、その希釈化を減少させる。粒子の進行速度は、1つ以上のレーザビームを使用し、散乱パルス間の時間を判定することで、容易に測定することができる。加えて、飛行時間またはパルス幅は、時間遅延計算の因子として粒子サイズを挿入するように、追加パラメータとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、従来の「センスインクォーツ」式フローサイトメーターシステムの一部を概略的に示す図である。
【図2】図2は、図1の「センスインクォーツ」式フローサイトメーターシステムに重ねた一式の速度プロファイルを示す図である。
【図3】図3は、本発明の信号処理システムの一実施形態、および図1および2を参照して説明されるタイプの、従来のフローサイトメーターの流体フローチャンバと容易にインターフェースされ得る態様を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による、静電分類器を有するフローセルサイトメーター内で粒子の軌跡の変化を補償するための構成および方法を詳述する前に、本発明は、第一に、従来のアナログおよびデジタルの回路および構成要素の所定の新規配列に属することに注目されたい。その結果、このような回路および構成要素の構成、および流体フローチャンバおよび関連する粒子液滴荷電ユニットとインターフェースされ得る態様は、ほとんどの場合、容易に理解することができる概略ブロック図によって図面内に示されており、本明細書の説明の利益を享受する当業者には容易に明らかとなる詳細によって本開示を不明確にしないように、該図面は、本発明に関連するそれらの特定の側面だけを示している。したがって、概略ブロック図は、第一に、好適な機能的グループ化における本発明の種々の実施形態の主要な構成要素を示すことを目的とし、それによって、本発明がより容易に理解され得る。
【0024】
ここで、図3を参照すると、本発明の信号処理システムの一実施形態、および図1および2を参照して説明されるタイプの従来のフローサイトメーターの流体フローチャンバとインターフェースされる態様が、概略的に示されている。そこに示されているように、システムは、光検出器ユニット等のセンサ201を備え、それは、粒子と、感知ゾーン22を照明するレーザビームとの相互作用の結果として、担体流体204中の粒子203によって生成される出力パルス信号202を発生させるように動作する。パルスは、デジタル信号プロセッサ200に接続され、流体フローチャンバの出力オリフィス206から出た液滴の流れを対象となる滴が離脱する時点で、分類される粒子含有滴が、下流の荷電カラーによって制御可能に荷電される時間を正確に定義するために、分類遅延計算を含む所定のパルス評価ルーチンを行う。
【0025】
パルス信号202の幅は、流体フローチャネル内での粒子の速度を示し、粒子が進行する流体流れの軸にどの程度近いかの初期指示を提供する。パルスが、実験的または決定論的に判定することができる所定の最小幅を有する場合、粒子は、チャンバを通って進行してそこから出る流体流れの軸と一致し(上述の粒子Aに対応する)、したがって、可能な最高速度でシステムを通って移動する軌跡を有すると推測される。この場合、出口オリフィス206の下流の場所205での、粒子の感知と、その選択的な分類との間の時間遅延TAは最小遅延となる。
【0026】
しかしながら、前述のように、粒子がチャンバに入る比較的に幅の広い上流ゾーン21から、出口オリフィス15での収縮まで、流体フローチャンバを通って上流から下流方向へ進むにつれて、チャンバ10を通る流体流路の横断面が変化するという事実から、担体流体中に含まれる粒子の軌跡は変化するものと予想することができる。上記に指摘し、図2に示されるように、粒子B等の軸外の粒子は、フローチャンバ13を通る軸に沿った粒子Aのピーク速度ベクトル41よりも小さい速度ベクトル(42)を有するので、粒子Bによって生成されるセンサ出力パルスの幅は、粒子Aによって生成されるものよりも広くなる。感知された信号が、分類される粒子を示すかどうかは、信号分別ステップ221によって判定される。このステップに対する回答が222に示されるようにYESである場合は、後述するように、分類遅延計算ステップ212が実行される。211で、パルス幅判定情報が測定され、分類遅延計算212に適用される。分類遅延計算ステップの出力は、電荷が液滴荷電カラーに印加され、それによって、対象となる粒子を含有する液滴を荷電する時間の制御に使用される、時間遅延値である。
【0027】
本発明によれば、分類遅延計算は、対象となる粒子が通過するフローチャンバの異なるゾーンにそれぞれ関連する複数の構成要素から成る。第1のゾーンは、レーザ照明サブシステム30によって粒子が感知される、感知ゾーン22である。センサ201の出力パルスは、対象となる電位粒子に関連するパルスの幅を定義する、立ち上がりおよび立ち下がり縁部を生成する。感知ゾーン22は、対象となる粒子がゾーン22内においてある等速度を有するように、流体フローチャンバの2つの流体収縮ゾーン23および24の上流にある。粒子Aの場合、等速度はVA(図1に矢印42で示す)であり、(放物線状の)速度プロファイル40のピークにおいて定義される。分類時間遅延計算において、判定される第1の成分は、距離D2を通過するのにかかる時間であり、感知ゾーン22を通って進行する距離(D)に対応する。この粒子Aの遅延成分は、時間遅延Td2Aで示される。
【0028】
第2の時間遅延成分は、感知ゾーン22から、第1の加速ゾーン23への粒子の進行に関連する時間遅延である。関連する距離は距離D3で示される。この領域内には担体流体の収縮があるので、粒子Aは、出口オリフィス15に接近するにつれて加速f1A(a)を受けることになる。したがって、粒子Aが距離D3を横断するのに必要な時間Td23Aは、距離D3を、その距離にわたる速度で割ったものに等しい。粒子Aは、この領域内で加速を受けているので速度は一定ではなく、距離D2の下流端のゾーン境界と、距離D3との間の加速関数f1A(a)を積分する必要がある。加速関数f1A(a)は、流体フローシステムの形状パラメータに基づいて、経験的または決定論的に決定されてもよい。
【0029】
非限定的な実施例として、加速ゾーンの流れの断面積が、一様かつ対称的に減少する場合、加速関数は、経験的に、または数値的な流体フローのシミュレーション計算を使用して決定されることができる定数(k)である。この場合、次式となる。
【0030】
1A=k
一般に、粒子Aがゾーン22と23との間の距離を横断するのに必要な時間Td23Aは、次式で定義される。
【0031】
【数2】

同様に、粒子Aがゾーン23と24との間のオリフィスの長さを横断するのに必要な時間Td34Aは、次式で定義される。
【0032】
【数3】

非限定的な実施例として、加速ゾーンの流れの断面積が一様かつ対称的に減少する場合、加速関数は、経験的に、または数値的な流体フローのシミュレーション計算を使用して決定することができる定数(k)である。この場合、次式となる。
【0033】
2A=k
粒子がオリフィス15から一旦出ると、流体流れの軸に沿って等しい出口速度VAで進行している。出口オリフィスから液滴荷電場所までの距離D5をこの速度で割ったものは、粒子が距離D5を進行するのに必要な時間T45Aである。
【0034】
したがって、粒子Aがセンサ201によって最初に感知された瞬間から、粒子が出口オリフィス206の下流の場所205に到達するまでに、上記の付加的な遅延成分の合計に等しい複合遅延時間TAが経過していることが判る。この複合遅延時間は、制御信号の液滴荷電増幅器207への適用を遅延させるために使用され、この増幅器の出力は、液滴配列の進行経路を囲む静電荷電カラー208に連結される。荷電カラー208は、個々の液滴が流体流れから分離する液滴配列の進行経路に沿った場所を囲むように配置され、典型的には、数個の液滴の長さである金属円筒を含んでもよい。荷電カラーは、流体チャンバの出口オリフィス206の下流および関連する一式の静電(異極性、高電圧)偏向プレート209および210の上流に垂直に配置され、その間を荷電された液滴の流れが下方へ進行する時に通り、また、該液滴は、分類経路213に沿って、分類された液滴の収集容器214内へ分類されるか、または別個の進行経路に沿って、中止または廃棄される廃棄物容器215内へ分類せずに通過することを可能にする。
【0035】
換言すると、粒子Aの場合、複合時間遅延TAは、次式で定義されてもよい。
【0036】
【数4】

同様に、最初は粒子Aよりも速度が遅い粒子Bの場合、粒子Bがセンサ201によって感知された瞬間から、粒子Bが出口オリフィス206の下流の場所205に到達するまで、上記の増分遅延成分の合計に等しい複合遅延時間TBが経過している。粒子Bの場合、複合時間遅延TBは、次のように定義されてもよい。
【0037】
【数5】

図2の速度プロファイルから、粒子Bが出力オリフィスを通ってその最大速度まで加速されるのにかかる時間よりも十分前に、粒子Aが出力オリフィスを通ってその最大速度まで加速されることが分かる。その結果、感知ゾーン22内で感知されてから、荷電カラー208によって荷電されるまでの、粒子Aの複合遅延は、粒子Bの複合遅延よりも短くなる。したがって、本発明の荷電機構は、流体フローチャンバ内の流体流れにおいて、分類されるべき粒子が位置付けられる場所に適合するので、動的であることが理解されるであろう。上記に指摘したように、これは、分類された試料の純度を増加させる役目を果たし、その希釈化を減少させる。粒子の進行速度は、1つ以上のレーザビームを使用し、散乱パルス間の時間を判定して、容易に測定することができる。加えて、飛行時間またはパルス幅は、時間遅延計算の因子として粒子サイズを挿入するために、追加パラメータとして使用することができる。
【0038】
本発明による一実施形態を示して説明したが、該実施形態は、同一のものがそれに限定されるのではなく、当業者に知られている多数の変更および修正を許容し、したがって、本明細書に示して説明した詳細に限定しようとするものではなく、当業者には明白であるものとして、そのような全ての変更および修正を網羅することを意図していることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローサイトメーターとともに使用するために、分類されるべき粒子を含有する担体流体は、粒子流体輸送チャンバを通って流れ、該チャンバは、出力オリフィスであって、液滴が制御可能に荷電されて該出力オリフィスから出る該担体流体から離脱する時点を制御する液滴発生器に連結される、出力オリフィスと、液滴分類器であって、選択された液滴を偏向させ、それによって、未分類の液滴の流れがそれに沿って進行する未分類液滴経路とは別の、分類液滴偏向経路に沿って分類されるように動作する、液滴分類器とを有している、液滴が制御可能に荷電されて該担体流体から離脱する該時点を制御する方法であって、
(a)そこを通って進行する粒子の存在について該粒子流体輸送チャンバ内の所定のゾーンを監視し、該粒子が該粒子流体輸送チャンバを通って進行する時に、該所定のゾーン内にある時間の長さを表す幅を有する、出力パルスを生成することと、
(b)該所定のゾーン内にあるとして該粒子がステップ(a)において感知される時間と、該粒子を含有する液滴が該担体流体から離脱する時間との間で、該粒子流体輸送チャンバの形状パラメータに従って複合時間遅延を計算することと、
(c)該粒子が該担体流体から離脱する時に該粒子を制御可能に荷電するために、ステップ(b)において計算される該複合時間遅延を使用することと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(b)は、前記粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの連続ゾーンの形状パラメータに従って、前記複合時間遅延を計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)は、前記粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの前記連続ゾーンの形状パラメータと関連する各時間遅延の合計として、前記複合時間遅延を計算することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記担体流体中の粒子は、該粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの前記連続ゾーンのうちの少なくとも1つを通る、それらの進行過程において加速を受ける、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)は、前記ゾーンの対向端の間で加速関数の積分を行うことによって、前記担体流体が加速を受ける、前記粒子流体輸送チャンバのゾーンについて、前記複合時間遅延の各時間遅延成分を計算することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)は、次式に従って、前記担体流体中に含有される任意の粒子Aの複合時間遅延を計算することを含み、
【数6】

ここで、
Aは、該複合時間遅延であり、
は、前記所定のゾーンを通る距離であり、
Aは、該所定のゾーンを通る該粒子の速度であり、
は、該所定のゾーンと前記出力オリフィスに隣接するゾーンとの間の距離であり、
【数7】

は、該所定のゾーンと該出力オリフィスに隣接する該ゾーンと間の該粒子Aの速度であり、
は、該出力オリフィスに隣接する該ゾーンと該出力オリフィスの下流の場所との間の、該出力オリフィスを通る距離であり、
【数8】

は、該出力オリフィスを通る該粒子Aの速度であり、
は、該出力オリフィスの下流の該場所から、該粒子Aを含有する滴が、荷電されて前記担体流体から分離される場所までの距離であり、
Aは、該出力オリフィスの下流の該粒子の速度である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
フローサイトメーターとともに使用するために、分類されるべき粒子を含有する担体流体は、粒子流体輸送チャンバを通って流れ、該チャンバは、出力オリフィスであって、液滴が荷電されて該出力オリフィスから出る該担体流体から離脱する時点を制御する液滴発生器に連結される、出力オリフィスと、液滴分類器であって、選択された液滴を偏向させ、それによって、未分類の液滴の流れがそれに沿って進行する未分類液滴経路とは別の、分類液滴偏向経路に沿って分類されるように動作する、液滴分類器とを有する、液滴が制御可能に荷電されて該担体流体から離脱する該時点を制御するためのサイトメーターサブシステムであって、
そこを通って進行する粒子の存在について前記粒子流体輸送チャンバ内の所定のゾーンを監視し、前記粒子が前記粒子流体輸送チャンバを通って進行する時に、前記所定のゾーン内にある時間の長さを表す幅を有する、出力パルスを生成するように動作する、粒子センサと、
前記粒子センサから前記出力パルスを受信するように連結され、前記所定のゾーン内にあるとして前記粒子が感知される時間と、前記粒子を含有する液滴が前記担体流体から離脱する時間との間で、前記粒子流体輸送チャンバの形状パラメータに従って、複合時間遅延を計算するように動作する、信号プロセッサと、
前記信号プロセッサによって計算される前記複合時間遅延の終了時に、前記粒子を含有する液滴を制御可能に荷電するように動作する、液滴荷電器と、
を備える、サブシステム。
【請求項8】
前記信号プロセッサは、前記粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの連続ゾーンの形状パラメータに従って、前記複合時間遅延を計算するように動作する、請求項7に記載のサイトメーターサブシステム。
【請求項9】
前記信号プロセッサは、前記粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの前記連続ゾーンの形状パラメータと関連する、各時間遅延の合計として、前記複合時間遅延を計算するように動作する、請求項8に記載のサイトメーターサブシステム。
【請求項10】
前記担体流体中の粒子は、前記粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの前記連続ゾーンのうちの少なくとも1つを通る、それらの進行過程において、加速を受ける、請求項8に記載のサイトメーターサブシステム。
【請求項11】
前記信号プロセッサは、前記ゾーンの対向端の間で加速関数の積分を行うことによって、前記担体流体が加速を受ける、前記粒子流体輸送チャンバのゾーンについて、前記複合時間遅延の各時間遅延成分を計算するように動作する、請求項10に記載のサイトメーターサブシステム。
【請求項12】
前記信号プロセッサは、次式に従って、前記担体流体中に含有される任意の粒子Aの複合時間遅延を計算するように動作し、
【数9】

ここで、
Aは、該複合時間遅延であり、
は、前記所定のゾーンを通る距離であり、
Aは、該所定のゾーンを通る該粒子の速度であり、
は、該所定のゾーンと前記出力オリフィスに隣接するゾーンとの間の距離であり、
【数10】

は、該所定のゾーンと該出力オリフィスに隣接する該ゾーンと間の該粒子Aの速度であり、
は、該出力オリフィスに隣接する該ゾーンと該出力オリフィスの下流の場所との間の、該出力オリフィスを通る距離であり、
【数11】

は、該出力オリフィスを通る該粒子Aの速度であり、
は、該出力オリフィスの下流の該場所から、該粒子Aを含有する滴が荷電されて該担体流体から分離される場所までの距離であり、
Aは、該出力オリフィスの下流の該粒子の速度である、請求項7に記載のサイトメーターサブシステム。
【請求項13】
フローサイトメーターとともに使用するために、分類される粒子を含有する担体流体は、粒子流体輸送チャンバを通って流れ、該チャンバは、出力オリフィスであって、液滴が制御可能に荷電され、該出力オリフィスから出る該担体流体から離脱する時点を制御する液滴発生器に連結される、出力オリフィスと、液滴分類器であって、選択された液滴を偏向させ、それによって、未分類の液滴の流れがそれに沿って進行する未分類液滴経路とは別の、分類液滴偏向経路に沿って分類されるように動作する、液滴分類器とを有する、液滴が制御可能に荷電されて該担体流体から離脱する該時点を制御する方法であって、
(a)該粒子を含有する液滴が荷電され、該担体流体から分離する時点への推移の過程において、該粒子が通過する該粒子流体輸送チャンバの連続ゾーンを通る、分類されるべき粒子の進行時間を計算することと、
(b)ステップ(a)において計算される該進行時間に従って、複合時間遅延を計算することと、
(c)該粒子が該担体流体から離脱する時に該粒子を制御可能に荷電するために、ステップ(b)において計算される該複合時間遅延を使用することと
を含む、方法。
【請求項14】
ステップ(a)は、前記粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの連続ゾーンの形状パラメータに従って、前記進行時間を計算するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記担体流体中の粒子は、該粒子を含有する担体流体が通過する前記粒子流体輸送チャンバの前記連続ゾーンのうちの少なくとも1つを通る、それらの進行過程において、加速を受ける、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(a)は、前記ゾーンの対向端の間で加速関数の積分を行うことによって、前記担体流体が加速を受ける、前記粒子流体輸送チャンバのゾーンについて、前記複合時間遅延の各時間遅延成分を計算することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(b)は、次式に従って、前記担体流体中に含有される任意の粒子Aの前記複合時間遅延を計算することを含み、
【数12】

ここで、
Aは、該複合時間遅延であり、
は、前記所定のゾーンを通る距離であり、
Aは、該所定のゾーンを通る該粒子の速度であり、
は、該所定のゾーンと該出力オリフィスに隣接するゾーンとの間の距離であり、
【数13】

は、該所定のゾーンと該出力オリフィスに隣接する該ゾーンと間の該粒子Aの速度であり、
は、該出力オリフィスに隣接する該ゾーンと該出力オリフィスの下流の場所との間の、該出力オリフィスを通る距離であり、
【数14】

は、該出力オリフィスを通る該粒子Aの速度であり、
は、該出力オリフィスの下流の該場所から、該粒子Aを含有する滴が荷電されて該担体流体から分離される場所までの距離であり、
Aは、該出力オリフィスの下流の該粒子の速度である、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−528289(P2010−528289A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509455(P2010−509455)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/063710
【国際公開番号】WO2008/147709
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】