説明

ブタジエン共重合体を臭素化する2段階方法

ブタジエン共重合体が、第一の工程において臭素化剤として三臭化第四級アンモニウムを使用して臭素化され、その後、第二の臭素化工程において元素の臭素で臭素化される。
臭素化方法は穏やかな条件の下で容易に進行し、優れた熱的安定性を有する臭素化された生成物を生成する。第一の臭素化工程のみを使用して臭素化を行なったときよりも短い反応時間で、臭素化は高い転化率まで進む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2008年5月1日に提出された米国仮特許出願第61/049721号に基づく優先権を主張する。
本発明は、スチレンとブタジエンのブロック、ランダムまたはグラフト共重合体のような共重合体を含む、ブタジエン重合体を臭素化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2008/021417号は、ブタジエン共重合体を臭素化する方法について記載している。臭素化剤は、三臭化フェニルトリアルキルアンモニウム、三臭化ベンジルトリアルキルアンモニウムまたは三臭化テトラアルキルアンモニウムである。その方法は溶液中の共重合体で行なわれる。芳香環は本質的に影響されずに、高い選択率で脂肪族炭素−炭素二重結合への臭素化が達成される。その方法は、好ましくは、酸素を含まない塩素化された溶媒の中で実行される。これは、重合体上のエーテル基の形成を最小限にするのに役立ち、それは、エーテル基が臭素化された重合体の耐熱性に多くの場合悪影響を及ぼすので、有益である。別の利点は、驚いたことに、温度条件が約80℃よりも低く管理される場合は、臭素化された重合体と塩素化された溶媒の間のハロゲン交換がほとんど生じないということである。
【0003】
臭素化された重合体の潜在的な用途は、ポリスチレンのような熱可塑性重合体用の難燃剤添加物である。臭素化された重合体の熱的特性はその用途において非常に重要である。熱可塑性重合体は、典型的には、溶融ブレンド法で臭素化された重合体とブレンドされる。ブレンドは、ほとんどの場合、同時にまたは続いて、二次加工品を作るために溶融加工される。たとえば、ブレンドは、それを所望の製品形状に変換するために、それを押し出して発泡製品または無発泡製品を形成することによって、射出成形によって、溶融キャスティングによって、またはブレンドを溶融することを伴う他の方法によって、溶融加工することができる。臭素化された重合体は、溶融ブレンドおよび溶融加工の操作中に受ける温度で熱的に安定でなければならない。他方、臭素化された重合体は、臭素または臭化水素を遊離するために火災状態で分解することができなければならない。臭素化された重合体が熱に強すぎる場合、それは適正な温度で分解せず、難燃剤として効果がない。臭素化されたポリブタジエン共重合体は、それがある種の副反応を最小限にすることによって注意深く調製されるならば、難燃剤用途のために必要な熱的特性を有することができることが見い出された。国際公開第2008/021417号に記載された方法は、望ましい熱的特性を有する臭素化されたポリブタジエン共重合体を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/021417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
国際公開第2008/021417号に記載された臭素化方法に関する問題点は、他の点では有利な反応条件下で、その反応がゆっくり進行するということである。約70〜80%の転化率が達成された後、臭素化は劇的に遅くなり、高転化率に達するためには長い反応時間が必要とされる。長い反応時間は所与の製造装置の処理能力に影響を与える。より長い反応時間は、単位時間当たり所定の量の製品を生産するために、より大きなまたはより多くの装置が必要であることを意味する。その理由のために、その方法は、望まれるよりずっと大きな資本を必要とする。反応速度を増加させることは望ましいであろう。それにより、処理量を増加させることができ、それに対応して資本費用を減少させることができる。単に反応温度を上げることによって反応速度を増加させることはこの問題の実行可能な解決策ではない。なぜならば、より高い反応温度では、望ましくない副反応が、より優勢になる傾向があるからである。これらの望ましくない反応としては、上述のハロゲン交換反応の他、臭化水素化反応、環ハロゲン化、第三級炭素原子またはアリル炭素原子のハロゲン化、ヒドロキシル基の形成などを挙げることができる。これらの副反応は、ほとんどの場合、臭素化された重合体の熱的安定性を減少させ、したがって、その重合体は難燃剤添加物としての有用性を低減する。
したがって、良好な熱的特性を有する臭素化されたブタジエン重合体をより速やかに調製することができる方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ブタジエン重合体のための少なくとも1種の溶媒の存在下で、不飽和ブタジエン反復単位を含むブタジエン重合体を、三臭化フェニルトリアルキルアンモニウム、三臭化ベンジルトリアルキルアンモニウムまたは三臭化テトラアルキルアンモニウムと反応させて、ブタジエン反復単位の約50%〜約96%が臭素化された部分的に臭素化されたブタジエン重合体を生成する工程、その後、さらに、部分的に臭素化されたブタジエン重合体を、ブタジエン反復単位の96%超が臭素化されるまで、元素の臭素と反応させる工程を含む方法である。
【発明の効果】
【0007】
この方法は、臭素化の全体が臭素化剤として三臭化アンモニウムを使用して行なわれるときに必要とされるよりも、はるかに短い時間で高水準の臭素化を達成することができる。驚くべきことに、その生成物は、なおも、不純物量が非常に低水準であり、熱的安定性が高い。それは三臭化アンモニウムによる臭素化の生成物の特性であるが、臭素が臭素化剤として直接使用されたときには典型的には見られないものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の方法の実施態様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ブタジエンの重合体がこの方法における出発原料である。ブタジエン重合体は、単独重合体であってもよいし、ブタジエンと1種以上の他の単量体の共重合体であってもよい。共重合体はランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、グラフト共重合体であってもよく、重合したポリブタジエンを少なくとも10質量%含んでいるべきである。ブタジエンは重合して2種類の反復単位を形成する。ここで「1,2−ブタジエン単位」と呼称する一方のタイプは、
【0010】
【化1】

【0011】
の形をとり、重合体にペンダント不飽和基を導入する。ここで「1,4−ブタジエン」単位と呼称する第二のタイプは、−CH−CH=CH−CH−の形をとり、重合体主鎖に不飽和を導入する。ブタジエン重合体は少なくともいくつかの1,2−ブタジエン単位を含んでいるべきである。ブタジエン重合体中のブタジエン単位のうち、適切には少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも25%が、1,2−ブタジエン単位である。1,2−ブタジエン単位は、ブタジエン重合体中のブタジエン単位の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%または少なくとも70%を構成してもよい。1,2−ブタジエン単位の割合は、重合体中のブタジエン単位の85%超であってもよいし、さらには90%超であってもよい。
【0012】
制御された1,2−ブタジエン含有量を有するブタジエン重合体を調製する方法は、ジェイ・エフ・ヘンダーソン(J. F. Henderson)およびエム・シュワルツ(M. Szwarc),ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(D,マクロモレキュラー・レビュー)(Journal of Polymer Science (D, Macromolecular Review)),1968年,第3巻,p.317、ワイ・タナカ(Y. Tanaka),ワイ・タケウチ(Y. Takeuchi),エム・コバヤシ(M. Kobayashi)およびエッチ・タドコロ(H. Tadokoro),ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(J. Polym. Sci.)A−2,1971年,第9巻,p.43−57、ジェイ・ジモナ(J. Zymona),イー・サンテ(E. Santte)およびエッチ・ハーウッド(H. Harwood),マクロモレキュールズ(Macromolecules),1973年,第6巻,p.129−133、およびエッチ・アシタカ(H. Ashitaka)ら,ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,ポリマー・ケミストリー(J. Polym. Sci., Polym. Chem.),1983年,第21巻,p.1853−1860に記載されている。
【0013】
好ましい出発原料は、ブタジエンと少なくとも1種のビニル芳香族単量体とのランダム、ブロックまたはグラフト共重合体である。「ビニル芳香族」単量体は、芳香環の炭素原子に直接結合した重合可能なエチレン性不飽和基を有する芳香族化合物である。ビニル芳香族単量体としては、スチレンおよびビニルナフタレンのような非置換の物質、ならびに(たとえばα−メチルスチレンのような)エチレン性不飽和基の上に置換基を有する化合物および/または環置換された化合物が挙げられる。環置換されたビニル芳香族単量体としては、芳香環の炭素原子に直接結合したハロゲン、アルコキシル、ニトロまたは非置換のもしくは置換されたアルキル基を有するものが挙げられる。そのような環置換されたビニル芳香族単量体の例としては、2−または4−ブロモスチレン、2−または4−クロロスチレン、2−または4−メトキシスチレン、2−または4−ニトロスチレン、2−または4−メチルスチレンおよび2,4−ジメチルスチレンが挙げられる。好ましいビニル芳香族単量体は、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレンおよびそれらの混合物である。
【0014】
「ビニル芳香族単位」は、ビニル芳香族単量体が重合されるときに形成される出発原料中の反復単位である。適切なブタジエン/ビニル芳香族出発共重合体は、5〜90質量%のビニル芳香族モノマー単位および少なくとも10質量%の重合したブタジエンを含む。
【0015】
ブタジエン/ビニル芳香族共重合体は、ランダム、ブロック(ジブロックまたはトリブロック型のようなマルチブロックを含む。)またはグラフトのいずれの型の共重合体であってもよい。スチレン/ブタジエンブロック共重合体は、商業的な量で広く入手可能である。VECTORTMの商品名でデクスコ・ポリマーズ社(Dexco Polymers)から入手可能なものが適している。スチレン/ブタジエンランダム共重合体は、エー・エフ・ハワサ(A. F. Halasa),ポリマー(Polymer),2005年,第46巻,p.4166に記載された方法に従って調製することができる。スチレン/ブタジエングラフト共重合体は、エー・エフ・ハワサ(A. F. Halasa),ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(ポリマー・ケミストリー・エディション)(Journal of Polymer Science (Polymer Chemistry Edition)),1976年,第14巻,p.497に記載された方法に従って調製することができる。スチレン/ブタジエンランダムおよびグラフト共重合体は、また、シー(Hsieh)およびクワーク(Quirk),「アニオン重合の原理と実用的応用(Anionic Polymerization Principles and Practical Applications)」,マルセル・デッカー社(Marcel Dekker, Inc.),ニューヨーク,1996年,第9章に記載された方法に従って調製することができる。
【0016】
ブタジエン重合体は、また、ブタジエンおよびビニル芳香族単量体以外の単量体を重合することにより形成された反復単位を含んでいてもよい。そのような他の単量体としては、エチレンおよびプロピレンのようなオレフィン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸のようなアクリル酸エステルまたはアクリル酸単量体などが挙げられる。これらの単量体は、ブタジエンとランダム重合されてもよいし、ブロックを形成するように重合されてもよいし、またはブタジエン重合体の上にグラフトされてもよい。
【0017】
最も好ましい型のブタジエン重合体は、1つ以上のポリスチレンブロックおよび1つ以上のポリブタジエンブロックを含むブロック共重合体である。これらの中でも、中心ポリブタジエンブロックおよび末端ポリスチレンブロックを有するジブロック共重合体およびトリブロック共重合体が、特に好ましい。
【0018】
ブタジエン重合体は、臭素化の前に、1,000〜400,000、好ましくは2,000〜300,000、より好ましくは3,000〜200,000、さらに好ましくは50,000〜175,000の範囲内の質量平均分子量(M)を有する。この発明の目的のためには、分子量は、ポリスチレン標準を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される見掛けの分子量である。GPC分子量決定は、直列につないだ2つのポリマー・ラボラトリーズ社(Polymer Laboratories)PLgel 5μm Mixed−Cカラムおよびアジレント社(Agilent)G1362A屈折率検出器を装備したAgilent 1100シリーズ液体クロマトグラフを使用して、溶離剤として1mL/minの流量の35℃の温度に加熱されたテトラヒドロフラン(THF)を用いて行なうことができる。
【0019】
臭素化反応の第一工程において使用される臭素化剤は、三臭化フェニルトリアルキルアンモニウム、三臭化ベンジルトリアルキルアンモニウムまたは三臭化テトラアルキルアンモニウムの1種以上から選ばれる三臭化第四級アンモニウムである。これらの例としては、三臭化フェニルトリメチルアンモニウム、三臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、三臭化テトラメチルアンモニウム、三臭化テトラエチルアンモニウム、三臭化テトラプロピルアンモニウム、三臭化テトラ−n−ブチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0020】
第四級三臭化物臭素化剤は、対応する一臭化第四級アンモニウム塩を元素の臭素と混合することによって調製することができる。臭素化剤を調製するために一臭化物塩1モル当たり1モル以下の元素の臭素(Br)を使用することが好ましい。より好ましくは、一臭化物塩1モル当たり0.95モル以下の元素の臭素が使用される。第一の反応工程における著しい量の元素の臭素の存在は、臭素化された生成物における不純物の量の増加および熱的安定性の減少につながり得るので、過剰の臭素は避けることが好ましい。
【0021】
一臭化物塩は、通常、水溶性であるので、三臭化物を作る好都合な方法は、一臭化物塩の水溶液に元素の臭素を加えることである。この反応は、ほぼ室温で十分に進行するが、もし望むならば、室温より高い温度や、室温より低い温度も、使用することができる。三臭化物は、水相から沈殿する傾向があり、したがって、任意の好都合な固液分離方法によって水相から回収することができる。三臭化第四級アンモニウムは有機溶媒に可溶なので、それは、有機溶媒で抽出することにより水相から分離し、有機溶媒に溶けた三臭化第四級アンモニウムの溶液を形成することができる。三臭化物は多くの有機溶媒に可溶であり、もし望むならば、反応混合物を作るための出発原料ブタジエン重合体溶液への三臭化物の添加を促進するために、三臭化物をそのような溶媒に溶かしてもよい。三臭化物の溶液をブタジエン重合体溶液と混合する場合は、三臭化物を溶かすために使用される溶媒はブタジエン重合体用の溶媒でもあることが好ましく、ブタジエン重合体を溶かすために使用される溶媒と同一の溶媒であることが最も好ましい。三臭化物が水の存在する状態で調製される場合は、三臭化物はブタジエン重合体と接触する前に水から分離されることが好ましい。
【0022】
第一の臭素化工程は、ブタジエン重合体、溶媒および三臭化第四級アンモニウムを一緒に混合し、その混合物をブタジエン単位の約50〜96%が臭素化されるまで反応させることによって行なわれる。この明細書において「臭素化」とは、炭素原子の各々に1つの臭素原子が結合するように1つの炭素−炭素二重結合に2つの臭素原子が付加することをいう。臭素化反応の第一の工程において、ブタジエン重合体、三臭化第四級アンモニウムおよび溶媒の添加の順序は、特に重要ではない。ただし、三臭化物とブタジエン重合体がまず混合される場合は、かなりの反応が生じる前に溶媒を添加することが好ましい。臭素化反応の第一の工程においてブタジエン単位の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%を臭素化することが好ましい。また、過度に長い反応時間を回避するために、臭素化反応の第一の工程においてブタジエン単位の多くとも90%しか臭素化しないことが好ましい。
【0023】
臭素化の程度は、臭素化反応の第一の工程において使用される三臭化第四級アンモニウムの量によって、またはブタジエン重合体が三臭化第四級アンモニウムと接触している時間の長さを制御することによって、制御することができる。三臭化第四級アンモニウム臭素化剤が使用されるときは、ブタジエン単位の約70〜90%が臭素化されるまでは、臭素化は急速に進行することが見いだされた。その後は、臭素化は、ずっとゆっくり進行する傾向がある。臭素化反応の後半の段階におけるこの遅い反応速度は、ほとんどの場合、反応の第一の工程において臭素化の程度を制御する手段として接触時間を使用することを容易にする。
【0024】
ブタジエン重合体中のブタジエン単位1モル当たり約0.5〜約5モルの三臭化第四級アンモニウムが好ましく使用される。より好ましい量は、約0.6〜約2.5モル/モルであり、さらに好ましい量は0.7〜1.2モル/モルである。すでに述べたように、第一の臭素化工程は、好ましくは、遊離の元素の臭素(すなわち三臭化第四級アンモニウムを作るために反応していない元素の臭素)が実質的に存在しない状態で行なわれる。重合体の存在下で対応する一臭化物塩に臭素を添加することによって、その場で三臭化第四級アンモニウムを発生させることは、本発明の範囲内である。しかしながら、その場合、臭素が添加される速度は、好ましくは、過剰の遊離の元素の臭素が反応混合物の中に存在させないような速度である。
【0025】
一般に、臭素化反応の第一の工程を達成するために、穏やかな条件のみが必要である。臭素化温度は−20〜140℃の範囲であることができる。100℃より高い温度は、必要でないし、選択率の減少および/または副生成物の増加につながるおそれがある。第一の工程における臭素化温度は、好ましくは0〜90℃であり、より好ましくは40〜80℃である。三臭化物は、反応が進行するにつれて、対応する一臭化第四級アンモニウム塩に変換される。一臭化第四級アンモニウム塩は、ほとんどの場合、溶媒およびブタジエン重合体に不溶であり、重合体溶液から沈殿する傾向がある。
【0026】
第一の臭素化工程は、ブタジエン重合体のための溶媒の中で行なわれる。溶媒は、好ましくは、三臭化アンモニウム臭素化剤用の溶媒であり、反応において生成される一臭化アンモニウム副生成物用の溶媒ではない。適切な溶媒の例としては、テトラヒドロフランのようなエーテル;四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモクロロメタン(CHBrCl)、ジブロモメタン、1,2−ジブロモエタンおよび1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化アルカン;シクロヘキサンおよびトルエンのような炭化水素;およびブロモベンゼン、クロロベンゼンおよびジクロロベンゼンのようなハロゲン化された芳香族化合物が挙げられる。好ましいタイプの溶媒は、臭素化条件下で液体であり、臭素化剤と望ましくない反応をしないものである。酸素含有溶媒は、ブタジエン/ビニル芳香族化合物共重合体の脂肪族二重結合の付加反応に関与することができ、生成物の熱的性質の劣化につながるので、溶媒は非プロトン性であり酸素を含まないことが好ましい。したがって、ハロゲン化された溶媒および炭化水素溶媒は、酸素含有溶媒よりも溶媒として好ましい。穏やかな反応条件が用いられるときは、ハロゲン交換反応があまり起こらず、その理由で、塩素化された溶媒、臭素化された溶媒または臭素および塩素の両方を含む溶媒は、本発明で使用するのに非常に適していることが見いだされた。溶媒は、反応条件下でブタジエン重合体を溶解するのに十分な量で使用される。溶媒中のブタジエン重合体の濃度は、たとえば1〜50質量%、特に5〜35質量%の範囲であることができる。
【0027】
一旦ブタジエン単位の約25%以上、好ましくは50%以上が臭素化されたならば、望むならば、水または一臭化第四級アンモニウム塩のための別の溶媒が、臭素化反応の第一の工程に添加されてもよい。この添加は、場合によっては、高水準の不純物を形成せずに、また臭素化された生成物の熱的安定性を著しく減少させずに、臭素化反応の第一の工程においてブタジエン重合体の三臭化第四級アンモニウムとの反応を促進することが見いだされた。
【0028】
出発原料ブタジエン重合体中のブタジエン単位の50〜96%、好ましくは60〜90%、より好ましくは70〜90%が臭素化された後、部分的に臭素化された重合体は、さらに、元素の臭素との反応によって臭素化される。この第二の臭素化工程は、重合体中のブタジエン単位の96%超が臭素化されるまで、行なわれる。それはブタジエン単位の本質的に100%が臭素化されるまで行なってもよいが、より典型的には、ブタジエン単位の約97〜99%までが臭素化される。
【0029】
第二の臭素化工程は、いかなる三臭化第四級アンモニウム臭素化剤も実質的に存在しない状態で行なうことができ、好ましくはそのような状態で行なう。第一の臭素化工程で形成される一臭化第四級アンモニウム塩は追加の臭素との接触によって再生することができるので、第二の臭素化工程を行なう前に、一臭化第四級アンモニウムのすべてまたは一部から、部分的に臭素化された重合体を分離することが好ましい。この分離を達成するために、様々な方法を使用することができる。一臭化第四級アンモニウム塩が溶媒に十分に不溶性である場合は、それは、ろ過または遠心分離のような任意の固液分離方法を使用して、部分的に臭素化された重合体から沈殿させ、そして取り除くことができる。第一の臭素化工程からの反応溶液は、部分的に臭素化された重合体から一臭化第四級アンモニウムを取り除くために、水または一臭化第四級アンモニウ用の他の溶媒で抽出することができる。
【0030】
それにもかかわらず、三臭化第四級アンモニウムが存在する状態で第二の臭素化工程を行なうことも可能である。そのような場合には、存在するすべての一臭化第四級アンモニウムと反応して対応する三臭化物を形成するのに十分な量プラス追加の量の臭素が系に供給される。この手法は系に元素の臭素を供給する。遊離の元素の臭素は、部分的に臭素化された重合体中の残存する臭素化されていないブタジエン単位と直接反応する。この手法は、三臭化第四級アンモニウムが反応の終わりに反応混合物中に存在するので、あまり好ましくない。三臭化第四級アンモニウムは有機相に可溶なので、臭素化された重合体からそれを除去するのが難しい場合がある。
【0031】
第一の臭素化工程の後に部分的に臭素化された重合体中の残存する臭素化されていないブタジエン単位1モル当たり少なくとも約0.9モルの臭素が、第二の臭素化工程で使用される。もし望むならば過剰の臭素を使用することができるが、一般に2倍を超える過剰は必要ではない。
【0032】
前述したように、第二の臭素化工程は、好ましくは、出発原料ブタジエン重合体のための溶媒が存在する状態で行なわれる。
【0033】
臭素化反応の第二の工程のための反応条件は概して穏やかである。約100℃までの温度を使用することができるが、好ましい温度は0〜40℃である。圧力条件は、大気圧でもよいし、大気圧より低くてもよいし、大気圧より高くてもよい。反応温度が溶媒の沸点を超える場合は、大気圧より高い圧力が好ましい。
【0034】
第二の臭素化工程は、脂肪族アルコールが存在する状態で行なうことができ、脂肪族アルコールの例は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、t−ブタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、シクロヘキサノール、1,2−ヘキサンジオール、グリセリン、蔗糖、ブドウ糖、ポリビニルアルコール、アルキレングリコールおよびアルキレングリコールエーテルなどである。好ましいアルコールは第二級または第三級アルコール基を有する。より好ましいアルコールは第二級アルコール基を有する。最も好ましいアルコールは第二級アルコール基を有するものである。特に好ましいアルコールはイソプロパノールである。第二の臭素化における脂肪族アルコールの存在は、ブタジエン単位の70%未満が第一の臭素化工程で臭素化されたときに、特に好ましい。
【0035】
脂肪族アルコールの量は、(1)元素の臭素1モル当たり少なくとも0.5モルのアルコールが供給されるように、そして(2)ブタジエン重合体が反応混合物に溶けたままであるように、選択される。ある種の脂肪族アルコールは、出発原料共重合体に対して逆溶剤として作用するので、過度の量でのそれらの存在は出発原料共重合体を溶液から沈殿させる場合がある。脂肪族アルコールの好ましい量は元素の臭素1モル当たり0.5〜6モルであり、より好ましい量は元素の臭素1モル当たり0.75〜3.5モルであり、さらに好ましい量は元素の臭素1モル当たり1.00〜1.05モルである。もし出発原料共重合体が溶けたままならば、これらの量より多い量を使用してもよい。一般に、元素の臭素1モル当たり1.05モル超のアルコールを使用する必要はほとんどない。
【0036】
もし望むならば、脂肪族炭素−炭素二重結合の転化率を監視するために、臭素化反応の工程の一方または両方を分析的に追跡することができる。臭素化の程度はプロトンNMR法を使用して測定することができる。残余の脂肪族炭素−炭素二重結合は、適切なプロトン(残余の二重結合プロトンはテトラメチルシランに対して4.8〜6ppmである。)および臭素化されたポリブタジエンのプロトン(その信号は3.0〜4.8ppmである。)による信号の積分面積を比較することによって測定することができる。そのような測定にはVarian INOVATM 300 NMR分光計またはそれと同等な装置が有用であり、好ましくは、定量的積分のためのプロトンの緩和を最大限にするために30秒の遅延時間で操作される。重水素置換されたクロロホルムまたはd5−ピリジンのような重水素置換された溶媒は、NMR分析用の試料を希釈するのに適している。
【0037】
第二の臭素化工程が完了した後、必要に応じて、臭素化されたブタジエン重合体は回収し精製することができる。これを行なう方法は、一般に、本発明にとって重大ではない。臭素化反応が進行するにつれて、臭素化されたブタジエン重合体は反応混合物に溶けなくなるかもしれない。そのような場合は、濾過、傾瀉法などのような任意の都合のよい固液分離法を使用して、生成物を回収することができる。臭素化された重合体が反応混合物に溶けたままであるときは、それは、溶媒の蒸留または臭素化された共重合体を不溶性にし沈殿させる反溶媒の添加のような適切な方法によって混合物から都合よく単離される。そのような反溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノールおよびt−ブタノールのような低級アルコールが挙げられる。
【0038】
単離された重合体は、特定用途に要求または必要に応じて、残余の臭素、臭素化剤、溶媒および副生成物を除去するために、精製してもよい。臭化物塩は、重合体をシリカゲルまたはイオン交換樹脂床の中を通すことによって除去することができる。存在するかもしれない未反応の臭素化剤を中和または消滅するために、重合体は亜硫酸水素ナトリウム水溶液で洗浄してもよい。これは、残余の臭素または臭素化合物による重合体中に存在するかもしれないオレンジ色を有効に取り除きまたは除去する。
【0039】
1つの特定の回収方法においては、第二の臭素化工程からの粗反応溶液を細かい小滴にすることができる。その後、臭素化されたブタジエン重合体の粒子を形成するために、溶媒が小滴から熱ストリッピングされる。熱ストリッピング工程の前または後のいずれかに、小滴または粒子は非溶剤液体の中で洗浄される。このように形成された臭素化された重合体粒子は、その後、非溶剤液体から分離される。これを行なう手法はいくつかある。1つの手法においては、粗反応混合物は噴霧されて小滴を形成し、小滴は臭素化されたブタジエン粒子を形成するために(たとえば水蒸気と一緒にそれらに噴霧することによって)熱ストリッピングされ、そして粒子は次に非溶剤液体の中に分散され、洗浄されそして回収される。第二の手法においては、粗反応混合物は前のように小滴を形成するために噴霧されるが、小滴は熱ストリッピングされる前に非溶剤液体の中に分散される。この場合は、ストリッピングのための熱は、非溶剤液体の表面より下に水蒸気を導入することによって好都合に供給される。第三の変形においては、粗反応混合物は非溶剤液体に導入され、非溶剤液体の中に存在する間に小滴に形成される。小滴は、非溶剤液体の中に分散している間に、再び熱ストリッピングされ、そこでそれらは洗浄もされる。
【0040】
本発明に従って両方の臭素化工程を組み合わせることによって、重合体中のブタジエン単位の炭素−炭素二重結合の非常に高い割合を臭素化するために必要な時間を著しく減少させることが可能である。一般に、三臭化第四級アンモニウム臭素化剤のみを使用して行なわれる臭素化反応に比較して、この手法を使用すれば、ブタジエン単位の96%以上を臭素化するのに必要とされる時間は数時間以下減少することができる。96%以上の臭素化を達成するために必要な反応時間の合計は、多くの場合2時間未満であり、その反応時間は、もちろん反応温度に依存するが、最適化された工業プロセスでは1時間未満にできる。
【0041】
本発明のもう一つの意義深い利点は、臭素化が選択的であり、不純物がほとんど生成しないことである。これは多少驚くべきことである。なぜなら唯一の臭素化剤として臭素が使用されたときは多くの不純物が生成する傾向があるからである。それは、ほとんどの場合、臭素化された重合体の熱的安定性のかなりの減少に帰着する。
【0042】
さらにもう一つの利点は、同等の反応時間を達成しながら、より低い反応温度を使用することができるということである。
【0043】
したがって、上記の方法においては、芳香環には臭素化がほとんどまたはまったく生じない。そうでなく、臭素化は1,2−および1,4−ブタジエン単位の両方の炭素−炭素二重結合で起こる傾向があり、そして第三級またはアリルの炭素原子では臭素化がほとんど生じないように、臭素化が起こる傾向がある。臭素化は、第三級炭素原子に望まれない臭素を導入する傾向があるフリーラジカル機構ではなく、イオン機構によって生じると考えられている。第三級臭素は臭素化された共重合体の温度安定性に悪影響を及ぼすと考えられる。臭化水素化すなわち炭素−炭素二重結合へのHBrの付加は、この方法を使用すれば最小になることが見いだされた。
【0044】
この結果として、臭素化された共重合体生成物は優れた熱的安定性を有する。熱的安定性の有用な指標は5%減量温度であり、それは熱重量分析によって以下のように測定される。ティ・エー・インスツルメンツ(TA Instruments)モデルHi−Res TGA 2950またはそれと同等な装置を使用して、窒素ガス流量60ミリリットル/分(mL/min)で、室温(名目上25℃)から600℃までの範囲にわたって10℃/分の昇温速度で、10mgの重合体を分析する。加熱工程の間、試料が失った質量を監視し、試料が初期の質量の5%を失った温度を、5%減量温度(5%WLT)と呼ぶ。この方法は、初期の試料質量を基準として、試料が5質量%の累積的な減量を受けた温度を与える。臭素化された共重合体は、好ましくは、少なくとも230℃の5%WLTを示す。5%WLTは、好ましくは少なくとも240℃、より好ましくは少なくとも250℃、さらに好ましくは少なくとも260℃である。
【0045】
臭素化されたブタジエン重合体をアルカリ金属塩基で処理すると、熱的安定性のさらなる増加が見られる場合がある。アルカリ金属塩基はたとえば水酸化物であってもよいし炭酸塩であってもよい。アルカリ金属塩基は好ましくはアルカリ金属アルコキシドである。なぜならば、アルカリ金属アルコキシドは、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩またはカルボン酸塩のような他のいくつかの塩基よりも多くの熱的安定性の増加を与える傾向があるからである。アルカリ金属は、リチウムであってもよいし、ナトリウムであってもよいし、カリウムであってもよいし、セシウムであってもよい。リチウム、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。アルコキシドイオンは1〜8個の、好ましくは1〜4個の炭素原子を含むことができ、メトキシドおよびエトキシドが特に好ましい。特に好ましいアルカリ金属アルコキシドは、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシドおよびカリウムエトキシドである。臭素化されたブタジエン重合体は、(臭素化されていようがいまいが)共重合体中の重合したブタジエン単位1モル当たり0.01モルほどのアルカリ金属塩基で処理することができる。アルカリ金属塩基の量について上限はない。とはいえ、費用および取り扱いを考慮すると、共重合体中の重合した(臭素化されたまたは臭素化されていない)ブタジエン単位1モル当たり約1モルを超えるアルカリ金属塩基の使用は控えられる。好ましい量は、重合した(臭素化されたまたは臭素化されていない)ブタジエン単位1モル当たり0.03〜0.50モルであり、特に好ましい量は0.05〜0.20モル/モルである。
【0046】
図は、本発明の方法の実施態様の概略図である。
【0047】
図1において、出発原料ブタジエン重合体は貯蔵タンクV1からライン10を通って溶解槽V2に供給される。ライン10は、容器V1から溶解槽V2へ固体のブタジエン重合体を移すためのある種の供給手段を含んでいてもよい。固体のブタジエン重合体は、好ましくは、供給を容易にするために、微粒子の形をしている。供給手段は、コンベヤベルト、スクリューフィーダーまたは他のいかなる適切な装置であってもよい。
【0048】
溶媒はライン11aから溶解槽V2の中に供給され、ブタジエン重合体は溶解槽V2の中で溶媒に溶解され、ブタジエン重合体溶液が生成される。ライン11aから供給される溶媒は、示された実施態様においてリサイクル溶媒流れである。その代わりに、ブタジエン重合体溶液を生成するために、新鮮な溶媒を使用してもよいし、または新鮮な溶媒とリサイクルされた溶媒の組合わせを使用してもよい。
【0049】
ブタジエン重合体溶液はライン12を通って反応器V3に移される。三臭化第四級アンモニウムの溶液はライン18を通って反応器V3へ導入される。ブタジエン重合体と三臭化第四級アンモニウムは反応器V3の中で反応し、前述したような部分的に臭素化されたブタジエン重合体を生成する。三臭化第四級アンモニウムの少なくとも一部は一臭化第四級アンモニウム副生成物に変換される。
【0050】
反応器V3は連続的反応器または回分式反応器のいずれであってもよい。連続的反応器の方が装置が小さく、したがって費用がより少ないので、反応速度が速いときは、連続的反応器が一般に好ましい。一般に単位操作間のサージベッセル(surge vessels)もまた同様により小さい。もし望むならば、図1に示される単一の反応器の代わりに、複数の反応器V3を並列または直列に使用することができる。
【0051】
反応器V3の中で生じる反応は、部分的に臭素化されたブタジエン重合体、溶媒および一臭化第四級アンモニウムの混合物を生成する。残余の三臭化第四級アンモニウムがいくらか存在してもよい。本発明のいくつかの実施態様においては、水性の相が存在してもよい。混合物は、他の物質を少量含んでいてもよい。部分的に臭素化されたブタジエン重合体は、溶媒に部分的にまたは完全に溶解するであろう。一臭化第四級アンモニウムは、溶媒への溶解度がほとんどないので、もし水性の相が存在しなければ、反応混合物から沈殿する傾向がある。したがって、反応器V3において生成した反応混合物は、通常、スラリーの状態にあり、一臭化第四級アンモニウムおよび恐らく部分的に臭素化されたブタジエン重合体のいくらかが溶媒の中に懸濁している。水性の相が存在する場合は、一臭化第四級アンモニウムは水性の相の中に溶解していてもよく、その場合には、反応混合物は二相系であり、それは、いくらかの溶解していない一臭化第四級アンモニウムおよび/または溶解していない臭素化されたブタジエン重合体を含んでいてもよい。
【0052】
反応混合物は、(図示されるように、ライン13経由で)第一の抽出塔V5に移される。移送するための1つ以上のポンプまたは他の装置(図示せず)を使用することができる。反応器V3が回分式反応器である場合、1つまたは2つ以上の貯蔵タンクを、反応器V3と第一の抽出塔V5の間に置くことができる。第一の抽出塔V5は、最も好都合には、連続方式で操作される。1つまたは2つ以上の貯蔵タンクは、上流の回分式プロセスから、第一の抽出塔V5から始まる連続式プロセスへの移行を容易にする。
【0053】
部分的に臭素化されたブタジエン重合体の溶液またはスラリーは、第一の抽出塔V5において、還元剤を含む水性の相で抽出される。示された実施態様においては、水相は第三の抽出塔V13からの抽出物であり、それはライン52経由で第一の抽出塔V5に移される。部分的に臭素化されたブタジエン重合体の中に存在する残った三臭化物を中和するために、ライン52経由で第一の抽出塔V5に移される水性抽出物の中に十分な残存する還元剤があるように、十分な還元剤がライン53経由で第三の抽出塔V13に加えられる。あるいは、追加の還元剤を、流れ14経由で第一の抽出塔V5に直接加えることもできる。
【0054】
図示されているように、第一の抽出容器V5は向流で操作される。図示された配置は、溶媒が水よりも密度が大きいことを仮定している。そのような場合は、部分的に臭素化されたブタジエン重合体溶液は、ライン13から第一の抽出塔V5の塔頂の近くに導入され、塔の中を下方へ移動する。水と還元剤は、第一の抽出塔V5のより低いところに導入され、塔の中を上方へ移動する。
【0055】
一臭化第四級アンモニウムは、第一の抽出塔V5で水性の相へ移され、そのようにして、部分的に臭素化されたブタジエン重合体の溶液またはスラリーから取り除かれる。前述のように、還元剤は、すべての残余の溶媒に可溶な三臭化第四級アンモニウムを、溶媒にそれほど溶けないが、水性の相にはより溶けやすい対応する一臭化物塩に変換する。これは、抽出の効率を上げ、価値のある一臭化第四級アンモニウム塩の高い回収率を保証する。
【0056】
一臭化第四級アンモニウム水溶液は、第一の抽出塔V5の塔頂の近くから抜き出され、ライン16経由で第二の抽出塔V4に移される。図示された実施態様においては、追加の洗浄水(それはプロセスの別の部分からリサイクルされてもよい。)は、ライン17経由で第二の抽出塔V4へ導入される。ライン17は、たとえば、ライン15aまたは15bからのリサイクル流れの一部を第二の抽出塔V4へ方向転換することができる。追加の洗浄水をすべて省略するのもまた本発明の範囲内である。
【0057】
一臭化第四級アンモニウム水溶液は、第二の抽出塔V4で臭素および溶媒と接触させられる。図示された実施態様においては、第二の抽出塔V4は向流で操作され、再び、溶媒が水より密度が大きいと仮定する。したがって、一臭化第四級アンモニウム溶液(およびもしあれば追加のリサイクル水)は、第二の抽出塔V4の塔底の近くに導入される。図示されているように、臭素はライン26を通って加えられる。臭素は、溶媒に溶かした溶液として加えることができる。溶媒は、ライン11bを通って、抽出塔V4の塔頂の近くに加えられる。臭素と溶媒を一つの流れとして加えることが可能である。しかし、溶媒の大部分とは別に臭素を加え、かつ水性のラフィネート中の臭素損失を減少させるために溶媒より下に臭素を加えることが好ましい。その溶液が第二の抽出塔V4を去る前に、新鮮なリサイクル溶媒は水性のラフィネートと接触する。水性のラフィネート中の痕跡量の連行された臭素は、このようにして、新鮮なリサイクル溶媒の中に抽出される。同様に、追加の洗浄水は、好ましくは、第二の抽出塔V4に、(図示されているように)一臭化第四級アンモニウムの供給口より下で、加えられる。これは、洗浄水が三臭化第四級アンモニウム溶液から痕跡量の連行された一臭化第四級アンモニウムを抽出するのを可能にする。これらの別々の水および溶媒の添加は、水性の相の中に強く分配する一臭化物が、逆に溶媒相に強く分配する三臭化第四級アンモニウム種に効率的に変換されるのを可能にする。
【0058】
したがって、三臭化第四級アンモニウム溶液は第二の抽出塔V4の中で形成される。この溶液は、ライン18を通って、反応器V3へリサイクルされる。反応器V3が回分式反応器である場合、またはそうでなくとも必要な場合は、1つまたは2つ以上の貯蔵タンクを、第二の抽出塔V4と反応器V3の間のライン18内に置くことができる。前と同様に、貯蔵タンクは第二の抽出塔V4の好ましい連続操作から反応器V3の回分操作への移行を容易にすることができる。
【0059】
第一の抽出塔V5および第二の抽出塔V4における抽出および反応は、もし望まれるならばまたは必要であるならば、撹拌回分式混合容器で行なうことができるが、これは一般により大きなより高価な装置および中間貯蔵容器を必要とする。これらの抽出は連続式装置で行なうことが好ましく、多段装置で行なうことがより好ましい。多くの場合、多段塔または微分接触塔が経済的理由のために好ましい。
【0060】
部分的に臭素化されたブタジエン重合体の洗浄された溶液またはスラリーが、第一の抽出塔V5で形成される。この溶液またはスラリーはライン50経由で臭素化反応器V12に移される。示された実施態様では、この反応器は連続栓流反応器である。その代わりに、1つの連続撹拌槽型反応器(CSTR)または一連のCSTRを、栓流反応器に代えて、使用することもできる。臭素または臭素と溶媒の混合物がライン54経由で臭素化反応器V12の中に導入され、部分的に臭素化されたブタジエン重合体と共に流れる。臭素と部分的に臭素化されたブタジエン重合体は臭素化反応器V12の中で反応し、出発原料ブタジエン重合体のブタジエン単位の96%超が臭素化されるまで、さらに重合体を臭素化する。このように形成された臭素化された重合体は、ライン51を通って抜き出され、第三の抽出塔V13に移され、そこで臭素化された重合体は洗浄される。
【0061】
再びこの実施態様においては溶媒が水よりも密度が高いと仮定して、水は第三の抽出塔V13の塔底に導入される。図示されるように、水は回収装置V10からライン15a経由でリサイクルされる。示された実施態様では、水は、第三の抽出塔V13の中を上に向かって移動し、有機相は下方へ移動する。中和剤および/または還元剤は、ライン53を通って第三の抽出塔V13に導入することができる。この配置は、還元剤添加の流量の良好な制御を可能にし、より少ない体積の還元剤流れを扱うことを可能にする。ライン15a経由でより多くの水を加えることは、溶媒相の中に連行されるかもしれない還元剤を水相の中へ移すのを助け、したがって、イオン性不純物のより少ない抽出されたポリマー溶液を生成するのを助けると考えられる。その代わりに、水および還元剤のすべてを単一の流れで第三の抽出容器V13の中へ導入するのも本発明の範囲内である。残存還元剤を含む水は第三の抽出塔V13の塔頂からライン52を通って抜き出される。示された実施態様では、水はライン52経由で第一の抽出塔V5に移される。
【0062】
有機相はライン27を通って第三の抽出塔を出る。それは、洗浄された臭素化されたブタジエン重合体を、溶媒中の溶液またはスラリーの形態で含む。臭素化されたブタジエン重合体は、固体の臭素化されたブタジエン生成物および溶媒流れを生成するために、その洗浄された溶液またはスラリーから回収される。溶媒流れのすべてまたは一部を工程へリサイクルすることができる。
【0063】
図に示されるように、臭素化されたブタジエン重合体の溶液またはスラリーは、第三の抽出塔V13からライン27を通って抜き出され、回収容器V8に移される。臭素化されたブタジエン重合体は、回収容器V8において溶媒から分離され、臭素化されたブタジエン重合体流れ24および混合蒸気流れ22を生成する。
【0064】
臭素化されたブタジエン重合体の回収に種々の手法を使用することができ、回収容器V8の設計および操作は、当然、選ばれる特定の手法を反映するであろう。溶液またはスラリーから溶媒を蒸発させてもよい。あるいは、臭素化されたブタジエン重合体を、反溶媒の添加によって、溶液またはスラリーから沈殿させてもよい。
【0065】
好ましい実施態様においては、回収容器V8に入る、洗浄された溶液またはスラリーは、細かい小滴にされる。溶媒が小滴から熱により除去され、臭素化されたブタジエン重合体の粒子を形成する。熱による除去工程の前にまたはその工程の後に、小滴または粒子は水で洗浄される。これは、湿った微粒子の臭素化されたブタジエンの流れを生成し、その流れを濾過および/または乾燥して生成物を回収することができる。
【0066】
図に示された実施態様においては、第三の抽出容器V13を出る臭素化されたブタジエン溶液またはスラリーは、ライン27経由で移され、回収容器V8の中に噴霧される。回収容器V8は、水で部分的に満たされている。図示されるように、溶液またはスラリーは、回収容器V8の上部空隙へ噴霧されて、小滴を形成し、その小滴は回収容器V8中の水の中に落下する。小滴が落下している間に、小滴が水面に達する前に、熱により小滴から溶媒を除去することができる。あるいは、小滴が水の中に落下し、水の中に分散した後に、小滴から溶媒を除去することもできる。溶媒の一部は小滴が水面に達する前に除去され、溶媒の残りは小滴が水に分散した後に除去されることも可能である。水相は、好ましくは、溶媒が除去され、臭素化された重合体が沈殿して固体粒子を形成するまでは、小滴の分散を維持するように撹拌される。
【0067】
小滴から溶媒を除去するために回収容器V8の中に熱源が供給される。好ましい熱源は直接注入される水蒸気である。図示された実施態様においては、水蒸気はライン23およびライン30を通って2か所から回収容器V8へ導入される。ライン23は、臭素化されたブタジエン重合体の小滴が導入される点のすぐ近くに水蒸気を導入するが、それは好ましい態様である。このように水蒸気を導入するための特に好ましい装置は、臭素化されたブタジエンの溶液またはスラリーを霧にし小滴にし、そして水蒸気と小滴を一緒に回収容器V8へ導入する二流体ノズルである。ライン23中の水蒸気の一部は、霧にするエネルギーを加えずに追加の熱エネルギーを供給するために、二流体ノズルをバイパスし、二流体ノズルからの噴霧に比べて低い速度で二流体ノズルのすぐ近くに加えてもよい。ライン30は、回収容器V8の中の流体の表面より下に水蒸気を導入する。好ましい実施態様においては、ライン23を通って導入される水蒸気の流量は、ライン30を通って導入される水蒸気の流量よりも大きい。代替の実施態様においては、水蒸気はすべてライン30経由で導入されてもよい。
【0068】
別の代替の実施態様においては、小滴は、そして好ましくは水蒸気も、回収容器V8の中の水の表面より下に導入される。再び、それらの物質を導入するために、二流体ノズルを使用することができる。
【0069】
溶媒蒸気とともに水蒸気も含む混合蒸気流れ22は、回収容器V8を出る。混合蒸気流れ22の中に含まれる溶媒は、好ましくは、前述のとおり、プロセスへリサイクルされる。混合蒸気流れ22は、連行されたごく小さな重合体粒子を含んでいるかもしれないが、それはその流れから取り除かれ、好ましくは回収されるべきである。図に示されるように、混合蒸気流れ22は粒子スクラバーV9に移され、そこでごく小さな重合体粒子は、スクラバーの内部を適切に循環している熱水で洗い落とされる。スクラバー水は水蒸気または溶媒のいずれの凝縮をも防ぐのに十分なだけ熱くなければならない。スクラバー水を加熱する好ましい方法は、直接注入される水蒸気によるものであり、その水蒸気は都合のよいいかなる位置から注入してもよい。循環するスクラバー水の中に固体が蓄積するのを防ぐために、循環する(重合体粒子を含む)スクラバー水の一部は粒子スクラバーV9からライン28を通って抜き出される。循環するスクラバー水の減損を防ぐために、追加の水がライン35を通って粒子スクラバーV9へ導入される。ライン35を通って粒子スクラバーV9に加えられる水の流量は、ライン28を通って抜き出される水の流量とほぼ等しくなければならない。ライン35を通って導入される水は、好ましくは、プロセスの別の部分からリサイクルされる。図示されるように、その水は、重合体回収装置V10からリサイクルされた洗浄水である。その後、洗浄された蒸気は、ライン29経由で凝縮器V6に移される。図示されるように、ライン28経由で粒子スクラバーV9から抜き出された水(連行された臭素化された重合体粒子を含む。)は、ライン36を通って回収容器V8へリサイクルされる。
【0070】
溶媒と水蒸気は凝縮器V6で凝縮され、そして生じた水/溶媒混合物はライン20経由で分離器V7に移され、そこで水と溶媒が相分離される。分離器V7はデカンターであってもよいし他の2つの液相を分離のための装置であってもよい。その後、溶媒相はライン11を通ってリサイクルされる。図示されるように、リサイクルされる溶媒の一部はライン11b経由で第二の抽出塔V4にリサイクルされ、そしてリサイクルされる溶媒の別の一部はライン11a経由で溶解槽V2にリサイクルされる。リサイクルされる溶媒の少なくとも一部は、第二の抽出塔V4にリサイクルされることが好ましい。水相はライン21およびライン36を通って回収容器V8にリサイクルされる。便宜のために、ライン21およびライン36中のリサイクルされる水相は回収容器V8に入る前にライン28の中で希薄な水スラリーと混合されてもよい。
【0071】
第二の抽出塔V4において生成された水性ラフィネート流れはイオン性不純物を含み、その性質は、流れ14の中に導入された特定の還元剤および緩衝剤に依存する。チオ硫酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムが使用される場合は、副生成物は臭化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムになるであろう。臭化物を回収するためにそれをさらに処理する前にまたは処分する前に、水性ラフィネート流れからいかなる残留溶媒も取り除くことが好ましい。
【0072】
図に示される実施態様においては、水性ラフィネート流れは、第二の抽出塔V4からライン19を通って抜き出され、ストリッパー塔V11において残留溶媒が取り除かれる。好ましいストリッピング法は水蒸気ストリッピングである。図示されるように、水蒸気はライン32経由でストリッパー塔V11に供給される。ストリッパー塔V11からの蒸気は、好ましくは、凝縮され、回収され、リサイクルされる。図示されるように、ストリッパー塔V11からの蒸気はライン34を通って凝縮器V6に送られる。もし望むならば、ライン34およびライン29の中身は、凝縮器V6へ導入される前に混合してもよい。また、ライン34およびライン29の各々のために別個の凝縮装置を使用することも可能である。同様に、ライン34およびライン29から回収された、結果として生じた液相を分離するために、(図示されたように)単一のデカンターV7を使用してもよいし、別個のデカンターを設けてもよい。イオン性不純物を含む廃液流れ33はストリッパー塔V11から抜き出され、プロセスから取り除かれる。
【0073】
水中の臭素化されたブタジエン重合体粒子のスラリーは、回収容器V8からライン24を通って抜き出される。水と臭素化されたブタジエン重合体粒子は重合体回収装置V10において分離される。重合体回収装置V10は、濾過器、遠心分離機などのような任意の適切な固液分離装置を含む。重合体回収装置V10から回収された水の大部分は、ライン15bを通って回収容器V8に、および/またはライン15aを通って第三の抽出塔V13に、直接リサイクルされてもよい。固体の重合体粒子から不純物を洗い落とすために、追加の水がライン31を通って重合体回収装置V10に加えられてもよい。種々の上流の工程において必要とされるリサイクル水の量が利用可能なリサイクル水の量を超える場合、リサイクル水を補うまたは置き換えるために、新しい水を直接加えることができる。回収された臭素化されたブタジエン重合体は、(たとえばライン25を通って)重合体回収装置V10から抜き出され、さらに、たとえば乾燥、圧縮および包装することによって、処理することができる。
【0074】
図は、本方法の好ましい実施態様を図式的に説明することのみを意図している。それは種々の好ましい特徴またはオプションの特徴を含む。図は、示された種々の構成要素の特定の設計を含む、特定の工学的特徴または詳細を示すようには意図されていない。さらに、種々の弁、ポンプ、加熱および冷却装置、分析および/または制御装置などのような補助装置は示されていないが、必要に応じてまたは所望により、もちろん使用することができる。
【0075】
本方法は、前に述べたものまたは図に示されたもの以外の特徴を含んでもよい。たとえば、本方法は、蓄積する不純物を工程から取り除く方法として、種々のパージ流れをとるための手段を含んでもよい。系からパージされた量を補充するために、新しい薬剤または溶媒を加えてもよい。
【0076】
本方法のもう一つのオプションであるが好ましい工程は、プロセス中の臭素化されたブタジエン重合体への種々の添加物の導入である。添加物を添加する好都合な場所は、図において第三の抽出容器V13からライン27経由で抜き出された、洗浄された臭素化されたブタジエン重合体溶液またはスラリーの中である。液体であるかまたは溶媒中に可溶の添加物は、容易に、プロセス中のこの点において臭素化されたブタジエン重合体に添加される。添加物の導入のためにライン27に混合容器を介在させてもよい。このように添加することができる添加物の例としては、難燃剤添加物、難燃剤相乗剤、熱安定剤、紫外線安定剤、核剤、酸化防止剤、発泡剤、酸掃去剤および着色剤が挙げられる。
【0077】
臭素化されたブタジエン重合体は、様々な有機重合体用の難燃剤添加物として有用である。興味のある有機重合体としては、ビニル芳香族またはアルケニル芳香族重合体(アルケニル芳香族単独重合体、アルケニル芳香族共重合体、または1種以上のアルケニル芳香族単独重合体および/またはアルケニル芳香族共重合体のブレンドを含む。)、ならびに臭素化された共重合体がその中に可溶であるかまたは分散して大きさが25μm未満、好ましくは10μm未満のドメインを形成することができる他の有機重合体が挙げられる。好ましくは、ブレンドの質量を基準として0.1質量%〜25質量%の範囲内の臭素含有量を有する混合物を提供するために十分な量の臭素化されたブタジエン重合体がブレンドの中に存在する。
【0078】
臭素化されたブタジエン重合体のブレンドは、他の難燃剤添加物、難燃剤相乗剤、熱安定剤、紫外線安定剤、核剤、酸化防止剤、発泡剤、酸掃去剤および着色剤のような他の添加物を含んでもよい。
【0079】
次の実施例は本発明を説明するために提供されるが、本発明の範囲を限定するものではない。部およびパーセントは、別段の明示がない限り、すべて質量基準である。
【実施例】
【0080】
比較運転A
ジブロモメタン100mLの中に一臭化テトラプロピルアンモニウム17.2g(0.065モル)を溶かした溶液に、臭素3mL(0.059モル)を前もって混合し、対応する三臭化物の溶液を形成する。ジブロモメタン100mLの中に60質量%のブタジエンを含むスチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体5g(0.056モル)を溶かした溶液を、三臭化物溶液と混合し、生じた混合物を8つのパートに分ける。各混合物を密閉容器の中で撹拌しながら100℃に加熱する。混合物を種々の時間に取り出し、それらの中身を過剰のイソプロピルアルコールと振り混ぜることによって急冷し、重合体を沈殿させる。固体を濾過し、イソプロピルアルコールで洗浄し、空気乾燥する。重合したブタジエン単位の二重結合の転化率を測定するために、乾燥試料をプロトンNMRによって分析する。この運転についての時間に対する転化率%を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1のデータは、臭素化剤として三臭化第四級アンモニウムを使用したときは、一旦ブタジエン二重結合の転化率が約75%に達すると、臭素化反応がどれくらい劇的に遅くなるかを実証する。96%以上の転化率を達成するためには、延長された反応時間が必要である。
【0083】
実施例1
一臭化テトラプロピルアンモニウム(16.4g、0.062モル)および塩化メチレン400mLを、臭素(2.8mL、0.055モル)と混合し、三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液を生成する。比較運転Aで使用した同一のポリスチレン−ポリブタジエン−スチレントリブロック共重合体(10部、60%(0.111モル)のポリブタジエン)の一部を、オーバーヘッド撹拌機および還流冷却器を装備した1L丸底フラスコの中の三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液に加える。混合物を加熱し、2時間還流(40℃)する。加熱を止め、水400mLを加え、混合物を15分間撹拌する。有機相を回収し、200mLの水で2度洗浄する。これは無色の有機相を生成する。出発原料重合体中のブタジエン単位の約50%が臭素化された。
【0084】
その有機相を、その後、塩化メチレン30mLに臭素3.4mLを溶かした溶液と、約23℃で1時間混合する。その溶液を、硫酸水素ナトリウム水溶液300mLで洗浄し、その後、300mLの水で2度洗浄する。その後、有機相を、ロータリーエバポレーターでその体積を約50%に減らし、約300mLの乳白色の溶液を得る。乳白色の溶液を700mLのイソプロパノールに滴下して加え、重合体を沈殿させる。固体を採取し、新しいイソプロパノールですすぎ、60℃で一晩減圧乾燥する。臭素化された重合体22.4gが回収される。
【0085】
全反応時間は、比較運転Aで使用された反応温度よりもずっと低い反応温度で、3時間である。
【0086】
中性子放射化分析(NAA)による全臭素含有量は61.6±0.9%である。遊離の臭化物はイオンクロマトグラフィー(IC)によれば72ppmである。生成物の5%WLTは210℃である。プロトンNMRによれば、臭素化された重合体は1%の未反応ブタジエン二重結合を含んでいる。重合体に結合した臭素の7.4%は、第三級またはアリルの炭素原子に結合している。
【0087】
実施例2
一臭化テトラプロピルアンモニウム(17.9g、0.067モル)および塩化メチレン400mLを、臭素(2.8mL、0.055モル)と混合し、三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液を生成させる。比較運転Aで使用した同一のポリスチレン−ポリブタジエン−スチレントリブロック共重合体(10g、60%(0.111モル)ポリブタジエン)を、オーバーヘッド撹拌機および還流冷却器を備えた1L丸底フラスコ中の三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液に加える。混合物を加熱し、60分間還流(40℃)する。この後、水400mLを加え、混合物をさらに40分間撹拌、還流する。有機相を回収し、200mLの水で洗浄する。これは無色の有機相を生成する。出発原料重合体中のブタジエン単位の約50%が臭素化された。
【0088】
その後、有機相を、約23℃で1時間、イソプロパノール6.7g(0.111モル)および塩化メチレン30mLに臭素3.4mL(0.066モル)を溶かした溶液と混合する。その後、溶液は、硫酸水素ナトリウム水溶液300mLで洗浄し、その後、200mLの水で2回洗浄する。その後、有機相は、ロータリーエバポレーターで体積が約50%に減らされ、約175mLの乳白色の溶液が得られる。乳白色の溶液は、撹拌中のイソプロパノール700mLに滴下し、重合体を沈殿させる。固形物を集め、新鮮なイソプロパノールですすぎ、60℃で一晩減圧乾燥する。臭素化された重合体23.2gが回収される。
【0089】
全反応時間は、比較運転Aにおいて使用された反応温度よりもはるかに低い反応温度で、3時間よりわずかに長い。
【0090】
この生成物の5%WLTは245℃である。実施例1において得られた5%WLTと比較して、この生成物のはるかに高い5%WLTは、第三級またはアリルの炭素原子に結合した臭素原子の存在がより低い水準(実施例1における7.4%に対して4.4%)であることによると考えられる。第二の臭素化工程におけるイソプロパノールの存在はこの結果に寄与するかもしれない。プロトンNMRによれば、臭素化された重合体は3.1%の未反応ブタジエン二重結合を含んでいる。NAAによる全臭素含有量は61.2±0.9%である。ICによる遊離の臭化物は20ppmである。XRFによる全塩素は82±8ppmである。
【0091】
実施例3
一臭化テトラプロピルアンモニウム(22.0g、0.083モル)および塩化メチレン400mLを、臭素(4.0mL、0.078モル)と混合し、三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液を形成する。比較運転Aにおいて使用したのと同じポリスチレン−ポリブタジエン−スチレントリブロック共重合体(10部、60%(0.111モル)のポリブタジエン)を、オーバーヘッド撹拌機および還流冷却器を装備した1L丸底フラスコの中の三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液に加える。混合物を加熱マントルを使用して加熱し、5時間、還流(40℃)する。加熱マントルを取りはずし、水400mLを加え、混合物を15分間撹拌する。有機相を回収し、200mLの水で2度洗浄する。これは無色の有機相を生成する。出発原料重合体中のブタジエン単位の約70%が臭素化された。
【0092】
その後、有機相は、氷浴中で1時間、塩化メチレン25mLに臭素2.4mL(0.047モル)を溶かした溶液と混合される。氷浴を取りはずし、混合物をさらに15分間撹拌する。その後、溶液を、硫酸水素ナトリウム水溶液300mLで洗浄し、その後、水350mLで洗浄する。その後、有機相は、ロータリーエバポレーターで体積が約50%に減らされ、乳白色の溶液が得られ、それを水で洗浄する。洗浄した溶液を撹拌中のイソプロパノール700mLに滴下し、重合体を沈殿させる。固形物を集め、新鮮なイソプロパノールですすぎ、60℃で一晩、減圧乾燥する。臭素化された重合体23.7gが回収される。
【0093】
NAAによる全臭素含有量は63.5±0.9%である。遊離の臭化物はICによれば14ppmである。生成物の5%WLTは246℃である。プロトンNMRによれば、重合体は2.5%の未反応ブタジエン二重結合を含んでいる。重合体に結合した臭素の2.3%は第三級またはアリルの炭素原子に結合している。XRFによる全塩素は400±40ppmである。
【0094】
実施例4
一臭化テトラプロピルアンモニウム(13.0g、0.049モル)および塩化メチレン200mLを、臭素(2.4mL、0.047モル)と混合し、三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液を形成する。比較運転Aにおいて使用したのと同じポリスチレン−ポリブタジエン−スチレントリブロック共重合体(5g、60%(0.056モル)のポリブタジエン)を、オーバーヘッド撹拌機および還流冷却器を装備した1L丸底フラスコ中の三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液に加える。混合物を23℃で23時間撹拌する。溶液は200mLの水で3回洗浄し、ロータリーエバポレーターで体積を約50%に減らす。出発原料重合体中のブタジエン単位の約84%が臭素化された。
【0095】
その後、有機相を氷浴中で冷やす。塩化メチレン30mLに臭素1.4mL(0.027モル)を溶かした溶液を、15分間かけて加え、その後、混合物をさらに5分間撹拌する。その後、溶液を、硫酸水素ナトリウム水溶液200mLで洗浄し、その後、200mLの水で2回洗浄する。その後、有機相はロータリーエバポレーターで体積を50%減少させ、無色の溶液を得る。その溶液を、撹拌中のイソプロパノール300mLに滴下し、重合体を沈殿させる。固形物を集め、新鮮なイソプロパノールですすぎ、60℃で一晩減圧乾燥する。臭素化された重合体11.0gが回収される。
【0096】
NAAによる全臭素含有量は63.7±0.9%である。遊離の臭化物は装置の検出限界3.9ppm未満である。生成物の5%WLTは263℃である。プロトンNMRによれば、重合体は1.6%の未反応ブタジエン二重結合を含んでいる。重合体に結合した臭素原子の1.7%は第三級またはアリルの炭素原子に結合している。
【0097】
実施例5
一臭化テトラプロピルアンモニウム(32.1g、0.1モル)および塩化メチレン200mLを、臭素(4.0mL、0.078モル)と混合し、三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液を形成する。比較運転Aにおいて使用したのと同じポリスチレン−ポリブタジエン−スチレントリブロック共重合体(5g、60%(0.056モル)のポリブタジエン)を、オーバーヘッド撹拌機および還流冷却器を装備した1L丸底フラスコ中の三臭化テトラプロピルアンモニウム溶液に加える。混合物を23℃で91時間撹拌する。溶液を、200mLの水で2回洗浄し、その後、200mLの硫酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、その後、200mLの水で洗浄する。その後、有機相は、ロータリーエバポレーターで体積が約50%に減らされる。濃縮した有機溶液を、撹拌中のイソプロパノール350mLの中に滴下し、重合体を沈殿させる。固形物を濾過し、新鮮なイソプロパノールで洗浄し、60℃の減圧オーブンの中で一晩乾燥する。乾燥した固形物11.8gが得られる。NAAによる全臭素は62.8±0.9%である。ICによる遊離の臭化物は284ppmである。XRFによる全塩素は790±80ppmである。出発原料重合体中のブタジエン単位の約96%が臭素化された。
【0098】
この部分的に臭素化された重合体4.7gを塩化メチレン100mLに溶かす。強い赤い色が残存するまで、臭素の塩化メチレン溶液を23℃で加え、その後、その混合物をさらに30分間撹拌する。その後、その溶液を、硫酸水素ナトリウム水溶液150mLで洗浄し、その後、150mLの水で2回洗浄する。その溶液を、撹拌中のイソプロパノール300mLに滴下し、重合体を沈殿させる。固形物を集め、新鮮なイソプロパノールですすぎ、60℃で一晩減圧乾燥する。臭素化された重合体3.5gが回収される。
【0099】
NAAによる全臭素含有量は64.0±0.9%である。ICによる遊離の臭化物は25ppmである。XRFによる全塩素は790±80ppmである。生成物の5%WLTは249℃である。プロトンNMRによれば、重合体は0.3%の未反応ブタジエン二重結合を含んでいる。重合体に結合した臭素原子の0.7%は第三級またはアリルの炭素原子に結合している。
【0100】
実施例1〜5のデータを表2に要約して示す。
【0101】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の工程において、不飽和ブタジエン反復単位を含むブタジエン重合体を、少なくとも1種のブタジエン重合体用の溶媒の存在下で、三臭化フェニルトリアルキルアンモニウム、三臭化ベンジルトリアルキルアンモニウムまたは三臭化テトラアルキルアンモニウムと反応させて、ブタジエン反復単位の約50%〜約96%が臭素化された部分的に臭素化されたブタジエン重合体を形成すること、およびその後、第二の工程において、ブタジエン反復単位の96%超が臭素化されるまで、部分的に臭素化されたブタジエン重合体を元素の臭素とさらに反応させることを含む方法。
【請求項2】
ブタジエン重合体のブタジエン単位の60〜90%は、第一の工程において臭素化されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
三臭化フェニルトリアルキルアンモニウム、三臭化ベンジルトリアルキルアンモニウムまたは三臭化テトラアルキルアンモニウムが、三臭化フェニルトリメチルアンモニウム、三臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、三臭化テトラメチルアンモニウム、三臭化テトラエチルアンモニウム、三臭化テトラプロピルアンモニウムまたは三臭化テトラ−n−ブチルアンモニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
出発原料ブタジエン重合体のブタジエン単位の50〜70%が臭素化された後、第一の工程に水を加えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第二の工程に脂肪族アルコールが存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれ1項に記載の方法。
【請求項6】
ブタジエン重合体はブタジエンの単独重合体またはブタジエンとビニル芳香族化合物単量体の共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ブタジエン重合体がスチレンとブタジエンのブロック共重合体であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第一の工程中の温度が0〜90℃であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第一の工程中の温度が40〜80℃であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第二の工程中の温度が0〜40℃であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
元素の臭素1モル当たり0.5〜6モルの脂肪族アルコールが存在する状態で第二の工程が行なわれ、さらに第二の工程中、ブタジエン重合体が溶液中に残存していることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−519992(P2011−519992A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507532(P2011−507532)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/040915
【国際公開番号】WO2009/134628
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ リミティド ライアビリティ カンパニー (1,383)
【Fターム(参考)】