説明

ブチルゴム組成物

【課題】ゴムポリマー中および/または加硫剤に塩素または臭素を含み、ハロゲンフリーの加硫物を与え得るブチルゴム組成物を提供する。
【解決手段】ブチルゴム97〜85重量%およびハロゲン化ブチルゴム3〜15重量%よりなるブチル系ゴム100重量部に対し、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド系縮合体2〜8重量部および亜鉛華3〜25重量部を配合してなるブチルゴム組成物。本発明に係るブチルゴム組成物は、ゴムポリマー中および加硫剤に塩素または臭素を含んでいるものを用いた場合にあっても、IEC61249-2-21で定義されている塩素900ppm以下、臭素900ppm以下、これら両者の合計量が1500ppm以下というハロゲンフリーを達成せしめている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブチルゴム組成物に関する。さらに詳しくは、ハロゲンフリーの加硫物を与え得るブチルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子・電気機器には、塩素、臭素等のハロゲン原子を含む多くの電子部品が使用されており、これらを廃棄するときの燃焼条件によってはダイオキシン等が発生し、環境汚染の原因ともなっている。また、製品を製造する過程においては、ハロゲン原子の含有量によっては、製造設備の劣化といった悪影響が指摘されている。
【0003】
このような背景から、国際規格であるIEC(国際電気標準会議)61249-2-21や米国IPC(電子回路工業協会)4101Bにおいて、また国内においては社団法人日本電子回路工業会(JPCA)において、ハロゲンフリーが定義されており、定義されたハロゲンフリーは塩素900ppm以下、臭素900ppm以下、これら両者の合計量が1500ppm以下とされている。
【0004】
また、電子・電気機器に使用される防振ゴムにおいても、IEC61249-2-21に基づくハロゲンフリー材への移行が求められているが、衝撃吸収性、エネルギー吸収性にすぐれた防振部材として有用なブチルゴムは、ポリマー分子あるいは加硫剤にハロゲンを含有するケースが多く、ハロゲンフリーブチルゴムについてのニーズがみられる。
【0005】
ブチルゴムは、ポリマー分子中に塩素や臭素を含まないレギュラーブチルゴム(0.5〜3重量%程度のイソプレンを共重合させたイソブチレン共重合体;以下単にブチルゴムと称する)と塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムであるハロゲン化ブチルゴムとに大別される。
【0006】
ブチルゴムを用いた場合に選択できる架橋系は、イオウ加硫、サルファードナー(イオウ供与性化合物)加硫、キノイド加硫、樹脂加硫等であるが、電子・電気機器内の金属部品の腐食による導通不良を避けるためにはイオウ加硫、サルファードナー加硫は使えず、キノイド加硫も実用配合上はイオウ加硫促進剤の併用が必要なため使用することができない。一方、ブチルゴムを加硫することができる樹脂、例えば臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体には臭素が含まれており、それだけではハロゲンフリーを達成できない。なお、ゴムポリマー中に塩素または臭素を含まず、過酸化物架橋が可能なポリマーが過去には上市されていたが、現在は市販されていない。
【0007】
一方、ハロゲン化ブチルゴムを用いた場合に選択できる架橋系は、亜鉛華加硫、チウラム加硫、チウラム・チアゾール加硫、チオ尿素加硫、樹脂加硫等であるが、これらいずれの加硫系を選択しても、ゴムポリマー中に塩素あるいは臭素を含むため、それだけではハロゲンフリーを達成できない。
【0008】
なお、酸化亜鉛(亜鉛華)については、ハロゲン化ブチルゴムの架橋物に良好な耐熱性が要求される場合には、酸化亜鉛を架橋剤として用いる金属酸化物架橋が好適であるとされているが、酸化亜鉛が配合されたハロゲン化ブチルゴム組成物はスコーチし易く、貯蔵安定性に劣るばかりではなく、押出加工時や加硫成形時に受ける熱処理によってスコーチして硬くなり、以後の加工が不可能になるとされている(特許文献1)。
【0009】
これらのことから、ブチルゴムの架橋に際して加硫剤としてイオウまたはイオウ供与性化合物を使用しない場合には、ゴムポリマー中か、加硫剤のどちらかに塩素または臭素が必要であるが、実際にはハロゲンフリーブチルゴムは実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−27333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ゴムポリマー中および/または加硫剤に塩素または臭素を含み、ハロゲンフリーの加硫物を与え得るブチルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる本発明の目的は、ブチルゴム97〜85重量%およびハロゲン化ブチルゴム3〜15重量%よりなるブチル系ゴム100重量部に対し、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド系縮合体2〜8重量部および亜鉛華3〜25重量部を配合してなるブチルゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るブチルゴム組成物は、ゴムポリマー中および加硫剤に塩素または臭素を含んでいるものを用いた場合にあっても、IEC61249-2-21で定義されている塩素900ppm以下、臭素900ppm以下、これら両者の合計量が1500ppm以下というハロゲンフリーを達成せしめている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムよりなるブチル系ゴムにおいて、ブチルゴム97〜85重量%、好ましくは95〜90重量%に対し、ハロゲン化ブチルゴムは3〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の割合で用いられる。
【0015】
ハロゲン化ブチルゴム量がこれよりも少ない割合で用いられると、ハロゲン量は所望範囲内であってハロゲンフリーとなるが、加硫速度が遅く、加硫度が低いため、離型が困難であり、実用性に欠けるようになる。この場合、例えば臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体である架橋剤をより多く用い、加硫度を上げると離型性の問題はなくなるが、用いられた架橋剤量の影響を受け、臭素量の点で所望範囲を満足されなくなる。一方、ハロゲン化ブチル量をこれよりも多い割合で用いると、ハロゲン化ブチル由来のハロゲン量が多くなり、ハロゲンフリーとしての所望範囲を満足させなくなる。
【0016】
ここで用いられるハロゲン化ブチルゴムは、ブチルゴム中のイソプレン構造部分、具体的には二重結合および/または二重結合に隣接する炭素原子に塩素または臭素を付加または置換反応させた塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムであり、フェノールホルマリン樹脂、亜鉛華等によって加硫可能である。
【0017】
ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムの所定割合のブレンド物であるブチル系ゴムには、それの100重量部当り2〜8重量部、好ましくは4〜6重量部のアルキル・ホルムアルデヒド系縮合体および3〜25重量部、好ましくは5〜20重量部の亜鉛華(ZnO)が架橋剤として配合されて用いられる。
【0018】
アルキル・ホルムアルデヒド系縮合体としては、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体、臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体等が用いられ、実際には市販品、例えば前者としては田岡化学工業製品Tackirol 201、201MB35(ブチルゴムマスターバッチ)、202等が、また後者としてはTackirol 250-I、250-III等がそのまま用いられる。上記規定された割合以上でアルキル・ホルムアルデヒド系縮合体、特に臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体を架橋剤として用いた場合には、前記した如くハロゲンフリーとしての所望範囲を満足させなくなる。一方、これよりも少ない割合でこの架橋剤を用いると、加硫度が低くなり、離型が困難となる。
【0019】
亜鉛華については、これを架橋剤として併用する場合、これよりも多い割合で亜鉛華を用いると、常態物性の低下がみられ、一方これよりも少ない割合で用いると、加硫速度が遅くなるばかりではなく、受酸剤の役割を果たさなくなり、金型の腐食を招くようになる。
【0020】
以上の各成分を必須成分とする本発明のブチルゴム組成物中には、必要に応じて、ブチルゴムの配合剤として配合されるカーボンブラック、シリカ等の補強剤または充填剤、ステアリン酸等の滑剤、老化防止剤などが配合されて用いられる。
【0021】
ブチルゴム組成物の調製は、2種の架橋剤を除く各成分をニーダ等で混練した後、ニーダ等から排出し、オープンロールを用いて架橋剤を配合することにより行われる。それの加硫は、約160〜200℃で約3〜20分間行われるプレス加硫および必要に応じて行われるオーブン加硫(二次加硫)によって行われ、電子・電気機器用電子部品、例えば防振マウント等が加硫成形される。
【実施例】
【0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
実施例1
塩素化ブチルゴム(エクソンモービル社製品HT10-66) 5重量部
ブチルゴム(JSR製品365) 95 〃
N990カーボンブラック 100 〃
ステアリン酸 1 〃
ZnO架橋剤 15 〃
臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体架橋剤 5 〃
(田岡化学工業製品Tackirol 250-III)
上記各成分の内、2種の架橋剤を除く各成分を3Lニーダで20分間混練した後、ニーダから排出し、10インチオープンロールを用いて架橋剤を配合してブチルゴム組成物を調製した。
【0024】
得られたブチルゴム組成物を180℃で8分間プレス加硫し、さらに120℃で20時間オーブン加硫(二次加硫)を行って、厚さ2mmのシートを得た。このシートについて、次の各項目の評価、測定を行った。
離型性:離型のし易さを評価し、シートが破断せず、冷却後に変形しないものを○
、シートが破断し、または冷却後に変形するものを×と評価した
常態物性:JIS K6253、K6251準拠
ハロゲン量:BS EN 1458に準拠して、塩素量および臭素量を測定
(加熱した石英燃焼管中に酸素を導入して加硫テストピースを燃焼さ
せ、生成した燃焼ガスをNaOH水溶液よりなる吸収液中に吸収し、こ
の吸収液をイオンクロマトグラフにて分別定量した)
【0025】
実施例2
実施例1において、塩素化ブチルゴム量を10重量部に、またブチルゴム量を90重量部にそれぞれ変更した。
【0026】
比較例1
実施例1において、塩素化ブチルゴム量を20重量部に、またブチルゴム量を80重量部にそれぞれ変更した。
【0027】
比較例2
実施例1において、塩素化ブチルゴムを用いず、ブチルゴム量が100重量部に変更された。
【0028】
比較例3
比較例2において、架橋剤量10重量部に変更された。
【0029】
比較例4
比較例2において、架橋剤が用いられなかった。加硫は、行われなかった。
【0030】
比較例5
実施例1において、ブチルゴムおよび架橋剤が用いられず、塩素化ブチルゴム量が100重量部に変更された。
【0031】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、N990カーボンブラック(100重量部)、ステアリン酸(1重量部)およびZnO(15重量部)を除くブチルゴム組成物の配合量(重量部)と共に、次の表に示される。

実施例 比較例

〔ブチルゴム組成物〕
塩素化ブチルゴム 5 10 20 − − 100
ブチルゴム 95 90 80 100 100 −
架橋剤 5 5 5 5 10 −
〔評価・測定結果〕
離型性 ○ ○ ○ × ○ ○
常態物性
硬さ (Duro A)瞬間 60 60 61 61 62 60
引張強さ (MPa) 8.8 9.7 9.2 7.9 8.5 8.2
破断時伸び (%) 510 470 490 600 500 740
ハロゲン量
塩素 (ppm) 295 570 1100 0 0 3980
臭素 (ppm) 590 600 605 580 1100 0
合計量 (ppm) 885 1170 1705 580 1100 3980
【0032】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 各実施例の場合には、離型性からみて加硫速度も速く、ハロゲン量も所望範囲内である。
(2) 比較例1では、塩素量が1100ppmであり、所望範囲(900ppm以下)を満足させない。
(3) 比較例2では、ハロゲン量は所望範囲内であるが、加硫速度が遅く、加硫度が低いため、離型が困難であり、実用的ではない。
(4) 比較例3では、臭素量が1100ppmであり、所望範囲(900ppm以下)を満足させない。
(5) 比較例4では、ブチルゴムの亜鉛華加硫が行われない。
(6) 比較例5では、塩素化ブチルゴムの亜鉛華加硫は行われるが、塩素量が3980ppmとなり、所望範囲を満足させない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム97〜85重量%およびハロゲン化ブチルゴム3〜15重量%よりなるブチル系ゴム100重量部に対し、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド系縮合体2〜8重量部および亜鉛華3〜25重量部を配合してなるブチルゴム組成物。
【請求項2】
電子・電気機器用電子部品の加硫成形に用いられる請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
請求項2記載のフッ素ゴム組成物から加硫成形された電子・電気機器用電子部品。
【請求項4】
塩素が900ppm以下、臭素が900ppm以下で、これら両者の合計量が1500ppm以下である請求項3記載のハロゲンフリー電子・電気機器用電子部品。

【公開番号】特開2012−167158(P2012−167158A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28157(P2011−28157)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】