説明

ブラスト処理用カバー

【課題】 被処理面に対する研掃材の吹き付け方向を自由に設定でき、凹凸のある面のブラスト処理の研磨残し部分を作ることなく、作業性を向上させることができる、ブラスト処理用カバーを提供することである。
【解決手段】 線材によって立体的に構成したフレーム6と、このフレーム6の外周であって、被処理面に対向させる面及び下面以外の面を覆う樹脂フィルムからなるフィルム製カバー7と、フィルム製カバー7に所定の間隔を保って配置し、可撓性を有する素材からなる複数のスリーブ8と、上記フィルム製カバー7の下方に連続的に設け、上記粉塵を吸引する吸引手段を接続するための接続口9aを備えた筒状のダストシュート用カバー9と、フレーム6を被処理面に着脱可能に取り付けるための取り付け手段11とを備え、上記スリーブ8から研掃材の噴射ノズルを挿入して用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に添接部など表面に凹凸がある処理面に対し、ブラスト処理を行なう際に適したブラスト処理用カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、橋脚など鋼製構造物の長寿命化のため、塗装下地の錆や古い塗膜を落とす目的で、ブラスト処理が行なわれている。
ブラスト処理は、処理面に対して空圧で研掃材を吹き付けることによって、表面を研磨するもので、作業中には被処理面から除去された錆や塗膜片と研掃材が粉塵として飛散することになる。
このような粉塵は、作業者の健康被害を与えることになるので、放置することはできず、作業者を粉塵から守るために、様々な工夫がなされているが、大掛かりなものではなく、局所的な処理を行なうときに、研掃材の吹き付けと同時に粉塵を吸引する吸引式のブラスト装置が知られている。
【0003】
このブラスト装置は、図3に示すカップ状の処理ヘッド1を用いるものである。この処理ヘッド1には、風圧で研掃材を供給する研掃材の供給装置を接続した研掃材の供給ホースを接続する供給側接続部2と、粉塵を吸引する吸引装置に接続した吸引ホースを接続する吸引側接続部3とを備えたものである。
このような処理ヘッド1を鋼製の被処理面に押し付けて用いると、研掃材が矢印A方向に噴射されて被処理面を研磨し、この際に発生した粉塵は矢印B方向に吸引排除される。
このような装置では、処理ヘッド1を移動させながら被処理面を処理するようにするが、上記処理ヘッド1内において研掃材の吹き付けと吸引とを同時に行なっているので、発生した粉塵が処理ヘッド1の内側にとどまり、周囲に粉塵が飛散することがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−009215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなブラスト装置を用いる場合、上記処理ヘッド1は、その開口を被処理面に押し付けて用いるため、研掃材の噴射方向が一定になってしまう。
そのため、凹凸がある部分では、研掃材を凹凸の角まで吹き付けることができないことがある。例えば、ナット5などを用いた添接部などでは、ナット5の側面に研掃材を吹き付けることができず、研磨残しができてしまうこともあった。
【0006】
一方で、添接部の錆は、鋼製構造物の寿命にかかわる問題なので、完全に除去しなければならない。
しかし、ナット5の側面などに研掃材を確実に届かせようとして、処理ヘッド1の角度を大きく変えると処理ヘッド1の開口と被処理面4との間に隙間ができてしまい、粉塵漏れが起こってしまう。
そこで、上記の吸引式のブラスト装置を用いて、上記添接部の側面や凸部の陰になってしまうような部分を研磨するためには、上記処理ヘッド1の位置を微妙に変えたり、粉塵漏れが大きくならない程度に被処理面4に対する処理ヘッド1の接触角度を変えたりしながら、研掃材が満遍なく届くようにしなければならなかった。そのため、凹凸がある被処理面を処理する際の作業性が悪いという問題があった。
【0007】
この発明の目的は、被処理面に対する研掃材の吹き付け方向を自由に設定でき、凹凸のある面のブラスト処理の研磨残し部分を作ることなく、作業性を向上させることができる、ブラスト処理用カバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、研掃材を噴射して被処理面を研磨するブラスト処理を行なう際に発生する、研磨カスや研掃材などの粉塵を被処理部とともに覆うブラスト処理用カバーであって、線材によって立体的に構成したフレームと、このフレーム外周であって、被処理面に対向させる面及び下面以外の面を覆う樹脂フィルムからなるフィルム製カバーと、このフィルム製カバーに所定の間隔を保って配置し、可撓性を有する素材からなる複数のスリーブと、上記フィルム製カバーの下方に連続的に設け、上記粉塵を吸引する吸引手段を接続するための接続口を備えた筒状のダストシュート用カバーと、上記フレームを被処理面に着脱可能に取り付けるための取り付け手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、上記ダストシュート用カバーが通気性を有する素材で形成されたことを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、上記フィルム製カバーが透明であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1〜第3の発明によれば、鋼製の構造物のブラスト処理を行なう際に発生する粉塵をカバーしながら、研掃材の噴射方向や噴射位置を簡単に変えることができる。そのため、添接部などの凹凸を有する部分にも、満遍なく研掃材を衝突させて、研磨残しができない研磨処理が作業性良くできる。
また、樹脂フィルム製のカバーは安価であり、取替えが容易である。
【0012】
第2の発明によれば、カバー内への気体の供給量よりも吸引量が多くなったときに、外気を吸い込むことができるため、ダストシュート用カバーがつぶれて吸引ができなくなってしまうことがない。
第3の発明によれば、被処理面に取り付けたカバーのスリーブから研掃材の噴射ノズルを挿入して用いる場合、外から被処理面が見えるので、研掃材の噴射方向を決め易く、効率的な処理ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施形態の斜視図である。
【図2】実施形態におけるブラスト処理用カバーの使用状況を示した側面図である。
【図3】従来のブラスト処理に用いる処理ヘッドの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1、図2を用いてこの発明の一実施形態を説明する。
図1に示すこの実施形態のブラスト処理用カバーは、ステンレス製の線材によって半円筒状に形成されたフレーム6に、透明の樹脂フィルムからなるフィルム製カバー7を被せている。このフィルム製カバー7は上記フレーム6で形成される半円筒の上底面と、円弧状の側面とに沿って設けられるが、平面状の側面と下底面はフィルム製カバー7で覆っていない。
【0015】
上記フィルム製カバー7には、所定の間隔に6個の開口7aを形成するとともに、これら開口7aのそれぞれにはスリーブ8を設けている。これらのスリーブ8は、上記フィルム製カバー7と同じ素材からなり、未使用状態ではフィルム製カバー7と反対側の端部8aを閉鎖している。この実施形態では、上記樹脂製フィルムがこの発明の可撓性を有する素材である。
【0016】
また、上記フィルム製カバー7の下方には、ロート状にするとともに、下端に吸引用ホースを接続する接続口9aを備えた、通気性を有するダストシュート用カバーである布製カバー9を取り付けている。この布製カバー9は、上記フィルム製カバー7の下端付近に、フィルム製カバー7とフレーム6の下端とを覆うようにして取り付けられ、この布製カバー9の上部外周9bを図示しない紐部材によって引き締めてこれがフレーム6から脱落しないようにしている。
但し、布製カバー9の上部をフレーム6に紐部材などで取り付けてから、フィルム製カバー7を外側に設けるようにしてもよい。
なお、上記布製カバー9を形成する布は通気性を備えているが、ブラスト処理によって発生する粉塵は通過させることがない大きさの目を備えたものである。
【0017】
また、上記フィルム製カバー7および布製カバー9は、作業者が容易に取り付けたり、付け替えたりできるものである。
上記のように、上記フレーム6は、その上底面および円弧状の側面をフィルム製カバー7で覆われ、下底面を布製カバーで覆われることになるが、フレーム6においてフィルム製カバー7と対向する長方形の側面側は開口7aとなる。この開口7a側の面が、被処理面に対向させる面である。
【0018】
さらに、上記フレーム6において上記開口7aを囲む部分には、外方に向かって突出させた4つの連結部材10を設け、各連結部材10には永久磁石11を設けている。この永久磁石11を鋼製の被処理面4に貼り付けることによって、上記開口7aを被処理面4に対向させてこの実施形態のカバーを取り付けることができるようにしている。つまり、この実施形態では、上記永久磁石11がこの発明の取り付け手段であるが、取り付け手段は磁石に限らない。例えば、吸盤や、粘着部材などでもよい。但し、被処理面は鋼材なので、磁石が必ず着くし、着脱が容易であるうえ、耐久性においても他の取り付け手段より磁石が優位である。
【0019】
次に、この実施形態のブラスト処理用カバーの使用方法を説明する。
まず、上記開口7a内に処理対象箇所を含むようにして、鋼製の被処理面4にブラスト処理用カバーを上記永久磁石11によって貼り付ける。
そして、布製カバー9の接続口9aには、吸引手段に接続した吸引ホース12を取り付ける。
また、上記カバー内であってブラスト処理をしたい箇所、例えば、図2のナット5の取り付け位置に近いスリーブ8の先端8aを、図1に示す一点鎖線Lのようにカットし、このスリーブ8を開通させる。スリーブ8が開通したら、このスリーブ8内に、研掃材の噴射ノズル13を挿入する。
この噴射ノズル13は、研掃材の供給装置に接続した供給ホースに取り付けたものである。
【0020】
上記のように、布製カバー9に吸引ホース12を接続するとともに、特定のスリーブに噴射ノズル13を挿入したら、吸引ホース12に接続した吸引装置及び研掃材の供給装置を駆動する。
このように吸引装置及び供給装置を駆動すると、噴射ノズル13から研掃材が噴射されるとともに、フレーム6の下方に設けた布製カバー9を介して研磨カスや研掃材などの粉塵が吸引排出される。
【0021】
そして、このカバーの上記スリーブ8は、樹脂製フィルムで形成され柔軟性を備えているので、スリーブ8に挿入した上記噴射ノズル13は、開口7aを中心にして様々な方向に動かすことができる。
従って、噴射ノズル13の先端13aの向きを自由に変えることができ、上記ナット5の側面や、細かい隙間に対しても、研掃材を衝突させることができる。そのため、添接部など凹凸がある被処理面を確実に研磨することができる。
【0022】
なお、上記6個のスリーブ8のうち、どのスリーブ8を利用するかは、被処理面4上の凹凸箇所など、処理の目的に応じて決めることができる。また、特定のスリーブ8から噴射ノズル13を挿入して処理を行なった後に、別のスリーブ8を利用してさらにブラスト処理を続けることもできる。そして、端部8aをカットして一旦開通させたスリーブ8は、それを使用せず、他のスリーブ8を使用するときには、端部8a側を折り曲げてクリップで挟むなどして閉鎖すれば、この実施形態のブラスト処理用カバーを繰り返し使用できる。
また、上記スリーブ8は、複数設けることによって、研掃材の噴射方向だけでなく、噴射位置の変更が容易にできるようになるが、各スリーブ8の位置や数は、この実施形態のものに限定されない。
【0023】
上記実施形態では、ダストシュート用カバーとして布製カバー9を用いているが、ダストシュート用カバーの素材は布にかぎらない。
但し、ダストシュート用カバーを、布など通気性を備えた素材で形成することによって次のようなメリットがある。
例えば、研掃材を噴射するための供給装置からの風量に対して吸引装置による吸引量の方が大きくなったときに、ダストシュート用カバーに通気性がなければ、ダストシュート用カバーが、内側や吸引ホース12の取り付け口9a側に吸い込まれてしまう。そのために、ダストシュート用カバーがつぶれてしまうとカバー内部の吸引がスムーズにできなくなり、粉塵を吸引排出することもできなくなってしまうことがあるが、布製カバー9の布目を通して外気を吸い込むことができれば、そのような問題は起こらない。
【0024】
さらに、上記実施形態のカバーは、フレーム6を線材で形成し、樹脂のフィルム製カバー7で覆っているので、全体を軽量化できて取り扱いも容易である。
また、上記実施形態では、フィルム製カバー7を透明な樹脂フィルムで形成しているが、フィルム製カバー7は必ずしも透明でなくてもよい。但し、上記のように、フィルム製カバー7を透明にすれば、フレーム6を被処理面4に取り付けたとき、カバー内が見えるので研掃材の噴射方向を決め易いというメリットがある。
【符号の説明】
【0025】
6 フレーム
7 フィルム製カバー
7a 開口
8 スリーブ
9 布製カバー
9a 接続口
11 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研掃材を噴射して被処理面を研磨するブラスト処理を行なう際に発生する、研磨カスや研掃材などの粉塵を被処理部とともに覆うブラスト処理用カバーであって、線材によって立体的に構成したフレームと、このフレーム外周であって、被処理面に対向させる面及び下面以外の面を覆う樹脂フィルムからなるフィルム製カバーと、このフィルム製カバーに所定の間隔を保って配置し、可撓性を有する素材からなる複数のスリーブと、上記フィルム製カバーの下方に連続的に設け、上記粉塵を吸引する吸引手段を接続するための接続口を備えた筒状のダストシュート用カバーと、上記フレームを被処理面に着脱可能に取り付けるための取り付け手段とを備えたブラスト処理用カバー。
【請求項2】
上記ダストシュート用カバーが通気性を有する素材で形成された請求項1に記載のブラスト処理用カバー。
【請求項3】
上記フィルム製カバーが透明である請求項1または2に記載のブラスト処理用カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−206858(P2011−206858A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74428(P2010−74428)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000206934)株式会社マルテー大塚 (26)
【出願人】(598009795)株式会社千葉技工 (1)
【出願人】(500303940)株式会社 小川テック (14)