説明

ブラックインク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】 得られる画像の耐湿性が高く、好ましいブラックの色調を有するブラックインクを提供すること。
【解決手段】 第1の水溶性染料、及び第2の水溶性染料を含有するブラックインクであって、前記第1の水溶性染料がポリアゾ化合物であり、前記第2の水溶性染料がモノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種であり、前記インクが更に、炭素数が6以上、かつ、ヒドロキシ基数が5以上である糖化合物を含有することを特徴とするブラックインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブラックインク、かかるインクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法において、色材として染料を含有するインクを使用した場合に、得られた画像を高湿条件下に放置すると画質が低下する、即ち、画像の耐湿性が低いという課題がある。これは、高湿条件下に放置した場合に、記録媒体中に残存する水溶性有機溶剤が吸湿し、色材と共に記録媒体内部を移動することによって発生するものである。この課題は、湿度変化による色調の変化が視認されやすい、モノクロの画像を形成した際に、特に顕著に発生する。これを改善するために、耐湿性の高い構造を有する染料を含有するインクが検討されている(特許文献1)。特許文献1には、特定の構造のポリアゾ染料を含有するブラックインクが開示されている。また、インクに使用する染料の構造だけでなく、用いる水溶性有機溶剤にも着目して、耐湿性を改善する方法も検討されている(特許文献2)。特許文献2には、特定の色材と吸湿性が低く蒸発しやすい水溶性有機溶剤を含有するインクが開示されている。
【0003】
一方、モノクロの画像の画質を向上するために、好ましいブラックの色調を有するインクが求められている。これを達成するために、ブラック染料とともに、他の色相の染料を用いることで、調色する方法が検討されている(特許文献3〜5)。特許文献3〜5は何れも、特定のブラック染料と特定の調色染料の組合せを開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−002271号公報
【特許文献2】特開2006−045542号公報
【特許文献3】特公平8−026263号公報
【特許文献4】特開2005−154546号公報
【特許文献5】特開2006−225558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、上記のような従来のブラックインクを用いた場合は、画像の耐湿性の改善とニュートラルな色調を共に達成することが難しかった。具体的には、特許文献1及び2に記載の発明は、耐湿性は改善するものの、優れたブラックの色調が得られなかった。尚、本発明において、優れたブラックの色調とは、「ニュートラルに近いブラックの色調」であり、これは画像が可視光の波長域(本発明においては、400nm乃至780nmの波長域とする)において、フラットに近い吸収を示すこと、即ち、吸収スペクトルが特定の吸収ピークを有さないことを意味する。
【0006】
また、特許文献3〜5に記載の発明は、耐湿性については検討を行っておらず、本発明者らが検討をしたところ、何れも耐湿性は低いものであった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、得られる画像の耐湿性が高く、好ましいブラックの色調を有するブラックインクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記本発明のインクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかるブラックインクは、第1の水溶性染料、及び第2の水溶性染料を含有し、前記第1の水溶性染料がポリアゾ化合物であり、前記第2の水溶性染料がモノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種であり、前記インクが更に、炭素数が6以上、かつ、ヒドロキシ基数が5以上である糖化合物を含有することを
特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、得られる画像の耐湿性が高く、好ましいブラックの色調を有するブラックインクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明のブラックインクは、第1の水溶性染料、及び第2の水溶性染料を含有し、前記第1の水溶性染料がポリアゾ化合物であり、前記第2の水溶性染料がモノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種であり、前記インクが更に、炭素数が6以上、かつ、ヒドロキシ基数が5以上である糖化合物を含有することを特徴とする。尚、本明細書の記載において、C.I.とは、カラーインデックスの略語である。
【0011】
本発明者らが検討したところ、色材として染料を使用した場合に、耐湿性が得られないメカニズムは以下の通りである。まず、記録媒体内部に存在する水溶性有機化合物が大気中の水分を吸収し、この水分を吸収した水溶性有機化合物に染料が溶解する。そして、染料が溶解した水溶性有機化合物が記録媒体を移動することで、画質が低下するものである。本発明者らが、以上のメカニズムを元に検討を行ったところ、画像の耐湿性を改善するためには、記録媒体での移動度が小さい水溶性有機化合物を用いることが重要であるとの知見を得た。更に、前記記録媒体での移動度が小さい水溶性有機化合物と親和性の高い染料を選択することで、染料が水溶性有機化合物と共に記録媒体を移動することが抑制され、吸湿による画質の低下が生じにくくなることを見出した。
【0012】
そして、本発明者らが、上述した耐湿性の改善のための知見、及び、優れたブラックの色調が得られる染料の組合せの観点から、種々の染料及び水溶性有機化合物の組合せについて検討を行った結果、本発明の構成に至ったものである。即ち、水溶性染料として、ポリアゾ化合物、並びに、モノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種を用い、水溶性有機化合物として、炭素数が6以上、かつ、ヒドロキシ基数が5以上である糖化合物を含有するインクを用いることで、上記本発明の効果が達成される。このような効果が得られる理由について、以下に詳述する。
【0013】
まず本発明者らが、種々の水溶性有機化合物について検討を行ったところ、糖化合物を用いると良好な結果が得られた。そこで、更に、種々の糖化合物について、検討を行ったところ、「炭素数が6以上、かつ、ヒドロキシ基数が5以上である糖化合物」(以下、「特定の糖化合物」とする)を用いるときに本発明の効果が得られることが分かった。前記特定の糖化合物は、吸湿性が高く、蒸発しにくい化合物であり、記録媒体中において、水分を吸収した状態で存在しやすい。そのため、水溶性染料であるポリアゾ化合物、並びに、モノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種との親和性が更に高くなる。更に、前記特定の糖化合物の各分子は、それぞれのヒドロキシ基において、水分子と水素結合を形成するため、複数の分子が水分子を介した集合体として記録媒体中に存在することになる。この集合体は、ある程度の大きさを有するため、記録媒体での移動度が非常に小さい。以上より、記録媒体において、前記特定の糖化合物は、親和性の高い水溶性染料と共に記録媒体中で移動しないで留まることができ、その結果、得られる画像の耐湿性が著しく向上するものと考えられる。尚、特許文献2のような従来技術では、耐湿性を改善するために、吸湿性が低く蒸発しやすい水溶性有機化合物を用いている。これは、耐湿性の低下の原因が水溶性有機化合物であるという事実のみに着目したためである。このような従来の知見に対し、本発明者らは、水溶性有機化合物の性質だけでなく、色材と水溶性有機化合物の親和性及び水溶性有機化合物の記録媒体内部での挙動にも着目して検討を行った結果、従来の知見とは反対である、吸湿性が高く蒸発しにくい化合物である前記特定の糖化合物を使用する、という本発明の構成に至ったものである。
【0014】
尚、前記特定の糖化合物の炭素数及びヒドロキシ基数(炭素数が6以上かつヒドロキシ基数が5以上)は、上述の通り、種々の水溶性有機化合物、特に、種々の糖化合物について、本発明者らが検討を重ねたことにより得られたものである。即ち、炭素数が5以下の糖化合物や、ヒドロキシ基数が4以下の糖化合物を用いた場合には、上記本発明の効果が得られなかった。これは、炭素数は分子の集合体の大きさに寄与することから、炭素数が5以下の場合は、記録媒体中で移動しないで留まるのに十分な分子の集合体の大きさにならなかったためである。一方、ヒドロキシ基の数は水分子との水素結合に寄与することから、ヒドロキシ基数が4以下の場合は、前記分子の集合体が水分子を取り込めず十分な分子の集合体の大きさにならなかったため、又は、水溶性染料との親和性が十分でなかったためである。
【0015】
以上のメカニズムのように、各構成が相乗的に効果を及ぼし合うことによって、本発明の効果を達成することが可能となる。
【0016】
[ブラックインク]
以下、本発明のインクを構成する各成分について、それぞれ説明する。また、上述の通り、本発明における優れたブラックの色調とは、「よりニュートラルに近いブラックの色調」であり、画像が可視光の波長域において、フラットに近い吸収を示すこと、即ち、吸収スペクトルが特定の吸収ピークを有さないことを意味する。尚、吸収スペクトルが特定の吸収ピークを有さなければ、吸光度の大小には関係なく「よりニュートラルに近いブラックの色調」と判断できる。したがって、インクの色としては、吸光度が高い濃ブラックのみでなく、吸光度が低い淡ブラック、即ち、グレーも含む。
【0017】
より具体的には、インクを用いて記録された記録デューティが100%のベタ画像について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL表示系におけるa及びbを測定したときに、a及びbが共に0に近い値を示すブラックであることが求められる。後述する実施例では、ブラックインクのベタ画像と、色見本帳であるFORMULA GUIDES/solid coated(Pantone製)に収載されている色サンプルの中で、最も本発明における優れたブラックの色調に近い色サンプルであるProcess Black Cを目視で比較することにより評価を行った。
【0018】
<水溶性染料>
本発明のインクは水溶性染料として、ポリアゾ化合物、並びに、モノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する。インクに使用可能なものであれば、公知の染料でも、新規に合成された染料でも使用することができる。
【0019】
(ポリアゾ化合物)
本発明において、ポリアゾ化合物とは、1分子当たりにアゾ骨格を3つ以上有する化合物を意味する。ポリアゾ化合物としては、ブラック系の色調を有する染料が好ましい。具体的には、C.I.ダイレクトブラック19、22、32、38、74、168などが挙げられる。更に、一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
(一般式(1)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0022】
【化2】

【0023】
(一般式(2)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
これらの中でも、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0024】
(ジスアゾ化合物)
本発明において、ジスアゾ化合物とは、1分子当たりにアゾ骨格を2つ有する化合物を意味する。ジスアゾ化合物としては、イエロー〜オレンジ〜レッド系の色調を有する染料が好ましい。具体的には、C.I.ダイレクトイエロー12、33、44、50、86、132;C.I.ダイレクトレッド2、4、23、24、46、75、83;C.I.アシッドレッド89、114、115、134、145;C.I.ダイレクトオレンジ26、29、102などが挙げられる。これらの中でも、C.I.ダイレクトイエロー86及びC.I.ダイレクトイエロー132から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0025】
(モノアゾ化合物)
本発明において、モノアゾ化合物とは、1分子当たりにアゾ骨格を1つ有する化合物を意味する。ジスアゾ化合物としては、イエロー〜オレンジ〜レッド系の色調を有する染料が好ましい。具体的には、C.I.ダイレクトイエロー8、27、28;C.I.アシッドイエロー11、17、25、29;C.I.フードイエロー3;C.I.アシッドレッド6、8、13、14、26、32、35、42、106、249、265などが挙げられる。更に、一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化3】

【0027】
(一般式(3)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0028】
これらの中でも、C.I.フードイエロー3及び下記一般式(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種用いることが好ましい。
【0029】
本発明においては、モノアゾ化合物及びジスアゾ化合物を両方含有することが、優れたブラックの色調を得るためにはより好ましい。
【0030】
(染料の含有量)
本発明のインクに用いる染料は、ニュートラルに近いブラックの色調を有するように、それぞれの含有量を決定することが好ましい。本発明のインクに用いる染料の合計の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。更には、5.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。染料の合計の含有量が、0.1質量%より小さいと、グレーインクとして画像濃度が十分に得られない場合がある。また、5.0質量%より小さいと、ブラックインクとして画像濃度が十分に得られない場合がある。15.0質量%より大きいと、インクジェット方式で吐出した際に耐固着性などが十分に得られない場合がある。
【0031】
また、インク全質量を基準としたポリアゾ化合物の含有量(質量%)、及び、モノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)は、それぞれ0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0032】
更に、インク全質量を基準としたポリアゾ化合物の含有量(質量%)が、モノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)に対して、0.5倍以上であることが好ましい。0.5倍より小さい場合は、十分な画像濃度が得られない場合がある。尚、本発明においては、質量比率を算出する際の成分の含有量は、インク全質量を基準としたものである。
【0033】
また、上記の特定の骨格を有する各染料の他に、上記の特定の骨格を有さない染料(以下、「その他の染料」とする)を更に含有してもよい。その場合は、インクに使用する染料の総量を基準として、前記その他の染料の含有量(質量%)が10.0質量%以下であることが好ましい。
【0034】
<糖化合物>
本発明のインクは、炭素数が6以上、かつ、ヒドロキシ基数が5以上である糖化合物を含有する。本発明において、使用することができる糖化合物としては、単糖類及びその脱水縮合物、糖アルコールが挙げられる。ここで、単糖類の脱水縮合物とは、「単糖類2分子以上が脱水縮合により、グリコシド結合した化合物」を意味する。また、糖アルコールとは、「単糖類又は単糖類の脱水縮合物のアルデヒド基およびケトン基を還元した化合物」を意味する。糖化合物は立体異性体を有するものが多く存在するが、D体でもL体でもよい。
【0035】
本発明のインクに用いることができる糖化合物は、具体的には以下の通りである。例えば、単糖類としては、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、セドヘプツロース、コリオース、フルクトフラノース、アロピラノース、アルトロピラノース、グルコピラノース、マンノピラノース、グロピラノース、イドピラノース、ガラクトピラノース、タロピラノースなどが挙げられる。単糖類の脱水縮合物としては、例えば、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラクトース、ツラノース、ソホロース、トレハロース、イソトレハロース、スクロース、イソサッカロースなどが挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトール、ボレミトール、ペルセイトール、マルチトールなどが挙げられる。これらの糖化合物は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。本発明においては、これらの中でも、ソルビトール、ガラクトース及びトレハロースから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0036】
本発明のインクに用いる糖化合物は、炭素数が12以上であることが好ましい。また、ヒドロキシ基数が8以上であることが好ましい。本発明者らの検討によると、炭素数が12以上、かつ、ヒドロキシ基数が8以上である糖化合物を用いた場合、耐湿性がより向上することを確認した。したがって、上記例示した糖化合物の中でも、トレハロースを用いることがより好ましい。また、炭素数は20以下、ヒドロキシ基数が15以下であることが好ましい。
【0037】
本発明のインクに用いる糖化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上であることが好ましい。更には、20.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の糖化合物の含有量(質量%)が、染料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.5倍以上20.0倍以下であることが好ましい。
【0038】
<水性媒体>
本発明のインクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。更には、10.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、インクに一般的に用いられているものを何れも用いることができる。例えば、アルコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0039】
<その他の添加剤>
本発明のインクは、上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、本発明のインクは必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0040】
[その他のインク]
また、フルカラーの画像などを記録するために、本発明のインクを、本発明のインクとは別の色調を有するインクと組み合わせて用いることができる。本発明のインクは、例えば、その他のブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、レッドインク、グリーンインク、及びブルーインクなどから選ばれる少なくともいずれか1種のインクと共に用いることが好ましい。また、これらのインクと実質的に同じ色調を有する、所謂淡インクをさらに組み合わせて用いることもできる。これらのインク又は淡インクの色材は、公知の染料であっても、新規に合成された色材であっても用いることができる。
【0041】
[インクカートリッジ]
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を有し、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。又は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。更には、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0042】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方式で吐出する工程を有するインクジェット記録方法であって、上記で説明した本発明のインクを使用するものである。本発明においては特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェット記録方法が好ましい。尚、本発明における「記録」とは、インク受容層を有する記録媒体や普通紙などの記録媒体に対して本発明のインクを用いて記録する態様、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非浸透性の記録媒体に対して本発明のインクを用いてプリントを行う態様を含む。
【0043】
[記録媒体]
本発明で使用することができる記録媒体としては、インク受容層を有する記録媒体や普通紙などの浸透性の記録媒体や、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非浸透性の記録媒体が挙げられる。中でも、インク受容層を有するものが好ましく、光沢ないしは半光沢の性状を有する表面を持つものがより好ましい。具体的には、支持体の少なくとも一方の面に、シリカ、アルミナ又はその水和物などの顔料を主体とし、必要に応じてバインダやカチオン性ポリマーなどの添加剤を含んで構成されるインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体は、顔料粒子で構成される多孔質構造の空隙によりインクを吸収するものであり、形成した画像が高品位なものとなるため好適である。支持体としては、前記インク受容層を形成することが可能であって、かつ、インクジェット記録装置の搬送機構によって搬送可能な剛度を与えるものが好ましく、例えば、パルプや填料を含んで構成される紙などが挙げられる。また、支持体の少なくとも一方の面にポリオレフィンなどの樹脂層を設け、更にその上にインク受容層が形成されている記録媒体であってもよい。更に、支持体の両面にインク受容層を有する記録媒体を用いることもできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。尚、明細書及び表中の略称は以下の通りである。
FY3:C.I.フードイエロー3
DY132:C.I.ダイレクトイエロー132
DY86:C.I.ダイレクトイエロー86
【0045】
<インクの調製>
表1に示す染料及び糖化合物を、下記各成分と混合した。尚、イオン交換水の残部は、インクを構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
・水溶性染料 表1参照
・糖化合物 表1参照
・エチレングリコール 表1参照
・ジエチレングリコール 7.0質量%
・アセチレノールE100(界面活性剤:川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・イオン交換水 残部
【0046】
これを十分撹拌した後、ポアサイズ0.20μmのフィルターにて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。尚、一般式(1)、一般式(2)で表される化合物は何れもNa塩であった。また、一般式(3)で表される化合物はLi塩であった。
【0047】
【表1】

【0048】
<評価>
下記の各評価は、インクジェット記録装置PIXUS iP8600(キヤノン製)を用いて行った。記録条件は、温度:23℃、相対湿度:55%、記録密度:2,400dpi×1,200dpi、1滴あたりの吐出量:2.5pLとした。本実施例においては、上記インクジェット記録装置を用いて、解像度600dpi×600dpiで1/600インチ×1/600インチの単位領域に2.5pLの体積のインクを8滴付与する条件を、記録デューティが100%であると定義するものである。
【0049】
(ブラックの色調)
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、上記インクジェット記録装置に装着した。そして、記録媒体GL−101(キヤノン製)に、記録デューティが100%の画像を記録し、温度:23℃、相対湿度:55%の環境で24時間乾燥させた。そして、得られた画像と、色見本帳であるFORMULA GUIDES/solid coated(Pantone製)に収載されている色サンプル名 Process Black C(以下、「標準画像」とする)を目視で比較し、その色調を評価した。ブラック色調の評価基準は下記の通りである。尚、下記の評価基準において、Aが好ましいレベルとし、Bは許容できないレベルとした。評価結果を表2に示す。
A:標準画像と同等の色調であった
B:標準画像と色調に若干の違いはあったが、ほぼ同等であった
C:標準画像と色調が異なっていた。
【0050】
(画像の耐湿性)
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、上記インクジェット記録装置に装着した。そして、記録媒体SG−201(キヤノン製)に、1mm×1mmの記録部(記録デューティが100%の記録部)と1mm×1mmの非記録部を交互に配した市松模様の画像(30mm×30mm)を、それぞれのインクについて2つずつ記録した。そして、一方の画像(画像1)を、温度:23℃、相対湿度:55%の環境で48時間放置した。もう一方の画像(画像2)は、温度:23℃、相対湿度:55%の環境で48時間放置した後、更に、温度:30℃、相対湿度:80%の環境で72時間放置した。通常の湿度条件下に放置された画像1と比較したときに、高湿条件下に放置された画像2に滲みが発生するかを目視で観察し、画像の耐湿性を評価した。画像の耐湿性の評価基準は下記の通りである。尚、下記の評価基準において、AA〜Bが好ましいレベルとし、Cは許容できないレベルとした。評価結果を表2に示す。
AA:画像1と比較して、画像2には滲みがなかった
A:画像1と比較して、画像2にはほとんど滲みがなかった
B:画像1と比較して、画像2には滲みがみられたが、許容できるレベルであった
C:画像1と比較して、画像2には明らかな滲みがみられた。
【0051】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の水溶性染料、及び第2の水溶性染料を含有するブラックインクであって、
前記第1の水溶性染料がポリアゾ化合物であり、前記第2の水溶性染料がモノアゾ化合物及びジスアゾ化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記インクが更に、炭素数が6以上、かつ、ヒドロキシ基数が5以上である糖化合物を含有することを特徴とするブラックインク。
【請求項2】
前記ポリアゾ化合物が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載のブラックインク。
【化1】


(一般式(1)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【化2】


(一般式(2)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項3】
前記モノアゾ化合物が、C.I.フードイエロー3及び下記一般式(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載のブラックインク。
【化3】


(一般式(3)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項4】
前記ジスアゾ化合物が、C.I.ダイレクトイエロー86及びC.I.ダイレクトイエロー132から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載のブラックインク。
【請求項5】
前記糖化合物が、ソルビトール、ガラクトース及びトレハロースから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1乃至4の何れか1項に記載のブラックインク。
【請求項6】
インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジであって、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至5の何れか1項に記載のブラックインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項7】
インクをインクジェット方式で吐出する工程を有するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至5の何れか1項に記載のブラックインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。


【公開番号】特開2012−251071(P2012−251071A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124586(P2011−124586)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】