説明

ブレーキ操作入力装置

【課題】ブレーキ操作の初期だけでなく操作ストロークが増加したときにも良好な操作フィーリングが得られ、しかも安価なブレーキ操作入力装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ操作部材2と、このブレーキ操作部材2に連結されてそのブレーキ操作部材の操作力に応じたストロークを付与する第1のストロークシミュレータ3とを備えるブレーキ操作入力装置1に、支点2aからブレーキ操作部材2に対するストロークシミュレータ連結点までの間の距離を変化させる距離調整機構5を設けた。また、その距離調整機構5は、ブレーキ操作部材2のストロークが所定のストロークになったときにブレーキ操作部材2に実質的に連結される第2のストロークシミュレータ4を設けて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキ操作に応じた電気信号を発生させ、その電気信号に基づいて液圧アクチュエータや電動アクチュエータを制御して制動力を発生させる、所謂バイワイヤー方式の車両用ブレーキシステムに採用するのに適したブレーキ操作入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイワイヤー方式のブレーキシステムにおいて、運転者がブレーキペダルの踏み応えにもの足りなさを感じないようにするために、下記特許文献1は、バネ定数の異なる2種類のコイルスプリング(円錐型スプリングと円筒型スプリング)を組み合わせたブレーキ操作入力装置を備えるブレーキ制御装置を提案している。
【0003】
そのブレーキ制御装置のブレーキ操作入力装置は、ブレーキペダルのストロークが設定値未満のときには円錐型スプリングのバネ力のみが反力としてブレーキペダルに作用し、一方、ブレーキペダルのストロークが設定値を超えたときには2つのスプリングのバネ力が加算されてブレーキペダルに反力として作用するように構成しており、ブレーキ操作の初期には操作力の変化に対して操作ストロークが大きく変化する所謂ストローク感のある操作フィーリングが得られ、また、ブレーキペダルのストロークが設定値を超えたときには操作力の変化に対して操作ストロークの変化が小さい所謂剛性感のある操作フィーリングが得られるようになっている。そのような操作フィーリングが良好な操作フィーリングと言われる。
【0004】
しかしながら、特許文献1の上記の構造で、ブレーキペダルのストロークが設定値を超えたときに好ましいとされる剛性感のある操作フィーリングが得られるようにするためには、ブレーキペダルのストロークが設定値を超えた後に圧縮される円筒型スプリングを、バネ定数の大きなものにする必要があり、そのようなスプリングは一般的に線径が太くて高価であるため、ブレーキ操作入力装置のコストを上昇させる。
【0005】
また、そのブレーキ操作入力装置は、操作フィーリングがスプリングの特性のみで決定されて一定し、変更の自由度がないため、運転者の好みに応じた操作フィーリングにすることが望まれてもその要求に応えることができない。
【特許文献1】特開平09−254778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、ブレーキ操作の初期は勿論、操作ストロークが増加したときにも良好な操作フィーリングが得られ、しかも安価なブレーキ操作入力装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、この発明においては、ブレーキ操作に応じて支点を中心に回転運動してストロークするブレーキ操作部材と、このブレーキ操作部材に連結点で連結されて前記ブレーキ操作部材の操作力に応じたストロークを前記ブレーキ操作部材に付与するストロークシミュレータとを備えるブレーキ操作入力装置に、前記支点と前記連結点との間の距離を変化可能となす距離調整機構を設けた。
【0008】
この発明のブレーキ操作入力装置の好ましい態様を以下に列挙する。
(1)前記距離調整機構が、前記ブレーキ操作部材のストロークの増加に応じて前記支点から前記連結点までの距離を増大させるようにしたもの。
(2)前記ストロークシミュレータを複数備え、その複数のストロークシミュレータの前記ブレーキ操作部材に対する連結時期を異ならせて前記距離調整機構を構成し、前記ブレーキ操作部材のストロークの増加に応じて前記ストロークシミュレータの連結数が増加して前記支点と前記連結点との間の距離が増大するようにしたもの。
(3)前記ストロークシミュレータが、前記ブレーキ操作部材のストロークの増加に応じて弾性変形するゴムからなる弾性部材を有し、その弾性部材の弾性変形により前記ブレーキ操作部材に対する前記弾性部材の連結領域が拡大して前記支点と前記連結点との間の距離が増大するようにしたもの。
(4)前記連結点を可動とし、かつ、その可動とした連結点を変位させる駆動機構を設けて前記距離調整機構を構成し、前記駆動機構を電気的に制御して前記支点と前記連結点との間の距離を変化させられるようにしたもの。
【発明の効果】
【0009】
この発明では、ブレーキ操作力とブレーキ操作ストロークの比の変化を、ブレーキ操作部材の回転運動の支点とブレーキ操作部材に対するストロークシミュレータ連結点との間の距離の変化によって起こさせる。従って、バネ定数の大きい高価なスプリングを必要とせず、コストを削減した安価なブレーキ操作入力装置を実現して提供することができる。
【0010】
また、前記支点と連結点との間の距離を変化させると操作フィーリングが変化するので、ブレーキ操作の初期にはストローク感があり、一方、ブレーキ操作ストロークが所定ストロークを超えたときには剛性感のある良好な操作フィーリングを得ることができる。また、前記支点と前記連結点との間の距離調整を電気的に制御される駆動機構を用いて行うようにしたものは、前記の距離の調整が自由に行えるので、運転者の好みや状況に応じた良好な操作フィーリングを得ることも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を添付図面の図1乃至図7に基づいて説明する。図1は、第1実施形態のブレーキ操作入力装置1を示している。この図1のブレーキ操作入力装置1は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)2と、第1のストロークシミュレータ3及び第2のストロークシミュレータ4と、この発明を特徴づける距離調整機構5とで構成されている。
【0012】
ブレーキ操作部材2は、支点2aを有し、入力点2bに操作力が加えられると支点2aを中心に回転運動してストロークする。
【0013】
第1のストロークシミュレータ3は、円筒状の第1バネ座3aと、その第1バネ座3a内にスライド自在に挿入した第2バネ座3bと、第1バネ座3aと第2バネ座3bとの間に配置したコイルスプリング3cと、第2バネ座3bと一体の連結ロッド3dと、第2バネ座3bを第1バネ座3aの筒内に保持するストッパ3eとで構成されている。この第1のストロークシミュレータ3は、第1バネ座3aがピン6で固定部に、連結ロッド3dがピン7でブレーキ操作部材2の第1の連結点にそれぞれ連結される。
【0014】
第2のストロークシミュレータ4も、第1のストロークシミュレータ3と同様、円筒状の第1バネ座4aと、その第1バネ座4a内にスライド自在に挿入した第2バネ座4bと、第1バネ座4aと第2バネ座4bとの間に配置したコイルスプリング4cと、第2バネ座4bと一体の連結ロッド4dと、第2バネ座4bを第1バネ座4aの筒内に保持するストッパ4eとで構成され、第1バネ座4aがピン8で固定部に、連結ロッド4dがピン9でブレーキ操作部材2の第2の連結点にそれぞれ連結される。なお、連結ロッド4dは、連結ロッド3dよりも支点2aからの距離が大となる位置においてブレーキ操作部材2に連結される。また、この連結ロッド4dは、ブレーキ操作部材2に対して遊びisをつけて連結されている。
【0015】
このように構成した第1実施形態のブレーキ操作入力装置1は、ブレーキ操作部材2のストロークが所定ストロークに達するまでは操作に対する反力(以下単に反力と言う)が第1のストロークシミュレータ3からブレーキ操作部材2に加えられる。また、ブレーキ操作部材2のストロークが所定ストロークを超えると連結ロッド4dとピン9との間の遊びisが吸収されて第2のストロークシミュレータ4がブレーキ操作部材2に実質的に連結され、この第2のストロークシミュレータ4からもブレーキ操作部材2に反力が加えられる。また、ブレーキ操作部材2に対して第2のストロークシミュレータ4が実質的に連結されると、支点2aからストロークシミュレータ連結点までの距離が第1のストロークシミュレータ3のみが連結されている場合に比べて大きくなり、そのために、ブレーキ操作力の変化に対する操作ストロークの変化(これをF−S特性と言う)が小さくなり、F−S特性が図5に示すようなものになる。従って、第2のストロークシミュレータ4のコイルスプリング4cをバネ定数の大きな高価なものにしなくても、ブレーキ操作部材2のストロークが所定ストロークを超えたときに剛性感のある操作フィーリングを得ることができ、良好な操作フィーリングを安価なブレーキ操作入力装置で実現することが可能になる。
【0016】
なお、第1、第2のストロークシミュレータのコイルスプリング3c、4cは、バネ定数が同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。コストの削減効果が損なわれない範囲でコイルスプリング4cのバネ定数をコイルスプリング3cのバネ定数よりも大きくすることができ、それによって、ブレーキ操作部材2のストロークが所定ストロークを超えたときのブレーキ操作力の変化に対する操作ストロークの変化をより小さくして操作フィーリングの剛性感をより一層高めることができる。
【0017】
図2及び図3に、第2実施形態のブレーキ操作入力装置を示す。このブレーキ操作入力装置11は、回転運動の支点12aを有するブレーキ操作部材(これもブレーキペダル)12と、ゴムからなる弾性部材13aを備えたストロークシミュレータ13を組み合わせて構成されている。14はカバーで、必要に応じて設置される。ブレーキ操作部材12の回転の支点12aは運転者の側に配置されている。また、弾性部材13aを支点12aに近い側を盛り上げた形状にしてブレーキ操作部材12の裏側に配置し、この弾性部材13aを距離調整機構15としても機能させるようにしている。
【0018】
この第2実施形態のブレーキ操作入力装置11は、ブレーキ操作部材12の操作ストロークの増加に伴って弾性部材13aの弾性変形量が増加し、ブレーキ操作部材12に対する弾性部材13aの連結領域が図3に示すように次第に拡大して支点12aからブレーキ操作部材12に対する弾性部材13aの連結点までの距離が大きくなる。これによってF−S特性が図6に示すようなものになり、ゴムからなる弾性部材13aをバネ定数の大きなもの、即ち、大きな荷重に耐える断面積の大きな高価なものにしなくても、ブレーキ操作部材12のストロークの増加に応じて徐々に剛性感が高まる良好な操作フィーリングを安価に得ることができる。
【0019】
図4は、第3実施形態のブレーキ操作入力装置である。この第3実施形態のブレーキ操作入力装置21は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)22と、1組のストロークシミュレータ23と、距離調整機構25と、電子制御装置(ECU)26と、ブレーキ操作部材22のストロークを検出するストロークセンサ27と、ブレーキ操作部材22に加えられた操作力を検出する踏力センサ28と、ブレーキ操作入力装置21のF−S特性を切り替える切り替えスイッチ29とで構成されている。ブレーキ操作部材22は、図1のブレーキ操作部材2と同じものであり、入力点22bに操作力が加えられると支点22aを中心に回転運動してストロークする。
【0020】
ストロークシミュレータ23も、図1のストロークシミュレータ3と同一構造である。円筒状の第1バネ座23aと、その第1バネ座23a内にスライド自在に挿入した第2バネ座23bと、第1バネ座23aと第2バネ座23bとの間に配置したコイルスプリング23cと、第2バネ座23bと一体の連結ロッド23dと、第2バネ座23bを第1バネ座23aの筒内に保持するストッパ23eとで構成されている。
【0021】
この第3実施形態のブレーキ操作入力装置21は、ストロークシミュレータ23の第1バネ座23aがピン30で固定部に連結され、連結ロッド23dは、ピン31で距離調整機構25の可動部材25aに連結される。
【0022】
距離調整機構25は、ブレーキ操作部材22にスライド自在に取り付けた可動部材25aと、動力源のモータ25bと、このモータ25bからの駆動力を可動部材25aに伝える動力伝達要素(図のそれはラック・ピニオン)25cとで構成されている。連結ロッド23dは前記可動部材25aを介してブレーキ操作部材22に間接的に連結されており、可動部材25aの移動によって支点22aから可動部材25aに対する連結ロッド23dの連結点までの距離が変化する。
【0023】
この図4の第3実施形態のブレーキ操作入力装置21は、ブレーキ操作部材22のストロークが所定ストロークを超えたときに、モータ25bを駆動してブレーキ操作部材22の回転の支点22aと可動部材25aに対する連結ロッド23dの連結点との間の距離が増大するように制御することにより、図7の実線で示すF−S特性を得ることができる。また、運転者の好みに応じてF−S特性を切り替えることもできる。切り替えスイッチ29を操作してモータ25bを駆動して支点22aから可動部材25aに対する連結ロッド23dの連結点までの距離を変化させるストローク(前記所定のストローク)を変化させると操作力と操作ストロークの比の変化が起こり始めるときのストロークが変化する。従って、運転者が好むなら、図7に一点鎖線で示すようなストロークの長い特性にすることができる。また、ブレーキ操作部材の操作速度が速い、所謂急ブレーキがかけられたときには、図7に二点鎖線で示すストロークの短い特性とすることにより、短いストロークで高い制動力を発生させることができる。なお、急ブレーキがかけられたことはストロークセンサ27からの信号に基づいて電子制御装置26が判断し、ここからモータ25bに指令を流して支点22aと可動部材25aに対する連結ロッド23dの連結点との距離を増大させF−S特性をストロークの短い特性に切り替える。また、このときの制動力は、踏力センサ28の出力に応じて制御すればよく、その制御も電子制御装置26からの指令によって行う。なお、切り替えスイッチ29の操作によりブレーキ操作部材22が操作される前にモータ25bを駆動して支点22aから可動部材25aに対する連結ロッド23dの連結点までの距離を変化させるようにすれば、ブレーキ操作部材22がストロークを開始するときのブレーキ操作力を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態のブレーキ操作入力装置の概要を示す部分破断側面図
【図2】第2実施形態のブレーキ操作入力装置の概要を示す部分破断側面図
【図3】第2実施形態のブレーキ操作入力装置の作動状態の概要を示す部分破断側面図
【図4】第3実施形態のブレーキ操作入力装置の概要を示す部分破断側面図
【図5】第1実施形態のブレーキ操作入力装置のF−S特性を示す図
【図6】第2実施形態のブレーキ操作入力装置のF−S特性を示す図
【図7】第3実施形態のブレーキ操作入力装置のF−S特性を示す図
【符号の説明】
【0025】
1、11、21 ブレーキ操作入力装置
2、12、22 ブレーキ操作部材
2a、12a、22a 支点
2b、22b 入力点
3 第1のストロークシミュレータ
4 第2のストロークシミュレータ
6〜9、30、31 ピン
13、23 ストロークシミュレータ
5、15、25 距離調整機構
3a、4a、23a 第1バネ座
3b、4b、23b 第2バネ座
3c、4c、23c コイルスプリング
3d、4d、23d 連結ロッド
3e、4e、23e ストッパ
13a 弾性部材
14 カバー
25a 可動部材
25b モータ
25c 動力伝達要素
26 電子制御装置
27 ストロークセンサ
28 踏力センサ
29 切り替えスイッチ
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じて支点を中心に回転運動してストロークするブレーキ操作部材と、このブレーキ操作部材に連結点で連結されて前記ブレーキ操作部材の操作力に応じたストロークを前記ブレーキ操作部材に付与するストロークシミュレータとを備えるブレーキ操作入力装置において、前記支点と前記連結点との間の距離を変化可能となす距離調整機構を設けたことを特徴とするブレーキ操作入力装置。
【請求項2】
前記距離調整機構が、前記ブレーキ操作部材のストロークの増加に応じて前記支点から前記連結点までの距離を増大させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ操作入力装置。
【請求項3】
前記ストロークシミュレータを複数備え、その複数のストロークシミュレータの前記ブレーキ操作部材に対する連結時期を異ならせて前記距離調整機構を構成し、前記ブレーキ操作部材のストロークの増加に応じて前記ストロークシミュレータの連結数が増加して前記支点と前記連結点との間の距離が増大するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のブレーキ操作入力装置。
【請求項4】
前記ストロークシミュレータが、前記ブレーキ操作部材のストロークの増加に応じて弾性変形するゴムからなる弾性部材を有し、その弾性部材の弾性変形により前記ブレーキ操作部材に対する前記弾性部材の連結領域が拡大して前記支点と前記連結点との間の距離が増大するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のブレーキ操作入力装置。
【請求項5】
前記連結点を可動とし、かつ、その可動とした連結点を変位させる駆動機構を設けて前記距離調整機構を構成し、前記駆動機構を電気的に制御して前記支点と前記連結点との間の距離を変化させられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ操作入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−264569(P2006−264569A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87576(P2005−87576)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)