説明

ブーム装置

【課題】サイドブームの格納状態と使用状態との間での移動を手動操作で行う場合に、操作力を低減し、サイドブームがストッパに接触して停止する際の衝撃を緩和する。
【解決手段】サイドブーム4と連動して回転するベルクランク12とベルクランク12に連結されてベルクランク12を回転駆動するプッシュプルワイヤ15とを備える。ベルクランク12の回転を規制するか付勢する引張バネ16を備える。サイドブーム4は格納位置と使用位置との間を回転移動する。サイドブーム4を格納位置もしくは使用位置から移動開始する際に、引張バネ16がベルクランク12を移動方向に向かって付勢し、移動に必要な操作力を低減する。サイドブーム4が格納位置もしくは使用位置まで移動して停止する際に、引張バネ16がベルクランク12を移動方向の反対方向に向かって付勢し、停止時のサイドブーム4の移動速度を遅くして、停止時の衝撃を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームスプレーヤ等の薬剤散布装置に用いられるブーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農地に薬剤(薬液)を散布する薬剤散布装置として、例えば、ブームスプレーヤが知られている。ブームスプレーヤは、例えばトラクタ等の農地を走行可能な走行装置に取り付けられるもので、薬液を貯留する薬剤タンクと、左右に水平に配置された棒状の支持体であるブームと、当該ブームに支持されるとともにブームの長さ方向に沿って等間隔に薬剤を吐出する複数のノズルを備えたノズルパイプ(薬剤散布部材)と、当該ノズルパイプを介してノズルに薬液タンク内の薬液を送出するポンプとを備えたものである。なお、走行装置を含めてブームスプレーヤ(例えば、自走式ブームスプレーヤ)と称してもよいし、走行装置を除く部分をブームスプレーヤ(例えば、搭載式ブームスプレーヤや車載式ブームスプレーヤ)と称してもよい。
【0003】
前記ブームは、一般的に走行装置から左右にそれぞれ延出する一対のサイドブームと、一対のサイドブームの間に配置されるセンタブームとを備えている。
そして、左右のサイドブームはそれぞれ、薬剤散布をしていない状態で走行装置を走行させる際に、邪魔にならないように格納可能となっている(例えば、特許文献1または特許文献2を参照)。
【0004】
センタブームは、走行装置の前、または後で、走行装置の進行方向(直進方向)に対して直交する方向に配置される。そして、サイドブームは、薬剤を散布する状態では、センタブームの左右両端部からそれぞれ、センタブームの軸方向に沿って左もしくは右に延出した状態となる。
一方、サイドブームが格納状態では、センタブームの左右端部でサイドブームの基端部を回転中心としてサイドブームが回転することにより、センタブームに対してサイドブームが略直角となる。
【0005】
また、この際には、サイドブームが走行装置の側面に沿った状態、すなわち、走行装置の進行方向に沿った状態で、かつ、サイドブームのセンタブーム側となる基端に対して先端が高くなるように斜めとすることで、走行装置の側面に沿った前後長さを短くするとともに、サイドブームの先端位置が高くなりすぎないようにしている。
【0006】
また、前記特許文献1および特許文献2では、上述のようなサイドブームの使用状態と格納状態との移動を電動シリンダ等のアクチュエータで行っているが、手動で行うことも可能であり、この場合には、例えばサイドブームを使用状態と格納状態との間で開閉するブーム開閉装置と運転席側の操作装置との間をワイヤやロッドで接続し、動力なしに人の力で作動させるように操作することになる。
【0007】
なお、前記特許文献1および特許文献2では、サイドブームの使用状態と格納状態との間の移動において、格納状態で斜め上方を向くサイドブームに当該サイドブームの荷重により下向きの大きなトルクが作用することから、例えば、コイルスプリング等のバネにより、サイドブームを格納状態側に引き上げるように付勢することで、サイドブームを使用状態から格納状態に移動する際の回転駆動力の低減を図っている。
【0008】
【特許文献1】特開平4−316444号公報
【特許文献2】特開2000−271516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、手動で操作する場合に、サイドブームを格納状態から使用状態に切り換えるために、格納状態で静止しているサイドブームを動かし始める際に、静止した状態で回転モーメントが作用していないため大きな力が必要となる。すなわち、サイドブームを格納状態から使用状態とする際に初動負荷が大きく操作性が悪い。
【0010】
また、サイドブームが格納状態から使用状態に回転移動開始した後には、サイドブームの先端が上から下に回転移動することになり、サイドブームは重力により使用状態への移動が加速されることになる。この際に、手動で回転速度をコントロールすることが困難となる。これにより、サイドブームが使用位置に近づいた際に回転移動速度が速くなり過ぎてしまう可能性がある。
【0011】
また、サイドブームは、格納状態および使用状態において、それぞれ別のストッパに当接した状態で位置決めされている。
すなわち、格納状態から使用状態へ移動した際には、使用状態側のストッパにサイドブームが当接して移動を停止し、使用状態から格納状態へ移動した際には、格納状態側のストッパにサイドブームが当接して移動を停止する。
【0012】
ここで、格納状態から使用状態への移動においては、上述のようにサイドブームの回転速度が速くなりすぎる可能性があり、この場合にサイドブームが使用状態側のストッパに接触する際に、ストッパやサイドブームに、サイドブームの回転速度に対応する衝撃が作用することになるので、これらストッパやサイドブームを強固な構造とする必要があり、コスト増大の要因となる。
【0013】
また、サイドブームを使用状態から格納状態に移動開始させる際には、格納状態から使用状態に移動開始する際と同様に初動負荷が大きくなるが、使用状態からの移動においては、サイドブームの先端を上昇させるように移動させることから重力によりさらに大きな力を必要とすることになり、操作性がさらに悪くなる。なお、従来例で示したようにサイドブームを使用状態側から格納状態側に付勢するバネを設けることで、使用状態から格納状態への移動に必要とする力を低減できるが、この場合には、上述のようにサイドブームを格納状態から使用状態に移動させる際の初動負荷に前記バネの付勢力も加わることになる。これにより、前記バネを用いることで、使用状態から格納状態への移動の操作性は改善されるが、格納状態から使用状態への操作性が悪化してしまう。
【0014】
また、サイドブームを使用状態から格納状態に移動させる際に、上述の重力による回転モーメントが格納状態に近くなると小さくなり、ほぼ同じ速度で移動させるために必要な力が減少するのに対応して、操作者がサイドブームの操作を早くしてしまう可能性がある。これにより、慣性力と合わせてサイドブームが格納状態に近づいた際にサイドブームの移動速度が速くなってしまう。この場合に、サイドブームが格納状態側のストッパに接触する際に、ストッパやサイドブームに、サイドブームの回転速度に対応する衝撃が作用することになるので、これらストッパやサイドブームを強固な構造とする必要があり、コスト増大の要因となる。
【0015】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、サイドブームの格納状態と使用状態との間での移動を手動操作で行う場合に、必要な操作力を低減することができるとともに、格納状態側もしくは使用状態側でサイドブームがストッパに接触して停止する際の衝撃を緩和することができるブーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のブーム装置は、走行装置(2)から薬剤を散布する際に用いられ、当該走行装置(2)の左右少なくとも一方に、薬剤を散布させるノズル(9)をその長手方向に沿って複数設置されるサイドブーム(4,5)が、先端を前記走行装置(2)の左右に向けて延出する使用位置と、前記走行装置(2)の側面に略沿う格納位置との間で移動可能に設けられるブーム装置(7)において、
前記サイドブーム(4,5)は、その基端部に設けられた回転中心(G)を中心として前記使用位置と前記格納位置との間で回転移動自在に前記走行装置(2)に設けられ、
前記走行装置(2)に固定される支持部材(17)に一端部が接続され、
前記サイドブーム(4,5)または前記回転中心(G)を中心として前記サイドブーム(4,5)と共に回転する回転部材(12)に他端部が接続された引張バネ(16)が設けられ、
前記サイドブーム(4,5)が前記使用位置と前記格納位置との間で回転移動する際に、前記回転中心(G)を中心とする円弧状となる前記引張バネ(16)の他端部の移動軌跡(E)が、前記引張バネ(16)の一端部に向かって凸となり、かつ、当該移動奇跡(E)は前記回転中心(G)と前記引張バネ(16)の一端部を結ぶ直線上を通過することを特徴とする。
【0017】
請求項1に記載の発明においては、サイドブームを例えば格納位置から使用位置に回転移動すると、引張バネの他端部がサイドブームの回転に伴なって、サイドブームの回転中心と、引張バネの一端部との間を通って円弧状に移動することになる。この際に、引張バネの他端部の移動軌跡が引張バネの固定された一端部に向かって凸となる円弧状となっているので、サイドブームが格納位置と使用位置との間で移動した際に、引張バネの一端部から他端部までの長さが最も短くなるのは、サイドブームが使用位置でも格納位置でもなく、使用位置と格納位置との間となっている状態である。
これにより、サイドブームが使用位置およびその近傍に位置する際と、サイドブームが格納位置およびその近傍に位置する際には、引張バネは、最も短い状態よりも長く引き伸ばされた状態となり最も短い状態より大きな付勢力が作用することになる。
そして、サイドブームが使用位置に近づくと、引張バネの付勢力が、サイドブームを使用位置から格納位置側に向かうように作用し、サイドブームが格納位置に近づくと、引張バネの付勢力がサイドブームを格納位置から使用位置に向かうように作用することになる。
したがって、格納位置にあるサイドブームを使用位置側に向かって回転移動開始する際には、引張バネの付勢力が格納位置から使用位置側に向かって作用しているので、操作開始時の初動負荷が引張バネの付勢力により軽減され、移動開始時の操作に必要な力が小さくてすみ、操作性が良くなる。
【0018】
また、格納位置から使用位置側に向かって回転移動開始した後にサイドブームが使用位置に近づくと、引張バネの付勢力が使用位置から格納位置側に向かって作用するので、サイドブームの回転移動速度が重力により格納位置から使用位置側に加速されるのを防止し、サイドブームの回転移動速度が速くなりすぎるのを防止できる。また、サイドブームが例えば使用位置側のストッパに接触して停止する際の衝撃を緩和することができる。これにより、サイドブームやストッパの強度を適切なものとした場合のコストを低減することができる。
同様に使用位置にあるサイドブームを格納位置側に向かって回転移動開始する際には、引張バネの付勢力が使用位置から格納位置側に向かって作用しているので、静止しているサイドブームを持ち上げるように回転移動させる操作において、操作に必要な力を軽減することができ、操作性を向上することができる。
また、サイドブームが格納位置に近づいた際には、引張バネの付勢力が格納位置から使用位置側に向かって作用するので、サイドブームの格納位置側に向かう回転速度を遅くして、例えば、格納位置側のストッパにサイドブームが接触して停止する際の衝撃を低減することができる。この場合もコストの低減を図ることができる。
【0019】
また、請求項2に記載のブーム装置は、請求項1に記載の発明において、前記サイドブーム(4,5)の前記回転中心(G)を中心として回転自在な前記回転部材(12)と、当該回転部材(12)に連結されて当該回転部材(12)を回転駆動するためのプッシュプルワイヤ(15)と、当該回転部材(12)と前記サイドブーム(4,5)とを連動して回転させる連動用バネ(18)を備え、
前記連動用バネ(18)の一端部が前記サイドブーム(4,5)に接続され、かつ、当該連動用バネ(18)の他端部が前記回転部材(12)に接続されていることを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載の発明においては、プッシュブルワイヤを操作することで、回転部材を回転させることができる。そして、回転部材を回転させると、例えば、連動用バネの一端部が移動することになり、これにより連動用バネの他端部が引っ張られてサイドブームが回転部材と連動して回転することになる。
【0021】
そして、回転部材に連動してサイドブームを回転させる際に、上述の引張バネの他端部が回転部材に接続されているので、回転部材に上述のように付勢力が作用し、間接的にサイドブームに付勢力が作用することになり、請求項1に記載の作用効果と同様の作用効果を奏することができる。また、サイドブームが障害物に接触したような場合に、連動用バネの付勢力に抗してサイドブームが回転可能となっているので、衝撃を吸収することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、サイドブームを手動で操作する際に、基本的に一つの引張バネの作用により、サイドブームの格納位置における移動開始および移動停止の際と、使用位置における移動開始および移動停止の際とにそれぞれ、操作性の向上と衝撃の緩和を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るブーム装置を備えた自走式ブームスプレーヤを示す斜視図であり、図2から図4はブーム装置を示す要部平面図である。なお、図2および図4がセンタブームに対してサイドブームが略直角に曲がった状態を示し、図3および図5がセンタブームに対してサイドブームが略直線状となった状態を示している。
【0024】
図1に示すように、ブームスプレーヤ1は、薬剤を貯留する薬剤タンクや薬剤タンク内の薬剤(薬液)を噴霧するためのポンプ等を備えるとともに自走可能な走行装置2と、走行装置2の前面側の下部に左右方向に延在して配置されたセンタブーム3と、センタブーム3の走行装置2の進行方向左側(走行装置2に搭乗する操作者から見て左側で、以降左側と記載する)に配置された左サイドブーム4と、センタブーム3の前記進行方向右側(前記操作者から見て右側で、以降右側と記載する)配置された右サイドブーム5とを備えている。また、センタブーム3は、走行装置2の前面側に設けられた支持リンク機構6により上下に移動可能とされている。そして、前記センタブーム3およびサイドブーム4,5からブーム装置7が構成されている。
【0025】
左右のサイドブーム4,5は、それらの基端部がセンタブーム3の左右の端部にそれぞれ、左右に回転自在に接続されている。なお、サイドブーム4,5の回転中心軸11(図2から図4に図示)が鉛直方向に対して斜めとなっており、上に向かうほど走行装置2の進行方向前側に傾いた状態となっている。
これによりサイドブーム4,5は、センタブーム3の軸方向に沿って左右に延出した使用状態(使用位置)と、走行装置2の進行方向沿って後側でかつ斜め上方側に延出した格納状態(格納位置)との間を移動可能となっている。そして、格納状態のサイドブーム4,5においては、その先端をその基端より高くして配置されることになる。
【0026】
すなわち、ブームスプレーヤ1の使用時(薬液の散布時)は、左右のサイドブーム4,5を水平にするとともに左右に延出して使用し、不使用時には、左右のサイドブーム4,5を後方(走行装置2の進行方向の反対方向)に向けるとともに斜め上を向くように傾斜角をつけた状態とする。なお、使用状態では、センタブーム3と左右のサイドブーム4,5が略直線状となり、格納状態では、センタブーム3に対して左右のサイドブーム4,5がそれぞれ略直角に曲げられた状態となる。
【0027】
また、センタブーム3および左右のサイドブーム4,5には、等間隔に薬液散布用のノズル9,…が取り付けられたノズルパイプ10(薬剤散布部材)が支持されている。
そして、ノズルパイプ10には、走行装置2に搭載された前記薬剤タンク内の薬液が前記ポンプにより供給される。これにより、使用状態のサイドブーム4,5およびセンタブーム3に支持されたノズルパイプ10の複数のノズル9から薬剤が散布される。
【0028】
そして、これらのサイドブーム4,5を有するブーム装置7における当該サイドブーム4,5を使用位置と格納位置との間で回転異動させる回転機構について説明する。
なお、ブーム装置7においては、左右のサイドブーム4,5のいずれかをそれぞれ回転させる左右の回転機構がそれぞれ互いに鏡像の関係となっており、左右の回転機構は、それぞれ左右位置が逆となる以外は互いに同様の構造となっている。
そこで、以下に、ブーム装置7の進行方向左側の回転機構を説明し、当該回転機構と左右が逆になる以外は同じ構造を有する進行方向右側の回転機構の説明を省略する。
【0029】
図2から図5に示すように、センタブーム3の左側の端部には、サイドブーム4の基端部が回転自在に取り付けられている。
そして、ブーム装置7のサイドブーム4を回転させる機構は、前記サイドブーム4の回転中心を中心として回転自在なベルクランク(回転部材)12と、当該ベルクランク12に連結されて当該ベルクランク12を回転駆動するためのプッシュプルワイヤ15と、ベルクランク12とサイドブーム4とを連動して回転させる連動用バネ18と後述のようにサイドブーム4の移動開始時の操作性の向上と移動停止時の衝撃の緩和とを図る引張バネ16とを備えるものである。
【0030】
また、センタブーム3の左側の端部の前記進行方向前側には、サイドブーム4の基端側の端面に当接して使用位置にあるサイドブーム4がさらに斜め前側に移動するのを阻止する使用位置側のブームストッパ13が設けられている。また、センタブーム3の右側の端部の前記進行方向後側には、格納状態のサイドブーム4の背面に当接して、格納状態のサイドブームが走行装置2側に移動するのを阻止する格納位置側のブームストッパ14が設けられている。
【0031】
したがって、サイドブーム4は、これらブームストッパ13,14により回転範囲を制限されており、走行装置2の進行方向に直交する使用位置での方向から、走行装置2の進行方向に沿って後側を向くとともに斜め上方を向く格納位置での方向まで略90度だけ回転可能とされている。
センタブーム3の左端部の端面より少し中央側となる位置には、プッシュプルワイヤ15のアウタ32と引張バネ16の一端部を支持する支持部材17が取り付けられている。
【0032】
前記ベルクランク12は、前記プッシュプルワイヤ15のインナワイヤ31がアウタ32から進出するように移動した場合と後退するように移動した場合とに基づいてサイドブーム4を回転移動させるためのものである。そして、インナワイヤ31が進出するとサイドブーム4が格納位置側から使用位置側に回転移動し、インナワイヤ31が後退するとサイドブーム4が使用位置側から格納位置側に回転移動するようになっている。
【0033】
また、ベルクランク12は、基本的に、プッシュプルワイヤ15が接続される部分と、連動用バネ18の他端部が接続される部分との間で、これらの部分を繋ぐ線分からずれた位置に回転中心Gを有する。また、ベルクランク12とサイドブーム4とは、一つの回転軸状でそれぞれ独立して回転可能となっている。
【0034】
この例において、ベルクランク12とサイドブーム4とは直接的に一体に回転可能には接続されておらず、前記連動用バネ18と、図示しない係合部とによりベルクランク12とサイドブーム4とが接続されている。
連動用バネ18は、例えば、引張コイルバネであり、その他端部が上述のようにベルクランク12に接続され、その一端部がサイドブーム4の回転中心より少し先端側となる位置に接続されている。
【0035】
そして、ベルクランク12およびサイドブーム4が使用位置もしくは格納位置にある場合と、ベルクランク12とサイドブーム4が同位相で回転している場合に、ベルクランク12の連動用バネ18の他端部の接続位置と、サイドブーム4の連動用バネ18の一端部の接続位置とは、サイドブーム4の軸方向(長手方向)に沿って並んだ状態となっている。
【0036】
そして、前記連動用バネ18は、ベルクランク12の回転位相に対してサイドブーム4の回転位相がずれると、2つの前記接続位置を結ぶ線分がサイドブーム4の軸方向に対して斜めとなるとともに、それらの間の距離が長くなることなる。
これにより連動用バネ18が伸長し、当該連動用バネ18の付勢力が二つの接続位置を近づける方向に働く、すなわち、連動用バネ18の付勢力がベルクランク12とサイドブーム4との回転位相を合わせる方向に働く。これによりプッシュプルワイヤ15により回転するベルクランク12の回転に連動してサイドブーム4が回転することになる。
【0037】
また、ベルクランク12とサイドブーム4とは、図示しない上述の係合部により係合しており、例えば、サイドブーム4の基端部の前面と、ベルクランク12のサイドブーム4側に突出する突出部とが当接可能に係合している。したがって、ベルクランク12がサイドブーム4を使用位置側から格納位置側に回転移動させるように回転すると、サイドブーム4の基端部の前面と、ベルクランク12の突出片とが当接し、ベルクランク12の回転に対応してサイドブーム4を使用位置側から格納位置側に回転させることになる。
【0038】
一方、ベルクランク12がサイドブーム4を格納位置側から使用位置側に回転移動させるように回転すると、サイドブーム4の前面からベルクランク12の突出片が離間する状態となり、ベルクランク12の突出片がサイドブーム4を回転させる状態とならない。
なお、この場合には、上述の連動用バネ18の作用によりベルクランク12の回転に対応してサイドブーム4が回転することになる。
【0039】
この構成により、サイドブーム4およびベルクランク12が格納位置となる回転角度となっている際に、ベルクランク12の突出片がサイドブーム4の前面に当接して、サイドブーム4が格納位置から使用位置側に回転するのを防止している。すなわち、サイドブーム4を格納した状態で走行装置2が道路を走行しているような場合にサイドブーム4が開くのを防止している。
【0040】
また、サイドブーム4を使用状態として、走行装置2が走行しながら薬液を噴霧しているような場合に、サイドブーム4が障害物に当たると、サイドブーム4の前面がベルクランク12の突出片から離れるように、サイドブーム4が走行装置2の後側に向かって回転し、衝撃を緩和する。なお、この際にサイドブーム4には、前記連動用バネ18の付勢力が作用するが、サイドブーム4とベルクランク12とが剛接合されていないことにより、十分に衝撃を緩和できる。なお、係合部の形状は、上述のものに限られるものではなく、例えば、ベルクランク12とサイドブーム4とが重なる部分において、一方にベルクランク12およびサイドブーム4の回転中心を中心とする円弧状の溝かスリットを設け、他方に前記溝かスリットに挿入される突出部を設けてもよいし、同軸上で回転するベルクランク12とサイドブーム4の回転軸部分に係合部が設けられていてもよい。
【0041】
ベルクランク12を回転駆動するプッシュプルワイヤ15のベルクランク12に接合される一端部においては、ベルクランク12の手前側でプッシュプルワイヤ15のアウタ32が支持部材17を介して、サイドブーム4に対して回転しない部分であるセンタブーム3の左側端部に固定され、インナワイヤ31がベルクランク12に接続されている。
【0042】
また、ベルクランク12を回転駆動するプッシュプルワイヤ15のベルクランク12に接合されている一端部の反対側の端部となる他端部は、走行装置2に備えられたブーム操作レバー20に接続されている。なお、ブーム装置7の進行方向右側のサイドブーム5の回転機構のプッシュプルワイヤは、ブーム操作レバー20の進行方向右側に配置されたブーム操作レバー21に接続されている。これらブーム操作レバー20,21は、走行装置2の搭乗席に座る操作者から操作可能な位置に配置されている。また、ブーム操作レバー20とブーム操作レバー21とは、その配置位置が異なるだけで、動作機構等が同様の構造となっている。
【0043】
また、ブーム操作レバー20には、ロック機構が設けられており、ブーム操作レバー20の操作によりプッシュプルワイヤ15を介してベルクランク12をサイドブーム4を格納位置とする状態の回転角度とした場合に、ブーム操作レバー20がロックされ、ロックを解除しないと、ベルクランク12を格納位置から使用位置側に操作できないようになっている。これにより、上述のベルクランク12とサイドブーム4との係合部の作用と同様にサイドブーム4を格納した状態で道路を走行しているような場合に、サイドブーム4が格納位置から使用位置側に移動してしまうのを防止することができる。
【0044】
そして、前記支持部材17とベルクランク12との間には、引張バネ16が配置されている。引張バネ16の一端部は、サイドブーム4の回転に対して移動せずに固定された状態のセンタブーム3に前記支持部材17を介して接続されている。また、引張バネ16の他端部は、上述のようにサイドブーム4と連動して、基本的にサイドブーム4とともに回転するベルクランク12に接続されている。
【0045】
ここで、引張バネ16の他端部のベルクランク12の接続位置を以下のものとする。すなわち、サイドブーム4側の接続位置をサイドブーム4がベルクランク12と一体に回転すると仮定した場合に、図4に示すうようにサイドブーム4が格納位置にある場合に、引張バネ16の他端部のベルクランク12への接続位置を接続位置Aとし、サイドブーム4が使用位置にある場合に、引張バネ16の他端部のベルクランク12への接続位置を接続位置Bとする。また、引張バネ16の一端部の固定の接続位置を接続位置Cとする。なお、接続位置Aと接続位置Bとは一つの引張バネ16の端部の接続位置が上述のように移動した場合の位置であり、接続位置Aから接続位置Bまで、すなわち、接続位置A〜Bが引張バネ16の他端部の移動軌跡E(移動範囲)となる。
【0046】
また、図4に示される仮想円Dは、ベルクランク12およびサイドブーム4の回転中心Gを中心とし、当該中心Gから前記引張バネ16の一端部の接続位置A、Bまでの距離を半径とするものである。
そして、仮想円D上の前記A位置からB位置までの短い方の円周部分が、引張バネ16の他端部の接続位置A〜Bの前記格納位置から前記使用位置までの移動軌跡Eとなる。この移動軌跡Eは、サイドブーム4の回転中心Gと引張バネ16の一端部の接続位置Cとの間を通過するようになっているとともに、引張バネ16の他端部の接続位置であるC位置に向かって凸となる円弧状となっている。
【0047】
また、前記引張バネ16の他端部の接続位置A〜Bが、前記ベルクランク12の回転中心Gより前記引張バネ16の一端部の接続位置Cに近い側とされ、かつ、前記引張バネ16の他端部の移動軌跡Eと、前記ベルクランク12の回転中心Gと前記引張バネ16の一端部とを結ぶ線分Fとが交差する配置となっている。なお、引張バネ16の他端部の接続位置A〜Bが、回転中心Gを通り、前記線分Fと直交する直線より、引張バネ16の一端部側(接続位置C側)となっていれば、回転中心Gより引張バネ16の一端部側に近いものとする。
【0048】
ここで、引張バネ16は、ベルクランク12がサイドブーム4を格納位置とする回転角度となっている場合と、ベルクランク12がサイドブーム4を使用位置とする回転角度となっている場合との間の所定の回転角度となっている際に最短となる。
前記所定の回転角度は、引張バネ16の接続位置A〜Bの前記移動軌跡Eと、前記ベルクランク12の回転中心Gおよび前記引張バネ16の一端部の接続位置Cを結ぶ線分Fとが交差する位置(交差位置)に引張バネ16の接続位置A〜Bが配置されるベルクランク12の回転角度である。
【0049】
そして、引張バネ16の他端部の接続位置A〜Bが前記交差位置より接続位置A側に移動しても接続位置B側に移動しても引張バネ16が伸びることになり、引張バネ16の付勢力が大きくなる。そして、この付勢力は、引張バネ16の他端部の接続位置A〜Bを上述の交差位置に戻すように作用する。
そして、ベルクランク12が、前記サイドブーム4を前記格納位置とする回転角度の場合に引張バネ16の付勢力が大きくなり、この際の付勢力は、前記サイドブーム4を格納位置から使用位置側に移動させる方向にベルクランク12を回転させるように働く。なお、この際にベルクランク12は、前記ブーム操作レバー20が格納位置でロックされているため、ブーム操作レバー20を操作しないと使用位置側に回転しない。
【0050】
また、ベルクランク12が、前記サイドブーム4を前記使用位置とする回転角度の場合に引張バネ16の付勢力が大きくなり、この際の付勢力は、前記サイドブーム4を格納位置側に移動させる方向にベルクランク12を回転させるように働く。
また、この例において、ベルクランク12が前記格納位置となっている場合よりも、ベルクランク12が前記使用位置となっている場合の方が引張バネ16の付勢力が強く働くようになっている。
【0051】
これは、格納位置から使用位置側への移動は、サイドブーム4が下がる方向で重力が移動方向に働くことになるが、使用位置から格納位置側への移動は、サイドブーム4が上がる方向で重力が移動方向と逆方向に働くことになり、前者に対して後者の方がブーム操作レバー20の操作に大きな力を必要とすることによる。
この場合に、前記交差位置が前記移動軌跡Eの中央となる位置ではなく、使用位置での引張バネ16の他端部の接続位置Bよりも、格納位置での引張バネ16の他端部の接続位置Aに近い側となる。
【0052】
以上のようなブーム装置7におけるサイドブーム4,5の開閉方法(格納位置(閉)と使用位置(開)との間の移動方法)について説明する。
まず、格納位置となっているサイドブーム4を使用位置に移動する場合には、ブーム操作レバー20のロックを解除し、ブーム操作レバー20を格納位置側から使用位置側に移動可能とする。
【0053】
この際には、引張バネ16の付勢力がベルクランク12に対してサイドブーム4を使用位置側に回転する側に作用しているので、サイドブーム4を静止状態から回転移動開始させるものとしても、初動負荷が小さいので大きな操作力を必要とせず、容易かつ円滑にブーム操作レバー20を操作可能となり、移動開始時の操作性が向上する。
この際には、ベルクランク12の回転が連動用バネ18を介してサイドブーム4に伝わりサイドブーム4が回転を開始する。
【0054】
そして、回転を開始するとサイドブーム4が下がる方向に移動するので、この際にも僅かな操作力でブーム操作レバー20を操作することで操作が可能となる。
しかし、サイドブーム4の荷重のせいで、サイドブーム4が使用位置に近づくと、サイドブーム4の移動速度が速くなりすぎ、サイドブーム4が比較的高速でブームストッパ13に接触する可能性があるが、サイドブーム4が使用位置に近づく回転角度となった際に、ベルクランク12には引張バネ16により、サイドブーム4を使用位置から格納位置に戻す側に付勢力が作用する。これによって、サイドブーム4の移動速度が速くなりすぎるのを防止することができる。
【0055】
また、これにより、サイドブーム4がブームストッパ13に接触する際の速度も低下し、接触による衝撃の発生を抑制することができる。したがって、停止時の衝撃が大きい場合のように、サイドブーム4を使用位置で停止させる際のブームストッパ13やブームストッパ13に接触するサイドブーム4の強度を大きくするような構造とする必要がなくなり、コストの低減を図ることができる。
【0056】
また、サイドブーム4を使用位置から格納位置に移動するように操作する場合には、使用位置にあるブーム操作レバー20を格納位置側に移動するように操作することになる。この際に、引張バネ16の付勢力がサイドブーム4を使用位置から格納位置側に移動させるように作用しているので、静止しているサイドブーム4を上方に持ち上げるように移動開始させる際の初動負荷を低減することができる。
【0057】
これにより必要な操作力が小さくなることで、容易にブーム操作レバー20を操作して、サイドブーム4を使用位置から格納位置側に移動開始できる。また、この際の引張バネ16の付勢力は、サイドブーム4を格納位置から使用位置側に移動する場合よりも大きくなっており、サイドブーム4を上方に移動するように移動開始させる状態でも、容易に操作することができる。
【0058】
そして、サイドブーム4が格納位置に近づくと、サイドブーム4に作用する質量の影響が低減し、操作に必要な力が減少することで操作速度が速くなり、それに対応してサイドブーム4の移動速度が速くなる可能性があるが、前記引張バネ16の付勢力が使用位置に戻る方向に作用するので、操作速度が速くなるのを抑制し、サイドブーム4の移動速度を遅くすることができる。これにより、サイドブーム4がブームストッパ14に接触して停止する際の衝撃の発生を防止することができる。
【0059】
したがって、停止時の衝撃が大きい場合のように、サイドブーム4を使用位置で停止させる際のブームストッパ14やブームストッパ14に接触するサイドブーム4の強度を大きくするような構造とする必要がなくなり、コストの低減を図ることができる。
なお、この例では、ブーム装置を自走式ブームスプレーヤの専用の走行装置2に設けているが、搭載式や車載式ブームスプレーヤのように、農作業等で用いられるブームスプレーヤ専用ではない走行装置に本発明のブーム装置を取り付けるものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係るブーム装置を備えたブームスプレーヤを示す斜視図である。
【図2】サイドブームが格納位置となった前記ブーム装置を示す要部平面図である。
【図3】サイドブームが使用位置となった前記ブーム装置を示す要部平面図である。
【図4】サイドブームが格納位置となった前記ブーム装置を示す要部平面図である。
【図5】サイドブームが使用位置となった前記ブーム装置を示す要部平面図である。
【符号の説明】
【0061】
2 走行装置
4 サイドブーム
5 サイドブーム
9 ノズル
10 ノズルパイプ
12 ベルクランク(回転部材)
15 プッシュプルワイヤ
16 引張バネ
18 連動用バネ
E 移動軌跡
F 線分
G 回転中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(2)から薬剤を散布する際に用いられ、当該走行装置(2)の左右少なくとも一方に、薬剤を散布させるノズル(9)をその長手方向に沿って複数設置されるサイドブーム(4,5)が、先端を前記走行装置(2)の左右に向けて延出する使用位置と、前記走行装置(2)の側面に略沿う格納位置との間で移動可能に設けられるブーム装置(7)において、
前記サイドブーム(4,5)は、その基端部に設けられた回転中心(G)を中心として前記使用位置と前記格納位置との間で回転移動自在に前記走行装置(2)に設けられ、
前記走行装置(2)に固定される支持部材(17)に一端部が接続され、
前記サイドブーム(4,5)または前記回転中心(G)を中心として前記サイドブーム(4,5)と共に回転する回転部材(12)に他端部が接続された引張バネ(16)が設けられ、
前記サイドブーム(4,5)が前記使用位置と前記格納位置との間で回転移動する際に、前記回転中心(G)を中心とする円弧状となる前記引張バネ(16)の他端部の移動軌跡(E)が、前記引張バネ(16)の一端部に向かって凸となり、かつ、当該移動奇跡(E)は前記回転中心(G)と前記引張バネ(16)の一端部を結ぶ直線上を通過することを特徴とするブーム装置。
【請求項2】
前記サイドブーム(4,5)の前記回転中心(G)を中心として回転自在な前記回転部材(12)と、当該回転部材(12)に連結されて当該回転部材(12)を回転駆動するためのプッシュプルワイヤ(15)と、当該回転部材(12)と前記サイドブーム(4,5)とを連動して回転させる連動用バネ(18)を備え、
前記連動用バネ(18)の一端部が前記サイドブーム(4,5)に接続され、かつ、当該連動用バネ(18)の他端部が前記回転部材(12)に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のブーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−99564(P2010−99564A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271789(P2008−271789)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000141174)株式会社丸山製作所 (134)
【Fターム(参考)】