説明

プライマー組成物とそれを用いた接着方法

【課題】コンクリート等の多孔性材料の接着用プライマーを提供する。
【解決手段】水溶性(メタ)アクリル酸エステルモノマー100質量部に、水で不溶性の生成物を発生するアルミニウム化合物を5質量部以上50質量部以下含有することを特徴とするプライマー組成物であり、好ましくは、アルミニウム化合物がエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートである前記のプライマー組成物、並びに、前記のプライマー組成物を多孔性材料の表面に塗布した後に、接着剤を介して被着体を接着することを特徴とする接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として土木、建築用に用いられるプライマー組成物とそれを用いた接着方法に関するもので、特に湿潤コンクリート構造体に適用される接着或いはシールに好適なプライマー組成物とそれを用いた接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系樹脂は、高速接着ができること、低温硬化ができること、耐久性がよいこと、環境に優しいことなどから、成形材料や塗料、接着剤などの分野で幅広く利用されている。
【0003】
前記アクリル系樹脂のうちで、アクリル系接着剤は、アクリル系モノマーやオリゴマーを、重合開始剤として有機過酸化物と、有機過酸化物を分解してラジカルを発生させる硬化剤とを使用して、重合させ硬化させることで被着体同士の接着を行うものである。
【0004】
また、有機過酸化物と硬化剤との組み合わせを硬化開始剤系と呼ぶが、2剤型アクリル系接着剤は、硬化開始剤系を(1)有機過酸化物を含有する組成物と、(2)硬化剤を含有する組成物とからなる2剤に硬化開始剤系成分を分離したアクリル系接着剤であり、前記2剤を使用直前に混合して被着体に塗布して接着を行うことから、硬化時間の制御が容易で、作業性が極めて良いという特徴があり、土木、建築用の接着剤として好ましく使用されている。
【0005】
しかしながら、土木、建築用の接着剤に関しては、特にコンクリートやモルタル、レンガなどの多孔性材料を被着体とする場合には、接着力が期待された程に発揮できないことがあり、酷い時には接着できないという大きな問題が生じることがあり、この問題解決が当該分野で大きな課題となっている。
【0006】
前記課題解決を狙いに、水との混合性があって多少水があっても硬化するような組成物(特許文献1〜3参照)が開示されているが、例えば水分を含んだ地山中のトンネル内壁や土中に埋没されているレンガマンホールなどでは効果は疑わしい。
【特許文献1】特開平7−25955号公報。
【特許文献2】特開2003−306533号公報。
【特許文献3】特開2004−2853号公報。
【0007】
又、特許文献4には水乳化性ウレタンが開示されているが、硬化するとしても、水膜を介しての硬化となり、接着は困難と考えられる。
【特許文献4】特表2002−515934号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、コンクリートやモルタル、レンガなどの多孔性材料の湿潤表面に関して詳細に検討した結果、コンクリートやモルタル、レンガなどの多孔性材料には無数に連続した微細のトンネル状細孔が存在し、湿潤状態ではこの細孔に水が満たされた状態になっていて、表面水を拭き取っても細孔から滲みでてくる。従って、この状態で接着剤が塗布されても、細孔から滲み出てくる水が接着剤とコンクリートなどの表面に水膜を造り、水膜を介した接着剤の硬化がおこるので、接着しないことになるという知見を得て、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、水溶性(メタ)アクリル酸エステルモノマー100質量部に、水に不溶性の生成物を発生するアルミニウム化合物を5質量部以上50質量部未満含有させたことを特徴とするプライマー組成物であり、好ましくは、アルミニウム化合物がエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートであることを特徴とする前記のプライマー組成物である。
【0010】
また、本発明は、多孔性材料の表面に、前記のプライマー組成物を塗布した後に、接着剤を介して被着体を接着することを特徴とする接着方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプライマー組成物は、接着不良となる根本的な原因であるコンクリートやモルタル、レンガなどの多孔性材料に含まれる多量の水分と反応し、これを抑制する作用を呈するので、このプライマーを接着剤使用時に予め多孔性材料に塗布することで、良好な接着状況を確保できるという効果が得られる。また、前記作用に基づいて、接着力に優れる被着体を提供できる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水溶性(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、水分と速やかに反応して半固体状から固体状の化合物を形成すること、また、水で不溶性の生成物を発生するアルミニウム化合物を溶解し得ることの特性を有していれば、どのような(メタ)アクリル酸エステルモノマーであっても構わないが、更に、低粘度で接着剤に混合されても接着剤の性能を著しく低下させない特性を有していることが好ましい。
【0013】
前記の水溶性(メタ)アクリル酸エステルモノマーの例としては、2-ヒドロキシエチルオキシ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピルオキシ(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピルオキシ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0014】
本発明の水に不溶性の生成物を発生するアルミニウム化合物としては、水と反応して水に不溶性或いはゲル状の生成物を発生するアルミニウム化合物で、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアルミニウムジイソプロピレートなど加水分解性のアルミニウムアルキレートが挙げられる。このうち、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが好ましく選択される。
【0015】
前記アルミニウム化合物の前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーへの配合量は、(メタ)アクリル酸エステルモノマー100質量部に対し、5質量部以上50質量部である。5質量部未満では被着体である多孔性材料の細孔の封孔が不完全となる場合が見られ、この結果、接着力が充分に発揮できない。また、50質量部以上では、高価となり、また、プライマーとしての塗布性が悪くなる。前記の範囲のうち、8質量部〜20質量部が一層好ましい配合量である。
【0016】
本発明のプライマー組成物は、多孔性材料の表面に塗布されて、当該多孔性材料の細孔中の水と接触して、当該プライマー組成物中のアルミニウム化合物が速やかに不溶性生成物を形成し、細孔を埋めることにより、細孔からの水の滲み出しを抑えるとともに、前記生成物の存在により多孔性材料表面は撥水性を示す特徴がある。尚、前記生成物は最終的には水酸化アルミニウムとなる。
【0017】
また、水溶性(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、接着剤と容易に混合して、硬化反応するので、良好な接着性が得られる。この効果はアクリル系接着剤のみならず、エポキシ系接着剤に対しても、ミカエル付加反応によりエポキシ樹脂硬化に参加して良好な接着性が得られる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例並びに比較例をもって、本発明を更に詳細に説明する。ここで、部は特記しないかぎり質量によるものである。
【0019】
<評価試験材料>アクリル系接着剤としては、ハードロック2シリーズ (電気化学工業(株)社製DK−550−003R、充填材含有品種PCロックコネクト)を使用した。また、エポキシ接着剤としては、エピコート828(油化シェル社製)100部に硬化剤としてジエチレントリアミン12部を添加混合して使用した。
【0020】
コンクリート試験片:100mm×100mm×600mmのJIS コンクリート試験片を、100mm×100mm×30mmに切断して、水道水中に23℃で1週間浸漬した。
【0021】
レンガ試験片:100mm×180mm×250mmの焼成赤レンガをそのまま水道水中に23℃で1週間浸漬した。
【0022】
モルタル試験片:100mm×100mm×20mmのJIS モルタル(テストピース社製JISモルタル)の型枠面を80メッシュ金剛砂でサンドブラストした試験片を水道水中に23℃で1週間浸漬した。
【0023】
<評価試験体の作成>水道水に1週間浸漬した前記のいろいろな試験片を取り出し、布で軽く拭き、いろいろなプライマー組成物を塗布後、予め、2mm厚さのシリコーンゴム製の枠幅が5mmで30mm×30mmの開口部を有する額縁状スペーサーを乗せ、開口部に接着剤を投入後に、中心部に引っ張り試験用のネジ部を持つサンドブラストした40mm×40mm×10mmの鉄製接着試験治具を乗せ、23℃水道水中に浸漬した。(図1参照)
【0024】
<接着強度の評価>前記評価試験体を用いて、雰囲気温度23℃、引っ張り速度10mm/分で評価する。条件は、JIS A−5548に準拠した(引っ張り試験体については、図2参照)。
【0025】
(実施例1)2−ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学社ライトエステルHO)100gにエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル(株)製ALCH、以下、単にALCHと略記する)10gを添加混合してプライマーを作成した。
【0026】
水道水に1週間浸漬したコンクリート試験片を取り出し、布で軽く拭き作成したプライマーを刷毛で塗布後、額縁状スペーサーを乗せ、開口部にアクリル系接着剤(電気化学工業(株)製DK550−003R)を投入後に、中心部に引っ張り試験用のネジ部を持つサンドブラストした40mm×40mm×10mmの鉄製接着試験治具を乗せ、23℃水道水中に浸漬した。
【0027】
24時間23℃水道水中で硬化養生した試験体を図2の引っ張り治具にセットして23℃、10mm/分で引っ張り試験した結果、4.3MPaを示し、コンクリート材が破壊した。この結果を表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例2〜5)2−ヒドロキシエチルメタクリレート100gにALCH10gを添加混合してプライマーを作成した。前記プライマーを使用して、多孔性材料と接着剤とをいろいろかえて、実施例1と同様の条件で評価した。結果を表1に示した。
【0030】
(比較例1)実施例1において、プライマーを用いなかったこと以外は実施例1の通りに実施したところ、引っ張り試験機に取り付け中、容易に治具が外れてしまった。この結果を表1に示した。
【0031】
(比較例2)比較例1において、接着剤としてエポキシ接着剤を使用した結果、引っ張り試験機に取り付けることはできたが、極めて低強度で界面破壊であった。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例6〜8)実施例1のプライマー組成中のALCH濃度をかえて、実施例1と同様の条件で評価した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
(比較例3)ALCHを配合しないプライマーを塗布して実施例1と同様の評価をした結果、引っ張り試験機に取り付けることはできたが、接着強度は0.2MPaと極めて低強度で、界面破壊であった。結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のプライマーは、多量に水分を含むコンクリートやモルタル、レンガなどの多孔性材料を接着する際のプライマーとして好適であり、前記多孔性材料をしばしば用いて作業する土木、建築用途に適用できるので、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】水中硬化養生して評価試験体を得ることの説明図。
【図2】接着強度試験(引っ張り試験)時の組立図。
【符号の説明】
【0037】
1 多孔性材料(コンクリート、モルタル、レンガ)
2 接着剤
3 水
4 額縁状スペーサー
5 引っ張り試験用治具
6 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性(メタ)アクリル酸エステルモノマー100質量部に、水に不溶性の生成物を発生するアルミニウム化合物を5質量部以上50質量部未満含有させたことを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
アルミニウム化合物がエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートであることを特徴とする請求項1記載のプライマー組成物。
【請求項3】
多孔性材料の表面に、請求項1又は請求項2記載のプライマー組成物を塗布した後に、接着剤を介して被着体を接着することを特徴とする接着方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−199775(P2006−199775A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11379(P2005−11379)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】