プライマー評価方法、プライマー評価プログラム及びリアルタイムPCR装置
【課題】一定の温度耐性をもつプライマーを設計させ得るプライマー評価方法、プライマー評価プログラム及びリアルタイムPCR装置を提案する。
【解決手段】アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットを、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅効率のばらつき度を求め、求めたばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する。
【解決手段】アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットを、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅効率のばらつき度を求め、求めたばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプライマー評価方法、プライマー評価プログラム及びリアルタイムPCR装置に関し、核酸を増幅する技術分野などにおいて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction:PCR)法では、増幅対象のDNA(deoxyribonucleic acid)、DNA合成酵素及び大量のプライマーが混合される。プライマーは、DNAポリメラーゼにDNA合成反応の開始点を供給する役割を担う短い核酸の断片であり、いかなるDNA合成反応においても必須となる。したがってプライマーの設計は重要である。
【0003】
プライマーの設計には、候補とすべき複数の配列を合成し、それら配列から所定の条件を満たす最適な配列をスクリーニングするといった手法が提案されている(例えば特許文献1,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−210175公報
【特許文献2】特開2001−258576公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところがかかる設計手法では、所定の条件として塩基長、GC含量又はTm値が考慮されているが、反応温度の変動による増幅効率の変化については考慮されていない。この要因は、プライマーが機能すべきアニーリングステージでの温度条件が60[℃]程度とされていることを前提としているからと考えられる。
【0006】
しかしながら、実際にリアルタイムPCR装置又はPCR装置を用いてDNAを増幅させる場合、当該PCR装置における経年劣化やPCR装置外部の温度変化などを要因とする温度条件の相違は存在してしまうものである。また近年では、小型化の要請により持ち運び可能なPCR装置が本出願人により提案されており、より一段と温度条件の相違が生じる環境下での使用が想定される。
【0007】
したがって、たとえ上記の設計手法で設計されたプライマーであっても、当該PCR装置を実際に用いたときの温度に応じて、PCR産物(核酸)の増幅効率が変化してしまう。この温度に起因する核酸の増幅効率の変化は、現在市販されているプライマーであっても同様の結果となる。
【0008】
温度変化によって核酸の増幅効率が変わるということは、増幅対象の核酸の定量値が変わるということである。したがって、例えば、ある生物における核酸量を所定期間おきにモニタする場合、各定量時期での温度の相違によって核酸の増幅効率が変わるため、定量された核酸量を比較することの価値が低減してしまう。このことは、臨床では特に重要な問題となる。したがって、温度変化にかかわらずある一定値以上の増幅効率を呈するプライマーが求められている。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させ得るプライマー評価方法、プライマー評価プログラム及びリアルタイムPCR装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するために本発明は、プライマー評価方法であって、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得する増幅量取得ステップと、段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得ステップと、増幅量の時間変化と初期量とに基づいて温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出ステップと、ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示ステップとを有する。
【0011】
また本発明は、プライマー評価プログラムであって、コンピュータに対して、核酸を増殖可能な装置又は記憶媒体から、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得すること、段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得すること、増幅量の時間変化と初期量とに基づいて温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出すること、ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示することを実行させる。
【0012】
また本発明は、リアルタイムPCR装置であって、核酸の増幅反応の場とされる複数の容器に割り当てられる熱源素子と、熱源素子での熱量を、対応する容器に対して設定される温度に応じて個別に制御する制御手段と、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配される容器に設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する決定手段と、段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得手段と、容器に割り当てられる複数の受光素子から、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定としてサンプルセットが増幅されたときの増幅量を示す信号を取得する増幅量取得手段と、増幅量の時間変化と初期量とに基づいて温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出手段と、ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示手段とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットを、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅効率のばらつき度を求めるため、プライマーに対する温度依存性を検出することができる。また、このばらつき度を、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とともに提示するため、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】リアルタイムPCR装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】キャリブレーション期間を示す図である。
【図3】増幅曲線を得るための標準サンプルの配置例を概略的に示す図である。
【図4】プライマー評価指標提示部の構成を概略的に示す図である。
【図5】実験結果(1)を示すグラフである。
【図6】実験結果(2)を示すグラフである。
【図7】実験結果(3)を示すグラフである。
【図8】実験結果(4)を示すグラフである。
【図9】実験結果(5)を示すグラフである。
【図10】増幅効率のばらつき度を示すグラフである。
【図11】プライマー評価指標提示処理手順を示すフローチャートである。
【図12】他の実施の形態によるリアルタイムPCR装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下に示す順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.リアルタイムPCR装置の構成]
[1−2.プライマー評価指標提示部の構成]
[1−3.プライマー評価指標提示処理手順]
[1−4.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0016】
<1.実施の形態>
[1−1.リアルタイムPCR装置の構成]
図1において、リアルタイムPCR装置1の概略的な構成を示す。このリアルタイムPCR装置1は、反応室RMに対して、複数の基板11〜17を所定間隔で層状に配置した構造を有する。
【0017】
反応基板11は、基準層となる基板であり、該基板には、核酸の増幅反応の場とされる容器(以下、これをウェルとも呼ぶ)ULが高密度に形成される。これらウェルULには、増幅対象の標的核酸及びその標的核酸の増幅に要する各種物質(プライマー、緩衝液、酵素、dNTP、蛍光色素等)が与えられる。
【0018】
例えば6[cm]四方の反応基板11を用いた場合、1[μL]以下の容量でなる4万個程度のウェルULを形成することが可能となる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、反応室RMを小型化した場合であっても、同種又は異種でなる多くの標的核酸を取り扱うことが可能となる。
【0019】
発熱基板12は、反応基板11に対して下側の層として配される基板であり、該基板のうち、反応基板11と対向する面には、ウェルULごとに熱源素子HDが割り当てられ、これら熱源素子HDの周囲には複数の感温素子TDが配される。この熱源素子HDには例えばTFT(Thin Film Transistor)等が用いられ、感温素子TDには例えばピンダイオード等が用いられる。
【0020】
発熱基板12の熱源素子HD及び感温素子TDには温度制御部20が接続される。温度制御部20は、各熱源素子HDでの熱量を、当該熱源素子HDを囲む感温素子TDを用いて所定間隔ごとにセンシングした温度に応じて個別に制御する。
【0021】
具体的に温度制御部20は、増幅ステージ(変性ステージ、アニーリングステージ、伸長ステージ)ごとにウェルUL単位で目標温度を設定する。そして温度制御部20は、目標温度に応じた値の電流又は電圧を、対応するウェルULの熱源素子HDに与えて、各ウェルULを加熱させるようになされている。
【0022】
また温度制御部20は、感温素子TDを用いて所定間隔ごとにセンシングするたびに、該感温素子TDにおいてセンシングされる温度と、目標温度との差を求め、該差に応じて、熱源素子HDに与えるべき電流又は電圧をウェルUL単位で可変するようになされている。
【0023】
これによりこのリアルタイムPCR装置1は、増幅に要する温度条件が異なる場合であっても、高密度に配される各ウェルULの温度を、各増幅ステージ単位で高精度に調整することができる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、温度に起因する増幅反応結果の誤り率を低減して検出精度を向上し得るようになされている。
【0024】
発熱補助基板13は、発熱基板12に対して下側の層として配される基板である。この発熱補助基板13は、反応室RM全体における熱を吸収又は発散することで、該反応室RMを、規定された温度に維持する。
【0025】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、現ステージで設定される温度から次ステージで設定すべき温度にウェルULの温度を移行させるまでの時間(温度勾配の時間)を高速化できるようになされている。ちなみに、発熱補助基板13には例えばペルチェ素子等が用いられる。
【0026】
発光基板14は、反応基板11に対して上側の層として配される基板であり、該基板のうち、反応基板11と対向する面には、各ウェルULにそれぞれ対応させて、インターカレータ等の蛍光物に対する励起光を照射する光源素子LSが配される。この光源素子LSには例えばLED(Light Emitting Diode)が用いられる。
【0027】
励起光透過基板15は、反応基板11と発光基板14との中間層として配される基板であり、光源素子LSから照射される励起光を透過し、該励起光以外の光を反射する。この励起光透過基板15には例えばダイクロイックミラーが用いられる。
【0028】
この励起光透過基板15のうち発光基板14と対向する面には、該発光基板14の各光源素子LSの光軸に対応する位置を基準とする周囲に対して、当該光源素子LSから照射される励起光の散乱光を受光する受光素子LDBが配される。
【0029】
発光基板14の光源素子LS及び励起光透過基板15の受光素子LDBには光量制御部30が接続される。このリアルタイムPCR装置1では、1回の増幅サイクルが終了した時点で直ちに次の増幅サイクルを開始するのではなく、図2に示すように、各回の増幅サイクルの終了時点から、光源素子LSの光量を調整するキャリブレーション期間CFが設けられている。光量制御部30は、このキャリブレーション期間CFごとに、各受光素子LDBで受光される散乱光量が一定となるよう、各ウェルULに対応する光源素子LSの光量を個別に制御するようになされている。
【0030】
これによりこのリアルタイムPCR装置1は、各光源素子LSにおける製造上のばらつきのみならず、当該光源素子LSの経時的変動があっても、各ウェルULに到達される励起光量を一定とすることができる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、励起光によって励起される蛍光量を、各ウェルULでの核酸量自体を反映したものとして検出精度を向上し得るようになされている。
【0031】
蛍光透過基板16は、発熱基板12と発熱補助基板13との中間層として配される基板であり、励起光によって励起される蛍光物の蛍光を透過し、該蛍光以外の光を反射する。また発熱補助基板13と対向する面には、各ウェルULにそれぞれ対応させて、当該ウェルで励起される蛍光を受光する受光素子LDAが配される。
【0032】
この受光素子LDAには核酸量演算部40が接続される。核酸量演算部40は、各受光素子LDAで受光される蛍光量に応じた標的核酸の核酸量を、ステージ単位で算出するようになされている。また核酸量演算部40は、現在と前回のキャリブレーション期間で得られた散乱光量を取得し、これら散乱光量に差がある場合、その差を有する散乱光量を照射する光源素子LSに対応付けられるウェルULでの核酸量を、該差に応じて調整する。これにより核酸量演算部40は、光源素子LSに経時的変動があったとしても標的核酸量を、励起光量を基準として均一化できるようになされている。
【0033】
かかる構成に加えて、このリアルタイムPCR装置1では、アニーリングステージで与えるべき温度が異なる場合の蛍光量の推移(増幅曲線)に基づいて、プライマーを評価すべき指標を提示するプライマー評価指標提示部50が設けられている。
【0034】
プライマー評価指標提示部50に対してプライマーの評価指標を取得させる場合、図3に便宜的に示すように、標準とすべき標的核酸を段階ごとに希釈した標準サンプルの組(以下、これをサンプルセットとも呼ぶ)Stが、相違させるべき温度条件の数だけ、各ウェルULに用意される。ちなみに、これらウェルULには、評価対象のプライマーなど、増幅に要する各種物質が与えられる。
【0035】
このリアルタイムPCR装置1は各ウェルULの温度を個別に調整できるため、アニーリングステージで与えるべき温度をサンプルセットStごとに相違させることができる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、プライマー評価指標提示部50に対して、アニーリングステージで与えるべき温度が異なる場合の蛍光量の推移(増幅曲線)を、1つの反応基板11で同時に取得させることができるようになされている。
【0036】
[1−2.プライマー評価指標提示部の構成]
次に、プライマー評価指標提示部50について説明する。図4において、プライマー評価指標提示部50の概略的な構成を示す。このプライマー評価指標提示部50は、該プライマー評価指標提示部50全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)51に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。
【0037】
具体的には、ROM(Read Only Memory)52、CPU51のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)53、操作部54、記憶部55及び表示部56が接続される。このROM52には、プライマーの評価指標データを生成するためのプログラム(以下、これをプライマー評価指標提示プログラムとも呼ぶ)が格納される。
【0038】
CPU51は、ROM52に格納されたプライマー評価指標提示プログラムをRAM53に展開した場合、該プライマー評価指標提示プログラムにしたがって増幅制御部51A、増幅効率算出部51B及び評価値演算部51Cとして機能する。
【0039】
増幅制御部51Aは、変性ステージ,伸長ステージでの目標温度として各サンプルセットStそれぞれに同一の温度を決定するとともに、アニーリングステージでの目標温度としてサンプルセットStごとに異なる温度を決定する。
【0040】
目標温度の決定手法としては、例えば、プライマー評価指標提示プログラムに規定されたなかから選択させて決定する手法、あるいは、操作部54から入力させて決定する手法などが採用される。
【0041】
また増幅制御部51Aは、例えばサンプルセットStにおける各標準サンプルの初期の核酸量(濃度)の入力画面を表示部56に表示し、当該初期の核酸量を操作部54から取得する。
【0042】
増幅制御部51Aは、サンプルセットStに対する各増幅ステージでの目標温度を決定した場合、当該決定した目標温度を設定するよう温度制御部20に通知する。そして増幅制御部51Aは、温度制御部20及び光量制御部30を駆動させて増幅サイクルにしたがって増幅処理を開始させるようになされている。
【0043】
増幅効率算出部51Bには、増幅制御部51Aの増幅処理の開始により、サンプルセットStにおける各標準サンプルが配されるウェルULに対応する受光素子LDA(図1)から、増幅量(蛍光量)を示す信号が与えられる。
【0044】
増幅効率算出部51Bは、受光素子LDAから与えられる増幅量(蛍光量)と、増幅制御部51Aでカウントされる増幅サイクル数とに基づいて、一定の蛍光強度に達する増幅サイクル数を検出する。
【0045】
そして増幅効率算出部51Bは、サンプルセットStごとに、標準サンプルの増幅効率を算出するようになされている。具体的には、増幅制御部51Aが取得したサンプルセットStにおける各標準サンプルの初期の核酸量を横軸とし、一定の蛍光強度に達する増幅サイクル数を縦軸とする検量線の傾きから増幅効率が算出される。
【0046】
この検量線の傾きと増幅効率との関係について簡単に説明する。一般に、PCR法では鋳型DNAは1サイクルで2倍に増幅すると理論的に考えられており、初期の鋳型DNA量を[DNA]0とし、増幅効率をeとし、増幅サイクル数をCとすると、次式
【0047】
【数1】
【0048】
と表される。この(1)式において、増幅効率e=1のときに括弧のなかが「2」となるので、鋳型DNAは1サイクルで2倍に増幅することになる。
【0049】
ところで、(1)式の両辺の対数をとると、次式
【0050】
【数2】
【0051】
となり、一定の蛍光強度に達するサイクルをCtとすると、
【0052】
【数3】
【0053】
と表される。サイクルCtはlog[DNA]0の関数として表現され、検量線の傾きは−1/log(1+e)である。仮に、増幅効率が100[%](e=1)である場合、検量線の傾きは−3.32となり、増幅効率が85[%](e=0.85)である場合、−3.74となる。つまり、検量線の傾きと増幅効率とは、検量線の傾きが大きいほど増幅効率が悪いという関係にある。書き換えると、増幅効率eは、次式
【0054】
【数4】
【0055】
と表すことができる。
【0056】
ここで、実験結果として、アデノウイルスのタイプ別に、アニーリングステージで与えるべき温度が異なる場合の増幅効率を図5〜図9に示す。この実験では、プライマーはタイプ別にそれぞれ設計した。また、図5〜図9に示すとおり、サンプルセットStに対するアニーリングステージでの目標温度は、55.0[℃],55.9[℃] ,56.7[℃] ,59.3[℃] ,61.0[℃],62.4[℃] ,65.3[℃] ,64.2[℃] ,65.0[℃]とした。なお、プライマー及びアニーリングステージでの目標温度以外の条件は同一である。
【0057】
図5〜図9をみると、例えばタイプ3に対するプライマーは、温度変化にかかわらず同等の増幅効率を呈し、例えばタイプ7に対するプライマーは、温度変化に応じて変動する増幅効率を呈していることが分かる。
【0058】
評価値演算部51Cは、各サンプルセットStに対する増幅効率のばらつき度を、プライマーを評価するための指標として算出する。このばらつき度は、具体的には例えば標準偏差、分散又は平均偏差などが用いられる。
【0059】
ここで、図5〜図9においてタイプ別に示した各温度の増幅効率のばらつき度を、図10に示す。この図10から明らかなように、タイプ3に対するプライマーは、温度依存性が最も低く、良好なプライマーであると評価できる。一方、タイプ7に対するプライマーは、温度依存性が最も高く、不良なプライマーであると評価できる。
【0060】
評価値演算部51Cは、各サンプルセットStに対する増幅効率のばらつき度を算出した場合、ばらつき度に対するプライマーの良悪評価の基準値(以下、これをばらつき閾値とも呼ぶ)と比較する。そして評価値演算部51Cは、算出対象のばらつき度がばらつき閾値以下となる場合、良好なプライマーであることと、算出対象のばらつき度及びばらつき閾値とを、画像表示又は音声により通知する。
【0061】
これに対して評価値演算部51Cは、算出対象のばらつき度がばらつき閾値よりも大きい場合、不良なプライマーであることと、算出対象のばらつき度及びばらつき閾値とを、画像表示又は音声により通知するようになされている。
【0062】
なお、画像表示の態様としては、例えば、ばらつき度を棒状に示すグラフを、該グラフに対してばらつき閾値を示すラインを付すといった態様が採用される。ちなみに、ばらつき度を棒状に示すグラフとともに、相違させた温度と増幅効率との関係の関係を示すグラフを表示させることもできる。
【0063】
この実施の形態における評価値演算部51Cは、ばらつき閾値を、評価対象のプライマーを用いた増殖反応結果の使用用途に応じて切り換えるようになされている。
【0064】
具体的には、例えば、全般な用途に適用すべき第1の閾値と、該基準閾値よりも小さい値として、薬理実験での比較用途に適用すべき第2のばらつき閾値と、臨床での診断用途に適用すべき第3のばらつき閾値とが設定され、これらをユーザに選択させる。
【0065】
これにより評価値演算部51Cは、ユーザに対して、与えられる設計時間を考慮しながらも、プライマー設計の重要度(つまり増殖反応結果に対する使用用途)に応じて、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【0066】
[1−3.プライマー評価指標提示処理手順]
次に、プライマー評価指標提示処理手順について、図11に示すフローチャートを用いて説明する。
【0067】
すなわちCPU51は、例えばプライマーの評価指標を提示すべき命令が操作部54から与えられた場合、このプライマー評価指標提示処理手順を開始して第1ステップSP1に移行する。CPU51は、この第1ステップSP1では、サンプルセットStごとに、当該サンプルセットに対するアニーリングステージでの目標温度を決定し、第2ステップSP2に移行する。
【0068】
CPU51は、この第2ステップSP2では、サンプルセットStにおける各標準サンプルの初期量(濃度)を取得し、第3ステップSP3に移行する。CPU51は、この第3ステップSP3では、第1ステップSP1で決定した目標温度の条件で、各サンプルセットStに対する増幅処理を開始させ、第4ステップSP4に移行する。
【0069】
CPU51は、この第4ステップSP4では、サンプルセットStごとに増幅効率を算出し、第5ステップSP5に移行する。CPU51は、この第5ステップSP5では、各サンプルセットStに対する増幅効率のばらつき度を算出し、第6ステップSP6に移行する。
【0070】
CPU51は、この第6ステップSP6では、ばらつき閾値を選択させ、選択されたばらつき閾値を設定し、第7ステップSP7に移行する。CPU51は、この第7ステップSP7では、ステップSP5で算出したばらつき度と、ステップSP6で設定したばらつき度とに基づいてプライマーを評価し、第8ステップSP8に移行する。
【0071】
CPU51は、この第8ステップSP8では、プライマーの評価結果と、算出対象のばらつき度及びばらつき閾値とを、画像表示又は音声により通知し、当該通知後、このプライマー評価指標提示処理手順を終了する。
【0072】
このようにしてCPU51は、プライマー評価指標提示プログラムにしたがって、プライマー評価指標提示処理を実行するようになされている。
【0073】
[1−4.効果等]
以上の構成において、リアルタイムPCR装置1は、相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットStごとに(図3参照)、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得する。
【0074】
またリアルタイムPCR装置1は、サンプルセットStを構成する、段階ごとに希釈された標準サンプルの初期量(濃度)を取得し、該初期量と増幅量の時間変化に基づいて、温度条件ごとに増幅効率を求める(図5乃至図9参照)。
【0075】
そしてリアルタイムPCR装置1は、温度条件ごとに求めた増幅効率のばらつき度を算出し(図10参照)、算出したばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値(ばらつき閾値)とを提示する。
【0076】
このリアルタイムPCR装置1は、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅効率のばらつき度を求めるため、プライマーに対する温度依存性を検出することができる。これに加えてリアルタイムPCR装置1は、このばらつき度を、ばらつき閾値とともに提示するため、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【0077】
ところでこのリアルタイムPCR装置1は、複数のウェルULに与えるべき熱量を、当該ウェルULに対して設定される温度に応じて個別に制御する温度制御部20(図1)を有する。リアルタイムPCR装置1は、この温度制御部20に対して、サンプルセットStごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配されるウェルULに設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する。
【0078】
そしてリアルタイムPCR装置1は、対応するウェルULに割り当てられる受光素子LDA(図1)から、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得するようになされている。
【0079】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、アニーリングステージで与えるべき温度条件が異なる場合の増幅量の時間変化(増幅曲線)を、1つの反応基板11で同時に取得させることができる。この結果、このリアルタイムPCR装置1は、増幅効率のばらつき度を算出する効率を格段に向上することができる。
【0080】
さらにこのリアルタイムPCR装置1は、ばらつき閾値を、評価対象のプライマーを用いた増殖反応結果の使用用途に応じて切り換える。
【0081】
したがってリアルタイムPCR装置1は、例えば、全般な用途、薬理実験での比較用途、臨床での診断用途など、プライマー設計の重要度(つまり増殖反応結果に対する使用用途)に応じて、ばらつき閾値を厳しくあるいはゆるく設定することができる。この結果、このリアルタイムPCR装置1は、ユーザに対して、与えられる設計時間を考慮しながらも、プライマー設計の重要度に応じて、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【0082】
以上の構成によれば、増殖サイクルのうちアニーリングステージでの温度条件を異ならせた場合の増幅効率のばらつき度を、ばらつき閾値とともに提示するようにしたことにより、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させ得るリアルタイムPCR装置1が実現できる。
【0083】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、変性ステージ,伸長ステージでの目標温度はプログラムに規定されたなかから選択させて決定する又は操作部54から入力させて決定されたが、予め規定した固定値であってもよい。
【0084】
また上述の実施の形態では、増殖サイクルのうちアニーリングステージでの温度条件を異ならせた場合の増幅量の時間変化を示す信号を取得する取得態様として、同一の反応基板11を用いて取得する態様が適用された。しかしながら取得態様はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0085】
例えば、温度条件ごとに別々の反応基板11を用いて取得する態様が適用されてもよい。また例えば、増殖サイクルのうちアニーリングステージでの温度条件を異ならせた場合の増幅量の時間変化を示す信号が格納されるデータ格納媒体から取得する態様が適用されてもよい。
【0086】
なお、データ格納媒体としては、例えばフレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)等のパッケージメディアや、データが一時的若しくは永続的に格納される半導体メモリや磁気ディスク等がある。これらデータ格納媒体からデータを取得する方法としては、ローカルエリアネットワークやインターネット、ディジタル衛星放送等の有線又は無線の通信媒体を利用することも可能である。
【0087】
また上述の実施の形態では、リアルタイムPCR装置1として、いわゆる透過型のものが適用された。しかしながら、これに代えて、例えば、図1との対応部分に同一符号を付した図12に示すように、いわゆる反射型のリアルタイムPCR装置100を適用するようにしてもよい。
【0088】
このリアルタイムPCR装置100における反応基板111には、側壁の底面がR状に形成された複数のウェルULが形成され、これらウェルULに対応させて受光素子LDAが一面に配される。各光源LSから照射される励起光は、励起光透過基板15を介して反応基板111に形成される対応するウェルULに導光される。各ウェルULでは、励起光によって励起される蛍光物の蛍光はウェルULの壁面で反射し、反応基板111の一面に受光素子LDAに入射する。
【0089】
このような反射型のリアルタイムPCR装置100を適用した場合であっても、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、遺伝子実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1……リアルタイムPCR装置、11……反応基板、12……発熱基板、13……発熱補助基板、14……発光基板、15……励起光透過基板、16……蛍光透過基板、20……温度制御部、30……光量制御部、40……核酸量演算部、50……プライマー評価指標提示部、51A……増幅制御部、51B……増幅効率算出部、51C……評価値演算部、52……ROM、53……RAM、54……操作部、55……記憶部、56……表示部、UL……ウェル、St……サンプルセット。
【技術分野】
【0001】
本発明はプライマー評価方法、プライマー評価プログラム及びリアルタイムPCR装置に関し、核酸を増幅する技術分野などにおいて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction:PCR)法では、増幅対象のDNA(deoxyribonucleic acid)、DNA合成酵素及び大量のプライマーが混合される。プライマーは、DNAポリメラーゼにDNA合成反応の開始点を供給する役割を担う短い核酸の断片であり、いかなるDNA合成反応においても必須となる。したがってプライマーの設計は重要である。
【0003】
プライマーの設計には、候補とすべき複数の配列を合成し、それら配列から所定の条件を満たす最適な配列をスクリーニングするといった手法が提案されている(例えば特許文献1,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−210175公報
【特許文献2】特開2001−258576公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところがかかる設計手法では、所定の条件として塩基長、GC含量又はTm値が考慮されているが、反応温度の変動による増幅効率の変化については考慮されていない。この要因は、プライマーが機能すべきアニーリングステージでの温度条件が60[℃]程度とされていることを前提としているからと考えられる。
【0006】
しかしながら、実際にリアルタイムPCR装置又はPCR装置を用いてDNAを増幅させる場合、当該PCR装置における経年劣化やPCR装置外部の温度変化などを要因とする温度条件の相違は存在してしまうものである。また近年では、小型化の要請により持ち運び可能なPCR装置が本出願人により提案されており、より一段と温度条件の相違が生じる環境下での使用が想定される。
【0007】
したがって、たとえ上記の設計手法で設計されたプライマーであっても、当該PCR装置を実際に用いたときの温度に応じて、PCR産物(核酸)の増幅効率が変化してしまう。この温度に起因する核酸の増幅効率の変化は、現在市販されているプライマーであっても同様の結果となる。
【0008】
温度変化によって核酸の増幅効率が変わるということは、増幅対象の核酸の定量値が変わるということである。したがって、例えば、ある生物における核酸量を所定期間おきにモニタする場合、各定量時期での温度の相違によって核酸の増幅効率が変わるため、定量された核酸量を比較することの価値が低減してしまう。このことは、臨床では特に重要な問題となる。したがって、温度変化にかかわらずある一定値以上の増幅効率を呈するプライマーが求められている。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させ得るプライマー評価方法、プライマー評価プログラム及びリアルタイムPCR装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するために本発明は、プライマー評価方法であって、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得する増幅量取得ステップと、段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得ステップと、増幅量の時間変化と初期量とに基づいて温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出ステップと、ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示ステップとを有する。
【0011】
また本発明は、プライマー評価プログラムであって、コンピュータに対して、核酸を増殖可能な装置又は記憶媒体から、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得すること、段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得すること、増幅量の時間変化と初期量とに基づいて温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出すること、ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示することを実行させる。
【0012】
また本発明は、リアルタイムPCR装置であって、核酸の増幅反応の場とされる複数の容器に割り当てられる熱源素子と、熱源素子での熱量を、対応する容器に対して設定される温度に応じて個別に制御する制御手段と、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配される容器に設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する決定手段と、段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得手段と、容器に割り当てられる複数の受光素子から、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定としてサンプルセットが増幅されたときの増幅量を示す信号を取得する増幅量取得手段と、増幅量の時間変化と初期量とに基づいて温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出手段と、ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示手段とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットを、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅効率のばらつき度を求めるため、プライマーに対する温度依存性を検出することができる。また、このばらつき度を、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とともに提示するため、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】リアルタイムPCR装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】キャリブレーション期間を示す図である。
【図3】増幅曲線を得るための標準サンプルの配置例を概略的に示す図である。
【図4】プライマー評価指標提示部の構成を概略的に示す図である。
【図5】実験結果(1)を示すグラフである。
【図6】実験結果(2)を示すグラフである。
【図7】実験結果(3)を示すグラフである。
【図8】実験結果(4)を示すグラフである。
【図9】実験結果(5)を示すグラフである。
【図10】増幅効率のばらつき度を示すグラフである。
【図11】プライマー評価指標提示処理手順を示すフローチャートである。
【図12】他の実施の形態によるリアルタイムPCR装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下に示す順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.リアルタイムPCR装置の構成]
[1−2.プライマー評価指標提示部の構成]
[1−3.プライマー評価指標提示処理手順]
[1−4.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0016】
<1.実施の形態>
[1−1.リアルタイムPCR装置の構成]
図1において、リアルタイムPCR装置1の概略的な構成を示す。このリアルタイムPCR装置1は、反応室RMに対して、複数の基板11〜17を所定間隔で層状に配置した構造を有する。
【0017】
反応基板11は、基準層となる基板であり、該基板には、核酸の増幅反応の場とされる容器(以下、これをウェルとも呼ぶ)ULが高密度に形成される。これらウェルULには、増幅対象の標的核酸及びその標的核酸の増幅に要する各種物質(プライマー、緩衝液、酵素、dNTP、蛍光色素等)が与えられる。
【0018】
例えば6[cm]四方の反応基板11を用いた場合、1[μL]以下の容量でなる4万個程度のウェルULを形成することが可能となる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、反応室RMを小型化した場合であっても、同種又は異種でなる多くの標的核酸を取り扱うことが可能となる。
【0019】
発熱基板12は、反応基板11に対して下側の層として配される基板であり、該基板のうち、反応基板11と対向する面には、ウェルULごとに熱源素子HDが割り当てられ、これら熱源素子HDの周囲には複数の感温素子TDが配される。この熱源素子HDには例えばTFT(Thin Film Transistor)等が用いられ、感温素子TDには例えばピンダイオード等が用いられる。
【0020】
発熱基板12の熱源素子HD及び感温素子TDには温度制御部20が接続される。温度制御部20は、各熱源素子HDでの熱量を、当該熱源素子HDを囲む感温素子TDを用いて所定間隔ごとにセンシングした温度に応じて個別に制御する。
【0021】
具体的に温度制御部20は、増幅ステージ(変性ステージ、アニーリングステージ、伸長ステージ)ごとにウェルUL単位で目標温度を設定する。そして温度制御部20は、目標温度に応じた値の電流又は電圧を、対応するウェルULの熱源素子HDに与えて、各ウェルULを加熱させるようになされている。
【0022】
また温度制御部20は、感温素子TDを用いて所定間隔ごとにセンシングするたびに、該感温素子TDにおいてセンシングされる温度と、目標温度との差を求め、該差に応じて、熱源素子HDに与えるべき電流又は電圧をウェルUL単位で可変するようになされている。
【0023】
これによりこのリアルタイムPCR装置1は、増幅に要する温度条件が異なる場合であっても、高密度に配される各ウェルULの温度を、各増幅ステージ単位で高精度に調整することができる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、温度に起因する増幅反応結果の誤り率を低減して検出精度を向上し得るようになされている。
【0024】
発熱補助基板13は、発熱基板12に対して下側の層として配される基板である。この発熱補助基板13は、反応室RM全体における熱を吸収又は発散することで、該反応室RMを、規定された温度に維持する。
【0025】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、現ステージで設定される温度から次ステージで設定すべき温度にウェルULの温度を移行させるまでの時間(温度勾配の時間)を高速化できるようになされている。ちなみに、発熱補助基板13には例えばペルチェ素子等が用いられる。
【0026】
発光基板14は、反応基板11に対して上側の層として配される基板であり、該基板のうち、反応基板11と対向する面には、各ウェルULにそれぞれ対応させて、インターカレータ等の蛍光物に対する励起光を照射する光源素子LSが配される。この光源素子LSには例えばLED(Light Emitting Diode)が用いられる。
【0027】
励起光透過基板15は、反応基板11と発光基板14との中間層として配される基板であり、光源素子LSから照射される励起光を透過し、該励起光以外の光を反射する。この励起光透過基板15には例えばダイクロイックミラーが用いられる。
【0028】
この励起光透過基板15のうち発光基板14と対向する面には、該発光基板14の各光源素子LSの光軸に対応する位置を基準とする周囲に対して、当該光源素子LSから照射される励起光の散乱光を受光する受光素子LDBが配される。
【0029】
発光基板14の光源素子LS及び励起光透過基板15の受光素子LDBには光量制御部30が接続される。このリアルタイムPCR装置1では、1回の増幅サイクルが終了した時点で直ちに次の増幅サイクルを開始するのではなく、図2に示すように、各回の増幅サイクルの終了時点から、光源素子LSの光量を調整するキャリブレーション期間CFが設けられている。光量制御部30は、このキャリブレーション期間CFごとに、各受光素子LDBで受光される散乱光量が一定となるよう、各ウェルULに対応する光源素子LSの光量を個別に制御するようになされている。
【0030】
これによりこのリアルタイムPCR装置1は、各光源素子LSにおける製造上のばらつきのみならず、当該光源素子LSの経時的変動があっても、各ウェルULに到達される励起光量を一定とすることができる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、励起光によって励起される蛍光量を、各ウェルULでの核酸量自体を反映したものとして検出精度を向上し得るようになされている。
【0031】
蛍光透過基板16は、発熱基板12と発熱補助基板13との中間層として配される基板であり、励起光によって励起される蛍光物の蛍光を透過し、該蛍光以外の光を反射する。また発熱補助基板13と対向する面には、各ウェルULにそれぞれ対応させて、当該ウェルで励起される蛍光を受光する受光素子LDAが配される。
【0032】
この受光素子LDAには核酸量演算部40が接続される。核酸量演算部40は、各受光素子LDAで受光される蛍光量に応じた標的核酸の核酸量を、ステージ単位で算出するようになされている。また核酸量演算部40は、現在と前回のキャリブレーション期間で得られた散乱光量を取得し、これら散乱光量に差がある場合、その差を有する散乱光量を照射する光源素子LSに対応付けられるウェルULでの核酸量を、該差に応じて調整する。これにより核酸量演算部40は、光源素子LSに経時的変動があったとしても標的核酸量を、励起光量を基準として均一化できるようになされている。
【0033】
かかる構成に加えて、このリアルタイムPCR装置1では、アニーリングステージで与えるべき温度が異なる場合の蛍光量の推移(増幅曲線)に基づいて、プライマーを評価すべき指標を提示するプライマー評価指標提示部50が設けられている。
【0034】
プライマー評価指標提示部50に対してプライマーの評価指標を取得させる場合、図3に便宜的に示すように、標準とすべき標的核酸を段階ごとに希釈した標準サンプルの組(以下、これをサンプルセットとも呼ぶ)Stが、相違させるべき温度条件の数だけ、各ウェルULに用意される。ちなみに、これらウェルULには、評価対象のプライマーなど、増幅に要する各種物質が与えられる。
【0035】
このリアルタイムPCR装置1は各ウェルULの温度を個別に調整できるため、アニーリングステージで与えるべき温度をサンプルセットStごとに相違させることができる。したがってこのリアルタイムPCR装置1は、プライマー評価指標提示部50に対して、アニーリングステージで与えるべき温度が異なる場合の蛍光量の推移(増幅曲線)を、1つの反応基板11で同時に取得させることができるようになされている。
【0036】
[1−2.プライマー評価指標提示部の構成]
次に、プライマー評価指標提示部50について説明する。図4において、プライマー評価指標提示部50の概略的な構成を示す。このプライマー評価指標提示部50は、該プライマー評価指標提示部50全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)51に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。
【0037】
具体的には、ROM(Read Only Memory)52、CPU51のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)53、操作部54、記憶部55及び表示部56が接続される。このROM52には、プライマーの評価指標データを生成するためのプログラム(以下、これをプライマー評価指標提示プログラムとも呼ぶ)が格納される。
【0038】
CPU51は、ROM52に格納されたプライマー評価指標提示プログラムをRAM53に展開した場合、該プライマー評価指標提示プログラムにしたがって増幅制御部51A、増幅効率算出部51B及び評価値演算部51Cとして機能する。
【0039】
増幅制御部51Aは、変性ステージ,伸長ステージでの目標温度として各サンプルセットStそれぞれに同一の温度を決定するとともに、アニーリングステージでの目標温度としてサンプルセットStごとに異なる温度を決定する。
【0040】
目標温度の決定手法としては、例えば、プライマー評価指標提示プログラムに規定されたなかから選択させて決定する手法、あるいは、操作部54から入力させて決定する手法などが採用される。
【0041】
また増幅制御部51Aは、例えばサンプルセットStにおける各標準サンプルの初期の核酸量(濃度)の入力画面を表示部56に表示し、当該初期の核酸量を操作部54から取得する。
【0042】
増幅制御部51Aは、サンプルセットStに対する各増幅ステージでの目標温度を決定した場合、当該決定した目標温度を設定するよう温度制御部20に通知する。そして増幅制御部51Aは、温度制御部20及び光量制御部30を駆動させて増幅サイクルにしたがって増幅処理を開始させるようになされている。
【0043】
増幅効率算出部51Bには、増幅制御部51Aの増幅処理の開始により、サンプルセットStにおける各標準サンプルが配されるウェルULに対応する受光素子LDA(図1)から、増幅量(蛍光量)を示す信号が与えられる。
【0044】
増幅効率算出部51Bは、受光素子LDAから与えられる増幅量(蛍光量)と、増幅制御部51Aでカウントされる増幅サイクル数とに基づいて、一定の蛍光強度に達する増幅サイクル数を検出する。
【0045】
そして増幅効率算出部51Bは、サンプルセットStごとに、標準サンプルの増幅効率を算出するようになされている。具体的には、増幅制御部51Aが取得したサンプルセットStにおける各標準サンプルの初期の核酸量を横軸とし、一定の蛍光強度に達する増幅サイクル数を縦軸とする検量線の傾きから増幅効率が算出される。
【0046】
この検量線の傾きと増幅効率との関係について簡単に説明する。一般に、PCR法では鋳型DNAは1サイクルで2倍に増幅すると理論的に考えられており、初期の鋳型DNA量を[DNA]0とし、増幅効率をeとし、増幅サイクル数をCとすると、次式
【0047】
【数1】
【0048】
と表される。この(1)式において、増幅効率e=1のときに括弧のなかが「2」となるので、鋳型DNAは1サイクルで2倍に増幅することになる。
【0049】
ところで、(1)式の両辺の対数をとると、次式
【0050】
【数2】
【0051】
となり、一定の蛍光強度に達するサイクルをCtとすると、
【0052】
【数3】
【0053】
と表される。サイクルCtはlog[DNA]0の関数として表現され、検量線の傾きは−1/log(1+e)である。仮に、増幅効率が100[%](e=1)である場合、検量線の傾きは−3.32となり、増幅効率が85[%](e=0.85)である場合、−3.74となる。つまり、検量線の傾きと増幅効率とは、検量線の傾きが大きいほど増幅効率が悪いという関係にある。書き換えると、増幅効率eは、次式
【0054】
【数4】
【0055】
と表すことができる。
【0056】
ここで、実験結果として、アデノウイルスのタイプ別に、アニーリングステージで与えるべき温度が異なる場合の増幅効率を図5〜図9に示す。この実験では、プライマーはタイプ別にそれぞれ設計した。また、図5〜図9に示すとおり、サンプルセットStに対するアニーリングステージでの目標温度は、55.0[℃],55.9[℃] ,56.7[℃] ,59.3[℃] ,61.0[℃],62.4[℃] ,65.3[℃] ,64.2[℃] ,65.0[℃]とした。なお、プライマー及びアニーリングステージでの目標温度以外の条件は同一である。
【0057】
図5〜図9をみると、例えばタイプ3に対するプライマーは、温度変化にかかわらず同等の増幅効率を呈し、例えばタイプ7に対するプライマーは、温度変化に応じて変動する増幅効率を呈していることが分かる。
【0058】
評価値演算部51Cは、各サンプルセットStに対する増幅効率のばらつき度を、プライマーを評価するための指標として算出する。このばらつき度は、具体的には例えば標準偏差、分散又は平均偏差などが用いられる。
【0059】
ここで、図5〜図9においてタイプ別に示した各温度の増幅効率のばらつき度を、図10に示す。この図10から明らかなように、タイプ3に対するプライマーは、温度依存性が最も低く、良好なプライマーであると評価できる。一方、タイプ7に対するプライマーは、温度依存性が最も高く、不良なプライマーであると評価できる。
【0060】
評価値演算部51Cは、各サンプルセットStに対する増幅効率のばらつき度を算出した場合、ばらつき度に対するプライマーの良悪評価の基準値(以下、これをばらつき閾値とも呼ぶ)と比較する。そして評価値演算部51Cは、算出対象のばらつき度がばらつき閾値以下となる場合、良好なプライマーであることと、算出対象のばらつき度及びばらつき閾値とを、画像表示又は音声により通知する。
【0061】
これに対して評価値演算部51Cは、算出対象のばらつき度がばらつき閾値よりも大きい場合、不良なプライマーであることと、算出対象のばらつき度及びばらつき閾値とを、画像表示又は音声により通知するようになされている。
【0062】
なお、画像表示の態様としては、例えば、ばらつき度を棒状に示すグラフを、該グラフに対してばらつき閾値を示すラインを付すといった態様が採用される。ちなみに、ばらつき度を棒状に示すグラフとともに、相違させた温度と増幅効率との関係の関係を示すグラフを表示させることもできる。
【0063】
この実施の形態における評価値演算部51Cは、ばらつき閾値を、評価対象のプライマーを用いた増殖反応結果の使用用途に応じて切り換えるようになされている。
【0064】
具体的には、例えば、全般な用途に適用すべき第1の閾値と、該基準閾値よりも小さい値として、薬理実験での比較用途に適用すべき第2のばらつき閾値と、臨床での診断用途に適用すべき第3のばらつき閾値とが設定され、これらをユーザに選択させる。
【0065】
これにより評価値演算部51Cは、ユーザに対して、与えられる設計時間を考慮しながらも、プライマー設計の重要度(つまり増殖反応結果に対する使用用途)に応じて、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【0066】
[1−3.プライマー評価指標提示処理手順]
次に、プライマー評価指標提示処理手順について、図11に示すフローチャートを用いて説明する。
【0067】
すなわちCPU51は、例えばプライマーの評価指標を提示すべき命令が操作部54から与えられた場合、このプライマー評価指標提示処理手順を開始して第1ステップSP1に移行する。CPU51は、この第1ステップSP1では、サンプルセットStごとに、当該サンプルセットに対するアニーリングステージでの目標温度を決定し、第2ステップSP2に移行する。
【0068】
CPU51は、この第2ステップSP2では、サンプルセットStにおける各標準サンプルの初期量(濃度)を取得し、第3ステップSP3に移行する。CPU51は、この第3ステップSP3では、第1ステップSP1で決定した目標温度の条件で、各サンプルセットStに対する増幅処理を開始させ、第4ステップSP4に移行する。
【0069】
CPU51は、この第4ステップSP4では、サンプルセットStごとに増幅効率を算出し、第5ステップSP5に移行する。CPU51は、この第5ステップSP5では、各サンプルセットStに対する増幅効率のばらつき度を算出し、第6ステップSP6に移行する。
【0070】
CPU51は、この第6ステップSP6では、ばらつき閾値を選択させ、選択されたばらつき閾値を設定し、第7ステップSP7に移行する。CPU51は、この第7ステップSP7では、ステップSP5で算出したばらつき度と、ステップSP6で設定したばらつき度とに基づいてプライマーを評価し、第8ステップSP8に移行する。
【0071】
CPU51は、この第8ステップSP8では、プライマーの評価結果と、算出対象のばらつき度及びばらつき閾値とを、画像表示又は音声により通知し、当該通知後、このプライマー評価指標提示処理手順を終了する。
【0072】
このようにしてCPU51は、プライマー評価指標提示プログラムにしたがって、プライマー評価指標提示処理を実行するようになされている。
【0073】
[1−4.効果等]
以上の構成において、リアルタイムPCR装置1は、相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットStごとに(図3参照)、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得する。
【0074】
またリアルタイムPCR装置1は、サンプルセットStを構成する、段階ごとに希釈された標準サンプルの初期量(濃度)を取得し、該初期量と増幅量の時間変化に基づいて、温度条件ごとに増幅効率を求める(図5乃至図9参照)。
【0075】
そしてリアルタイムPCR装置1は、温度条件ごとに求めた増幅効率のばらつき度を算出し(図10参照)、算出したばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値(ばらつき閾値)とを提示する。
【0076】
このリアルタイムPCR装置1は、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅効率のばらつき度を求めるため、プライマーに対する温度依存性を検出することができる。これに加えてリアルタイムPCR装置1は、このばらつき度を、ばらつき閾値とともに提示するため、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【0077】
ところでこのリアルタイムPCR装置1は、複数のウェルULに与えるべき熱量を、当該ウェルULに対して設定される温度に応じて個別に制御する温度制御部20(図1)を有する。リアルタイムPCR装置1は、この温度制御部20に対して、サンプルセットStごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配されるウェルULに設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する。
【0078】
そしてリアルタイムPCR装置1は、対応するウェルULに割り当てられる受光素子LDA(図1)から、アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得するようになされている。
【0079】
したがってこのリアルタイムPCR装置1は、アニーリングステージで与えるべき温度条件が異なる場合の増幅量の時間変化(増幅曲線)を、1つの反応基板11で同時に取得させることができる。この結果、このリアルタイムPCR装置1は、増幅効率のばらつき度を算出する効率を格段に向上することができる。
【0080】
さらにこのリアルタイムPCR装置1は、ばらつき閾値を、評価対象のプライマーを用いた増殖反応結果の使用用途に応じて切り換える。
【0081】
したがってリアルタイムPCR装置1は、例えば、全般な用途、薬理実験での比較用途、臨床での診断用途など、プライマー設計の重要度(つまり増殖反応結果に対する使用用途)に応じて、ばらつき閾値を厳しくあるいはゆるく設定することができる。この結果、このリアルタイムPCR装置1は、ユーザに対して、与えられる設計時間を考慮しながらも、プライマー設計の重要度に応じて、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させることが可能となる。
【0082】
以上の構成によれば、増殖サイクルのうちアニーリングステージでの温度条件を異ならせた場合の増幅効率のばらつき度を、ばらつき閾値とともに提示するようにしたことにより、一定の温度耐性をもつプライマーを設計させ得るリアルタイムPCR装置1が実現できる。
【0083】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、変性ステージ,伸長ステージでの目標温度はプログラムに規定されたなかから選択させて決定する又は操作部54から入力させて決定されたが、予め規定した固定値であってもよい。
【0084】
また上述の実施の形態では、増殖サイクルのうちアニーリングステージでの温度条件を異ならせた場合の増幅量の時間変化を示す信号を取得する取得態様として、同一の反応基板11を用いて取得する態様が適用された。しかしながら取得態様はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0085】
例えば、温度条件ごとに別々の反応基板11を用いて取得する態様が適用されてもよい。また例えば、増殖サイクルのうちアニーリングステージでの温度条件を異ならせた場合の増幅量の時間変化を示す信号が格納されるデータ格納媒体から取得する態様が適用されてもよい。
【0086】
なお、データ格納媒体としては、例えばフレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)等のパッケージメディアや、データが一時的若しくは永続的に格納される半導体メモリや磁気ディスク等がある。これらデータ格納媒体からデータを取得する方法としては、ローカルエリアネットワークやインターネット、ディジタル衛星放送等の有線又は無線の通信媒体を利用することも可能である。
【0087】
また上述の実施の形態では、リアルタイムPCR装置1として、いわゆる透過型のものが適用された。しかしながら、これに代えて、例えば、図1との対応部分に同一符号を付した図12に示すように、いわゆる反射型のリアルタイムPCR装置100を適用するようにしてもよい。
【0088】
このリアルタイムPCR装置100における反応基板111には、側壁の底面がR状に形成された複数のウェルULが形成され、これらウェルULに対応させて受光素子LDAが一面に配される。各光源LSから照射される励起光は、励起光透過基板15を介して反応基板111に形成される対応するウェルULに導光される。各ウェルULでは、励起光によって励起される蛍光物の蛍光はウェルULの壁面で反射し、反応基板111の一面に受光素子LDAに入射する。
【0089】
このような反射型のリアルタイムPCR装置100を適用した場合であっても、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、遺伝子実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1……リアルタイムPCR装置、11……反応基板、12……発熱基板、13……発熱補助基板、14……発光基板、15……励起光透過基板、16……蛍光透過基板、20……温度制御部、30……光量制御部、40……核酸量演算部、50……プライマー評価指標提示部、51A……増幅制御部、51B……増幅効率算出部、51C……評価値演算部、52……ROM、53……RAM、54……操作部、55……記憶部、56……表示部、UL……ウェル、St……サンプルセット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得する増幅量取得ステップと、
上記段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得ステップと、
上記増幅量の時間変化と上記初期量とに基づいて、上記温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出ステップと、
上記ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示ステップと
を有するプライマー評価方法。
【請求項2】
標的核酸の増幅反応の場とされる複数の容器に与えるべき熱量を、対応する容器に対して設定される温度に応じて個別に制御する制御部に対して、上記サンプルセットごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配される容器に設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する決定ステップ
をさらに有し、
上記増幅量取得ステップは、
上記容器に割り当てられる受光素子から上記増幅量の時間変化を示す信号を取得する、請求項1に記載のプライマー評価方法。
【請求項3】
上記基準値を、評価対象のプライマーを用いた増殖反応結果の使用用途に応じて切り換える切換ステップ
をさらに有する、請求項2に記載のプライマー評価方法。
【請求項4】
上記提示ステップは、
上記算出ステップで算出されたばらつき度と、上記選択ステップで選択された基準値とを比較し、ばらつき度が基準値よりも小さい場合には当該増殖に用いられたプライマーが良好であること、ばらつき度が基準値よりも大きい場合には当該増殖に用いられたプライマーが不良であることも提示する、請求項3に記載のプライマー評価方法。
【請求項5】
コンピュータに対して、
核酸を増殖可能な装置又は記憶媒体から、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得すること、
上記段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得すること、
上記増幅量の時間変化と上記初期量とに基づいて、上記温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出すること、
上記ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示すること
を実行させるプライマー評価プログラム。
【請求項6】
基板に対して核酸の増幅反応の場として形成される複数の容器に割り当てられる熱源素子と、
上記熱源素子での熱量を、対応する容器に対して設定される温度に応じて個別に制御する制御手段と、
段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配される容器に設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する決定手段と、
上記段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得手段と、
上記容器に割り当てられる複数の受光素子から、上記アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として上記サンプルセットが増幅されたときの増幅量を示す信号を取得する増幅量取得手段と、
上記増幅量の時間変化と上記初期量とに基づいて、上記温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出手段と、
上記ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示手段と
を有するリアルタイムPCR装置。
【請求項1】
段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得する増幅量取得ステップと、
上記段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得ステップと、
上記増幅量の時間変化と上記初期量とに基づいて、上記温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出ステップと、
上記ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示ステップと
を有するプライマー評価方法。
【請求項2】
標的核酸の増幅反応の場とされる複数の容器に与えるべき熱量を、対応する容器に対して設定される温度に応じて個別に制御する制御部に対して、上記サンプルセットごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配される容器に設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する決定ステップ
をさらに有し、
上記増幅量取得ステップは、
上記容器に割り当てられる受光素子から上記増幅量の時間変化を示す信号を取得する、請求項1に記載のプライマー評価方法。
【請求項3】
上記基準値を、評価対象のプライマーを用いた増殖反応結果の使用用途に応じて切り換える切換ステップ
をさらに有する、請求項2に記載のプライマー評価方法。
【請求項4】
上記提示ステップは、
上記算出ステップで算出されたばらつき度と、上記選択ステップで選択された基準値とを比較し、ばらつき度が基準値よりも小さい場合には当該増殖に用いられたプライマーが良好であること、ばらつき度が基準値よりも大きい場合には当該増殖に用いられたプライマーが不良であることも提示する、請求項3に記載のプライマー評価方法。
【請求項5】
コンピュータに対して、
核酸を増殖可能な装置又は記憶媒体から、段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、アニーリングステージで相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットが、該アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として増幅されたときの増幅量の時間変化を示す信号を取得すること、
上記段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得すること、
上記増幅量の時間変化と上記初期量とに基づいて、上記温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出すること、
上記ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示すること
を実行させるプライマー評価プログラム。
【請求項6】
基板に対して核酸の増幅反応の場として形成される複数の容器に割り当てられる熱源素子と、
上記熱源素子での熱量を、対応する容器に対して設定される温度に応じて個別に制御する制御手段と、
段階ごとに希釈された標的核酸を単位として、相違させるべき温度条件の数だけ用意されるサンプルセットごとに、当該サンプルセットにおける標的核酸が配される容器に設定すべきアニーリングステージでの温度を決定する決定手段と、
上記段階ごとに希釈された標的核酸の初期量を示す信号を取得する初期量取得手段と、
上記容器に割り当てられる複数の受光素子から、上記アニーリングステージ以外のステージでの温度条件を固定として上記サンプルセットが増幅されたときの増幅量を示す信号を取得する増幅量取得手段と、
上記増幅量の時間変化と上記初期量とに基づいて、上記温度条件ごとに増幅効率を求め、該増幅効率のばらつき度を算出する算出手段と、
上記ばらつき度と、該ばらつき度に対して設定される、プライマーの良悪評価の基準値とを提示する提示手段と
を有するリアルタイムPCR装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−166823(P2010−166823A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9984(P2009−9984)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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