説明

プラグ材料及びその製造方法

【課題】 放電電圧を低減し、かつ、その状態を長期間維持することができるプラグ材料、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、点火プラグの中心電極を構成する略円柱形状のプラグ材料であって、その断面構造において、第1の金属からなる境界相と、前記境界相により区分された第2の金属からセル相からなり、前記第1の金属と前記第2の金属とは、耐火花消耗性の異なる金属であるプラグ材料である。本発明では、耐火花消耗性の低い金属が優先的に消耗するため、消耗により生じた凹みによりエッジが出現する。これにより放電電圧の低減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグの中心電極を構成する材料に関する。詳しくは、放電電圧が低く、その状態を長期維持することができるプラグ材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用の点火プラグの主要部材である中心電極の構成材料として、従来からPt、Ir、これらの合金が使用されている。これらの金属は、融点が高く耐火花消耗性、耐酸化性に優れることから、燃焼室内の高温・高酸化性雰囲気中でも長寿命であることによる。また、中心電極の構造として、これらの金属・合金を単独使用するものに加えて、最近では2種類の材料を組み合わせたクラッド材を用いる例も知られている(例えば、特許文献1)。Pt、Irのような貴金属はいずれも高融点材料であるが、厳密に比較すると、耐火花消耗性、耐酸化性が異なることから、これらのクラッド材を用いることで、それぞれの長所を活かすことができる。
【特許文献1】特開2002−359052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種のプラグ材料に要求される特性としては、上記のような消耗性、耐酸化性が優先的に挙げられるが、放電電圧もこれらに劣らず重要な特性といえる。如何に耐火花消耗性に優れるとしても中心電極は使用に伴い消耗し、その形状変化により放電電圧が大きく変化し失火現象が生じることがある。従って、放電電圧が適切に低減されており、安定した放電特性を有するものが求められる。この点、従来のプラグ材料においては、このような観点から開発されたものは少ない。
【0004】
そこで、本発明は、放電電圧を低減し、かつ、その状態を長期間維持することができるプラグ材料を提供する。また、このプラグ材料を効率的に製造することができる方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
点火プラグの放電電圧は、その環境面での状況によっても変化するが、中心電極の形状に関していえば、エッジ(角)が出現する形状とすることで放電電圧が低下する傾向がある。消耗により放電特性が変化するのは、消耗により中心電極の形状が丸みを帯びてくるためである。本発明者等は鋭意研究を行い、2種の金属・合金が複合されたプラグ材料を基本とし、放電電圧が低減するため、より多くのエッジを有する構造のものを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、点火プラグの中心電極を構成する略円柱形状のプラグ材料であって、その断面構造において、第1の金属からなる境界相と、前記境界相により仕切られた第2の金属からなる複数のセル相からなり、前記第1の金属と前記第2の金属とは、耐火花消耗性の異なる金属であるプラグ材料である。
【0007】
本発明に係るプラグ材料は、例えば、図1のような断面構造を有し、境界相を備え、境界相により区分されたセル相が形成される。それぞれの相は、耐火花消耗性の異なる金属からなる。このプラグ材料では、耐火花消耗性の低い金属が優先的に消耗するため、消耗により生じた凹みによりエッジが出現する。このようにして生じるエッジの長さは、従来の単純なクラッド材よりも長いものであるから、放電電圧の低減を図ることができる。また、耐火花消耗性の高い金属からなる相もやがて消耗するため中心電極端面は平坦となるが、その際には耐火花消耗性の低い金属からなる相が優先的に消耗し、再度エッジが出現する。このように、エッジの出現、摩耗による平坦化、エッジの再度の出現を繰返ししつつ、放電電圧の低減・安定化を図ることができる。
【0008】
本発明においては、耐火花消耗性の異なる金属・合金を、境界相及びセル相の構成材料として選択し組み合わせるものであるが、境界相(第1の金属)を耐火花消耗性の低い金属で構成し、セル相(第2の金属)を耐火花消耗性の高い金属で構成しても良いし、逆の組み合わせとしても良い。図2のように、いずれにしても、耐火花消耗性の低い金属の消耗によりエッジが出現するからである。本発明において好ましいのは、セル相の方に耐火花消耗性の高い金属を配するのが好ましい。境界相が消耗した際、セル相が針状で残りやすく、放電電圧を安定化させるからである。
【0009】
第1の金属及び第2の金属の具体的な材質は、いずれもプラグ材料として使用可能な金属・合金であることが好ましく、貴金属を含む合金が好ましい。貴金属合金としては、白金、イリジウム、ロジウムの少なくともいずれかを含むものが好ましく、各貴金属の組成として、白金:5〜100重量%、イリジウム:10〜100重量%、ロジウム:0.1〜50重量%の合金が好ましい。また、これら貴金属以外に、鉄、ニッケル、クロムの少なくともいずれかを0.1〜15重量%添加したものも適用できる。
【0010】
耐火花消耗性に基づく第1の金属及び第2の金属の選定においては、イリジウムの含有量と耐火花消耗性には相関があることから、上記の組成において、イリジウムの濃度を基準とすることが好ましい。具体的には、第1の金属のIr濃度は第2の金属のIr濃度に比べて5重量%以上少なくなるように各金属の組成を決定することが好ましい。尚、第1の金属及び第2の金属の組み合わせとしては、例えば、下記表1のようなものが挙げられる。
【0011】
【表1】

【0012】
上記のような断面形状において、放電電圧をより低くするためには、セル相の面積を全断面積に対して2〜80%とするのが好ましい。断面積が大きすぎると放電電圧が低下しなくなるからである。また、耐消耗性を重視する場合はセル相の面積は全断面積に対して50%以上にするのが好ましい。
【0013】
本発明に係るプラグ材料は、図4のように、その外周側面に第1の金属からなる被覆層を有しても良い。この被覆層は、第1の金属からなり境界相と連通するものである。
【0014】
本発明に係るプラグ材料の断面形状において、境界相及びセル相の形状の例としては、図1のように、セル相を四方に平坦な延長部を有する略菱形形状を有するものの他、三叉形状のセル相が形成されたもの(図3(A))、別形状のセル相が形成されたもの(図3(B)、(C))等が挙げられる。これらのうちセル相の形状が細く複雑になる程、消耗時のエッジの長さが増大するが、セル相を複雑化すると製造が困難となる傾向があることから、どのような形状にするかは製造効率とのバランスにより決定される。
【0015】
次に、本発明に係るプラグ材料の製造方法について説明する。本発明に係るプラグ材料の製造方法は、複数の第1の金属からなる棒材又は線材と、第2の金属からなる棒材又は線材と並列に結束し、結束した前記棒材又は線材を線引き加工するか、又は、第1の金属で被覆された第2の金属からなる棒材又は線材を複数並列に結束し、結束した前記棒材又は線材を線引き加工するものである。
【0016】
これらの製造方法は、いずれも、棒材又は線材を原料とするものであり、結束した棒材又は線材を線引き加工により各材料が一体化するまで加工することで、第1及び第2の金属を変形させつつ、境界相及びセル相を形成するものである。これらの方法によれば、境界相を容易に形成することができ、また、ハニカム形状のような複雑形状のセル相も形成することができる。
【0017】
ここで、前者の第1、第2の金属からなる2種の棒材又は線材を使用する方法(図5(A))は、図1のような、境界相の中心部に塊状のセル相を有する形状を形成するのに有用である。一方、後者の第1の金属で被覆された第2の金属からなる棒材又は線材を用いる方法(図5(B))は、幅狭の細い境界相を形成するのに有用である。
【0018】
これらの製造方法においては、いずれの場合においても結束した棒材又は線材の側面、又は、少なくともいずれかの端部を溶接接合した後、線引き加工するのが好ましい。加工時の取り扱いを容易にするためである。
【0019】
また、これらの方法においては、線引き加工の前に、結束した棒材又は線材を第1の金属からなる筒状材に挿入し、前記筒状材を線引き加工するができる(図6A)。この方法によれば、外周側面に被覆層を備えるプラグ材料を容易に製造することができる。また、第1と第2の金属を逆の組み合わせとしても良い。(図6B)
【0020】
尚、本発明において、第1の金属及び第2の金属は、両者の硬度差が100Hv以下となるような組み合わせが好ましい。硬度差が大きすぎると、加工の際に軟らかい材料が優先的に変形して線材長手方向に伸びてしまうため、設計通りの寸法形状が得にくいからである。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係るプラグ材料は、放電電圧が低減されており、更に、これを長期間維持することができるものである。また、本発明に係るプラグ材料の製造方法は、断面形状が比較的複雑なプラグ材料を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施例を説明する。
【0023】
第1実施形態:直径8mmのPt−20重量%Ir合金の線材を4本用意し、これらを直径11mmのIr−10重量%Rh合金の線材の外周に配した。そして、各線材の側面をレーザー溶接した。溶接の条件は、出力250kw、パルス幅3.5msec、OFF時間2.0msecとした。
【0024】
次に、結束した線材を1200℃に加熱して、熱間スエージングで直径8mmまで加工した。更に、熱処理を行いながら線引き加工を行い直径1.2mmの線材(プラグ材料)を製造した。尚、この線引き加工では、断面減少率で30%加工する度に1200℃の熱処理を行った。製造したプラグ材料は、図1に示すような断面形状であり、セル相であるIr−10重量%Rh合金の中心部が、約0.6mm角の正方形状であった。このとき、プラグ材料断面積に対するセル相の面積比は35%であった。
【0025】
第2実施形態:直径5.9mmのIr−10重量%Rh合金の線材に、外径9mm、内径6mmのPt−20重量%Ir合金のパイプを被せ、1200℃に加熱して、熱間スエージングで直径4mmまで加工した後に、加工ひずみ除去と拡散接合のために温度1200℃で1時間の熱処理を行い、更に、2.3mmまで線引き加工し、Pt−20重量%Ir合金で被覆されたIr−10重量%Rh合金の線材を製造した。
【0026】
次に、この被覆された線材を7本結束し、これに外径9mm、内径7mmのPt−20重量%Ir合金のパイプを被せ、熱間スエージング加工した。そして、熱処理を行いながら線引き加工を行い直径1.2mmの線材(プラグ材料)を製造した。線引き加工の際には、断面減少率で30%加工する度に1200℃の熱処理を行った。製造したプラグ材料は、図6(A)に示すような断面形状であり、Pt−20重量%Ir合金からなるハニカム形状の境界相と、7つのIr−10重量%Rh合金からなる多角形のセル相が形成された。セル相の幅は約0.2mmであった。このとき、プラグ材料断面積に対するセル相の面積比は25%であった。
【0027】
第3実施形態:ここでは、第1実施形態に対し、境界相、セル相を構成する金属を逆にしてプラグ材料を製造した。直径8mmのIr−10重量%Rh合金の線材を4本用意し、これらを直径11mmのPt−20重量%Ir合金の線材の外周に配し、溶接して結束した線材を線引き加工してプラグ材料を製造した。線材溶接の条件、線引き加工の条件は第1実施形態と同様とした。製造したプラグ材料は、図1に示すような断面形状であり、セル相であるPt−20重量%Ir合金の中心部が、0.6mm角の正方形状であった。このとき、プラグ材料断面積に対するセル相の面積比は35%であった。
【0028】
比較例1、2:上記実施形態に対する比較として、従来のプラグ材料であるIr−10重量%Rh合金線材、Pt−20重量%Ir合金線材を用意した。線径はいずれも1.2mmである。
【0029】
放電試験:各実施形態、比較例に係るプラグ材料について放電試験を行った。この試験では、各線材を30mmに切断、ギャップ1mmの間隔で対向させて、300時間放電させ、その間の放電電圧の平均値、最大値を測定した。表2はその結果を示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2から、第1〜第3実施形態に係るプラグ材料は、比較例と比較して平均の放電電圧が低減されていることがわかる。また、第1〜第3実施形態に係る平均値と最大値との差も低くなっており、安定した放電特性を維持していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るプラグ材料の断面構造の一例を示す図。
【図2】本発明に係るプラグ材料の消耗した状態を説明する図。
【図3】本発明に係るプラグ材料の断面構造の他の一例を示す図。
【図4】本発明に係るプラグ材料の被覆層を有する場合の断面構造の一例を示す図。
【図5】本発明に係るプラグ材料の製造方法を説明する図。
【図6】本発明に係るプラグ材料の製造方法を説明する図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグの中心電極を構成する略円柱形状のプラグ材料であって、その断面構造において、第1の金属からなる境界相と、前記境界相により区分された第2の金属からなるセル相からなり、前記第1の金属と前記第2の金属とは、耐火花消耗性の異なる金属であるプラグ材料。
【請求項2】
第1の金属及び第2の金属は、白金:5〜100重量%、イリジウム:10〜100重量%、ロジウム:0.1〜50重量%の少なくともいずれかよりなる貴金属合金、又は、前記貴金属合金に鉄、ニッケル、クロムの少なくともいずれかを0.1〜15重量%添加した貴金属合金であり、
第1の金属のIr濃度は第2の金属のIr濃度に比べて5重量%以上少ないものである請求項1記載のプラグ材料。
【請求項3】
プラグ材料の断面積に対する第2の金属の面積比が、2〜80%である請求項1又は請求項2のいずれかに記載のプラグ材料。
【請求項4】
セル相は、外周に向かう平坦な延長部を有する略菱形又は略三叉形の多角形状を有し、前記セル相によって区分された複数の相が形成されてなる請求項1〜請求項3のいずれかに記載のプラグ材料。
【請求項5】
境界相が複数のセル層を分断することにより、ハニカム形状を有してなる請求項1〜請求項3のいずれかに記載のプラグ材料。
【請求項6】
外周側面に第1の金属からなる被覆層を有する請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプラグ材料。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプラグ材料の製造方法であって、複数の第1の金属からなる棒材又は線材と、第2の金属からなる棒材又は線材とを並列に結束し、結束した前記棒材又は線材を線引き加工するプラグ材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のプラグ材料の製造方法であって、第1の金属で被覆された第2の金属からなる棒材又は線材を複数並列に結束し、結束した前記棒材又は線材を線引き加工するプラグ材料の製造方法。
【請求項9】
結束した棒材又は線材の、側面又は少なくともいずれかの端部を溶接接合した後、線引き加工する請求項7又は請求項8記載のプラグ材料の製造方法。
【請求項10】
線引き加工の前に、結束した棒材又は線材を第1の金属からなる筒状材に挿入し、前記筒状材を線引き加工する請求項8又は請求項9記載のプラグ材料の製造方法。
【請求項11】
第1の金属と第2の金属との硬度差が100Hv以下である材料を用いて加工する請求項7〜請求項10記載のプラグ材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−16255(P2009−16255A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178612(P2007−178612)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】