説明

プラスチックの分解回収方法および装置

【課題】多種多様な材料が混ざった被処理物からプラスチックの重合前の原料物質を、低エネルギー且つ低コストで回収する。
【解決手段】分解回収装置は、分解対象の被処理物を収容する反応容器1と、所定温度に水を加熱して過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生器2と、反応容器1内の水蒸気および空気を加熱する加温器3と、反応容器1内で過熱水蒸気に曝されたプラスチックが加水分解されたことによる分解生成物である気体と過熱水蒸気とを冷却して液化する冷却器4と、液化によって得られた液体を回収する回収容器5と、加水分解による分解生成物である液体を回収する回収容器6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料を含む携帯電話機等の被処理物から、プラスチックの重合前の原料物質を回収するプラスチックの分解回収方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄された携帯電話機のような電子機器のリサイクルにおいては、従来、基板等に含まれる金をはじめとする金属を回収するため、機器を破砕し、密度や磁性によって部材を選別した後、金属のみを回収しており、プラスチックをはじめとする非金属の残渣は、焼却して熱エネルギーとして回収するサーマルリサイクルが一般的であった。しかしながら、電子機器に使用されるプラスチックは石油を原料としており、資源枯渇の観点から有効利用されないことは課題であった。
【0003】
廃プラスチックの処理方法として、特許文献1に記載されているように加熱溶融して、再度同じプラスチックとして利用するマテリアルリサイクルがある。しかしながら、このようなマテリアルリサイクルでは、携帯電話機のように製品1個あたりの重量が小さく且つ多品種な電子機器から、同種の廃プラスチックを収集し、再利用することは経済的に困難であった。
【0004】
そこで、さらに廃プラスチックを過熱して油化し、回収するケミカルリサイクルが提案されている。例えば、特許文献2に記載の金属含有廃プラスチックの処理装置および方法では、プラスチックを熱分解し、油化して回収することを提案している。この場合、200℃〜600℃の高温で処理することが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−335657号公報
【特許文献2】特開2008−231229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、特許文献1に記載されたリサイクル装置およびリサイクル方法では、多種多様な材料が混ざった電子機器からプラスチックを回収して再利用することが経済的に難しいという問題点があった。
また、特許文献2に記載された金属含有廃プラスチックの処理装置および方法では、プラスチックを200℃〜600℃の高温で処理する必要があるという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、多種多様な材料が混ざった被処理物からプラスチックの重合前の原料物質を、従来よりも低エネルギー且つ低コストで回収することができるプラスチックの分解回収方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラスチックの分解回収方法は、所定温度に水を加熱して過熱水蒸気を発生させ、プラスチックを含む被処理物を前記過熱水蒸気に曝して、前記プラスチックを加水分解する加水分解処理と、前記加水分解による分解生成物を、気体、液体、固体に分別してそれぞれ回収する分別回収処理とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明のプラスチックの分解回収方法の1構成例において、前記過熱水蒸気の温度は、前記被処理物に含まれるプラスチックの軟化温度以上融点以下の温度に設定されることを特徴とする。
また、本発明のプラスチックの分解回収方法は、さらに、前記加水分解による分解生成物である気体と前記過熱水蒸気とを取り出し、冷却して液化する冷却処理を備え、前記分別回収処理は、前記加水分解による分解生成物である液体を回収すると共に、この分解生成物の回収とは別に前記液化によって得られた液体を回収することを特徴とするものである。
また、本発明のプラスチックの分解回収方法の1構成例において、前記プラスチックは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)のうち少なくとも1つを含むものである。
【0009】
また、本発明のプラスチックの分解回収装置は、所定温度に水を加熱して過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生器と、プラスチックを含む被処理物を収容し、前記過熱水蒸気発生器によって生成された過熱水蒸気に前記被処理物を曝して、前記プラスチックを加水分解する反応容器と、前記加水分解による分解生成物を回収する回収容器とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子機器筐体に広く使われているアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー(ABS)のようなエンジニアリングプラスチックを、比較的低い温度で化学物質を用いることなく加水分解することができ、プラスチックの重合前の原料物質を回収することができ、再利用可能な物質を得ることができる。本発明では、熱的安定性が高く、また難燃剤などが含有されている電子機器筐体用エンジニアリングプラスチックを、環境に優しい水を用いて、比較的低い温度で加水分解することができるので、分解回収に要するエネルギーを低減することができ、分解回収に要する費用を低減することができる。また、本発明では、多種多様な材料が混ざった被処理物からプラスチックの重合前の原料物質を回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラスチックの分解回収方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係るプラスチックの分解回収装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本実施の形態に係るプラスチックの分解回収方法を説明するフローチャート、図2は本実施の形態に係る分解回収装置の構成を示す図である。
本実施の形態の分解回収装置は、分解対象の携帯電話機等の被処理物を収容する反応容器1と、所定温度に水を加熱して過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生器2と、反応容器1内の水蒸気および空気を加熱する加温器3と、加水分解処理による分解生成物である気体と過熱水蒸気とを冷却して液化する冷却器4と、液化によって得られた液体を回収する回収容器5と、加水分解処理による分解生成物である液体を回収する回収容器6とを有する。
【0013】
本実施の形態の分解回収方法の主な処理としては、加水分解処理と分別回収処理とがある。加水分解処理は、プラスチックの軟化温度以上融点以下の処理温度に水を加熱して過熱水蒸気を発生させ、この過熱水蒸気に被処理物を曝し、被処理物中に含まれるプラスチックを過熱水蒸気によって加水分解して、プラスチックの重合前の原料物質を生成させる処理である。分別回収処理は、加水分解処理による分解生成物を気体、液体、固体に分別して、それぞれ回収する処理である。
【0014】
本実施の形態を適用できるプラスチック材料としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)のうちいずれか1つ、ABSとPCとPAのうち少なくとも2つの複合体、あるいはABSとPCとPAのうち少なくとも1つとガラスファイバー(GF)との複合体がある。また、これらの素材をもつ廃プラスチックが混在していても処理が可能である。
【0015】
次に、本実施の形態の分解回収方法についてより詳細に説明する。まず、プラスチック材料を含む電子機器等の被処理物を反応容器1内に投入する(ステップS100)。続いて、過熱水蒸気発生器2によってプラスチック材料の軟化温度以上融点以下の処理温度に加熱した過熱水蒸気を反応容器1内に導入し、過熱水蒸気で満たされた水蒸気雰囲気内に被処理物を曝して、被処理物に含まれるプラスチック材料に加水分解反応を起こさせる(ステップS101)。このとき、反応容器1内に設けられた加温器3は、反応容器1内の水蒸気および空気を、プラスチック材料の軟化温度以上融点以下の設定温度に加熱する。加水分解反応の結果、被処理物に含まれるプラスチック材料から分解生成物、すなわちプラスチックの重合前の原料物質が生成される。分解生成物の種類としては、気体、液体、固体がある。
【0016】
次に、分別回収処理が行われる(ステップS102)。分別回収処理において、加水分解処理による分解生成物である気体は、過熱水蒸気と一緒に冷却器4内に導かれて、冷却器4によって冷却され液化される(ステップS103,S104)。液化によって得られた液体は、回収容器5によって回収される(ステップS105)。この液体は、プラスチックの重合前の原料物質と水とが混ざったものなので、分留を行うことで、プラスチックの重合前の原料物質を回収することができる。
【0017】
また、分別回収処理において、加水分解処理による分解生成物である液体は、回収容器6によって回収される(ステップS106,S107)。
さらに、分別回収処理において、反応容器1内に残った固体は、加水分解処理で分解できなかった残渣なので、作業者による手作業もしくは反応容器1内に設けられた搬出装置(不図示)を使った作業で反応容器1から搬出され、回収される(ステップS108,S109)。
【0018】
本実施の形態では、以上のような分解回収方法の1例として、ABSとPCの複合体と、PAとGFの複合体の2種類の素材からなる携帯電話機の筺体を被処理物として反応容器1内に投入し、被処理物を過熱水蒸気に曝して加水分解処理した。このとき、加温器3の設定温度、すなわち過熱水蒸気を蓄えることができる反応容器1内の設定温度を190℃とした。
【0019】
水蒸気と共に採取した気体を冷却器4で液化して、回収容器5で回収し、得られた液体をガスクトマトグラフィにより分析した結果、スチレン、n−ブタナール、n−ブタノール、酢酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、トルエン、n−ブチルアクリレート、フェノールなどが存在することが確認できた。すなわち、筐体の材料であるプラスチックが加水分解されていることが確認できた。
【0020】
また、回収容器6で回収した液体からも同様にスチレン、n−ブタナール、n−ブタノール、酢酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、トルエン、n−ブチルアクリレート、フェノールなどが検出された。さらに、分解に至らなかった固体の残渣を反応容器1から回収した。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、プラスチック材料を含む被処理物から、プラスチックの重合前の原料物質を回収する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0022】
1…反応容器、2…過熱水蒸気発生器、3…加温器、4…冷却器、5,6…回収容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定温度に水を加熱して過熱水蒸気を発生させ、プラスチックを含む被処理物を前記過熱水蒸気に曝して、前記プラスチックを加水分解する加水分解処理と、
前記加水分解による分解生成物を、気体、液体、固体に分別してそれぞれ回収する分別回収処理とを備えることを特徴とするプラスチックの分解回収方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラスチックの分解回収方法において、
前記過熱水蒸気の温度は、前記被処理物に含まれるプラスチックの軟化温度以上融点以下の温度に設定されることを特徴とするプラスチックの分解回収方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のプラスチックの分解回収方法において、
さらに、前記加水分解による分解生成物である気体と前記過熱水蒸気とを取り出し、冷却して液化する冷却処理を備え、
前記分別回収処理は、前記加水分解による分解生成物である液体を回収すると共に、この分解生成物の回収とは別に前記液化によって得られた液体を回収することを特徴とするプラスチックの分解回収方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプラスチックの分解回収方法において、
前記プラスチックは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)のうち少なくとも1つを含むことを特徴とするプラスチックの分解回収方法。
【請求項5】
所定温度に水を加熱して過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生器と、
プラスチックを含む被処理物を収容し、前記過熱水蒸気発生器によって生成された過熱水蒸気に前記被処理物を曝して、前記プラスチックを加水分解する反応容器と、
前記加水分解による分解生成物を回収する回収容器とを備えることを特徴とするプラスチックの分解回収装置。
【請求項6】
請求項5記載のプラスチックの分解回収装置において、
前記反応容器内に導入される前記過熱水蒸気の温度は、前記被処理物に含まれるプラスチックの軟化温度以上融点以下の温度に設定されることを特徴とするプラスチックの分解回収装置。
【請求項7】
請求項5または6記載のプラスチックの分解回収装置において、
さらに、前記加水分解による分解生成物である気体と前記過熱水蒸気とを前記反応容器から取り出し、冷却して液化する冷却器を備え、
前記回収容器は、前記加水分解による分解生成物である液体を回収すると共に、この分解生成物の回収とは別に前記液化によって得られた液体を回収することを特徴とするプラスチックの分解回収装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載のプラスチックの分解回収装置において、
前記プラスチックは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)のうち少なくとも1つを含むことを特徴とするプラスチックの分解回収装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−255062(P2012−255062A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128025(P2011−128025)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】