説明

プラスチックダンボール用ブロック共重合体、プラスチックダンボール用樹脂組成物、及びプラスチックダンボール

【課題】実用上十分な剛性、ヒンジ特性、滑り性を有し、かつ透明性、耐γ線照射性についても向上が図られたプラスチックダンボール用ブロック共重合体、樹脂組成物、及びこれを用いたプラスチックダンボールを提供する。
【解決手段】少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと、少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとを有し、ビニル芳香族炭化水素含有量が60〜95質量%であるブロック共重合体又はその水添物であるプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)、当該ブロック共重合体(I)を含有する樹脂組成物、前記ブロック共重合体(I)又は前記樹脂組成物からなるプラスチックダンボールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックダンボール用ブロック共重合体、プラスチックダンボール用樹脂組成物、及びプラスチックダンボールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙製ダンボールは、梱包用、緩衝材、吸音材用等、様々な用途に利用されている。これらのうち、特に梱包用のダンボールは、一度使用すると損傷や吸湿により強度が低下したり、破損により紙粉ゴミを生じ、周囲に付着したりするという問題を有している。
【0003】
上述したような紙製ダンボールの欠点を補う材料として、下記特許文献1には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル樹脂からなるプラスチック製ダンボールが開示されている。
また、下記特許文献2には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン又はこれらの混合物を素材としたプラスチック製ダンボールが開示されている。
このようなプラスチック製ダンボールの材料として、実情としては、ヒンジ特性と剛性の観点からポリプロピレンが主として用いられており、ダンボールとしての用途の他、リール、看板、建築用保護、養生材、ディスプレイ、引き出しやコンテナ、インテリア等の仕切り板、照明カバー等様々な用途にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−62918号公報
【特許文献2】国際公開第2003/031271号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ダンボールの用途は多岐に亘り、それぞれの用途に応じた種々の特性が要求されるようになってきている。
例えば、内容物の色の判別が出来る程度の透明性、視認性を求められたり、内容物の重量によっては、滑りやすさや逆に滑り難さが求められたり、内容物によっては衛生上の観点からγ線照射による滅菌処理を行う必要性があるため、用途に応じて耐性が要求されたりする。
【0006】
しかしながら、上述したようなポリプロピレン製等のプラスチックダンボールは、透明性が悪く、また、γ線照射後のヒンジ性能が著しく劣ることが指摘されており、これらの特性の改善が求められている。
そこで、本発明においては、実用上十分な剛性、ヒンジ特性、滑り性を有し、かつ透明性、耐γ線照射性についても特性向上が図られたプラスチックダンボール用ブロック共重合体、樹脂組成物、及びこれを用いたプラスチックダンボールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した従来技術の問題を解決するために鋭意検討した結果、特定構造のブロック共重合体、及び特定のブロック共重合体と、特定のビニル芳香族炭化水素系重合体とを組み合わせた樹脂組成物が、プラスチックダンボール用途として実用上十分な剛性、ヒンジ特性、滑り性を有し、γ線照射後もヒンジ特性が低下することなく、また、透明性も発現でき、上記目的を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
〔1〕
少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと、少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとを有し、
ビニル芳香族炭化水素含有量が60〜95質量%であるブロック共重合体又はその水添物であるプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)。
【0009】
〔2〕
前記ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの含有量が70質量%以下である前記〔1〕に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)。
【0010】
〔3〕
曲げ弾性率が1200MPa以上1600MPa以下、
曲げ降伏応力が24MPa以上45MPa以下、
摩擦係数が0.4以下である、
前記〔1〕又は〔2〕に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)。
【0011】
〔4〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)と、
ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)と、
を、含有するプラスチックダンボール用樹脂組成物。
【0012】
〔5〕
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)が、
下記の(a)〜(d)から選ばれる少なくとも1種のビニル芳香族炭化水素系重合体であり、
前記プラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)と、前記樹脂成分(II)との配合割合(質量比):成分(I)/成分(II)が、99/1〜10/90である前記〔4〕に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物。
(a)スチレン系重合体。
(b)ビニル系芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸無水物、脂肪族不飽和カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の脂肪族不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体。
(c)少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとからなり、ビニル芳香族炭化水素含有量が20〜40質量%であるブロック共重合体から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体成分。
(d)ゴム変性スチレン系重合体。
【0013】
〔6〕
前記ブロック共重合体(I)中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの含有量が70質量%以下である前記〔4〕又は〔5〕に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物。
【0014】
〔7〕
曲げ弾性率が1200MPa以上1600MPa以下、
曲げ降伏応力が24MPa以上45MPa以下、
摩擦係数が0.4以下である、
前記〔4〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物。
【0015】
〔8〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)からなるプラスチックダンボール。
【0016】
〔9〕
前記〔4〕乃至〔7〕のいずれか一に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物からなるプラスチックダンボール。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、剛性、ヒンジ特性、滑り性等の物性バランスが実用上良好で、透明性に優れ、γ線照射後のヒンジ特性の低下がない、プラスチックダンボール用ブロック共重合体、プラスチックダンボール用樹脂組成物、及びこれらを用いたプラスチックダンボールが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0019】
〔プラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)〕
本実施形態のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(以下、プラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)、ブロック共重合体(I)、成分(I)と言うこともある。)は、少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと、少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとを有し、ビニル芳香族炭化水素含有量が60〜95質量%であるブロック共重合体又はその水添物である。
【0020】
(ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックA)
ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAとは、ビニル芳香族炭化水素を50質量%以上含有するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体ブロック、又はビニル芳香族炭化水素単独の重合体ブロックを示す。
【0021】
(共役ジエンを主体とする重合体ブロックB)
共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとは、共役ジエンを50質量%を超える量で含有する共役ジエンとビニル芳香族炭化水素との共重合体ブロック、又は共役ジエン単独の重合体ブロックを示す。
【0022】
(ブロック共重合体(I)の構造)
前記ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックA又は前記共役ジエンを主体とする重合体ブロックB中に、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのランダム共重合体ブロックが存在する場合、当該ランダム共重合体中のビニル芳香族炭化水素は、ランダム共重合体ブロック中に均一に分布していても、テーパー(漸減)状に分布していてもよい。
また、ランダム共重合体ブロックは、ビニル芳香族炭化水素が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分が複数個共存していてもよい。
【0023】
本実施形態のブロック共重合体(I)が、複数個の重合体ブロックA(又はB)を有している場合には、それらは分子量、組成、種類等が互いに異なるものであってもよい。
【0024】
ブロック共重合体(I)のポリマー構造としては、例えば、下記(a)〜(c)のような線状ブロック共重合体が挙げられる。
A−(B−A)n・・・(a)
A−(B−A)n−B・・・(b)
B−(A−B)n+1・・・(c)
ここで、Aはビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックであり、Bは共役ジエンを主体とする重合体ブロックである。
AブロックとBブロックとの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。
nは1以上の整数であり、一般的には1〜5である。
【0025】
また、ブロック共重合体(I)のポリマー構造としては、上記線状ブロック共重合体の他、下記(d)〜(g)のようなラジアルブロック共重合体が挙げられる。
[(A−B)km−X・・・(d)
[(A−B)k−A]m−X・・・(e)
[(B−A)km−X・・・(f)
[(B−A)k−B]m−X・・・(g)
ここで、A、Bは前記(a)〜(c)と同義であり、kは1以上の整数であり、mは3以上の整数であり、一般的には3〜5である。
なお、mが1及び/又は2の重合体が含まれていてもよい。
Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ等のカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。
【0026】
ブロック共重合体(I)を構成するビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等が挙げられる。特に、反応性が良好で、高強度となる傾向にあるため、スチレンが好ましい。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合使用してもよい。
【0027】
ブロック共重合体(I)を構成する共役ジエンとは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。特に、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合使用してもよい。
共役ジエンとして1,3−ブタジエンとイソプレンを併用する場合、1,3−ブタジエンとイソプレンの全質量に対してイソプレンの割合は10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。イソプレンが10質量%以上であると、高温での成形加工時等に熱分解を起こし難く分子量が低下しないため、外観特性や機械的強度のバランス性能の良好なブロック共重合体(I)や、これを含有する樹脂組成物が得られる傾向にある。
【0028】
ブロック共重合体(I)におけるビニル芳香族炭化水素の含有量は、60〜95質量%の範囲であり、好ましくは70〜80質量%の範囲である。
ブロック共重合体(I)におけるビニル芳香族炭化水素の含有量が60〜95質量%の範囲であると、透明性と剛性のバランス性能が良好で、ヒンジ特性にも優れた樹脂が得られる傾向にあり、70〜80質量%の範囲にあると、ヒンジ特性、透明性、剛性に更に優れた樹脂が得られる傾向にある。
【0029】
ブロック共重合体(I)中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのブロック率は、50〜100%の範囲であることが好ましい。ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのブロック率が50%以上であると、本実施形態におけるブロック共重合体及びその樹脂組成物において、優れた剛性が得られる傾向にあるため好ましい。
【0030】
ブロック共重合体(I)の数平均分子量(Mn)は、1万以上15万以下の範囲が好ましく、2万以上12万以下の範囲がより好ましい。
前記(Mn)を1万以上15万以下とすることにより、より一層優れた剛性と耐衝撃性が得られる傾向にあり、更に、成形加工性と透明性も良好なものとなる傾向にある。
前記数平均分子量(Mn)は、四酸化オスミウムを触媒として、ジ・ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドによりブロック共重合体を酸化分解する方法〔I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法〕により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて求めることができる。
すなわち、GPC用の単分散ポリスチレンをGPC測定して、そのピークカウント数と単分散ポリスチレンの分子量との検量線を作成し、常法(例えば「ゲルクロマトグラフィー<基礎編>講談社発行」)に従って算出することができる。
【0031】
ブロック共重合体(I)が、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素をブロック共重合した後、水添処理を行った水添物である場合において(以下、ブロック共重合体の水添物(1)と言う場合もある。)、共役ジエン化合物に基づく不飽和二重結合の水素添加率は、特に限定されるものではないが、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、ブロック共重合体中に、1,2−結合、3,4−結合、1,4−結合の結合様式で組み込まれている不飽和二重結合のうち一部のみが水添されていてもよい。
一部のみを水添する場合には、水素添加率は10%以上70%未満とすることが好ましく、15%以上65%未満とすることがより好ましく、20%以上60%未満とすることが更に好ましい。
【0032】
さらには、ブロック共重合体の水添物(1)において、水素添加前の共役ジエンに基づくビニル結合の水素添加率は、85%以上とすることが好ましく、90%以上とすることがより好ましく、95%以上とすることがさらに好ましい。水素添加率を上記範囲にすることにより熱安定性の向上が図られる傾向にある。
なお、上記ビニル結合の水素添加率とは、ブロック共重合体中に組み込まれている水素添加前の共役ジエンに基づくビニル結合のうち、水素添加されたビニル結合の割合をいう。
また、ブロック共重合体の水添物(1)において、ビニル芳香族炭化水素に基づく芳香族二重結合の水素添加率については、特に制限されないが、50%以下とすることが好ましく、30%以下とすることがより好ましく、20%以下とすることがさらに好ましい。
水素添加率、及び共役ジエン化合物に基づくビニル結合量は、核磁気共鳴装置(NMR)により測定することができる。
【0033】
ブロック共重合体(I)及び、ブロック共重合体の水添物(1)におけるビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの含有量は、70質量%以下がより好ましい。
ビニル芳香族炭化水素ブロックの含有量が70質量%以下であると、ブロック共重合体、及び後述するブロック共重合体を主体とする樹脂組成物において、特にヒンジ特性に優れたものとなるため、搬送用のプラスチックダンボール用としてきわめて有用である。
ビニル芳香族炭化水素ブロックの含有量は、後述する実施例にしめす方法により測定でき、具体的には、四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)で測定できる。
【0034】
(ブロック共重合体(I)の製造方法)
ブロック共重合体(I)は、基本的には、従来公知の方法により合成できる。
例えば、特公昭36−19286号公報、特公昭43−17979号公報、特公昭48−2423号公報、特公昭49−36957号公報、特公昭57−49567号公報、特公昭58−11446号公報等に開示されているように、炭化水素溶剤中で有機リチウム化合物等のアニオン開始剤を用いて、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素をブロック共重合する方法により合成することができる。
なお、本実施形態においては、ブロック共重合体(I)を構成する重合体ブロックA、重合体ブロックB,及びビニル芳香族炭化水素含有量について、上述した条件に従うものとする。
また、ブロック共重合体(I)の製造工程においては、目的とするブロック共重合体(I)の要求特性に応じて後述する所定の添加剤を添加することができる。
【0035】
ブロック共重合体(I)を合成する工程においては、上述したように炭化水素溶媒を用いる。
炭化水素溶媒としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等が使用できる。
これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合使用してもよい。
【0036】
ブロック共重合体(I)を合成する工程においては、上述したようにアニオン開始剤を用いる。
アニオン開始剤としては、例えば、有機リチウム化合物として、分子中に一個以上のリチウム原子が結合した有機モノリチウム化合物、有機ジリチウム化合物、有機ポリリチウム化合物等が適用できる。
具体的には、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム等が挙げられる。
これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合使用してもよい。
【0037】
ブロック共重合体(I)を合成する工程においては、重合速度の調整、重合した共役ジエン部のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)の変更、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の反応比の調整等の目的で、極性化合物やランダム化剤を使用することができる。
極性化合物やランダム化剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類;チオエーテル類;ホスフィン類;ホスホルアミド類;アルキルベンゼンスルホン酸塩;カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。
【0038】
ブロック共重合体(I)の重合温度条件は、一般的には−10℃〜150℃の範囲であり、好ましくは40℃〜120℃の範囲である。
重合に要する時間は、条件によって異なるが、一般的には48時間以内で行うことができ、特に良好な条件を選定することにより1〜10時間で行うことができる。
また、重合を行う際の系の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガスにより置換した状態とすることが好ましい。
重合を行う際の圧力は、上記重合温度範囲において、モノマー及び溶媒を液層に維持するのに充分な圧力の範囲であればよく、特に制限されるものではない。
また、重合系内に触媒及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば、水、酸素、炭酸ガス等が混入しないよう留意することが好ましい。
【0039】
上述したように、ブロック共重合体(I)中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのブロック率は、50〜100%の範囲とすることが好ましい。
【0040】
ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのブロック率は、ブロック共重合体(I)の製造時において、少なくとも一部のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとが共重合する工程におけるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの質量、質量比、重合反応性比等を調整することにより制御できる。
具体的な方法としては、(イ)ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの混合物を連続的に重合系に供給して重合する、及び/又は、(ロ)極性化合物若しくはランダム化剤を使用してビニル芳香族炭化水素と共役ジエンを共重合する、等の方法が挙げられる。
前記極性化合物或いはランダム化剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類;チオエーテル類;ホスフィン類;ホスホルアミド類;アルキルベンゼンスルホン酸塩;カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。
【0041】
なお、前記芳香族炭化水素重合体ブロックのブロック率とは、四酸化オスミウムを触媒として、ジ・ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドによりブロック共重合体を酸化分解する方法〔I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法〕により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し、平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている)を定量し、下記式を用いて求められる。

ブロック共重合体(I)のビニル芳香族
炭化水素重合体ブロックの質量%
ブロック率(%)= ――――――――――――――――― ×100
ブロック共重合体(I)の全ビニル
芳香族炭化水素の質量%
【0042】
(ブロック共重合体の水添物の製造方法)
次に、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の水添物(1)の製造方法について説明する。
ブロック共重合体の水添物(1)は、上記で得られたブロック共重合体に対して水素添加(以下、「水添」とも略される。)が行われることにより得られる。
【0043】
水素添加において用いる水添触媒としては、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒、例えば、(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等の、いわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒等を適用できる。
具体的には、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に開示されている水添触媒を適用できる。
水添触媒の好ましい例としては、チタノセン化合物と還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。
チタノセン化合物としては、例えば、特開平8−109219号公報に記載された化合物が使用でき、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格若しくはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上もつ化合物が挙げられる。
また、還元性有機金属化合物としては、例えば、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0044】
ブロック共重合体に対して水添反応を実施する際の温度条件は、0〜200℃の範囲とすることが好ましく、30〜150℃の範囲とすることがより好ましい。
水添反応に使用される水素の圧力は、0.1〜15MPaが好ましく、0.2〜10MPaがより好ましく、0.3〜5MPaが更に好ましい。
また、水添反応時間は、3分〜10時間が好ましく、10分〜5時間がより好ましい。
水添反応は、バッチプロセス、連続プロセスによって行うことができ、これらを単独で行ってもよく、組み合わせてもよい。
【0045】
〔プラスチックダンボール用樹脂組成物〕
本実施形態のプラスチックダンボール用樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物と言うこともある。)は、上述したブロック共重合体(I)(水添物である場合も含む)と、後述するビニル芳香族炭化水素系重合体(II)とを含有している。
【0046】
(ビニル芳香族炭化水素系重合体(II))
ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としては、下記の(a)〜(d)から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
(a)スチレン系重合体
(b)ビニル系芳香族炭化水素と、脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸無 水物、脂肪族不飽和カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の脂肪族不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体
(c)少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとからなり、ビニル芳香族炭化水素含有量が20〜40質量%であるブロック共重合体から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体成分
(d)ゴム変性スチレン系重合体
【0047】
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としての(a)スチレン系重合体は、上述したブロック共重合体(I)で説明したビニル芳香族炭化水素、又はこれと共重合可能なモノマーを重合して得られるもの(但し、(b)を除く。)である。
前記ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
(a)スチレン系重合体としては、例えば、ポリスチレン、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、メタクリロニトリル-スチレン共重合体等が挙げられる。
また、(a)スチレン系重合体のうち、スチレンを重合させたポリスチレンは、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン、アイソタクチックを有するポリスチレンも含む。
これらの(a)スチレン系重合体の重量平均分子量は、一般に50000〜500000の重合体を使用できる。
また、これらの(a)スチレン系重合体は、単独で使用してもよく、又は二種以上の混合物としても使用できる。
(a)スチレン系重合体は、剛性、滑り性改良剤として利用できる。
【0048】
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としての(b)ビニル系芳香族炭化水素と、脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸無水物、脂肪族不飽和カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の脂肪族不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体について説明する。
(b)成分の合成に使用されるビニル系芳香族炭化水素としては、上述したブロック共重合体(I)の項目で説明したものが挙げられる。
この(b)成分の合成に使用される前記脂肪族不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸等が挙げられる。
また、脂肪族不飽和カルボン酸無水物としては、例えば、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
さらに、脂肪族不飽和カルボン酸エステルとしては、上記の脂肪族不飽和カルボン酸と炭素数C1〜C12、好ましくはC2〜C12のアルコールとのモノ又はジエステルが挙げられる。脂肪族不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル等が挙げられる。
【0049】
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としての(b)成分における、脂肪族不飽和カルボン酸及び/又は脂肪族不飽和カルボン酸誘導体の含有量は、5〜50質量%が好ましく、より好ましくは8〜30質量%、さらに好ましくは10〜25質量%である。
【0050】
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としての成分(b)において、ビカット軟化点が比較的低いビニル芳香族炭化水素系重合体を使用する場合、ビカット軟化点が50〜95℃、好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは65〜85℃である脂肪族不飽和カルボン酸エステル−スチレン共重合体が推奨される。
ビカット軟化温度は、厚さ3mmに圧縮成形したものを試験片とし、ASTM D-1525に準じて測定(荷重:1Kg、昇温速度:2℃/min)した値である。
好ましい脂肪族不飽和カルボン酸エステル−スチレン共重合体は、アクリル酸n−ブチルとスチレンを主体とする共重合体であり、アクリル酸n−ブチルとスチレンの合計量が50質量%以上、より好ましくはアクリル酸n−ブチルとスチレンの合計量が60質量%以上からなる脂肪族不飽和カルボン酸エステル−スチレン共重合体である。
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としての成分(b)においてアクリル酸n−ブチルとスチレンを主体とする脂肪族不飽和カルボン酸エステル−スチレン共重合体を用いた場合、本実施形態の樹脂組成物により作製したプラスチックダンボールは、透明性、剛性が良好である。
【0051】
なお、前記(b)成分は、スチレン系樹脂を製造する公知の方法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等により製造できる。
成分(b)の重量平均分子量は、一般に50000〜500000が好ましい。
【0052】
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としての(c)成分:少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとからなり、ビニル芳香族炭化水素含有量が20〜40質量%であるブロック共重合体から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体成分について説明する。
(c)成分を構成する前記ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAとは、ビニル芳香族炭化水素の含有量が50質量%以上であるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体ブロック及び/又はビニル芳香族炭化水素単独重合体ブロックである。
また、(c)成分を構成する前記共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとは、共役ジエン化合物の含有量が50質量%を超える、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体ブロック及び/又は共役ジエン化合物単独重合体ブロックである。
(c)成分のビニル芳香族炭化水素含有量は上記のように20〜40質量%である。
【0053】
上述したブロック共重合体(I)に、ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)として、上述した成分(a)及び/又は成分(b)を配合すると、樹脂組成物の剛性は高くなるが、ヒンジ特性は低下する傾向にある。一方において、ブロック共重合体(c)を添加すると、高い剛性とヒンジ特性の両方を改善することが可能となる。
【0054】
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)としての(d)成分:ゴム変性スチレン系重合体について説明する。
(d)成分:ゴム変性スチレン系重合体は、ビニル芳香族炭化水素と、ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なモノマーと、ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なエラストマーとの混合物を重合することによって得られる。
重合方法としては懸濁重合、乳化重合、塊状重合、塊状−懸濁重合等が挙げられる。
前記ビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸等が挙げられる。
また、ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なエラストマーとしては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ハイスチレンゴム等が挙げられる。
ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なエラストマーは、ビニル芳香族炭化水素と当該エラストマーを重合する場合には、ビニル芳香族炭化水素を100質量部に対して、3〜50質量部を用いる。また、ビニル芳香族炭化水素とビニル芳香族炭化水素に共重合可能なモノマーと、当該エラストマーとを重合する場合には、ビニル芳香族炭化水素と前記モノマーとの合計量を100質量部に対して、3〜50質量部用いることとする。
(d)成分は、上述した材料を溶解状態、あるいはラテックス状態として、乳化重合、塊状重合、塊状−懸濁重合等を行う。
【0055】
(d)成分:ゴム変性スチレン系重合体としては、耐衝撃性ゴム変性スチレン系重合体(HIPS)が好ましいものとして挙げられる。
【0056】
(d)成分:ゴム変性スチレン系重合体は、本実施形態の樹脂組成物における剛性、ヒンジ特性、滑り性の改良剤として利用できる。
これらの(d):ゴム変性スチレン系重合体の重量平均分子量は、一般に50000〜500000である。
【0057】
(成分(I)、成分(II)の役割)
本実施形態の樹脂組成物における成分(I)、成分(II):成分(a)、成分(b)、成分(c)、成分(d)の役割について説明する。
成分(I)は、ヒンジ特性、剛性、透明性、耐γ線照射性、打ち抜き性の、プラスチックダンボール用の材料として、必要な特性を総合的に担い、成分(II)を、さらに含有させることで、プラスチックダンボールが実用上補完すべき性能バランスの付与を担う。
特に、成分(a)は剛性と滑り性を付与し、成分(b)は高い透明性と剛性を付与する。
成分(c)は、より高いヒンジ特性を付与すると共に、剛性、滑り性付与のために成分(a)、(b)を配合した場合のヒンジ特性の低下を防ぐ役割を果たす。
成分(d)は、成分(c)とは異なる機構によりヒンジ特性を高める役割と滑り性を付与する。
従って、求められるプラスチックダンボールの形状、用途、繰り返し使用回数等にあった実用性能を成分(I)に付与するために、成分(a)、(b)、(c)、(d)を単独、あるいは、2種以上の成分を組み合わせて配合することができる。
【0058】
(成分(I)と成分(II)の配合比率)
本実施形態の樹脂組成物において、成分(I)と成分(II)の好ましい配合比は、成分(I)が99〜10質量%、成分(II)が1〜90質量%であり、より好ましくは成分(I)が90〜20質量%、成分(II)が10〜80質量%、さらに好ましくは、成分(I)が80〜40質量%、成分(II)が20〜60質量%である。
成分(I)が99質量%〜10質量%、成分(II)が1〜90質量%の範囲では、硬くて軽量性、打ち抜き加工性を重視する用途から、ヒンジ特性を要求される用途まで幅広く設計可能となる。
成分(I)が90〜20質量%、成分(II)が10〜80質量%では、さらに割れ難さを要求される用途に適し、成分(I)が80〜35質量%、成分(II)が20〜60質量%では、剛性とヒンジ特性と、滑り性のバランスに優れたプラスチックダンボールを得ることができる。
【0059】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物は、上述した成分(I)と、成分(II)とを、例えば、単軸や2軸の押出し機により混練することにより製造できる。
なお、樹脂組成物の製造工程においては、目的とする樹脂組成物の要求特性に応じて後述する所定の添加剤を添加することができる。
【0060】
〔添加剤〕
本実施形態のブロック共重合体(I)、樹脂組成物には、その性能を損なわない範囲で、種々の添加剤を添加することができる。
好適な添加剤としては、クマロン−インデン樹脂、テルペン樹脂、オイル、流動パラフィン等の軟化剤、可塑剤が挙げられる。
また、各種の安定剤、顔料、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、紫外線吸収剤等も添加できる。
なお、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、潤滑剤としては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸アマイド、エチレンビスステアロアミド、ソルビタンモノステアレート、脂肪酸アルコールの飽和脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。
また、紫外線吸収剤としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,5−ビス−[5’−t−ブチルベンゾオキサゾリル−(2)]チオフェン等、「プラスチック及びゴム用添加剤実用便覧」(化学工業社)に記載された化合物が使用できる。
これらの添加剤は、ブロック共重合体(I)、樹脂組成物に対して、0.01〜5質量%添加することが好ましく、0.05〜3質量%添加することがより好ましい。
【0061】
〔ブロック共重合体(I)、樹脂組成物の物性〕
本実施形態のブロック共重合体(I)、及び本実施形態の樹脂組成物は、曲げ弾性率が1200MPa以上1600MPa以下であることが好ましく、1500MPa以上であることがより好ましい。
曲げ弾性率が1200MPa以上の場合、本実施形態のブロック共重合体(I)又は樹脂組成物を用いてプラスチックダンボールを製造したとき、滑りにくいものとすることができ、輸送中に荷崩れし難いプラスチックダンボール箱を提供でき、また、プラスチックダンボールシートで例えばパネル等の板状の製品を挟んで輸送する際にも、滑り難いことによって、安全に輸送することができる。
曲げ弾性率が1600MPa以下の場合は、ヒンジ性に優れるため、特に搬送用プラスチックダンボール箱の材料として有用である。
曲げ弾性率が1500MPa以上の場合は、良好な滑り性が発現するため、比較的重い内容物を輸送するのに適し、ダンボール箱を積み上げる際に積み上げやすく、また、プラスチックダンボールシートの製造時に不具合が少なくなる。
【0062】
本実施形態のブロック共重合体(I)、及び本実施形態の樹脂組成物は、曲げ降伏応力が24MPa以上45MPa以下であることが好ましく、30MPa以上45MPa以下であることがより好ましい。
プラスチックダンボールシートの曲げ強さは、上述した曲げ弾性率よりも、曲げ降伏応力との相関が強く、曲げ降伏応力が24MPa以上45MPa以下であると、軽量物を梱包する箱に必要な硬さを満足し、30MPa以上45MPa以下であると、重量物の梱包にも耐えうる硬さを満足する。
【0063】
上述した曲げ弾性率、曲げ降伏応力は、後述する実施例に示すように、ミネベア株式会社製TG−5KN型試験機を用いて、ASTM D790に準拠して測定することができる。
【0064】
本実施形態のブロック共重合体(I)、及び本実施形態の樹脂組成物は、摩擦係数が0.4以下であることが好ましく、0.32以下であることがより好ましく、0.27以下であることがさらに好ましい。摩擦係数が0.32以下であると、プラスチックダンボールとして使用した際、軽量物の積み上げ時に滑り不足による支障を来たさず、0.3以下では積み上げ時に滑り不足による作業性を阻害しないと共に、荷崩れも起こし難く、0.27以下では、より重量物の運搬時の積み上げ、積み下ろし時の負担が少なくなる。
摩擦係数が、後述する実施例に示すように、ミネベア株式会社製TG−5KN型試験機を用いて、試験用平板に荷重1kgの重りを載せ、所定の速度条件下で測定できる。
【0065】
〔プラスチックダンボール〕
本実施形態のプラスチックダンボールは、上述したブロック共重合体(I)、又は樹脂組成物を成形したものである。
本実施形態のプラスチックダンボールとしては、紙製のダンボールと同じ構造を持つ積層品、すなわち、2枚の平坦なライナーシートの間に波形のシート(コルゲートシート)を配置したものや、2枚のプラスチックシートを平行に走る多数のリブで接続したものを、ハモニカ型のダイから一挙に押し出して製造したもの等が挙げられる。
さらに、上記シートの外側の片側、あるは両側に、同種、異種の樹脂製シートを貼り合わせた構造のものも挙げられる。
この場合、従来公知の樹脂や樹脂組成物を外層材と中層材に用いたり、本実施形態のブロック共重合体(I)や樹脂組成物を中層材に使用し、外層材に従来公知の樹脂や樹脂組成物を貼り合わせたり、またこの逆の構成とすることもできる。
従来公知の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリ乳酸、ABS、熱可塑性エラストマー、ポリアミド、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について具体的な実施例と比較例を挙げて説明するが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0067】
下記表1にブロック共重合体(I)、下記表2に、樹脂成分(II)であるビニル芳香族炭化水素系重合体を示した。
【0068】
〔成分(I).ブロック共重合体の調製〕
ブロック共重合体は、シクロヘキサン溶媒中、n−ブチルリチウムを触媒とし、テトラメチルエチレンジアミンをランダム化剤として、下記表1に示すスチレン含有量(質量%)、ブロック率(質量%)及び分子量を有するブロック共重合体を製造した。
なお、ブロック共重合体の調製において、モノマーはシクロヘキサンで濃度20質量%に希釈したものを使用した。
(ブロック共重合体I−1)
攪拌機付き重合器に、スチレン25質量部を含むシクロヘキサン溶液を添加し、その後70℃に加熱し、n−ブチルリチウムを全使用モノマー100質量部に対して0.065質量部添加して70℃で1時間重合した。
次に、スチレン21質量部と、1,3−ブタジエン21質量部とを含むシクロヘキサン溶液を添加して70℃で1時間重合した。
その後、スチレン6質量部と、1,3−ブタジエン2質量部とを含むシクロヘキサン溶液を添加して70℃で1時間重合した。
その後、更にスチレン25質量部を含むシクロヘキサン溶液を添加して、70℃で1時間重合した。
次に、重合器にメタノールをn−ブチルリチウムに対して1.0倍モル添加して重合を停止し、安定剤として2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレートを、目的とするブロック共重合体100質量部に対して0.6質量部を加えた後、脱溶媒してブロック共重合体I−1を得た。
ブロック共重合体I−1の特性を下記表1に示した。
【0069】
(ブロック共重合体I−2〜I−4)
重合に使用するモノマーの割合、触媒量を変え、その他の条件は、ブロック共重合体I−1と同様とし、ブロック共重合体I−2〜I−4を調製した。
得られたブロック共重合体I−2〜I−4の特性を下記表1に示した。
【0070】
〔成分(II).ビニル芳香族炭化水素系重合体:ビニル系芳香族炭化水素及びビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体エラストマーの調製〕
ビニル系芳香族炭化水素系重合体は、汎用ポリスチレン(GPPS)(II−1:PSジャパン株式会社製 ポリスチレン685、MI=3g/10min)、スチレン−n−ブチルアクリレート共重合体(II−2:PSジャパン株式会社製 SC004、MI=4g/10min)を使用した。
ブロック共重合体エラストマーとしてスチレン−ブタジエンブロック共重合体(II−3:旭化成ケミカルズ(株) タフプレン126、MI=6g/10min)を使用した。
耐衝撃性ゴム変性スチレン系重合体としてHIPS(II−4:PSジャパン(株) ポリスチレン 475D、MI=2g/10min)を使用した。
使用したビニル芳香族炭化水素系重合体を下記表2に示した。
【0071】
〔測定・評価方法〕
後述する 実施例及び比較例において行う測定・評価方法を下記に示す。
((1)スチレン含有量)
ブロック共重合体等のスチレン含有量は、紫外分光光度計(装置名:UV−2450;島津製作所製)を用いて測定した。
【0072】
((2)ブロックスチレン含有量、ブロック率)
水添前のブロック共重合体を、四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)でブロックスチレン含有量を測定した。
また、ブロック率は、同法により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている)を用いて、次の式から求めた。
ブロック率(質量%)=(ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの重量/ブロック共重合体中の全ビニル芳香族炭化水素の重量)×100
【0073】
((3)数平均分子量)
ブロック共重合体等の数平均分子量は、GPC装置(米国、ウォーターズ製)を用い、溶媒にはテトラヒドロフランを用い、35℃で測定を行い、重量平均分子量と数平均分子量が既知の市販の標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を使用し、これとの比較により求めた。
【0074】
((4)曲げ試験(曲げ弾性率、曲げ降伏応力))
ミネベア株式会社製TG−5KN型試験機を用いて、ASTM D790に準拠して、測定した。
【0075】
((5)透明性(曇価))
縦5cm、横4cm、厚さ2mmの平板を作製し、JIS K6714に準拠して曇価を測定した。
透明性(曇価)は40%未満であれば、内容物の色の判別が出来る程度の透明性を有すると判断した。
【0076】
((6)ヒンジ特性)
縦5cm、横4cm、厚さ2mmの平板を作製し、縦方向(樹脂の流れ方向)に垂直に折り曲げる360℃折り曲げ試験を行い、一部でも切れ、穴あきが生じるまでの折り曲げ回数を測定した。
また、平板に250kGyのγ線を照射した後、同様の折り曲げ試験を行い、ヒンジ特性の耐γ線性を評価した。
【0077】
((7)静摩擦係数)
縦5cm、横4cm、厚さ2mmの平板を作製し、ミネベア株式会社製TG−5KN型試験機を用いて、平板に荷重1kgの重りを載せ、縦方向(樹脂の流れ方向)に試験速度50mm/minで走行させたときの静摩擦係数を測定した。
静摩擦係数は、0.4以下であれば滑り性が実用上良好であると判断した。
【0078】
((8)打ち抜き性)
縦5cm、横4cm、厚さ2mmの平板を作製し、平板に250kGyのγ線を照射した後、直径6mmの円形のパンチ(打ち抜き機)を用いシートに穴をあけ、打ち抜かれた円形の穴の周囲のひび割れの発生を観察し、下記の評価を行った。
〇:ひびの発生しないもの。
×:ひびの発生するもの。
【0079】
〔実施例1〜19〕、〔比較例2〕
〔実施例1〜4〕においては、ブロック共重合体I−1〜I−4を使用し、〔実施例5〜19〕、〔比較例2〕においては、ブロック共重合体I−1〜I−4とビニル芳香族炭化水素系重合体II−1〜II−4とを組み合わせて使用し、株式会社池貝製2軸押出し機(PCM30)を用いて、下記表3〜表5で示す配合にてペレットを作製した。
その後、日精樹脂工業株式会社製射出成形機(FE120)を用いて、シリンダー温度210℃で、縦5cm、横4cm、厚さ2mmの平板を作製し、曲げ試験、曇価、静摩擦係数を測定した。
また、厚み1/4インチ、幅1/2インチ、長さ5インチの短冊状平板を成形し、曲げ試験を行った。
【0080】
〔比較例1〕
市販のポリプロピレン樹脂(日本ポリケム株式会社製、ノバテックPP EC9)を日精樹脂工業株式会社製射出成形機(FE120)を用いて、シリンダー温度210℃で、縦5cm、横4cm、厚さ2mmの平板を成形し、曲げ試験、曇価、静摩擦係数を測定した。
また、厚み1/4インチ、幅1/2インチ、長さ5インチの短冊状平板を成形し、曲げ試験を行った。
【0081】
前記〔実施例1〜19〕、〔比較例1、2〕の評価結果を下記表3〜表5に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
〔実施例1〜4〕の共重合体樹脂は、プラスチックダンボールに必要な適度な剛性を有し、透明性が高く、更に、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの含有量が70質量%以下である〔実施例1〜3〕は、γ線照射後も高いヒンジ特性を示した。
また、〔実施例5〜14〕のビニル芳香族系炭化水素樹脂を配合した樹脂組成物は、摩擦係数が低下し良好な滑り性を示した。
また、〔実施例15〜19〕の樹脂組成物は、高い剛性と良好な打ち抜き性を示した。
【0088】
〔比較例1〕のポリプロピレン樹脂は、透明性が悪く、γ線照射後に著しいヒンジ特性の低下、打ち抜き時のひび割れがみられた。
本願の組成の範囲外にある比較例2は、ヒンジ特性が著しく低く、打ち抜き時のひび割れが見られ、プラスチックダンボールには、不向きであった。
なお、〔実施例18〕、〔比較例2〕の曲げ降伏応力は、脆性破断のため測定できなかったが、〔実施例18〕は、透明性及び打ち抜き性が良好であり、仕切り板、看板、ディスプレイ等の用途には、好適に使用できる特性を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のブロック共重合体及びその樹脂組成物は、梱包用、緩衝材、吸音材用、リール、看板、建築用保護、養生材、ディスプレイ、引き出しやコンテナ、インテリア等の仕切り板、照明カバー、医薬品搬送容器、食品搬送容器等の材料として、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと、少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとを有し、
ビニル芳香族炭化水素含有量が60〜95質量%であるブロック共重合体又はその水添物であるプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)。
【請求項2】
前記ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの含有量が70質量%以下である請求項1に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)。
【請求項3】
曲げ弾性率が1200MPa以上1600MPa以下、
曲げ降伏応力が24MPa以上45MPa以下、
摩擦係数が0.4以下である、
請求項1又は2に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)と、
ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)と、
を、含有するプラスチックダンボール用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ビニル芳香族炭化水素系重合体(II)が、
下記の(a)〜(d)から選ばれる少なくとも1種のビニル芳香族炭化水素系重合体であり、
前記プラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)と、前記樹脂成分(II)との配合割合(質量比):成分(I)/成分(II)が、99/1〜10/90である請求項4に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物。
(a)スチレン系重合体。
(b)ビニル系芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸無水物、脂肪族不飽和カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の脂肪族不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体。
(c)少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとからなり、ビニル芳香族炭化水素含有量が20〜40質量%であるブロック共重合体から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体成分。
(d)ゴム変性スチレン系重合体。
【請求項6】
前記ブロック共重合体(I)中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの含有量が70質量%以下である請求項4又は5に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物。
【請求項7】
曲げ弾性率が1200MPa以上1600MPa以下、
曲げ降伏応力が24MPa以上45MPa以下、
摩擦係数が0.4以下である、
請求項4乃至6のいずれか一項に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプラスチックダンボール用ブロック共重合体(I)からなるプラスチックダンボール。
【請求項9】
請求項4乃至7のいずれか一項に記載のプラスチックダンボール用樹脂組成物からなるプラスチックダンボール。

【公開番号】特開2012−17390(P2012−17390A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154983(P2010−154983)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】