説明

プラスチックレンズの染色方法及びプラスチックレンズ染色用基体作成装置

【課題】 気相転写染色方法において、コバ厚やレンズカーブの影響を抑制して均一な色濃度を得ることのできるプラスチックレンズの染色方法、及び該方法に用いるプラスチックレンズ染色用基体作成装置を提供する。
【解決手段】 インクジェットプリンタを出力制御して、染色用インクを基体に塗布してレンズの直径よりも小さな直径の円形状にて所定の色濃度からなる第1の印刷パターンと、第1の印刷パターンの周囲に第1の印刷パターンと同色で異なる色濃度からなる第2の印刷パターンとが形成された染色用基体を得て、これをプラスチックレンズと真空中にて非接触にて対向させるとともに基体を加熱することにより昇華性色素を昇華させ、昇華性色素がついたプラスチックレンズを加熱して染色面全域の色濃度を略均一として染色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックレンズを染色する方法、及び該方法に用いる染色用基体の作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズ等の透明樹脂を染色する方法として、レンズを染色液の中に所定時間浸漬してレンズを染色する方法(浸染法)が知られている。この方法は従来から用いられているものであるが、作業環境が良くないこと、高屈折率のレンズには染色を行うことが困難であることが問題となっていた。そこで本出願人はインクジェットプリンタを用いて、昇華性染料を含有する染色用インクを紙等の基体上に塗布(出力)させ、これを真空中でレンズと非接触に置き、昇華性染料をレンズ側に飛ばして染色を行う方法(以下 気相転写染色方法と記す)による染色方法を提案した。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2001−59950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この気相転写染色法においては、プリンタにて染料を基体上に塗布しておき、この基体の染料塗布面とレンズとを真空中にて非接触に対向させた状態で染料を昇華させ、レンズ側に染料をつける。しかしながら、強度数のレンズでは曲率(レンズカーブ)を大きくするためにコバが厚くなりやすく、レンズ周辺部分がコバの厚みに応じて対向する基体側に近くなっていく。このため、基体からレンズ中心部分までの距離と、基体からレンズ周辺部分までの距離との差が大きくなり、レンズの染色面全体の色濃度を均一にすることが難しいという問題がある。
上記従来技術の問題点に鑑み、気相転写染色方法において、コバ厚やレンズカーブの影響を抑制して均一な色濃度を得ることのできるプラスチックレンズの染色方法、及び該方法に用いるプラスチックレンズ染色用基体作成装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) プラスチックレンズの染色方法において、染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするために電子計算機に入力された染色情報に基づいて、昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを基体に塗布し前記プラスチックレンズの直径よりも小さな直径の円形状にて所定の色濃度からなる第1の印刷パターンを形成するとともに,該第1の印刷パターンの外周から外側に向って前記プラスチックレンズの直径を超える所定の範囲に前記第1の印刷パターンと同色で異なる色濃度からなる第2の印刷パターンを形成する工程と、前記染色用インクが塗布された前記基体の塗布面とを真空中にて非接触にて対向させるとともに前記基体を加熱することにより昇華性色素を昇華させる工程と、前記昇華性色素がついた前記プラスチックレンズを加熱して染色面全域の色濃度を略均一として染色する工程と、を有する。
(2) (1)のプラスチックレンズの染色方法において、前記第2の印刷パターンは前記第1の印刷パターンに対して同心円状に形成されることを特徴とする。
(3) (1)のプラスチックレンズの染色方法において、前記プラスチックレンズの染色面が凹面の場合には前記印刷パターンは中心部の色濃度に対して周辺部の色濃度を薄くし,凸面の場合には前記印刷パターンは中心部の色濃度に対して周辺部の色濃度を濃くしたことを特徴とする。
(4) (1)〜(3)のプラスチックレンズの染色方法において、前記第2の印刷パターンの形成領域は外周に向うにしたがって前記第1印刷パターンの色濃度との差が大きくなるように前記染色用インクが塗布されていることを特徴とする。
(5) (1)〜(4)のプラスチックレンズの染色方法において、前記第1印刷パターンと第2印刷パターンは,染色を行うプラスチックレンズの基材,レンズの屈折力,レンズの曲率,並びにレンズの型番の少なくとも一つの情報を考慮して染色後のプラスチックレンズの染色面全域の色濃度が略均一となるように形成されることを特徴とする。
(6) プラスチックレンズの染色方法において、染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするために電子計算機に入力された染色情報に基づいて、前記プラスチックレンズの直径よりも大きな領域を有する印刷パターンであって中心から外周に向って同心円状に色濃度が変化するような印刷パターンとなるように昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを基体に塗布する工程と、前記染色用インクが塗布された前記基体の塗布面とを真空中にて非接触にて対向させるとともに前記基体を加熱することにより昇華性色素を昇華させる工程と、前記昇華性色素がついた前記プラスチックレンズを加熱して染色面全域の色濃度を略均一として染色する工程と、を有することを特徴とする。
(7) プラスチックレンズを染色するための染色用インクが塗布された基体を作成するプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするための染色情報を入力する染色情報入力手段と、前記プラスチックレンズのレンズ情報を入力するレンズ情報入力手段と、前記染色情報入力手段及びレンズ情報入力手段にて入力された情報に基づいて,昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを前記プラスチックレンズの直径よりも小さな直径の円形状にて所定の色濃度からなる第1の印刷パターンにて基体に塗布するとともに,前記染色用インクを該円形状の印刷パターンの周辺に前記プラスチックレンズの直径を超える範囲に前記第1の印刷パターンと同色で異なる色濃度からなる第2の印刷パターンにて基体に塗布する印刷手段と、を有することを特徴とする。
(8) (7)のプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、前記レンズ情報入力手段は、レンズの基材,屈折力,及び曲率,並びにレンズの型番の少なくとも一つの情報を入力する手段であることを特徴とする。
(9) (8)のプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、前記染色情報入力手段は、前記プラスチックレンズを所望する色にて染色するための色情報を入力する色情報入力手段と,前記基体に印刷する印刷パターンの全領域を所定の色で同濃度となるように前記染色用インクを塗布するか、前記第1印刷パターンと第2印刷パターンの組み合せとして前記染色用インクを塗布するかの選択を行うための印刷パターン選択手段と、を有することを特徴とする。
(10) プラスチックレンズを染色するための染色用インクが塗布された基体を作成するプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするための染色情報を入力する染色情報入力手段と、前記染色情報入力手段にて入力された情報に基づいて,昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを前記プラスチックレンズの直径よりも小さな直径の円形状にて所定の色濃度からなる第1の印刷パターンにて基体に塗布するとともに,前記染色用インクを該円形状の印刷パターンの周辺に前記プラスチックレンズの直径を超える範囲に前記第1の印刷パターンと同色で異なる色濃度からなる第2の印刷パターンにて基体に塗布する印刷手段と、を有することを特徴とする。
(11) (10)のプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、前記染色情報入力手段は、前記第1の印刷パターン及び第2の印刷パターンの大きさを設定するための印刷パターン設定手段と、該印刷パターンにて設定された各印刷パターン上の色濃度を設定するための色濃度設定手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、気相転写染色方法において、コバ厚やレンズカーブの影響を抑制して均一な色濃度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面を参考にしつつ説明する。図1は使用する染色用基体作成装置等を示した染色システム概略図、図2は染色用基体作成装置の制御系を示したブロック図である。
100はプラスチックレンズ染色用基体作成装置であり、モニタ101、パーソナルコンピュータ(以下、PCと略す)102、インクジェットプリンタ103等から構成される。104はキーボード、マウス等のPCを操作するための操作部である。図2に示すようにPC102は、種々の演算処理を行うCPUを有する制御部102a、ハードディスクからなる記憶部102bを備える。制御部102aは、後述する染色用基体作成ソフトを用いてインクジェットプリンタ103から染色用基体1を出力させるための制御を行う。また、記憶部102bには、プラスチックレンズを染色するための染色用基体を作成するための染色用基体作成ソフトのプログラムや、プラスチックレンズの各種基材情報、基体に塗布するための染色用インクの色データ等が記憶されている。
【0007】
図1に示す染色用基体1は、インクジェットプリンタ103に使用可能な紙等の媒体に所定の形状にて染色用インクが塗布(出力)されたものである。なお、染色用基体1の熱の吸収効率を上げるために、裏面(印刷を行わない面)の全域が黒色となっているものが使用される。このような片面が黒色の紙は、一般に市販されているものを使用することや、両面が白色の紙の片面を黒く塗ることにより使用することができる。
また、インクジェットプリンタ103に用いられる染色用インクは、少なくとも赤、青、黄、の計3色が用いられる。染色用インク中に含有される染料は昇華性を有しつつ、昇華時の熱に耐えうる染料を使用する必要がある。さらにプラスチックレンズへ染料が蒸着したあと、発色作業を行い染料をプラスチックレンズへ定着させたときに染色がムラのない状態にてプラスチックレンズに行われている必要がある。これらの点を考慮した場合、染料としてはキノフタロン系昇華性染料またはアントラキノン系昇華性染料が好適に用いられる。
【0008】
図1に示す20は真空気相転写機である。真空気層転写機20の正面には、プラスチックレンズ10や前述した染色用基体1等を出し入れするための図示無き開閉扉が設けられている。真空気相転写機20内部の上部には、染色用基体1を熱して染料を昇華させるための熱源としての加熱ランプ21が設置される。本実施形態で使用される加熱ランプ21はハロゲンランプを使用しているが、染色用基体1と非接触にて加熱が可能なものであればこれに限るものではない。また、真空気相転写機の床部には、染色用治具200が置かれ、この染色用治具200にプラスチックレンズ10や染色用基体1を取り付ける。また、22はロータリーポンプであり、真空気相転写機20内をほぼ真空にさせるために使用する。23はリークバルブであり、このバルブを開くことで、ほぼ真空になった真空気相転写機20内に外気を入れ、大気圧に戻すものである。
【0009】
図3は染色用治具200の構成を示した図である。
13は染色用基体1を載せるための円筒の形状を有する基体支持台であり、その内側にレンズ支持台11が収まるように置かれる。12はレンズ支持台11の上に置かれる円筒形のレンズ台であり、プラスチックレンズ10が下に落ちないようレンズを支えるレンズ支持部12aを備える形状となっている。レンズ台12をレンズ支持台11上に載せた後、プラスチックレンズ10の凸面側の周縁をレンズ支持部12aに載せることにより、プラスチックレンズ10を所定の高さ位置で保持させることができる。14は基体押さえであり、基体支持台13の上部に載せられた染色用基体1を基体押さえ14と基体支持台13とで挟み込むことにより、染色用基体1が動かないようにしっかりと固定保持する。このとき染色用基体1のインク塗布面2は、レンズ10側(下側)に向けてレンズ10の染色予定面(本実施形態では凹面側)に対して非接触にて対向している。また、気相転写染色方法にてプラスチックレンズ10を染色するにあたっては、染色用基体1とプラスチックレンズ10との間が極端に狭いと染料の分散が十分に行われず、レンズ表面の染色がむらとなって蒸着する傾向がある。従って、プラスチックレンズ10の染色面側の幾何中心から染色用基体1までの距離は最低5mm程度離しておくことが好ましい。また、反対にプラスチックレンズ10の染色面と染色用基体1との間が離れすぎると、プラスチックレンズ10への染色濃度が薄くなってしまい、所望する染色濃度が得られ難くなる。また、気層中で染料の粒子が均一に分散されず、反対に互いに集結するため、プラスチックレンズ10の染色面にてむらになって蒸着する傾向がある。このような点から、プラスチックレンズ10の染色面側の幾何中心から染色用基体1までの距離は5〜30mmが好ましく、さらに好ましくは5〜20mmである。
【0010】
なお、使用されるプラスチックレンズ10の材質は、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR−39))、ポリウレタン系樹脂、アリル系樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネート及びその共重合体、ジアリルフタレート及びその共重合体)、フマル酸系樹脂(例えば、ベンジルフマレート共重合体)、スチレン系樹脂、ポリメチルアクリレート系樹脂、繊維系樹脂(例えば、セルロースプロピオネート)、さらにはチオウレタン系やチオエポキシ系等の高屈折率の材料や、その他従来より染色性に劣るとされた高屈折率材料等を用いることができる。
また、図1に示す30はオーブンであり、真空気相転写機20にて昇華性染料がついたプラスチックレンズ10を所定温度で加熱し、染料を定着、発色させるために用いられる。
【0011】
以上のような構成を備える染色システムを用いて、気相転写染色方法によりプラスチックレンズを染色する方法を以下に説明する。初めに染色用基体1の作成について説明する。
図4はPC102を用いて染色用基体作成ソフトを起動させ、モニタ101に染色用基体作成画面300を表示した例を示した図である。図中、301はインクジェットプリンタ103から染色用基体1を出力させる際における染色用インクの塗布条件を種々設定するための条件設定ボタンである。図示する条件設定ボタン301のうち、301aはレンズの素材を設定する素材設定ボタンであり、例えば、MR8,CR39等のレンズ素材情報を入力することができる。301bはレンズの染色濃度を設定するための濃度設定ボタンであり、染色濃度と染色パターン(全面染色、グラデーション染色)を設定することができる。また、301cは色を選択するための色設定ボタンであり、予め店頭等に用意されているカラーサンプル等の色指定番号等を入力することができる。また、302a〜302cは、条件設定ボタン301(301a〜301c)にて設定された条件を表示する欄であり、各条件設定ボタンに対応して各々設けられている。各条件設定は、モニタ101の画面上に表示されているカーソル304をマウスを用いて移動させ、各条件設定ボタン301(301a,301b,301c)をクリックする。なお、PC102の記憶部102bには、予め各条件設定ボタン301にて設定可能な条件データが種々記憶(登録)されている。各条件設定ボタン301がクリックされると、制御部102aは、クリックされた条件設定ボタンに対応する条件データの登録リストを記憶部102bから呼び出し、これを図示する別ウインドウ305として表示する。なお、図4では素材設定ボタン301aクリックした際に呼び出される別ウインドウを示している。別ウインドウ305には設定可能な条件データが一覧で表示されており、ここから所望する条件データをカーソル304により選択する。制御部102aは選択された条件データを欄302aに表示する。同様に濃度設定ボタン301b,色設定ボタン301cをクリックして、条件を設定する。
【0012】
303は染色用基体1をインクジェットプリンタから出力する際に、1つの印刷パターンのみとするか、中心部と周辺部で染色インクの塗布濃度が異なるように2つの印刷パターンを形成するかを選択するための印刷パターン選択部である。
本実施形態では、プラスチックレンズ10と染色用基体1とを所定距離だけ離して対向させておき、プラスチックレンズ10側に昇華性染料をつけるものとしている。染色に用いるプラスチックレンズが、高度数でコバが厚いマイナスレンズの場合(曲率が大きい場合)、対向する染色用基体1からレンズ中心部分までの距離と、基体からレンズ周辺部分までの距離との差が大きくなり、染色後のレンズの中心部と周辺部とで意図しない濃度差が生じてしまう場合がある。このため、レンズが低度数(レンズの曲率が小さい)場合には、印刷パターン選択部の「通常」を選択し、レンズが高度数(曲率が大きいレンズ、例えば8カーブの屈折曲面を持つレンズ)の場合には、「2重円」を選択し、印刷ボタン306をクリックし、印刷(染色用基体の作成)を行う。なお、サングラス等、度数がなくても8カーブ等の曲率が大きく均一な染色が望めないようなレンズの場合には「2重円」を選択する。
【0013】
印刷ボタン306がクリックされると、制御部102aは素材設定ボタン301aにて設定されたレンズ条件、濃度設定ボタン301b、色設定ボタン301cによって設定された染色条件に基づき、インクジェットプリンタ103のインクカートリッジから染色用インクを吐出し、紙に所定の印刷パターンにて塗布することによって染色用基体1を作成する。その際、印刷パターン選択部303にて「通常」が選択がされていれば、制御部102aはプラスチックレンズ10の直径よりも若干大きい直径の円形状からなる1つの印刷パターンを形成するようにインクジェットプリンタ103を制御する。また、「2重円」が選択されていれば、同じ色で濃度が異なる2つの円形状を同心円(2重円)として紙に形成させる。
【0014】
図5(a)は染色用基体1に2重円が形成された状態を示した図である。ここで内側の印刷パターン2aは、プラスチックレンズ10の直径よりも小さな直径D1の円形状にて形成される印刷パターン(中心部の印刷パターン)であり、外側の印刷パターン2bは、印刷パターン2aの外周から外側に向ってプラスチックレンズの直径を超える直径D2の円形状、言い換えれば(D2-D1)/2の幅を持つ円環状にて形成される印刷パターン(周辺部の印刷パターン)である。また、印刷パターン2bは、印刷パターン2aと同色であるとともに、印刷パターン2aの色濃度よりも薄い濃度にて形成される。
【0015】
なお、印刷パターン2a,2bの径の比や、印刷パターン同士の色濃度の差は、均一な染色に影響を及ぼす程度の曲面形状を持つプラスチックレンズを予め種々染色して、染色後のプラスチックレンズの中心部と周辺部の濃度差が極力押えられる(濃度差5%以内、好ましくは3%以内、さらに好ましくは1%以内)ような条件を定量的に求め、これを印刷パターン2a,2bの形成条件として記憶部102bに記憶させておけばよい。例えば、印刷パターン2aの直径D1は、印刷パターン2bの直径D2に対して50%〜70%程度の大きさ、印刷パターン2aの色濃度に対して印刷パターン2bの色濃度を40%〜80%程度とする。
【0016】
また、本実施形態では高度数のプラスチックレンズを染色するために濃度の異なる2重円からなる印刷パターンを形成するものとしているが、これに限るものではなく、図5(b)に示すように、印刷パターン2bの領域は、外周に向うにしたがって印刷パターン2aの色濃度との差が大きくなっていくように形成されていても良い。さらに2つの印刷パターン2a,2bを形成するのではなく、1つの印刷パターン上にて中心から外周に向って同心円状に濃度勾配(色濃度の変化)を設けるようにすることもできる。このような濃度勾配は、染色後のレンズの染色領域が全域に渡って均一に染色できるような印刷パターンが形成されていれば良く、レンズ中心から外周に向って変化するレンズ染色面と染色用基体との距離(間隔)を考慮して、所定の計算式に基づいて印刷パターンに形成する濃度勾配を決定することもできるし、定量的に求めることも可能である。
なお、図5(b)では印刷パターン2bは、外周に向うにしたがって3段階で色濃度が薄くなっていくように形成されている。なお、周辺部を形成する印刷パターン2bは円形(円環状)に限るものではなく、矩形状等、レンズの直径を超える大きさにて形成されていれば良い。なお、1枚の染色用基体1上に左右レンズ用のインク塗布面2を1対として形成してもよい。
【0017】
このようにして得られた染色用基体1とプラスチックレンズ10とを前述した真空気相転写機20内に設置してプラスチックレンズ10に昇華性染料をつける。染色用治具200を用いてプラスチックレンズ10、染色用基体1を非接触に対抗させた状態でセットした後、真空気相転写機20を密閉してロータリーポンプ22を用いて真空状態にする。このときの真空状態とは0.1kPa〜5kPa付近まで減圧した状態をいう。0.1kPaを下回っても差し支えないが、高性能排気装置を必要とする。また、装置内の気圧が高ければ高い程、染料を昇華させるのに必要な温度が高くなるため、圧力の上限は5kPa、さらに好ましくは0.1kPa〜3kPaである。
【0018】
真空気相転写機20が所定の真空度に達したら、ハロゲンランプ21を点灯させ、染色用基体1を上方から加熱する。染色用基体1上での加熱温度は染料の変質やレンズの変形が生じない中で、できるだけ高い温度になるようにすることが好ましい。ハロゲンランプ21の点灯により染色用基体1が加熱されるため、図3に示す着色層2より染料が昇華、蒸散し、プラスチックレンズ10の凹面側に蒸着する。ハロゲンランプ21の点灯による染色用基体1への加熱時間は、着色層2上の染料が殆ど昇華、蒸散するまで行えばよい。
【0019】
コバが厚く大きなレンズカーブを持つプラスチックレンズ10と、対向して非接触に置かれる染色用基体1とにおいて、その中心部間の距離と周辺部間の距離との差が大きくなってしまうが、上述したように同色で濃度の異なる2種類の印刷パターン2a,2bが染色用基体1に形成されていることによって、結果的に昇華した染料がプラスチックレンズ10側の凹面に略均一に蒸着することとなる。
加熱が終了したら、ハロゲンランプ21の点灯を止めるとともにリークバルブ23を開いて常圧に戻し、真空気相転写機20の扉を開けプラスチックレンズ1を取り出す。プラスチックレンズ1には昇華した染料が蒸着しているが、このままでは取れやすいので、図1に示すオーブン30に入れ、常圧下にて加熱し定着(発色)させる。
【0020】
この工程はプラスチックレンズ10の耐熱温度以下で、できるだけ高温に設定された温度にオーブン内を加熱し、所望の色相及び濃度を得るために予め定めておいた時間が経過した後にオーブン内からプラスチックレンズ3を取り出すといった手順で実行される。オーブン30の加熱温度は、染料の変質やレンズの変形が生じない範囲でできるだけ高い温度が好ましい。例えば、加熱温度は70〜150℃、加熱時間は30分〜3時間程である。このような工程を経て、プラスチックレンズ10の凹面側に略均一に染色が施されることとなる。
【0021】
なお、本実施形態ではプラスチックレンズの凹面側に染料を蒸着させ染色を行うものとしているが、これに限るものではなく、レンズの凸面側に染色を行うこともできる。この場合において、染色面を略均一のプラスチックレンズの染色用基体に濃度の異なる印刷パターンを同心円状に複数形成する際には、染色面全域を略均一な濃度とすることを目的として中心部の濃度に対して周辺部が濃くなるような印刷パターンを形成すればよい。
【0022】
さらに本実施形態では、染色用基体の作成するための各種条件設定時に、レンズ度数や曲率の大きさ等を考慮して操作者の判断にて、色濃度の異なる2種類の印刷パターンを組み合せる設定を行うものとしているが、これに限るものではない。入力(設定)されたレンズ情報、及び染色情報を基づいて制御部が印刷パターンの形成条件を判断することも可能である。この場合には、染色用基体作成画面上にレンズの曲率情報、度数情報、レンズの型番情報等のレンズ情報のうちの少なくとも一つの情報を記憶部に登録情報として記憶させておくとともに、これらのレンズ情報のうちの少なくとも一つの情報を入力、設定することが可能な設定ボタンを設けておき、この設定ボタンにより設定されたレンズ情報に基づいて制御部が印刷パターンの形成条件を決定し、染色用基体の作成時に反映させることもできる。
【0023】
さらにまた、染色用基体作成ソフトを用いてレンズを均一に染色するための印刷パターンの形成データをより使用者の要望に応じて細かく設定することもできる。図6は詳細な印刷パターンを設定するための染色用基体作成画面の一例を示したものである。なお、このような染色用基体作成画面は、前述したようにPC内に記憶されている染色用基体作成ソフトのプログラムを実行することにより、モニタに表示される。図示する染色用基体作成画面400において、401は印刷パターンを詳細に設定する際の登録ファイル名を入力するファイル名入力欄である。402は図5(a)に示した2つの印刷パターン2a,2bの大きさ(パターン径)を設定するためのパターン設定欄である。パターン設定欄402のうち、Inner欄402aは、図5(a)に示す内側の印刷パターン2aの大きさを設定する欄であり、ここでは印刷パターン2aの直径(図5に示すD1)を入力するものとしている。また、パターン設定欄402のOuter欄402bは、図5(a)に示す外側の印刷パターン2bの大きさを設定する欄であり、ここでは印刷パターン2の最外周を構成する円の直径から印刷パターン2aの直径を差し引いた長さ(図5に示すD2−D1)が設定され、これにより印刷パターン2bの大きさ(円環状の印刷パターン2bの太さ)が決まる。
【0024】
403は赤色、黄色、青色の各色についてインクカートリッジからの吐出量(色濃度)を各々設定するための標準処方設定欄である。標準処方設定欄403には各色に対して、単位面積当たりに印刷する0〜1024(ドット)までの数値を入力することができ、入力された数値に基づいて赤、黄、青の合成色が決定される。なお、この標準処方設定欄403で設定される色は、デフォルトでの色として印刷パターン2a(Inner)に形成される色(色濃度)となる。
【0025】
404は図5(a)に示した印刷パターン2a及び2bの色を変更するための色詳細設定欄である。色詳細設定欄404は、各色(赤、黄、青)において、Inner側、Outer側に対して「処方値」または、標準処方設定欄403で設定された各色の処方値を100%としたときの「割合」を各々変更、設定することができるようになっている。なお「処方値」及び「割合」は互いに関連付けられており、どちらか一方が変更された場合、それに応じて他方も自動的に変更される。より具体的には図6に示すように、Inner側の処方は標準処方設定欄403で設定された内容(500ドット)と同じとし、Outer側の処方値を若干色濃度が薄くなるように400ドットに変更すると、制御部の演算によってOuter側の割合を示す欄も自動的に80.00%と設定・表示されることとなる。反対に「割合」の方を変更しても、それに対応して「処方値」が変更される。
【0026】
各項目欄への入力は、入力はカーソル420を動かして各項目欄(401〜404)を指定して入力可能状態とした上で図示無きキーボードにより文字、数値を入力する。染色用基体作成画面400にて、染色を行うレンズが染色領域に渡って略均一に染色されるように、2種類の印刷パターンの大きさの設定や赤、黄、青の合成色の設定、及び設定した各印刷パターン毎の色濃度の設定を行い、染色用基体を作成するための染色情報を入力した後、印刷ボタン405を指定(クリック)すると、図示無き制御部は、設定した各種条件に基づいてインクジェットプリンタから所定の印刷パターンを紙に出力する。
また、登録ボタン406をカーソル420を用いて指定すると、設定された各種条件が図示無き記憶部に保存されるとともに、ファイル名入力欄401にて入力したファイル名が登録欄410に表示される。後日この設定で染色用基体を作成したいときは、この登録欄から所望するファイル名を指定すればよい。407は現在の設定を取り消す取消ボタンである。
なお、図6の染色用基体作成画面400では、2つの印刷パターンの大きさや色濃度を各々設定できるものとしているが、これに限るものではなく、必要に応じて印刷パターンの数や設定する各種の条件を増やすこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】染色システムの構成を示した模式図である。
【図2】染色用基体作成装置の制御系を示したブロック図である。
【図3】染色用治具の概略構成を示した図である。
【図4】染色用基体作成画面を示した図である。
【図5】インクジェットプリンタにより作成された染色用基体の例を示した図である。
【図6】染色用基体作成画面を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1 染色用基体
2a,2b 印刷パターン
10 プラスチックレンズ
20 真空気相転写機
30 オーブン
100 染色用基体作成装置
101 モニタ
102 PC
102a 制御部
102b 記憶部
103 インクジェットプリンタ
200 染色用治具
300 染色用基体作成画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするために電子計算機に入力された染色情報に基づいて、昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを基体に塗布し前記プラスチックレンズの直径よりも小さな直径の円形状にて所定の色濃度からなる第1の印刷パターンを形成するとともに,該第1の印刷パターンの外周から外側に向って前記プラスチックレンズの直径を超える所定の範囲に前記第1の印刷パターンと同色で異なる色濃度からなる第2の印刷パターンを形成する工程と、前記染色用インクが塗布された前記基体の塗布面とを真空中にて非接触にて対向させるとともに前記基体を加熱することにより昇華性色素を昇華させる工程と、前記昇華性色素がついた前記プラスチックレンズを加熱して染色面全域の色濃度を略均一として染色する工程と、を有することを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
【請求項2】
請求項1のプラスチックレンズの染色方法において、前記第2の印刷パターンは前記第1の印刷パターンに対して同心円状に形成されることを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
【請求項3】
請求項1のプラスチックレンズの染色方法において、前記プラスチックレンズの染色面が凹面の場合には前記印刷パターンは中心部の色濃度に対して周辺部の色濃度を薄くし,凸面の場合には前記印刷パターンは中心部の色濃度に対して周辺部の色濃度を濃くしたことを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
【請求項4】
請求項1〜3のプラスチックレンズの染色方法において、前記第2の印刷パターンの形成領域は外周に向うにしたがって前記第1印刷パターンの色濃度との差が大きくなるように前記染色用インクが塗布されていることを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
【請求項5】
請求項1〜4のプラスチックレンズの染色方法において、前記第1印刷パターンと第2印刷パターンは,染色を行うプラスチックレンズの基材,レンズの屈折力,レンズの曲率,並びにレンズの型番の少なくとも一つの情報を考慮して染色後のプラスチックレンズの染色面全域の色濃度が略均一となるように形成されることを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
【請求項6】
染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするために電子計算機に入力された染色情報に基づいて、前記プラスチックレンズの直径よりも大きな領域を有する印刷パターンであって中心から外周に向って同心円状に色濃度が変化するような印刷パターンとなるように昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを基体に塗布する工程と、前記染色用インクが塗布された前記基体の塗布面とを真空中にて非接触にて対向させるとともに前記基体を加熱することにより昇華性色素を昇華させる工程と、前記昇華性色素がついた前記プラスチックレンズを加熱して染色面全域の色濃度を略均一として染色する工程と、を有することを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
【請求項7】
プラスチックレンズを染色するための染色用インクが塗布された基体を作成するプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、
染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするための染色情報を入力する染色情報入力手段と、前記プラスチックレンズのレンズ情報を入力するレンズ情報入力手段と、前記染色情報入力手段及びレンズ情報入力手段にて入力された情報に基づいて,昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを前記プラスチックレンズの直径よりも小さな直径の円形状にて所定の色濃度からなる第1の印刷パターンにて基体に塗布するとともに,前記染色用インクを該円形状の印刷パターンの周辺に前記プラスチックレンズの直径を超える範囲に前記第1の印刷パターンと同色で異なる色濃度からなる第2の印刷パターンにて基体に塗布する印刷手段と、を有することを特徴とするプラスチックレンズ染色用基体作成装置。
【請求項8】
請求項7のプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、前記レンズ情報入力手段は、レンズの基材,屈折力,及び曲率,並びにレンズの型番の少なくとも一つの情報を入力する手段であることを特徴とするプラスチックレンズ染色用基体作成装置。
【請求項9】
請求項8のプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、前記染色情報入力手段は、前記プラスチックレンズを所望する色にて染色するための色情報を入力する色情報入力手段と,前記基体に印刷する印刷パターンの全領域を所定の色で同濃度となるように前記染色用インクを塗布するか、前記第1印刷パターンと第2印刷パターンの組み合せとして前記染色用インクを塗布するかの選択を行うための印刷パターン選択手段と、を有することを特徴とするプラスチックレンズ染色用基体作成装置。
【請求項10】
プラスチックレンズを染色するための染色用インクが塗布された基体を作成するプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、
染色後のプラスチックレンズの染色面全域を所望する色で略均一な染色濃度とするための染色情報を入力する染色情報入力手段と、前記染色情報入力手段にて入力された情報に基づいて,昇華性染料を溶解又は微粒子分散させた染色用インクを前記プラスチックレンズの直径よりも小さな直径の円形状にて所定の色濃度からなる第1の印刷パターンにて基体に塗布するとともに,前記染色用インクを該円形状の印刷パターンの周辺に前記プラスチックレンズの直径を超える範囲に前記第1の印刷パターンと同色で異なる色濃度からなる第2の印刷パターンにて基体に塗布する印刷手段と、を有することを特徴とするプラスチックレンズ染色用基体作成装置。
【請求項11】
請求項10のプラスチックレンズ染色用基体作成装置において、前記染色情報入力手段は、前記第1の印刷パターン及び第2の印刷パターンの大きさを設定するための印刷パターン設定手段と、該印刷パターンにて設定された各印刷パターン上の色濃度を設定するための色濃度設定手段とを有することを特徴とするプラスチックレンズ染色用基体作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−107775(P2008−107775A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90813(P2007−90813)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】