説明

プラスチックレンズの着色方法

【課題】 従来の気相法によるプラスチックレンズの着色方法に比べて、レンズの均染性およびレンズの染色速度に優れるプラスチックレンズの着色方法を提供する。
【解決手段】 着色剤吐出手段あるいはスプレー方式、刷毛塗り方式または浸漬方式により、昇華性染料を含む着色剤を吐出または塗布して、昇華性染料を含む着色剤を、着色しようとするレンズ箇所の形状と同一形状以上の大きさに形成し、かつ着色しようとするレンズ箇所の形状に対応する着色層全体に加熱用部材を接触させ、該着色層を加熱することにより、昇華性染料を昇華させて、プラスチックレンズを着色する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチックレンズの着色方法に関し、さらに詳しくは、従来の気相法によるプラスチックレンズの着色方法に比べて、レンズの均染性およびレンズの染色速度に優れるプラスチックレンズの着色方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、プラスチックレンズはガラスレンズに代わり多方面で使用されているが、中でも視力矯正用に使用されるコンタクトレンズ、眼鏡用レンズはコスメティック効果または医療効果(例えば、紫外線からの保護など)の目的から、レンズを着色して使用することが盛んに行われている。ガラスレンズがプラスチックレンズに置き換えられる理由として、プラスチックレンズの軽量化、安全性(割れにくい)の他に、容易に着色できる可染性を挙げることができる。
【0003】プラスチックレンズの着色に関しては、これまで種々の方法が実施されており、その中の一つとして気相法によるプラスチックレンズの着色方法がある。
【0004】この気相法によるプラスチックレンズの着色方法は、従来の浸漬法では着色が困難であったレンズを容易に着色できるという長所を有しており、例えば(イ)有機色素顔料を用い、放射状に昇華させて着色する方法(特公昭35−1384号公報)、(ロ)固形昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを着色する方法(特開昭56−153321号公報、特開昭56−159376号公報)、(ハ)昇華性染料を塗布してなる基体を加熱することにより、該染料を昇華させてプラスチックレンズ表面に染色層を形成させる方法(特開平1−277814号公報)などが提案されている。
【0005】しかしながら、上記(イ)の方法においては、着色剤として有機色素顔料を用いるために、顔料の不透明な薄膜が形成されるにすぎないし、(ロ)の方法においては、固形昇華性染料をレンズ面に対し、定量的に付着させることができない上、着色源の均一加熱が不可能で、染色濃度の調整が難しいという欠点がある。また、(ハ)の方法においては、昇華性染料を塗布してなる基体を加熱手段と非接触状態で加熱すると共に、テーパー型のレンズ保持具を用いていることから分かるように、着色しようとするレンズ箇所よりも小さい形状の着色層を加熱して、プラスチックレンズ表面に染色層を形成させていることになる(特開平1−277814号公報、第1図参照)。このような方法によると、上記(ロ)の方法に比べて、着色源の均一加熱が可能で、染色濃度の調整が容易であるが、染色速度およびプラスチックレンズにおける着色の均染性については、必ずしも十分に満足しうるものではなかった。また、プラスチックレンズの着色濃度をどのようにして制御するか、その手段については具体的には記載されていない。したがって、従来の浸漬法では着色が困難であったプラスチックレンズを容易に着色することができ、染色濃度の調整が容易である上、均染性および染色速度に優れるプラスチックレンズの着色方法の開発が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、従来の気相法による着色方法に比べて、レンズの均染性およびレンズの染色速度に優れるプラスチックレンズの着色方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、着色剤吐出手段またはその他の手段により、昇華性染料を含む着色剤を吐出または塗布して、昇華性染料を含む着色層を、着色しようとするレンズ箇所の形状と同一形状以上の大きさに形成し、かつ着色しようとするレンズ箇所の形状に対応する着色層全体に加熱用部材を接触させ、該着色層を加熱することにより、昇華性染料を昇華させて、プラスチックレンズを着色することにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】すなわち、本発明は、昇華性染料を含む着色層が、着色しようとするレンズ箇所の形状と同一形状以上の大きさを有し、かつ着色しようとするレンズ箇所の形状に対応する着色層全体に加熱用部材を接触させ、該着色層を加熱することにより、昇華性染料を昇華させて、プラスチックレンズを着色する方法であって、前記着色層を、着色剤吐出手段により、昇華性染料を含む着色剤を吐出させて形成するか、あるいは昇華性染料を含む着色剤をスプレー方式、刷毛塗り方式または浸漬方式により塗布して形成することを特徴とするプラスチックレンズの着色方法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の着色方法において、着色層に含まれる昇華性染料としては、大気中あるいは真空中で染料を加熱した場合に、昇華する性質を有する染料であればよく、特に制限はない。このような昇華性染料の例としては、特開平1−277814号公報2ページ左下欄第6行〜第13行に記載されている染料、さらには、Dianix Red TA-N(三菱化学)、Kayalon Microester Red C-LS conc(日本化薬)、Kayalon Microester Red AQ-LE(日本化薬)、Miketon Fast Red Z(三井化学)、Kayalon Microester Red DX-LS(日本化薬)、Dianix Blue UN-SE(三菱化学)、Disperse Fast Blue Z(三井化学)、Dianix/Samaron Navy Blue TA-N(三菱化学)、Kayalon Microester Blue C-LS conc(日本化薬)、Kayalon Microester Blue AQ-LE(日本化薬)、Kayalon Microester Blue DX-LS conc(日本化薬)、Dianix/Samaron Orange TA-N(三菱化学)、Dianix Yellow TA-N(三菱化学)、Kayalon Microester Yellow AQ-LE(日本化薬)、KayalonMicroester Yellow DX-LS conc(日本化薬)、Miketon Fast YellowZ(三井化学)、Kayalon Microester Yellow C-LS(日本化薬)などを好ましく挙げることができる。これらの昇華性染料は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】本発明の着色方法は、昇華性の特性を有する染料を、昇華させることにより、好ましくは、実質的に染料を全量昇華させて、プラスチックレンズを着色させるものである。かかる方法によって、昇華性染料の量と、プラスチックレンズの着色濃度に相関関係をもたせ、着色層に含有されている昇華性染料の量を制御することにより、プラスチックレンズの着色濃度を制御することができる。
【0011】本発明においては、上記の昇華性染料を含む着色層に加熱用部材を接触させて、該着色層を加熱して昇華性染料を昇華させる。この際、加熱用部材と着色層との間に板状熱伝導性基体を介在させるのが、着色作業の効率上有利である。この基体は被着色プラスチックレンズ径よりも大きいものが好ましい。したがって、上記着色層を板状熱伝導性基体の表面に形成し、該基体と着色層とを一体化してもよいし、あるいは着色層を付着させた繊維成形物を板状熱伝導性基体の表面に配置してもよい。
【0012】本発明における着色層は、着色剤を含む溶液(以下、着色剤溶液と称す)を用いて形成させることができる。この着色剤溶液は、昇華性染料の量を制御する観点から、昇華性染料に、水またはアルコ−ルなどの有機溶媒、あるいは必要に応じて水溶性アクリル樹脂などのバインダ−、さらには、本発明の目的を損なわない範囲で、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等の助剤を加えて調製するのがよい。着色剤の濃度は特に限定されず、プラスチックレンズの材質、プラスチックレンズの着色濃度等を考慮して決定される。
【0013】着色層の形成方法としては、該着色剤溶液をインクジェット方式の吐出機構などの吐出手段あるいはスプレー方式、刷毛塗り方式または浸漬方式を用いて、加熱用部材上、板状熱伝導性基体上、あるいは繊維成形物上等に形成する。加熱用部材上および板状熱伝導性基体上に形成する場合には、染料を固着させるために、加熱用部材および板状熱伝導性基体をあらかじめ加熱しておくことが好ましい。また水溶性アクリル樹脂などのバインダ−を加えて、室温にて固化できる場合には、加熱用部材および板状熱伝導性基体をあらかじめ加熱する必要性はない。
【0014】また、加熱用部材や板状熱伝導性基体(着色層形成用基板)表面に、着色剤の塗布性をよくし、均一な着色層を形成させるために、予め水溶性ポリマーの水系溶液を用いてコーティング処理を施したのち、加熱して水溶性ポリマーの硬化被膜を設けておいてもよい。なお、水溶性ポリマーの種類については、後で説明する。一方、繊維成形物上に形成させる場合には、紙、合成繊維、ガラス繊維、天然繊維等の繊維成形物上に、着色層を固着させるため、水溶性アクリル樹脂などのバインダ−を着色剤溶液に加えて、かかる着色剤溶液を繊維成形物上に吐出させる方法が有利である。
【0015】着色層を所望の形状、大きさにする場合には、着色層を形成しようとする基体上に、所望の形をくり抜いた型版を置いて、昇華性染料を吹き付ける方法を用いることができる。
【0016】板状熱伝導性基体の材質については熱伝導性を有し、染料を昇華させるのに必要な加熱に対し、十分な耐性を有するものであればよく、特に制限はないが、一般に、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼などの金属板が用いられ、特にアルミニウム板やアルミニウム合金板が、軽量性及び熱伝導性などの点から好ましい。
【0017】本発明における着色層は、プラスチックレンズの着色を均一にするため、着色しようとするレンズ箇所の形状と同一形状以上の大きさを有し、かつ、前記着色層の加熱を、着色しようとするレンズ箇所の形状に対応する着色層全体に加熱用部材を接触させて行うことが必要である。かかる方法により、着色層を形成する昇華性染料が、均一に昇華し、着色しようとするレンズ箇所における着色ムラが生じにくくなる。加熱手段は、レンズ表面に均一な染色層が形成でき、かつ着色しようとするレンズ箇所の形状に対応する着色層全体と接触状態して加熱するできるものであれば特に限定はされない。なお、特開平1−277814号公報第1図に記載されているように、着色層と加熱手段との間に空間を設けることは、着色ムラが生じやすくなるので好ましくない。着色層と加熱手段との間には空間を設けないようにする。
【0018】着色層の大きさは、均一に着色させるため、前記したように少なくとも着色しようとするレンズ箇所の形状と同一形状の大きさ、または、かかる形状を含む大きさが必要とされる。着色しようとするレンズ箇所の形状よりも着色層が小さい場合には、染料が放射状に昇華するとはいえ、着色ムラが生じやすい。
【0019】本発明において使用されるプラスチックレンズ材料は、特に限定されず、メチルメタクリレ−ト単独重合体、メチルメタクリレ−トと1種以上の他のモノマ−とをモノマ−成分とする共重合体、ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−ト単独重合体、ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−トと1種以上の他のモノマ−とをモノマ−成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカ−ボネ−ト、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリウレタン、ポリチオウレタンなどが挙げられる。これらのプラスチック基材上に、公知のプライマ−層、ハ−ドコ−ト層を施して着色することも可能である。
【0020】また、本発明においては、着色処理が施されるプラスチックレンズを、より均一に着色させるために、その表面に水溶性ポリマ−の硬化被膜を形成させることもできる。水溶性ポリマ−の硬化被膜を形成することより、昇華された染料が、容易に水溶性ポリマ−の硬化被膜に均一に吸収、保持され、さらにプラスチックレンズに染料を拡散させることができる。この水溶性ポリマ−および前記着色層形成用基板に施される水溶性ポリマーの種類は特に限定されないが、水系媒体に対する溶解性に優れ、安全性が高く、安価なもので、分散染料と反応しにくい性質を有するものが好ましく用いられる。その水溶性ポリマ−の具体例としては、ポリビニルアルコ−ル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコ−ルなどが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】プラスチックレンズや着色層形成用基板の表面に、水溶性ポリマ−の硬化被膜を形成させる方法としては、特に制限はないが、例えば該水溶性ポリマ−の水系溶液を調製し、これを用いてプラスチックレンズや着色層形成用基板の表面にコ−ティング処理を施した後、加熱することより、水溶性ポリマ−の硬化被膜を形成する方法が挙げられる。水溶性ポリマ−の水系溶液は、水系媒体100重量部に対し、水溶性ポリマ−を好ましくは2〜20重量部、より好ましくは5〜10重量部の割合で加え、溶解することにより調製することができる。
【0022】この水溶性ポリマ−の水系溶液の粘度は、常温で5×10-3〜500×10-3(パスカル秒)の範囲が好ましく、特に、10×10-3〜100×10-3(パスカル秒)の範囲が好適である。この粘度が低すぎるとプラスチックレンズや着色層形成用基板の表面にコ−ティングした水溶性ポリマ−の水系溶液が流れやすく、必要な厚さの水溶性ポリマ−が形成されにくくなる。また粘度が高すぎると硬化被膜を均一な膜厚に形成することが困難となる。
【0023】水系媒体としては、水が用いられるが、必要に応じ、本発明の目的を損なわない範囲において、水と混和性を有する有機溶媒を水の中に添加することも可能である。
【0024】水溶性ポリマ−の水系溶液をプラスチックレンズや着色層形成用基板の表面にコ−ティングする方法は、硬化被膜の膜厚を均一にする方法であれば、特に限定されず、スピン法、浸漬法、スプレ−法などが挙げられる。
【0025】水溶性ポリマ−の水系溶液をプラスチックレンズや着色層形成用基板の表面にコ−ティングした後、水溶性ポリマ−の水系溶液の硬化を促進するために、加熱を行ってもよい。
【0026】プラスチックレンズの着色終了後、水溶性ポリマ−で構成される硬化被膜は、水等に浸漬させて除去する。また、レンズを水等に浸漬する場合には、超音波洗浄機、あるいは界面活性剤を用いてもよい。
【0027】加熱用部材により着色層を加熱し、昇華性染料を昇華させてレンズを着色する操作は、大気中および真空中のいずれでも行うことが可能である。短時間で着色する場合には、真空雰囲気化で行うことが好ましい。真空度は、着色時間、着色しようとするレンズの材質、着色温度等を考慮して適宜定められる。
【0028】次に本発明における着色装置について説明する。
【0029】図1は、着色装置を構成する各部材の1例の概略図で、レンズ保持部材1と、着色層3を有する基体(板状熱伝導性基体)2と、加熱用部材4と、収納器5と、真空ポンプ(真空機構)6から構成されている。上記レンズ保持部材1は、被着色プラスチックレンズ7の周辺部を支持して、該レンズを保持する部材であって、レンズの着色面方向が開口するとともに、この開口部を密閉する基体2が係合するための、段差部8を有している。また、この段差部8は、被着色プラスチックレンズ7の位置決めをするために用いられるレンズの位置調節用リング9を係合するためにも用いられ、複数設けられている。
【0030】基体(板状熱伝導性基体)2は、被着色プラスチックレンズ7の着色面と対面する側に着色層3を有しており、そしてレンズ保持部1の開口部を密閉するのに用いられる。なお、着色層3は、基体2の表面に直接形成されていても、基体2と着色層3とが一体化されていてもよいし、着色層3を付着させた繊維成形物を基体2に貼付してもよい。
【0031】加熱用部材4は、基体2の背面(着色層3とは反対側の面)全体に接触させて加熱することにより、着色層の昇華性染料を昇華させて、被着色プラスチックレンズ7の着色面を染色するのに用いられる。
【0032】収納器5は、レンズ保持部材1と被着色プラスチックレンズ7と着色層3を有する基体2との組み合わせを1組または複数組収納する部材である。これらレンズ保持部材1等を収納するために、収納器5は、開口部を有し、上記加熱部材4によって密閉される。この収納器5には、収納器5の温度を制御するために、加熱機構10を設けてもよい。さらに、適当な位置に温度測定用センサ−および真空度測定用機器(図示せず)を設けることができる。なお、真空度を高めるためにパッキン11を設けることも可能である。
【0033】真空ポンプ6は、収納器5内を真空状態にするために用いられる。この着色装置において、被着色プラスチックレンズ7と着色層3との間の距離は、レンズの材質、該レンズおよび着色層の加熱温度、着色時間、真空度等によって適宜定められるが、作業の効率を考慮すると、1mm〜1000mmの間で行うことが好ましい。
【0034】一方、着色層の形成方法は、定められた量の昇華性染料を吐出するために、インクジェット方式の吐出手段を用いて形成することが好ましいが、スプレー方式、刷毛塗り方式または浸漬方式を用いて形成することもできる。インクジェット方式の吐出手段は、定められた昇華性染料の量を吐出する特性を有するものであれば特に限定されない。さらに、(1)着色剤の量を制御する着色剤量制御手段、例えばインクジェット方式においては定められた量の昇華性染料を吐出するために、インクジェット方式の吐出手段から吐出される着色剤の種類、量を指示する制御手段と、(2)着色プラスチックレンズの色彩、濃度と昇華性染料との相関関係デ−タなどを格納したレンズ着色情報格納手段と、(3)該レンズ着色情報格納手段で格納されている着色プラスチックレンズの色彩、濃度情報の中から任意の着色情報を選択するための選択手段を有することが好ましい。
【0035】前記選択手段で得られた任意の着色情報は、インタ−ネット、イントラネット、WAN及びLANなどの通信回線を利用した情報伝達手段で前記着色剤量制御手段に伝達することができる。このような手段によれば、遠隔操作により着色層を形成することができる。図2は、以上説明した本発明のプラスチックレンズの着色方法の一態様を示す概略図である。
【0036】
【実施例】次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、着色装置として、図1に示すものを用い、被着色プラスチックレンズとして、直径80mmの未加工含硫黄プラスチックレンズ[HOYA(株)製、商品名:テスラリッド]を用いた。
【0037】参考例1昇華性染料である「Dianix Red TA-N」[三菱化学(株)製]3gおよび「Dianix Blue UN-SE」[三菱化学(株)製]3gを、純水100ミリリットルに加えて塗工液を調製した。予め100℃に加熱しておいた直径103mm、厚さ1mmの円形状アルミニウム板に、上記塗工液をスプレー(吐出手段)により吹き付けて、着色層を形成した。なお、直径が103mm未満の着色層には、上記アルミニウム板の中心部に意図する大きさで円形の着色層をスプレー(吐出手段)で形成したものを用いた。
【0038】実施例1参考例1で得られた、アルミニウム板上に直径103mmの着色層を形成したものを用い、図1に示す装置にて、レンズ保持部材1に径80mmのプラスチックレンズ「テスラリッド」7および上記の着色層3を形成した板状熱伝導性基体であるアルミニウム板2を装着し、これを収納器5に入れ、加熱用部材4で収納器5を密閉した。なお、この加熱用部材4はアルミニウム板2の背面に接触しており、また、プラスチックレンズ7と着色層2との間の距離は1.5mmであった。
【0039】収納器5の加熱機構10により、プラスチックレンズの温度を120℃に保持すると共に、真空ポンプ6により収納器内の真空度を740mmHgに保ち、加熱用部材4を120℃に加熱して、10分間染色を行った。このようにして着色されたレンズについて、波長525nmで透過率を測定したところ、13.2%であった。また、目視で着色の均一性を調べたところ、均一に着色されていた。さらに、レンズの変形も見られなかった。この着色処理を5回繰り返したが、同様な結果が得られた。
【0040】比較例1実施例1において、アルミニウム板と加熱用部材を接触させずに、アルミニウム板と加熱用部材との間を2mmの間隔をあけた以外は、実施例1と同様にして、プラスチックレンズの染色を行った。この着色レンズについて、波長525nmで透過率を測定したところ、76.5%であった。また、目視で着色の均一性を調べたところ、プラスチックレンズ内に、商品にするにはふさわしくない若干の色むらが見られた。
【0041】比較例2実施例1において、直径70mmの着色層をアルミニウム板上に形成した以外は、実施例1と同様にして、プラスチックレンズの染色を行った。この着色レンズについて、波長525nmで透過率を測定したところ、44.8%であった。また、目視で着色の均一性を調べたところ、プラスチックレンズ内に、商品にするにはふさわしくない若干の色むらが見られた。
【0042】比較例3昇華性染料である「Dianix Red TA-N」(前出)3gおよび「Dianix Blue UN-SE」(前出)3gを純水1リットルに加えて塗工液を調製したのち、95℃に加熱し、この中に直径80mmのプラスチックレンズ「テスラリッド」を30分間浸漬処理したが、該プラスチックレンズを着色することができなかった。
【0043】
【発明の効果】本発明の着色方法によれば、従来の気相法による着色方法に比べて、均染性に優れる着色プラスチックレンズを、気相法により、短時間で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプラスチックレンズの着色方法に使用する着色装置を構成する各部材の1例の概略図である。
【図2】本発明のプラスチックレンズの着色方法の一態様を示す概略図である。
【符号の説明】
1 レンズ保持部材
2 基体(板状熱伝導性基体)
3 着色層
4 加熱用部材
5 収納器
6 真空ポンプ(真空機構)
7 被着色プラスチックレンズ
8 段差部
9 レンズの位置調節用リング
10 加熱機構
11 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 昇華性染料を含む着色層が、着色しようとするレンズ箇所の形状と同一形状以上の大きさを有し、かつ着色しようとするレンズ箇所の形状に対応する着色層全体に加熱用部材を接触させ、該着色層を加熱することにより、昇華性染料を昇華させて、プラスチックレンズを着色する方法であって、前記着色層を、着色剤吐出手段により、昇華性染料を含む着色剤を吐出させて形成することを特徴とするプラスチックレンズの着色方法。
【請求項2】 着色剤吐出手段が、インクジェット方式の着色剤吐出機構によるものである請求項1に記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項3】 インクジェットプリンターの着色剤吐出機構から吐出される着色剤の量を、着色剤量制御手段によって制御する請求項2に記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項4】 昇華性染料を含む着色層が、着色しようとするレンズ箇所の形状と同一形状以上の大きさを有し、かつ着色しようとするレンズ箇所の形状に対応する着色層全体に加熱用部材を接触させ、該着色層を加熱することにより、昇華性染料を昇華させて、プラスチックレンズを着色する方法であって、前記着色層を、昇華性染料を含む着色剤をスプレー方式、刷毛塗り方式または浸漬方式により塗布して形成することを特徴とするプラスチックレンズの着色方法。
【請求項5】 プラスチックレンズの着色に関する複数の着色情報を有するレンズ着色情報格納手段によって格納されているレンズ着色情報の中から、任意の着色情報を選択するための選択手段により得られた着色情報に基づき、着色剤の量を着色剤量制御手段によって制御する請求項3に記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項6】 選択手段により得られた着色情報を、情報伝達手段によって着色剤量制御手段に伝達する請求項5に記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項7】 情報伝達手段が、インターネット、イントラネット、WANおよびLANの中から選ばれる少なくとも1種を利用するものである請求項6に記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項8】 プラスチックレンズが、その表面に水溶性ポリマーの水系溶液を用いてコーティング処理を施したのち、加熱して水溶性ポリマーの硬化被膜を形成したものである請求項1ないし7のいずれか1項に記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項9】 着色層形成用基板表面に、予め水溶性ポリマーの水系溶液を用いてコーティング処理を施したのち、加熱して水溶性ポリマーの硬化被膜を設けておき、その上に着色層を形成する請求項1ないし8のいずれか1項に記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項10】 水溶性ポリマ−が、ポリビニルアルコ−ル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコ−ルの中から選ばれる少なくとも1種である請求項8または9に記載のプラスチックレンズの着色方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−66401(P2001−66401A)
【公開日】平成13年3月16日(2001.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−236960
【出願日】平成11年8月24日(1999.8.24)
【出願人】(000113263)ホーヤ株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】