説明

プラスチック光ファイバ素線およびその製造方法

【課題】曲げ損失を低減したプラスチック光ファイバ素線(POF)を製造する。
【解決手段】同じ位置の単量体同士が結合した整合結合の総数に対して、異なる位置の単量体同士が結合した不整結合の含まれる割合が4%以上であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いて、溶融押出成形により円筒状のアウタークラッド部11を形成する。次に、インナークラッド部形成材料を注入し、重合させて円筒状のインナークラッド部12を形成した後、その中空部に、コア部形成材料を注入し重合させてコア部14を形成し、プリフォーム15とする。このプリフォーム15を加熱延伸し、所望の径のPOF16を得る。POF16は、結晶サイズが小さく、内壁面の平均粗さRaが0.1μm未満のアウタークラッドを有するので、曲げによる曲げ損失が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光ファイバ素線およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学材料の代表であるプラスチック光ファイバ素線(Plastic Optical Fiber;以下、POFと称する)は、原料としてプラスチックを使用するため、石英系光ファイバ素線に比べて、低コストでありながら、軽量で加工性に優れるなどの長所を有する。また、容易にPOFの大口径化を行なうことができ、さらには、優れた可撓性により曲げ許容性が高いという特長も有する。そのため、光の伝送損失は大きいので長距離用の光伝送体としては向いていないが、伝送損失の大きさがあまり問題とならない家庭用や車載用途など短距離用の光伝送体としては非常に好適であり、注目されている。
【0003】
POFは、コアと、このコアの外周に配されコアよりも低屈折率を示すクラッドとから構成される。コアは実際に光が伝播する部材であり、クラッドはコア中を伝播する光が外に漏れるのを防止するための部材である。このように、性質の異なる部材の組合せであるPOFは、コアに入射した光を、屈折率の異なるコアとクラッドとの界面で全反射させることにより、光を伝播させて光伝送体としての機能を発揮する。また、POFは、径方向での屈折率分布の違いにより、グレーテッドインデックス(GI)型、ステップインデックス(SI)型、マルチステップインデックス(MSI)型と大別できる。この中でも、最近、高い伝送容量を有するPOFとして、GI型POFが注目されている。GI型POFは、光の発散や乱反射を防止して、少ない伝送損失にも係わらず高速伝送を実現することができる光伝送体である。
【0004】
GI型POFをはじめ、一般的なPOFの製造方法は、コアの前駆体であるコア部とクラッドの前駆体であるクラッド部とを含むプリフォームを、加熱手段により加熱延伸することでPOFを得る方法が用いられている。より詳細には、先ず、クラッドの前駆体である円筒状のクラッド部を用意し、この中にコア部を形成する重合性組成物を注入した後、円筒管ごと回転重合させて、クラッド部の内側にコア部を有するプリフォームを形成する。そして、プリフォームを加熱延伸することにより、所望の径のPOFを製造する。
【0005】
ただし、POFはプラスチックで構成されているために、優れた曲げ許容性を示す一方で、曲げによる伝送損失(以下、曲げ損失と称する)が発生しやすい。曲げ損失が発生すると、POFの光伝送体としての機能が著しく低下してしまう。そこで、曲げ損失を低減することができるPOFとして、非結晶性含フッ素重合体をマトリックスとする層(内層)を少なくとも2層有し、この内層の外側に、内層の最外部に対して屈折率が0.001以上低い含フッ素重合体を有するGI型POF(例えば、特許文献1参照)や、POFの外周に空隙を形成しながら被覆層を設けたプラスチック光ファイバケーブル(例えば、特許文献2参照)が提案されている。また、POFの外周に発泡樹脂から形成される被覆層を設けたプラスチック光ファイバケーブル(例えば、特許文献3参照)や、互いに弾性率の異なる2層の被覆層を外周に設けたPOF(例えば、特許文献4参照)や、C−H結合を含まない非結晶性の含フッ素重合体からなる内層と、含フッ素重合体からなる外層とからなるPOF(例えば、特許文献5参照)が提案されている。さらには、曲げ損失を低減したPOFの製造方法として、所定の屈折率分布を有する母材の外周に非晶質熱可塑性樹脂組成物を押出被覆した後、これらを同時に加熱しながら延伸することにより、所望の径のPOFとする方法(例えば、特許文献6参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平8−304636号公報
【特許文献2】特開平9−218327号公報
【特許文献3】特開平9−236735号公報
【特許文献4】特開平11−337781号公報
【特許文献5】特開2002−071972号公報
【特許文献6】特開2000−098144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、外側の層に結晶性の含フッ素重合体を用いる場合には、外側の層の内壁に球晶による凹凸が存在するので、外層と内層との界面で光が散乱してしまう。一方で、外側の層に非結晶性の含フッ素重合体を用いる場合には、モノマーなどに対する耐溶剤性に劣るため、その内側にモノマーを使用して光伝送路となるコアを形成することが困難であるなどの問題が生じる。また、POFと保護被覆層との間に空隙を形成する場合には、空隙の形状や厚みを制御することが困難であり、発泡層を形成する場合には、発泡樹脂の発泡の程度を調整することが困難であるため、いずれの場合も、POFの線径変動や非円率が悪化してしまう等の問題が生じる。
【0007】
また、弾性率の異なる被覆層を設ける場合、曲げにより生じる構造不整を低減するには有効であるが、外部へ光が漏れたり、クラッドとコアとの界面で光が散乱したりする曲げ損失を低減することは難しい。さらに、光伝送路となるコアが細径の場合には、POF同士を接続させることが困難となるため、作業性が低下する等の新たな問題が生じる。したがって、生産性を低下させることなく、曲げや光の散乱により発生する曲げ損失を低減したPOFの製造方法の提案が望まれている。
【0008】
本発明は、生産性の低下などを招くことなく、曲げや光の散乱等に起因する曲げ損失を低減したPOFを製造することができる方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプラスチック光ファイバ素線(POF)は、プリフォームを加熱延伸することにより形成される円筒状のクラッドとクラッドの内側に配され光の伝送路となるコアとを有するPOFにおいて、クラッドは、円筒状のアウタークラッドとアウタークラッドの内側に配されるインナークラッドとを有し、アウタークラッドの内壁面の平均粗さRa(μm)が0.1μm未満であることを特徴とする。また、アウタークラッドは、同じ位置の単量体同士が結合した整合結合の総数に対して、異なる位置にある単量体同士が結合した不整結合の含まれる割合が4%以上であるポリフッ化ビニリデンからなることが好ましい。なお、コアは、径の中心から外側に向かうにしたがい連続的に屈折率が低くなることが好ましい。
【0010】
本発明のPOFの製造方法は、円筒状のクラッドと、クラッドの内側に配され、光の伝送路となるコアとを有するプラスチック光ファイバ素線を製造する方法において、クラッド部は、円筒状のアウタークラッド部とアウタークラッド部の内側に配されるインナークラッド部とを含み、第1重合性組成物を重合させた樹脂を溶融押し出し成形してアウタークラッド部を形成した後、このアウタークラッド部の中に第2重合性組成物を注入して重合させることにより、インナークラッド部を形成させるクラッド部形成工程と、インナークラッド部の中に第3重合性組成物を注入し重合させることによりコア部を形成して前記プリフォームを作製した後、プリフォームを加熱延伸することにより、プリフォームを所望の径のプラスチック光ファイバ素線とする加熱延伸工程とを有し、第1重合性組成物を重合させた樹脂として、同じ位置の単量体同士が結合した整合結合の総数に対して、異なる位置の単量体同士が結合した不整結合の含まれる割合が4%以上であるポリフッ化ビニリデンを使用することを特徴とする。
【0011】
また、加熱延伸工程において前記プリフォームを加熱延伸させることで、アウタークラッド部を、内壁面の平均粗さRa(μm)が0.1μm未満であるアウタークラッドとすることが好ましい。なお、加熱延伸工程では、プリフォームを180〜300℃に加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、曲げても、光が散乱したり、外部に漏れたりすることなく低伝送損失を実現しながら光を伝送することができるPOFを提供することが可能となる。また、このような曲げ損失を低減したPOFを、連続して生産することできる製造方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に関して、実施形態を示しながら説明する。なお、本実施形態は、本発明に係わる一例の形態であり、特に限定されるものではない。
【0014】
図1に、本発明に係るプラスチック光ファイバ素線(POF)の製造工程の流れを示す。本発明のPOF製造工程10は、アウタークラッド部形成工程20とインナークラッド部形成工程21とを含むクラッド部形成工程23と、コア部形成工程24と、加熱延伸工程25とを有する。
【0015】
先ず、アウタークラッド部形成工程20で、円筒状のアウタークラッド部11を形成する。アウタークラッド部11は、プリフォーム15の外殻部をなす部材であり、重合性組成物を重合して得られる重合体である。アウタークラッド部11を形成する方法としては、例えば、所望の重合性組成物(アウタークラッド部形成材料と称する)を市販の溶融押出成形機によりアウタークラッド部パイプとして形成する方法(以下、溶融押出成形と称する)や、アウタークラッド部形成材料を既製のパイプに注入した後、これを回転重合させることにより、中空状のアウタークラッド部11を形成する方法(以下、回転重合方法)等が挙げられる。本発明では、いずれの方法も好適に用いることができ、適宜選択すればよい。なお、本実施形態では、溶融押出成形を適用する。
【0016】
アウタークラッド部形成材料としては、同じ位置の単量体同士が結合した整合結合の総数に対して、異なる位置にある単量体同士が結合した不整結合の含まれる割合が4%以上であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用することがより好ましい。なお、PVDFに含まれる不整結合の割合は、PVDFの重合方式により異なる。PVDFの重合方式としては、懸濁重合法および乳化重合法が挙げられる。懸濁重合法とは、水中に分散したモノマー類を重合させることによりビーズ状のポリマーを得る方法であり、乳化重合法とは、モノマー類に乳化剤(界面活性剤)を添加して、重合させることによりポリマーを得る方法である。そして、乳化重合法により得られるPVDFは、不整結合の含まれる割合が4%以上含まれている場合が多い。したがって、本発明に用いるPVDFは、乳化重合法により重合されたものであることが好ましい。このようなPVDFを用いてアウタークラッド部11を形成すると、耐溶剤性に優れるとともに、内壁面の平均粗さが小さいPOF16を形成することができる。これにより、曲げによる伝送損失の低減や、光の漏れを抑制して低伝送損失のPOFを得ることができる。
【0017】
アウタークラッド部形成工程20において、アウタークラッド部形成材料を加熱重合する際の重合温度は、特に限定されるものではないが、180〜240℃であることが好ましい。これにより、アウタークラッド部形成材料を加熱溶融させて、成形に好適な粘度とすることができ、さらには、不整結合を所定の範囲で含むPVDFを用いる場合には、整合結合の総数に対する不整結合の含まれる割合を向上させることで、結晶サイズが小さく、かつ内壁面の平均粗さが小さいアウタークラッド部11を形成することができる。なお、本発明での平均粗さRaとは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値(μm)である。ただし、その測定方法は、特に限定されるものではなく、市販の粗さ測定機を使用することができる
【0018】
なお、結晶性含フッ素ポリマーである、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)も本発明に使用することができるほか、フッ素樹脂の共重合体(例えば、PVDF系共重合体)や、テトラフルオロエチレンパーフルオロ(アルキルビニルエーテル(PFA)ランダム共重合体、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体などを用いることができる。さらには、メチルメタクリレート(MMA)とトリフルオロエチルメタクリレート(FMA)やヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートなどのフッ化(メタ)アクリレートとの共重合体を挙げることができる。ただし、いずれのポリマーも、ポリマーが有する整合結合の総数に対する不整結合の含まれる割合が4%以上のものを用いるようにする。
【0019】
インナークラッド部形成工程21では、材料注入工程28において、円筒状のアウタークラッド部11の中に、インナークラッド部12を形成させる所望の重合性組成物(インナークラッド部形成材料と称する)を注入する。続けて、重合工程29において、インナークラッド部形成材料を所望の温度に加熱しながら重合させて(熱重合)、円筒状のインナークラッド部12を形成する。
【0020】
重合工程29では、重合温度を50〜100℃となるように調整することが好ましい。より好ましくは、重合温度を60〜100℃とし、特に好ましくは、重合温度を70〜100℃とすることである。これにより、インナークラッド部形成材料の重合度を効率よく高めることができる。ただし、重合温度が100℃を超えると、インナークラッド部形成材料が熱ダメージを受けてしまうので、ポリマーの劣化や発泡が生じるおそれがある。一方で、重合温度が50℃未満の場合には、インナークラッド形成材料等の重合度を促進させるには低温すぎる。また、重合工程29での重合時間は、十分な重合度を確保しながらも、生産性を低下させることなく作業を行うために、4〜30時間とすることが好ましい。より好ましくは、6〜25時間であり、特に好ましくは8〜20時間である。なお、重合工程29での温度や時間は、所定の範囲を満たすものであれば、材料の種類や配合量などに応じて、適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0021】
ところで、重合工程29では、インナークラッド部形成材料が重合を開始した初期段階で、加熱により溶融したアウタークラッド部11の一部(特に、内壁面付近)とインナークラッド部形成材料とが混合し、混合部が形成される場合がある。この混合部は、光の散乱や外部に光が漏れることを抑制する効果を発揮するため、存在することはむしろ好ましい。なお、混合部は、アウタークラッド部11とインナークラッド部12とが拡散混合して生成するので、結晶化が抑制された状態にあり、このような構造の説明は、例えば、日本化学学会誌 NO.2 2000,115〜120項「PVDF/PMMAブレンドの紫外線透過特性と相溶性との関係」等に示された、非晶性ポリマーと結晶性ポリマーとのブレンドによって結晶性を消失していることからも理解できる。
【0022】
また、インナークラッド部形成工程21では、材料注入工程28でアウタークラッド部11の中にインナークラッド部形成材料を注入した後、しばらく、重合を開始させない条件下で、これらの入ったパイプを回転させることが好ましい。このとき、アウタークラッド部11の内壁面は膨潤してインナークラッド部形成材料に溶解する。これにより、アウタークラッド部11の内壁面の微細な凹凸部が積極的に削られて、内壁面の平滑性を向上させることができるので、アウタークラッド部11とインナークラッド部12との密着性を向上させて、光の漏れなどを防止する効果を向上させることができる。ところで、上記のパイプの回転向きは、特に限定されるものではなく、長手方向を軸にして水平回転させてもよいし、垂直向きに回転させてもよい。なお、以下の説明においては、アウタークラッド部11とインナークラッド部12とを合わせてクラッド部23とする。
【0023】
コア部形成工程24では、インナークラッド部12の中にコア部14を形成させる材料(コア部形成材料と称する)を注入した後、これを重合させてコア部14を形成する。これにより、クラッド部23の内側にコア部14を有するプリフォーム15を製造することができる。なお、コア部形成材料の重合に係わる重合温度や時間等の諸条件は、インナークラッド部形成工程21での条件を適用させれば良いので、説明は省略する。
【0024】
形成したプリフォーム15を加熱延伸工程25に供することで、所望の径のPOF16を製造する。図2は、加熱延伸工程25を説明する概略図である。図2に示すように、加熱延伸工程25では、加熱炉30内部の所定の位置にセットされたプリフォーム15を、加熱炉30により加熱して一部を軟化させた後、軟化箇所の先端部15aを始点として線引き(延伸)を行なうことでPOF16とする。そして、POF16を線径モニタ31に通してから、巻取装置(図示しない)の巻取ロール32に巻き取ってロール状のPOF16を製造する。このように、線引きしている際に、線径モニタ31によりPOF16の外径を常時モニタリングし、この測定結果に応じて、加熱炉31内でのプリフォーム15の位置や、加熱炉31の温度、巻取装置の巻取速度などを適宜調整すると、常に略一定の外径を有するPOF16を得ることができる。
【0025】
なお、加熱炉30の内部に、不活性ガスを供給する供給装置(図示しない)を取り付けて、不活性ガスを送り込みながらプリフォーム15を加熱延伸すると、熱ダメージによる劣化を防ぎながらPOF16を得ることができる。不活性ガスは、特に限定されるものではないが、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガスおよびアルゴンガスなどが挙げられる。ただし、コストの点から、窒素ガスを用いることが好ましく、熱伝導効率の点からは、ヘリウムガスを用いることが好ましい。また、ヘリウムガスとアルゴンガスとの混合ガスのような複数種類のガスが混合している混合ガスを用いることもできる。
【0026】
加熱延伸工程25では、プリフォーム15の加熱延伸温度を、180〜300℃となるように調整することが好ましい。より好ましくは、200〜290℃であり、特に好ましくは、220〜280℃である。これにより、プリフォーム15を構成するクラッド部23やコア部14の重合度をより高めることができる。さらには、アウタークラッド部形成材料の結晶化を抑制し、より結晶サイズの小さいアウタークラッド部11を得ることができるので、曲げても、光の散乱が生じたり、外部へ光が漏れたりすることのないプリフォーム15を得ることができ、その結果、同等の効果を有するPOF16を製造することができる。ただし、加熱延伸温度が300℃を超えると、例えば、アウタークラッド部形成材料としてPVDFを用いる場合には、PVDFが熱分解してフッ化水素ガスが発生してしまために、アウタークラッド部11に気泡が生じることにより、プリフォーム15ならびにPOF16の光学特性が著しく低下する。
【0027】
なお、プリフォーム15の加熱延伸時間を長くすると、アウタークラッド部11とインナークラッド部12との界面付近に存在する混合部の重合度を向上させることができるので、混合部が加熱延伸されてなる混合部の厚みを十分確保したPOF16を得ることが可能となる。したがって、加熱延伸時間は、できる限り長時間化することが好ましい。ただし、加熱延伸時間が長くなるほど、製造時間の長時間化により生産性が低下したり、長時間、プリフォーム15が高温に晒されるので、構成する部材が劣化するなどの問題が生じる。そのため、優れた生産性を確保しながら、かつ十分な厚みの混合部を得ることを目的として、加熱延伸時間は、1〜80分とすることが好ましい。より好ましくは、加熱延伸時間を、2〜60分とすることであり、特に好ましくは、3〜40分とすることである。また、上記のような加熱延伸時間や、製造するPOF16の所望の径を考慮し、プリフォーム15の延伸速度を3〜15m/分の範囲を満たす中で、適宜選択しながら調整することが好ましい。
【0028】
なお、加熱延伸温度や加熱延伸時間は、所定の範囲内において、プリフォーム15を構成する材料に応じて適宜決定すればよい。ただし、GI型POFを製造する場合には、その断面円形の中心から円周に向け屈折率が変化するため、この屈折率変化を破壊しないように、加熱と延伸とを均一に行う必要があるため、加熱炉30として、プリフォーム15を径方向において同心円状に均一に加熱することができるような円筒形状の形態を用いることが好ましい。
【0029】
なお、プリフォーム15の延伸張力は、特開平7−234322号公報に記載されているように、軟化したポリマーを配向させるため、0.098N以上とすることが好ましい。また、特開平7−234324号公報に記載されているように、加熱延伸後に分子配向の歪みを残さないようにするために0.98N以下とすることが好ましい。ただし、この延伸張力は、目的とするPOF16の直径や、構成する材料の種類に応じて最適な値が変わるために、適宜調整することが必要である。その他にも、本発明では、特開平8−106015号公報に記載されているように、加熱延伸時の前の段階で、予備加熱を行うこともできる。
【0030】
次に、本発明に係わるプリフォーム15およびPOF16について説明する。
【0031】
図3(a)に、本発明でのプリフォーム15の一例における径方向での断面図を示す。プリフォーム15は、同心円形であり、光を閉じ込めるクラッド部23と光の伝送路となるコア部14とを有する。また、クラッド部23は、アウタークラッド部11とアウタークラッド部11の内側に配されるインナークラッド部12とを含み、コア部14の中央部付近には、空洞部35が形成されている。
【0032】
アウタークラッド部11およびインナークラッド部12は、いずれも円筒状であり、外径および内径が長手方向に一定かつ、厚みが均一である。本実施形態では、溶融押出方法により、結晶性フッ素ポリマーであり、所定の割合で不整結合を有するPDVFを用いてアウタークラッド部11を形成する。また、インナークラッド部12は、非晶質ポリマーより形成される円筒状の重合体である。本実施形態では、アウタークラッド部11の中にインナークラッド部形成材料としてMMAを注入し、これを熱重合させることによりPMMAを主成分とするインナークラッド部11を形成する。なお、アウタークラッド部11およびインナークラッド部12は、共に1種類の重合体で構成された単量体に限定されるものではなく、2量体や3量体、または、複数種の重合性組成物を混合させて形成させた混合重合性組成物を含んでいてもよく、特に限定はされない。
【0033】
本実施形態では、コア部形成材料として、MMAと屈折率調整剤(ドーパント)であるDPSとを混合させた混合材料を用いる。そして、この混合材料をインナークラッド部12の中に注入した後、界面ゲル重合させて、主成分がPMMAからなり、図3(b)に示すような屈折率分布を有するコア部14を形成させる。以上により、アウタークラッド部11とインナークラッド部12とを含むクラッド部23の内側にコア部14を配したプリフォーム15を得ることができる。なお、プリフォーム15を構成する各部材に関して、アウタークラッド部11の外径は、特に限定されるものではないが、光の漏れや光の散乱を防止する効果を十分に得るために、その外径を20〜32mmとすることが好ましい。また、光伝送特性に優れるプリフォーム15を得るためにも、インナークラッド部12の厚みは、3〜10mmとすることが好ましく、コア部14の厚みは、2〜10mmとすることが好ましい。
【0034】
なお、図3(a)では、各部材の境界を説明の便宜上示しているが、各部材を形成する際の界面ゲル重合反応などの進行程度にしたがい、境界が明確でない場合や、界面が消失する場合等があるので、実際には、目視により確認できない場合が多い。また、図3(a)では、中央付近に空洞部35を有するプリフォーム15を示したが、空洞部35の断面円形の径とプリフォーム15の外径とに対する比率やその有無は、製造条件に応じて変動するものである。したがって、製造途中においては、空洞部35が消失する場合もある。
【0035】
図3(b)は、図3(a)のプリフォーム15に対応する径方向での屈折率分布図である。なお、図3(b)の横軸はプリフォーム15の半径方向であり、縦軸は屈折率の高さを表すが、縦軸の上方向に向かうほど屈折率が高い。また、横軸の符号(A)で示される範囲は、図3(a)でのアウタークラッド部11の屈折率であり、符号(B)で示される範囲は、インナークラッド部12の屈折率であり、符号(C)で示される範囲は、コア部14の屈折率である。そして、符号(D)で示される範囲は、空洞部35に対応する範囲であり、値がないものとして示している。
【0036】
図3(b)に示すように、プリフォーム15は、径の中心から外側に向かうにしたがい連続的に屈折率が低くなっている。このように屈折率分布は、一般的にGI型と呼ばれ、外部に光が漏れにくく、光の散乱が起こりにくいので、低伝送損失かつ広伝送帯域のPOF16を得ることができる。このような屈折率分布を発現させる方法としては、主に、屈折率の異なる材料を使用する方法と、屈折率分布剤(ドーパント)を使用する方法とが挙げられ、本発明では、いずれの方法も好適に用いることができるが、本実施形態では、アウタークラッド部形成材料よりも高屈折率である材料をインナークラッド部形成材料として使用し、さらに、インナークラッド部形成材料よりも屈折率が高い材料を、コア部形成材料として使用することで、上記のような屈折率分布を有するプリフォーム15を形成している。なお、ドーパントに関しては、後で詳細に説明する。
【0037】
このプリフォーム15から得られるPOF16について説明する。図4(a)は、POF16の径方向での一例の断面図である。POF16は、クラッド部23が加熱延伸されることにより得られるクラッド43と、同様にコア部14から得られるコア44とを有する。さらに、クラッド43は、アウタークラッド41とインナークラッド42とを含む。なお、プリフォーム15に存在していた空洞部35は、加熱延伸されて細径とされる際に塞がれて消失する。なお、POF16を構成する各部材は、プリフォーム15を構成する各部材の前駆体と比べて細径となっている。これは、プリフォーム15を長手方向に加熱延伸することでPOF16を形成するためである。
【0038】
図4(b)は、POF16の径方向における屈折率分布である。図4(b)の縦軸および横軸は、図3(b)と同様であり、説明は省略する。なお、図4(b)において、横軸の符号(F)で示される範囲は、図4(a)におけるアウタークラッド41の屈折率であり、符号(G)で示される範囲は、図4(a)におけるインナークラッド42の屈折率であり、符号(H)で示される範囲は、図4(a)におけるコア44の屈折率である。POF16はプリフォーム15に比べて、各部材の重合度が変化し、細径となっているが、光学特性は略同一である。そのため、図4(b)に示すように、POF16の径方向における屈折率分布の傾向は、プリフォーム15と略同一である。すなわち、アウタークラッド41の屈折率が最も低く、次いで、インナークラッド42、コア44の順に次第に高くなる。
【0039】
したがって、下記の式(1)のgで求められる、本発明に係わるプリフォーム15およびPOF16の屈折率分布係数は略同一である。下記式(1)において、Rはプリフォーム15またはPOF16の外径であり、rは断面円形の中心から測定位置までの距離であり、n1は断面径方向における屈折率の最大値であり、n2は断面径方向における屈折率の最小値であり、Δは(n1−n2)/n1で表される値である。なお、本実施形態において例示されるプリフォーム15ならびにPOF16の屈折率分布係数は、0.5〜4.0であることが好ましく、より好ましくは1.5〜3.0であり、理想的には2.0である。
(1) n(r)=n1{1−2(r/R)g ×Δ}1/2 =n1(1−2Δ)1/2
【0040】
本発明のアウタークラッド41の内壁面の平均粗さは、0.1μm未満であることを特徴とする。本実施形態のように、アウタークラッド部形成材料として、整合結合の総数に対する不整結合の含まれる割合が4%以上のPVDFを使用し、これを所定の温度で溶融させて、押出成形することによりアウタークラッド部11を形成し、さらに、このアウタークラッド部11を有するプリフォーム15を加熱延伸工程25に供すると、球晶の成長速度が抑制され、結晶サイズの小さなアウタークラッド41を形成することができる。そのため、内壁面の平均粗さRaが0.1μm未満と非常に小さいアウタークラッド41を形成することができる。このようなアウタークラッド41を有するPOF16は、曲げによる光の散乱や外部への漏れを防止する優れた効果を得ることができるので、曲げ損失は非常に小さい。
【0041】
なお、上記のPOF16の曲げ損失は、インナークラッド42の径方向での直径をD(mm)とするとき、下記の式(2)の範囲にまで低減することができる。ただし、Dは300<D<710とし、この範囲を満たすように延伸倍率を調整してPOF16を製造する。
(2) −0.015+0.1×D1.5 <X<0.3+0.1×D1.5
【0042】
また、このPOF16の外周に樹脂を被覆して保護被覆層を設けると、プラスチック光ファイバコード(Plastic Optical Code;以下、コードと称する)を得ることができる。保護被覆層を設ける方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱可塑性樹脂を用いて押出成形により形成する方法が挙げられる。このとき、同種または異なる種類の樹脂を被覆してもよい。以上により、難燃性や耐候性などの特性をPOF16に付与して、所望の特性を有するコードを得ることができる。なお、この保護被覆膜を形成する工程は、図1に示すPOF製造工程10の加熱延伸後に行なっても良いし、POF製造工程10とは別工程で行なうこともできる。
【0043】
また、このコードを複数本束ねるなどしてから、その外周を樹脂などで被覆すると、プラスチック光ファイバケーブル(Plastic Optical Cable;以下、ケーブルと称する)を得ることができる。本発明では、POF16の外周に保護被覆層を設けた光ファイバを、プラスチック光ファイバ心線または、コードと称し、この1本のコードの外周に、必要に応じてさらに被覆を施されたものをシングルファイバケーブルと称する。そして、コードを抗張力線などとともに、複数本組み合わせた後、その外周に被覆を施したものをマルチファイバケーブルと称し、上記のケーブルとは、これらのシングルファイバケーブルとマルチファイバケーブルとの両方を含んだものの総称とする。
【0044】
なお、アウタークラッド部11とインナークラッド部12とを含むクラッド部23およびコア部14の材料は、光伝送の機能を損なわない限りにおいて特に限定されるものではないが、有機材料として光透過性が高い材料が好ましい。また、コア部14の材料は、光の散乱が生じないように、非晶性のポリマーを用いることが好ましく、クラッド部23を形成する材料と、互いに密着性に優れるポリマーであることが好ましい。さらには、タフネスなどに示される機械的特性に優れ、耐湿熱性等にも優れている材料であることがより好ましい。
【0045】
ただし、本発明では、アウタークラッド部形成材料として、結晶性フッ素ポリマーを使用する。結晶性フッ素ポリマーとは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、分子が規則的に並んでいない非結晶性領域とが混在したフッ素系樹脂である。このように結晶性フッ素ポリマーを使用してアウタークラッド部11を形成すると、耐溶剤性に優れるPOFを形成することができる。結晶性フッ素ポリマーとしては、例えば、本実施形態で使用したポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられるが、この他にも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。また、フッ素樹脂の共重合体(例えば、PVDF系共重合体)や、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)ランダム共重合体、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体等を用いることもできる。さらには、メチルメタクリレート(MMA)とトリフルオロエチルメタクリレート(FMA)やヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート等のフッ化(メタ)アクリレートとの共重合体を挙げることができる。
【0046】
インナークラッド部形成材料およびコア部形成材料としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a)、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)、スチレン系化合物(c)、ビニルエステル類(d)、主鎖に環状構造を含むフッ素系ポリマー(e)、ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールA等を重合性組成物として用いて重合させたもの、ノルボルネン系樹脂等とすることができる。これらを原料として、各々を重合させたホモポリマー、あるいはこれらのうち2種以上を組み合わせて重合させた共重合体、および上記のホモポリマーや共重合体の各種組み合わせによる混合物も例として挙げることができる。混合物を用いる場合においては、上記沸点Tbは、混合物を構成する複数の原料化合物の沸点の中で最も低い温度、もしくは共沸混合物を成すことにより沸点が下がるときには沸点下降後の温度として定義される。また、混合物を原料として得られた共重合体およびブレンドポリマーの場合には、各共重合体またはブレンドポリマーのガラス転移点を上記Tgとして定義する。そして、これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類または含フッ素ポリマーを成分として含むものが光伝送体を構成する上でより好ましい。次に、上記の例について、より詳細に示す。
【0047】
上記の(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02,6]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボニルメタクリレートなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニルなどが挙げられる。
【0048】
また、(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0049】
さらに、(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられる。さらには、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテートなどが挙げられる。(e)のように主鎖に環状構造を有するポリマーとしては、もともと環状構造をもっていたモノマーを重合することにより得られるポリマーや、環化重合によって非結晶構造の主鎖に環状構造が形成されたポリマー等が挙げられ、例えば、ポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや、特開平8−334634号公報等に記載される主鎖に脂肪環または複素環をもつポリマー、特開2002−71972号公報及び特願2004−186199号に記載されるもの等が伝送特性の点で好ましい。もちろん、これらに限定されるものではなく、重合性組成物の単独あるいは共重合体からなるポリマーの屈折率が、光伝送体に成型されたときに所定の屈折率分布を成型体のなかで有するように、種類や組成比を決定することが好ましい。
【0050】
なお、アウタークラッド部形成材料は、形成したアウタークラッド部がインナークラッド部よりも屈折率が低くなるようなポリマーを選択して使用することが好ましい。さらに、水分がコアに侵入することをできるだけ防ぐことを目的として、クラッド部であり、特にアウタークラッド部形成材料としては吸水率が低いものを選択することが好ましい。例えば、アウタークラッド部形成材料は、飽和吸水率が1.8%未満のポリマーを主たる成分とすることが好ましい。そして、より好ましくは、アウタークラッド部が1.5%未満の飽和吸水率であるポリマーにより形成されることであり、さらに好ましくは、1.0%未満の飽和吸水率であるポリマーにより形成されることである。なお、この飽和吸水率は、ASTMによるD570により基づく値であり、具体的には、23℃の水中にサンプルを1週間浸漬したときの吸水率を測定した値である。
【0051】
なお、プリフォームを構成するポリマーが水素原子(H)を含んでいる場合には、その水素原子が重水素原子(D)に置換されていることが好ましく、これにより伝送損失の低減、特に近赤外領域の波長における伝送損失の低減を図ることができる。
【0052】
さらに、近赤外光用途に用いるためには、ポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許3332922号公報や特開2003−192708号公報などに記載されているような、C−H結合の水素原子を重水素原子やフッ素などで置換したポリマーを用いることで、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。このようなポリマーとしては、例えば、重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを例示することができる。なお、原料となる化合物は、重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に十分に除去されることが望ましい。
【0053】
また、プリフォームを形成するポリマーは、プリフォームを好適に延伸できるという観点から、重量平均分子量が1〜100万であることが好ましく、より好ましくは3〜50万である。さらに、延伸に対する適性は、分子量分布(MWD:重量平均分子量/数平均分子量)にも関係している。MWDが大きすぎる場合には、極端に分子量の大きい成分が混在しているときに延伸性が悪くなり、延伸が不可能となることもある。したがって、好ましいMWDの範囲は4以下であり、より好ましい範囲は3以下である。
【0054】
重合させてポリマーとする場合においては、重合開始剤を使用する場合がある。重合開始剤としては、例えば、ラジカルを生成するものが各種ある。このようなラジカルを生成するものとしては、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2′−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2′−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2′−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3′−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3′−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3′−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3′−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は、これらに限定されるものではなく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
ポリマーとしたときの機械特性や熱物性などの各種物性値を全体にわたって均一に保つために、重合度の調整を行うことが好ましい。重合度の調整のためには、連鎖移動剤を使うことができる。連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択できる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0056】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子やフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用してもよい。
【0057】
ドーパントは、上記のような重合性組成物とは異なる屈折率を有する化合物である。その屈折率差は0.005以上であることが好ましい。ドーパントは、これを含有するポリマーが無添加のポリマーと比較して、屈折率が高くなる性質を有する。これらは、特許3332922号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成されるポリマーとの比較において、溶解性パラメータとの差が、7(cal/cm3 1/2 以内であると共に、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧などの重合条件)下において安定であるものを、いずれも用いることができる。
【0058】
また、ドーパントは重合性組成物であってもよい。重合性組成物のドーパントを用いた場合には、これを共重合成分として含む共重合体が、これを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いることが好ましい。上記性質を有し、重合体と安定した共存が可能で、かつ、前述のコア用モノマーあるいはインナークラッド原料である重合性組成物の各種重合条件(加熱および加圧などの重合条件)下において安定であるものを、ドーパントとして用いることができる。本実施の形態では、コア用モノマーにドーパントを含有させ、コアを形成する工程において界面ゲル重合法により重合の進行方向を制御し、屈折率調整剤の濃度に傾斜を持たせ、コアに屈折率調整剤の濃度分布に基づく屈折率分布構造を形成する方法を例示しているが、それ以外にもプリフォーム形成後に屈折率調整剤を拡散させる方法も知られている。以下、屈折率の分布を有するコア部を屈折率分布型コア部と称する。このようにして屈折率分布型コア部を形成することにより得られる光学部材は、広い伝送帯域を有する屈折率分布型プラスチック光学部材となる。
【0059】
ドーパントとしては、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)などが挙げられ、中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOが好ましい。また、ドーパントは、例えば、トリブロモフェニルメタクリレートのように重合性組成物でもよく、その場合、マトリックスを形成する際に、重合性モノマーと重合性ドーパントとを共重合させるので、種々の特性(特に光学特性)の制御がより困難となるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。そして、コアにおけるドーパントの濃度および分布を調整することによって、プラスチック光ファイバの屈折率を所望の値に変化させることができる。
【0060】
前述した重合開始剤や連鎖移動剤、屈折率調整剤の各添加量については、用いるコア部形成材料として使用するモノマー(コア部形成用モノマー)の種類などに応じて、適宜決定することができる。本実施形態においては、重合開始剤は、コア部形成用モノマーに対して、0.005〜0.150質量%となるように添加しているが、この添加率を0.010〜0.100質量%とすることがより好ましい。また、連鎖移動剤は、コア部形成用モノマーに対して、0.10〜0.40質量%となるように添加しているが、この添加率を0.15〜0.30質量%とすることがより好ましい。そして、本実施形態のように、ドーパントを添加する場合には、コア部形成用モノマーに対して、その添加率を1〜50質量%の範囲で調整することが好ましい。
【0061】
その他、コア、クラッドもしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、コアの少なくとも一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、原料となる各種重合性組成物に添加した後、重合することによって、コア、クラッドもしくはそれらの一部に含有させることができる。
【0062】
GI型POFとなるプリフォームの製造方法は、本実施形態や特許3332922号公報に記載されているように、クラッドとなる樹脂の中空管を作成した後、この管内にコアを形成する樹脂組成物を注入してから、塊状重合法の一種である界面ゲル重合法によりポリマーを重合することによりコアを形成する方法を例示することができる。この場合の重合条件、つまり重合温度や順号時間は、用いるモノマーや重合開始剤により適宜選択すればよい。他にも、国際公開第03/19252号パンフレット記載の重合条件を適用することにより、密度揺らぎのないコア部を形成することができる。また、重合後の屈折率が異なる重合性組成物を逐次添加するコア部の形成法も知られている。このとき、樹脂組成物は、前述のように単一の屈折率を持つ樹脂組成物に屈折率調整剤を添加するものや、屈折率の異なる樹脂を混合するもの、共重合などを用いることができる。なお、POFは、GI型の他に、SI型、MSI型など、様々な屈折率のプロファイルを持つものが知られており、本発明は、これらの製造方法により製造されたPOFにも適用することができる。
【0063】
POFの場合には、曲げ、耐候性の向上、吸湿による性能低下抑制、引張強度の向上、耐踏付け性付与、難燃性付与、薬品による損傷からの保護、外部光線によるノイズ防、着色などによる商品価値の向上などを目的として、通常、その表面に保護層形成用材料を被覆して1層以上の保護層を設けることが好ましい。
【0064】
この保護層形成用材料としては、具体的に以下の材料を挙げることができる。これらは高い弾性を有しているため、曲げなどの機械的な特性付与の観点でも効果がある。先ず、ポリマーの一形態であるゴムを用いることができる。具体的には、イソプレン系ゴム(例えば、天然ゴム、イソプレンゴムなど)、ブタジエン系ゴム(例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ブタジエンゴムなど)、ジエン系特殊ゴム(例えば、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなど)、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなど)、エーテル系ゴム、ポリスルフィド系ゴム、ウレタン系ゴムなどが挙げられる。
【0065】
また、保護層形成用材料として、室温では流動性を示すが、加熱することにより流動性が消失して硬化する液状ゴムを用いることができる。具体的には、ポリジエン系(例えば、基本構造がポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリクロロプレンなど)、ポリオレフィン系(例えば、基本構造がポリオレフィン、ポリイソブチレンなど)、ポリエーテル系(例えば、基本構造がポリ(オキシプロピレン)など)、ポリスルフィド系(例えば、基本構造がポリ(オキシアルキレンジスフィド)など)、ポリシロキサン系(例えば、基本構造がポリ(ジメチルシロキサン)など)などを挙げることができる。
【0066】
さらに、保護層形成用材料として、熱可塑性エラストマー(TPE)を用いることもできる。熱可塑性エラストマーは、室温ではゴム弾性を示すが、高温では可塑化されて成形が容易である物質群である。具体的には、スチレン系TPE、オレフィン系TPE、塩化ビニル系TPE、ウレタン系TPE、エステル系TPE、アミド系TPEなどが挙げられる。なお、上述したポリマーは、POFを構成するポリマーのガラス転移温度Tg以下で成形可能なものであれば、特に限定されるものではなく、上記のほかにも、上記以外の共重合体や混合ポリマーを用いることができる。
【0067】
また、保護層形成用材料として、ポリマー前駆体と反応剤などとを混合した液を熱硬化させる材料を用いることができる。例えば、特開平10−158353号公報に記載のNCOブロックプレポリマーと微粉体コーティングアミンとから製造される1液型熱硬化性ウレタン組成物を挙げることができる。その他にも、国際公開第95/26374号パンフレットに記載のNCO基含有ウレタンプレポリマーと、20μm以下の固形アミンとからなる1液型熱硬化性ウレタン組成物などを用いることもできる。さらには、性能改善を目的として、難燃剤、酸化防止剤、ラジカル捕獲剤、滑剤などの添加剤や、無機化合物および/または有機化合物からなる各種フィラーを加えることもできる。
【0068】
また、POFには、上記の保護層を1次被覆層とし、さらに、その外周に2次(または多層)被覆層を設けてもよい。1次被覆が充分な厚みを有している場合には、1次被覆の存在により熱ダメージが減少する。そのため、2次被覆層の素材の硬化温度の制限を、1次被覆層を被覆する場合に比べて緩くすることができる。なお、前述と同様に2次被覆層には、難燃剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル捕獲剤、昇光剤、滑剤などを導入してもよい。ただし、難燃剤は、臭素をはじめとするハロゲン含有の樹脂や燐含有のものがあるが、毒性ガス低減などの安全性および環境保護に対する観点から、これらの難燃剤は使用しないことが好ましく、難燃剤として金属水酸化物を使用することが好ましい。一方で、この金属水酸化物は、その内部に結晶水(水分)を有しているが、その製法過程において水分を完全に除去することができない。そのため、金属水酸化物による難燃性被覆は、1次被覆層の外層に耐湿性被覆を設けた後に、その外層に被覆層として設けることが望ましい。
【0069】
また、複数の機能を付与させるために、様々な機能を有する被覆を積層させてもよい。例えば、前述の難燃化以外に、吸湿を抑制するためのバリア層や水分を除去するための吸湿材料、例えば吸湿テープや吸湿ジェルを被覆層内や被覆層間に有することができ、可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や発泡層などの緩衝材、剛性を向上させるための強化層など、用途に応じて選択して設けることができる。樹脂以外にも構造材として、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線などの線材を熱可塑性樹脂に含有すると、得られるケーブルの力学的強度を補強することができることから好ましい。抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。さらに、金属線としてはステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。いずれのものも前述したものに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装、架空用の支持線や、配線時の作業性を向上させるための機構を組み込むことができる。
【0070】
次に、本実施形態におけるプリフォーム15の製造方法について、詳細に説明する。ただし、本実施形態は、本発明に係わる一例であり、本発明は、ここに示す形態に限定されるものではない。
【0071】
図5は、プリフォーム15を製造する際に用いる重合容器50の断面図である。重合容器50は、容器本体50aと蓋50bとを有し、本実施形態では、ステンレス製とされている。図5に示すように、重合容器50は、その内径がアウタークラッド部11の外径よりもわずかに大きいものが好ましく、後述するように、重合容器50の回転に連動して、アウタークラッド部11が回転するように構成されている。なお、上記のように、アウタークラッド部11が重合容器50の回転に応じることができるように、重合容器50の内壁面などには、アウタークラッド部11を支持する支持部材などを設けることが好ましい。また、重合容器50の所定の位置には、予め、整合結合の総数に対して不整結合を4%以上含むPVDFを用いて溶融押出成形により形成した円筒管であるアウタークラッド部11が収容されている。
【0072】
先ず、所定の材料からなる栓51によりアウタークラッド部11の一方の片端部を塞いだ後、インナークラッド部形成材料52をアウタークラッド部11の中に注入する。そして、注入口であるアウタークラッド部11の他方の端部も栓51で塞いでから、この重合容器50を、回転重合装置60(図6参照)の所定の位置にセットして熱重合を行なう。なお、栓51は、コア部形成材料に溶解しない素材からなり、かつ可塑剤などを溶出させるような化合物を含まないものとする。このような素材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。また、必要に応じて、アウタークラッド部11の中にインナークラッド部形成材料52を注入する前後において、公知の減圧装置によりアウタークラッド部11や注入物を減圧処理してもよい。これにより、アウタークラッド部11や注入物の内部に気泡が発生しにくくなる。
【0073】
図6は、回転重合装置60の概略図である。回転重合装置60は、装置本体61の中に、複数の支持回転部材62と駆動部63と温度コントローラ64とを備えている。支持回転部材62は円柱形状であり、2本の周面で少なくともひとつの重合容器50を支持することができるように、長手方向が互いにおおむね平行かつ略水平となっている。また、その一端は、装置本体61の側面に回動自在に取り付けられており、駆動部63によりそれぞれ独立した条件で回転駆動される。駆動部63には、モータ、減圧機、コントローラ(図示しない)などが備えられており、このコントローラにより、駆動部63の駆動が制御される。温度コントローラ64は、装置本体61の内部の温度を常時検知し、その検知結果に応じて内部温度を制御する。
【0074】
図7に、回転重合装置60による重合反応についての説明図を示す。重合反応を行なう場合には、図7に示すように、隣り合う支持回転部材62の周面により形成される谷部に重合容器50が載せられる。そして、駆動部63により制御される支持回転部材62の回転に応じて、重合容器50が回転される。本実施形態では、重合容器50の回転を、サーフェスドライブ式としているが、重合容器50の回転方式については、特に限定されるものではない。ただし、駆動部63による支持回転部材62の回転速度は、500〜4000rpmとすることが好ましい。より好ましくは、1500〜3500rpmとすることであり、この範囲内で、重合状態などに応じながら、適宜調整することが好ましい。
【0075】
重合容器50の両端の蓋50bには、磁石50cがそれぞれ備えられている。また、支持回転部材62の内部にも、磁石62aが備えられている。これにより、回転時において重合容器50が支持回転部材62から浮くことを防止することができる。なお、支持回転部材62から重合容器50が浮き上がることを防止する方法は、磁石を用いる方法に限定されるものではない。例えば、支持回転部材62と同様な回転手段を、回転重合装置60の所定の位置にセットされた重合容器50の上部に接するように設けて、これを支持回転部材62と同方向に回転させることで重合容器50の浮きを防止する方法や、重合容器50の上方に押さえ手段などを設けて、重合容器50に所定の荷重をかけて浮きを防止する方法などが挙げられ、本発明にも好適に用いることができる。
【0076】
アウタークラッド部11の中にインナークラッド部形成材料52を注入した重合容器50を、回転重合装置60の所定の位置にセットし、その長手方向を略水平にした状態で加熱しながら所望の回転数により回転(水平回転)させる。これにより、インナークラッド部形成材料52の重合を進行させる。
【0077】
インナークラッド部12の中にコア部形成材料を注入した重合容器50を回転重合装置60の所定の位置にセットし、その長手方向を略水平にした状態で加熱しながら所望の回転数により回転(水平回転)させる。コア部形成材料が重合を開始すると、インナークラッド部12の内壁がコア部形成材料により膨潤または溶解し、重合初期段階において膨潤層が形成される。この膨潤層はゲル状態であるため、重合速度は加速(ゲル効果と称する)して界面における反応が進行する(界面ゲル重合)。その結果、界面ゲル重合はインナークラッド部12の内壁から開始し、径の中心に向かって進行する。このとき、膨潤層の内部へは、分子体積の小さい組成物ほど優先的に入り込むため、重合の進行とともに共存するほかの組成物と比べて分子体積の大きなドーパントが膨潤層から中心方向へと押し出され、屈折率分布を有したコア部14は形成される。なお、コア部14を重合させる際には、界面ゲル重合を行なえばよい。以上により、図3(a)に示す構造を有するプリフォーム15を製造することができる。
【0078】
なお、インナークラッド部12を形成させるための熱重合を行なう前に、アウタークラッド部11を立てた状態で予備重合をしてもよい。予備重合を行なう場合には、必要に応じて、所定の回転機構によりアウタークラッド部11の円管軸を回転中心として回転させてもよい。例えば、アウタークラッド部11の長手方向をおおむね水平に保ちながら回転させると、アウタークラッド部11の内壁面全体にインナークラッド部12を形成させやすい。本実施形態では、インナークラッド部11やコア部14を重合させるときに、アウタークラッド部11の長手方向を水平にしているので、アウタークラッド部11の内壁面全体に各部材を形成させることができる。ただし、長手方向を略水平にすればよく、その平行具合は、特に限定されるものではないが、回転軸の許容される角度は、水平に対しておおむね5°以内であることが特に好ましい。
【0079】
本実施形態では、インナークラッド部形成材料52を重合させるときに、アウタークラッド部11とインナークラッド部形成材料52とが拡散混合されて混合部が形成される場合があり、この反応は、塊状重合反応とみなすことができる。塊状重合反応では、各部材での気泡の発生を抑制しながら重合を促進させることができるので、光学特性を低下させずに各部材を形成することができる。また、インナークラッド部12の内側にコア部14を形成させる場合にも、その界面付近に混合部が形成される反応と同様にして、界面ゲル重合が起こる。そのため、発泡が抑制され、光の伝送損失の上昇等が発生しない光学特性に優れたコア部14を得ることができる。なお、コア部形成工程24では、その重合温度を60〜120℃とし、回転ゲル重合を行う際の重合容器の回転数は500〜3000rpmとすることが好ましい。ただし、重合温度および回転数は、コア部形成材料の種類などに応じて上記範囲を満たすように適宜選択すればよい。
【0080】
本発明により製造されたPOF16は、プラスチック光ケーブルに好適であり、そのケーブル形状は使用形態によって、POF16を同心円上にまとめた集合ケーブルや、これらを横に一列に並べたテープ状のもの、さらにそれらを押え巻やラップシースなどでまとめた集合ケーブルなど用途に応じてその形態を選ぶことができる。なお、本発明によるPOF16を用いた光デバイスを使用する場合には、接続用光コネクタを用いることにより光デバイスにおける接続部を確実に固定することが好ましい。コネクタとしては一般に知られている、PN型、SMA型、SMI型、F05型、MU型、FC型、SC型などの市販の各種コネクタを利用することも可能である。
【0081】
本発明により得られるPOF16には、種々の発光素子を用いることができるが、光の放射角が狭いうえに集積率が上げられ、比較的低い電流で動作することや、構成する元素組成比によって発振波長を変化させることができるので、特開平7−307525号公報、特開平10−242558号公報、特開2003−152284号公報の記載の様に、面発光型半導体レーザー(VCSEL)を光源として用いることが好ましい。また、本発明のPOF16と、種々の受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置などとを組み合わすことで通信手段として用いることができる。なお、それらに関連する技術は、いかなる公知の技術も適用することが可能であり、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などが挙げられる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線、車両や船舶などの内部配線、光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LANなどをはじめとする、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送方式に好適に用いることができる。
【0082】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344 「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号公報に記載の導波路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号などの各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号などの各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号などの公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号などの各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号などに記載の光信号処理装置;特開2001−86537号などに記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号などに記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号などの各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などを組み合わせることで、多重化した送受信などを使用した、より高度な光伝送方式を構築することができる。以上の光伝送用途以外にも照明(導光)、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
【0083】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例1,2において、共通するプリフォーム15などの製造条件などは、実施例1でのみ詳細に説明するものとし、実施例2では変更点のみを示す。
【実施例1】
【0084】
実施例1では、下記に示す方法で製造したプリフォーム15から、加熱延伸時の条件を変更することにより、外径が異なる3種類のPOF16を作製した(実験1−1〜1−3)。なお、いずれも屈折率分布はGI型である。
【0085】
[実験1−1]
不整結合を4.5%含むPVDFペレットから、溶融押出成形により内径20mm、長さ905mm、外径20.5mmサイズのPVDFの円筒管をアウタークラッド部11として作製した。このとき、アウタークラッド部11の内壁面の平均粗さRa′を測定したところ、0.23μmであった。なお、Ra′は、表面粗さ計(キーエンス(株)製 VK−8500)により測定した。
【0086】
アウタークラッド部11の中空部に、下記のインナークラッド部形成材料を注入した。インナークラッド形成部材料は、重合開始剤として0.022モル%のジメチル−2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(商品名;V−601、和光純薬(株)製)(70℃での半減期時間;5時間)と、連鎖移動剤として0.1モル%のn−ラウリルメルカプタンを混合させた185gのMMAを使用した。次に、インナークラッド部形成材料を注入したアウタークラッド部11を、重合容器62に収容してから、これを長手方向が水平となるように回転重合装置60にセットし、2000rpmで回転させながら70℃の雰囲気下で8時間の熱重合を行なった。続けて、同回転数で90℃,4時間の熱重合を行なうことにより、アウタークラッド部11の内側にインナークラッド部12を形成した。
【0087】
続いて、インナークラッド部12の中空部に、下記のコア部形成材料を常温常圧下で注入した。コア部形成材料は、重合開始剤として0.04モル%のジメチル2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601)と、連鎖移動剤として0.15モル%のn−ラウリルメルカプタンと、ドーパントとして7質量%のジフェニルスルフィド(DPS)とを混合させた80gのMMAを用いた。なお、DPSは非重合性組成物である。そして、クラッド部23を、長手方向が水平となるように、回転重合装置60にセットして、回転速度を2000rpmとして回転させながら70℃の雰囲気下で10時間、その後、同回転速度で120℃,24時間の界面ゲル重合を行い、クラッド部23の中にコア部14を形成させたGI型POF用母材である中空状のプリフォーム15を作製した。
【0088】
完成したプリフォーム15を、内部温度を230℃に調整した加熱炉30(図2参照)を用いて加熱延伸することにより、POF16を製造した。加熱炉30は、高さ480mm、内径80mmの円筒状の加熱溶融炉を用い、延伸速度を15m/分、延伸滞留時間を7分とした。また、POF16は、外径が316μmであり、インナークラッド42の外径が300μmであった。
【0089】
また、POF16のアウタークラッド41の内壁面の平均粗さRaを測定したところ、0.06μmであった。Raの測定は、完成したPOF16から、長さ1cmの切断片を採取し、この切断片をさらに長手方向に2等分したものをアセトンに3日間浸漬することで、インナークラッド42とコア44とを除去したものをサンプルとし、このサンプルを、表面粗さ計(キーエンス(株)製 VK−8500)により測定した。なお、Ra′ならびにRaの測定方法は、本実施例で行なった全ての実験で適用する。
【0090】
また、POF16の曲げ損失を測定したところ、0.002dBと非常に低い値が得られた。なお、曲げ損失は、JIS C6861に準じて測定したものであって、長さ5mのPOF16を、曲がり半径Rが10mmとなるように360度曲げて、この曲げた状態での伝送損失値から曲げる前の伝送損失値を引いた差である。
【0091】
[実験1−2]
実験1−1と同じ材料および製造方法により形成したプリフォーム15を用いて、POF16を製造した。ただし、Ra′が0.23μmであるアウタークラッド部11を有するプリフォーム15を、加熱炉30により加熱延伸させて、外径が470μmであり、インナークラッド42の外径が440μmであるPOF16を製造した。なお、完成したPOF16のアウタークラッド41のRaは、0.07μmであった。そして、このPOF16の曲げ損失を測定したところ、0.015dBと非常に低い値を示した。
【0092】
[実験1−3]
実験1−1と同じ材料および製造方法により形成したプリフォーム15を用いて、POF16を製造した。ただし、Ra′が0.23μmであるアウタークラッド部11を有するプリフォーム15を、加熱炉30により加熱延伸させて、外径が750μmであり、インナークラッド42の外径が710μmであるPOF16を製造した。なお、完成したPOF16のアウタークラッド41のRaは、0.08μmであった。そして、このPOF16の曲げ損失を測定したところ、0.04dBと非常に低い値を示した。
【実施例2】
【0093】
実施例2では、不整結合を3.5%含むPVDFを用いて、実施例1と同じ製造方法によりプリフォーム15および、このプリフォーム15から外径が異なる3種類のPOF16を製造した。
【0094】
[実験2−1]
Ra′が0.28μmのアウタークラッド部11を有するプリフォーム15を、加熱炉30により加熱延伸させて、外径が316μmであり、インナークラッドの外径が300μmであるPOF16を製造した。なお、完成したPOF16のアウタークラッド41のRaは、0.14μmであった。そして、このPOF16の曲げ損失を測定したところ、0.22dBと高い値を示した。
【0095】
[実験2−2]
Ra′が0.28μmのアウタークラッド部11を有するプリフォーム15を、加熱炉30により加熱延伸させて、外径が470μmであり、インナークラッドの外径が440μmであるPOF16を製造した。なお、完成したPOF16のアウタークラッド41のRaは、0.15μmであった。そして、このPOF16の曲げ損失を測定したところ、0.43dBと高い値を示した。
【0096】
[実験2−3]
Ra′が0.28μmのアウタークラッド部11を有するプリフォーム15を、加熱炉30により加熱延伸させて、外径が750μmであり、インナークラッドの外径が710μmであるPOF16を製造した。なお、完成したPOF16のアウタークラッド41のRaは、0.16μmであった。そして、このPOF16の曲げ損失を測定したところ、0.67dBと非常に高い値を示した。
【0097】
実施例1,2の結果から、口径サイズに係わらず、アウタークラッドの内壁面の平均粗さRaを0.1μm未満とすると、アウタークラッドとインナークラッドとの界面における光の損失が低減し、曲げ損失に優れるPOFを製造することができることを確認した。この原因としては、アウタークラッドのRaが0.1μm未満の場合には、非常に結晶サイズが小さい構造のため、光の散乱や外部への漏れを防止する効果を得ることができると考えられる。なお、上記のようなRaを満たすアウタークラッドを形成するには、整合結合の総数に対する不整結合の含まれる割合が4%以上であるPVDFを用いて、所望の重合温度や加熱延伸温度によりPOFを製造すればよいことも確認した。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係わるPOFの製造工程を示す概略図である。
【図2】プリフォームを加熱延伸する際に用いる加熱炉の一例の概略図である。
【図3】(a)本発明に係わる一例のプリフォームの径方向における断面図であり、(b)は本発明に係わる一例のプリフォームの径方向における屈折率分布図である。
【図4】(a)本発明に係わる一例のPOFの径方向における断面図であり、(b)は本発明に係わる一例のPOFの径方向における屈折率分布図である。
【図5】重合容器の一例の断面図である。
【図6】回転重合装置の一例の概略図である。
【図7】回転重合容器の回転方法についての説明図である。
【符号の説明】
【0099】
11 アウタークラッド部
12 インナークラッド部
14 コア部
15 プリフォーム
16 プラスチック光ファイバ素線(POF)
20 アウタークラッド部形成工程
25 加熱延伸工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリフォームを加熱延伸することにより形成される、円筒状のクラッドと前記クラッドの内側に配され光の伝送路となるコアとを有するプラスチック光ファイバ素線において、
前記クラッドは、円筒状のアウタークラッドと前記アウタークラッドの内側に配されるインナークラッドとを有し、前記アウタークラッドの内壁面の平均粗さRa(μm)が0.1μm未満であることを特徴とするプラスチック光ファイバ素線。
【請求項2】
前記アウタークラッドは、同じ位置の単量体同士が結合した整合結合の総数に対して、異なる位置にある単量体同士が結合した不整結合の含まれる割合が4%以上であるポリフッ化ビニリデンからなることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光ファイバ素線。
【請求項3】
前記コアは、径の中心から外側に向かうにしたがい連続的に屈折率が低くなることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光ファイバ素線。
【請求項4】
円筒状のクラッドと、前記クラッドの内側に配され、光の伝送路となるコアとを有するプラスチック光ファイバ素線を製造する方法において、
前記クラッド部は、円筒状のアウタークラッド部と前記アウタークラッド部の内側に配されるインナークラッド部とを含み、
第1重合性組成物を重合させた樹脂を溶融押し出し成形してアウタークラッド部を形成した後、このアウタークラッド部の中に第2重合性組成物を注入して重合させることにより、インナークラッド部を形成させるクラッド部形成工程と、
前記インナークラッド部の中に第3重合性組成物を注入し重合させることにより前記コア部を形成して前記プリフォームを作製した後、
前記プリフォームを加熱延伸することにより、前記プリフォームを構成する重合性組成物の重合を促進させながら所望の径のプラスチック光ファイバ素線とする加熱延伸工程とを有し、
前記第1重合性組成物として、同じ位置の単量体同士が結合した整合結合の総数に対して、異なる位置の単量体同士が結合した不整結合の含まれる割合が4%以上であるポリフッ化ビニリデンを使用することを特徴とするプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項5】
前記加熱延伸工程において前記プリフォームを加熱延伸させることで、前記アウタークラッド部を、内壁面の平均粗さRa(μm)が0.1μm未満であるアウタークラッドとすることを特徴とする請求項5記載のプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項6】
前記加熱延伸工程では、前記プリフォームを180〜300℃に加熱することを特徴とする請求項4または5記載のプラスチック光ファイバ素線の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−163910(P2007−163910A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361284(P2005−361284)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】