説明

プラスチック光学部材及びその製造方法

【課題】 デジタルカメラや複写機等の光学機器のコンパクト化に伴い、搭載される光学部材の小型化が求められている。しかし従来技術では、芯レンズの外径より大きなキャビティ空間を設け、そこに被覆プラスチックが芯レンズの表裏光学面に同時に流入する手法が取られている為、光学部材の小型化が阻害される要因となってしまう。
【解決手段】 芯レンズに被覆のための溶解プラスチックが分岐流動する凹形状部を設け、当該凹形状部を介して被覆プラスチックを芯レンズの表裏面に同時に流入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラや複写機等の光学機器に使用されるプラスチック光学部材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、射出成形法を用いた厚肉の光学部材を製造する需要が高まっている。しかし光学部材の厚さが増加するに伴って、成形中に先に硬化する表面プラスチック層と遅れて硬化する内部プラスチック部との間の硬化収縮の差による応力の増加がみられる。それにより光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生や、内部応力の残留という問題点が発生する。また、このような厚肉の光学部材については、金型内における冷却時間が厚さの増加により急激に長くなるため、成形サイクルが著しく増大するという問題点もある。
【0003】
そこでこのような問題点を解決するためにプラスチック製の芯レンズが内部に収容され、該芯レンズの表裏光学面を被覆プラスチックで一体化するという発明が提案されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8‐187793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デジタルカメラや複写機等の光学機器のコンパクト化に伴い、搭載される光学部材の小型化が求められている。しかし、上記の特許文献1に記載の方法では、芯レンズの外形より大きなキャビティ空間を設け、芯レンズの表裏光学面に被覆プラスチックを流入させる手法が取られている。その為、芯レンズより外形が大きい光学部材となってしまい、光学部材の小型化が阻害されてしまう要因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラスチック光学部材は、プラスチック成形品である芯レンズの表裏面に、被覆プラスチックによる成形部を有するプラスチック光学部材であって、前記芯レンズは、凹形状部を有することを特徴とする。
【0007】
本発明のプラスチック光学部材の製造方法は、プラスチック成形品である芯レンズを金型に挿入し、前記芯レンズの表裏面と前記金型の間に空間部を形成し、前記空間部に被覆プラスチックを流し込み、一体化させるプラスチック光学部材の製造方法であって、
前記芯レンズは、凹形状部を有し、前記凹形状部から、前記空間部に被覆プラスチックを流し込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芯レンズの外形に対して、芯レンズと被覆プラスチックとで一体化したプラスチック光学部材の外形を芯レンズと同等にすることが可能となる。よって、厚肉であっても、成形時間を延長することなく、光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生や、内部応力の残留が抑制され、かつ、小型化されたプラスチック光学部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第一の実施形態を説明する図
【図2】金型の断面図
【図3】第一の実施形態を説明する図
【図4】第一の実施形態を説明する図
【図5】第一の実施形態を説明する図
【図6】第一の実施形態を説明する図
【図7】第二の実施形態を説明する図
【図8】第二の実施形態を説明する図
【図9】第二の実施形態を説明する図
【図10】第二の実施形態を説明する図
【図11】金型の断面図
【図12】本発明のプラスチック光学部材を説明する図
【図13】本発明のプラスチック光学部材を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のプラスチック光学部材は、プラスチック成形品である芯レンズの表裏面に、被覆プラスチックによる成形部が形成されたプラスチック光学部材であって、前記芯レンズの表裏光学面に被覆プラスチックを流入させる為に、前記芯レンズに被覆プラスチックを分岐流動させる為の凹形状部を有する。
【0011】
(第一の実施形態)
本発明のプラスチック光学部材の第一の実施形態を図1、図2、図3に示す。同一部分には同一符号を附して重複説明を省略する。
【0012】
図1は芯レンズの平面図(a)及び断面図(b)である。1は芯レンズ、2は芯レンズ外形、3は光学有効領域、4は凹形状部、5、6は、芯レンズの表側光学面である表面と芯レンズの裏側光学面である裏面であり、本願では、5、6を芯レンズの表裏面と称する。この時表裏面5、6のどちらが表面か裏面かは特に限定されない。
【0013】
図2は本発明のプラスチック光学部材を製造するための金型の一例を示す断面図である。図中7は光学部材成形用射出成形金型、8はプラスチック光学部材、9、10はプラスチック光学部材の表側光学面である表面とプラスチック光学部材の裏側光学面である裏面であり、本願では、9、10をプラスチック光学部材の表裏面と称する。この時表裏面9、10のどちらが表面か裏面かは特に限定されない。11はスプール、12はランナー、13はゲートを示し、14は被覆プラスチックを示す。芯レンズ1を、光学部材成形用射出成形金型7に不図示の位置決め機構を用いて挿入する。その後、被覆プラスチック14を、芯レンズ1に設けた凹形状部4から流入させることで、芯レンズ1の表裏面5、6に被覆プラスチック14を流入させることができる。その結果、図3に示すように、プラスチック光学部材8における外形15は、芯レンズ1の外形2と同じ大きさにまで小型化することができる。
【0014】
図3は本実施形態に係るプラスチック光学部材の平面図(a)及び断面図(b)である。図中15はプラスチック光学部材外形を示す。図1に示された芯レンズ1の表裏面5、6に被覆プラスチックを流入させる為に、芯レンズ1に被覆プラスチックを分岐流動させる為の凹形状部4を設けている。この凹形状部4から被覆プラスチックを、芯レンズ1の表裏面5、6に、流し込むことにより、芯レンズ1の表裏面5、6には、被覆プラスチックによる成形部が形成される。つまり芯レンズの表裏面に形成された成形部は、少なくとも凹形状部で繋がっていることになる。
【0015】
次に、本実施形態に係る凹形状部の形状の変形例を図4、5に示す。図1と同一部分には同一符号を附して重複説明を省略する。図4は芯レンズの平面図(a)〜(k)を示す。図中16は、凹形状部が角形状であり、17は、凹形状部が角形状にRを設けた形状、18は凹形状部が楕円弧形状または円弧形状、19は凹形状部がV形状、20は凹形状部がDカット形状である芯レンズを示す。また、図5も芯レンズの平面図(a)、(b)を示し、30はレンズの長手面、31はレンズの隅部を示す。このように凹形状部は、芯レンズ1の外形2に対して、凹みによって空間が形成できる形状であれば、どのような形であってもよく、どのような位置にあってもよい。例えば、芯レンズ1が丸形状であれば、図4(a)に示す角形状16や図4(b)に示す角形状にRを設けた形状17、図4(c)に示す楕円弧形状18、図4(d)に示すV形状19、図4(e)に示すDカット形状20等が上げられるが、特に限定されない。また、芯レンズ1が角形状である場合にも、図4(f)に示す角形状16や図4(g)に示す角形状にR形状を設けた形状17、図4(h)に示す楕円弧形状または円弧形状18、図4(i)に示すV形状19、図4(j)、(k)に示すDカット形状20等が上げられる。しかし、凹形状部の形状は、芯レンズ1の外形2に対して空間が形成できる形状であれば特に限定されない。また、図5では、芯レンズ1上での凹形状部4の位置について図4に図示していない例を示す。図5(a)に示す芯レンズ1では、長手面30に凹形状部4が位置し、図5(b)に示す芯レンズ1では、隅31に凹形状部4が位置している例を示している。しかし、凹形状部を形成する位置についても、特に限定されない。また、芯レンズ1は、射出成形法によって製造されることが好ましいが、もちろん、キャスティング法、コンプレッション法等、公知の技術を用いて製造しても構わない。また凹形状部は、金型に凹形状部に対応する形状を作成し転写してもよいし、成形された芯レンズに、切削加工法等の方法等によって加工することにより、成形後に形成してもよい。
【0016】
本発明のプラスチック光学部材の芯レンズと被覆プラスチックの材質は熱可塑プラスチックであれば特には限定されないが、芯レンズ1の屈折率と被覆プラスチックの屈折率差が少ないことが好ましい。ここでいう屈折率差は、使用波長において0.001以下であることが好ましい。屈折率差が0.001以下であれば、光学性能上屈折率差がほとんど無い状態として扱うことができる。その結果、芯レンズ1に設けられた凹形状部4が、芯レンズ1の光学有効領域3の内側に形成されても、光学性能上、凹形状部4と被覆プラスチックの成形部14との界面が存在していないとして扱うことができる。凹形状部4が芯レンズ1の光学有効領域3の内側に形成された芯レンズの一例である平面図を図6に示す。35は芯レンズ外形、36は芯レンズを示す。図6に示すように、凹形状部4を光学有効領域3の内側に配置することができる。このように配置することで、芯レンズの外形35を光学有効領域3近傍まで小型化した芯レンズ36とすることが可能となる。その結果、厚肉であっても、光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生や、内部応力の残留が抑制され、かつ、より小型化されたプラスチック光学部材を得ることが可能となる。
【0017】
また、図3に示した芯レンズ1と被覆プラスチック14とを同じ材質とすると、より好ましい。材質としては、例えばポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンとα−オレフィンの共重合体、ポリスチレン、スチレンとメタクリル酸メチルとの共重合体、フルオレン系ポリエステル等が上げられる。しかし、材質は熱可塑プラスチックであれば特には限定されない。また、芯レンズ1の材質と異なる被覆プラスチック14の材料に無機微粒子を分散させることで、芯レンズ1の材料と屈折率差のない屈折率に調整し使用しても構わない。
【0018】
(第二の実施形態)
本発明のプラスチック光学部材の第二の実施形態を図7、図8に示す。図1、図3と同一部分には同一符号を附して重複説明を省略する。本実施形態における凹形状部4の少なくとも光学有効域内の面形状は、連続的に変化していることを特徴としている。また、本実施形態における凹形状部4の少なくとも光学有効域内の面形状は、光軸と平行な断面において光軸方向をX、光軸方向と垂直方向をYとした時、少なくとも光学有効域内において、dY/dXが連続である形状であるとより好ましい。
【0019】
図7(a)は本実施形態に係る芯レンズの全体図、図7(b)は、凹形状部を含む光軸に平行な面Aで切断した際の芯レンズの断面図、図7(c)は、凹形状部を含む光軸に平行かつ面Aに垂直な面Bで切断した際の芯レンズの断面図である。Xは光軸方向、Yは光軸と垂直方向、Aは凹形状部を含む光軸に平行な面、Bは凹形状部を含む光軸に平行であってかつ面Aに垂直な面を示す。またaは、芯レンズ1の切断面Aと凹形状部を構成する面との交線を、光軸方向Xの関数として捉えた場合の極値、b、cは芯レンズ1の切断面Bと凹形状部を構成する面との交線を、光軸方向Xの関数として捉えた場合の極値を示す。図8は、本実施形態に係るプラスチック光学部材を示す図であり、図8(a)は平面図、図8(b)は断面図、図8(c)はレンズ位置と光軸方向のレンズ内平均屈折率の関係の概念図である。
【0020】
図7(b)、(c)に示すように、芯レンズの凹形状部4を構成する面と、光軸と平行な断面との交線41、42は、なだらかな曲線のみで形成されている。つまり、少なくとも光学有効域内において、連続的に変化している形状で形成されている。また、dY/dXが連続である形状がより好ましい。
【0021】
このような形状にすることで、より接合界面が視認されにくくなることがわかった。これは、被覆プラスチックにより芯レンズと被覆プラスチックによる成形部とが一体化した後のプラスチック光学部材内において、屈折率が急激に変化する部位がなく、どの部位においても屈折率がなだらかに変化する構成となっているためであると考えられる。
【0022】
このような形状にすることで、凹形状部を光学有効域の内側に設けても光学性能を維持することができるため、光学設計値に対して光学有効部を光学部材の外形ぎりぎりまで広げることができる。つまり凹形状部の分だけ余裕をもった製品の外形設計をする必要がなくなるため、より小型化したプラスチック光学部材を提供でき、さらに接合界面がより視認されにくいため、より高性能な光学特性を有する光学部材を得ることができる。
【0023】
図7の芯レンズ1は一例として、光軸方向から見た際のレンズ外形形状が丸型形状である場合を示すが、本発明は上記形状に限定されるものではなく、光軸方向から見たレンズ外形形状が、角型形状、楕円形状、小判形状、多角形等であっても構わない。また芯レンズ1に設けられる凹形状部4の位置に関しては、例えば角型レンズの場合、光軸方向から見た際にレンズ外形の短辺側中央付近に設けても長辺側中央付近に設けても、対角の頂点付近に設けてもよく、特に問わない。光軸方向から見た際のレンズ外形形状がその他の形状の場合においても同様に、凹形状部4を設ける位置について特に問わない。
【0024】
プラスチック光学部材内の芯レンズの凹形状部4は、少なくとも光学有効領域3内において、図8(b)に示すようになだらかな曲線のみで形成されている。つまり、少なくとも光学有効域内において、連続的に変化している形状で形成されている。光軸と平行な断面において光軸方向をX、光軸方向と垂直方向をYとした時、光学有効域内において、dY/dXが連続である形状であるとより好ましい。連続的に変化している形状で形成されているため、本実施形態のプラスチック光学部材は、光軸方向から観察した際にレンズ内で屈折率が急激に変化する部位がなく、連続的に変化していくため、接合界面が視認されない構成となっている(図8(c)参照)。そのため、プラスチック光学部材の外形ぎりぎりまで光学有効領域とすることが可能になり、結果小型化された光学プラスチック光学部材8を得ることができる。
【0025】
本実施形態ではメニスカスレンズ形状としているが、本発明はこのレンズ形状に限定されるものではない。凸レンズ、凹レンズ、シリンドリカルレンズ、fθレンズ、フレネルレンズ等の各種レンズ等の光学部材に広く適用できるものである。
【0026】
次に、本実施形態に係る芯レンズの凹形状部の形状の変形例を図9、10に示す。図7、図8と同一部分には同一符号を附して重複説明を省略する。
【0027】
図9は、本実施形態の一変形例に係る芯レンズを示す図である。図9(a)は、全体図、図9(b)は、凹形状部4を含む光軸に平行な面Aで切断した際の芯レンズ断面図、図9(c)は、凹形状部を含む光軸に平行かつ面Aに垂直な面Bで切断した際の芯レンズ断面図である。図9に示すように、少なくとも光学有効領域3内において、芯レンズ1の凹形状部4を構成する面と、光軸に平行な面Aとの交線41は、なだらかな曲線部と光軸に平行ではない直線部から構成され、少なくとも光学有効域内において、連続的に変化している。dY/dXが連続である形状であるとより好ましい。凹形状部4を含む光軸に平行かつ面Aに垂直な面Bと、芯レンズ1の凹形状部4を構成する面との交線42においても、なだらかな曲線部と光軸に平行ではない直線部から構成され、少なくとも光学有効域内において、連続的に変化している。dY/dXが連続である形状であるとより好ましい。
【0028】
このような形状にすることで、被覆一体化後のプラスチック光学部材内において、屈折率が急激に変化する部位がなく、なだらかに変化する構成となっているため接合界面が視認されなくなる。そのため凹形状部4を光学有効領域3の内側に設けても、光学性能を維持することができるため、光学設計値に対して凹形状部の分だけ余裕をもった外形設計をする必要がなくなり、小型化したプラスチック光学部材を提供できる。
【0029】
さらに、本実施形態の他の変形例に係る芯レンズを図10に示す。図10(a)は、全体図、図10(b)は、凹形状部4を含む光軸に平行な面Aで切断した際の芯レンズ断面図、図10(c)は、凹形状部を含む光軸に平行かつ面Aに垂直な面Bで切断した際の芯レンズ断面図である。図10に示すように、少なくとも光学有効域3内において、芯レンズ1の凹形状部4を構成する面と、光軸に平行な面Aとの交線41は、なだらかな曲線部と光軸に平行な直線部から構成され、少なくとも光学有効域内において、連続的に変化している。dY/dXが連続である形状であるとより好ましい。凹形状部4を含む光軸に平行かつ面Aに垂直な面Bと、芯レンズ1の凹形状部4を構成する面との交線42においても、なだらかな曲線部と光軸に平行な直線部から構成され、少なくとも光学有効域内において、連続的に変化している。dY/dXが連続である形状であるとより好ましい。このような形状にすることで、被覆一体化後のプラスチック光学部材内において、屈折率が急激に変化する部位がなくなだらかに変化する構成となっているため接合界面が視認されなくなる。そのため凹形状部4を光学有効域3の内側に設けても光学性能を維持することができるため、光学設計値に対して空間形状の分だけ余裕をもった製品の外形設計をする必要がなくなるため、小型化したプラスチック光学部材を提供できる。
【0030】
図9、図10に本実施形態の代表的な変形例を示したが、これらの形状は本発明のプラスチック光学部材における芯レンズの一例である。
【0031】
本実施形態のプラスチック光学部材の芯レンズと被覆プラスチックの材質は熱可塑プラスチックであれば特には限定されないが、芯レンズ1の屈折率と被覆プラスチックの屈折率差が少ないことが好ましい。ここでいう屈折率差は、使用波長において0.001以下であることが好ましい。屈折率差が0.001以下であれば、光学性能上屈折率差がほとんど無い状態として扱うことができる。その結果、芯レンズ1に設けられた凹形状部4が、芯レンズ1の光学有効領域3の内側に形成されても、光学性能上、凹形状部4と被覆プラスチックの成形部14との界面が存在していないとして扱うことができる。
【0032】
また、芯レンズ1と被覆プラスチック14とを同じ材質にすると、より好ましい。材料としては、例えばポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンとα−オレフィンの共重合体、ポリスチレン、スチレンとメタクリル酸メチルとの共重合体、フルオレン系ポリエステル等が上げられる。しかし、材質は熱可塑プラスチックであれば特には限定されない。また、芯レンズ1の材質と異なる被覆プラスチック14の材料に無機微粒子を分散させることで芯レンズ1の材料とほとんど屈折率差のない屈折率に調整し使用しても構わない。
【0033】
(製造方法)
次に、本発明のプラスチック光学部材の製造方法の実施形態の一例について、図11、図12、図13を用いて説明する。図1、図2、図3と同一部分には同一符号を附して重複説明を省略する。
【0034】
まず、芯レンズを射出成形法によって製造する。そして、この芯レンズを、射出成形金型のキャビティに挿入し、芯レンズの表裏面と金型の間に形成された空間部に、芯レンズに設けられた凹形状部から、被覆プラスチックを流し込む。そして、固化させて、前記芯レンズの表裏面に成形部を形成して前記芯レンズと前記成形部を一体化することによりプラスチック光学部材を製造する。
【0035】
図11は本実施形態のプラスチック光学部材を製造するための金型の断面図(a)〜(d)である。40は芯レンズ成形用射出成形金型、41はキャビティ、42は凹形状部、47はゲートを示す。図12は、本実施形態に係るプラスチック光学部材の製造方法によって製造されるプラスチック光学部材の断面図を示す。図中51、52は被覆プラスチックによる成形部の厚み、53は芯レンズ厚みを示す。図13(a)〜(d)は、本実施形態に係るプラスチック光学部材の製造方法によって製造されるプラスチック光学部材の変形例の断面図を示す。
【0036】
図11(a)において、40は芯レンズを形成する為の芯レンズ成形用射出成形金型、41はキャビティである。芯レンズに凹形状部が形成されるように、芯レンズ成形用射出成形金型40には、芯レンズの凹形状部に対応する凸形状部42が形成されている。図11(b)に示すように、前記キャビティ41に、芯レンズを成形するための溶融プラスチックを、スプール45、ランナー46、ゲート47を介して流入させることで、凹形状部4を有した芯レンズ1が成形される。この時の、ゲート47の位置と凸形状部42の位置関係は任意である。
【0037】
次に、この芯レンズ1を、図11(c)に示された光学部材成形用射出成形金型7に、不図示の位置決め機構を用いて挿入する。芯レンズの表裏面5、6と金型表面49、50との間に空間部が形成されるように、光学部材成形用射出成形金型7は加工されている。また、芯レンズに設けた凹形状部と、光学部材成形用射出成形金型7との間にも空間が形成される。そして、図11(d)に示すように、スプール11、ランナー12、ゲート13を介して、芯レンズ1に設けた凹形状部4と光学部材成形用射出成形金型7との空間に、被覆プラスチック14を流入させる。この凹形状部4によって形成された金型との間の空間に溶融した被覆プラスチックを流入させることにより、芯レンズの表裏面5、6と金型表面49、50との間の空間部に、スムーズに溶融した被覆プラスチックを流し込むことができる。その後、不図示の冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることにより、芯レンズ1と被覆プラスチック14とが一体化されたプラスチック光学部材8が製造される。芯レンズ1に設けた凹形状部4と金型との空間に、被覆プラスチック14を流入させることにより、プラスチック光学部材の外形を、芯レンズ1の外形より大きくする必要がなく、厚肉であっても、小型化されたプラスチック光学部材8を製造することができる。
【0038】
またレンズ形状は図12に示すメニスカスレンズ、図13(a)に示す両凸レンズ、図13(b)に示す両凹レンズ、図13(c)に示す平凸レンズ、図13(d)に示す平凹レンズ等、特に限定されない。また、表裏面形状(特に、光学有効領域3の形状である光学面形状)も、球面、非球面、自由曲面等特に限定されない。しかし、図12に示す本発明のプラスチック部材8において、少なくとも光学有効領域3においては、芯レンズ1の表裏面5、6の形状とプラスチック光学部材8の表裏面9、10の形状とを、ほぼ相似形状とすることが好ましい。また少なくとも光学有効領域3においては、芯レンズ1の表裏面5、6を被覆する被覆プラスチック14の成形部の厚み51、52がほぼ同じであることが好ましい。また少なくとも光学有効領域3においては、芯レンズ1の表裏面5、6を被覆する被覆プラスチックの厚みの和は芯レンズ1の厚み53以下であることが好ましい。これらは、プラスチック光学部材を成形した後の収縮による変形を低減できる効果がある。
【0039】
また、本発明のプラスチック光学部材の製造方法において、芯レンズ1の屈折率と同じ屈折率である被覆プラスチック材料を用いて、成形部を製造することが好ましい。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
実施例1について説明する。
【0042】
まず芯レンズ成形用射出成形金型を射出成形装置に設置し、芯レンズ用の溶融プラスチック(シクロオレフィン)をスプール、ランナー、ゲートを介して流入させた。その後冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで芯レンズを製造した。製造した芯レンズは、高さが16mm、幅が18mmの小判形状であり、内部に高さ12mm、幅14mmの小判形状の光学有効領域を設けた中心肉厚6mmのメニスカスレンズとした。凹形状部は、幅が4mm、深さが2mmであり、光学有効領域の内側にその一部配置抜き勾配に沿って形成された。
【0043】
次に、光学部材成形用射出成形金型を射出成形装置に設置した。位置決め機構を用いて前記芯レンズを光学部材成形用射出成形金型に挿入した。次に、被覆プラスチック(シクロオレフィン)を、スプール、ランナー、ゲート、芯レンズに設けた凹形状部と順に介して、芯レンズの表裏面と金型表面との間の空間部に流入させ、芯レンズ表裏面に成形部を形成した。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることでプラスチック光学部材を製造した。
【0044】
得られたプラスチック光学部材の外形寸法は、芯レンズと同じであり、被覆プラスチックによる成形部の厚みはそれぞれ3mmであった。そして、光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生もなく、かつ、芯レンズの外形と同じまで小型化されたプラスチック光学部材が得られた。
【0045】
(実施例2)
実施例2について説明する。本実施例においては、芯レンズ用の溶融プラスチックおよび被覆プラスチックについて、[表1]」に示す材料の組み合わせで実施した。
【0046】
【表1】

【0047】
まず芯レンズ成形用射出成形金型を射出成形装置に設置し、芯レンズ用の溶融プラスチックをスプール、ランナー、ゲートを介して流入させた。その後冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで芯レンズを製造した。製造した芯レンズは、高さが14mm、幅が16mmの小判形状であり、内部に高さ12mm、幅14mmの小判形状の光学有効領域を設けた中心肉厚6mmのメニスカスレンズとした。凹形状部は、幅が4mm、深さが2mmであり、抜き勾配に沿って形成され、その一部を光学有効領域の内側に配置した。
【0048】
次に、光学部材成形用射出成形金型を射出成形装置に設置した。位置決め機構を用いて前記芯レンズを光学部材成形用射出成形金型に挿入した。次に、被覆プラスチックを、スプール、ランナー、ゲート、芯レンズに設けた凹形状部と順に介して、芯レンズの表裏面と金型表面との間の空間部に流入させ、芯レンズ表裏面に成形部を形成した。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることでプラスチック光学部材を製造した。
【0049】
得られたプラスチック光学部材はいずれも、外形寸法は、芯レンズと同じであり、被覆プラスチックによる成形部の厚みはそれぞれ3mmであった。そして、光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生もなく、かつ、芯レンズの外形と同じまで小型化されたプラスチック光学部材が得られた。
【0050】
(実施例3)
実施例3について説明する。
【0051】
まず芯レンズ成形用射出成形金型を射出成形装置に設置し、芯レンズ用の溶融プラスチック(スチレンとメタクリル酸メチルの共重合体)をスプール、ランナー、ゲートを介して流入させた。その後冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで芯レンズを製造した。製造した芯レンズは、高さが20mm、幅が15mmの小判形状であり、外形ぎりぎりまで光学有効領域を設けた中心肉厚6mmのメニスカスレンズとした。凹形状部は、光学有効領域の内側に配置し、幅が3mm、深さが2mmとした。また、凹形状部は光軸と平行な断面との交線においてなだらかな曲線のみで形成し、光学有効領域内において、連続的に変化する形状とした。
【0052】
次に、光学部材成形用射出成形金型を射出成形装置に設置した。位置決め機構を用いて前記芯レンズを光学部材成形用射出成形金型に挿入した。次に、被覆プラスチック(スチレンとメタクリル酸メチルの共重合体)を、スプール、ランナー、ゲート、芯レンズに設けた凹形状部と順に介して、芯レンズの表裏面と金型表面との間の空間部に流入させ、芯レンズ表裏面に成形部を形成した。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることでプラスチック光学部材を製造した。
【0053】
得られたプラスチック光学部材の外形寸法は、芯レンズと同じであり、被覆プラスチックによる成形部の厚みはそれぞれ3mmであった。また、得られたプラスチック光学部材は、光軸方向から観察した時、レンズ内において屈折率が急激に変化する部位がなく、なだらかに変化していくため、接合界面はまったく視認されなかった。そして、光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生もなく、かつ、芯レンズの外形と同じまで小型化されたプラスチック光学部材が得られた。
【0054】
(実施例4)
実施例4について説明する。
【0055】
まず芯レンズ成形用射出成形金型を射出成形装置に設置し、芯レンズ用の溶融プラスチック(シクロオレフィン)をスプール、ランナー、ゲートを介して流入させた。その後冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで芯レンズを製造した。製造した芯レンズは、外径が15mmの丸レンズ形状とし、外形ぎりぎりまで光学有効領域を設けた中心肉厚6mmのメニスカスレンズとした。凹形状部は、光学有効領域3の内側に配置し、幅が3mm、深さが2mmとした。また、凹形状部は光軸と平行な断面との交線において、なだらかな曲線部と直線部から構成され、光学有効領域内において、連続的に変化する形状とした。具体的にはR、2次曲線、θ=10°の直線部で滑らかに繋いだ形状とした。ここでθとは、直線部の直線と、光軸Xとのなす角度のことを示す。
【0056】
次に、光学部材成形用射出成形金型を射出成形装置に設置した。位置決め機構を用いて前記芯レンズを光学部材成形用射出成形金型に挿入した。次に、被覆プラスチック(シクロオレフィン)を、スプール、ランナー、ゲート、芯レンズに設けた凹形状部と順に介して、芯レンズの表裏面と金型表面との間の空間部に流入させ、芯レンズ表裏面に成形部を形成した。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることでプラスチック光学部材を製造した。
【0057】
得られたプラスチック光学部材の外形寸法は、芯レンズと同じであり、被覆プラスチックによる成形部の厚みはそれぞれ3mmであった。また、得られたプラスチック光学部材は、光軸方向から観察した時、レンズ内において屈折率が急激に変化する部位がなく、なだらかに変化していくため、接合界面はまったく視認されなかった。そして、光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生もなく、かつ、芯レンズの外形と同じまで小型化されたプラスチック光学部材が得られた。
【0058】
(実施例5)
実施例5について説明する。
【0059】
まず芯レンズ成形用射出成形金型を射出成形装置に設置し、芯レンズ用の溶融プラスチック(シクロオレフィン)をスプール、ランナー、ゲートを介して流入させた。その後冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで芯レンズを製造した。製造した芯レンズは、外径が15mmの丸レンズ形状とし、外形ぎりぎりまで光学有効領域を設けた中心肉厚6mmのメニスカスレンズとした。凹形状部は、光学有効領域の内側に配置し、幅が3mm、深さが2mmとした。また、凹形状部は光軸と平行な断面との交線において、なだらかな曲線部と直線部から構成され、光学有効領域内において、連続的に変化する形状とした。具体的にはR、2次曲線、θ=0°の直線部で滑らかに繋いだ形状とした。ここでθとは、直線部の直線と、光軸Xとのなす角度のことを示す。次に、光学部材成形用射出成形金型を射出成形装置に設置した。位置決め機構を用いて前記芯レンズを光学部材成形用射出成形金型に挿入した。
【0060】
次に、被覆プラスチック(シクロオレフィン)を、スプール、ランナー、ゲート、芯レンズに設けた凹形状部と順に介して、芯レンズの表裏面と金型表面との間の空間部に流入させ、芯レンズ表裏面に成形部を形成した。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることでプラスチック光学部材を製造した。得られたプラスチック光学部材の外形寸法は、芯レンズと同じであり、被覆プラスチックによる成形部の厚みはそれぞれ3mmであった。
【0061】
得られたプラスチック光学部材は、光軸方向から観察した時、レンズ内において屈折率が急激に変化する部位がなく、なだらかに変化していくため、接合界面はまったく視認されなかった。そして、光学部材内部に真空泡(ボイド)の発生もなく、かつ、芯レンズの外形と同じまで小型化されたプラスチック光学部材が得られた。
【0062】
(実施例6)
実施例6について説明する。
【0063】
まず芯レンズ成形用射出成形金型を射出成形装置に設置し、芯レンズ用の溶融プラスチック(スチレンとメタクリル酸メチルの共重合体)をスプール、ランナー、ゲートを介して流入させた。その後冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることで芯レンズを製造した。製造した芯レンズは、高さが20mm、幅が15mmの小判形状であり、外形ぎりぎりまで光学有効領域を設けた中心肉厚6mmのメニスカスレンズとした。凹形状部は、光学有効領域の内側に配置し、幅が3mm、深さが2mmとした。また、凹形状部は光軸と平行な断面との交線において、なだらかな曲線部と直線部から構成され、光学有効領域内において、連続的に変化する形状とした。具体的にはR、2次曲線、光軸との成す角度θを持つ直線部で滑らかに繋いだ形状とし、直線部の角度θが、0°、0.5°、1°、5°、10°になる5つの条件で実施した。
【0064】
次に、光学部材成形用射出成形金型を射出成形装置に設置した。前記5つの条件の芯レンズについて、位置決め機構を用いて光学部材成形用射出成形金型に挿入した。次に、それぞれ、被覆プラスチック(スチレンとメタクリル酸メチルの共重合体)を、スプール、ランナー、ゲート、芯レンズに設けた凹形状部と順に介して、芯レンズの表裏面と金型表面との間の空間部に流入させ、芯レンズ表裏面に成形部を形成した。その後、冷却工程、型開き工程、突き出し工程を経ることでそれぞれプラスチック光学部材を製造した。
【0065】
得られたプラスチック光学部材の外形寸法は、いずれも芯レンズと同じであり、被覆プラスチックによる成形部の厚みはそれぞれ3mmであった。結果得られたプラスチック光学部材を光軸方向から観察した結果を表2に示す。表中の○は、接合界面を目視では確認できないが、反射型顕微鏡を用いて観察すると良品レベルではあるがわずかに接合界面が認められた場合を示す。また表中◎は目視で確認できないうえ、反射型顕微鏡、透過型顕微鏡を用いても接合界面が認められない場合を示す。
【0066】
【表2】

【0067】
結果より、直線部と光軸Xとのなす角度θが1度以上の場合において、接合界面が認められないより光学的に優れ、小型化された複合光学プラスチック光学部材が得られた。
【符号の説明】
【0068】
1 芯レンズ
2 芯レンズ外形
3 光学有効領域
4 凹形状部
5、6 芯レンズの表裏面
7 光学部材成形用射出成形金型
8 プラスチック光学部材
40 芯レンズ成形用射出成形金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形品である芯レンズの表裏面に、被覆プラスチックによる成形部が形成されたプラスチック光学部材であって、
前記芯レンズは、凹形状部を有し、前記芯レンズの表裏面に形成された成形部は、少なくとも前記凹形状部で繋がっていることを特徴とするプラスチック光学部材。
【請求項2】
前記凹形状部の少なくとも光学有効域内の面形状は、連続的に変化していることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学部材。
【請求項3】
前記凹形状部は、光軸と平行な断面において直線部がある場合、前記光軸と前記直線部のなす角が1度以上であることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光学部材。
【請求項4】
前記芯レンズと前記被覆プラスチックとが同じ屈折率であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載のプラスチック光学部材。
【請求項5】
前記芯レンズと前記被覆プラスチックとが同じ材料であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載のプラスチック光学部材。
【請求項6】
プラスチック成形品である芯レンズを金型に挿入し、前記芯レンズの表裏面と前記金型の間に空間部を形成し、前記空間部に被覆プラスチックを流し込み、一体化させるプラスチック光学部材の製造方法であって、
前記芯レンズは、凹形状部を有し、前記凹形状部から、前記空間部に被覆プラスチックを流し込むことを特徴とするプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項7】
前記芯レンズと前記被覆プラスチックとは、同じ屈折率の材料によって射出成形されることを特徴とする請求項6記載のプラスチック光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−183703(P2012−183703A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47830(P2011−47830)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】