説明

プラスチック除湿用マスターバッチ及びプラスチック材料の除湿方法

【課題】乾燥を目的して加熱することなく、短時間且つ低エネルギーでプラスチック材料の除湿が可能であり、乾燥機による予備乾燥を経ずにプラスチック材料の成形を可能とするプラスチック除湿用マスターバッチを提供する。
【解決手段】プラスチック材料を成形する際に混合しプラスチック材料とともに加熱されて該プラスチック材料と溶け合うマスターバッチであって、除湿剤と、バインダーとしての熱可塑性樹脂と、を含有し、除湿剤は、吸湿性を有する無機化合物の粉末と、無機化合物の表面を被覆して無機化合物と熱可塑性樹脂との相溶性を向上させるとともに、常温では無機化合物の吸湿機能を抑制し、加熱時には無機化合物の吸湿機能を発揮させる表面修飾剤と、からなる、プラスチック材料に含まれる水分をプラスチック材料の成形時に吸収するプラスチック除湿用マスターバッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック除湿用マスターバッチおよびプラスチック除湿用マスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形法、押出成形法、Tダイ法等の各種プラスチック成形法においては、水分を含んでいるプラスチック材料を加熱溶融して成形すると、加熱により水分が気化することによって、成形品の表面にふくれや曇りが生じたり、水紋状、あるいは魚の目のような形状の外観上の不具合が生じやすくなる。このような成形品の外観上の不具合は、プラスチック材料が0.5重量%程度の水分を含んでいるだけでも発生することがある。そこで、プラスチック材料を成形する際には、一般に、プラスチック材料を予め乾燥(いわゆる予備乾燥)させてから使用している。特に、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合化合物)、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル等の吸湿性の高いプラスチック材料を成形する際には予備乾燥は欠かせないものとなっている。
【0003】
また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート等のように、分子内にエステル結合を有するプラスチック材料は、水分を含んだ状態のままで加熱溶融すると、加水分解して分子量が低下し、成形品の強度が低下するなど物性不良を引き起こすおそれがある。そのため、これらのプラスチック材料においては、成形品の外観上の不具合を防止するだけでなく、物性不良を防止する目的においても予備乾燥は欠かせないものとなっている。
【0004】
プラスチック材料の予備乾燥は、一般に、熱風乾燥機等の乾燥機によって行われる。乾燥条件はプラスチック材料の種類によって異なるが、一般に、約70〜150℃の温度範囲で、時間は約2〜4時間を要する。吸湿性の高いプラスチック材料においては更に長時間の乾燥を要し、例えば、ナイロン6は、80℃で8時間以上もの時間をかけて予備乾燥される。
【0005】
ところで、プラスチックの成形に際しては従来多種多様なマスターバッチが用いられており、吸湿剤あるいは吸湿性を有する添加剤を含有したマスターバッチは既に開示されている。例えば、特許文献1には、吸湿剤を含有するマスターバッチが開示されている。このマスターバッチは、内添された吸湿剤により吸湿性を発揮するプラスチックの成形品を製造する際に、プラスチック材料に吸湿剤を添加するために用いるマスターバッチである。マスターバッチを製造する際あるいはマスターバッチを保存する際に吸湿剤が吸湿すると、成形品の吸湿性が低下し、又、プラスチック材料を成形する際に吸湿剤がプラスチック材料中に分散し難くなる。そこでこのマスターバッチは、熱可塑性樹脂と吸湿剤からなる中心部を、熱可塑性樹脂の外層により被覆することにより、マスターバッチの製造中および保存中に中心部の吸湿剤が吸湿するのを防ぐ構造となっている。
【0006】
また、特許文献2にはアルミナを含有するマスターバッチが開示されている。このマスターバッチは、着色された成形品を製造する際にプラスチック材料に着色剤を添加するために用いられる着色用マスターバッチであるが、着色剤の他、アルミナ、シランカップリング剤等を含有している。アルミナは、このマスターバッチにおいては成形品の物性改良のために含有されているものの、一般に吸湿性を有する。
【0007】
【特許文献1】特開2005−7837号公報
【特許文献2】特開平10−45919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、従来、吸湿性を有する、あるいは一定の水分を含有するプラスチックの成形工程において、プラスチック材料の予備乾燥は不可欠なものとして既に常識となっている。しかしながら、従来の予備乾燥では乾燥機を用いてプラスチック材料を乾燥させるため、多大なエネルギーと時間を要するという問題があった。また、予備乾燥においてプラスチック材料が過剰に長くあるいは過剰に高温で加熱された場合には、プラスチック材料が変色したり物性が低下したりして劣化する問題もあった。
【0009】
一方、従来吸湿剤や吸湿可能なアルミナを含有するマスターバッチはあるものの、乾燥機による予備乾燥に代えてプラスチック材料の成形時にこれを除湿するためのマスターバッチはなかった。マスターバッチによりプラスチック材料を除湿するためには、少なくとも、マスターバッチをプラスチック材料と混ぜ合わせた際に吸湿剤が十分に吸湿可能な状態でプラスチック材料中に分散して隈なく広がることを要する。したがって、従来異なる用途で用いられていたマスターバッチを転用することも困難であった。例えば、上記特許文献1に記載のマスターバッチは吸湿剤を含有し、マスターバッチの製造及び保存の際の吸湿剤の吸湿を抑制するために、吸湿剤を含有する中心部を熱可塑性樹脂の外層により被覆する二重構造をとっている。しかしながら、熱可塑性樹脂は種類により透湿性が異なるにもかかわらず、一般にマスターバッチを構成する熱可塑性樹脂の種類は、添加するプラスチック材料との相溶性により限定される。したがって、マスターバッチを構成する熱可塑性樹脂の種類によっては、マスターバッチの製造及び保存の際の吸湿を十分に抑制することはできず、プラスチック材料と混ぜ合わせる前に吸湿剤の吸湿性能が低下し、成形品が十分に吸湿機能を発揮できない可能性がある。そのうえ、吸湿剤は通常無機化合物であり、もともとプラスチック材料との相溶性に欠けるにもかかわらず分散性を向上させる処置は全く施されておらず、吸湿剤をプラスチック材料中に隈なく分散させるのは困難である。したがって、特許文献1に記載のマスターバッチはプラスチック材料の除湿用に転用できるものではない。一方、上記特許文献2に記載のマスターバッチは、吸湿可能なアルミナを含有し、それに加えて一般にプラスチック材料と無機化合物との相溶性を改善するシランカップリング剤を含有しているため、アルミナをプラスチック材料中に分散させやすい。しかしながら、この特許文献2に記載のマスターバッチでは、使用前にアルミナの吸湿を抑制することは全く考慮されておらず、プラスチック材料と混ぜ合わせる前にアルミナが吸湿して吸湿性能が低下する可能性がある。したがって、特許文献2に記載のマスターバッチもプラスチック材料の除湿用に転用できるものではない。
【0010】
そこで、本発明は、乾燥を目的して加熱することなく、短時間且つ低エネルギーでプラスチック材料の除湿が可能であり、乾燥機による予備乾燥を経ずにプラスチック材料の成形を可能とするプラスチック除湿用マスターバッチを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために以下の手段をとる。
まず、第1の発明は、プラスチック材料を成形する際に混合しプラスチック材料とともに加熱されて該プラスチック材料と溶け合うマスターバッチであって、除湿剤と、バインダーとしての熱可塑性樹脂と、を含有し、前記除湿剤は、吸湿性を有する無機化合物の粉末と、前記無機化合物の表面を被覆して前記無機化合物と前記熱可塑性樹脂との相溶性を向上させるとともに、常温では前記無機化合物の吸湿機能を抑制し、加熱時には前記無機化合物の吸湿機能を発揮させる表面修飾剤と、からなる、前記プラスチック材料に含まれる水分をプラスチック材料の成形時に吸収するプラスチック除湿用マスターバッチである。
【0012】
次に、第2の発明は、前記表面修飾剤は、前記無機化合物の表面を被覆する際に加熱された表面修飾剤であり、該表面修飾剤は、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、パラフィン類、及びステアリン酸類からなる群より選ばれた少なくとも1種である、上記第1の発明のプラスチック除湿用マスターバッチである。
【0013】
次に、第3の発明は、前記無機化合物は、水分との化学反応により吸湿する化学吸湿性無機化合物である、上記第1または第2の発明のプラスチック除湿用マスターバッチである。
【0014】
次に、第4の発明は、前記化学吸湿性無機化合物は、酸化カルシウム、酸化バリウム、及び酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記第3の発明のプラスチック除湿用マスターバッチである。
【0015】
次に、第5の発明は、前記化学吸湿性無機化合物で構成された除湿剤に加え、更に、水分を吸着することにより吸湿する吸着性無機化合物で構成された除湿剤をも含有する、上記第3または第4の発明のプラスチック除湿用マスターバッチである。
【0016】
次に、第6の発明は、前記吸着性無機化合物は、シリカゲル、ゼオライト及び珪藻土からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記第5の発明のプラスチック除湿用マスターバッチである。
【0017】
次に、第7の発明は、除湿剤と、バインダーとしての熱可塑性樹脂とを含有し、プラスチック材料を成形する際に混合しプラスチック材料とともに加熱されて該プラスチック材料と溶け合うマスターバッチの製造方法であって、吸湿性を有する無機化合物の粉末と、表面修飾剤と、を接触させながら加熱することにより前記除湿剤を調製し、得られた除湿剤を冷却した後に、該冷却した除湿剤と前記熱可塑性樹脂とを混合する、プラスチック除湿用マスターバッチの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明のプラスチック除湿用マスターバッチ(以下、単に「マスターバッチ」と記載することがある。)によれば、以下の作用効果を奏する。
第1に、除湿剤を含有しているため、プラスチック材料を成形する際に混合するだけで、除湿剤をプラスチック材料中に分散させてプラスチック材料を容易に除湿することができる。
【0019】
第2に、熱可塑性樹脂との相溶性を向上させる表面修飾剤により無機化合物が被覆されて除湿剤が構成されていることにより、マスターバッチを製造する際に、熱可塑性樹脂中に除湿剤を分散させるのが容易である。したがって、マスターバッチ中に均等に除湿剤を含有させることができ、プラスチック材料にこのマスターバッチを定量混合することにより,プラスチック材料に定量の除湿剤を確実に混合して除湿することができる。
【0020】
第3に、除湿剤を構成する表面修飾剤は、吸湿性を有する無機化合物を被覆することにより常温では無機化合物の吸湿機能を抑制し、加熱時には無機化合物の吸湿機能を発揮させるため、除湿剤は、使用前に常温で保存されているときには吸湿しにくく、使用時にプラスチック材料とともに加熱されると吸湿しやすくなる。したがって、このマスターバッチは、使用前には無機化合物の吸湿機能が温存され、使用時には無機化合物の吸湿機能が確実に発揮されてプラスチック材料を除湿することができる。
【0021】
第4に、除湿剤が常温では吸湿しにくいため、保存時や使用準備時にマスターバッチが通常の湿度環境下に暴露されたとしても、除湿剤の除湿機能が損なわれにくい。
【0022】
上記の作用効果を奏することにより、第1の発明のマスターバッチによれば、プラスチック材料を成形する際にプラスチック材料と混合することによりプラスチック材料を容易に除湿することができ、従来のプラスチック材料の成形工程においてプラスチック材料を予備乾燥する工程を省略することができる。したがって、プラスチック材料の成形工程を短縮することができ、従来よりも短時間且つ低エネルギーでプラスチック材料を成形することができる。また、予備乾燥のみを目的としてプラスチック材料を加熱する必要がないため、プラスチック材料が過熱されて劣化するのを防ぐこともできる。
【0023】
次に、第2の発明のマスターバッチによれば、無機化合物の表面を被覆する際に表面修飾剤が加熱されているため、無機化合物は、その表面全体がより確実に表面修飾剤で被覆されている。それにより、無機化合物の吸湿機能は、常温では確実に抑制され、加熱時に一気に発揮されてプラスチック材料をより確実に除湿することができる。また、その表面修飾剤が、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、パラフィン類、及びステアリン酸類からなる群より選ばれた少なくとも1種であるため、除湿剤は熱可塑性樹脂との相溶性に優れる。それにより、除湿剤を熱可塑性樹脂及びプラスチック材料中に容易に分散させることができる。
【0024】
次に、第3の発明のマスターバッチによれば、除湿剤を構成する無機化合物が水分との化学反応により吸湿する化学吸湿性無機化合物であるから、加熱条件下でも確実に吸湿機能を発揮することができる。したがって、プラスチック材料とともに加熱される際に、確実に吸湿機能を発揮して、プラスチック材料中の水分をより確実に除去することができる。
【0025】
次に、第4の発明のマスターバッチによれば、除湿剤を構成する化学吸湿性無機化合物が水分との反応性に優れるため、より効率よくプラスチック材料中の水分を除去することができる。
【0026】
次に、第5の発明のマスターバッチによれば、化学吸湿性無機化合物で構成された除湿剤に加え、更に、水分を吸着することにより吸湿する吸着性無機化合物で構成された除湿剤をも含有することより、化学吸湿性無機化合物で構成された除湿剤の常温時の吸湿をより確実に抑制することができる。したがって、マスターバッチの使用前に、化学吸湿性無機化合物の吸湿機能をより長く温存することができる。
【0027】
次に、第6の発明のマスターバッチによれば、吸着性無機化合物が多孔質であり常温時の吸着性に優れるため、化学吸湿性無機化合物で構成された除湿剤の常温時の吸湿を確実に抑制することができる。したがって、化学吸湿性無機化合物で構成された除湿剤の吸湿機能の温存時間をより長くすることができる。
【0028】
次に、第7の発明のプラスチック除湿用マスターバッチの製造方法によれば、無機化合物の粉末と、表面修飾剤とを接触させながら加熱することにより、非加熱の場合に比べ、より確実に表面修飾剤で無機化合物の表面全体を被覆することができる。したがって、除湿剤を効率よく調製し、プラスチック除湿用マスターバッチを効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明のプラスチック除湿用マスターバッチは、プラスチック材料を成形する際に使用してプラスチック材料を除湿するマスターバッチである。このマスターバッチは、基本成分として、少なくとも除湿剤と、バインダーとしての熱可塑性樹脂とを含有している。プラスチック材料を成形する際にこのマスターバッチをプラスチック材料に混合すると、成形時の加熱によって熱可塑性樹脂とプラスチック材料とが溶け合い、除湿剤がプラスチック材料中に分散してプラスチック材料中の水分を吸収することができる。
【0030】
マスターバッチを構成する除湿剤は、吸湿性を有する無機化合物の粉末と、無機化合物の表面を被覆する表面修飾剤とにより構成されている。
【0031】
除湿剤を構成する表面修飾剤は、無機化合物の各粒子の表面を被覆して、無機化合物と熱可塑性樹脂との相溶性を向上させるとともに、常温では無機化合物の吸湿機能を抑制し、加熱時には無機化合物の吸湿機能を発揮させる物質である。なお、ここで言う「無機化合物の吸湿機能を抑制」とは、無機化合物の吸湿を阻害することを意味し、「無機化合物の吸湿機能を発揮させる」とは、無機化合物の吸湿機能をほとんど阻害しないことを意味する。このような表面修飾剤として、例えば、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、パラフィン、ステアリン酸類等を用いることができる。これらの表面修飾剤は、無機化合物と熱可塑性樹脂との双方に対して親和性を有しており、無機化合物の粉末の表面に化学的あるいは物理的に結合することにより無機化合物と熱可塑性樹脂との相溶性を向上させることができる。また、無機化合物と接触させて加熱し、無機化合物の表面全体を被覆することにより、常温では無機化合物の吸湿機能を抑制し、加熱時には無機化合物の吸湿機能を確実に発揮させることができる。その理論的な根拠は必ずしも明らかではないが、これらの表面修飾剤は、常温ではその組織が水分子を通過させにくい状態であり、加熱により水分子が通過可能に組織が緩んだ状態に変化するものと考えられる。表面修飾剤は、これらに限定されるものではなく、また、一種類だけを単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
上記チタネート系カップリング剤としては、従来公知のものを使用できる。例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート等を使用することができる。上記アルミニウム系カップリング剤としては、従来公知のものを使用できる。例えば、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等を使用することができる。上記パラフィンとしては、従来公知のものを使用できる。例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等を使用することができる。上記ステアリン酸類としては、ステアリン酸の他、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸の塩類を使用することができる。
【0033】
除湿剤に含有される表面修飾剤の割合は、常温時に無機化合物の吸湿機能を抑制するために、少なくとも無機化合物の粉末の表面全体を被覆するに足る割合とするのが好ましい。したがって、表面修飾剤の割合は無機化合物の表面積により適宜設定することができるが、一般には、無機化合物100重量部に対する表面修飾剤の割合は、1重量部以上40重量部以下、好ましくは1重量部以上10重量部以下、更に好ましくは1重量部以上5重量部以下である。無機化合物100重量部に対して表面修飾剤を40重量部より多くすると、無機化合物と熱可塑性樹脂との相溶性は表面修飾剤の添加量に対してあまり向上しないうえに、マスターバッチ中で除湿剤が凝集する可能性があるため好ましくない。1重量部以上5重量部以下とすれば、より効率よく除湿剤をマスターバッチ中に均一に分散させることができる。
【0034】
除湿剤を構成する無機化合物は、吸湿性を有する粉末状の無機化合物であり、水分との化学反応により吸湿する化学吸湿性無機化合物、あるいは水分を吸着することにより吸湿する吸着性無機化合物を用いることができる。無機化合物は、1種類だけを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。好ましくは、化学吸湿性無機化合物を少なくとも1種類使用する。化学吸湿性無機化合物を用いれば、加熱条件下でより確実に吸湿することができる。より好ましくは、化学吸湿性無機化合物と、吸着性無機化合物とを併用する。無機化合物は、常温で表面修飾剤により吸湿が抑制されているものの、実際には完全に阻害できているわけではなく徐々に吸湿する。しかしながら、化学吸湿性無機化合物と吸着性無機化合物とを併用することにより、常温時に化学吸湿性無機化合物が吸湿するのをより確実に抑制することができ、マスターバッチの長時間保存が可能となる。その理論的な根拠は必ずしも明らかではないが、常温では吸着性無機化合物が化学吸湿性無機化合物よりも優先して吸湿するためであると考えられる。
【0035】
上記化学吸湿性無機化合物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化バリウム、及び酸化アルミニウムを挙げることができる。これらの無機化合物は、水分との反応性が高く速やかに吸湿するため好適に使用することができ、中でも酸化カルシウムは安全性が高く最も好適に使用することができる。尚、本発明に使用する化学吸湿性無機化合物は、水分との化学反応により吸湿する無機化合物であればこれらに限定されるものではなく、他に、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等を使用することもできる。
【0036】
上記吸着性無機化合物としては、例えば、ゼオライト、シリカゲル、珪藻土等が挙げられる。これらは多孔質であり、吸湿性に優れるため好適に使用することができる。尚、本発明に使用する吸着性無機化合物は、水分を吸着することにより吸湿する無機化合物であればこれらに限定されるものではない。
【0037】
無機化合物の粉末は、粒子径が20μm以下であることが好ましい。粒子径が20μm以下であれば、単位重量あたりの表面積が大きく、除湿効率が良いだけでなく、プラスチック材料に添加しても、成形性を損ねたり、得られる成形体の物性や外観を悪化させることがない。さらに好ましくは、粒子径が3μm以上10μm以下である。尚、粒子径が20μm以下とは、必ずしも全ての無機化合物の粉末の粒子径が20μm以下でなければならないのではなく、大部分、例えば97%以上の粉末の粒子径が20μm以下であれば、効果を得ることができる。また、粒子径はレーザー粒子径測定器により測定することができ、測定した粒子の長径を粒子径とすることができる。
【0038】
マスターバッチに含まれる除湿剤の割合は、5重量%以上90重量%以下が好ましい。5重量%より少ない場合、プラスチック材料に含まれる水分を除去するために多量のマスターバッチを加えなければならないため、好ましくない。また、90重量%を超えると、マスターバッチの成形性が悪化するので、好ましくない。より好ましくは、20重量%以上80%以下、最も好ましくは、40重量%以上60重量%以下である。
【0039】
本発明のマスターバッチには、熱可塑性樹脂が含有される。この熱可塑性樹脂は、マスターバッチ中に含有される除湿剤や他の構成成分を互いに結合するバインダーとして機能するものであって、キャリアレジンなどと称される場合もある。本発明において使用する熱可塑性樹脂は、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)、EVA(ポリビニルアルコール)、ポリオキシエチレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。本発明において使用する熱可塑性樹脂は、これらに限定されるものではなく、他の種類の熱可塑性樹脂を使用することもできる。
【0040】
熱可塑性樹脂は、マスターバッチを添加する対象となるプラスチック材料との相溶性が良好なものを使用するのが好ましい。さらに好ましくは、マスターバッチを添加する対象となるプラスチック材料と同種の熱可塑性樹脂を使用するのがよい。例えば、マスターバッチを添加する対象となるプラスチック材料がABS樹脂であるときは、マスターバッチに使用する熱可塑性樹脂としては、同じ種類のABS樹脂を用いるのが最も好ましく、ABS樹脂と相溶性を有するSBSあるいはEVAなども好適に使用することができる。熱可塑性樹脂は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
本発明のマスターバッチ中に含まれる熱可塑性樹脂の割合は、90重量%以下が好ましい。より好ましくは、40重量%以上60重量%以下である。熱可塑性樹脂の割合がこの範囲であれば、マスターバッチを製造する際の成形性が良好になる。
【0042】
本発明のプラスチック除湿用マスターバッチには、除湿剤及び熱可塑性樹脂の他に、例えば、滑剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、等の添加剤を含有することができる。
【0043】
本発明のマスターバッチには、滑剤を添加することができる。それにより、マスターバッチの製造工程において、マスターバッチの成形性を安定させるとともに、マスターバッチをプラスチック材料に添加した際における当該プラスチック材料との摩擦を低減することができる。滑剤としては従来公知のものを使用することができる。滑剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。本発明に使用する滑剤としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
上記滑剤としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素系滑剤、ステアリン酸等の脂肪酸系滑剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属せっけん系滑剤等を例示することができる。中でも、ステアリン酸は、各種の熱可塑性樹脂との相溶性に優れるため、好適に用いることができる。
【0045】
マスターバッチ中に含有される滑剤の割合は、15重量%以下が好ましい。滑剤を15重量%より多く含有させると、マスターバッチを成形する際に、マスターバッチの構成材料が互いにスリップすることにより、かえって成形性が損なわれるためである。滑剤の割合は、さらに好ましくは、3重量%以上6重量%以下である。滑剤の割合がこの範囲であれば、マスターバッチを成形する際に構成材料同士の潤滑性を向上させ、成形性を良好に保つことができる。また、マスターバッチをプラスチック材料に添加した際は、マスターバッチとプラスチック材料との摩擦を適度に緩和することができる。
【0046】
本発明のマスターバッチには、可塑剤を添加することができ、それによりマスターバッチの成形性をさらに向上させることができる。可塑剤は、マスターバッチ中に含有される熱可塑性樹脂と相溶性を有するものであればよく、プラスチック成形用に用いられる種々の可塑剤を使用することができる。可塑剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。可塑剤としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
上記可塑剤としては、例えば、フタル酸ジヘプチル(DHP)、フタル酸ジ2エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)等のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジ2エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、セバシン酸ジ2エチルヘキシル(DOS)等の脂肪族二塩基酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシヒドロフタル酸ジオクチル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のエポキシ系可塑剤等を例示することができる。中でも、フタル酸エステル系可塑剤は、各種の熱可塑性樹脂との相溶性に優れ、耐熱性、耐寒性が良好であるため、好適に用いることができる。マスターバッチ中に含有される可塑剤の割合は、50重量%以下が好ましい。さらに好ましくは、3重量%以上8重量%以下である。
【0048】
本発明のマスターバッチには、熱安定剤を添加することができ、それによりマスターバッチ成形時の加熱による熱可塑性樹脂の変色を防ぐことができる。熱安定剤としては、プラスチックの成形加工において用いられる種々の熱安定剤を使用することができる。熱安定剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。熱安定剤としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
上記熱安定剤としては、脂肪族カルボン酸塩ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の脂肪族カルボン酸塩熱安定剤、ジメチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート、モノ/ジメチルスズステアロキシエチルメルカプタイド等の有機スズメルカプタイド類、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズβ−メルカプトプロピオネート等の有機スズマレエート類、およびジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート等の有機スズカルボキシレート類等の各種有機スズ系熱安定剤を例示することができる。マスターバッチ中に含有される熱安定剤の割合は、10重量%以下が好ましい。より好ましくは、1重量%以上3重量%以下である。
【0050】
本発明のマスターバッチには、酸化防止剤を添加することができ、それによりマスターバッチ製造時に熱可塑性樹脂が加熱により酸化して品質が劣化するのを防ぐことができる。酸化防止剤としては、マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂と相溶性を有するものであればよく、プラスチックの成形加工に一般的に用いられる種々の酸化防止剤を使用することができる。酸化防止剤は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。酸化防止剤としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものはない。
【0051】
上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオシプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等の硫黄系酸化防止剤、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスファイト等のリン酸系酸化防止剤等を例示することができる。マスターバッチ中に含有される酸化防止剤の割合は、15重量%以下が好ましい。なお、除湿剤、熱可塑性樹脂および各種添加剤の配合割合基準を示したが、それらをすべて加算して100重量%になるような範囲内で調製すべきことはいうまでもない。
【0052】
以下、本発明のマスターバッチの製造方法について説明する。本発明のマスターバッチは、以下の第1〜3の工程を経て製造することができる。
【0053】
[第1の工程]
まず、第1の工程において、無機化合物の粉末と、表面修飾剤とを加熱しながら混合することにより、無機化合物の表面を表面修飾剤で被覆して除湿剤を得る。このときの加熱温度は90℃以上130℃以下が好ましい。混合には、加熱機能を有する各種攪拌機を用いることができる。例えば、ジャケット付きの、ナウターミキサー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、などを用い、ジャケットに加熱されたオイル等を通すことにより加熱しながら混合することができる。
【0054】
[第2の工程]
次に、第2の工程においては、まず、第1の工程で得られた除湿剤を40℃以下になるまで冷却する。ここで、冷却とは、攪拌機のジャケットに冷水を流すなど積極的な冷却でもよいし、あるいは放冷でもよい。次に、冷却した除湿剤と、熱可塑性樹脂、および必要に応じて各種の添加剤(滑剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤等)とを混合する。混合には、第1の工程と同様に、各種の攪拌機を用いることができる。
【0055】
[第3の工程]
次に、第3の工程においては、第2の工程で得られた混合物を90℃以上220℃以下に加熱してサイコロ状、円柱状、球状、扁平な球状等、所定形状に成形しマスターバッチを得る。第3の工程においては、加熱混練可能な各種の押出成形機を使用することができる。特に、二軸押出成形機を用いると、無機化合物の粉末が均一に分散した外観の良いマスターバッチを得ることができるため好ましい。真空機能を備えた二軸押出成形機であれば、混合物を加熱することによって発生する揮発成分を取り除くことができ、より外観の良いマスターバッチを得ることができる。
【0056】
本発明のプラスチック除湿用マスターバッチは、各種のプラスチック材料に混合して使用することができる。例えば、ABS樹脂、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の、従来の方法では特に念入りな予備乾燥を必要とする熱可塑性樹脂に添加しても使用することができる。また、不適切な保存等によって湿気を帯びた熱可塑性樹脂に添加して使用することができる。また、使用後のペットボトル等によるリサイクル樹脂(再生樹脂)に添加して使用することも可能である。
【0057】
以下、本発明のプラスチック除湿用マスターバッチを使用したプラスチック材料の成形方法について説明する。まず、プラスチック材料に、本発明のマスターバッチを添加する。マスターバッチは、そのマスターバッチに含有される熱可塑性樹脂が、マスターバッチを添加する対象となるプラスチック材料と相溶性を有するものを使用するのが好ましい。マスターバッチに含有される熱可塑性樹脂が、マスターバッチを添加する対象となるプラスチック材料と同種のものであれば、より好ましい。プラスチック材料に添加するマスターバッチの割合は、プラスチック材料の含水分量によって適宜決定することができるが、通常は6重量%以下でよい。プラスチック材料には、マスターバッチの他に、必要に応じて、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤等の各種の添加剤を添加することができる。
【0058】
次に、マスターバッチを添加したプラスチック材料を、押出成形法、射出成形法、Tダイ法等、各種公知の成形法にて成形する。一般にプラスチック材料を成形する際には、そのプラスチック材料を加熱して溶融させる。プラスチック材料が加熱されると、プラスチック材料とマスターバッチが互いに溶け合い、マスターバッチに含有される除湿剤がプラスチック材料中に分散する。このとき、除湿剤は、無機化合物の粉末が表面修飾剤によって覆われているため、プラスチック材料との親和性を有し、プラスチック材料中に均一に分散する。また、それとともに加熱されることにより、表面修飾剤による無機化合物の吸湿機能の抑制が解除され、無機化合物の吸湿機能が発揮される。その結果、除湿剤がプラスチック材料の隅々まで速やかに広がり、プラスチック材料中の水分を効率的に吸収して除去することができる。したがって、本発明のマスターバッチを用いれば、プラスチック材料を予備乾燥することなく成形することが可能となる。
【0059】
このようにして得られた成形体は、原料であるプラスチック材料を予備乾燥していないにもかかわらず、水分の蒸発に起因する外観上の欠陥等がない。また、予備乾燥のための加熱が不要なので、過乾燥によるプラスチック材料の変色や物性の劣化等を引き起こすことがない。しかも、予備乾燥のための長時間の加熱等が不要であるために、短時間で且つより少ないエネルギーでプラスチック材料を成形することができる。その結果、低コストでしかも環境に優しいプラスチック材料の成形体を実現することができる。
【実施例1】
【0060】
実施例1では、無機化合物として粒径10μmの酸化カルシウム粉末、表面修飾剤としてステアリン酸、熱可塑性樹脂としてポリエチレン、滑剤としてポリエチレンワックスを用意し、第1〜3の工程を経てNo.1のマスターバッチを作成した。その組成割合を表1に示す。尚、ポリエチレンワックスは、滑剤として機能するのみならず、酸化カルシウム粉末を熱可塑性樹脂中に分散させるための分散剤として機能するとともに、さらに、可塑剤としても機能する。
【0061】
【表1】

【0062】
作成したマスターバッチ(No.1)を、1重量%の水分を含有する予備乾燥していないポリエチレン樹脂ペレットに添加し、Tダイ法にて製膜した。その結果、外観に不具合のないポリエチレンフィルムを得ることができた。また、マスターバッチ(No.1)を、0.5重量%の水分を含有する予備乾燥していない再生ポリエチレン樹脂ペレットに添加し、Tダイ法にて製膜した。その結果、外観に不具合のない再生ポリエチレンフィルムを得ることができた。
【実施例2】
【0063】
実施例2では、無機化合物としてとして粒径8μmの酸化カルシウム粉末、表面修飾剤としてステアリン酸、熱可塑性樹脂としてABS樹脂およびSBS、滑剤としてステアリン酸マグネシウムおよびEBS(エチレンビスステアリン酸アミド)、可塑剤としてDOP(フタル酸ジ2エチルヘキシル)を用意し、上記第1〜3の工程を経てNo.2のマスターバッチを作成した。その組成割合を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
作成したマスターバッチ(No.2)を、予備乾燥していないABS樹脂に対して1重量%以上2重量%以下の範囲内で添加し、射出成形法にて成形した。その結果、外観に不具合のないABS樹脂の成形体を得ることができた。
【実施例3】
【0066】
実施例3では、無機化合物として粒径8μmの酸化カルシウム粉末、表面修飾剤としてステアリン酸、熱可塑性樹脂としてSBS、滑剤としてステアリン酸マグネシウムおよびポリエチレンワックス、充填剤として炭酸カルシウムを用意し、表3に示す割合で配合してNo.3およびNo.4のマスターバッチを作成した。なお、No.3は、上記第1〜3の工程を経てマスターバッチを作成し、No.4は、上記第1〜3の工程において第1の工程を省略し、第2の工程において酸化カルシウムを添加してマスターバッチを作成した。次に、各マスターバッチを24時間自然環境下で放置した後、目視にて観察し、大きさ及び色の変化を調べた。さらに、ABS樹脂94重量%に対し、自然環境下で24時間放置したマスターバッチ6重量%を混合し、射出成形して容器を得た。得られた容器の目視で観察し、外観上の不具合の有無を調べた。その結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
No.3のマスターバッチとNo.4のマスターバッチとでは、含有される無機化合物の態様が異なっている。すなわち、No.3では無機化合物が表面修飾剤で覆われているのに対し、No.4では、無機化合物が表面修飾剤で覆われておらず、裸のまま含有されている点で異なっている。まず、自然環境下に24時間放置したマスターバッチを添加して作成した容器の外観を比較すると、No.3の容器の表面は滑らかで不具合が無いのに対し、No.4の容器は表面に水の跡のような(水紋状の)模様がみられた。これは、No.3のマスターバッチはABS樹脂中の水分を十分に除湿したのに対し、No.4のマスターバッチはABS樹脂中の水分を完全には除湿できず、ABS樹脂中に残った水分が気化して容器の表面に水紋状の模様を生じたものと推察される。次に、24時間放置した後のマスターバッチの外観を比較すると、No.3は変化がないのに対し、No.4は膨張し、又、白化している。これにより、No.3のマスターバッチに含まれる無機化合物(酸化カルシウム)はほとんど吸湿していないが、No.4のマスターバッチに含まれる無機化合物は空気中の水分を多量に吸収したものと推察される。以上のことから、無機化合物が表面修飾剤で覆われていない場合(No.4)は、保存時に空気中の水分を吸収して吸湿機能が著しく低下し、使用時にABS樹脂中の水分を十分に吸収することができないことが明らかとなった。また、これに対し、無機化合物が表面修飾剤で覆われている場合(No.3)は、通常の自然環境下では無機化合物の吸湿機能が温存されるため、使用時に吸湿機能が確実に発揮されてABS樹脂を十分に除湿可能であることが明らかとなった。
【実施例4】
【0069】
実施例4では、まず、無機化合物として粒径10μmの酸化カルシウム粉末および粒径10μmのゼオライト、表面修飾剤としてステアリン酸、熱可塑性樹脂としてポリエチレン、滑剤としてポリエチレンワックスを用意し、上記第1〜3の工程を経てNo.5およびNo.6のマスターバッチを作成した。その組成割合を表4に示す。次に、得られたマスターバッチNo.5およびNo.6を自然環境下で36時間放置した後、それらのマスターバッチをそれぞれ予備乾燥していない0.5重量%の水分を含有する再生ポリエチレン樹脂に対して、混合してフィルムを成形した。なお、このときマスターバッチが3重量%となるように再生ポリエチレン樹脂に対してマスターバッチを添加した。得られたフィルムを目視で観察し、外観上の不良の有無を調査した。この調査では、水紋状の外観不良等、成形時の水分の揮発により生じた外観不良を「水紋状の不良」とし、粒子状の不純物の発生による外観の不良を「粒子状の不良」として、それぞれについて有無を確認した。その結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
No.5のマスターバッチとNo.6のマスターバッチとでは、除湿剤を構成する無機化合物が異なっている。すなわち、No.5は化学吸湿性無機化合物である酸化カルシウムの1種のみを含有しているのに対し、No.6は酸化カルシウムに加えて更に吸着性無機化合物であるゼオライトを含有している点で異なっている。使用前に36時間放置したマスターバッチを用いて成形したフィルムは、いずれも水紋状の不良が生じなかった。このことから、いずれのマスターバッチも使用前には吸湿機能が抑制され、一定の除湿機能が担保されていたため、使用時にポリエチレン樹脂を十分に除湿したことがわかる。ところが、粒子状の不良がNo.5のフィルムにのみ生じた。これは、No.5のマスターバッチに含有される酸化カルシウムが、使用前に徐々に吸湿し、経時によりその表面が固くなったため、フィルム成形時にポリエチレン樹脂と相溶せずにその一部が不純物としてフィルム表面に出現したものと推察される。一方、No.6は粒子状の不良は生じておらず、使用前に酸化カルシウムの表面が硬化するほど吸湿しなかったことが分かる。以上のことから、化学吸湿性無機化合物に加えて更に吸着性無機化合物を含有することにより、保存時の化学吸湿性無機化合物の吸湿をより確実に抑制可能であることが明らかとなった。
【実施例5】
【0072】
実施例5では、まず、表面修飾剤としてチタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、パラフィンを用意し、上記実施例4で作成したマスターバッチNo.5のステアリン酸に替え、用意した各表面修飾剤を用いてNo.7〜9のマスターバッチを作成した。その組成を表5に示す。
次に、No.5およびNo.7〜9のマスターバッチについて自然環境下で放置し、24時間後と、36時間後にマスターバッチの外観を目視にて観察し、外観変化の有無を調べた。その結果を表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
24時間放置後にはいずれのマスターバッチも外観変化していないことから、ステアリン酸の他、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤及びパラフィンのいずれも常温では無機化合物(酸化カルシウム)の吸湿を抑制することが確認された。更に長時間マスターバッチを放置すると36時間後には、No.9のみが白化し、その他のNo.5、7及び8は変化しなかった。このことから、ステアリン酸、チタネート系カップリング剤及びアルミネート系カップリング剤は、パラフィンに比べて、常温で無機化合物の吸湿機能を抑制する効果がより大きいことが明らかとなった。
【実施例6】
【0075】
実施例6では、まず、上記実施例5で作成したマスターバッチNo.9において無機化合物を酸化カルシウム40重量%とゼオライト10重量%に変更し、No.10のマスターバッチを作成した。次に、得られたNo.10のマスターバッチについて、上記実施例5と同様に自然環境下で放置し、36時間後にマスターバッチの外観を目視にて観察し、外観変化の有無を調べた。その結果、36時間後に外観変化の無いことを確認した。
【0076】
No.10のマスターバッチは、除湿剤として、酸化カルシウムからなる除湿剤だけでなく、ゼオライトからなる除湿剤を含有している点でのみNo.9のマスターバッチとは異なっている。36時間放置後のマスターバッチの外観は、No.9が白化したのに対し、No.10は変化が無かった。このことから、No.10のマスターバッチ中では、酸化カルシウムの吸湿はより確実に阻害されていることがわかる。これにより、化学吸湿性無機化合物と吸着性無機化合物とを併用することにより、表面修飾剤のみで化学吸湿性無機化合物の吸着を阻害するよりも更に長時間化学吸湿性無機化合物の吸湿を阻害し、マスターバッチを長時間保存可能にできることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料を成形する際に混合しプラスチック材料とともに加熱されて該プラスチック材料と溶け合うマスターバッチであって、
除湿剤と、バインダーとしての熱可塑性樹脂と、を含有し、
前記除湿剤は、吸湿性を有する無機化合物の粉末と、前記無機化合物の表面を被覆して前記無機化合物と前記熱可塑性樹脂との相溶性を向上させるとともに、常温では前記無機化合物の吸湿機能を抑制し、加熱時には前記無機化合物の吸湿機能を発揮させる表面修飾剤と、からなる、前記プラスチック材料に含まれる水分をプラスチック材料の成形時に吸収するプラスチック除湿用マスターバッチ。
【請求項2】
前記表面修飾剤は、前記無機化合物の表面を被覆する際に加熱された表面修飾剤であり、該表面修飾剤は、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、パラフィン類、及びステアリン酸類からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載のプラスチック除湿用マスターバッチ。
【請求項3】
前記無機化合物は、水分との化学反応により吸湿する化学吸湿性無機化合物である、請求項1または請求項2に記載のプラスチック除湿用マスターバッチ。
【請求項4】
前記化学吸湿性無機化合物は、酸化カルシウム、酸化バリウム、及び酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載のプラスチック除湿用マスターバッチ。
【請求項5】
前記化学吸湿性無機化合物で構成された除湿剤に加え、更に、水分を吸着することにより吸湿する吸着性無機化合物で構成された除湿剤をも含有する、請求項3または請求項4に記載のプラスチック除湿用マスターバッチ。
【請求項6】
前記吸着性無機化合物は、シリカゲル、ゼオライト及び珪藻土からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載のプラスチック除湿用マスターバッチ。
【請求項7】
除湿剤と、バインダーとしての熱可塑性樹脂とを含有し、プラスチック材料を成形する際に混合しプラスチック材料とともに加熱されて該プラスチック材料と溶け合うマスターバッチの製造方法であって、
吸湿性を有する無機化合物の粉末と、表面修飾剤と、を接触させながら加熱することにより前記除湿剤を調製し、得られた除湿剤を冷却した後に、該冷却した除湿剤と前記熱可塑性樹脂とを混合する、プラスチック除湿用マスターバッチの製造方法。


【公開番号】特開2008−69223(P2008−69223A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247921(P2006−247921)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(506010091)ポジティブフォースインベストメンツコーポレーション (1)
【Fターム(参考)】