説明

プラズマを用いた検出方法および検出装置

【課題】本発明は、従来の検出装置と比べて、更なる検出感度の向上を可能とするプラズマを用いた検出方法および検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】プラズマ発生用ガスにより生成したプラズマと被測定物質を含むキャリアガスとを混合することによってイオン化された前記被測定物質および/または前記被測定物質から発生した電子を絶縁体からなる管を介して接続されたコレクタ室内において捕集する際に、前記プラズマの流れ方向において前記絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された部材と前記絶縁体からなる管の下流側の開口部に接続された部材とに電位差を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いた検出方法および検出装置に係り、特にガスクロマトグラフのカラムより出力されるサンプルガス中の各成分を検出するのに好適なプラズマを用いた検出方法および検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体、液体および固体中に含まれる物質を検出および定量を行う装置として、ガスクロマトグラフが広く使用されている。ガスクロマトグラフにおいては、大きく分けてカラムを主構成部品とする分離部、当該カラムによって分離されて出力されるサンプルガス中の各成分を検出し、電気信号に変換する検出器および試料を導入する試料導入部によって構成されている。
【0003】
分離部による分離は、分析目的物質の性質や共存物質の存在により、必ずしも各成分に完全に分離されるわけではなく、また、分離のための分離部の動作条件、例えば、温度、温度の上昇・下降速度、キャリアガス種およびキャリアガス流量などの選定は、経験則に基づいた設定項目となり、一般的にかなり複雑である。
【0004】
現在、ガスクロマトグラフ用の検出器としては、熱伝導度の差を利用した熱伝導度検出器(TCD)と、水素炎を利用してイオン化する水素炎イオン化検出器(FID)とがその汎用性の高さから広範囲に使用されている。また、サンプルガスを水素炎中で燃焼することによって発生させた特定の波長の光を検出する炎光光度検出器(FPD)などが使用されている。また、放射性同位元素などによりイオン化されて発生した電子を利用する電子捕獲検出器(ECD)が知られている。
【0005】
最近、検出器に搭載するイオン化源にヘリウムプラズマを用いることで、ハロゲン化合物の高感度検出を行うための検出器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ところが、TCDはあらゆる成分の測定が可能であるが、感度的に劣っており、原理的に感度の向上は難しく、酸化力のあるガス、例えば高濃度の酸素などを含む分析試料を導入すると装置が壊れてしまう。
【0007】
また、FIDは、高感度であるが、無機ガスなどの不燃性成分は原理的に検出することができない。
【0008】
また、ECDは、強い放射線を発する元素を装置内に内蔵しなくてはいけないため、取り扱いおよび管理が法律で厳しく規制され、汎用的でない。
【0009】
また、FPDは、硫黄、リンおよびスズを含む化合物に対して非常に高感度であるが、これらの特定の元素を含まない化合物については、全く検出することができない。
【0010】
さらに、FIDおよびFPDについては、いずれも可燃性かつ爆発性の高い水素ガスを使用するため、取り扱いおよび設置に専門的知識を要し、設置にも制限を受けることが多い。
【0011】
上述するような不都合を解消するために、プラズマによって被測定物質をイオン化するとともに、被測定物質のイオンにバイアス電界を付与して、直流電源によってバイアス電圧が印加されたイオン検出電極でイオンの流入を電気信号として検出する検出方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−316030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、前記特許文献1の検出器は、高価な高周波電源を使用するため、製造コストが高くなってしまう。また、プラズマ発生部の上流側において被測定物質であるサンプルガスおよびキャリアガスとプラズマ発生用ガスとを混合させる構造となっているため、被測定物質の濃度によってプラズマ発生用の電源の高周波整合条件が変化し、高周波整合回路の手動もしくは自動の調整機構が必要となる。このため、装置が複雑化し、対故障信頼性が低下し、また価格も高価になる。当該検出器から副次的に放射される高周波も、他の装置を妨害、あるいは当該検出器そのものへも悪影響を及ぼすことがあるため、厳重な電磁遮蔽が必要となる。
【0014】
また、バイアス電圧が印加されたイオン検出電極によって被測定物質のイオンを検出する方法は、被測定物質の検出感度に優れているものの、イオンの捕集が困難であるという問題を有している。
【0015】
以上のような点に鑑み、本発明は、従来の検出装置と比べて、更なる検出感度の向上を可能とするプラズマを用いた検出方法および検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の第1のプラズマを用いた検出方法
は、プラズマ発生用ガスにより生成したプラズマと被測定物質を含むキャリアガスとを混合することによってイオン化された前記被測定物質および/または前記被測定物質から発生した電子を絶縁体からなる管を介して接続されるコレクタ室内において捕集する際に、前記プラズマの流れ方向において前記絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された部材と前記絶縁体からなる管の下流側の開口部に接続された部材とに電位差を設けることを特徴とするものである。また、本発明の第2のプラズマを用いた検出方法は、前記プラズマの流れ方向において、前記絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された部材の電位が、前記絶縁体からなる管の下流側の開口部に接続された部材の電位よりも低く設定されることを特徴とするものである。
【0017】
このような、本発明のプラズマを用いた検出方法によれば、プラズマの流れ方向において絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された部材と下流側の開口部に接続された部材とに電位差を設けることにより、前記電位差によって被測定物質のイオンおよび電子を確実にコレクタ室に誘導することができ、前記イオンおよび/または電子を効率よく捕集して高感度な検出を行うことができる。
【0018】
また、本発明の第3のプラズマを用いた検出方法は、前記プラズマ発生用ガスおよび前記キャリアガスとを所定温度に温調することを特徴とするものである。
【0019】
このような、本発明の第3のプラズマを用いた検出方法によれば、常温で液体や固体となってしまう被測定物質の測定においても、被測定物質がガス状となる温度に設定することによりサンプルガスを測定に適した状態に保持して感度よく検出することができる。
【0020】
前記目的を達成するために、本発明の第1のプラズマを用いた検出装置は、装置内部に導入されたプラズマ発生用ガスにより生成したプラズマと被測定物質を含むキャリアガスとを混合することによってイオン化された前記被測定物質および前記被測定物質から発生した電子が絶縁体からなる管を介して導入されるコレクタ室と、前記コレクタ室に配設され、前記イオンおよび/または前記電子を捕集することにより前記被測定物質を検出するコレクタ電極と、前記キャリアガスの流れ方向における前記絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された導電性部材の電位と前記絶縁体からなる管の下流側の開口部に接続された前記コレクタ室の電位とに電位差を設ける電位差設定手段とを有することを特徴とするものである。
【0021】
このような、本発明の第1のプラズマを用いた検出装置によれば、上記の本発明のプラズマを用いた検出方法を効果的に実現することができる。
【0022】
また、本発明の第2のプラズマを用いた検出装置は、前記コレクタ室の内壁が、絶縁性部材で内張りされていることを特徴とするものである。
【0023】
このような、第2のプラズマを用いた検出装置によれば、周囲からのノイズを遮断することができ、効率よく前記イオンおよび/または前記電子を捕集して、高感度で被測定物質を検出することを可能とする。
【0024】
また、第3のプラズマを用いた検出装置は、前記絶縁体からなる管の上流側には、導電性部材からなり、前記プラズマ発生用ガス内にプラズマを発生させるプラズマ発生室と前記プラズマと前記キャリアガスを混合して被測定物質をイオン化するイオン化室とを有する放電室が接続されていることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の第4のプラズマを用いた検出装置は、前記放電室および前記コレクタ室は、内部の温度を温調する温調手段を備えることを特徴とするものである。
【0026】
このような、第4のプラズマを用いた検出装置によれば、常温では液体もしくは固体となってしまう被測定物質を分析する際においても、サンプルガスを気体状態で維持し、高精度な分析を可能とする。
【0027】
また、本発明の第5のプラズマを用いた検出装置は、前記プラズマ発生室の前記プラズマ発生用ガスの導入口に、前記プラズマ発生用ガスを拡散する拡散板を備えることを特徴とするものである。
【0028】
このような、第5のプラズマを用いた検出装置によれば、拡散板によってプラズマ発生室内に導入されるプラズマ発生用ガスの流れを均一にすることができ、プラズマの明滅を抑制するとともに、プラズマの放射位置を安定させることを可能とするので、長時間の慣らし運転を必要としないという効果が得られる。
【0029】
また、本発明の第6のプラズマを用いた検出装置によれば、前記プラズマ発生室におけるプラズマの発生には、マイクロホローカソードを用い、前記マイクロホローカソードが、一対の導電性部材と、前記一対の導電性部材の間に狭持され、長さ方向における中央部の管内にプラズマ発生用ガスを通過可能な貫通孔を有するガラス板が一体に形成されたガラス管と、前記ガラス板の貫通孔に対応する貫通孔を有する導電体からなる一対のリングと、前記一対の導電性部材にそれぞれ接した状態で、前記ガラス板の両面側に対して前記一対のリングをそれぞれ圧接させる一対のバネ部材とを有することを特徴とするものである。
【0030】
このような、第6のプラズマを用いた検出装置によれば、一対の導電体からなるリングをガラス板の両面側に対してそれぞれ圧接する一対のバネ部材を有することにより、電極部分を極めて小型とすることができ、装置を大きくすることなくガスクロマトグラフのプラズマ発生源にホローカソードを用いることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、高感度分析が可能となるため、微量分析の場合においても、従来の検出装置で必要とされる、試料の前処理段階における濃縮作業を省略することができるとともに、分析精度を向上させることを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るプラズマを用いた検出装置の断面図
【図2】(a)本発明に係るプラズマを用いた検出装置の放電室の断面図(b)本発明に係るプラズマを用いた検出装置における白金電極の拡大平面図
【図3】本発明に係るプラズマを用いた検出装置におけるマイクロホローカソードの断面図
【図4】(a)プラズマの流れ方向に対してコレクタ電極を垂直に配設した検出装置によって得られたクロマトグラム(b)プラズマの流れに対してコレクタ電極を直線に配設した検出装置によって得られたクロマトグラム
【図5】(a)〜(h)はそれぞれ電位差設定手段の印加電圧の変化による検出感度の比較結果を示すクロマトグラムと数値結果
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明のプラズマを用いた検出方法を実施する検出装置について、図1乃至図5を用いて説明する。
【0034】
本発明のプラズマを用いた検出方法は、プラズマ発生用ガスに発生したプラズマと、ガスクロマトグラフのカラムより出力された被測定物質を含むサンプルガスとの混合物を絶縁体からなる管6を介して接続されたコレクタ室7内に導入し、プラズマによってイオン化された被測定物質および/または被測定物質から発生した電子を捕集する際に、プラズマの流れ方向における絶縁体からなる管6の上流側に接続された部材と絶縁体からなる管6の下流側の開口部に接続された部材とに電位差を設け、被測定物質のイオンおよび電子をコレクタ室7に誘導するようにするものである。
【0035】
このような本発明のプラズマを用いた検出方法を実施する検出装置1は、図1に示すように、放電室2と、プラズマの流れ方向における絶縁体からなる管6の上流側の開口部に接続された部材と下流側に接続された部材とに電位差を設けるための電位差設定手段3と、絶縁体からなる管6によって電気的に絶縁状態で放電室2に接続されるコレクタ室7とを有している。
【0036】
放電室2には、導電性材料によって形成され、プラズマ発生用ガスに放電してプラズマを発生させるプラズマ発生室4と、プラズマと被測定物質を含むサンプルガスとを混合して被測定物質をイオン化させるとともに被測定物質から電子を発生させるイオン化室5とがプラズマの進行方向に順に配設されている。
【0037】
なお、図1に示す検出装置1の実施形態においては、プラズマ発生室4とイオン化室5とは別体で形成されているが、1つの導電性部材によって一体として形成されてもよい。
【0038】
また、放電室2は、セラミックスからなるベース8の上に載置されており、ベース8の内部には、プラズマ発生用ガスとしてのヘリウムガスをプラズマ発生室4内に導入するためのプラズマ発生用ガス導入路9aおよび被測定物質であるサンプルガスをイオン化室5内に導入するためのサンプルガス導入路9bがそれぞれ形成されている。プラズマ発生用ガス導入路9aおよびサンプルガス導入路9bは、コバールからなるフランジによりプラズマ発生室4のガス導入口とイオン化室5のガス導入口とにそれぞれ接続されている。
【0039】
プラズマ発生室4のガス導入口には、導電性部材からなるメッシュ状の拡散板10が配設されており、プラズマ発生室4に導入されるプラズマ発生用ガスを拡散板10を通過させることで整流することができるので、発生するプラズマの明滅を防止し、さらに、プラズマの位置を素早く安定させて、従来、プラズマを安定させるために必要とした長時間の慣らし運転を短縮することを可能としている。
【0040】
プラズマ発生室4の内部には、図2(a)に示すように、直径0.5mmの一対の白金電極11,11がプラズマ発生用ガスの流れ方向に対して垂直に設置され、図示を省略したプラズマ発生用電源によって直流電圧を印加することにより、電極間に放電を起こし、プラズマを発生させるようになっている。
【0041】
また、白金電極11,11の形状は、図2(b)に示すように、互いに向かい合う端部に円錐状の突部11aを形成するとともに、円錐の頂部11bを丸くなめらかな球面状とされることが好ましく、このような形状とすることにより、頂部11bの表面に対して均一にプラズマを生成することができるので、プラズマ発生用ガスの気流の乱れや温度変化による外乱の影響を受けにくくなり、プラズマの明滅を防止することができる。
【0042】
ここで、一対の白金電極11,11に印加する直流電圧を定電流および定電圧とする場合についてそれぞれ説明する。
【0043】
まず、定電流とする場合には、一方の白金電極11は接地されて接地電位とされ、他方の白金電極11に対して、図示を省略したプラズマ発生用電源によって、流れる電流量が一定になるように直流電圧が印加されるようにする。
【0044】
この時、印可される直流電圧の電流値は、2〜30mAが好ましく、これよりも低い電流値とされるとプラズマが極端に弱くなり、これよりも高い電流値とされると白金電極11が溶損してしまう。
【0045】
このように、プラズマに流す電流を一定とすることにより、安定して被測定物質のイオンおよび電子を発生させることができ、安定した信号の検出を可能とする。
【0046】
また、定電圧とする場合には、一方の白金電極11は接地されて接地電位とされ、他方の白金電極11に対して、図示を省略したプラズマ発生用電源によって、印加する電圧値が一定となるように直流電圧が印加されるようにする。
【0047】
この時、印加される直流電圧の電圧値は、−150〜−250Vが好ましく、これよりも低い電圧値とされるとプラズマが極端に弱くなり、これよりも高い電圧値とされると白金電極11が溶損してしまう。
【0048】
このように、プラズマに印加する電圧を一定とすることにより、放電室2とコレクタ室7との間に安定して電位差を設け、効率よく被測定物質のイオンおよび電子をコレクタ室7に誘導することができる。
【0049】
なお、一方の白金電極11は、接地電位ではなく一定の電圧を印加して固定された電位とされていてもよく、例えば、一方の白金電極11を接地電位に対して−20Vに固定し、他方の白金電極11に−220Vの電圧を印可する。これにより、両方の白金電極11の電位が接地電位に対してそれぞれマイナスの電位となるので、プラズマの電位がさらに低くなり、放電室2とコレクタ室7との電位差を極端なものとすることができ、コレクタ室7に対して被測定物質のイオンおよび電子を効率よく誘導して、コレクタ電極13によるイオンおよび/または電子の捕集率を高めることを可能とする。
【0050】
また、プラズマ発生室4とイオン化室5とは、プラズマ発生室4におけるプラズマ流出口とイオン化室5におけるプラズマ流入口との間に水平に嵌合された中継管12によって接続され、プラズマ発生室4で発生したプラズマをイオン化室5に導入して、プラズマとサンプルガスとを接触させることにより、サンプルガス中の被測定物質をイオン化するとともに、被測定物質から電子を発生させている。
【0051】
ここで、中継管12について説明する。中継管12は、略円筒形の金属、もしくはガラス、もしくはセラミックス等からなり、プラズマの導入方向に20mmの長さとされ、内径は、5mm以下とされるのが好ましい。なお、高濃度の水素を測定する際には、内径が3mmで長さが20mmの中継管12を用いるとよい。さらに、中継管12は、段差を設ける、もしくは、内径部分をテーパー状とすることにより、プラズマの導入方向における下流側が上流側に比べて小さくなるように形成されることが好ましく、これによりイオン化室5に導入されたサンプルガスがプラズマ発生室4へ逆流することを防止することができる。
【0052】
イオン化室5において混合されたプラズマおよびサンプルガスは、絶縁体からなる管6を介してコレクタ室7に導入される。絶縁体からなる管6は、ガラス管もしくは石英管等の絶縁体からなり、イオン化室5のガス導出口とコレクタ室7のガス導入口に水平に嵌合され、検出装置1において放電室2とコレクタ室7とを電気的に絶縁状態に分離している。
【0053】
コレクタ室7は、導電体の筐体からなり、接地されて接地電位とされる、もしくは電気的に浮遊状態とされているとともに、絶縁体からなる管6からプラズマおよびサンプルガスの混合物を導入するガス導入口と、前記混合物を排出するガス導出口とが形成されている。
【0054】
なお、コレクタ室7は、プラズマ発生室4に対して近距離に配設することにより検出感度を高めることができ、50mmから60mmとされることが好ましい。
【0055】
また、コレクタ室7の筐体は、セラミックスなどの絶縁体によって形成されてもよい。
【0056】
放電室2には、放電室2の筐体の導電体部分に−100Vから−200Vの直流電圧からなる電圧を印加する電位差設定手段3が配設されており、放電室2の電位をマイナスの電位としている。
【0057】
電位差設定手段3は、放電室2に負の直流電圧を印加することにより、絶縁体からなる管6によって電気的に絶縁状態とされている放電室2とコレクタ室7とに電位差を設けるようにしており、放電室2の電位を低くすることにより、相対的にコレクタ室7の電位を高くして、被測定物質のイオンおよび電子がコレクタ室7に引きつけられるようにされている。また、放電室2に直流電圧を印加することにより、プラズマ発生室4において白金電極11とプラズマ発生室4の筐体との間に放電が発生することを抑制できるので、白金電極11,11間に確実に放電を起こし安定したプラズマの発生を可能とする。さらに、イオン化した被測定物質がイオン化室5の内壁に付着して筐体の内部が汚染された場合においても、被測定物質のイオンおよび電子をコレクタ室7に確実に誘導することができる。
【0058】
なお、電位差設定手段3による直流電圧の印加は、プラズマ発生室4とイオン化室5とが別体とされる場合には、プラズマ発生室4およびイオン化室5にそれぞれ直流電圧を印加するようにするとよい。
【0059】
また、コレクタ室7の内部には、白金またはステンレス等の金属棒もしくは金属の円筒からなるコレクタ電極13が配設されている。コレクタ電極13は、100MΩ程度の高抵抗13aが接続され、さらに接地することにより接地電位すなわち0Vとされている。このようなコレクタ電極13においては、プラズマとサンプルガスとが混合されたことによりイオン化した被測定物質および/または被測定物質から放出された電子を捕集することで高抵抗13aに流れた電流により発生する高抵抗13a間の電圧の検出を行う。
【0060】
なお、コレクタ電極13の形状は、検出感度に影響を与えるものではなく、どのような形状とされてもよい。
【0061】
また、コレクタ室7の内壁は、樹脂などの絶縁体によって内張されているとよく、絶縁体からなる管6からコレクタ室7内にプラズマとサンプルガスとの混合物を導入する部分においても、混合物に対して導電体が露出している部分が無いようにされることが好ましい。これにより、イオン化室5から導出された被測定物質のイオンおよび電子が流路の内壁に引き寄せられずに、相対的にプラスの電位とされたコレクタ電極13に対して、被測定物質の陰イオンと電子とが引き寄せられるので、捕集効率が高まり検出感度を向上させることができる。
【0062】
さらに、コレクタ電極13は、プラズマの流れ方向に対して一直線状となるように配置されることが好ましく、被測定物質のイオンおよび/または電子の捕集効率を向上させることができる。
【0063】
また、検出装置1の必要箇所には、ガスおよび筐体を所定温度とするための温調手段14が設けられ、特に、放電室2およびコレクタ室7の導電部分を加熱または冷却することにより、おおよそ±100℃に温調することができる。プラズマ発生用ガスおよびサンプルガスを所定温度に温調することにより、常温では液体や固体となってしまう被測定物質を測定する場合においても、被測定物質を凝固させることなく安定な状態で測定することができる。なお、温調手段14による温調は、放電室2およびコレクタ室7に限定されるものではなく、検出装置1の全体を温調してもよい。
【0064】
プラズマ発生室2におけるプラズマの発生には、図3に示すように、マイクロホローカソード15を用いてもよい。
【0065】
マイクロホローカソード15は、プラズマ発生用ガスの流れ方向(図3における左から右方向)と平行に配設され、直流電圧が印加される一対の導電性部材16,16間に配設されたガラス管17内において、一対の当該導電性部材16,16にそれぞれ接触した状態で当該ガラス管17の内面に摺接するように金属からなるバネ部材18,18が配設されている。
【0066】
また、ガラス管17の長さ方向における略中央部には、厚さ0.5〜5mmのガラス板20がガラス管17と一体に形成され、当該ガラス板20の中心に内径0.8mm以下の貫通孔20aを有し、貫通孔20a内をプラズマ発生用ガスが通過可能とされている。なお、本実施形態では、ガラス板20の厚さを1mm、ガラス板20の中心に形成された貫通孔20aを内径0.5mmとしている。
【0067】
また、ガラス板20の両面側には、リング状のモリブデン電極19,19がバネ部材18,18によって、当該モリブデン電極19,19の貫通孔19aとガラス板20の貫通孔20aとを対応させた状態で圧接されている。
【0068】
一対の導電性部材16,16、ガラス管17、モリブデン電極19,19の貫通孔19aおよびガラス板20の貫通孔20aによって形成された流路内をプラズマ発生用ガスを流した状態で、一対の導電性部材16,16間にプラズマ発生用電源21によって電圧を印加し、モリブデン電極19,19間に放電を起こすことにより、プラズマを発生させることができる。なお、プラズマ発生用電源21は、直流電源のほか交流電源、パルス電源、高周波電源などでもよく、一方の極を接地してもよい。
【0069】
このようなマイクロホローカソード15をプラズマ発生に用いることにより、温度および電子密度の高いプラズマを発生させることができる。
【0070】
このような本発明のプラズマを用いた検出装置1の詳しい動作を以下に説明する。
【0071】
ヘリウムガス等からなるプラズマ発生用ガスをベース8に形成されたプラズマ発生用ガス導入路9aを介してプラズマ発生室4に導入し、定電流の電圧が印可された一対の白金電極11,11間に起こる放電によってヘリウムプラズマを発生させる。
【0072】
プラズマ発生室4で発生したヘリウムプラズマは、プラズマ発生用ガスの流れによって、中継管12を介して接続されたイオン化室5に導入され、同時にサンプルガス導入路9bから導入された被測定物質からなるサンプルガスと混合される。
【0073】
この時、被測定物質からなるサンプルガスは、ヘリウムプラズマと混合されることによりイオン化され、被測定物質のイオン、被測定物質から発生した電子などの混合物となる。
【0074】
前記混合物は、プラズマ発生用ガスおよびサンプルガスの流れによって、絶縁体からなる管6を介して接続されたコレクタ室7に導入されるとともに、電位差設定手段3によってプラズマ発生室4およびイオン化室5を有する放電室2の電位と、コレクタ電極13の電位との電位差によって、前記混合物中のイオンおよび/または電子がコレクタ電極13に引きつけられて捕集される。
【0075】
コレクタ電極13によってイオンおよび/または電子を捕集することによってコレクタ電極13に接続された高抵抗13aに流れた電流により発生する高抵抗13a間の電圧を測定し、被測定物質の特定を行う。
【0076】
また、プラズマの発生時の進行方向に対するコレクタ電極13の配設方向についての検討を行い、その結果を以下に示す
【0077】
図4は、本発明のプラズマを用いた検出装置1においてプラズマの発生時の進行方向に対して、コレクタ電極13を垂直(図1のコレクタ電極13方向を90度回転させた方向)に配設した場合(図4(a)参照)と、コレクタ電極13を一直線(図1のコレクタ電極13の方向)に配設した場合(図4(b)参照)とのクロマトグラムである。この測定では、キャリアガスとしてヘリウムガスを用い、被測定物質としてH2、O2、N2、CH4およびCOが各20ppmずつ含まれているサンプルガスを用いて行った。図4(a)および(b)に示すように、プラズマの発生時の進行方向に対してコレクタ電極13を垂直に配設した検出装置を用いて得られたクロマトグラムでは、CH4の検出面積が46,152であったのに対して、プラズマの発生時の進行方向に対してコレクタ電極13を一直線に配設した検出装置を用いて得られたクロマトグラムでは、CH4の検出面積は7,741,740であった。
【0078】
この結果は、プラズマの発生時の進行方向に対して、コレクタ電極13を一直線に配設することにより、コレクタ電極13を垂直に配設した場合と比較して、得られるクロマトグラムのCH4の面積を150倍以上とすることができることを示し、プラズマの発生時の進行方向に対するコレクタ電極13の配設方向が被測定物質の検出感度に大きく影響を与えることを明らかとするものである。
【0079】
また、電位差設定手段3によって放電室2に印加する電圧の最適値について検討を行い、その結果を以下に示す。
【0080】
図1および図2に示した、本発明のプラズマを用いた検出装置1において、電位差設定手段3がプラズマ発生室4およびイオン化室5に対して印加する印加電圧を、0Vから−350Vまで50Vおきに設定し、それぞれの印加電圧において測定したクロマトグラムと数値データを図5(a)乃至(h)に示す。なお、キャリアガスとしてヘリウムガスを用い、プラズマ発生用ガス導入路9aから流速50ml/minの流量で導入し、図示しないプラズマ発生電源によって白金電極11に−800Vの直流電圧を印加することにより放電して、プラズマを発生させいている。また、サンプルガスは、被測定物質としてH2、O2、N2、CH4およびCOが各5ppmずつ含まれたガスをサンプルガス導入路9bから流速30ml/minの流量で導入し測定を行った。
【0081】
それぞれの印加電圧におけるCH4の最小検出値は、図5(a)乃至(h)に示すように、0Vのとき26.67ppb、−50Vのとき16.55ppb、−100Vのとき15.24ppb、−150Vのとき13.33ppb、−200Vのとき15.38ppb、−250Vのとき20.38ppb、−300Vのとき17.14ppbおよび−300Vのとき22.46ppbであり、印加電圧0Vから−150Vまでは最小検出値が減少するのに対して、−200V以下の電圧を印加すると、最小検出値は増加することが分かる。なお、最小検出値は、値が小さいほど小さい重量のサンプルガスについて検出可能であることを示す。
【0082】
このことから、電位差設定手段3においてプラズマ発生室4およびイオン化室5に印加する印加電圧は、−100Vから−200Vの間とすることで感度よく測定を行うことができ、−150Vの印加電圧のときに最も良好な検出感度が得られる。
【0083】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 検出装置
2 放電室
3 電位差設定手段
4 プラズマ発生室
5 イオン化室
6 絶縁体からなる管
7 コレクタ室
8 ベース
9a プラズマ発生用ガス導入路
9b サンプルガス導入路
10 拡散板
11 白金電極
11a 突部
11b 頂部
12 中継管
13 コレクタ電極
13a 高抵抗
14 温調手段
15 マイクロホローカソード
16 導電性部材
17 ガラス管
18 バネ部材
19 モリブデンリング
19a 貫通孔
20 ガラス板
20a 貫通孔
21 プラズマ発生用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生用ガスにより生成したプラズマと被測定物質を含むキャリアガスとを混合することによってイオン化された前記被測定物質および/または前記被測定物質から発生した電子を絶縁体からなる管を介して接続されたコレクタ室内において捕集する際に、前記プラズマの流れ方向において前記絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された部材と前記絶縁体からなる管の下流側の開口部に接続された部材とに電位差を設けることを特徴とするプラズマを用いた検出方法。
【請求項2】
前記プラズマの流れ方向において、前記絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された部材の電位が、前記絶縁体からなる管の下流側の開口部に接続された部材の電位よりも低く設定されることを特徴とする請求項1に記載のプラズマを用いた検出方法。
【請求項3】
前記プラズマ発生用ガスおよび前記キャリアガスとを所定温度に温調することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマを用いた検出方法。
【請求項4】
装置内部に導入されたプラズマ発生用ガスにより生成したプラズマと被測定物質を含むキャリアガスとを混合することによってイオン化された前記被測定物質および前記被測定物質から発生した電子が絶縁体からなる管を介して導入されるコレクタ室と、前記コレクタ室に配設され、前記イオンおよび/または前記電子を捕集することにより前記被測定物質を検出するコレクタ電極と、前記キャリアガスの流れ方向における前記絶縁体からなる管の上流側の開口部に接続された導電性部材の電位と前記絶縁体からなる管の下流側の開口部に接続された前記コレクタ室の電位とに電位差を設ける電位差設定手段とを有することを特徴とするプラズマを用いた検出装置。
【請求項5】
前記コレクタ室の内壁が、絶縁性部材で内張りされていることを特徴とする請求項4に記載のプラズマを用いた検出装置。
【請求項6】
前記絶縁体からなる管の上流側には、導電性部材からなり、前記プラズマ発生用ガス内にプラズマを発生させるプラズマ発生室と前記プラズマと前記キャリアガスを混合して被測定物質をイオン化するイオン化室とを有する放電室が接続されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のプラズマを用いた検出装置。
【請求項7】
前記放電室および前記コレクタ室は、内部の温度を温調する温調手段を備えることを特徴とする請求項6に記載のプラズマを用いた検出装置。
【請求項8】
前記プラズマ発生室の前記プラズマ発生用ガスの導入口に、前記プラズマ発生用ガスを拡散する拡散板を備えることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のプラズマを用いた検出装置。
【請求項9】
前記プラズマ発生室におけるプラズマの発生には、マイクロホローカソードを用い、前記マイクロホローカソードが、一対の導電性部材と、前記一対の導電性部材の間に狭持され、長さ方向における中央部の管内にプラズマ発生用ガスを通過可能な貫通孔を有するガラス板が一体に形成されたガラス管と、前記ガラス板の貫通孔に対応する貫通孔を有する導電体からなる一対のリングと、前記一対の導電性部材にそれぞれ接した状態で、前記ガラス板の両面側に対して前記一対のリングをそれぞれ圧接させる一対のバネ部材とを有することを特徴とする請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載のプラズマを用いた検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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