説明

プラズマディスプレイパネルおよびプラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】背面板の蛍光体層の劣化が抑制されたPDP製造法を提供すること。
【解決手段】前面板の誘電体層の形成が、(i)ガラス成分、シリカ粒子および有機溶剤を含んで成る第1誘電体原料を、電極が形成された基板上に供して乾燥および熱処理に付し、それによって、第1誘電体層を形成する工程、ならびに、(ii)ガラスフリット、有機溶剤およびバインダ樹脂を含んで成る第2誘電体原料を第1誘電体層上に供して乾燥および熱処理に付し、それによって、第2誘電体層を形成する工程を含んで成り、工程(i)で用いる第1誘電体原料のガラス成分は、ゾルゲル法の実施過程で形成されるポリシロキサンを含んで成り、また、工程(ii)の熱処理に際しては第2誘電体原料中のガラスフリットを溶融させることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルの誘電体層の製造方法に関し、特にプラズマディスプレイパネルの前面板側の誘電体層の製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法から得られるプラズマディスプレイパネルにも関する。
【背景技術】
【0002】
高品位テレビジョン画像を大画面で表示するためのディスプレイ装置として、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPとも称す)を用いたディスプレイ装置への期待は高まっている。
【0003】
PDP(例えば3電極面放電型PDP)は、映像を見る人から見て表面側となる前面板とその裏側の背面板とを対向配置して、それらの周辺部を封着部材で封着した構造を有している。前面板と背面板との間に形成された放電空間にはネオンおよびキセノンなどの放電ガスが封入されている。前面板は、ガラス基板の一方の面に形成された走査電極と維持電極とから成る表示電極対と、これらの電極を覆う誘電体層と保護層とを備えている。背面板は、ガラス基板に上記表示電極対と直交する方向にストライプ状に形成された複数のアドレス電極と、これらのアドレス電極を覆う下地誘電体層と、放電空間をアドレス電極毎に区画する隔壁と、隔壁の側面および下地誘電体層上に塗布された赤色(R)・緑色(G)・青色(B)の蛍光体層とを備えている。
【0004】
表示電極対とアドレス電極とは直交していて、その交差部が放電セルを成している。これらの放電セルはマトリクス状に配列されており、表示電極対の方向に並ぶ赤色・緑色・青色の蛍光体層を有する3個の放電セルがカラー表示のための画素となる。このようなPDPでは、順次、走査電極とアドレス電極間、および走査電極と維持電極間に所定の電圧が印加されてガス放電を発生させている。そして、かかるガス放電で生じる紫外線により蛍光体層を励起して可視光を発光させることによってカラー画像表示を実現している。
【0005】
近年では、PDPの高精細化に伴って放電セルが微細化している(例えば、高精細化に伴って背面側の隔壁を約100μmピッチで形成する必要がある)。微細化により放電セルのサイズが小さくなると、発光輝度が低下し、消費電力が増大するという問題がある。これは、開口率の減少、画素数の増加に伴う1画素当りの発光時間の減少、発光効率の低下などに起因している。発光輝度を高める方法として、背面板の隔壁の幅を細くすることにより開口率の増加を図る方法があるが、それだけでは発光輝度が依然不足しており、更なる改善が必要である。
【0006】
発光輝度を高める他の方法として、前面板における誘電体層の誘電率を下げて放電時の無効電力を低減し、発光効率を高める方法がある。前面板側の誘電体層の形成に際して、数μmの大きさのガラス粉末とバインダ樹脂と溶媒を含むガラス材料をスクリーン印刷やダイコートなど公知の方法を用いてガラス板上に塗布した後、加熱処理することによって、平坦で透過度の高い誘電体層を形成している。しかしながら誘電体材料はガラス粉末を低温で溶融させるため、ガラスの融点を低下させる材料(一般的にBiなど)を添加する必要がある(例えば、特許文献1を参照)。この低融点ガラス材料は純度が低く、比誘電率が10以上と高い。また、他の物質(一般的にアルカリ金属など)を添加することで比誘電率を低下させることも可能であるものの、PDPの電極には銀などの高導電性金属が主成分として用いられているので、イオンマイグレーションによる銀の拡散およびコロイド化が促進され、誘電体に黄変現象が発生してしまう。これはPDPの光学特性に対して大きく悪影響を及ぼす。
【0007】
そこで誘電体層の誘電率を下げることで発光輝度を高めるためには、現行のガラスペーストに変わる新しい低誘電率材料およびその材料を用いた誘電体層の形成方法の開発が必要となる。高純度の酸化物誘電体層を形成する方法としては、固体酸化物を真空下でスパッタリングして基板に堆積させる方法(スパッタリング蒸着法)や、原料をプラズマにより分解し、堆積させる方法(化学蒸着法)などがある。これらの方法により高純度で低誘電率の誘電体層を形成できるものの、高価な真空設備を必要とし、成膜レートが毎分数100nm程度と小さい。また、必要とする膜厚は絶縁耐圧などの関係上、一般的には10μm以上は必要であり、生産性を高めながら誘電体層を形成するには、設備台数が増えてしまうといった問題がある。
【0008】
一方、生産性を確保しながら、低誘電率の誘電体を形成する方法としてゾルゲル法がある。この方法では、溶媒中の金属アルコキシドを加水分解してシリコン化合物を得た後、加熱に付して縮重合処理することによって、酸化ケイ素を主成分とする膜を形成している。例えばシリコン化合物が水酸化ケイ素(Si(OH))の場合、下記のような縮重合反応によって、−Si−O−Si−のネットワークが形成され、誘電体層となる固体のSiOが形成される:

nSi(OH)→nSiO+2nH
(n:1以上の整数)

また、シリコン化合物がポリシロキサンの場合では、下記のような縮重合反応によって誘電体層が形成される:


この方法によれば、ガラスを溶融させる過程を経ないので低温で誘電体層を形成できる。また、誘電体原料ペーストを塗布する既存の設備を用いて誘電体層を形成することができるので、安価な製造コストと短いタクトとを両立できる。
【0009】
ゾルゲル法を用いた誘電体層の形成では、縮重合反応時の体積収縮に起因して誘電体層にクラックが発生し、厚膜(一般的には約数μm程度)を形成することが一般に困難であったが、シリカ粒子を混在させることにより、数μm〜数十μmにまで厚膜化が可能になり、それを用いたPDPも提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、この方法で得られた誘電体層から構成されるPDPでは、背面板の蛍光体層が劣化する現象が生じ得る。これは、「ポリシロキサンの主鎖等からの脱離で生じ得る有機系ガス(例えばポリシロキサンに含まれていたアルキル基がガス化したもの)」や「シリカ粒子中に吸着されていたガス」が蛍光体層に接触することに起因するものと考えられる。このような“蛍光体層の劣化”が生じると、PDPの輝度が低下し、画像品質を損なうといった問題が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−053342号公報
【特許文献2】国際特許公開(WO)第07/023658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題は、背面板の蛍光体層の劣化が抑制されたPDP製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、
基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板を有して成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前面板の誘電体層の形成が、
(i)ガラス成分、シリカ粒子および有機溶剤を含んで成る第1誘電体原料を、電極が形成された基板上に供して乾燥および熱処理に付し、それによって、第1誘電体層を形成する工程、ならびに
(ii)ガラスフリット、有機溶剤およびバインダ樹脂(有機バインダー樹脂)を含んで成る第2誘電体原料を第1誘電体層上に供して乾燥および熱処理に付し、それによって、第2誘電体層を形成する工程
を含んで成り、
工程(i)で用いる第1誘電体原料のガラス成分は、ゾルゲル法の実施過程で形成されるポリシロキサン(即ち、シロキサン骨格またはシロキサン結合[−Si−O−]を有する物質)を含んで成り、また
工程(ii)の熱処理に際しては第2誘電体原料中のガラスフリットを溶融させる、ことを特徴とする製造方法を提供する。
【0013】
本発明の製造方法では、第1誘電体層と第2誘電体層とから成る2層構造の誘電体層を形成する。特に、本発明の製造方法は、ゾルゲル法の実施過程で得られる原料から第1誘電体層を形成する一方、ガラスフリット溶着法を用いて第2誘電体層を形成することを特徴としている。
【0014】
本明細書において「前面板」とは、映像を見る人から見て表面側となるパネル基板を指しており、実質的には、蛍光体層および隔壁が存在していない側のパネル基板を指している(換言すれば、蛍光体層および隔壁が存在する“背面板”と対向配置されるパネル基板が“前面板”である)。
【0015】
また、本明細書において「ゾルゲル法の実施過程で形成される」とは、『いわゆるゾルゲル法の実施に伴って金属アルコキシドなどの前駆体材料と溶媒などの物質とを用いて形成される』ということを意味しており、好ましくは『ゾルゲル法の実施に際して、有機溶媒などを含んだ物質を用いて金属アルコキシドなどの前駆体材料を加水分解してゾルを形成する』といったことを意味している。
【0016】
ある好適な態様では、工程(i)の熱処理を約550℃で実施した際に第1誘電体原料中にて発生し得る応力が約50MPa以下となり、かつ、工程(i)の熱処理を約550℃で実施して得られる第1誘電体層の基板に対する密着度(または“密着性”もしくは“付着力”)が約10mN以上となるような第1誘電体原料を用いる。これにより、得られる誘電体層にて“クラック発生”および“剥れ現象”を効果的に抑制できる。
【0017】
別のある好適な態様では、工程(i)の熱処理を工程(ii)で行う熱処理よりも高い温度で実施する。つまり、第1誘電体層形成の熱処理を、第2誘電体層形成の熱処理温度よりも高い温度で実施する。これにより、完成したPDPにて蛍光体層の劣化をより効果的に抑制できる。
【0018】
尚、工程(ii)ではBi(ビスマス)を含んでいない第2誘電体原料を用いることが好ましい。なぜなら、誘電体層の“黄変”を効果的に防止できるからである。
【0019】
本発明では、上述した製造方法を通じて得られるプラズマディスプレイパネルも提供される。かかるプラズマディスプレイパネルは、基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、基板上に電極と誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、
前面板の誘電体層が、基板に接する第1誘電体層とその第1誘電体層上に形成された第2誘電体層とから構成されており、また
第1誘電体層は、その形成過程で発生する応力が50MPa以下となっているものであり、かつ、基板に対する密着度が10mN以上となっていることを特徴としている。
【0020】
本発明のプラズマディスプレイパネルは、上述した製造方法を通じて得られるものであるために、第1誘電体層がゾルゲル法を通じて得られたものであるのに対して、第2誘電体層がガラスフリット溶着法で得られたものとなっている。
【0021】
かかるプラズマディスプレイパネルは、第1誘電体層が『その形成過程で発生する応力が50MPa以下となっているものであり、かつ、基板に対する密着度が10mN以上となっている』ことに起因して、誘電体層の“クラック”および“剥れ”が効果的に抑制されている特徴も有し得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法では、ガラスフリット溶着法・溶融法に起因して第2誘電体層が緻密な層となっている。従って、PDP完成後において「第1誘電体層に含まれる得る残存アルキル基などに起因したガス」や「第1誘電体層のシリカ粒子中に吸着されていたガス」がパネル内へと放出されるのを第2誘電体層により防ぐことができる。つまり、「放出ガスが背面板の蛍光体層に接触して蛍光体層が劣化する」といった現象を効果的に防止できるので、輝度劣化が抑制されたプラズマディスプレイパネルを実現できる。
【0023】
また、『第1誘電体層の形成過程で発生する応力が50MPa以下となっており、かつ、第1誘電体層の基板に対する密着度が10mN以上となっている』場合では、誘電体層がクラックなどの物理的欠陥を実質的に含んでおらず、また、誘電体層の剥れが効果的に防止されているので、得られるPDPにおいては“クラック由来”および“誘電体層剥れ由来”のスパーク発生が効果的に抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】PDPの構造を模式的に示す斜視図
【図2】PDP前面板の構成を模式的に示す断面図
【図3】本発明の製造方法の工程を模式的に示す斜視断面図
【図4】“応力の算出”を説明するための説明図(算術式を含む)
【図5】“密着度の算出”を説明するための図表
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、本発明の「プラズマディスプレイパネルの製造方法」および「プラズマディスプレイパネル」を詳細に説明する。本発明に係るPDPは、原則、一般的なPDP製造法に基づいて得ることができる。換言すれば、誘電体層の形成工程以外は、一般的なPDP製造法に基づいて得ることができるといえる。従って、本発明では、特に言及しない限り、各種構成部材の原材料/構成材料などは、一般的なPDP製造法で常套的に用いられているものであってよい。尚、図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。
【0026】
プラズマディスプレイパネルの構成
まず、本発明の製造方法を経ることによって最終的に得られるPDPを簡単に説明する。図1には、本発明に係るPDPの基本構成を断面斜視図により示す。
【0027】
PDP(100)の前面板(1)では、平滑で透明かつ絶縁性の基板(10)(例えばガラス基板)上に、走査電極(12)と維持電極(13)とから成る表示電極(11)が複数形成されており、その表示電極(11)を覆うように誘電体層(15)が形成され、更に、その誘電体層(15)上に保護層(16)(例えば、MgOから成る保護層)が形成されている。特に、表示電極(11)は、図2に示すように、透明電極(12a,13a)とバス電極(12b、13b)とから成る電極が対となった電極対(11)を複数有して成ることにより構成されている。透明電極(12a,13a)は、酸化インジウム(ITO)または酸化スズ(SnO)などから成る透明な導電膜であり、好ましくは50〜500nm程度の厚さ寸法を有している。一方、バス電極(12b、13b)は、銀を主成分とした黒色を帯びた電極であり、好ましくは1〜10μm程度の厚さ寸法(より好ましくは1〜5μmの厚さ寸法)を有していると共に、好ましくは10〜200μmの幅寸法(より好ましくは50〜100μmの幅寸法)を有している。ちなみに、バス電極に用いられる材料には特に制限がなく、銀成分電極の代わりに、Cr/Cu/Crなどの薄膜積層電極を用いてもよい。
【0028】
前面板(1)に対向配置される背面板(2)では、絶縁性の基板(20)上にアドレス電極(21)が複数形成され、このアドレス電極(21)を覆うように誘電体層(22)が形成されている。そして、かかる誘電体層(22)上のアドレス電極(21)間に対応する位置に隔壁(23)が設けられ、誘電体層(22)の表面上の隣接する隔壁(23)の間には、赤、緑、青の各色の蛍光体層(25)がそれぞれ設けられている。
【0029】
表示電極(11)とアドレス電極(21)とが直交し、且つ、放電空間(30)が形成されるように、前面板(1)と背面板(2)とは、隔壁(23)を挟んで対向して配置されている。放電空間(30)には、放電ガスとして、ヘリウム、ネオン、アルゴンまたはキセノンなどの希ガスが封入される(封入圧は例えば55kPa〜80kPa程度)。このように構成されたPDP(100)では、隔壁(23)によって仕切られ、表示電極(11)とアドレス電極(21)とが交差する放電空間(30)が放電セル(32)として機能することになる。
【0030】
PDPの一般的な製造法
次に、このようなPDP(100)の典型的な製造方法について簡単に説明する。PDP(100)の製造は、前面板(1)の形成工程と背面板(2)の形成工程とに分かれている。まず、前面板(1)の形成工程においては、ガラス基板(10)上に、例えばスパッタ法等で透明電極を形成すると共に焼成法等でバス電極を形成することによって表示電極(11)を形成する。次いで、表示電極(11)を覆うように誘電体原料をガラス基板(10)上に塗布して熱処理して誘電体層(15)を形成する。次いで、この誘電体層(15)上に、電子ビーム蒸着(EB蒸着)法などでMgOなどの膜を形成することで保護層(16)を形成し、前面板(1)を得ている。
【0031】
背面板(2)の形成工程においては、ガラス基板(20)上に、例えば焼成法等でアドレス電極(21)を形成し、その上に誘電体原料を塗布して誘電体層(22)を形成する。次いで、所定のパターンで低融点ガラスから成る隔壁(23)を形成し、その隔壁(23)の間に蛍光体材料を塗布して焼成に付すことによって蛍光体層(25)を形成する。次いで、基板の周縁部に例えば低融点フリットガラス材料(即ち、「パネル封着に用いる封着用材料」)を塗布し、焼成を行うことで封着部材(図1には図示せず)を形成し、背面板(2)を得ている。
【0032】
得られた前面板(1)と背面板(2)とを対向するように位置合わせし、その状態で固定したまま加熱して封着部材を軟化させることによって、前面板(1)と背面板(2)とを気密に接合する、いわゆるパネル封着を実施する。引き続いて、加熱しながら放電空間(30)内のガスを排気する、いわゆる排気ベーキングを実施した後、放電空間(30)内に放電ガスを封入することによって、PDP(100)を完成させる。
【0033】
本発明の製造方法
本発明の方法は、かかるPDP製造において、前面板に設けられる誘電体層の形成に関している。
【0034】
図3を参照して、本発明の実施形態を説明していく。本発明の実施に際しては、まず、「電極が形成された基板」を用意して、工程(i)を実施することになる。
【0035】
工程(i)で用いる「電極が形成された基板」とは、「前面板側の電極が形成された基板」のことを意味しており、より具体的には図3(a)に示すように「表示電極(11)が形成されたガラス基板(10)」のことを意味している。つまり、ガラス基板(10)上に、走査電極(12)と維持電極(13)とから構成される表示電極(11)が形成されたものを用意する。基板(10)は、ソーダライムガラスや高歪み点ガラス、各種セラミックスからなる絶縁基板であることが好ましく、厚さは1.0mm〜3mm程度であることが好ましい。走査電極(12)および維持電極(13)には、それぞれ、厚さ50〜500nm程度のITO等から成る透明電極(12a、13a)が形成されていると共に、表示電極の抵抗値を下げるべく透明電極上に、銀を含んで成る厚さ1〜10μm程度のバス電極(12b、13b)が形成されている(図2参照)。具体的には、透明電極を薄膜プロセスなどで形成した後に、バス電極を焼成プロセスなどを経て形成する。特に、バス電極の形成に際しては、まず、銀を主成分とした導電性ペーストをスクリーン印刷法によりストライプ状に形成する。また、バス電極は銀を主成分とした感光性ペーストをダイコート法や印刷法により塗布した後に、100℃〜200℃で乾燥した後、露光・現像するフォトリソグラフィー法によりパターンニングすることによってストライプ状に形成してもよい。別法にてディスペンス法やインクジェット法を用いてもよい。最終的には、乾燥に付した後、400℃〜600℃の焼成に付すことによって、バス電極を得ることができる。
【0036】
本発明の製造方法では、このようにして得られた「電極が形成された基板」に対して第1誘電体原料を供して乾燥および熱処理に付し、第1誘電体層を形成する。
【0037】
第1誘電体原料は、ガラス成分、シリカ粒子および有機溶剤を含んで成るペースト状原料である(以下では、第1誘電体原料を「第1誘電体原料ペースト」とも称する)。
【0038】
第1誘電体原料に含まれるガラス成分はポリシロキサン(即ち、シロキサン骨格[−Si−O−])を含んで成り、好ましくはゾルゲル法の実施過程で有機溶剤と前駆体材料とから得られるペースト状またはゾル状の流動性材料である。特に好ましいポリシロキサンは、シロキサン骨格およびアルキル基を有して成るポリシロキサンである。なぜなら、ポリシロキサンにアルキルが含有されていると誘電体層形成時に生じ得る“クラック”を効果的に抑制できるからである。シロキサン骨格は、直鎖状であっても、環状であっても、または三次元網目状であってもかまわない。アルキル基の炭素数は1〜6程度であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基またはヘキシル基などのアルキル基を挙げることができる(これらアルキル基は単独または2種以上含まれていてよい)。また、アルキル基に必ずしも限定されるわけではなく、それに類する官能基、例えばアルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基またはブチレン基など)等が含まれていてもよい。
【0039】
このようなガラス成分は、例えば、シリコンアルコキシドなどの前駆体材料と有機溶剤とを混和して、水や触媒などを添加することによって調製できる。より具体的にいえば、シリコンアルコキシド(特に好ましくはアルキル基を含んだシリコンアルコキシド)を有機溶剤に混和し、常温または加温条件下において、攪拌しながら水と触媒とを少量ずつ均等に添加し、加水分解や縮重合させることによってガラス成分を調製できる。
【0040】
ガラス成分の調製に用いる上記前駆体材料は、特に制限はなく、例えばメチルシリケートやエチルシリケートなどのアルキル基を含まない完全無機の前駆体材料であってよいものの、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジフルオロジメトキシシラン、ジフルオロジエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、他のアルコキシド系有機シリコン化合物(Si(OR))、例えば、テトラターシャリーブトキシシラン(t−Si(OC)、テトラセコンダリーブトキシシランsec−Si(OCまたはテトラターシャリーアミロキシシランSi[OC(CHのようなアルキル基およびそれに類する官能基を含んだ前駆体材料である。これらの前駆体材料は1種類に限定されず、2種類以上の前駆体材料を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
第1誘電体原料に含まれる有機溶剤としては、特に制限されるわけではないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールを含むアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールを含むグリコール類、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンを含むケトン類、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、モノアルキルセロソルブ類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。尚、最終的には有機溶剤が気化することが望まれるので、好ましくは約300℃以下(更に好ましくは200℃以下)の範囲に沸点を有していることが好ましい。
【0042】
第1誘電体層のクラックを効果的に防止すべく、第1誘電体原料ペーストにはシリカ粒子が含まれている。用いられるシリカ粒子の平均粒子サイズ(平均粒子径)は50〜200nmであることが好ましい。粒子サイズを50nm以上にすると、後刻に形成される第1誘電体層内にて粒子間の空隙が大きくなることに起因して応力緩和を図ることができると共に、比表面積が下がることに起因して粒子表面に均一かつ十分な量のポリシロキサンを介在させることができるので、クラック発生をより効果的に抑制できる。一方、粒子サイズを200nm以下とすると、波長が400〜800nmである可視光の透過率を高めることができ、所望の光学特性を得ることができる。シリカ粒子は必ずしも単一サイズである必要はなく、2種類以上のサイズを含んで成るものであってもよい。2種類以上の粒子サイズを含む場合、得られる誘電体層中のシリカ粒子充填率を上げることが可能となり、クラックの発生をより効果的に防止できる。なお、本明細書にいう「粒子サイズ」とは、粒子のあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味しており、「平均粒子サイズ」とは、粒子の電子顕微鏡写真などに基づいて例えば10個の粒子サイズを測定し、その数平均として算出したものを実質的に意味している。
【0043】
使用するシリカ粒子は結晶性であっても非晶性(アモルファス)であってもよい。また、使用するシリカ粒子は乾燥粉末状のものであってもよく、あるいは、予め水や有機溶剤に分散されたゾル状のものであってもよい。シリカ粒子の表面状態、多孔度などについては特に制限はなく、市販されているシリカ粒子をそのまま用いることも可能である。シリカ粒子の添加は、ゾル状誘電体原料の調製前に添加しても、それを調製した後に添加してもよい。尚、“誘電体層の透過率”の点でいえば、シリカ粒子は第1誘電体原料ペースト中で十分に分散していることが好ましい。
【0044】
第1誘電体原料ペーストに含まれるシリカ粒子の量は、誘電体層中に残存するシロキサン骨格との比率により決定することが好ましいので、最終的に形成される第1誘電体層の重量を基準にして規定すると、10〜99重量%程度であり、好ましくは50〜90重量%程度である。最終的な誘電体層中に残存するシリカ粒子の量が多いほど、応力緩和能が高くなる一方、ガラス基板に対する密着性は低くなる。
【0045】
第1誘電体原料ペーストの塗布性を向上させるために、誘電体原料にバインダ樹脂を加えてもよい。加えるバインダ樹脂としては、特に制限はない。例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体、ブチルメタクリレート樹脂またはセルロース系樹脂などを用いることができ、更には、これらを2種類以上組み合わせて用いてもよい。誘電体原料ペーストは有機溶剤の気化に起因して高い温度領域(200〜400℃程度)で重量減少を呈することになるが、バインダ樹脂の添加によりペースト材料全体の重量減少の速度を緩和させることができ、応力集中をより小さくできるといった効果も奏され得る(特に、乾燥時の応力緩和効果に起因して乾燥膜のクラックが抑制され得る)。更には、バインダ樹脂によって、より高温領域にてシリカ粒子同士の接着力が助力される効果も奏されることになる。
【0046】
上述した成分から調製される第1誘電体原料ペーストは、その名の通り、ペースト形態を有している。例えば、第1誘電体原料ペーストは室温(25℃)およびずり速度1000[1/s]において1mPa・s〜50Pa・s程度(特に10mPa・s〜50Pa・s程度)の粘度を有していることが好ましい。このような範囲に粘度を有すると、塗布領域における誘電体原料の濡れ広がりをより効果的に防止できる。
【0047】
第1誘電体原料ペーストの各種成分の割合は、典型的なPDP誘電体層を得る際に用いられる一般的な割合であれば、特に制限はない(より具体的には、いわゆる“ゾルゲル法”を利用して誘電体層を形成する際に一般的に採用される割合であれば特に問題はない)。ただし付言しておけば、本発明の効果をより引き出すためには、第1誘電体原料ペーストの固形分濃度が5重量%〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは15重量%〜40重量%である。ここでいう「固形分濃度」とは、第1誘電体原料ペーストの全重量に対する「ガラス成分+シリカ粒子」の重量割合、または、誘電体原料ペーストの全重量に対する「ガラス成分+シリカ粒子+バインダ樹脂」の重量割合を指している。誘電体層厚さを大きくするにはウェット状態での膜厚を大きくしなければならないが、固形分濃度が5重量%を下回ると多量のペーストを使用することになるので、材料コストが高くなる(また、固形分濃度が15重量%を下回るとペースト粘度の低下により塗布が一般に損なわれる傾向がある)。一方、固形分濃度が60重量%よりも上回ると、ガラス成分同士(例えばポリアルキルシロキサンオリゴマー同士)の距離が近くなり、凝集を起こしやすくなるために望ましくない(また、固形分濃度が40重量%よりも上回ると、ポリシロキサンの重合反応速度が増大し、実用的なポットライフを確保することが一般に難しい)。
【0048】
工程(i)においては、調製された第1誘電体原料ペーストは「電極が形成された基板」上に塗布され、その後、乾燥および熱処理に付されることによって第1誘電体層(15a)が形成される(図3(b)参照)。
【0049】
第1誘電体原料ペーストの塗布には、例えば、スリットコータ法を用いてよい。「スリットコータ法」とは、巾広のノズルからペースト状原料を圧送吐出して所定の面にペースト状原料を塗布する方法である。また、別法にて、例えばディスペンス法を用いてもよい。ディスペンス法とは、小径ノズルを備えた円筒形容器に誘電体原料ペーストを仕込み、ノズルと反対側の開口部より空気圧を加えて誘電体原料ペーストを吐出する方法である。更に別法にて、スプレー法、印刷法、フォトリソグラフィー法等を用いてもよい。
【0050】
塗布された第1誘電体原料ペーストは、乾燥に付されることによって、それに含まれている有機溶剤が減じられ、結果的に第1誘電体前駆層が形成される。つまり、乾燥により有機溶剤が気化して第1誘電体原料ペーストから抜けていく。尚、第1誘電体原料ペーストを熱付与により乾燥させることに必ずしも限定されず、有機溶剤が気化するのであれば他の手段を用いてもよく、例えば、塗布された第1誘電体原料ペーストを減圧下または真空下に置いてもよい。
【0051】
熱付与により乾燥を行う場合では、例えば、塗布された第1誘電体原料ペーストを大気圧下で50〜200℃程度(好ましくは60℃〜150℃)の温度条件下に0.1〜2時間程度付すことが好ましい。また、減圧下または真空下に置く場合では、減圧度または真空度を有機溶剤の飽和蒸気圧以下に維持することによって有機溶剤を蒸発させることになる。例えば、7〜0.1Paの減圧下または真空下に付すことが好ましい。必要に応じて「熱付与」と「減圧下または真空下」とを組み合わせて乾燥を実施してもよい。
【0052】
“乾燥”により形成される第1誘電体前駆層は、その厚さが10〜30μm程度であることが好ましい。これにより、工程(iii)の熱処理後に得られる第1誘電体層の厚さも実質的に約10μm〜約30μm程度となり得る。かかる厚みを10μm以上にすると、絶縁耐圧が確保され易く、また、10um未満であると低誘電率の効果である無効電力削減の効果が小さくなってしまう。一方、上記厚みを30μm以下とすると、誘電体層の誘電率の低下に起因して放電時の無効電力の低減化を図ることができ、また、30μmを超えると放電電力を大きくする必要があり、放電に関わる回路などのコストが大幅に必要になってしまう。
【0053】
工程(i)では“乾燥”に引き続いて“熱処理”を実施する。即ち、第1誘電体前駆層を熱処理に付して、第1誘電体前駆層から第1誘電体層を形成する。この熱処理では、第1誘電体前駆層が加熱されることに起因して、第1誘電体前駆層において縮重合反応が進行して最終的に第1誘電体層が形成されることになる。第1誘電体前駆層にバインダ樹脂が含まれている場合では、かかるバインダ樹脂が燃焼して第1誘電体前駆層から除去される。工程(i)の熱処理時の加熱温度は、縮重合反応に必要とされる熱量の他、前駆層に残存し得る有機溶剤の沸点および含有量などによって決定され得るが、一般的にいえば450〜600℃程度の範囲(例えば550℃)である。また、かかる加熱温度に付す時間も、縮重合反応に要する熱量、前駆層に残存し得る有機溶剤の沸点や含有量などを総合的に考慮して決定され、誘電体原料の種類によって変わるものであるが、一般的には0.5〜2時間程度である。熱処理手段としては、焼成炉のような加熱チャンバーを用いてよい。この場合、加熱チャンバー内に「表示電極および第1誘電体前駆層を備えた基板」を供することによって、第1誘電体前駆層を全体的に熱処理できる。
【0054】
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。即ち、第2誘電体原料を第1誘電体層上に供して乾燥および熱処理に付し、第2誘電体層(15b)を形成する(図3(c)参照)。
【0055】
第2誘電体原料は、ガラスフリット、有機溶剤およびバインダ樹脂を含んで成るペースト状原料である(以下では、第2誘電体原料を「第2誘電体原料ペースト」とも称する)。
【0056】
第2誘電体原料ペーストに含まれるガラスフリットは、低融点ガラスフリットであることが好ましい。この「低融点ガラスフリット」とは、好ましくは約300℃〜400℃程度のガラス転移点を有するガラスフリットである。それゆえ、本明細書でいう「低融点」とは、約300℃〜400℃程度のガラス転移点のことを実質的に指している(このようなガラス転移点を有しているため、工程(ii)の熱処理時の例えば500℃〜580℃の加熱温度によってガラスフリットが溶融・溶着することになる)。第2誘電体原料ペーストに含まれるガラスフリットとしては、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒子サイズが調製されたものであることが好ましく、例えば、ガラスフリットの平均粒子サイズは0.2〜10μm程度であってよく、好ましくは0.5〜3.0μm程度である。具体的な低融点ガラスフリットとしては、 PbO−SiO−B系ガラスフリット、PbO−P−SnF系ガラスフリット、PbF−SnF−SnO−P系ガラスフリットを用いることができる他、B−ZnO−SiO系ガラスフリットを含む非鉛系のガラスフリット等も用いることができる。
【0057】
第2誘電体原料ペーストに含まれる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン類;α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類;エチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。
【0058】
第2誘電体原料ペーストに含まれるバインダ樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体またはブチルメタクリレート樹脂などを用いることができ、更には、これらを2種以上組み合せて用いることができる。
【0059】
尚、第2誘電体原料ペーストには、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニルまたはリン酸トリブチルなどを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)またはアルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して塗布性を向上させてもよい。
【0060】
上述の各種成分は、例えば3本ロールなどで混練に付してよく、それによって、第2誘電体原料ペーストを好適に調製できる。尚、第2誘電体原料ペーストの各種成分の割合についていえば、後述する乾燥および熱処理を通じて最終的に「第2誘電体層」を得ることができる割合であれば、特に制限はない。一例を挙げると、第2誘電体原料ペーストがガラスフリットとビヒクル(=有機溶剤+バインダ樹脂)から成る場合、ガラスフリットが50重量%〜65重量%程度であり、ビヒクル成分が35重量%〜50重量%程度であることが好ましい。尚、ビヒクル成分中における有機溶剤とバインダ樹脂の含有割合としては、有機溶剤が50〜98重量%程度であり、バインダ樹脂が2〜50重量%程度である(ビヒクル重量基準)。
【0061】
上述した成分から調製される第2誘電体原料ペーストは、その名の通り、ペースト形態を有している。例えば、第2誘電体原料ペーストは室温(25℃)およびずり速度1000[1/s]において3mPa・s〜50Pa・s程度の粘度を有していることが好ましい。このような範囲に粘度を有すると、塗布領域における誘電体原料の濡れ広がりをより効果的に防止できる。
【0062】
工程(ii)に際しては、調製された第2誘電体原料ペーストを第1誘電体層上に塗布する。第2誘電体原料ペーストの塗布には、第1誘電体原料ペーストの塗布と同様、スリットコータ法を用いてよいし、あるいはディスペンス法を用いてもよい。また、別法にて第2誘電体原料ペーストをスクリーン印刷によって塗布してよいし、あるいは、スプレー法、フォトリソグラフィー法等を用いて塗布してもよい。尚、塗布に得られる第2誘電体原料ペースト層の厚さは、好ましくは約5〜60μm程度であり、より好ましくは約10〜20μm程度である。
【0063】
工程(ii)では第2誘電体原料ペースト層を乾燥および熱処理に付すことによって第2誘電体層を形成する。換言すれば、第2誘電体原料ペースト層を乾燥に付して第2誘電体前駆層を得た後で、かかる第2誘電体前駆層を熱処理に付して、第2誘電体前駆層から第2誘電体層を形成する。工程(ii)において、熱処理は焼成処理を含むことが好ましく、それゆえ、乾燥処理後に焼成処理を行うことが好ましい。尚、そのような熱処理に際しては、第2誘電体原料ペースト層に含まれるガラスフリットの少なくとも一部を溶融させる。これにより、最終的に得られる第2誘電体層が、ガラスフリットの溶着固化により得られるガラス材質を含んで成ることになり、“緻密な層”を構成し得る。
【0064】
乾燥処理では、第2誘電体原料ペースト層を60℃〜150℃の乾燥温度条件下に0.1〜2時間付すことが好ましい。一方、焼成処理では、第2誘電体前駆層を300℃〜600℃(例えば500℃〜550℃程度)の焼成温度条件下に0.1〜2時間付すことが好ましい。そのような乾燥および熱処理の手段としては、焼成炉のような加熱チャンバーを用いてよい。この場合、加熱チャンバー内に「表示電極、第1誘電体層および第2誘電体原料ペースト層を備えた基板」を供することによって、第2誘電体原料ペースト層を全体的に乾燥および熱処理に付すことができる。
【0065】
このようにして得られた第2誘電体層は、上述したように、原料中に含まれていたガラスフリットが溶着固化して成るものであるために緻密な材質特性を有している。換言すれば、第2誘電体層は、ガスに対する透過性が低く、例えば室温〜500℃におけるガス透過率が好ましくは0%〜1%程度となる。ここでいう「透過性」とは、室温〜500℃の温度条件下、第2誘電体層の外側から供されたガスに対して、そのガスが第2誘電体層を通過できる割合を百分率で表したものである(尚、透過性の値は、例えばマス・フラグメントグラフィーを利用して得ることができる)。このように第2誘電体層はガス透過性が低いので、最終的に得られるPDPでは、誘電体層にて存在し得る又は発生し得るガス(例えば、「第1誘電体層に含まれる得る残存アルキル基などに起因したガス」、「第1誘電体層のシリカ粒子中に吸着されていたガス」および/または「誘電体層の細孔に閉じ込められているガス」など)がパネル内へと放出されるのが防止され、結果的に、「放出ガスが背面板の蛍光体層に接触して蛍光体が劣化する現象」を抑制できる。
【0066】
第2誘電体層の厚さについて付言しておくと、有機系ガスのパスをなくすためには、ガラスフリットの平均粒子サイズよりも大きいことが望ましい。また、第2誘電体層は低融点ガラスフリットから形成されるので誘電率が第1誘電体層と比較して一般的に高くなる。従って、第1誘電体層よりも第2誘電体層の膜厚が大きいと、低誘電率効果である高効率化のメリットが損なわれ得るので、第2誘電体層厚さは第1誘電体層厚さ以下であることが望ましいといえる。以上を纏めると、第2誘電体層は、ガラスフリットの平均粒子サイズ以上かつ第1誘電体層厚さ以下の厚さを有していることが好ましい。
【0067】
第2誘電体層が形成された後は、図3(d)に示すように保護層(16)を形成する。つまり、真空蒸着法または電子ビーム法(EB法)などを実施して第2誘電体層(15b)を覆うように保護層(16)を形成する。保護層の材質は酸化マグネシウム(MgO)に限定されず、酸化ベリリウム(BeO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)などであってもよい。別法として、熱CVD法や、プラズマCVD法やスパッタ法などを用いても保護層を形成できる。以上の工程を経ることによって、PDP前面板が完成することになる。
【0068】
次に、以下では、本発明の製造方法に特に好ましいプロセス条件・原料条件などについて説明する。
【0069】
(第1誘電体原料の特性)
得られるPDPにおいて“クラック由来”および“誘電体層剥れ由来”のスパーク発生を効果的に抑制するためには、次の以下の特性(A)および(B)を有する第1誘電体原料を用いることが好ましい。
【0070】
まず、特性(A)として、“第1誘電体層の形成過程で発生する応力が50MPa以下”となる第1誘電体原料を用いることが好ましい。より具体的には、「工程(i)の熱処理を550℃で実施した際に第1誘電体原料中にて発生し得る応力が50MPa以下」となるような第1誘電体原料を用いることが好ましい。これにより、第1誘電体層に発生し得るクラックなどの物理的欠陥を主として抑制することができる。
【0071】
ここで、「工程(i)の熱処理を550℃で実施した際に第1誘電体原料中にて発生する応力」とは、第1誘電体層の形成に際して生じ得る「“基板+第1誘電体層”の反り状態」から間接的に求められる応力であって、特に、“基板上の電極の寄与を除いた応力”のことを実質的に指している。より具体的には、かかる応力の値は、0.5mmのソーダガラス基板上に第1誘電体原料を塗布して乾燥(乾燥温度:60℃〜150℃)させ、約30℃/分の昇温条件にて約30分かけて加熱後、550℃にて約20分間維持、約2℃/分の降温条件にて約5時間かけて降温する温度プロファイルにて得られた「第1誘電体層+ガラス基板」の形状、予め測定したガラス板の形状および第1誘電体層の厚さなどから以下の式1より算出される値である(図4も併せて参照のこと)。
【式1】
【0072】


【0073】
尚、第1誘電体層の形成過程で発生する応力が50MPa以上の場合では、第2誘電体層形成における焼成後の冷却過程にて第1誘電体にクラックが発生し易くなり、結果的にパネルにした際に耐電圧不足からスパークを引き起こすという問題が懸念される。この点、従来のシロキサン結合(−Si−O−)を有するポリシロキサンとシリカ粒子とからなる誘電体は、通常、シリカ粒子が膜中で一部自由度を持っているため応力を緩和することができ、第2誘電体層形成時の高い温度に加熱した際も応力を緩和することができる。しかしながら、本発明では第2誘電体原料にガラスフリットが含まれているために、シリカ粒子の応力緩和効果が弱められる可能性がある。つまり、第1誘電体層に含まれるシリカ粒子と第2誘電体層に含まれるガラスフリットとが、第2誘電体層形成における焼成後の冷却過程にて第1誘電体層と第2誘電体層との界面において固着するといった現象が生じ、シリカ粒子の自由度が低下する虞がある。それゆえ、応力は第1誘電体層のみで形成される際より小さい値であることが望まれ、50MPa以下であることが好ましい。
【0074】
次に、特性(B)として、“第1誘電体層の基板に対する密着度が10mN以上”となる第1誘電体原料を用いることが好ましい。より具体的には、「工程(i)の熱処理を550℃で実施して得られる第1誘電体層の基板に対する密着度が10mN以上」となるような第1誘電体原料を用いることが好ましい。これにより、第1誘電体層の剥れ(即ち、誘電体層の剥れ)を主として抑制することができる。
【0075】
ここで、「密着度が10mN以上」とは、スクラッチ試験によって求められる密着性の値が10mN以上であることを実質的に意味している。かかるスクラッチ試験は、試験片(ガラス基板上に形成された第1誘電体層)の表面に硬い突起を押し付け、横に移動させる(引っ掻く)ことによって第1誘電体層の密着性を調べる試験である。より具体的には、本発明にいうスクラッチ試験は、圧子針を一定の負荷速度およびスクラッチ速度で試験片(ガラス基板上に形成された第1誘電体層)に押し付け、第1誘電体層に損傷の生じる荷重から第1誘電体層の付着性を把握する試験である。スクラッチ試験に用いる試験機としては、例えば、RHESCA社製の薄膜スクラッチ試験機(型式CSR−02A)を用いてよく、その際、以下の測定条件下(表1)で得られる数値(剥離荷重値)を密着度として用いてよい(図5も併せて参照のこと)。

【表1】

【0076】
(工程(i)の熱処理条件)
得られるPDPにおいて、放出ガスによる蛍光体層の劣化を更に効果的に抑制するために、工程(i)の熱処理を、工程(ii)で行う熱処理よりも高い温度で実施することが好ましい。つまり、第1誘電体前駆層の熱処理温度を、その後の第2誘電体前駆層の熱処理温度よりも高い温度にすることが好ましい。これにより、誘電体形成工程以降のPDP製造プロセスにおいて工程(i)の熱処理温度が一番高い温度条件になり、蛍光体層に悪影響を及ぼし得るガスを工程(i)の実施に際して可能な限り除去しておくことができる。換言すれば、第1誘電体原料・第1誘電体層からのガス放出は温度依存性を有するところ(即ち、高温になるほどガス放出が促進され得るところ)、工程(i)のプロセス温度が一番高いので、この工程でガスをできる限り放出させておき、それによって、以後のプロセスおよび完成したPDPではガス放出を抑止することができる。一例を挙げるとすると、第1誘電体前駆層の熱処理温度が第2誘電体前駆層の熱処理温度よりも5〜20℃程度高いことが好ましい。
【0077】
(第2誘電体原料の成分)
得られるPDPにおいて、誘電体層の黄変現象を効果的に防止するため、工程(ii)で用いる第2誘電体原料はBi(ビスマス)を含んでいないものが好ましい。これにつき詳細する。従来のPDPではビスマス系ガラスが用いられている場合が多いが、ビスマス系ガラスを用いると“第1誘電体層から脱離した有機系ガス”や“シリカ粒子の吸着ガスから脱離したガス”などにより、第2誘電体前駆層の焼成時にBi成分が還元されるおそれがある。Bi成分が還元されると、第2誘電体層が黄色く着色される。そのような観点から、第2誘電体原料としてBi成分を含まない原料であることが好ましい。
【0078】
本発明のPDP
次に、本発明の製造方法で得られるPDP(即ち、本発明のPDP)について説明する。本発明のPDPは、基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、基板上に電極と誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されているプラズマディスプレイパネルである。
【0079】
本発明のPDPでは、前面板側の誘電体層の形成工程に起因して、図2および図3に示すように、誘電体層が第1誘電体層(15a)と第2誘電体層(15b)との2層構造を有している。より具体的には、誘電体層は、基板(10)に接する第1誘電体層(15a)と、該第1誘電体層の表面部分に形成された第2誘電体層(15b)とから構成されている。特に、本発明のPDPでは、第2誘電体層がガラスフリットの溶着固化より得られる材質を含んで成ることを特徴としている。
【0080】
誘電体層においてはクラック防止の観点から使用されたアルキル基が残存し得るものの、上層側の第2誘電体層(15b)の材質が緻密であってガス透過性が低いので、“第1誘電体層で存在または発生し得るガス”がパネル内へと放出されるのが防止されている。それゆえ、本発明のPDPでは、「放出されたガスが蛍光体層に吸着して蛍光体が劣化する現象」を抑制できるようになっているといえる。
【0081】
本発明のPDPにおける第1誘電体層は、好ましくは、その形成過程で発生する応力が50MPa以下となっているものであり、かつ、基板に対する密着度が10mN以上となっている。従って、誘電体層がクラックなどの物理的欠陥を実質的に含んでおらず、また誘電体層の剥れが効果的に防止されている。つまり、本発明のPDPでは“クラック由来”および“誘電体層剥れ由来”のスパーク発生が効果的に抑制されているといえる。
【0082】
本発明のPDPにおける第2誘電体層は、好ましくは、Bi(ビスマス)を含んでいない。これにより、本発明のPDPでは、Bi成分に起因した誘電体層の黄変現象が効果的に防止されている。
【0083】
その他の本発明のPDPの構成・特徴およびその製造法は、上述の「プラズマディスプレイパネルの構成」、「PDPの一般的な製造法」および「本発明の製造方法」で説明しているので、重複を避けるために省略する。また、前面板側の誘電体層の各種条件・仕様・効果なども、本発明の製造方法に関連して既に説明しているので、重複を避けるべく更なる説明は省略する。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0085】
例えば、上述の本発明の製造方法では、前面板の誘電体層を2層構造としているが、背面板の誘電体層も同様な2層構造としてもよい。この場合であっても、背面板の第2誘電体層の効果は、前面板側における場合と実質的に変わりはない。
【0086】
また、一般的なPDP製造では、前面板と背面板とを対向配置して封着する際に接着フリット材を用いるが、その際、接着フリット材と一部誘電体層が被るようになっている。この点、第1誘電体層に含まれるシリカ粒子と接着フリット材とは相互に接着性が良くないため前面板と背面板の一部が剥れ、スローリークの発生が懸念され得る。それゆえ、接着フリット材と被る部分は完全に第2誘電体層で覆っている態様であってもよい。
【実施例】
【0087】
本発明の効果を確認するために、第1誘電体層および第2誘電体層から成る2層構造の誘電体層を備えたPDPを作製し、その性能を評価した。PDPの各種仕様および誘電体層の条件は以下の通りである。
【0088】
●[PDPの仕様]
・隔壁高さ:0.15mm
・隔壁の間隔:0.15mm
・表示電極の電極間距離:0.66mm
・放電ガス:Ne−Xe系の混合ガス(Xe含有量:15体積%)
・放電ガスの封入圧:60kPa
【0089】
●[2層構造誘電体層の仕様]
(第1誘電体層)
第1誘電体原料成分
ガラス成分…ゾルゲル法により得られたポリアルキルシロキサン、より具体的にはエタノールを用いてエチルシリケートを加水分解することにより得られたゾル状ポリアルキルシロキサン
シリカ粒子…平均粒子サイズ50nmの球状アモルファスシリカ粒子
有機溶剤…アルコール類とセロソルブ類との混合溶剤
バインダ樹脂

*各種成分の重量%比(第1誘電体原料の全重量基準)
ガラス成分+シリカ粒子:有機溶剤:バインダ樹脂=20:78:2

*第1誘電体原料の粘度:20〜200mPa・s(25℃)

第1誘電体層の形成
第1誘電体原料をダイコート法でソーダガラス基板上に塗布し、80℃で20分乾燥し、その後、約30℃/分のレートにて約30分かけて昇温、550℃にて約20分間維持、約2℃/分のレートで約5時間かけて降温するプロファイルによって熱処理を実施した。
【0090】
第1誘電体層の形成に際しては、ポリアルキルシロキサンとアモルファスシリカ粒子の比率や第1誘電体層厚さなどを変更して実施例1〜4のような応力および密着度になるように調合した(表2参照のこと)。
【0091】
応力に関しては電極等の寄与を無視できるように以下のように評価を行った。まず、0.5mmのガラス板(ポアソン比0.24、ヤング率75GPa)上にペーストを塗布し乾燥し、日本ガイシ製、遠赤外線加熱式バッチ炉で、約30℃/分のレートにて約30分かけて昇温、550℃にて約20分間維持、約2℃/分のレートで約5時間かけて降温するプロファイルにより得られたサンプルについて、上述の式1に基づき応力を算出した(形状測定は三鷹光器製3次元形状測定機NH−3MAを用いた)。
【0092】
密着度に関しては、スクラッチ試験により評価した。具体的には、ソーダガラス基板上に誘電体原料を塗布して60℃〜150℃で乾燥し、550℃で熱処理したサンプルに対してRHESCA社製の薄膜スクラッチ試験機(型式:CSR−02A、測定条件:ステージ速度20μm/s、ステージ角度5deg、励振レベル80μm、ゲイン20、圧子曲率半径5μm、ばね定数81.35gf/mm)を用いて剥離荷重値(mN)を求めた。
【0093】
第2誘電体原料成分
ガラスフリット…SiO−B−ZnO−RO(R:LiO、NaO、KO)系ガラスフリット(平均粒子サイズ:2μm)
有機溶剤…ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート
バインダ樹脂…エチルセルロース

*各種成分の重量%比(第2誘電体原料の全重量基準)
ガラスフリット:有機溶剤:バインダ樹脂=60:35:5

*第2誘電体原料粘度:20Pa・s(25℃)

第2誘電体層の形成
第2誘電体原料をスクリーン印刷法でソーダガラス基板上に塗布し、110℃で20分乾燥し、その後、約30℃/分のレートにて約30分かけて昇温、550℃にて約20分間維持、約2℃/分のレートで約5時間かけて降温するプロファイルによって焼成を実施した。
【0094】
尚、比較例として以下の誘電体層も形成した。
・比較例1、2および4:第1誘電体のみで形成(即ち、第2誘電体を形成せず)
・比較例3:第1誘電体層の形成過程で発生する応力が50MPaよりも大きい条件
・比較例5:第2誘電体のガラスフリットとしてSiO−B−ZnO−Bi−RO(R:LiO、NaO、KO)系ガラスフリットを採用
【0095】
●[PDPの特性評価]
PDPの特性を評価するために、以下の評価項目について評価を行った。
【0096】
(評価指標)
・輝度評価:500時間点灯させ、10%以上の輝度劣化が確認されたものは不可(×)とした
・スパーク評価:点灯した際、クラック由来や膜剥れ由来のスパークが発生したものは不可(×)とした。なお異物や電極欠陥が引き起こしたスパークは無視した。
色目評価:色彩計(ミノルタ株;CR−300)を用いて非点灯時のb*値を評価し、b*値が10を超えるものを不可(×)とした。
【0097】
評価結果を表2に示す。
【表2】

【0098】
(結果)
比較例1:比較例1は応力が比較的大きく、かつ第2誘電体層を有していない条件である。応力が218.0MPaと50MPaよりも相当大きいため、第2誘電体層を有していない条件であっても、クラックが発生しスパークが発生した。さらに第2誘電体層を有していないため輝度劣化も生じた。
比較例2:比較例2は応力が64.0MPaとわずかに50MPaよりも大きく、かつ第2誘電体層を有していない条件である。第2誘電体層を有していないためクラック発生はなくスパーク評価は可であったものの、第2誘電体層を有していないため輝度劣化が生じた。
比較例3:比較例3は、比較例2と同じ64.0MPaと応力がわずかに大きい条件であるが、比較例2とは違って第2誘電体層を有する条件である。第2誘電体層を有するため蛍光体劣化は生じなかったものの、第2誘電体層を有するためクラックが発生し、スパークが発生した。
比較例4:比較例4は、応力が14.8MPaと比較的小さく、かつ第2誘電体層を有していない条件である。密着度の低下より一部、微小なクラックが発生しスパークが発生した。実施例4でも同様の微小なクラックを確認したものの、第2誘電体層を有するためにスパークを防ぐことができた。また、比較例4では第2誘電体層を有していないため輝度劣化が生じた。
比較例5:比較例5は、応力が31.5MPaと比較的小さく、かつ第2誘電体層を有する条件である。そのため輝度劣化やスパークは発生しなかったが、一方で第2誘電体層にBiを含むため、激しい着色が見られ、画像品質が大きく損なわれた。
比較例6:比較例6は、応力が非常に小さくて密着度も7.8mNと比較的小さく、かつ第2誘電体層を有する条件である。密着度が10mN未満と非常に小さいため、膜剥れや密着度の不足からクラックが発生しスパークが発生した。一方で第2誘電体層を有するために輝度劣化は確認されなかった。
実施例1〜4:実施例1〜4は、応力50MPa以下/密着度10.0mN以上でかつ第2誘電体層を有し、さらに第2誘電体層にBiを含まない条件のため、クラックや膜剥れによるスパークが発生せず、かつ、輝度劣化が見られず、さらには着色も見られなかった。
【0099】
以上の結果を参照すると、本発明では、前面板側誘電体層の“輝度劣化”および“クラック発生”が抑制された高品質・高効率なPDPを得ることができることを理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の製造方法によって得られるPDPは、輝度劣化および誘電体層クラックの防止が図られた信頼性の高いものであるので、一般家庭向けテレビジョンおよび商業用のディスプレイとして好適に用いることができる他、その他の表示デバイスにも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 前面板
2 背面板
10 前面板側の基板
11 前面板側の電極(表示電極)
12 走査電極
12a 透明電極
12b バス電極
13 維持電極
13a 透明電極
13b バス電極
14 ブラックストライプ(遮光層)
15 前面板側の誘電体層
15a 第1誘電体層
15b 第2誘電体層
16 保護層
20 背面板側の基板
21 背面板側の電極(アドレス電極)
22 背面板側の誘電体層
23 隔壁
25 蛍光体層
30 放電空間
32 放電セル
100 PDP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板を有して成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前面板の誘電体層の形成が、
(i)ガラス成分、シリカ粒子および有機溶剤を含んで成る第1誘電体原料を、電極が形成された基板上に供して乾燥および熱処理に付し、それによって、第1誘電体層を形成する工程、ならびに
(ii)ガラスフリット、有機溶剤およびバインダ樹脂を含んで成る第2誘電体原料を第1誘電体層上に供して乾燥および熱処理に付し、それによって、第2誘電体層を形成する工程
を含んで成り、
前記工程(i)で用いる第1誘電体原料のガラス成分は、ゾルゲル法の実施過程で形成されるポリシロキサンを含んで成り、また
前記工程(ii)の熱処理に際しては第2誘電体原料中のガラスフリットを溶融させる、ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記工程(i)の熱処理を550℃で実施した際に第1誘電体原料中にて発生する応力が50MPa以下となり、かつ、前記工程(i)の熱処理を550℃で実施して得られる第1誘電体層の基板に対する密着度が10mN以上となるような第1誘電体原料を用いることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(i)の熱処理を、前記工程(ii)で行う熱処理よりも高い温度で実施することを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、基板上に電極と誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、
前面板の誘電体層が、基板に接する第1誘電体層と該第1誘電体層上に形成された第2誘電体層とから構成されており、また
第1誘電体層は、その形成過程で発生し得る応力が50MPa以下となっているものであり、かつ、基板に対する密着度が10mN以上となっていることを特徴とする、プラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−108468(P2011−108468A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261474(P2009−261474)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】