説明

プラズマディスプレイパネル及びその製造方法

【課題】誘電体層のクラックの発生を抑制するとともに、歩留まりを向上させることができるプラズマディスプレイパネル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】前面板の誘電体層を、第1誘電体層と第2誘電体層とを積層した2層構造とし、第1誘電体層は、ガラスフリットを含有した誘電体ペーストを、前面基板上にストライプ状に形成された表示電極を覆うように印刷又は塗布した後、乾燥し、ガラスフリットの軟化点以上の温度で焼成することにより形成し、第2誘電体層は、第1誘電体層上にゾルゲル法により形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネル及びその製造方法に関し、より詳しくは当該プラズマディスプレイパネルが有する前面板の誘電体層の構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)は、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、例えば65インチ以上の大型サイズのテレビジョンなどに用いられている。近年、PDPは、従来から知られているNTSC方式に比べて2倍以上の走査線を有するハイディフィニションテレビへの適用が進んでいるとともに、さらなる低消費電力化が求められている。
【0003】
PDPは、基本構成として、前面板と背面板とを備えている。前面板は、通常、前面基板と、当該前面基板の一面上にストライプ状に形成された表示電極と、当該表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、当該誘電体層上に形成された誘電体保護層とで構成されている。一方、背面板は、背面基板と、当該背面基板の一面上にストライプ状に形成されたアドレス電極と、当該アドレス電極を覆う下地誘電体層とを備えている。下地誘電体層上には、複数の隔壁がストライプ上に形成されている。これらの隔壁は、アドレス電極に平行で、且つ、背面板の厚み方向から見たとき、互いに隣り合う隔壁間にアドレス電極が位置するように配置されている。互いに隣り合う隔壁の側面と下地誘電体層とで形成される溝部には、赤色、緑色、又は青色に発光する蛍光体層が順次形成されている。
【0004】
PDPは、前面板と背面板とがその電極(表示電極又はアドレス電極)形成側の面を対向配置され、その外周部をシール部材によって封着された密閉構造になっている。この密閉構造により形成された密閉空間には、ネオン(Ne)及びキセノン(Xe)などの放電ガスが53,000Pa〜80,000Paの圧力で封入されて放電空間が形成されている。PDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電空間にガス放電を発生させ、そのガス放電によって発生した紫外線により各色の蛍光体層が励起して可視光を発光することで、カラー画像を表示することができる。
【0005】
前記のように構成されるPDPにおいて、前面板の誘電体層は、一般に、数μmのガラスフリットを含有した誘電体ペーストを、表示電極を覆うように前面基板の一面上に印刷又は塗布した後、乾燥し、ガラスフリットの軟化点以上の温度で焼成することにより形成されている。以下、このような誘電体層の形成方法を焼成法という。
【0006】
一方、PDPの低消費電力化には、前面板の誘電体層の誘電率を低くすることが有効であることが知られている。しかしながら、前記焼成法では、ガラスフリットを低温で溶融させる必要があるため、低融点ガラス材料を使用する必要がある。この低融点ガラス材料は、純度が低く、比誘電率が10以上と高い。このため、結果として誘電体層の誘電率は高くなってしまう。
【0007】
誘電体層を低誘電率化する方法として、ゾルゲル法にて誘電体層を形成する方法がある。この方法においては、溶媒中の金属アルコキシドを加水分解してシリコン化合物を得た後、加熱処理して縮重合反応させることによって、酸化ケイ素を主成分とする誘電体層を形成する。この方法によれば、ガラスフリットを溶融させる必要がないので、低温で誘電体層を形成することができ、製造コストの観点からも効果的である。
【0008】
また、誘電体層を低誘電率化する別の方法として、特許文献1(特開2008−27862号公報)に開示されたものがある。特許文献1には、前面板の誘電体層を、微粒子層と絶縁層との2層構造で構成したものが開示されている。
【特許文献1】特開2008−27862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記ゾルゲル法による誘電体層の形成方法においては、前記焼成法による誘電体層の形成方法では影響が無かった大きさの異物や表示電極などの凹凸に起因して誘電体層にクラックが発生する恐れがある。誘電体層にクラックがある状態で表示電極に電圧を印加した場合には、スパークなどの不良が発生する恐れがある。
【0010】
また、特許文献1において、前記微粒子層は、シリカ微粒子を集結した構造を有している。すなわち、前記微粒子層は、シリカ微粒子間に空隙を有する多孔質な層である。このため、密着性及び強度が弱く、前記微粒子層上に前記絶縁層を形成する際に当該絶縁層の応力により剥離しやすい。すなわち、特許文献1の構造では、歩留まりが悪いという課題がある。また、前記空隙の分布を均一に確保することが困難であり、PDPに輝度ムラが生じるという課題もある。
【0011】
従って、本発明の目的は、前記問題を解決することにあって、誘電体層のクラックの発生を抑制するとともに、歩留まりを向上させることができるプラズマディスプレイパネル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、互いの間に放電空間が形成されるように対向配置した前面板と背面板との間の空間を、その空間の周辺部の非画像表示領域に配置した封着用シール部材により封着したプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記前面板の製造工程には、
ガラスフリットを含有した誘電体ペーストを、前面基板上にストライプ状に形成された表示電極を覆うように印刷又は塗布した後、乾燥し、前記ガラスフリットの軟化点以上の温度で焼成することにより第1誘電体層を形成し、
前記第1誘電体層上にゾルゲル法により第2誘電体層を形成する、
ことが含まれる、プラズマディスプレイパネルの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の第2態様によれば、前記第2誘電体層は、平面視において前記第1誘電体層の縁部が露出するように前記第1誘電体層上に形成され、
前記封着用シール部材は、前記第2誘電体層と接触せずに前記第1誘電体層の縁部と接触するように形成される、
第1態様に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第3態様によれば、互いの間に放電空間が形成されるように対向配置した前面板と背面板との間の空間を、その空間の周辺部の非画像表示領域に配置した封着用シール部材により封着したプラズマディスプレイパネルであって、
前記前面板は、
前面基板上にストライプ状に形成された表示電極を覆うように形成され、軟化点が400℃以上600℃以下の低融点ガラスを含む第1誘電体層と、
前記第1誘電体層上に形成され、シロキサン骨格の構造を有する第2誘電体層と、
を備える、プラズマディスプレイパネルを提供する。
【0015】
本発明の第4態様によれば、前記第2誘電体層は、平面視において前記第1誘電体層の縁部が露出するように前記第1誘電体層上に形成され、
前記封着用シール部材は、前記第2誘電体層と接触せずに前記第1誘電体層の縁部と接触するように形成されている、第3態様に記載のプラズマディスプレイパネルを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるプラズマディスプレイパネルの製造方法によれば、第1誘電体層をいわゆる焼成法により形成し、第2誘電体層をゾルゲル法により形成するようにしているので、第1誘電体層により、異物や表示電極などの凹凸に起因する誘電体層のクラックの発生を抑制することができる。一方、第2誘電体層により、誘電体層全体の低誘電率化を実現することができる。また、第2誘電体層は、特許文献1の構造のような多孔質な層ではないので、密着性及び強度の低下やPDPの輝度ムラを懸念する必要がない。さらに、ガラスフリットを含有する材料を用いて焼成法により第1誘電体層を形成する場合、ガラスフリットは溶融されるが、その形状の名残により、第1誘電体層の表面には凹凸が形成されることとなる。この第1誘電体層の表面の凹凸は第2誘電体層の形成の際にアンカー効果をもたらすこととなり、第1誘電体層と第2誘電体層との密着力が向上すると推測される。従って、本発明にかかるプラズマディスプレイパネルの製造方法によれば、剥離不良などを抑えて、歩留まりを向上させることができる。
【0017】
また、本発明にかかるプラズマディスプレイパネルによれば、誘電体層を、軟化点が400℃以上600℃以下の低融点ガラスを含む第1誘電体層と、シロキサン骨格の構造を有する第2誘電体層との2層構造で構成している。すなわち、本発明にかかるプラズマディスプレイパネルにおいては、第1誘電体層が焼成法により形成され、第2誘電体層がゾルゲル法により形成されているので、前記したように誘電体層のクラックの発生を抑制するとともに、歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施の形態にについて、図面を参照しながら説明する。
【0019】
《実施形態》
図1を用いて、本発明の実施形態にかかるPDPの基本構成について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかるPDPの基本構造を模式的に示す斜視図である。本実施形態にかかるPDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。
【0020】
図1において、本実施形態にかかるPDP100は、前面板1と、当該前面板1に対向配置された背面板2とを備えている。前面板1と背面板2との間の外周部には、封着用ガラスフリットなどで形成される封着用シール部材17(図3参照)が配置されている。当該シール部材17によって、PDP100が気密封着され、PDP100の内部に放電空間30が形成されている。放電空間30には、例えばネオン(Ne)、キセノン(Xe)などの放電ガスが53,000Pa〜80,000Paの圧力で封入されている。
【0021】
前面板1は、ガラス等で構成された前面基板10を備えている。前面基板10の一面上には、走査電極12と維持電極13とで構成される一対の帯状の表示電極11と、ブラックストライプ(遮光層とも言う)14とが、互いに平行に複数配列されている。また、前面基板10の一面上には、それぞれの表示電極11と遮光層14とを覆うように誘電体層15が形成されている。このように形成されることにより、誘電体層15はコンデンサとしての働きをする。誘電体層15上には、電極保護のため、誘電体層15を覆うように誘電体保護層16が形成されている。
【0022】
背面板2は、ガラス等で構成された背面基板10を備えている。背面基板20の一面上には、複数の帯状のアドレス電極21が、それぞれ表示電極11と直交するとともに、互いに平行に配置されている。また、背面基板20の一面上には、それぞれのアドレス電極21を覆うように下地誘電体層22が配置されている。下地誘電体層22上には、放電空間30をアドレス電極21毎に区画するように、アドレス電極21の延在方向と平行に所定の高さを有する複数の隔壁23が配列されている。互いに隣り合う隔壁23,23の側面と下地誘電体層22とで形成される溝部24には、紫外線により赤色、青色、又は緑色にそれぞれ発光する蛍光体層25が順次形成されている。
【0023】
前記構成により、表示電極11とアドレス電極21とが交差する交差部には、それぞれ放電セル31が形成される。すなわち、放電セル31は、マトリクス状に配列されている。これらの放電セル31がPDP100の画像表示領域となり、表示電極11の延在方向に並ぶ赤色、青色、又は緑色の蛍光体層25を有する3個の放電セル31が、カラー表示のための画素となる。
【0024】
例えばPDP100の外部に設置された外部駆動回路から、走査電極12−アドレス電極21間、及び走査電極12−維持電極13間に各種駆動信号が順次印加されると、各放電セル31内にガス放電が発生し、そのガス放電により紫外線が発生する。PDP100は、このようにして各放電セル31内に発生した紫外線が、各放電セル31に対応する蛍光体層25を励起して可視光を発光させることにより、カラー表示することができる。
【0025】
次に、図2及び図3を用いて、前面板1の構成をさらに詳しく説明する。図2は、前面板1の基本構成を示す断面図である。なお、図2においては、前面板1の配置を、図1とは上下逆に示している。図3は、前面板1において、誘電体層15の縁部の周囲を覆うようにシール部材17を配置した状態を示す平面図である。
【0026】
図2において、前面基板10は、例えばフロート法による硼硅酸ナトリウム系ガラスなどのガラス部材で構成されている。前面基板10上には、走査電極12と維持電極13とで構成される表示電極11と、ブラックストライプ14とがパターン形成されている。走査電極12と維持電極13とは、それぞれ、透明電極12a,13aと、当該透明電極12a,13a上に形成された金属バス電極12b,13bとにより構成されている。透明電極12a,13aは、それぞれ酸化インジウムスズ(ITO)や酸化スズ(SnO)などから構成されている。金属バス電極12b,13bは、透明電極12a,13aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられ、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。また、金属バス電極12b,13bは、黒色電極121b,131bと白色電極121b,131bとで構成されている。なお、前記では、走査電極12と維持電極13とは、透明電極12a,13aと金属バス電極12b,13bとにより構成されるものとしたが、透明電極12a,13aは必ずしも必要ではなく、金属バス電極12b,13bのみで構成されてもよい。
【0027】
また、前面基板10上には、透明電極12a,13aと金属バス電極12b,13bとブラックストライプ14とをそれぞれ覆うように誘電体層15が設けられている。誘電体層15は、前面基板10側に配置される第1誘電体層15aと、第1誘電体層15a上に配置される第2誘電体層15bとを積層した2層構造で構成されている。第1誘電体層15aは、後で詳しく説明するように焼成法により形成され、軟化点が400℃以上600℃以下の低融点ガラスを有している。第2誘電体層15bは、後で詳しく説明するようにゾルゲル法により形成され、アルキル基が珪素に結合されたシロキサン骨格の構造を有している。第1誘電体層15aと第2誘電体層15bとは共に、画像表示領域の全域にわたって配置され、それらの縁部は、非画像表示領域に位置している。
【0028】
第2誘電体層15b上には、誘電体保護層16が形成されている。誘電体保護層16は、例えば酸化マグネシウム(MgO)などから形成されている。
【0029】
前記のように構成される前面板1が背面板2と接合されるとき、図3に示すように、誘電体層15の縁部の周囲で且つ非画像表示領域にシール部材17が配置される。なお、第1誘電体層15aと第2誘電体層15aとシール部材17との好ましい位置関係は、後で詳しく説明する。
【0030】
次に、PDP100の製造方法について、図1〜図3を参照しつつ、具体例を挙げながら説明する。
まず、前面板1の製造方法について説明する。
【0031】
まず、前面基板10上に、走査電極12及び維持電極13で構成される帯状の表示電極11とブラックストライプ14とを形成する。
より具体的には、図2に示すように、前面基板10上に、透明電極12a,13aとブラックストライプ14とを形成する。その後、透明電極12a,13aの一部上に金属バス電極12b,13bを形成する。これにより、走査電極12及び維持電極13で構成される表示電極11とブラックストライプ14とが形成される。
【0032】
透明電極12a,13aと金属バス電極12b,13bとは、フォトリソグラフィ法などによってパターニングすることにより形成される。透明電極12a,13aは、薄膜プロセスなどによって形成された膜を、フォトリソグラフィ法によってパターニングして形成される。金属バス電極12b,13b及びブラックストライプ14は、導電性粒子や黒色顔料を含むペーストで構成される膜を、フォトリソグラフィ法によってパターニングして、所望の温度で焼成されて固化することにより形成される。
【0033】
具体的な金属バス電極12b,13b及びブラックストライプ14の形成手順は、以下に示す手順が一般的である。
あらかじめ透明電極12a,13aが形成された前面基板10上に黒色顔料等を含んだペーストを、スクリーン印刷法などによって印刷し乾燥させる。その後、乾燥したペーストをフォトリソグラフィ法によってパターンニングして、ブラックストライプ14を形成する。次に、その上に黒色顔料及び導電性粒子等を含んだ黒色電極となり得るペーストを、同様にスクリーン印刷法によって印刷、乾燥する。さらにその上に、導電性粒子等(例えば銀(Ag)や白金(Pt))を含んだ白色電極となり得るペーストを、スクリーン印刷法などによって印刷、乾燥する。続いて、フォトリソグラフィ法によってパターニングすることで、黒色電極121b,131bと白色電極121a,131aとで構成される金属バス電極12b,13bを形成する。ここで、黒色電極121b,131bを下層(前面基板10側)に形成し、白色電極121a,131aを上層に形成したのは、画像表示時のコントラストを向上させる目的のためである。
【0034】
なお、ブラックストライプ14は、金属バス電極12b,13bの黒色電極121b,131bと同一材料で形成しても構わない。ただし、この場合には、ブラックストライプ14が導電性材料を含有することになるため、画像表示時の誤放電等の発生を考慮する必要がある。
【0035】
次いで、表示電極11とブラックストライプ14とを覆うように前面基板1上に第1誘電体層15aを焼成法により形成する。
より具体的には、ガラスフリットやバインダを含んだ第1誘電体層15aとなり得る誘電体ペーストを、例えばスリットダイから塗料や溶液を吐出して塗布するダイコート法などによって前面基板10上に塗布し、所定の時間放置する。これにより、塗布された誘電体ペーストの表面がレベリングされて平坦な表面になる。その後、誘電体ペースト層を乾燥及び焼成して固化させることにより、第1誘電体層15aが形成される。
【0036】
なお、前記第1誘電体ペーストの塗布工程を複数回繰り返すことにより、所望の膜厚の第1誘電体層15aを形成することが可能である。
【0037】
次に、第1誘電体層15a上にゾルゲル法により第2誘電体層15bを形成する。
より具体的には、第2誘電体層15bとなり得るゾルをアルコールなどの溶剤で希釈し、第1誘電体層15a上にダイコート法などによって塗布する。その後、塗布されたゾルを所定の時間放置する。これにより、塗布されたゾルの表面がレベリングされて平坦な表面になり、加水分解及び重縮合反応によりゾルが固形化してゲルを形成する。その後、当該ゲルを加熱することにより、第2誘電体層15bが形成される。
【0038】
なお、前記ゾルとしては、例えば、アルキル基が珪素に結合されたシロキサン骨格の構造を有するゾルを用いることができる。また、前記ゾルの塗布及び乾燥工程を複数回繰り返すことにより、所望の膜厚の第2誘電体層15bを形成するが可能である。また、前記ゾルは、膜厚や粘度調整のために必要に応じてガラスフリットや溶媒を混合して使用してもよい。
【0039】
次に、第2誘電体層15b上に、誘電体保護層16を、例えば真空蒸着法により形成する。
以上の工程により、前面基板10上に所定の構成部材を有する前面板1が完成する。
【0040】
次に、背面板2の製造方法について説明する。
まず、背面基板20上に、銀(Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後、フォトリソグラフィ法によってパターニングする方法などにより、アドレス電極21用の構成物となる材料層を形成する。その後、当該材料層を所望の温度で焼成してアドレス電極21を形成する。
【0041】
次いで、アドレス電極21が形成された背面基板20上に、ダイコート法などによりアドレス電極21を覆うように下地誘電体ペーストを塗布して下地誘電体ペースト層を形成する。その後、下地誘電体ペースト層を焼成することにより下地誘電体層22を形成する。なお、下地誘電体ペーストはガラスフリットなどの誘電体材料とバインダ及び溶剤を含んだ塗料である。
【0042】
次いで、下地誘電体層22上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布し、所定の形状にパターニングすることにより、隔壁材料層を形成する。その後、当該隔壁材料層を焼成することにより隔壁23を形成する。なお、下地誘電体層22上に塗布した隔壁用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。
【0043】
次に、互いに隣接する隔壁23間の溝部24に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布して蛍光体ペースト層を形成する。その後、当該蛍光体ペースト層を焼成することにより蛍光体層25を形成する。
以上の工程により、背面基板20上に所定の構成部材を有する背面板2が完成する。
【0044】
前記のようにして所定の構成部材を有する前面板1と背面板2とを、走査電極12とアドレス電極21とが直交するように対向配置し、その周囲をシール部材17で封着する。これにより、放電空間30が形成される。その後、放電空間30にネオン(Ne)、キセノン(Xe)などを含む放電ガスを封入する。これにより、PDP100が完成する。
【0045】
次に、前面板1の金属バス電極12b,13bの形成方法について、具体例を挙げながらさらに詳細に説明する。
【0046】
まず、黒色電極121b,131bの材料として、次の材料組成のガラス材料を用意する。当該ガラス材料は、酸化ビスマス(Bi):15〜40重量%と、酸化珪素(SiO):3〜20重量%と、酸化硼素(B):10〜45重量%とを基本成分とし、軟化点及び電極の色などの調整のために遷移金属などの添加剤を含む。なお、ガラス材料の割合によって含有量が多い場合は、均一にガラス化しない可能性が考えられるため、状況に応じて含有量を調整することが効果的である。
【0047】
次いで、前記組成成分からなるガラス材料を、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕して電極ガラス粉末を作製する。次いで、当該電極ガラス粉末:15重量%〜30重量%と、バインダ成分:10重量%〜45重量%と、黒色顔料:5重量%〜15重量%とを三本ロールでよく混練してダイコート用又は印刷用の電極ペーストを作製する。
【0048】
ここで、前記バインダ成分は、アクリル樹脂:5重量%〜25重量%を含むエチレングリコールであり、5重量%以下の感光性開始剤を含有する。また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名:登録商標)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して印刷性を向上させてもよい。
【0049】
一方、白色電極121a,131aの材料として、次の材料組成のガラス材料を用意する。当該ガラス材料は、酸化ビスマス(Bi):15〜40重量%と、酸化珪素(SiO):3〜20重量%と、酸化硼素(B):10〜45重量%とを基本成分とし、導電性を確保する目的として、AgやPt、Auなどの遷移金属を導電材料として含有する。なお、ガラス材料の含有量が多い場合は、均一にガラス化しない可能性が考えられるため、状況に応じて含有量を調整することが効果的である。
【0050】
次いで、黒色電極121b,131bと同様に、これらの組成成分からなるガラス材料を、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕して電極ガラス粉末を作製する。次いで、この電極ガラス粉末:0.5重量%〜20重量%と、バインダ成分:1重量%〜20重量%と、AgやPtなどの導電性粒子:50重量%〜85重量%とを三本ロールでよく混練してダイコート用又は印刷用の電極ペーストを作製する。
【0051】
ここで、前記バインダ成分は、アクリル樹脂:1重量%〜20重量%を含むエチレングリコールであり、5重量%以下の感光性開始剤を含有する。また、前記電極ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名:登録商標)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して印刷性を向上させてもよい。
【0052】
次いで、前記のようにして作製した各電極ペーストを、前面基板10上にダイコート法又はスクリーン印刷法によって印刷し乾燥させる。その後、露光用マスクを用いて所定の面積に50〜500mj/cmの光量で露光する。その後、0.1〜10重量%のアルカリ溶液などのアルカリ溶液で現像することにより、金属バス電極12b,13bの形状をパターニングする。これにより、金属バス電極12b,13bが形成される。
【0053】
なお、上述したようにブラックストライプ14を黒色電極121b,131bと同一材料で形成する場合には、ブラックストライプ14も同様にパターニングをすることが可能である。
【0054】
次に、前面板1の誘電体層15を構成する第1誘電体層15aと第2誘電体層15bの形成方法について、具体例を挙げながらさらに詳細に説明する。
【0055】
まず、第1誘電体層15aの材料として、次の材料組成の誘電体材料を用意する。ここで、誘電体材料は、軟化点が400℃以上600℃以下の低融点ガラス材料である。
前記誘電体材料は、酸化ビスマス(Bi):5重量%〜40重量%と、酸化カルシウム(CaO):0.5重量%〜15重量%とを含んでいる。また、前記誘電体材料は、さらに、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マンガン(MnO)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%含んでいる。また、前記誘電体材料は、さらに、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種を0.5重量%〜12重量%含んでいる。
【0056】
なお、前記誘電体材料は、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マンガン(MnO)に代えて、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr)、酸化コバルト(Co)、酸化バナジウム(V)、酸化アンチモン(Sb)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%含んでいてもよい。
【0057】
また、前記誘電体材料は、前記以外の成分として、酸化亜鉛(ZnO):0重量%〜40重量%、酸化硼素(B):0重量%〜35重量%、酸化珪素(SiO):0重量%〜15重量%、酸化アルミニウム(Al):0重量%〜10重量%などが含まれていてもよい。これらの材料の含有量は、特に限定されるものではない。また、前記誘電体材料は、鉛成分を含まなくてもよい。
【0058】
次いで、前記材料組成を有する誘電体材料を、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕して誘電体材料粉末を作製する。次いで、当該誘電体材料粉末:55重量%〜70重量%と、バインダ成分:30重量%〜45重量%とを三本ロールでよく混練してダイコート用又は印刷用の誘電体ペーストを作製する。
【0059】
ここで、前記バインダ成分は、エチルセルロース、アクリル樹脂:1重量%〜20重量%を含むターピネオール、又はブチルカルビトールアセテートである。また、前記誘電体ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名:登録商標)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して印刷性を向上させてもよい。
【0060】
次いで、前記のようにして作製した誘電体ペーストを、表示電極11とブラックストライプ14とを覆うように前面基板10上にダイコート法又はスクリーン印刷法によって塗布又は印刷する。その後、塗布又は印刷した誘電体ペーストを60〜200℃で乾燥させる。その後、乾燥した誘電体ペーストを、前記誘電体材料の軟化温度(400℃〜600℃)以上の温度で焼成する。これにより、第1誘電体層15aが形成される。
【0061】
次に、第2誘電体層15bの材料として、シリコン系のアルコキシドからなるコロイド溶液であるゾルを水やアルコールなどの溶媒により希釈したゾル含有溶液を用意する。
【0062】
なお、乾燥後膜厚/塗布後膜厚で表される収縮率は、ゾル含有溶液中におけるアルコキシドの濃度によって決まる。すなわち、アルコキシドの濃度を調整することによって、第2誘電体層15bの膜厚を制御することが可能である。このアルコキシドの濃度の調整は、希釈する溶媒の量を調整することにより行うことができる。なお、アルコキシドの濃度が低過ぎると、ゾル含有溶液の粘度が低下する。このため、第2誘電体層15bの膜厚の制御が困難になる。一方、アルコキシドの濃度が高過ぎると、アルコキシド自体が縮合反応しやすくなる。このため、例えば、ゾル含有溶液を塗布装置の溶液タンク内に入れた場合には、当該塗布装置の溶液タンク内でアルコキシドの縮合反応が進行する恐れがあり、第2誘電体層15bの膜厚の制御が困難になる。
【0063】
また、前記ゾル含有溶液に酸化珪素(SiO)などの微粒子を添加することで、アルコキシドの縮合反応による収縮を抑えて応力緩和及び第2誘電体層15bの厚膜化を実現することができる。添加する微粒子は、体積比率5%〜80%程度であることが望ましい。微粒子の体積比率が5%未満の場合、応力を緩和する効果が小さく、微粒子の体積比率が80%より大きい場合、誘電体層としての透過率が低下するためである。また、微粒子の平均粒子径は、10nm〜100nmであることが望ましい。微粒子の平均粒子径が10nm未満の場合、微粒子同士が凝集しやすく、微粒子の平均粒子径が100nmより大きい場合、微粒子の沈降速度が速くなり、誘電体層としての安定した品質が得られない恐れがある。
【0064】
また、前記アルコキシドとして、膜厚や光学特性等の調整のために側鎖として脂肪族基や芳香族基などのアルキル基を組合せた材料を用いることも可能である。
【0065】
次いで、前記のようにして作製したゾル溶液を、表示電極11及びブラックストライプ14を覆うように前面基板10上に、ダイコート法などによって塗布する。その後、塗布したゾル含有溶液を所定の時間(例えば、室温の場合は1〜10分程度)放置する。これにより、塗布したゾル溶液の表面がレベリングされて平坦な表面になる。その後、50〜300℃の温度で所定の時間、加熱乾燥することにより、加水分解及び縮合反応によりゾルが固形化してゲルを形成する。その後、300〜600℃で所定の時間、当該ゲルを加熱することにより、第2誘電体層15bが形成される。
【0066】
なお、前記ゾル含有溶液を10〜300μm程度の膜厚で塗布した場合には、0.1〜30μm程度の膜厚の第2誘電体層15bが形成される。従って、第2誘電体層15bとしてさらに厚い膜厚が必要な場合には、前記塗布工程を複数回繰り返すことによって、所望の膜厚の第2誘電体層15bを形成することができる。
【0067】
なお、誘電体層15の膜厚が薄いほど、PDPの輝度の向上と消費電力の低減効果は顕著になる。このため、誘電体層15の膜厚は、絶縁耐圧が低下しない範囲内であれば、できる限り薄く設定するのが望ましい。例えば、誘電体層15の膜厚は、50μm以下に設定することが望ましい。また、第1誘電体層15aは5μm〜30μmに設定することが望ましく、第2誘電体層15bは5μm〜30μmに設定することが望ましい。
【0068】
次に、第1誘電体層15aと第2誘電体層15bとシール部材17との好ましい位置関係について述べる。
【0069】
通常、誘電体層は、誤放電を防ぐため、シール部材で囲まれた部分に位置する表示電極を完全に覆うように配置される。また、前面基板とシール部材との接着強度を確保するため、シール部材は、互いに隣接する表示電極間にも充填され、前面基板と直接接触するように配置される。このため、通常、シール部材と誘電体層とは、互いに接触するように配置される。
【0070】
しかしながら、誘電体層をゾルゲル法により形成する場合には、シール部材と誘電体層との接触面で気泡が発生し、リーク不良が発生する場合がある。これは、シール部材の形成工程において、シール部材となる封止用ガラスフリットを加熱して溶融させる際に、ゾル含有溶液に含まれるアルコキシドの側鎖であるアルキル基が加熱分解して、微量なガスが発生するためと推測される。
【0071】
前記リーク不良は、ゾル含有溶液とシール部材の材料選定を適切に行うことによって抑えることが可能である。しかしながら、誘電体層の膜厚や光学特性、強度などの観点から、アルコキシドの側鎖であるアルキル基を調整する可能性があるため、材料選定以外でリーク不良を解決する方法が求められる。
【0072】
本実施形態にかかるPDP100おいては、第1誘電体層15aと第2誘電体層15bとシール部材17との位置関係を最適化することで、前記リーク不良を解決するようにしている。
【0073】
図4Aは、本発明の実施形態にかかるPDPにおけるシール部材の周辺の構造を示す拡大断面図であり、図4Bは、第1比較例にかかるPDPにおけるシール部材の周辺の構造を示す拡大断面図であり、図4Cは、第2比較例にかかるPDPにおけるシール部材の周辺の構造を示す拡大断面図である。なお、図4A〜図4Cにおいては、前面板1と背面板2の配置を、図1とは上下逆に示している。また、図4A〜図4Cにおいては、誘電体保護層16を省略している。
【0074】
本実施形態にかかるPDP100においては、図4Aに示すように、第1誘電体層15aの縁部が露出するように第2誘電体層15bを形成し、シール部材17が第2誘電体層15bと接触せずに第1誘電体層15aの縁部と接触するようにシール部材17を形成している。第1比較例にかかるPDPにおいては、図4Bに示すように、第1誘電体層15aの縁部が露出するように第2誘電体層15bを形成し、シール部材17が第1及び第2誘電体層15a,15bの両方と接触するようシール部材17を形成している。第2比較例にかかるPDPにおいては、図4Cに示すように、第1誘電体層15aを覆うように第2誘電体層15bを形成し、シール部材17が第1誘電体層15aと接触せずに第2誘電体層15bと接触するようにシール部材17を形成している。
【0075】
次に、本実施形態にかかるPDP、第1比較例にかかるPDP、及び第2比較例にかかるPDPのいずれかの構造を有し、第2誘電体層の形成に使用するゾル含有溶液中のシリコン系アルコキシドと、シール部材の形成に使用する封着用ガラスフリットのガラス成分とを変更したサンプルI〜XIIを作製し、前記気泡の有無を確認した。その結果を下記表1に示す。なお、ここでは、シリコン系アルコキシドが異なるゾル含有溶液をS1,S2の2種類使用し、ガラス成分が異なる封着用ガラスフリットをG1,G2の2種類使用した。
【0076】
【表1】

【0077】
表1に示すように、図4B及び図4Cに示す構造を有する第1及び第2比較例のPDPでは、ゾル含有溶液S2及び封着用ガラスフリットG1を使用したサンプルIII,VII以外は、シール部材と誘電体層との接触面に気泡が確認された。一方、図4Aに示す構造を有する本実施形態のPDPでは、全てのサンプルIV〜XIIにおいてシール部材と誘電体層との接触面に気泡が確認されなかった。すなわち、図4Aに示す構造を有する本実施形態のPDPでは、ゾル含有溶液及び封着用ガラスフリットに気泡が発生し得る材料を使用したとしても、気泡の発生が抑えられた。従って、第1誘電体層15aと第2誘電体層15bとシール部材17とを図4Aに示すように配置することで、リーク不良を解決できることが確認された。
【0078】
なお、ゾル含有溶液としては、通常、数Pa・s〜10数Pa・s程度の比較的低粘度のものが使用される。この場合、塗布したゾル含有溶液の流れ方により、誘電体層の端部の膜厚が不均一になる恐れがある。誘電体層の端部の膜厚が不均一であると、シール部材のつぶれ方も不均一となって、前面板と背面板との間隔にバラツキが生じる恐れがある。これに対して、本実施形態にかかるPDP100によれば、ゾルゲル法により形成する第2誘電体層15bは、シール部材17と接触しないので、シール部材17のつぶれ方に悪影響を及ぼすことはない。従って、前面板1と背面板2との間隔にバラツキが生じることも抑えることができる。
【0079】
次に、本実施形態にかかるPDP100のクラック抑制効果及び消費電力抑制効果を確認するために行った評価結果について述べる。
ここでは、第1及び第2誘電体層の形成方法が異なる3つのサンプルを下記のように作成した。
【0080】
第1サンプル:第1誘電体層を焼成法によって11〜12μmの膜厚に形成し、第2誘電体層を焼成法によって27〜28μmの膜厚に形成。
第2サンプル(本実施形態の構造):第1誘電体層を焼成法によって11〜12μmの膜厚に形成し、第2誘電体層をゾルゲル法によって8〜12μmの膜厚に形成。
第3サンプル:第1誘電体層をゾルゲル法によって11〜12μmの膜厚に形成。第2誘電体層は形成せず。
【0081】
なお、ここでは、ゾルゲル法に用いるゾル含有溶液として、側鎖にメチル基を有したアルコキシドをアルコール系の溶剤で希釈し、その中に30〜80nmの酸化珪素粒子を体積比50〜70%含有させ、均一に分散させたものを用いた。
また、放電セルのサイズは480μm×480μmとし、バス電極の幅は70〜90μmとし、バス電極の膜厚は4〜6μmとした。
【0082】
下記表2に、前記各サンプルの誘電率、膜厚、クラックの発生率(作製した全パネル枚数に対するクラックが発生したパネル枚数の割合)、及び無効電力(第1サンプルでの無効電力を100%としたときの比率)を示す。
【0083】
【表2】

【0084】
なお、表2において、誘電率は、次のようにして求めた。
まず、ガラスフリット含有材料を用いてITO(酸化インジウムスズ)付ガラス基板上に所定の膜厚となるように焼成法によって誘電体層を形成した後、その誘電体層上に蒸着法によって所定面積に薄膜電極を形成する。また、ゾル含有溶液を用いてITO付ガラス基板上に所定の膜厚となるようにゾルゲル法によって誘電体層を形成した後、その誘電体層上に蒸着法によって薄膜電極を形成する。
次いで、ITOと薄膜電極間、つまり誘電体層の厚み方向の静電容量をLCRメータ(Hewlett Packard製)を用いて測定する。
次いで、以下の計算方法で誘電率を算出する。
【0085】
ε=C・d/(ε0・S)
ε:誘電体の誘電率 C:測定した静電容量 d:誘電体層の膜厚
ε0:真空の誘電率 S:電極面積
【0086】
また、第1及び第2誘電体層15a,15bの膜厚の測定は、完成した前面板1の第1及び第2誘電体層15a,15bの一部を削り取り、これにより生じた第1及び第2誘電体層15a,15bと前面基板10との段差を、接触式段差計(TENCOR製)を用いて測定することにより行った。
【0087】
まず、クラックについて説明する。
表2から分かるように、ゾルゲル法のみで誘電体層を形成した第3サンプルにおいては、クラック発生率が約90%と非常に高い。また、クラックは誘電体層の全体に発生していた。これは、ゾルゲル法のみで誘電体層を形成した場合には誘電体層の膜厚が薄くなるために、微小な異物に起因してクラックが高確率で発生したものと考えられる。このクラックを抑制するには、微小な異物が混入しないようにより一層の生産環境のクリーン化や使用する材料の耐クラック性能の向上を図ることが有効であると考えられる。しかしながら、この場合、製造コストや材料コストが増加することが懸念される。
【0088】
これに対して、焼成法のみで誘電体層を形成した第1サンプルと、焼成法により第1誘電体層を形成しゾルゲル法により第2誘電体層を形成した本実施形態の誘電体構造を有する第2サンプルにおいては、クラック発生率が1%以下と、ほぼゼロと言える結果が得られた。また、クラックが発生した箇所もごく一部分のみであった。
【0089】
次に、消費電力について説明する。
通常、PDPの消費電力は、放電して点灯に要する放電電力と、電極間容量に応じて要する点灯に関与しない無効電力との和で表示される。ここでは、一般的な駆動回路を用い、通常点灯させる場合と同様な波形の電圧を前面板の表示電極のみに印加した場合(すなわち、PDPの全面を黒表示画面(点灯させない状態)にした場合)における電圧と電流の積を無効電力として求めた。
【0090】
表2から分かるように、焼成法のみで誘電体層を形成した第1サンプルの無効電力を100%とした場合、ゾルゲル法のみで誘電体層を形成した第3サンプルと、本実施形態の誘電体構造を有する第2サンプルの無効電力は、50%〜70%であった。すなわち、第2サンプルと第3サンプルでは、第1サンプルと比べて、無効電力を30〜50%低減できることが分かる。
【0091】
以上の結果から、本実施形態の誘電体構造を採用することで、誘電体層のクラックの発生を抑制するとともに、無効電力を低減して消費電力を低減することができることが分かる。また、第2誘電体層は、特許文献1の誘電体構造のような多孔質な層ではないので、密着性及び強度の低下やPDPの輝度ムラを懸念する必要がない。
【0092】
一方、本実施形態のように、焼成法により第1誘電体層を形成し、ゾルゲル法により第2誘電体層を形成することで、第1誘電体層と第2誘電体層との密着性が向上する効果も期待できる。すなわち、ガラスフリット含有材料を用いて焼成法により第1誘電体層を形成する場合、ガラスフリットは溶融されるが、その形状の名残により、第1誘電体層の表面には凹凸が形成される。この第1誘電体層の表面の凹凸が、第2誘電体層の形成の際にアンカー効果をもたらし、第1誘電体層と第2誘電体層との密着力が向上すると推測される。従って、本実施形態の誘電体構造を採用することで、歩留まりの向上を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明にかかるプラズマディスプレイパネル及びその製造方法は、誘電体層のクラックの発生を抑制するとともに、歩留まりを向上させることができるので、低消費電力化が求められるプラズマディスプレイパネル及びその製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施形態にかかるPDPの基本構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるPDPが備える前面板の基本構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるPDPが備える前面板において、誘電体層の縁部の周囲にシール部材を配置した状態を示す平面図である。
【図4A】本発明の実施形態にかかるPDPにおけるシール部材の周辺の構造を示す拡大断面図である。
【図4B】第1比較例にかかるPDPにおけるシール部材の周辺の構造を示す拡大断面図である。
【図4C】第2比較例にかかるPDPにおけるシール部材の周辺の構造を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0095】
1 前面板
2 背面板
10 前面基板
11 表示電極
12 維持電極
13 走査電極
12a,13a 透明電極
12b,13b バス電極
14 ブラックストライプ(遮光層)
15 誘電体層
15a 第1誘電体層
15b 第2誘電体層
16 誘電体保護層
17 シール部材
20 背面基板
21 アドレス電極
22 下地誘電体層
23 隔壁
24 溝部
25 蛍光体層
30 放電空間
31 放電セル
100 PDP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの間に放電空間が形成されるように対向配置した前面板と背面板との間の空間を、その空間の周辺部の非画像表示領域に配置した封着用シール部材により封着したプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記前面板の製造工程には、
ガラスフリットを含有した誘電体ペーストを、前面基板上にストライプ状に形成された表示電極を覆うように印刷又は塗布した後、乾燥し、前記ガラスフリットの軟化点以上の温度で焼成することにより第1誘電体層を形成し、
前記第1誘電体層上にゾルゲル法により第2誘電体層を形成する、
ことが含まれる、プラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項2】
前記第2誘電体層は、平面視において前記第1誘電体層の縁部が露出するように前記第1誘電体層上に形成され、
前記封着用シール部材は、前記第2誘電体層と接触せずに前記第1誘電体層の縁部と接触するように形成される、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項3】
互いの間に放電空間が形成されるように対向配置した前面板と背面板との間の空間を、その空間の周辺部の非画像表示領域に配置した封着用シール部材により封着したプラズマディスプレイパネルであって、
前記前面板は、
前面基板上にストライプ状に形成された表示電極を覆うように形成され、軟化点が400℃以上600℃以下の低融点ガラスを含む第1誘電体層と、
前記第1誘電体層上に形成され、シロキサン骨格の構造を有する第2誘電体層と、
を備える、プラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記第2誘電体層は、平面視において前記第1誘電体層の縁部が露出するように前記第1誘電体層上に形成され、
前記封着用シール部材は、前記第2誘電体層と接触せずに前記第1誘電体層の縁部と接触するように形成されている、請求項3に記載のプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2010−135084(P2010−135084A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307180(P2008−307180)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】