説明

プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペースト

【課題】蛍光体ペーストの表面張力(接触角)を制御したペーストを作製し、塗布性の制御を容易にする。
【解決手段】少なくとも蛍光体粉末、有機バインダー樹脂、および有機溶剤を必須の構成成分とするプラズマディスプレイパネル用の蛍光体ペーストにおいて、せん断速度100s-1の時の粘度をx、ステンレス基板との接触角をyとした時、y=ax+bの相関関係が成り立ち、aの値が−0.2≧a≧−1、かつbの値が32≧b≧23の範囲内であることを特徴とする蛍光体ペーストを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル用の蛍光体ペーストに関するものであり、中でも、プラズマディスプレイパネルの作製上必須のプロセスである蛍光体塗布工程において、その塗布性や印刷性を制御することが可能な蛍光体ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータやテレビなどの画像表示に用いられているカラー表示デバイスにおいて、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下、「PDP」という。)装置は、大型で薄型軽量を実現することのできるカラー表示デバイスとして注目されている。PDP装置は、いわゆる3原色(赤、緑、青)を加法混色することにより、フルカラー表示を行っている。このフルカラー表示を行うために、PDP装置には3原色である赤(R)、緑(G)、青(B)の各色を発光する蛍光体層が備えられ、この蛍光体層を構成する蛍光体粒子はPDPの放電セル内で発生する紫外線により励起され、各色の可視光を生成している。
【0003】
PDPを製造するためには、発光表示材料である蛍光体をセル内面に塗布する必要がある。このような蛍光体の塗布は、まず蛍光体粉体を有機バインダー樹脂で分散した蛍光体ペーストを製造し、これを隔壁セル内に吐出、もしくは印刷して行うのが一般的である。
【0004】
決まった量の蛍光体ペーストを再現性よく、正確に隔壁セル内に注入するには、粘度、弾性率等のペースト特性を把握し、これをできる限り精密に制御することが重要である。
【0005】
蛍光体ペーストの有機バインダー樹脂としてはエチルセルロース、有機バインダー樹脂を溶解するための有機溶剤としてはN−メチルピロリドン、テルピネオール、ベンジルアルコールといった比較的高沸点の有機溶剤を用いるのが一般的である。特許文献1、2に開示されているように、これらの有機バインダー樹脂および有機溶剤を組み合わせて作製された蛍光体ペーストを実際に背面基板に塗布し、蛍光体ペーストの塗布量や形状等の評価結果をもとに、蛍光体ペースト組成を調整して粘度等の特性を最適化することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−232928号公報
【特許文献2】特開2000−11875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、塗布性を制御するには、蛍光体ペーストの粘度や弾性率では不十分であり、最適化した蛍光体ペーストであっても、使用する溶剤やバインダー樹脂の種類によっては塗布性が低下する場合がある。したがって、塗布性により大きな影響を与えている新たな指標が求められている。本発明は、蛍光体ペーストの粘度と接触角とを制御したペーストを作製し、塗布性の制御を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために本発明の蛍光体ペーストは少なくとも蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含み、蛍光体ペーストはせん断速度100s-1における粘度をx、蛍光体ペーストとステンレス基板との接触角をyとした時、y=ax+bの相関関係が成り立つことを特徴とする(ただし、aの値が−0.2≧a≧−1、かつbの値が32≧b≧23の範囲内である)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体ペーストは、良好な塗布性をより確実に再現することができ、PDPの生産性を大きく向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の1実施の形態におけるPDP装置に用いるパネルの要部を示す斜視図
【図2】本発明の1実施の形態におけるPDP装置のPDPの電極配列を表す図
【図3】本発明の1実施の形態におけるPDP装置のPDPの断面を表す図
【図4】測定用に作製した各蛍光体ペーストの接触角、せん断速度100s-1の時の粘度、フィルター通過特性の相関性を示した図
【図5】各蛍光体ペーストのステンレスノズルからの吐出性などを評価した結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態1によるプラズマディスプレイ装置について、図1〜図3を用いて説明する。しかし、本発明の実施の態様はこれに限定されるものではない。
【0012】
<実施の形態1>
1、PDPの構成
図1は本発明の実施の形態1によるPDPにおいて、前面板1と背面板2とを分離した状態で示す分解斜視図、図3は前面板1と背面板2とを貼り合わせてPDPとしたときの放電セル構造を示す断面図である。この図1、図3に示すように、PDPは、ガラス製の前面板1と背面板2とを、その間に放電空間3を形成するように対向配置することにより構成されている。
【0013】
前面板1は、ガラス製の前面基板4上に導電性の第1電極である走査電極5および第2電極である維持電極6を、間に放電ギャップMGを設けて互いに平行に配置して表示電極7を構成するとともに、その表示電極7を行方向に複数本配列して設け、そして走査電極5および維持電極6を覆うようにガラス材料からなる誘電体層8が形成され、その誘電体層8上にはMgOからなる保護膜9が形成されている。走査電極5および維持電極6は、それぞれITOなどの透明電極(図示せず)と、この透明電極のそれぞれに電気的に接続されるように形成されたAgなどの導電性金属からなる膜厚が数μm程度のバス電極(図示せず)とから構成されている。
【0014】
また、背面板2は、ガラス製の背面基板10上に、ガラス材料からなる絶縁体層11で覆われかつ列方向にストライプ状に配列したAgからなる複数本のデータ電極12が設けられ、そして絶縁体層11上には、前面板1と背面板2との間の放電空間3を放電セル毎に区画するためのガラス材料からなる井桁状の隔壁13が設けられている。また、絶縁体層11の表面および隔壁13の側面には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の蛍光体層14R、14G、14Bが設けられている。そして、走査電極5および維持電極6とデータ電極12とが交差するように前面板1と背面板2とが対向配置され、前記走査電極5および維持電極6とデータ電極12が交差する交差部分には、図2に示すように、放電セル15が設けられている。また、放電空間3には、放電ガスとして、例えばネオンとキセノンの混合ガスが封入されている。なお、PDPの構造は上述したものに限られるわけではなく、例えばストライプ状の隔壁を備えたものであってもよい。
【0015】
ここで、図3に示すように、放電セル15を形成する井桁形状の隔壁13は、データ電極12に平行に形成された縦隔壁13aと、この縦隔壁13aに直交するように形成した横隔壁13bとから構成されている。また、この隔壁13内に塗布して形成される蛍光体層14R、14G、14Bは、縦隔壁13aに沿ってストライプ状に青色蛍光体層14B、赤色蛍光体層14R、緑色蛍光体層14Gの順に配列して形成されている。
【0016】
図2はこの図1、図3に示すPDPの電極配列図である。行方向に長いn本の走査電極Y1、Y2、Y3・・・Yn(図1の5)およびn本の維持電極X1、X2、X3・・・Xn(図1の6)が配列され、列方向に長いm本のデータ電極A1・・・Am(図1の12)が配列されている。そして、1対の走査電極Y1および維持電極X1と1つのデータ電極A1とが交差した部分に放電セル15が形成され、放電セル15は放電空間内にm×n個形成されている。また、前記走査電極Y1および維持電極X1は、図2に示すように、走査電極Y1−維持電極X1−維持電極X2−走査電極Y2・・・・の配列で繰り返すパターンで、前面板1に形成されている。そしてこれらの電極のそれぞれは、前面板1、背面板2の画像表示領域外の周辺端部に設けられた接続端子それぞれに接続されている。
【0017】
2、PDPの製造方法
2−1、前面板の製造方法
フォトリソグラフィ法によって、前面基板4上に、走査電極5および維持電極6が形成される。走査電極5は、インジウム錫酸化物(ITO)などの透明電極と、透明電極に積層された銀(Ag)などからなるバス電極とから構成されている。維持電極6は、ITOなどの透明電極と、透明電極に積層されたAgなどからなるバス電極とから構成されている。バス電極の材料には、銀(Ag)と銀を結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含む電極ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法によって、電極ペーストが、透明電極が形成された前面基板4に塗布される。次に、乾燥炉によって、電極ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、電極ペーストが露光される。次に、電極ペーストが現像され、バス電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、バス電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、電極パターン中のガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していたガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、バス電極が形成される。ここで、電極ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
【0018】
次に、誘電体層8が形成される。誘電体層8の材料には、誘電体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む誘電体ペーストが用いられる。まずダイコート法によって、誘電体ペーストが所定の厚みで走査電極5、維持電極6を覆うように前面基板4上に塗布される。次に、乾燥炉によって、誘電体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、誘電体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、誘電体ペースト中の樹脂が除去される。また、誘電体ガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していた誘電体ガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、誘電体層8が形成される。ここで、誘電体ペーストをダイコートする方法以外にも、スクリーン印刷法、スピンコート法を用いることができる。また、誘電体ペーストを用いずに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、誘電体層8となる膜を形成することもできる。次に、誘電体層8上に保護層9が形成される。
【0019】
以上の工程により前面基板4上に走査電極5、維持電極6、誘電体層8および保護層9を有する前面板1が完成する。
【0020】
2−2、背面板の製造方法
フォトリソグラフィ法によって、背面基板10上に、データ電極12が形成される。データ電極12の材料には、導電性を確保するための銀(Ag)と銀を結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含むデータ電極ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法によって、データ電極ペーストが所定の厚みで背面基板10上に塗布される。次に、乾燥炉によって、データ電極ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、データ電極ペーストが露光される。次に、データ電極ペーストが現像され、データ電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、データ電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、データ電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、データ電極パターン中のガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していたガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、データ電極12が形成される。ここで、データ電極ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、スパッタ法、蒸着法を用いることができる。
【0021】
次に、絶縁体層11が形成される。絶縁体層11の材料には、絶縁体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む絶縁体ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法によって、絶縁体ペーストが所定の厚みでデータ電極12が形成された背面基板10上にデータ電極12を覆うように塗布される。次に、乾燥炉によって、絶縁体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、絶縁体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、絶縁体ペースト中の樹脂が除去される。また、絶縁体ガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していた絶縁体ガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、絶縁体層11が形成される。ここで、絶縁体ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、ダイコート法、スピンコート法を用いることができる。また、絶縁体ペーストを用いずに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、絶縁体層11となる膜を形成することもできる。
【0022】
次に、フォトリソグラフィ法によって、隔壁13が形成される。隔壁13の材料には、フィラーと、フィラーを結着させるためのガラスフリットと、感光性樹脂と、溶剤などを含む隔壁ペーストが用いられる。まず、ダイコート法によって、隔壁ペーストが所定の厚みで絶縁体層11上に塗布される。次に、乾燥炉によって、隔壁ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、隔壁ペーストが露光される。次に、隔壁ペーストが現像され、隔壁パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、隔壁パターンが所定の温度で焼成される。つまり、隔壁パターン中の感光性樹脂が除去される。また、隔壁パターン中のガラスフリットが溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していたガラスフリットが、ガラス化する。以上の工程によって、隔壁13が形成される。ここで、フォトリソグラフィ法以外にも、サンドブラスト法を用いることができる。
【0023】
次に、蛍光体層14が形成される。蛍光体層14の材料には、蛍光体粒子とバインダーと溶剤とを含む蛍光体ペーストが用いられる。まず、ディスペンス法によって、蛍光体ペーストが所定の厚みで隣接する複数の隔壁13間の絶縁体層11上および隔壁13の側面に塗布される。次に、乾燥炉によって、蛍光体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、蛍光体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、蛍光体ペースト中の樹脂が除去される。以上の工程によって、蛍光体層13が形成される。ここで、ディスペンス法以外にも、スクリーン印刷法を用いることができる。
【0024】
以上の工程により、背面基板10上に、データ電極12、絶縁体層11、隔壁13および蛍光体層14を有する背面板2が完成する。
【0025】
2−3、前面板と背面板との組立方法
まず、ディスペンス法などによって、背面板2の周囲に封着ペーストが塗布される。封着ペーストは、ビーズと低融点ガラス材料と有機バインダー樹脂と有機溶剤などを含んでもよい。塗布された封着ペーストは、封着ペースト層(図示せず)を形成する。次に乾燥炉によって、封着ペースト層中の溶剤が除去される。その後、封着ペースト層は、約350℃の温度で仮焼成される。仮焼成によって、封着ペースト層中の樹脂成分などが除去される。次に、表示電極7とデータ電極12とが直交するように、前面板1と背面板2とが対向配置される。
【0026】
さらに、前面板1と背面板2の周縁部が、クリップなどにより押圧した状態で保持される。この状態で、所定の温度で焼成することにより、低融点ガラス材料が溶融する。その後、室温まで冷却することにより、溶融していた低融点ガラス材料がガラス化する。これにより、前面板1と背面板2とが気密封着される。最後に、放電空間にNe、Xeなどを含む放電ガスが封入される。封入する放電ガスの組成は、従来から用いられているNe−Xe系であるが、Xeの含有量を5体積%以上に設定し、封入圧力は55kPa〜80kPaの範囲に設定する。これによりPDPが完成する。
【0027】
3、蛍光体ペーストの作製
次に、本実施形態にかかる蛍光体ペーストについて説明する。以下の実施形態は例示の目的で提供され、本発明を限定するものではない。
【0028】
本発明の蛍光体ペーストは、少なくとも蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含み、蛍光体ペーストはせん断速度100s-1における粘度をx、蛍光体ペーストとステンレス基板との接触角をyとした時、y=ax+bの相関関係が成り立つことを特徴とする。ただし、aの値が−0.2≧a≧−1、かつbの値が32≧b≧23の範囲内である。
【0029】
3−1、有機バインダー樹脂
まず、本実施の形態における蛍光体ペーストの構成成分である蛍光体粉末について説明する。本実施の形態における蛍光体ペーストの構成成分である有機バインダー樹脂は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル系のバインダー樹脂や、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート等の単量体から少なくとも1つ以上選択されて重合して得られるアクリル系バインダー樹脂が用いられる。有機バインダー樹脂の重量比率(wt%)は、少なくとも蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含む蛍光体ペーストの全重量に対して3wt%以上20wt%以下含有されていることが好ましい。有機バインダー樹脂の重量比率(wt%)が3wt%より少ないと、蛍光体ペーストの粘度が低くなり、塗布性に適さない。また、有機バインダー樹脂の重量比率(wt%)が20wt%を超えると焼成後の蛍光体ペースト中に占める蛍光体粉末密度が低くなり、輝度等に影響が出る可能性がある。
【0030】
3−2、蛍光体粉末
本実施の形態における蛍光体ペーストの構成成分である蛍光体粉末は、波長200nm以下、たとえば147nmの真空紫外線励起下で効率的に発光し得る蛍光体であることが好ましい。中でも、赤色蛍光体として(Y,Eu)(P,V)O4または(Y,Gd,Eu)23、緑色蛍光体として(Zn,Mn)2SiO4または(Y,Ce)3(Al,Ga)512、青色蛍光体として(Ba,Eu)MgAl1017を用いた場合、発光効率、色合いともに良好であるため特に好ましい。しかし、各色において先述した蛍光体を少なくとも1種類含有していれば蛍光体ペーストとしてはよく、先述した各色における蛍光体粉末に限定されるものではない。
【0031】
蛍光体粉末の重量比率(wt%)は、少なくとも蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含む蛍光体ペースト全重量に対して40wt%以上60wt%以下が好ましい。蛍光体粉末の重量比率(wt%)が40wt%を下回る場合、蛍光体ペーストの粘度が低くなり、塗布性が悪化する。そして、60wt%を超える場合においては、蛍光体ペーストの粘度が高くなり、塗布性が悪化する。
【0032】
3−3、有機溶剤
さらに本発明の蛍光体ペーストの構成成分である有機溶剤について説明する。本発明の蛍光体ペーストの構成成分である有機溶剤は、沸点が100℃〜300℃であるものが好ましい。バインダー及び蛍光体粉体成分と分離しないものであれば特に制限はない。例えば、アルコール系、エーテル系、エステル系のものが好ましい。例えば、テルピネオール(沸点217℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)等は作業性に優れていて好ましい。また、有機溶剤は単独で用いることも複数で用いることも可能である。有機溶剤の重量比率(wt%)は、少なくとも蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含む蛍光体ペーストの全重量20wt%以上50wt%以下が好ましい。有機溶剤の重量比率(wt%)が20wt%を下回る場合、蛍光体ペーストの粘度が低くなり、塗布性が悪化する。そして、50wt%を超える場合においても、蛍光体ペーストの粘度が高くなり、塗布性が悪化する。本発明の接触角測定は、ステンレス基板上に蛍光体ペーストを滴下し、1分静置した後に測定したものである。また、本発明においての塗布性・吐出性の評価は、等ピッチで数個の穴が開いているノズル型のステンレス製吐出装置を用い、加圧することで出てくるペースト流の形状や、背面板隔壁内に塗布、乾燥した際の膜形状を観察することで行った。
【0033】
3−4、蛍光体ペーストの調整
次に、本発明における蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含む蛍光体ペーストの作製方法を説明する。本発明における蛍光体ペーストは以下の方法で作製する。まず、上記で説明した有機バインダー樹脂と有機溶剤とを混練して、ポリマー溶液が作製される。
【0034】
これによって作製されたポリマー溶液中に上記で説明した蛍光体粉末のいずれかが混合され、予備混練が30〜50分行われる。その後、本混練として、蛍光体粉末が十分分散されるために予備混練後のポリマー溶液と蛍光体粉末の混合溶液は3本ローラーに2回通される。以上により、蛍光体ペーストが作製される。
【0035】
4、実施例
4−1、蛍光体ペーストの組成
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
本実施例で作製した蛍光体ペーストを構成する蛍光体粉末は、赤色蛍光体の粉末[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。また、本実施例で作製した蛍光体ペーストを構成する有機バインダー樹脂としてエチルセルロース樹脂を用いた。さらに、本実施例で作製した蛍光体ペーストを構成する有機溶剤としてベンジルアルコールとテルピネオールとジエチルベンゼンとから適宜選択された有機溶剤を用いた。なお、蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含む蛍光体ペーストの1s-1の粘度は50000〜80000s-1であることが基板への塗布性の面で好ましい。
【0037】
<蛍光体ペースト(1)>
エチルセルロース(4cPs) 14.2wt%
ベンジルアルコール 38.3wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 47.5wt%
蛍光体ペースト(1)では、有機バインダー樹脂としてエチルセルロース(4cPs)、有機溶剤としてベンジルアルコール、蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。各重量割合(wt%)は、有機バインダー樹脂と有機溶剤と蛍光体とを混合した混合物を100とした場合における各成分の重量割合である。作製した蛍光体ペースト(1)の粘度は、せん断速度100s-1において28.5Pa・sであった。また、ステンレス基板に対する接触角は、22.5degであった。
【0038】
<蛍光体ペースト(2)>
エチルセルロース(10cPs) 7.3wt%
テルピネオール 42.2wt%
ジエチルベンゼン 2.5wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 48wt%
蛍光体ペースト(2)では、有機バインダー樹脂としてエチルセルロース(10cPs)、有機溶剤としてジエチルベンゼンとテルピネオール、蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。作製した蛍光体ペースト(2)の粘度は、せん断速度100s-1において25.1Pa・sであった。また、ステンレス基板に対する接触角は、26.3degであった。
【0039】
<蛍光体ペースト(3)>
エチルセルロース(4cPs) 8.9wt%
テルピネオール 43.6wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 47.5wt%
蛍光体ペースト(3)では、有機バインダー樹脂としてエチルセルロース(4cPs)、有機溶剤としてテルピネオール、蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。作製した蛍光体ペースト(3)の粘度は、せん断速度100s-1において24.7Pa・sであった。また、ステンレス基板に対する接触角は、24.0degであった。
【0040】
<蛍光体ペースト(4)>
エチルセルロース(15cPs) 10wt%
ベンジルアルコール 40.3wt%
テルピネオール 2.2wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 47.5wt%
蛍光体ペースト(4)では、有機バインダー樹脂としてエチルセルロース(4cPs)、有機溶剤としてベンジルアルコールとテルピネオール、蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。作製した蛍光体ペースト(4)の粘度は、せん断速度100s-1において24.7Pa・sであった。また、ステンレス基板に対する接触角は、22.2degであった。
【0041】
<蛍光体ペースト(5)>
エチルセルロース(45cPs) 7.3wt%
ベンジルアルコール 45.2wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 47.5wt%
蛍光体ペースト(5)では、有機バインダー樹脂としてエチルセルロース(45cPs)、有機溶剤としてベンジルアルコール、蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。作製した蛍光体ペースト(5)の粘度は、せん断速度100s-1において24.1Pa・sであった。また、ステンレス基板に対する接触角は、20.8degであった。
【0042】
<蛍光体ペースト(6)>
エチルセルロース(45cPs) 4.6wt%
テルピネオール 41.4wt%
ジエチルベンゼン 6wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 48wt%
蛍光体ペースト(6)では、有機バインダー樹脂としてエチルセルロース(45cPs)、有機溶剤としてテルピネオールとジエチルベンゼル、蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。作製した蛍光体ペースト(6)の粘度は、せん断速度100s-1において15.8Pa・sであった。また、ステンレス基板に対する接触角は、27.6degであった。
【0043】
<蛍光体ペースト(7)>
エチルセルロース(45cPs) 3.5wt%
テルピネオール 49wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 47.5wt%
蛍光体ペースト(7)では、有機バインダー樹脂としてエチルセルロース(45cPs)、有機溶剤としてテルピネオール、蛍光体として[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いた。作製した蛍光体ペースト(7)の粘度は、せん断速度100s-1において12.2Pa・sであった。また、ステンレス基板に対する接触角は、22.4degであった。
【0044】
4−2、各蛍光体ペーストの特性評価
調整した各蛍光体ペーストの特性として、図4および図5に示すように、(1)高せん断時(100s-1)の粘度、(2)ステンレス板上での接触角(約1分間放置後に測定)、(3)蛍光体ペーストの吐出性、の評価を行った。
【0045】
4−2−1、高せん断時(100s-1)の粘度の測定
蛍光体ペーストを2枚の基板で挟み、1枚の基板を固定してもう1枚の基板をずらした時のずらし速度をV[m/sec]、基板間の距離をL[m]としたときのせん断速度をV/Ls-1とする。せん断速度100s-1を1分保ったときの蛍光体ペーストの粘度(Pa・s)を測定した。測定器は、HAAKE社製のストレスレオメーターRS600を用いた。
【0046】
4−2−2、接触角の測定
蛍光体ペーストをステンレス基板上に約20μl滴下し、1分放置した後の蛍光体ペーストの写真を撮影し、ステンレス基板面からの角度[deg]を測定する。
【0047】
4−2−3、蛍光体ペーストの吐出性
吐出性の評価は次の通り行う。1mmピッチで9個の穴が開いているステンレスノズルから蛍光体を押し出し、押し出した先に天秤を配置する。押し出された蛍光体ペーストが天秤上に載ることで蛍光体ペーストの吐出量を測定することができる。1分間における蛍光体ペーストの吐出量が0.1g以上の場合、○と評価する。一方、0.1g未満の場合、×と評価する。
【0048】
また、吐出形状は以下の通り行う。1mmピッチで9個の穴が開いているステンレスノズルから蛍光体を押し出し、押し出された蛍光体ペーストのペースト流の長さで判断する。蛍光体ペーストのペースト流が5cm以上繋がっている蛍光体ペーストを○、ペースト流が5cm未満の場合は×と評価する。
【0049】
さらに、吐出ムラについては以下の通り行う。1mmピッチで9個の穴が開いているステンレスノズルから蛍光体を押し出し、押し出した先にガラス基板を配置する。ノズルはガラス基板上を平行に移動しながら蛍光体ペーストを押し出す。ガラス基板上に塗布された蛍光体ペーストにおいてペースト幅が一定でかつ直線に塗布されていれば○、ペースト幅が一定でなく直線に塗布されていない場合は△、塗布された蛍光体ペーストが途中で切れている場合は×と評価する。
【0050】
4−4、結果
図4は横軸を高せん断領域100s-1における粘度とし、縦軸を接触角としたときにおける各蛍光体ペーストの分布を示している。また、図5は、前述した各蛍光体ペーストの吐出性、吐出形状、塗布ムラの評価を示している。
【0051】
図5に示すように、蛍光体ペースト(1)は吐出性、吐出形状ともに良好であり、塗布ムラが少し観察された。
蛍光体ペースト(2)は、蛍光体ペーストがノズルから吐出されず、吐出形状を観察することができなかった。また、ガラス基板に塗布した際、蛍光体ペーストの幅がまばらで直線的ではなく、さらに多数の塗布ムラが見られた。
蛍光体ペースト(3)は、吐出性、吐出形状、塗布ムラともに良好であった。
蛍光体ペースト(4)は、吐出性、吐出形状、塗布ムラともに良好であった。
蛍光体ペースト(5)は、吐出性、吐出形状、塗布ムラともに良好であった。
蛍光体ペースト(6)は、吐出性、吐出形状ともに良好であり、塗布ムラが少し観察された。
蛍光体ペースト(7)は、吐出性は良好であったが、蛍光体ペースト流が途中で切れてしまい、さらに塗布ムラが少し観察された。
【0052】
以上の結果を踏まえると、図5に示すように蛍光体ペーストの塗布特性は、高せん断時の蛍光体ペーストの粘度のみならず、蛍光体ペーストの接触角の影響も受けている、という結果となった。つまり、塗布性が良好な蛍光体ペーストは、[図4]中の破線の範囲内にあり、せん断速度100s-1の時の粘度をx、ステンレス基板との接触角をyとした時に、それぞれの破線は、y=−0.5x+32、y=−0.1x+23の1次式で表すことができる。つまり、y=ax+b(ただし、aの値が−0.2≧a≧−1、かつbの値が32≧b≧23の範囲内である)を満たす蛍光体ペーストにおいては、塗布性が良好であると判断できる。これにより、蛍光体ペーストの塗布性の制御を容易にすることが可能となる。
【0053】
生産上の観点からも、y=−0.5x+32、y=−0.1x+23を満たす蛍光体ペーストを調整することで、蛍光体ペーストを基板上に塗布した後、塗布性の評価をしなくても接触角と粘度のみを測定することで、ペースト塗布性の評価ができ、生産性が向上することがわかった。
【0054】
なお、本実施例の蛍光体ペーストにおいては、最も一般的な赤色蛍光体粉体である[(Y,Gd,Eu)BO3]を用いたが、ペースト化した時の高せん断時の粘度と接触角が、前述の範囲内に収まるものであれば、これに限定されるものではなく、種々の蛍光体粉体に適用することが可能である。
【0055】
(実施の形態のまとめ)
上記実施形態において特徴的な部分を以下に列記する。なお、上記実施形態に含まれる発明は、以下に限定されるものではない。なお、各構成の後ろに括弧で記載したものは、各構成の具体例である。各構成はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0056】
(1)
本発明の蛍光体ペーストは、少なくとも蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含み、蛍光体ペーストはせん断速度100s-1における粘度をx、蛍光体ペーストとステンレス基板との接触角をyとした時、y=ax+bの相関関係が成り立つことを特徴とする(ただし、aの値が−0.2≧a≧−1、かつbの値が32≧b≧23の範囲内である)。
【0057】
これにより、蛍光体ペーストの塗布性の制御を容易にすることが可能となる。生産上の観点からも、蛍光体ペーストを基板上に塗布した後、塗布性の評価をしなくても接触角と粘度のみを測定することで、ペースト塗布性の評価ができ、生産性が向上することが可能となる。
【0058】
(2)
(1)に記載の本発明の蛍光体ペーストは、高せん断領域100s-1における粘度が23Pa・s以上25Pa・s未満であることを特徴とする。
【0059】
これにより、吐出性、吐出形状ともに良好で、かつ、塗布ムラがなく蛍光体ペーストの塗布性がより優れたものになる。
【0060】
(3)
(1)に記載の本発明の蛍光体ペーストは、基板に塗布されたときの基板に対する蛍光体ペーストの接触角度が20deg以上25deg以下であることを特徴とする。
【0061】
これにより、吐出性、吐出形状ともに良好で、かつ、塗布ムラがなく蛍光体ペーストの塗布性がより優れたものになる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上、述べてきたように、本発明の蛍光体ペーストは、ノズル塗布に関与する特性が適正な範囲内に制御されているため、PDPを作製する際の作業性、および歩留まりの向上に寄与することができ、さらには安定したペースト塗布を行うことで、PDPの信頼性向上にも役立つことができる。
【符号の説明】
【0063】
1 前面板
2 背面板
3 放電空間
4 前面基板
5 走査電極
6 維持電極
7 表示電極
8 誘電体層
9 保護層
10 背面基板
11 絶縁体層
12 データ電極
13 隔壁
14R 赤色蛍光体層
14G 緑色蛍光体層
14B 青色蛍光体層
15 放電セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも蛍光体粉末と有機バインダー樹脂と有機溶剤とを含む蛍光体ペーストにおいて、
せん断速度100s-1における粘度をx、蛍光体ペーストとステンレス基板に蛍光体ペーストを滴下した際の前記ステンレス基板に対する蛍光体ペーストの接触角をyとした場合、y=ax+bの相関関係が成り立つことを特徴とする(ただし、aの値が−0.2≧a≧−1、かつbの値が32≧b≧23の範囲内である)。
【請求項2】
前記蛍光体ペーストは、せん断速度100s-1における粘度が23Pa・s以上25Pa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項3】
前記蛍光体ペーストは、前記接触角が20deg以上25deg以下であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−230798(P2012−230798A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97796(P2011−97796)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】