説明

プラズマディスプレイパネル

【課題】高い電子放出特性を有するとともに高い電荷保持特性を有する保護層を実現し、もって、高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低電圧駆動が可能なPDPを実現することを目的とする。
【解決手段】基板3上に形成した表示電極6を覆うように誘電体層8を形成するとともにその誘電体層8上に保護層9を形成した前面板を備え、前記保護層9は、MgOによる下地層91と、この下地層91を覆う、MgOより小さいγ係数の層91aと、このMgOより小さいγ係数の層91aの上に付着したMgO結晶粒子92aの凝集粒子92と、を備えることを特徴とするプラズマディスプレイパネルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)は、高精細化、高画面化の実現が可能であることから、65インチクラスのテレビなどが開発されている。近年、PDPは従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上のハイディフィニションテレビへの適用が進んでいるとともに、環境問題に配慮して鉛成分を含まないPDPが要求されている。
【0003】
PDPは、基本的には、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法による硼硅酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、ガラス基板の一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)により形成される保護層とで構成されている。
【0004】
一方、背面板は、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、隔壁間に形成された赤色、緑色および青色それぞれに発光する蛍光体層とで構成されている。
【0005】
前面板と背面板とはその電極形成面側を対向させて気密封着され、隔壁によって仕切られた放電空間にNe、Xeの放電ガスが400Torr〜600Torrの圧力で封入されている。PDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層を励起して赤色、緑色、青色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
【0006】
このようなPDPにおいて、前面板の誘電体層に形成される保護層は、放電によるイオン衝撃から誘電体層を保護すること、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出することなどが上げられる。イオン衝撃から誘電体層を保護することは、放電電圧上昇を防ぐ重要な役割であり、またアドレス放電を発生させるための初期電子を放出することは、画像のちらつきの原因となるアドレス放電ミスを防ぐ重要な役割である。
【0007】
保護層からの初期電子の放出数を増加させて画像のちらつきを低減するために、例えばMgOに不純物を添加する例や、MgO粒子をMgO保護層上に形成した例が開示されている(例えば、特許文献1、2、3など参照)。
【特許文献1】特開2002−260535号公報
【特許文献2】特開平11−339665号公報
【特許文献3】特開2006−59779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、テレビは高精細化が進んでおり、市場では低コスト・低消費電力・高輝度のフルHD(ハイ・ディフィニション:1920×1080画素:プログレッシブ表示)PDPが要求されている。保護層からの電子放出特性はPDPの画素を決定するため、電子放出特性を制御することが非常に重要である。
【0009】
そこで従来より保護層に不純物を混在させることで電子放出特性を改善しようとする試みが行われている。しかしながら、保護層に不純物を混在させて電子放出特性を改善した場合には、保護層に電荷が蓄積されてメモリー機能として使用しようとする際の電荷が時間とともに減少する減衰率が大きくなってしまうため、これを抑えるための印加電圧を大きくする必要があるなどの対策が必要になる。
【0010】
上述のように、保護層の特性としては、高い電子放出特性を有するとともに、メモリー機能として電荷の減衰率を小さくする、すなわち高い電荷保持特性を有するという、相反する二つの特性を併せ持たなければならないという課題があった。
【0011】
このような特性を満足させるために、MgO粒子をMgO保護層上に形成した例もあるが、このような構成では、MgO粒子によって高い電子放出特性を有することができる反面、メモリー機能としての電荷の減衰率を小さくする、すなわち電荷保持特性については、高精細化による走査線数増により、走査電極に印加する電圧(以下、Vscn点灯電圧と呼ぶ。なお、Vscn点灯電圧の低い方が電荷保持能力が高いことを示す。)を従来よりも高い電圧を印加しなければならないという課題があった。
【0012】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、高い電子放出特性を有するとともに高い電荷保持特性を有する保護層を実現し、もって、高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低電圧駆動が可能なPDPを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明のPDPは、基板上に形成した表示電極を覆うように誘電体層を形成するとともにその誘電体層上に保護層を形成した前面板を備え、前記保護層は、MgOによる下地層と、この下地層を覆う、MgOより小さいγ係数の層と、このMgOより小さいγ係数の層の上に付着したMgO結晶粒子の凝集粒子と、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い電子放出特性を有するとともに高い電荷保持特性を有する保護層を実現することができるので、高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低電圧駆動が可能なPDPを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態によるPDPについて図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態によるPDPの概略構造を示す断面斜視図である。PDP1は前面ガラス基板3などよりなる前面板2と、背面ガラス基板11などよりなる背面板10とが対向して配置され、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材(図示せず)によって気密に封着(封止)されている。封着されたPDP1内部の放電空間16には、NeおよびXeなどの放電ガスが400Torr〜600Torrの圧力で封入されている。
【0017】
前面板2の前面ガラス基板3上には、走査電極4および維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ(遮光層)7が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板3上には表示電極6と遮光層7とを覆うようにコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成され、さらにその表面に酸化マグネシウム(MgO)などからなる保護層9が形成されている。
【0018】
また、背面板10の背面ガラス基板11上には、前面板2の走査電極4および維持電極5と直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極12が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層13が被覆している。さらに、アドレス電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。隔壁14間の溝にアドレス電極12毎に、紫外線によって赤色、緑色および青色にそれぞれ発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。
【0019】
そして、表示電極6(走査電極4および維持電極5)とアドレス電極12とが交差する位置に放電セルが形成され、表示電極6の長手方向に配列される赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
【0020】
図2は、本発明の一実施の形態によるPDP1における前面板2の概略構造を示す断面図であり、図2においては図1と上下反転させて示している。図2に示すように、フロート法などにより製造された前面ガラス基板3に、走査電極4と維持電極5よりなる表示電極6とブラックストライプ(遮光層)7がパターン形成されている。走査電極4と維持電極5とはそれぞれインジウムスズ酸化物(ITO)や酸化スズ(SnO)などからなる透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に形成された金属バス電極4b、5bとにより構成されている。金属バス電極4b、5bは透明電極4a、5aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられ、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。
【0021】
誘電体層8は、前面ガラス基板3上に形成されたこれらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bと遮光層7を覆って設けた第1誘電体層81と、第1誘電体層81上に形成された第2誘電体層82の少なくとも2層構成とし、さらに第2誘電体層82上に保護層9を形成している。
【0022】
次に、本発明の一実施の形態によるPDPにおける保護層9の構成について図3を用いて説明する。図3は、保護層9の概略構造を示す断面図であり、保護層9は、誘電体層8上に、Alを不純物として含有するMgOからなる下地層91が形成されるとともに、その下地層91の表層に、MgOよりも小さいγ係数(2次電子放出係数)の層91a(以下、低γ層91aと呼ぶ)が形成され、この低γ層91aの上には金属酸化物であるMgOの結晶粒子92aが数個凝集した凝集粒子92が離散的に全面に亘ってほぼ均一に分布するように複数個付着した構成となっている。
【0023】
ここで、低γ層91aは、下地層91上との整合性、光透過性、生産性を考慮すると、炭酸マグネシウムで形成することが望ましい。
【0024】
また、凝集粒子92とは、図3に示すように、所定の一次粒径の結晶粒子92aが凝集またはネッキングした状態のもので、固体として大きな結合力を持って結合しているのではなく、静電気やファンデルワールス力などによって複数の一次粒子が集合体の体をなしているもので、超音波などの外的刺激により、その一部または全部が一次粒子の状態になる程度の力で結合しているものである。凝集粒子92の粒径としては、約1μm程度のもので、結晶粒子92aとしては、14面体や12面体などの7面以上の面を持つ多面体形状を有するのが望ましい。
【0025】
次に、本発明の一実施の形態によるPDPにおける保護層9の製造工程について図4を用いて説明する。まず、誘電体層まで形成した状態の前面板に対し、Alを不純物として含有するMgOからなる下地層91を蒸着により形成する下地層蒸着工程(A1)と、その後、下地層91の上に、金属酸化物であるMgOの結晶粒子92aが数個凝集した凝集粒子92を含有するペースト膜を形成する工程(A2)と、その後、このペースト膜を乾燥する工程(A3)と、その後、焼成する工程(A4)と、二酸化炭素雰囲気中に暴露することで、下地層91上に、炭酸マグネシウムによる、低γ層91aを形成する工程(A5)とにより、保護層9が形成される。
【0026】
次に、上述した保護層9を備える、本発明の一実施の形態によるPDPの性能を確認するために行った実験結果について説明する。
【0027】
まず、構成が互いに異なる保護層を有するPDPを試作した。試作品1は、Al、Siなどの不純物をドープしたMgOによる保護層上に金属酸化物からなる結晶粒子を凝集させた凝集粒子を全面に亘ってほぼ均一に分布するように付着させたPDP、試作品2は本発明の一実施の形態によるPDPで、上述したように、MgOによる下地層91上に低γ層91aが形成され、更にその上に金属酸化物からなる結晶粒子92aを凝集させた凝集粒子92が全面に亘ってほぼ均一に分布するように付着した構成である。
【0028】
なお、試作品1においては、金属酸化物としてはMgOの単結晶粒子を用い、試作品2においては、低γ層91aは炭酸マグネシウムで形成している。ここで、前述の炭酸マグネシウムで形成される低γ層91aは、前述のように、MgOの下地層91上に凝集粒子92を付着させた後、二酸化炭素雰囲気中に暴露することで形成したものである。
【0029】
これらの2種類の保護層の構成を有するPDPに対し、その電子放出性能と電荷保持性能を調べた。なお、電子放出性能は、大きいほど電子放出量が多いことを示す数値で、放電の表面状態及びガス種とその状態によって定まる初期電子放出量をもって表現する。初期電子放出量については、表面にイオン、あるいは電子ビームを照射して表面から放出される電子電流量を測定する方法で測定できるが、前面板の表面の評価を非破壊で実施することは困難を伴う。そこで、特開2007−48733号公報に記載されているように、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分することで、初期電子の放出量と線形に対応する数値になることがわかっており、そこでここではこの数値を用いて評価している。この放電時の遅れ時間とは、パルスの立ち上がりから放電が遅れて行われる放電遅れの時間を意味し、放電遅れは、放電が開始される際にトリガーとなる初期電子が保護層表面から放電空間中に放出されにくいことが主要な要因として考えられている。
【0030】
また、電荷保持性能は、その指標として、PDPとして作製した場合に電荷放出現象を抑えるために必要とする、走査電極に印加する電圧(以下Vscn点灯電圧と呼称する)の電圧値を用いた。すなわち、Vscn点灯電圧の低い方が電荷保持能力が高いことを示す。このことは、PDPのパネル設計上でも低電圧で駆動できるため、電源や各電気部品として、耐圧および容量の小さい部品を使用することが可能となる。現状の製品においては、走査電圧を順次パネルに印加するためのMOSFETなどの半導体スイッチング素子には、耐圧150V程度の素子が使用されており、Vscn点灯電圧としては、温度による変動を考慮し、120V以下に抑えることが望ましい。
【0031】
これら電子放出性能と電荷保持性能について調べた結果を図5に示している。この図5から明らかなように、試作品2は、電荷保持性能の評価において、Vscn点灯電圧を120V以下にすることができ、且つ、試作品1との相対比較においても試作品1より良好であり、且つ、電子放出性能においても試作品2は試作品1に比べ良好であり、よって、本発明の一実施の形態によるPDPである試作品2は、試作品1に比べ、電子放出特性、電荷保持特性とも良好な特性が得られていることが判る。
【0032】
すなわち、本発明の一実施の形態によるPDPを検討した結果、電子放出能力としては、試作品1以上の特性で、且つ、電荷保持能力としては、Vscn点灯電圧が120V以下の保護層を得ることができ、もって、高精細化により走査線数が増加し、かつセルサイズが小さくなる傾向にある、PDPにおける保護層に要求される、電子放出能力と電荷保持能力の両方を満足させることができる。その結果、高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のPDPを実現することができる。
【0033】
なお、低γ層として炭酸マグネシウムの層とすることで、光透過性、スパッタ耐性、ライフ動作時の電圧特性に副作用を及ぼさずに、高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のPDPを実現することができるので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように本発明は、大画面、高精細のプラズマディスプレイ装置を提供する上で有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態によるPDPの概略構造を示す断面斜視図
【図2】本発明の一実施の形態によるPDPにおける前面板の概略構造を示す断面図
【図3】本発明の一実施の形態によるPDPにおける保護層の概略構造を示す断面図
【図4】本発明の一実施の形態によるPDPにおける保護層の製造工程の流れを示す図
【図5】保護層の電子放出性能と電荷保持性能の結果を示す図
【符号の説明】
【0036】
1 PDP
2 前面板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a、5a 透明電極
4b、5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極
7 ブラックストライプ(遮光層)
8 誘電体層
9 保護層
10 背面板
11 背面ガラス基板
12 アドレス電極
13 下地誘電体層
14 隔壁
15 蛍光体層
16 放電空間
81 第1誘電体層
82 第2誘電体層
91 下地層
91a 低γ層(MgOよりも小さいγ係数(2次電子放出係数)の層)
92 凝集粒子
92a 結晶粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成した表示電極を覆うように誘電体層を形成するとともにその誘電体層上に保護層を形成した前面板を備え、前記保護層は、MgOによる下地層と、この下地層を覆う、MgOより小さいγ係数の層と、このMgOより小さいγ係数の層の上に付着したMgO結晶粒子の凝集粒子と、を備えることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
MgOより小さいγ係数の層が、炭酸マグネシウムの層であることを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−135197(P2010−135197A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310632(P2008−310632)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】