プラズマディスプレイパネル
【課題】高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のプラズマディスプレイパネルを実現することを目的とする。
【解決手段】ガラス基板上に取り付けられた表示電極を覆うように誘電体層が形成され、さらに誘電体層上に保護層が形成された第1基板と、を備えるプラズマディスプレイパネルにおいて、保護層は、誘電体層上に形成された下地膜を有し、下地膜は、下地膜は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、かつ、金属酸化物は、下地膜の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、酸化マグネシウムのピークと同一方位の前記酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とする。
【解決手段】ガラス基板上に取り付けられた表示電極を覆うように誘電体層が形成され、さらに誘電体層上に保護層が形成された第1基板と、を備えるプラズマディスプレイパネルにおいて、保護層は、誘電体層上に形成された下地膜を有し、下地膜は、下地膜は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、かつ、金属酸化物は、下地膜の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、酸化マグネシウムのピークと同一方位の前記酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)は、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、100インチクラスのテレビなどが製品化されている。近年、PDPにおいては、従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上の高精細テレビへの適用が進められており、エネルギー問題に対応してさらなる消費電力低減への取り組みや、環境問題に配慮した鉛成分を含まないPDPへの要求なども高まっている。
【0003】
PDPは、基本的には、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法により製造された硼硅酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、ガラス基板の一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護膜とで構成されている。
【0004】
このようなPDPにおいて、前面板の誘電体層上に形成される保護膜の役割としては、放電によるイオン衝撃から誘電体層を保護すること、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出することなどがあげられる。
イオン衝撃から誘電体層を保護することは、放電電圧の上昇を防ぐ重要な役割である。
また、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出することは、画像のちらつきの原因となるアドレス放電ミスを防ぐ重要な役割である。
【0005】
保護膜からの初期電子の放出数を増加させて画像のちらつきを低減するために、例えば、酸化マグネシウム(MgO)保護膜に不純物を添加する例が開示されている。
また、酸化マグネシウム(MgO)粒子を酸化マグネシウム(MgO)保護膜の表面に付着した例が開示されている(例えば、特許文献1、2、3、4、5など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−260535号公報
【特許文献2】特開平11−339665号公報
【特許文献3】特開2006−59779号公報
【特許文献4】特開平8−236028号公報
【特許文献5】特開平10−334809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、保護膜に不純物を混在させて電子放出性能を改善した場合には、保護膜表面に電荷を蓄積させてメモリー機能として使用しようとする際に、電荷が時間とともに減少する減衰率が大きくなってしまう。
つまり、電荷保持性能が低下する。
そのため、これを抑えるために印加電圧を大きくする必要があるなどの対策が必要になる。
【0008】
また、酸化マグネシウム(MgO)保護膜上に酸化マグネシウム(MgO)結晶粒子を形成する場合、酸化マグネシウム(MgO)保護膜のみの場合と比べて二次電子放出性能は変わらない。
そのため、放電電圧を低減することができない。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、低電圧駆動が可能なPDPを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明のPDPは、ガラス基板上に取り付けられた表示電極を覆うように誘電体層が形成され、さらに誘電体層上に保護層が形成された第1基板と、放電ガスが充填された放電空間を介して第1基板と対向配置され、かつ表示電極と交差する方向にアドレス電極が取り付けられるとともに放電空間を区画する隔壁を有する第2基板と、を備える。
このPDPにおいて、保護層は、誘電体層上に形成された下地膜を有し、下地膜は、下地膜は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、かつ、金属酸化物は、下地膜の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、酸化マグネシウムのピークと同一方位の酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保護層における二次電子放出特性を向上させることが出来る。
その結果、低電圧駆動が可能なPDPを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態におけるPDPの前面板の構成を示す断面図
【図3】本発明の実施の形態におけるPDPの保護層におけるX線回折結果を示す図
【図4】本発明の実施の形態におけるPDPの放電維持電圧の経時変化を示す図
【図5】本発明の実施の形態におけるPDPの保護層である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電維持電圧との関係を示す図
【図6】本発明の実施の形態におけるPDPの保護層である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電開始電圧との関係を示す図
【図7】本発明の実施の形態におけるPDPの凝集粒子の拡大図
【図8】本発明の実施の形態におけるPDPの放電遅れと保護層中のカルシウム(Ca)濃度との関係を示す図
【図9】本発明の実施の形態におけるPDPに用いた結晶粒子の粒径と電子放出性能との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態におけるPDPについて図面を用いて説明する。
【0014】
<実施の形態>
1、PDPの構成
本発明の実施の形態におけるPDPについて図1および図2を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態におけるPDP1の構造を示す斜視図である。
PDP1の基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。
図1に示すように、PDP1は前面ガラス基板3などを有する前面板2と、背面ガラス基板11などを有する背面板10とが対向して配置されている。
そして、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材によって気密封着されている。
封着されたPDP1内部の放電空間16には、キセノン(Xe)とネオン( Ne)などの放電ガスが400Torr〜600Torrの圧力で封入されている。
【0015】
前面板2の前面ガラス基板3上には、走査電極4及び維持電極5より構成される。
一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ(遮光層)7が交互に平行配置されている。
前面ガラス基板3上には表示電極6と遮光層7とを覆うように電荷を保持してコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成され、さらにその上に保護層9が形成されている。
【0016】
また、背面板10の背面ガラス基板11上には、前面板2の表示電極6及びブラックストライプ(遮光層)7に対して直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極12が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層13が被覆している。
さらに、アドレス電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。
隔壁14間の溝ごとに、紫外線によって赤色、緑色及び青色にそれぞれ発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。
表示電極6とアドレス電極12とが交差する位置に放電空間が形成され、表示電極6方向に並んだ赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電空間がカラー表示のための画素になる。
【0017】
次に図2を用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態におけるPDP1の前面板2の構成を示す断面図である。
なお、説明の便宜上、図2は図1の前面板2に相当する箇所を上下反転させて示している。
図2に示すように、前面ガラス基板3に、走査電極4と維持電極5よりなる表示電極6と遮光層7がパターン形成されている。
走査電極4と維持電極5は、それぞれインジウムスズ酸化物(ITO)や酸化スズ(SnO2)などからなる透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に形成された金属バス電極4b、5bとにより構成されている。
金属バス電極4b、5b は、透明電極4a、5aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられる。
そして、金属バス電極4b、5b は、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。
【0018】
誘電体層8は、第1誘電体層81と第2誘電体層82との少なくとも2層を有する。
第1誘電体層81は、前面ガラス基板3上に形成されたこれらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bと遮光層7を覆っている。
そして、第2誘電体層82は、第1誘電体層81上に形成される。
さらに、第2誘電体層82上に保護層9が形成されている。
保護層9については、後で詳細に説明する。
【0019】
保護層9は、誘電体層8に形成した下地膜91と、下地膜91上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aが複数個凝集させた凝集粒子92とにより構成している。
下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)の酸化物からなる金属酸化物により形成される。
さらに、下地膜91上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aが複数個凝集した凝集粒子92が付着形成されている。
【0020】
2、PDPの製造方法
次に、本発明の実施形態におけるPDP1の製造方法について説明する。
【0021】
2−1、前面板の製造方法
前面板2は次のようにして形成される。
まず、前面ガラス基板3上に、走査電極4及び維持電極5から構成される表示電極6と、遮光層7とが形成される。
走査電極4と維持電極5とを構成する透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bは、フォトリソグラフィ法などを用いてパターニングして形成される。
透明電極4a、5aは薄膜プロセスなどを用いて形成され、金属バス電極4b、5bは銀(Ag)材料を含むペーストを所定の温度で焼成して固化している。
また、遮光層7も同様に、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料をガラス基板の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することにより形成される。
【0022】
次に、表示電極6及び遮光層7を覆うように前面ガラス基板3上に誘電体ペーストをダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト(誘電体材料)層が形成される。
誘電体ペーストを塗布した後、所定の時間放置することによって塗布された誘電体ペースト表面がレベリングされて平坦な表面になる。
その後、誘電体ペースト層を焼成固化することにより、走査電極4、維持電極5及び遮光層7を覆う誘電体層8が形成される。
なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料、バインダ及び溶剤を含む塗料である。
【0023】
次に、誘電体層8上に下地膜91を形成する。
本発明の実施の形態において、下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、の酸化物からなる金属酸化物によって形成されている。
【0024】
これらの金属酸化物は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)の単独材料を混合したペレットを用いて薄膜成膜方法によって形成される。
薄膜成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の方法が適用できる。
一例として、スパッタリング法では1Pa、蒸着法の一例である電子ビーム蒸着法では0.1Paが実際上取り得る圧力の上限と考えられる。
【0025】
また、下地膜91の成膜時の雰囲気として、水分付着や不純物の吸着を防止するために外部と遮断された密閉状態で行う。
【0026】
そして、成膜時のガス組成や圧力を調整することにより保護層9の結晶方位面を制御して、さらに所定の電子放出性能を有する金属酸化物よりなる下地膜91が形成される。
【0027】
次に、下地膜91上に付着形成する酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aの凝集粒子92について述べる。
これらの結晶粒子92aは、以下に示す気相合成法または前駆体焼成法のいずれかで製造することができる。
【0028】
より具体的に説明すると、気相合成法では、不活性ガスが満たされた雰囲気下で純度が99.9%以上のマグネシウム金属材料を加熱する。
そして、さらに、雰囲気に酸素を少量導入することによって、マグネシウム(Mg)を直接酸化させ、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを作製することができる。
【0029】
また、前駆体焼成法では、以下の方法によって結晶粒子92aを作製することができる。
前駆体焼成法では、酸化マグネシウム(MgO)の前駆体を700℃以上の高温で均一に焼成し、これを徐冷して酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得ることができる。
前駆体として、例えば、マグネシウムアルコキシド(Mg(OR)2)、マグネシウムアセチルアセトン(Mg(acac)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)、シュウ酸マグネシウム(MgC2O4)のうちのいずれか1種以上の化合物を選択することができる。
なお選択した化合物によっては、通常、水和物の形態をとることもあるがこのような水和物を用いてもよい。
【0030】
焼成後に得られる酸化マグネシウム(MgO)の純度が前駆体を構成する化合物の99.95 %以上、望ましくは99.98%以上になるように調整する。
なぜなら、これらの化合物中に、各種アルカリ金属、B、Si、Fe、Alなどの不純物元素が一定量以上混じっていると、熱処理時に不要な粒子間癒着や焼結を生じ、高結晶性の酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得にくいためである。
このため、不純物元素を除去して予め前駆体を調整することが必要となる。
【0031】
気相合成法又は前駆体焼成法のいずれかで得られた酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを、溶媒に分散させ、その分散液をスプレー法やスクリーン印刷法、静電塗布法などによって下地膜91の表面に分散散布させる。
その後、乾燥・焼成工程を経て溶媒を除去し、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを下地膜91の表面に定着させることができる。
【0032】
以上の工程により前面ガラス基板3上に所定の構成物(走査電極4、維持電極5、遮光層7、誘電体層8、保護層9)が形成されて前面板2が完成する。
【0033】
2−2、背面板の製造方法
一方、背面板10は次のようにして形成される。まず、背面ガラス基板11上に、銀( Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによりアドレス電極12用の構成物となる材料層を形成する。
その後、所定の温度で焼成することによりアドレス電極12 を形成する。次に、アドレス電極12が形成された背面ガラス基板11上にダイコート法などにより、アドレス電極12を覆うように誘電体ペーストを塗布して誘電体ペースト層を形成する。
その後、誘電体ペースト層を焼成することにより下地誘電体層13を形成する。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料とバインダ及び溶剤を含んだ塗料である。
【0034】
次に、下地誘電体層13上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布し、所定の形状にパターニングすることにより隔壁材料層を形成する。
その後、所定の温度で焼成することにより隔壁14を形成する。ここで、下地誘電体層13上に塗布した隔壁用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。
そして、隣接する隔壁14間の下地誘電体層13上及び隔壁14の側面に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布し、焼成することにより蛍光体層15が形成される。以上の工程により、背面ガラス基板11上に所定の構成部材を有する背面板10が完成する。
【0035】
2−3、PDPの完成
所定の構成部材を備えた前面板2と背面板10とを走査電極4とアドレス電極12とが直交するように対向配置し、その周囲をガラスフリットで封着して放電空間16にキセノン(Xe)とネオン(Ne)などを含む放電ガスを封入してPDP1が完成する。
【0036】
3、誘電体層の詳細
ここで、前面板2の誘電体層8を構成する第1誘電体層81と第2誘電体層82について詳細に説明する。
【0037】
3−1、第1誘電体層
第1誘電体層81について説明する。
第1誘電体層81の誘電体材料は、次の化合物より構成されている。
【0038】
第1誘電体層81の誘電体材料は、酸化ビスマス(Bi2O3)と、酸化カルシウム(CaO)と酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)とから選ばれる少なくとも1種類の化合物と、酸化モリブデン(MoO3)と酸化タングステン(WO3)と酸化セリウム(CeO2)と二酸化マンガン(MnO2)とから選ばれる少なくとも1種類の化合物と、から構成される。
【0039】
より具体的には、酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率は20wt%以上40wt%以下、酸化カルシウム(CaO)と酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)とから選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は0.5wt%以上12wt%以下、酸化モリブデン(MoO3)と酸化タングステン(WO3)と酸化セリウム(CeO2)と二酸化マンガン(MnO2)とから選ばれる少なくとも1種の重量含有率は0.1wt%以上7wt%以下であることが好ましい。
【0040】
なお、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化マンガン(MnO2)に代えて、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)から選ばれる少なくとも1種類の化合物であってもよい。
その場合、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は0.1wt%以上7wt%以下であるのが好ましい。
【0041】
また、上記以外の成分として、酸化亜鉛(ZnO)の重量含有率を0wt%以上40wt%以下、酸化硼素(B2O3)の重量含有率を0wt%以上35wt%以下、酸化硅素(SiO2)の重量含有率を0wt%以上15wt%以下、酸化アルミニウム(Al2O3)の重量含有率を0wt%以上10wt%以下など、鉛(Pb)を含まない誘電体材料であってもよい。
【0042】
これらの化合物からなる誘電体材料を、湿式ジェットミルやボールミルで粒径が0.5μm以上2.5μm以下となるように粉砕して、誘電体材料粉末を作製する。
【0043】
次に、この誘電体材料粉末の重量含有率55wt%以上70wt%以下と、バインダ成分の重量含有率30wt%以上45wt%以下とを三本ロールでよく混練して、ダイコート用または印刷用の第1誘電体層81用ペーストを作製する。
【0044】
バインダ成分はエチルセルロース、またはアクリル樹脂を重量含有率1wt%以上20wt%以下含むターピネオール、またはブチルカルビトールアセテートである。
また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加してペーストとして印刷特性を向上させてもよい。
【0045】
次に、この第1誘電体層用ペーストを用い、表示電極6を覆うように前面ガラス基板3 にダイコート法あるいはスクリーン印刷法で印刷して乾燥させる。
その後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度の575℃〜590℃で焼成して第1誘電体層81を形成する。
【0046】
3−2、第2誘電体層
次に、第2誘電体層82について説明する。
第2誘電体層82の誘電体材料は、次の化合物より構成されている。
【0047】
第2誘電体層82の誘電体材料は、酸化ビスマス(Bi2O3)と、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種類の化合物と、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)から選ばれる少なくとも1種類の化合物と、から構成される。
【0048】
より具体的には、酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率は11wt%以上20wt%以下、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は1.6wt%以上21wt%以下、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は0.1wt%以上7wt%以下であることが好ましい。
【0049】
なお、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)の代わりに、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化マンガン(MnO2)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率を0.1wt%以上7wt%以下含んでいてもよい。
【0050】
さらに、酸化亜鉛(ZnO)の重量含有率を0wt%以上40wt%以下と、酸化硼素(B2O3)の重量含有率を0wt%以上35wt%以下と、酸化硅素(SiO2)の重量含有率を0wt%以上15wt%以下と、酸化アルミニウム(Al2O3)の重量含有率を0wt%以上10wt%以下などと、鉛(Pb)を含まない誘電体材料であってもよい。
【0051】
これらの化合物からなる誘電体材料を、湿式ジェットミルやボールミルで粒径が0.5μm以上2.5μm以下となるように粉砕して誘電体材料粉末を作製する。
【0052】
次に、この誘電体材料粉末の重量含有率55wt%以上70wt%以下と、バインダ成分の重量含有率30wt%以上45wt%以下とを三本ロールでよく混練してダイコート用、または印刷用の第2誘電体層用ペーストを作製する。
【0053】
バインダ成分はエチルセルロース、またはアクリル樹脂の重量含有率1wt%以上20wt%以下を含むターピネオール、またはブチルカルビトールアセテートなどである。
【0054】
また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して印刷性を向上させてもよい。
【0055】
次にこの第2誘電体層用ペーストを用いて第1誘電体層81上にスクリーン印刷法あるいはダイコート法で印刷して乾燥させる。
その後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度の550℃以上590℃以下の範囲で焼成する。
【0056】
なお、誘電体層8の膜厚としては、可視光透過率を確保するために第1誘電体層81と第2誘電体層82とを合わせ41μm以下とすることが好ましい。
また、第1誘電体層81は、金属バス電極4b、5bの銀(Ag)との反応を抑制するために酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率を第2誘電体層82の酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率よりも多くして20wt%以上40wt%としている。
そのため、第1誘電体層81の可視光透過率が第2誘電体層82の可視光透過率よりも低くなるので、第1誘電体層81の膜厚を第2誘電体層82の膜厚よりも薄くしている。
【0057】
なお、第2誘電体層82においては、酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率が11wt%以下であると着色は生じにくくなるが、第2誘電体層82中に気泡が発生しやすくなるため好ましくない。一方、重量含有率が40wt%を超えると着色が生じやすくなるため透過率が低下する。
【0058】
また、誘電体層8の膜厚が小さいほど輝度の向上と放電電圧を低減するという効果は顕著になる。
そのため、絶縁耐圧が低下しない範囲内であればできるだけ膜厚を小さく設定するのが望ましい。
このような観点から、本発明の実施の形態では、誘電体層8の膜厚を41μm以下に設定し、第1誘電体層81を5μm以上15μm以下、第2誘電体層82を20μm以上36μm以下としている。
【0059】
3−3、誘電体層
このようにして製造されたPDP1は、表示電極6に銀(Ag)材料を用いても、前面ガラス基板3の着色現象(黄変)が少ない。
さらに、誘電体層8中に気泡の発生などがなく、絶縁耐圧性能に優れた誘電体層8を実現することを確認している。
【0060】
次に、本発明の実施の形態におけるPDP1において、これらの誘電体材料によって第1誘電体層81において黄変や気泡の発生が抑制される理由について考察する。
すなわち、酸化ビスマス(Bi2O3)を含む誘電体ガラスに酸化モリブデン(MoO3)、または酸化タングステン(WO3)を添加することによって、Ag2MoO4、Ag2Mo2O7、Ag2Mo4O13、Ag2WO4、Ag2W2O7、Ag2W4O13といった化合物が580℃以下の低温で生成しやすいことが知られている。
【0061】
本発明の実施の形態では、誘電体層8の焼成温度が550℃以上590℃以下の範囲であることから、焼成中に誘電体層8中に拡散した銀イオン(Ag+)は誘電体層8中の酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)酸化セリウム(CeO2)、酸化マンガン(MnO2)と反応し、安定な化合物を生成して安定化する。
【0062】
すなわち、銀イオン(Ag+)が還元されることなく安定化されるため、凝集してコロイドを生成することがない。
したがって、銀イオン(Ag+)が安定化することによって、銀(Ag)のコロイド化に伴う酸素の発生も少なくなるため、誘電体層8中への気泡の発生も少なくなる。
【0063】
一方、これらの効果を有効にするためには、酸化ビスマス(Bi2O3)を含む誘電体ガラス中に酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化マンガン(MnO2)の重量含有率を0.1wt%以上にすることが好ましいが、0.1wt%以上7wt%以下がさらに好ましい。
特に、0.1wt%未満では黄変を抑制する効果が少なく、7wt%を超えるとガラスに着色が起こり好ましくない。
【0064】
すなわち、本発明の実施の形態におけるPDP1の誘電体層8は、銀(Ag)材料よりなる金属バス電極4b、5bと接する第1誘電体層81では黄変現象と気泡発生を抑制し、第1誘電体層81上に設けた第2誘電体層82によって高い光透過率を実現している。
その結果、誘電体層8全体として、気泡や黄変の発生が極めて少なく透過率の高いPDPを実現することが可能となる。
【0065】
4、保護層の詳細
次に本発明の実施の形態における保護層9の詳細について説明する。
保護層9は、下地膜91と凝集粒子92から構成される。
【0066】
4−1、下地膜
下地膜91について説明する。
【0067】
下地膜91は、下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)の酸化物からなる金属酸化物により形成される。
【0068】
4−1−1、X線回折分析
本発明の実施の形態におけるPDP1において、下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とを原材料として電子ビーム蒸着法で形成した金属酸化物で構成されている。
この下地膜91において、X線回折分析を行った。
【0069】
なお、下地膜91におけるカルシウム(Ca)の濃度は5atomic%(以下、atm%とする)以上25atm%以下である。
【0070】
図3は、本発明の実施の形態におけるPDP1の下地膜91におけるX線回折結果と、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)のX線回折分析の結果を示す図である。
【0071】
図3において、横軸はブラッグの回折角(2θ)であり、縦軸はX線回折波の強度である。
回折角の単位は、1周を360度とする度で示し、強度は任意単位(arbitrary unit)で示す。
【0072】
また、図3中にはそれぞれの結晶方位面を括弧付けで示している。
【0073】
下地膜91におけるX線回折分析の結果、図3に示すように、結晶方位面(111)面と結晶方位面(200)面とに、ピークが発生した。
より具体的に説明すると、酸化マグネシウム(MgO)のピークが発生する回折角と、同一方位の酸化カルシウム(CaO)のピークが発生する回折角との間にピークが発生した。
【0074】
図3に示すように、結晶方位面の(111)面では、酸化カルシウム(CaO)の回折角は32.2度にピークを有し、酸化マグネシウム(MgO)の回折角は、36.9度にピークを有する。
同様に、結晶方位面(200)面では、酸化カルシウム(CaO)は、37.3度にピークを有し、酸化マグネシウム(MgO)は42.8度にピークを有する。
【0075】
一方、本発明の実施の形態における下地膜91のX線回折結果は、結晶方位面(111)面のA点と結晶方位面(200)面のB点にピークを有する。
【0076】
より具体的には、X線回折結果は、酸化カルシウム(CaO)と酸化マグネシウム(MgO)の間の36.1度および41.9度の回折角にピークが発生する。
【0077】
すなわち、本発明の実施の形態である下地膜91は、結晶方位面(111)面と結晶方位面(200)面に配向した金属酸化物により形成されていることがわかる。
【0078】
このことから、不純物の混入や酸素欠損の少ない結晶構造で下地膜91が形成されていることがわかる。
【0079】
そのため、PDPの駆動時に電子が過剰放出されるのが抑制され、低電圧駆動と二次電子放出性能の両立効果に加えて、適度な電荷保持特性の効果も発揮される。
【0080】
この電荷保持特性は、特に初期化期間に溜めた壁電荷を保持しておき、書き込み期間において書き込み不良を防止して確実な書き込み放電を行う上で有効である。
【0081】
さらに、結晶方位面(111)面のA点におけるピーク強度を強度Da、結晶方位面(200)面のB点におけるピーク強度をDbとする。
すると、図3に示すように、結晶方位面(111)面のピークA点の強度Daが、結晶方位面(200)面のピークB点の強度Dbよりも大きいことがわかる。
【0082】
4−1−2、エネルギー準位
本発明の実施の形態1における下地膜91のエネルギー準位も、X線回折分析結果と同様の特徴を示す。
より具体的に説明すると、酸化カルシウム(CaO)のエネルギー準位の真空準位からの深さは酸化マグネシウム(MgO)と比較して浅い領域に存在する。そのため、PDP1を駆動する場合において、酸化カルシウム(CaO)、のエネルギー準位に存在する電子がキセノン(Xe)イオンの基底状態に遷移する際に、オージェ効果により放出される電子数が、酸化マグネシウム(MgO)のエネルギー準位から遷移する場合と比較して多くなると考えられる。
【0083】
本発明の実施の形態1における下地膜91において、エネルギー準位は、下地膜91が形成される1種類の金属酸化物の間に存在する。
したがって、下地膜91のエネルギー準位も単体の酸化物の間に存在し、オージェ効果により放出される電子数が酸化マグネシウム(MgO)のエネルギー準位から遷移する場合と比較して多くなると考えられる。
【0084】
その結果、下地膜91では、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成される下地膜91と比較して、良好な二次電子放出性能を発揮することができる。
そして、放電維持電圧を低減することができる。
【0085】
つまり、輝度を高めるために放電ガスとしてのキセノン(Xe)分圧を高めた場合であっても、低電圧駆動で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【0086】
4−1−3、放電維持電圧の変化
図4は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、放電維持電圧の経時変化を示す図である。
つまり、下地膜91を備えるPDP1における放電維持電圧の経時変化を単一配向の下地膜の場合と比較して示している。
【0087】
より具体的には、図4に示した□は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とから形成される下地膜91であり、結晶方位面(200)面の単一配向の保護層を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化を示している。
図4に示した◇は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とから形成される下地膜91であり、結晶方位面(111)面の単一配向の保護層を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化を示している。
【0088】
そして、図4に示した▲は、本実施の形態における下地膜91を備えたPDP1の放電維持電圧の経時変化を示している。
【0089】
つまり、▲は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とから形成される下地膜91であり、結晶方位面(111)面と結晶方位面(200)面との配向の下地膜91を備えたPDP1における放電維持電圧の経時変化を示している。
【0090】
なお、図4に示した縦軸の維持電圧変動量[V]は、42インチパネルを全面白点灯させたときの初期の放電維持電圧と、ある印加電圧で任意の時間白点灯し続けた後の放電維持電圧との差である。
そして、初期の放電維持電圧に対して、電圧が上昇した場合は+の値を示し、電圧が低下した場合は−の値を示した。
【0091】
図4の□に示すように、結晶方位面(200)面の単一配向の下地膜を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化は、15V以上の変動が発生した。
【0092】
さらに、結晶方位面(111)面の単一配向の下地膜を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化は、約10Vの変動が発生した。
【0093】
一方、本発明の実施の形態における下地膜91は、約5V以下しか放電維持電圧が変動しなかった。
【0094】
つまり、本実施の形態における下地膜91は、単一配向で構成される下地膜が形成されたPDPに比べて放電維持電圧の経時変化を抑制することができる。
【0095】
4−1−3、カルシウム濃度と放電維持電圧
さらに、図5は、本実施の形態における下地膜91において、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、その下地膜91を備えるPDP1の放電維持電圧との関係を示す図である。
なお、図5に示す横軸は、カルシウム(Ca)の濃度を示している。
【0096】
このカルシウム(Ca)濃度とは、金属酸化物中のカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)成分をX線回折分析結果のピークシフト幅から見積もり、それらからカルシウム(Ca)の濃度をatm%で表示している。
なお、縦軸はPDPの放電維持電圧を示している。
【0097】
放電維持電圧は、下地膜91として酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した場合の放電維持電圧を基準として示している。
【0098】
つまり、酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した場合の放電維持電圧を1として、本実施の形態における下地膜91を備えるPDPの放電維持電圧の相対値を示している。
【0099】
なお、放電維持電圧の測定は、キセノン(Xe)とネオン(Ne)の混合ガス中(Xe分圧は15%)で実施した。
【0100】
図5に示すように、下地膜91を構成するカルシウム(Ca)の濃度によって、PDP1の放電維持電圧が変化する。
すなわち、カルシウム(Ca)の濃度を増加させると、酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した下地膜91の場合に比べて、放電維持電圧(V)は低下する。
そして、カルシウム(Ca)濃度が25atm%の濃度を超えると増加する。
【0101】
そこで、本発明の実施の形態におけるPDP1では、図5に示すように、カルシウム(Ca)濃度を5atm%以上25atm%以下の範囲となるようにする。
【0102】
すると、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成された下地膜を備えるPDPに比べて、放電維持電圧の値を約5%以上低減することができる。
【0103】
一方、カルシウム(Ca)濃度を10atm%以上20atm%以下の範囲となるようにすると、放電維持電圧をさらに低減することができる。
【0104】
つまり、酸化マグネシウム(MgO)のみで形成された下地膜91を備えるPDPに比べて、放電維持電圧の値を約10%以上低くすることができる。
したがって、例えば、放電ガスとしてキセノン(Xe)とネオン(Ne)の混合ガスを用いた場合に、キセノン(Xe)の分圧を高めて輝度を上昇させ、その際の放電維持電圧の上昇を本実施の形態における下地膜91によって低減することができる。
その結果、高輝度で低電圧駆動の可能なPDPを実現することが可能となる。
【0105】
4−1−4、放電開始電圧
また、図6は、本実施の形態におけるPDP1において、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)よりなる下地膜91である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電開始電圧との関係を示す図である。
【0106】
放電開始電圧とは、PDP1において走査電極4と維持電極5の間で面放電が開始する電圧である。
そして、放電開始電圧は走査電極4と維持電極5に壁電荷が蓄積していない状態で電圧を印加し、上記電極間で放電が開始する電圧を測定する。
図6に示すように、放電開始電圧も放電維持電圧と同様の傾向を示す。
つまり、カルシウム(Ca)濃度を5atm%以上25atm%以下の範囲となるようにすると、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成される下地膜91を用いたPDPに比べて、放電開始電圧の値を約5%以上低減することができる。
【0107】
また、カルシウム(Ca)濃度を10atm%以上20atm%以下の範囲となるようにすると、放電開始電圧をさらに低減することが可能となり、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成される下地膜91を用いたPDPに比べて、約10%以上低くすることができる。
【0108】
なお、本実施の形態における下地膜91によって、放電維持電圧と放電開始電圧とを低減できる理由においても、上記で説明したエネルギー準位と同様の理由で説明することができる。
【0109】
その結果、保護層9では、酸化マグネシウム(MgO)のみで形成される下地膜と比較して、良好な二次電子放出特性を発揮することができる。
そして、放電維持電圧と放電開始電圧とを低減することができる。
【0110】
なお、酸化カルシウム(CaO)だけで下地膜が形成される場合では、反応性が高いため不純物と反応しやすい。
そのため、電子放出性能が低下してしまうという課題を有していた。
しかし、本実施の形態のように、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物の構成とすることにより、不純物との反応性を低減してこれらの課題を解決することができる。
【0111】
さらに、酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)のバンド構造は、価電子帯の真空準位からの深さが酸化マグネシウム(MgO)と比較して浅い領域に存在する。
したがって、酸化カルシウム(CaO)に変えて酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)を用いた場合でも、同様の効果を発現することができる。
4−2、凝集粒子
次に、本実施の形態における下地膜91上に設けた、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aが複数個凝集した凝集粒子92について詳細に説明する。
【0112】
図7は本発明の実施の形態におけるPDP1の下地膜91上に設けられた凝集粒子92を説明するための拡大図である。
凝集粒子92とは、図7に示すように、所定の一次粒径の結晶粒子92aが凝集またはネッキングした状態のものである。
すなわち、結晶粒子92aどうしは、固体として大きな結合力を持って結合しているのではなく、静電気やファンデルワールス力などによって複数の一次粒子が集合体の体をなしている。
そして、超音波などの外的刺激により、結晶粒子92aの一部または全部が一次粒子の状態になる程度で結合しているものである。
凝集粒子92の粒径は、約1μm程度で、結晶粒子92aは、14面体や12面体などの7面以上の面を持つ多面体形状を有するのが望ましい。
また、結晶粒子92aの一次粒子の粒径は、結晶粒子92aの生成条件によって制御できる。
例えば、炭酸マグネシウム(MgCO3)や水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)などのMgO前駆体を焼成して生成する場合、焼成温度や焼成雰囲気を制御することで粒径を制御できる。
一般的に、焼成温度は700℃から1500℃の範囲で選択できる。
【0113】
焼成温度を比較的高い1000℃以上にすることで、一次粒径を0.3μm以上2μm以下の程度に制御可能である。
【0114】
さらに、結晶粒子92aをMgO前駆体を加熱して得ることにより、その生成過程において、複数個の一次粒子同士が凝集またはネッキングと呼ばれる現象により結合して凝集粒子92を得ることができる。
【0115】
酸化マグネシウム(MgO)の凝集粒子92は、主として書き込み放電における放電遅れを抑制する効果と、放電遅れの温度依存性を改善する効果が確認されている。
【0116】
そこで本実施の形態では、凝集粒子92が下地膜91に比べて初期電子放出特性に優れる性質を利用して、放電パルス立ち上がり時に必要な初期電子供給部として配設している。
【0117】
放電遅れは、放電開始時において、トリガーとなる初期電子が下地膜91表面から放電空間16中に放出される量が不足することが主原因と考えられる。
【0118】
そこで、放電空間16に対する初期電子の安定供給に寄与するため、酸化マグネシウム(MgO)の凝集粒子92を保護層9の表面に分散配置する。
【0119】
これによって、放電パルスの立ち上がり時に放電空間16中に電子が豊富に存在し、放電遅れの解消が図られる。
【0120】
したがって、このような初期電子放出特性により、PDP1が高精細の場合などにおいても放電応答性の良い高速駆動ができるようになる。
【0121】
なお保護層9の表面に金属酸化物の凝集粒子92を配設する構成では、主として書き込み放電における放電遅れを抑制する効果に加え、放電遅れの温度依存性を改善する効果も得られる。
【0122】
以上のように、本実施の形態におけるPDP1では、低電圧駆動と電荷保持の両立効果を奏する保護層9と、放電遅れの防止効果を奏する酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aとにより構成する。
【0123】
その結果、PDP1は、高精細なPDPでも高速駆動を低電圧で駆動でき、かつ、点灯不良を抑制した高品位な画像表示性能が期待できる。
【0124】
4−2−1、放電遅れ
図8は、本発明の実施の形態におけるPDP1のうち、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物で構成した下地膜91を用いた場合の放電遅れと保護層9中のカルシウム(Ca)濃度との関係を示す図である。
【0125】
縦軸の放電遅れは、下地膜91中にカルシウム(Ca)が含有されていない場合を基準として示している。
【0126】
横軸は、単位(atomic%)は、下地膜91に含まれる酸化マグネシウム(MgO)のマグネシウム(Mg)原子数と、酸化カルシウム(CaO)のカルシウム(Ca)原子数との総和に対するカルシウム(Ca)の原子数の割合を示している。
【0127】
なお、図8に示す●は、保護層9として下地膜91だけを備えた場合の結果である。
また、○は、下地膜91上にさらに凝集粒子92を配置した保護層9の場合の結果を示す。
【0128】
図8に示すように、下地膜91のみの場合と、下地膜91上に凝集粒子92を配置した場合とにおいて、下地膜91のみの場合はカルシウム(Ca)濃度の増加とともに放電遅れが大きくなる。
【0129】
一方、下地膜91上に凝集粒子92を配置する場合、放電遅れを大幅に小さくすることができ、カルシウム(Ca)濃度が増加しても放電遅れはほとんど増大しないことがわかる。
【0130】
4−2−2、電子放出性能
次に、本実施の形態によるPDP1の保護層9に用いた結晶粒子92aの粒径と電子放出性能との関係について説明する。
【0131】
なお、以下の説明において、粒径とは平均粒径を意味し、平均粒径とは、体積累積平均径(D50)のことを意味している
図9は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、結晶粒子92aの粒径を変化させて電子放出性能を調べた実験結果を示す図である。
【0132】
縦軸は、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分した数値を示す。
【0133】
横軸は、本実施の形態における下地膜91が構成される結晶粒子92aの粒径を示す。なお、図9において、結晶粒子92aの粒径は、結晶粒子92aをSEM観察することで測長した。
【0134】
ここで、電子放出性能について説明する。
【0135】
電子放出性能とは、大きいほど電子放出量が多いことを示す数値である。
【0136】
電子放出性能は、表面状態及びガス種とその状態によって定まる初期電子放出量によって表現する。
【0137】
初期電子放出量については表面にイオン、あるいは電子ビームを照射して表面から放出される電子電流量を測定する方法で測定できるが、PDP1の前面板2表面の評価を非破壊で実施することは困難を伴う。
【0138】
そこで、特開2007−48733号公報に記載されている方法を用いた。
【0139】
すなわち、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分すると初期電子の放出量と線形に対応する数値になる。
【0140】
図9に示すように、粒径が約0.3μm以下小さくなると、電子放出性能が低くなり、ほぼ0.9
μm以上であれば、高い電子放出性能が得られることがわかる。
【0141】
ところで、放電セル内での電子放出数を増加させるためには、下地膜91上の単位面積あたりの結晶粒子92aの数は多い方が望ましい。
【0142】
しかし、前面板2の保護層9と密接に接触する背面板10の隔壁14の頂部に相当する部分に結晶粒子92aが存在することで、隔壁14の頂部を破損させ、その材料が蛍光体層15の上に乗るなどし、該当するセルが正常に点灯消灯しなくなる現象が発生することがわかった。
【0143】
この隔壁破損の現象は、結晶粒子92aが隔壁頂部に対応する部分に存在しなければ発生しにくい。しかし、付着させる結晶粒子92aの数が多くなれば隔壁14の破損発生確率が高くなる。
【0144】
このような観点から、結晶粒子径が約2.5μm以上になると、隔壁破損の確率が急激に高くなる。
2.5μmより小さい結晶粒子径であれば、隔壁破損の確率は比較的小さく抑えることができる。
以上の結果より、本実施の形態におけるPDP1においては、凝集粒子92として、粒径が0.9μm以上2μm以下の範囲にある凝集粒子92を使用すれば、高い電子放出性能が得られることがわかった。
【0145】
なお、本実施の形態では、結晶粒子として酸化マグネシウム(MgO)粒子を用いて説明した。
しかし、この他の単結晶粒子でも、酸化マグネシウム(MgO)同様に高い電子放出性能を持つSr、Ca、Ba、Alなどの金属酸化物による結晶粒子を用いても同様の効果を得ることができるため、粒子種としては酸化マグネシウム(MgO)に限定されるものではない。
<実施の形態の特徴>
上記実施形態において特徴的な部分を以下に列記する。なお、上記実施形態に含まれる発明は、以下に限定されるものではない。なお、各構成の後ろに括弧で記載したものは、各構成の具体例である。各構成はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0146】
(1)
プラズマディスプレイパネル(PDP1)は、ガラス基板(前面ガラス基板3)上に取り付けられた表示電極(6)を覆うように誘電体層(8)が形成され、さらに誘電体層(8)上に保護層(9)が形成された第1基板(前面板2)と、放電ガスが充填された放電空間(16)を介して第1基板(前面板2)と対向配置され、かつ表示電極(6)と交差する方向にアドレス電極(12)が取り付けられるとともに放電空間(16)を区画する隔壁を有する第2基板(背面板10)と、を備える。
このプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、保護層(9)は、誘電体層(8)上に形成された下地膜(91)を有し、下地膜(91)は、下地膜(91)は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、かつ、金属酸化物は、下地膜(91)の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、酸化マグネシウムのピークと同一方位の酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とする。
これにより、維持電圧の変動量を抑制することができ、放電電圧を低減することができる。その結果、低電圧で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【0147】
(2)
(1)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、金属酸化物のピークの強度において、結晶方位面(111)面のピークの強度の方が、結晶方位面(200)面のピークの強度よりも大きいことを特徴とする。
これにより、維持電圧の変動量を抑制することができ、放電電圧を低減することができる。その結果、低電圧で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【0148】
(3)
(1)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、下地膜(91)におけるカルシウムの濃度が5atomic%以上25atomic%以下であることを特徴とする。
これにより、放電維持電圧と放電開始電圧とを低減して、より低電圧駆動のPDPを実現することができる。
【0149】
(4)
(1)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、下地膜(91)の放電空間(16)側に、酸化マグネシウムの結晶粒子(92)が複数個凝集した凝集粒子(92a)を有することを特徴とする。
これにより、放電遅れを低減することができる。
【0150】
(5)
(4)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、酸化マグネシウムの凝集粒子(92a)の粒径が0.9μm以上2μm以下であることを特徴とする。
これにより、電子放出性能を大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
以上のように本発明は、低消費電力のPDPを実現する上で有用な発明である。
【符号の説明】
【0152】
1 PDP
2 前面板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a,5a 透明電極
4b,5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極
7 ブラックストライプ(遮光層)
8 誘電体層
9 保護層
10 背面板
11 背面ガラス基板
12 アドレス電極
13 下地誘電体層
14 隔壁
15 蛍光体層
16 放電空間
81 第1誘電体層
82 第2誘電体層
91 下地膜
92 凝集粒子
92a 結晶粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)は、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、100インチクラスのテレビなどが製品化されている。近年、PDPにおいては、従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上の高精細テレビへの適用が進められており、エネルギー問題に対応してさらなる消費電力低減への取り組みや、環境問題に配慮した鉛成分を含まないPDPへの要求なども高まっている。
【0003】
PDPは、基本的には、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法により製造された硼硅酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、ガラス基板の一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護膜とで構成されている。
【0004】
このようなPDPにおいて、前面板の誘電体層上に形成される保護膜の役割としては、放電によるイオン衝撃から誘電体層を保護すること、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出することなどがあげられる。
イオン衝撃から誘電体層を保護することは、放電電圧の上昇を防ぐ重要な役割である。
また、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出することは、画像のちらつきの原因となるアドレス放電ミスを防ぐ重要な役割である。
【0005】
保護膜からの初期電子の放出数を増加させて画像のちらつきを低減するために、例えば、酸化マグネシウム(MgO)保護膜に不純物を添加する例が開示されている。
また、酸化マグネシウム(MgO)粒子を酸化マグネシウム(MgO)保護膜の表面に付着した例が開示されている(例えば、特許文献1、2、3、4、5など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−260535号公報
【特許文献2】特開平11−339665号公報
【特許文献3】特開2006−59779号公報
【特許文献4】特開平8−236028号公報
【特許文献5】特開平10−334809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、保護膜に不純物を混在させて電子放出性能を改善した場合には、保護膜表面に電荷を蓄積させてメモリー機能として使用しようとする際に、電荷が時間とともに減少する減衰率が大きくなってしまう。
つまり、電荷保持性能が低下する。
そのため、これを抑えるために印加電圧を大きくする必要があるなどの対策が必要になる。
【0008】
また、酸化マグネシウム(MgO)保護膜上に酸化マグネシウム(MgO)結晶粒子を形成する場合、酸化マグネシウム(MgO)保護膜のみの場合と比べて二次電子放出性能は変わらない。
そのため、放電電圧を低減することができない。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、低電圧駆動が可能なPDPを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明のPDPは、ガラス基板上に取り付けられた表示電極を覆うように誘電体層が形成され、さらに誘電体層上に保護層が形成された第1基板と、放電ガスが充填された放電空間を介して第1基板と対向配置され、かつ表示電極と交差する方向にアドレス電極が取り付けられるとともに放電空間を区画する隔壁を有する第2基板と、を備える。
このPDPにおいて、保護層は、誘電体層上に形成された下地膜を有し、下地膜は、下地膜は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、かつ、金属酸化物は、下地膜の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、酸化マグネシウムのピークと同一方位の酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保護層における二次電子放出特性を向上させることが出来る。
その結果、低電圧駆動が可能なPDPを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態におけるPDPの前面板の構成を示す断面図
【図3】本発明の実施の形態におけるPDPの保護層におけるX線回折結果を示す図
【図4】本発明の実施の形態におけるPDPの放電維持電圧の経時変化を示す図
【図5】本発明の実施の形態におけるPDPの保護層である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電維持電圧との関係を示す図
【図6】本発明の実施の形態におけるPDPの保護層である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電開始電圧との関係を示す図
【図7】本発明の実施の形態におけるPDPの凝集粒子の拡大図
【図8】本発明の実施の形態におけるPDPの放電遅れと保護層中のカルシウム(Ca)濃度との関係を示す図
【図9】本発明の実施の形態におけるPDPに用いた結晶粒子の粒径と電子放出性能との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態におけるPDPについて図面を用いて説明する。
【0014】
<実施の形態>
1、PDPの構成
本発明の実施の形態におけるPDPについて図1および図2を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態におけるPDP1の構造を示す斜視図である。
PDP1の基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。
図1に示すように、PDP1は前面ガラス基板3などを有する前面板2と、背面ガラス基板11などを有する背面板10とが対向して配置されている。
そして、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材によって気密封着されている。
封着されたPDP1内部の放電空間16には、キセノン(Xe)とネオン( Ne)などの放電ガスが400Torr〜600Torrの圧力で封入されている。
【0015】
前面板2の前面ガラス基板3上には、走査電極4及び維持電極5より構成される。
一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ(遮光層)7が交互に平行配置されている。
前面ガラス基板3上には表示電極6と遮光層7とを覆うように電荷を保持してコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成され、さらにその上に保護層9が形成されている。
【0016】
また、背面板10の背面ガラス基板11上には、前面板2の表示電極6及びブラックストライプ(遮光層)7に対して直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極12が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層13が被覆している。
さらに、アドレス電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。
隔壁14間の溝ごとに、紫外線によって赤色、緑色及び青色にそれぞれ発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。
表示電極6とアドレス電極12とが交差する位置に放電空間が形成され、表示電極6方向に並んだ赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電空間がカラー表示のための画素になる。
【0017】
次に図2を用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態におけるPDP1の前面板2の構成を示す断面図である。
なお、説明の便宜上、図2は図1の前面板2に相当する箇所を上下反転させて示している。
図2に示すように、前面ガラス基板3に、走査電極4と維持電極5よりなる表示電極6と遮光層7がパターン形成されている。
走査電極4と維持電極5は、それぞれインジウムスズ酸化物(ITO)や酸化スズ(SnO2)などからなる透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に形成された金属バス電極4b、5bとにより構成されている。
金属バス電極4b、5b は、透明電極4a、5aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられる。
そして、金属バス電極4b、5b は、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。
【0018】
誘電体層8は、第1誘電体層81と第2誘電体層82との少なくとも2層を有する。
第1誘電体層81は、前面ガラス基板3上に形成されたこれらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bと遮光層7を覆っている。
そして、第2誘電体層82は、第1誘電体層81上に形成される。
さらに、第2誘電体層82上に保護層9が形成されている。
保護層9については、後で詳細に説明する。
【0019】
保護層9は、誘電体層8に形成した下地膜91と、下地膜91上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aが複数個凝集させた凝集粒子92とにより構成している。
下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)の酸化物からなる金属酸化物により形成される。
さらに、下地膜91上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aが複数個凝集した凝集粒子92が付着形成されている。
【0020】
2、PDPの製造方法
次に、本発明の実施形態におけるPDP1の製造方法について説明する。
【0021】
2−1、前面板の製造方法
前面板2は次のようにして形成される。
まず、前面ガラス基板3上に、走査電極4及び維持電極5から構成される表示電極6と、遮光層7とが形成される。
走査電極4と維持電極5とを構成する透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bは、フォトリソグラフィ法などを用いてパターニングして形成される。
透明電極4a、5aは薄膜プロセスなどを用いて形成され、金属バス電極4b、5bは銀(Ag)材料を含むペーストを所定の温度で焼成して固化している。
また、遮光層7も同様に、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料をガラス基板の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することにより形成される。
【0022】
次に、表示電極6及び遮光層7を覆うように前面ガラス基板3上に誘電体ペーストをダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト(誘電体材料)層が形成される。
誘電体ペーストを塗布した後、所定の時間放置することによって塗布された誘電体ペースト表面がレベリングされて平坦な表面になる。
その後、誘電体ペースト層を焼成固化することにより、走査電極4、維持電極5及び遮光層7を覆う誘電体層8が形成される。
なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料、バインダ及び溶剤を含む塗料である。
【0023】
次に、誘電体層8上に下地膜91を形成する。
本発明の実施の形態において、下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、の酸化物からなる金属酸化物によって形成されている。
【0024】
これらの金属酸化物は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)の単独材料を混合したペレットを用いて薄膜成膜方法によって形成される。
薄膜成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の方法が適用できる。
一例として、スパッタリング法では1Pa、蒸着法の一例である電子ビーム蒸着法では0.1Paが実際上取り得る圧力の上限と考えられる。
【0025】
また、下地膜91の成膜時の雰囲気として、水分付着や不純物の吸着を防止するために外部と遮断された密閉状態で行う。
【0026】
そして、成膜時のガス組成や圧力を調整することにより保護層9の結晶方位面を制御して、さらに所定の電子放出性能を有する金属酸化物よりなる下地膜91が形成される。
【0027】
次に、下地膜91上に付着形成する酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aの凝集粒子92について述べる。
これらの結晶粒子92aは、以下に示す気相合成法または前駆体焼成法のいずれかで製造することができる。
【0028】
より具体的に説明すると、気相合成法では、不活性ガスが満たされた雰囲気下で純度が99.9%以上のマグネシウム金属材料を加熱する。
そして、さらに、雰囲気に酸素を少量導入することによって、マグネシウム(Mg)を直接酸化させ、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを作製することができる。
【0029】
また、前駆体焼成法では、以下の方法によって結晶粒子92aを作製することができる。
前駆体焼成法では、酸化マグネシウム(MgO)の前駆体を700℃以上の高温で均一に焼成し、これを徐冷して酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得ることができる。
前駆体として、例えば、マグネシウムアルコキシド(Mg(OR)2)、マグネシウムアセチルアセトン(Mg(acac)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)、シュウ酸マグネシウム(MgC2O4)のうちのいずれか1種以上の化合物を選択することができる。
なお選択した化合物によっては、通常、水和物の形態をとることもあるがこのような水和物を用いてもよい。
【0030】
焼成後に得られる酸化マグネシウム(MgO)の純度が前駆体を構成する化合物の99.95 %以上、望ましくは99.98%以上になるように調整する。
なぜなら、これらの化合物中に、各種アルカリ金属、B、Si、Fe、Alなどの不純物元素が一定量以上混じっていると、熱処理時に不要な粒子間癒着や焼結を生じ、高結晶性の酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得にくいためである。
このため、不純物元素を除去して予め前駆体を調整することが必要となる。
【0031】
気相合成法又は前駆体焼成法のいずれかで得られた酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを、溶媒に分散させ、その分散液をスプレー法やスクリーン印刷法、静電塗布法などによって下地膜91の表面に分散散布させる。
その後、乾燥・焼成工程を経て溶媒を除去し、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを下地膜91の表面に定着させることができる。
【0032】
以上の工程により前面ガラス基板3上に所定の構成物(走査電極4、維持電極5、遮光層7、誘電体層8、保護層9)が形成されて前面板2が完成する。
【0033】
2−2、背面板の製造方法
一方、背面板10は次のようにして形成される。まず、背面ガラス基板11上に、銀( Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによりアドレス電極12用の構成物となる材料層を形成する。
その後、所定の温度で焼成することによりアドレス電極12 を形成する。次に、アドレス電極12が形成された背面ガラス基板11上にダイコート法などにより、アドレス電極12を覆うように誘電体ペーストを塗布して誘電体ペースト層を形成する。
その後、誘電体ペースト層を焼成することにより下地誘電体層13を形成する。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料とバインダ及び溶剤を含んだ塗料である。
【0034】
次に、下地誘電体層13上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布し、所定の形状にパターニングすることにより隔壁材料層を形成する。
その後、所定の温度で焼成することにより隔壁14を形成する。ここで、下地誘電体層13上に塗布した隔壁用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。
そして、隣接する隔壁14間の下地誘電体層13上及び隔壁14の側面に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布し、焼成することにより蛍光体層15が形成される。以上の工程により、背面ガラス基板11上に所定の構成部材を有する背面板10が完成する。
【0035】
2−3、PDPの完成
所定の構成部材を備えた前面板2と背面板10とを走査電極4とアドレス電極12とが直交するように対向配置し、その周囲をガラスフリットで封着して放電空間16にキセノン(Xe)とネオン(Ne)などを含む放電ガスを封入してPDP1が完成する。
【0036】
3、誘電体層の詳細
ここで、前面板2の誘電体層8を構成する第1誘電体層81と第2誘電体層82について詳細に説明する。
【0037】
3−1、第1誘電体層
第1誘電体層81について説明する。
第1誘電体層81の誘電体材料は、次の化合物より構成されている。
【0038】
第1誘電体層81の誘電体材料は、酸化ビスマス(Bi2O3)と、酸化カルシウム(CaO)と酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)とから選ばれる少なくとも1種類の化合物と、酸化モリブデン(MoO3)と酸化タングステン(WO3)と酸化セリウム(CeO2)と二酸化マンガン(MnO2)とから選ばれる少なくとも1種類の化合物と、から構成される。
【0039】
より具体的には、酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率は20wt%以上40wt%以下、酸化カルシウム(CaO)と酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)とから選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は0.5wt%以上12wt%以下、酸化モリブデン(MoO3)と酸化タングステン(WO3)と酸化セリウム(CeO2)と二酸化マンガン(MnO2)とから選ばれる少なくとも1種の重量含有率は0.1wt%以上7wt%以下であることが好ましい。
【0040】
なお、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化マンガン(MnO2)に代えて、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)から選ばれる少なくとも1種類の化合物であってもよい。
その場合、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は0.1wt%以上7wt%以下であるのが好ましい。
【0041】
また、上記以外の成分として、酸化亜鉛(ZnO)の重量含有率を0wt%以上40wt%以下、酸化硼素(B2O3)の重量含有率を0wt%以上35wt%以下、酸化硅素(SiO2)の重量含有率を0wt%以上15wt%以下、酸化アルミニウム(Al2O3)の重量含有率を0wt%以上10wt%以下など、鉛(Pb)を含まない誘電体材料であってもよい。
【0042】
これらの化合物からなる誘電体材料を、湿式ジェットミルやボールミルで粒径が0.5μm以上2.5μm以下となるように粉砕して、誘電体材料粉末を作製する。
【0043】
次に、この誘電体材料粉末の重量含有率55wt%以上70wt%以下と、バインダ成分の重量含有率30wt%以上45wt%以下とを三本ロールでよく混練して、ダイコート用または印刷用の第1誘電体層81用ペーストを作製する。
【0044】
バインダ成分はエチルセルロース、またはアクリル樹脂を重量含有率1wt%以上20wt%以下含むターピネオール、またはブチルカルビトールアセテートである。
また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加してペーストとして印刷特性を向上させてもよい。
【0045】
次に、この第1誘電体層用ペーストを用い、表示電極6を覆うように前面ガラス基板3 にダイコート法あるいはスクリーン印刷法で印刷して乾燥させる。
その後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度の575℃〜590℃で焼成して第1誘電体層81を形成する。
【0046】
3−2、第2誘電体層
次に、第2誘電体層82について説明する。
第2誘電体層82の誘電体材料は、次の化合物より構成されている。
【0047】
第2誘電体層82の誘電体材料は、酸化ビスマス(Bi2O3)と、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種類の化合物と、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)から選ばれる少なくとも1種類の化合物と、から構成される。
【0048】
より具体的には、酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率は11wt%以上20wt%以下、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は1.6wt%以上21wt%以下、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率は0.1wt%以上7wt%以下であることが好ましい。
【0049】
なお、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)の代わりに、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化バナジウム(V2O7)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化マンガン(MnO2)から選ばれる少なくとも1種類の化合物の重量含有率を0.1wt%以上7wt%以下含んでいてもよい。
【0050】
さらに、酸化亜鉛(ZnO)の重量含有率を0wt%以上40wt%以下と、酸化硼素(B2O3)の重量含有率を0wt%以上35wt%以下と、酸化硅素(SiO2)の重量含有率を0wt%以上15wt%以下と、酸化アルミニウム(Al2O3)の重量含有率を0wt%以上10wt%以下などと、鉛(Pb)を含まない誘電体材料であってもよい。
【0051】
これらの化合物からなる誘電体材料を、湿式ジェットミルやボールミルで粒径が0.5μm以上2.5μm以下となるように粉砕して誘電体材料粉末を作製する。
【0052】
次に、この誘電体材料粉末の重量含有率55wt%以上70wt%以下と、バインダ成分の重量含有率30wt%以上45wt%以下とを三本ロールでよく混練してダイコート用、または印刷用の第2誘電体層用ペーストを作製する。
【0053】
バインダ成分はエチルセルロース、またはアクリル樹脂の重量含有率1wt%以上20wt%以下を含むターピネオール、またはブチルカルビトールアセテートなどである。
【0054】
また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して印刷性を向上させてもよい。
【0055】
次にこの第2誘電体層用ペーストを用いて第1誘電体層81上にスクリーン印刷法あるいはダイコート法で印刷して乾燥させる。
その後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度の550℃以上590℃以下の範囲で焼成する。
【0056】
なお、誘電体層8の膜厚としては、可視光透過率を確保するために第1誘電体層81と第2誘電体層82とを合わせ41μm以下とすることが好ましい。
また、第1誘電体層81は、金属バス電極4b、5bの銀(Ag)との反応を抑制するために酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率を第2誘電体層82の酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率よりも多くして20wt%以上40wt%としている。
そのため、第1誘電体層81の可視光透過率が第2誘電体層82の可視光透過率よりも低くなるので、第1誘電体層81の膜厚を第2誘電体層82の膜厚よりも薄くしている。
【0057】
なお、第2誘電体層82においては、酸化ビスマス(Bi2O3)の重量含有率が11wt%以下であると着色は生じにくくなるが、第2誘電体層82中に気泡が発生しやすくなるため好ましくない。一方、重量含有率が40wt%を超えると着色が生じやすくなるため透過率が低下する。
【0058】
また、誘電体層8の膜厚が小さいほど輝度の向上と放電電圧を低減するという効果は顕著になる。
そのため、絶縁耐圧が低下しない範囲内であればできるだけ膜厚を小さく設定するのが望ましい。
このような観点から、本発明の実施の形態では、誘電体層8の膜厚を41μm以下に設定し、第1誘電体層81を5μm以上15μm以下、第2誘電体層82を20μm以上36μm以下としている。
【0059】
3−3、誘電体層
このようにして製造されたPDP1は、表示電極6に銀(Ag)材料を用いても、前面ガラス基板3の着色現象(黄変)が少ない。
さらに、誘電体層8中に気泡の発生などがなく、絶縁耐圧性能に優れた誘電体層8を実現することを確認している。
【0060】
次に、本発明の実施の形態におけるPDP1において、これらの誘電体材料によって第1誘電体層81において黄変や気泡の発生が抑制される理由について考察する。
すなわち、酸化ビスマス(Bi2O3)を含む誘電体ガラスに酸化モリブデン(MoO3)、または酸化タングステン(WO3)を添加することによって、Ag2MoO4、Ag2Mo2O7、Ag2Mo4O13、Ag2WO4、Ag2W2O7、Ag2W4O13といった化合物が580℃以下の低温で生成しやすいことが知られている。
【0061】
本発明の実施の形態では、誘電体層8の焼成温度が550℃以上590℃以下の範囲であることから、焼成中に誘電体層8中に拡散した銀イオン(Ag+)は誘電体層8中の酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)酸化セリウム(CeO2)、酸化マンガン(MnO2)と反応し、安定な化合物を生成して安定化する。
【0062】
すなわち、銀イオン(Ag+)が還元されることなく安定化されるため、凝集してコロイドを生成することがない。
したがって、銀イオン(Ag+)が安定化することによって、銀(Ag)のコロイド化に伴う酸素の発生も少なくなるため、誘電体層8中への気泡の発生も少なくなる。
【0063】
一方、これらの効果を有効にするためには、酸化ビスマス(Bi2O3)を含む誘電体ガラス中に酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化マンガン(MnO2)の重量含有率を0.1wt%以上にすることが好ましいが、0.1wt%以上7wt%以下がさらに好ましい。
特に、0.1wt%未満では黄変を抑制する効果が少なく、7wt%を超えるとガラスに着色が起こり好ましくない。
【0064】
すなわち、本発明の実施の形態におけるPDP1の誘電体層8は、銀(Ag)材料よりなる金属バス電極4b、5bと接する第1誘電体層81では黄変現象と気泡発生を抑制し、第1誘電体層81上に設けた第2誘電体層82によって高い光透過率を実現している。
その結果、誘電体層8全体として、気泡や黄変の発生が極めて少なく透過率の高いPDPを実現することが可能となる。
【0065】
4、保護層の詳細
次に本発明の実施の形態における保護層9の詳細について説明する。
保護層9は、下地膜91と凝集粒子92から構成される。
【0066】
4−1、下地膜
下地膜91について説明する。
【0067】
下地膜91は、下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)の酸化物からなる金属酸化物により形成される。
【0068】
4−1−1、X線回折分析
本発明の実施の形態におけるPDP1において、下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とを原材料として電子ビーム蒸着法で形成した金属酸化物で構成されている。
この下地膜91において、X線回折分析を行った。
【0069】
なお、下地膜91におけるカルシウム(Ca)の濃度は5atomic%(以下、atm%とする)以上25atm%以下である。
【0070】
図3は、本発明の実施の形態におけるPDP1の下地膜91におけるX線回折結果と、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)のX線回折分析の結果を示す図である。
【0071】
図3において、横軸はブラッグの回折角(2θ)であり、縦軸はX線回折波の強度である。
回折角の単位は、1周を360度とする度で示し、強度は任意単位(arbitrary unit)で示す。
【0072】
また、図3中にはそれぞれの結晶方位面を括弧付けで示している。
【0073】
下地膜91におけるX線回折分析の結果、図3に示すように、結晶方位面(111)面と結晶方位面(200)面とに、ピークが発生した。
より具体的に説明すると、酸化マグネシウム(MgO)のピークが発生する回折角と、同一方位の酸化カルシウム(CaO)のピークが発生する回折角との間にピークが発生した。
【0074】
図3に示すように、結晶方位面の(111)面では、酸化カルシウム(CaO)の回折角は32.2度にピークを有し、酸化マグネシウム(MgO)の回折角は、36.9度にピークを有する。
同様に、結晶方位面(200)面では、酸化カルシウム(CaO)は、37.3度にピークを有し、酸化マグネシウム(MgO)は42.8度にピークを有する。
【0075】
一方、本発明の実施の形態における下地膜91のX線回折結果は、結晶方位面(111)面のA点と結晶方位面(200)面のB点にピークを有する。
【0076】
より具体的には、X線回折結果は、酸化カルシウム(CaO)と酸化マグネシウム(MgO)の間の36.1度および41.9度の回折角にピークが発生する。
【0077】
すなわち、本発明の実施の形態である下地膜91は、結晶方位面(111)面と結晶方位面(200)面に配向した金属酸化物により形成されていることがわかる。
【0078】
このことから、不純物の混入や酸素欠損の少ない結晶構造で下地膜91が形成されていることがわかる。
【0079】
そのため、PDPの駆動時に電子が過剰放出されるのが抑制され、低電圧駆動と二次電子放出性能の両立効果に加えて、適度な電荷保持特性の効果も発揮される。
【0080】
この電荷保持特性は、特に初期化期間に溜めた壁電荷を保持しておき、書き込み期間において書き込み不良を防止して確実な書き込み放電を行う上で有効である。
【0081】
さらに、結晶方位面(111)面のA点におけるピーク強度を強度Da、結晶方位面(200)面のB点におけるピーク強度をDbとする。
すると、図3に示すように、結晶方位面(111)面のピークA点の強度Daが、結晶方位面(200)面のピークB点の強度Dbよりも大きいことがわかる。
【0082】
4−1−2、エネルギー準位
本発明の実施の形態1における下地膜91のエネルギー準位も、X線回折分析結果と同様の特徴を示す。
より具体的に説明すると、酸化カルシウム(CaO)のエネルギー準位の真空準位からの深さは酸化マグネシウム(MgO)と比較して浅い領域に存在する。そのため、PDP1を駆動する場合において、酸化カルシウム(CaO)、のエネルギー準位に存在する電子がキセノン(Xe)イオンの基底状態に遷移する際に、オージェ効果により放出される電子数が、酸化マグネシウム(MgO)のエネルギー準位から遷移する場合と比較して多くなると考えられる。
【0083】
本発明の実施の形態1における下地膜91において、エネルギー準位は、下地膜91が形成される1種類の金属酸化物の間に存在する。
したがって、下地膜91のエネルギー準位も単体の酸化物の間に存在し、オージェ効果により放出される電子数が酸化マグネシウム(MgO)のエネルギー準位から遷移する場合と比較して多くなると考えられる。
【0084】
その結果、下地膜91では、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成される下地膜91と比較して、良好な二次電子放出性能を発揮することができる。
そして、放電維持電圧を低減することができる。
【0085】
つまり、輝度を高めるために放電ガスとしてのキセノン(Xe)分圧を高めた場合であっても、低電圧駆動で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【0086】
4−1−3、放電維持電圧の変化
図4は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、放電維持電圧の経時変化を示す図である。
つまり、下地膜91を備えるPDP1における放電維持電圧の経時変化を単一配向の下地膜の場合と比較して示している。
【0087】
より具体的には、図4に示した□は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とから形成される下地膜91であり、結晶方位面(200)面の単一配向の保護層を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化を示している。
図4に示した◇は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とから形成される下地膜91であり、結晶方位面(111)面の単一配向の保護層を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化を示している。
【0088】
そして、図4に示した▲は、本実施の形態における下地膜91を備えたPDP1の放電維持電圧の経時変化を示している。
【0089】
つまり、▲は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とから形成される下地膜91であり、結晶方位面(111)面と結晶方位面(200)面との配向の下地膜91を備えたPDP1における放電維持電圧の経時変化を示している。
【0090】
なお、図4に示した縦軸の維持電圧変動量[V]は、42インチパネルを全面白点灯させたときの初期の放電維持電圧と、ある印加電圧で任意の時間白点灯し続けた後の放電維持電圧との差である。
そして、初期の放電維持電圧に対して、電圧が上昇した場合は+の値を示し、電圧が低下した場合は−の値を示した。
【0091】
図4の□に示すように、結晶方位面(200)面の単一配向の下地膜を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化は、15V以上の変動が発生した。
【0092】
さらに、結晶方位面(111)面の単一配向の下地膜を備えたPDPにおける放電維持電圧の経時変化は、約10Vの変動が発生した。
【0093】
一方、本発明の実施の形態における下地膜91は、約5V以下しか放電維持電圧が変動しなかった。
【0094】
つまり、本実施の形態における下地膜91は、単一配向で構成される下地膜が形成されたPDPに比べて放電維持電圧の経時変化を抑制することができる。
【0095】
4−1−3、カルシウム濃度と放電維持電圧
さらに、図5は、本実施の形態における下地膜91において、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、その下地膜91を備えるPDP1の放電維持電圧との関係を示す図である。
なお、図5に示す横軸は、カルシウム(Ca)の濃度を示している。
【0096】
このカルシウム(Ca)濃度とは、金属酸化物中のカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)成分をX線回折分析結果のピークシフト幅から見積もり、それらからカルシウム(Ca)の濃度をatm%で表示している。
なお、縦軸はPDPの放電維持電圧を示している。
【0097】
放電維持電圧は、下地膜91として酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した場合の放電維持電圧を基準として示している。
【0098】
つまり、酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した場合の放電維持電圧を1として、本実施の形態における下地膜91を備えるPDPの放電維持電圧の相対値を示している。
【0099】
なお、放電維持電圧の測定は、キセノン(Xe)とネオン(Ne)の混合ガス中(Xe分圧は15%)で実施した。
【0100】
図5に示すように、下地膜91を構成するカルシウム(Ca)の濃度によって、PDP1の放電維持電圧が変化する。
すなわち、カルシウム(Ca)の濃度を増加させると、酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した下地膜91の場合に比べて、放電維持電圧(V)は低下する。
そして、カルシウム(Ca)濃度が25atm%の濃度を超えると増加する。
【0101】
そこで、本発明の実施の形態におけるPDP1では、図5に示すように、カルシウム(Ca)濃度を5atm%以上25atm%以下の範囲となるようにする。
【0102】
すると、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成された下地膜を備えるPDPに比べて、放電維持電圧の値を約5%以上低減することができる。
【0103】
一方、カルシウム(Ca)濃度を10atm%以上20atm%以下の範囲となるようにすると、放電維持電圧をさらに低減することができる。
【0104】
つまり、酸化マグネシウム(MgO)のみで形成された下地膜91を備えるPDPに比べて、放電維持電圧の値を約10%以上低くすることができる。
したがって、例えば、放電ガスとしてキセノン(Xe)とネオン(Ne)の混合ガスを用いた場合に、キセノン(Xe)の分圧を高めて輝度を上昇させ、その際の放電維持電圧の上昇を本実施の形態における下地膜91によって低減することができる。
その結果、高輝度で低電圧駆動の可能なPDPを実現することが可能となる。
【0105】
4−1−4、放電開始電圧
また、図6は、本実施の形態におけるPDP1において、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)よりなる下地膜91である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電開始電圧との関係を示す図である。
【0106】
放電開始電圧とは、PDP1において走査電極4と維持電極5の間で面放電が開始する電圧である。
そして、放電開始電圧は走査電極4と維持電極5に壁電荷が蓄積していない状態で電圧を印加し、上記電極間で放電が開始する電圧を測定する。
図6に示すように、放電開始電圧も放電維持電圧と同様の傾向を示す。
つまり、カルシウム(Ca)濃度を5atm%以上25atm%以下の範囲となるようにすると、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成される下地膜91を用いたPDPに比べて、放電開始電圧の値を約5%以上低減することができる。
【0107】
また、カルシウム(Ca)濃度を10atm%以上20atm%以下の範囲となるようにすると、放電開始電圧をさらに低減することが可能となり、酸化マグネシウム(MgO)のみから形成される下地膜91を用いたPDPに比べて、約10%以上低くすることができる。
【0108】
なお、本実施の形態における下地膜91によって、放電維持電圧と放電開始電圧とを低減できる理由においても、上記で説明したエネルギー準位と同様の理由で説明することができる。
【0109】
その結果、保護層9では、酸化マグネシウム(MgO)のみで形成される下地膜と比較して、良好な二次電子放出特性を発揮することができる。
そして、放電維持電圧と放電開始電圧とを低減することができる。
【0110】
なお、酸化カルシウム(CaO)だけで下地膜が形成される場合では、反応性が高いため不純物と反応しやすい。
そのため、電子放出性能が低下してしまうという課題を有していた。
しかし、本実施の形態のように、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物の構成とすることにより、不純物との反応性を低減してこれらの課題を解決することができる。
【0111】
さらに、酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)のバンド構造は、価電子帯の真空準位からの深さが酸化マグネシウム(MgO)と比較して浅い領域に存在する。
したがって、酸化カルシウム(CaO)に変えて酸化ストロンチウム(SrO)と酸化バリウム(BaO)を用いた場合でも、同様の効果を発現することができる。
4−2、凝集粒子
次に、本実施の形態における下地膜91上に設けた、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aが複数個凝集した凝集粒子92について詳細に説明する。
【0112】
図7は本発明の実施の形態におけるPDP1の下地膜91上に設けられた凝集粒子92を説明するための拡大図である。
凝集粒子92とは、図7に示すように、所定の一次粒径の結晶粒子92aが凝集またはネッキングした状態のものである。
すなわち、結晶粒子92aどうしは、固体として大きな結合力を持って結合しているのではなく、静電気やファンデルワールス力などによって複数の一次粒子が集合体の体をなしている。
そして、超音波などの外的刺激により、結晶粒子92aの一部または全部が一次粒子の状態になる程度で結合しているものである。
凝集粒子92の粒径は、約1μm程度で、結晶粒子92aは、14面体や12面体などの7面以上の面を持つ多面体形状を有するのが望ましい。
また、結晶粒子92aの一次粒子の粒径は、結晶粒子92aの生成条件によって制御できる。
例えば、炭酸マグネシウム(MgCO3)や水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)などのMgO前駆体を焼成して生成する場合、焼成温度や焼成雰囲気を制御することで粒径を制御できる。
一般的に、焼成温度は700℃から1500℃の範囲で選択できる。
【0113】
焼成温度を比較的高い1000℃以上にすることで、一次粒径を0.3μm以上2μm以下の程度に制御可能である。
【0114】
さらに、結晶粒子92aをMgO前駆体を加熱して得ることにより、その生成過程において、複数個の一次粒子同士が凝集またはネッキングと呼ばれる現象により結合して凝集粒子92を得ることができる。
【0115】
酸化マグネシウム(MgO)の凝集粒子92は、主として書き込み放電における放電遅れを抑制する効果と、放電遅れの温度依存性を改善する効果が確認されている。
【0116】
そこで本実施の形態では、凝集粒子92が下地膜91に比べて初期電子放出特性に優れる性質を利用して、放電パルス立ち上がり時に必要な初期電子供給部として配設している。
【0117】
放電遅れは、放電開始時において、トリガーとなる初期電子が下地膜91表面から放電空間16中に放出される量が不足することが主原因と考えられる。
【0118】
そこで、放電空間16に対する初期電子の安定供給に寄与するため、酸化マグネシウム(MgO)の凝集粒子92を保護層9の表面に分散配置する。
【0119】
これによって、放電パルスの立ち上がり時に放電空間16中に電子が豊富に存在し、放電遅れの解消が図られる。
【0120】
したがって、このような初期電子放出特性により、PDP1が高精細の場合などにおいても放電応答性の良い高速駆動ができるようになる。
【0121】
なお保護層9の表面に金属酸化物の凝集粒子92を配設する構成では、主として書き込み放電における放電遅れを抑制する効果に加え、放電遅れの温度依存性を改善する効果も得られる。
【0122】
以上のように、本実施の形態におけるPDP1では、低電圧駆動と電荷保持の両立効果を奏する保護層9と、放電遅れの防止効果を奏する酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aとにより構成する。
【0123】
その結果、PDP1は、高精細なPDPでも高速駆動を低電圧で駆動でき、かつ、点灯不良を抑制した高品位な画像表示性能が期待できる。
【0124】
4−2−1、放電遅れ
図8は、本発明の実施の形態におけるPDP1のうち、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物で構成した下地膜91を用いた場合の放電遅れと保護層9中のカルシウム(Ca)濃度との関係を示す図である。
【0125】
縦軸の放電遅れは、下地膜91中にカルシウム(Ca)が含有されていない場合を基準として示している。
【0126】
横軸は、単位(atomic%)は、下地膜91に含まれる酸化マグネシウム(MgO)のマグネシウム(Mg)原子数と、酸化カルシウム(CaO)のカルシウム(Ca)原子数との総和に対するカルシウム(Ca)の原子数の割合を示している。
【0127】
なお、図8に示す●は、保護層9として下地膜91だけを備えた場合の結果である。
また、○は、下地膜91上にさらに凝集粒子92を配置した保護層9の場合の結果を示す。
【0128】
図8に示すように、下地膜91のみの場合と、下地膜91上に凝集粒子92を配置した場合とにおいて、下地膜91のみの場合はカルシウム(Ca)濃度の増加とともに放電遅れが大きくなる。
【0129】
一方、下地膜91上に凝集粒子92を配置する場合、放電遅れを大幅に小さくすることができ、カルシウム(Ca)濃度が増加しても放電遅れはほとんど増大しないことがわかる。
【0130】
4−2−2、電子放出性能
次に、本実施の形態によるPDP1の保護層9に用いた結晶粒子92aの粒径と電子放出性能との関係について説明する。
【0131】
なお、以下の説明において、粒径とは平均粒径を意味し、平均粒径とは、体積累積平均径(D50)のことを意味している
図9は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、結晶粒子92aの粒径を変化させて電子放出性能を調べた実験結果を示す図である。
【0132】
縦軸は、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分した数値を示す。
【0133】
横軸は、本実施の形態における下地膜91が構成される結晶粒子92aの粒径を示す。なお、図9において、結晶粒子92aの粒径は、結晶粒子92aをSEM観察することで測長した。
【0134】
ここで、電子放出性能について説明する。
【0135】
電子放出性能とは、大きいほど電子放出量が多いことを示す数値である。
【0136】
電子放出性能は、表面状態及びガス種とその状態によって定まる初期電子放出量によって表現する。
【0137】
初期電子放出量については表面にイオン、あるいは電子ビームを照射して表面から放出される電子電流量を測定する方法で測定できるが、PDP1の前面板2表面の評価を非破壊で実施することは困難を伴う。
【0138】
そこで、特開2007−48733号公報に記載されている方法を用いた。
【0139】
すなわち、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分すると初期電子の放出量と線形に対応する数値になる。
【0140】
図9に示すように、粒径が約0.3μm以下小さくなると、電子放出性能が低くなり、ほぼ0.9
μm以上であれば、高い電子放出性能が得られることがわかる。
【0141】
ところで、放電セル内での電子放出数を増加させるためには、下地膜91上の単位面積あたりの結晶粒子92aの数は多い方が望ましい。
【0142】
しかし、前面板2の保護層9と密接に接触する背面板10の隔壁14の頂部に相当する部分に結晶粒子92aが存在することで、隔壁14の頂部を破損させ、その材料が蛍光体層15の上に乗るなどし、該当するセルが正常に点灯消灯しなくなる現象が発生することがわかった。
【0143】
この隔壁破損の現象は、結晶粒子92aが隔壁頂部に対応する部分に存在しなければ発生しにくい。しかし、付着させる結晶粒子92aの数が多くなれば隔壁14の破損発生確率が高くなる。
【0144】
このような観点から、結晶粒子径が約2.5μm以上になると、隔壁破損の確率が急激に高くなる。
2.5μmより小さい結晶粒子径であれば、隔壁破損の確率は比較的小さく抑えることができる。
以上の結果より、本実施の形態におけるPDP1においては、凝集粒子92として、粒径が0.9μm以上2μm以下の範囲にある凝集粒子92を使用すれば、高い電子放出性能が得られることがわかった。
【0145】
なお、本実施の形態では、結晶粒子として酸化マグネシウム(MgO)粒子を用いて説明した。
しかし、この他の単結晶粒子でも、酸化マグネシウム(MgO)同様に高い電子放出性能を持つSr、Ca、Ba、Alなどの金属酸化物による結晶粒子を用いても同様の効果を得ることができるため、粒子種としては酸化マグネシウム(MgO)に限定されるものではない。
<実施の形態の特徴>
上記実施形態において特徴的な部分を以下に列記する。なお、上記実施形態に含まれる発明は、以下に限定されるものではない。なお、各構成の後ろに括弧で記載したものは、各構成の具体例である。各構成はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0146】
(1)
プラズマディスプレイパネル(PDP1)は、ガラス基板(前面ガラス基板3)上に取り付けられた表示電極(6)を覆うように誘電体層(8)が形成され、さらに誘電体層(8)上に保護層(9)が形成された第1基板(前面板2)と、放電ガスが充填された放電空間(16)を介して第1基板(前面板2)と対向配置され、かつ表示電極(6)と交差する方向にアドレス電極(12)が取り付けられるとともに放電空間(16)を区画する隔壁を有する第2基板(背面板10)と、を備える。
このプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、保護層(9)は、誘電体層(8)上に形成された下地膜(91)を有し、下地膜(91)は、下地膜(91)は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、かつ、金属酸化物は、下地膜(91)の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、酸化マグネシウムのピークと同一方位の酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とする。
これにより、維持電圧の変動量を抑制することができ、放電電圧を低減することができる。その結果、低電圧で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【0147】
(2)
(1)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、金属酸化物のピークの強度において、結晶方位面(111)面のピークの強度の方が、結晶方位面(200)面のピークの強度よりも大きいことを特徴とする。
これにより、維持電圧の変動量を抑制することができ、放電電圧を低減することができる。その結果、低電圧で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【0148】
(3)
(1)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、下地膜(91)におけるカルシウムの濃度が5atomic%以上25atomic%以下であることを特徴とする。
これにより、放電維持電圧と放電開始電圧とを低減して、より低電圧駆動のPDPを実現することができる。
【0149】
(4)
(1)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、下地膜(91)の放電空間(16)側に、酸化マグネシウムの結晶粒子(92)が複数個凝集した凝集粒子(92a)を有することを特徴とする。
これにより、放電遅れを低減することができる。
【0150】
(5)
(4)のプラズマディスプレイパネル(PDP1)において、酸化マグネシウムの凝集粒子(92a)の粒径が0.9μm以上2μm以下であることを特徴とする。
これにより、電子放出性能を大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
以上のように本発明は、低消費電力のPDPを実現する上で有用な発明である。
【符号の説明】
【0152】
1 PDP
2 前面板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a,5a 透明電極
4b,5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極
7 ブラックストライプ(遮光層)
8 誘電体層
9 保護層
10 背面板
11 背面ガラス基板
12 アドレス電極
13 下地誘電体層
14 隔壁
15 蛍光体層
16 放電空間
81 第1誘電体層
82 第2誘電体層
91 下地膜
92 凝集粒子
92a 結晶粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に取り付けられた表示電極を覆うように誘電体層が形成され、さらに前記誘電体層上に保護層が形成された第1基板と、
放電ガスが充填された放電空間を介して前記第1基板と対向配置され、かつ前記表示電極と交差する方向にアドレス電極が取り付けられるとともに前記放電空間を区画する隔壁を有する第2基板と、
を備えるプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記保護層は、前記誘電体層上に形成された下地膜を有し、前記下地膜は、前記下地膜は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、
かつ、
前記金属酸化物は、前記下地膜の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、前記酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、前記酸化マグネシウムのピークと同一方位の前記酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記金属酸化物のピークの強度において、
前記結晶方位面(111)面のピークの強度の方が、前記結晶方位面(200)面のピークの強度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
良好な二次電子放出特性を発揮する。そのため、特に輝度を高めるために放電ガスとしてのキセノン(Xe)分圧を高めた場合でも、放電電圧を低減して低電圧で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【請求項3】
前記下地膜におけるカルシウムの濃度が5atomic%以上25atomic%以下である
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
放電維持電圧と放電開始電圧とを低減して、より低電圧駆動のPDPを実現
【請求項4】
前記保護層の前記放電空間側に、酸化マグネシウムの結晶粒子が複数個凝集した凝集粒子を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記凝集粒子は、酸化マグネシウムの凝集粒子の粒径が0.9μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項1】
ガラス基板上に取り付けられた表示電極を覆うように誘電体層が形成され、さらに前記誘電体層上に保護層が形成された第1基板と、
放電ガスが充填された放電空間を介して前記第1基板と対向配置され、かつ前記表示電極と交差する方向にアドレス電極が取り付けられるとともに前記放電空間を区画する隔壁を有する第2基板と、
を備えるプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記保護層は、前記誘電体層上に形成された下地膜を有し、前記下地膜は、前記下地膜は酸化マグネシウムと酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成され、
かつ、
前記金属酸化物は、前記下地膜の表面におけるX線回折分析において、結晶方位面(111)面のピークと結晶方位面(200)面のピークを有し、前記酸化マグネシウムのピークが発生する回折角と、前記酸化マグネシウムのピークと同一方位の前記酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在することを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記金属酸化物のピークの強度において、
前記結晶方位面(111)面のピークの強度の方が、前記結晶方位面(200)面のピークの強度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
良好な二次電子放出特性を発揮する。そのため、特に輝度を高めるために放電ガスとしてのキセノン(Xe)分圧を高めた場合でも、放電電圧を低減して低電圧で高輝度のPDPを実現することが可能となる。
【請求項3】
前記下地膜におけるカルシウムの濃度が5atomic%以上25atomic%以下である
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
放電維持電圧と放電開始電圧とを低減して、より低電圧駆動のPDPを実現
【請求項4】
前記保護層の前記放電空間側に、酸化マグネシウムの結晶粒子が複数個凝集した凝集粒子を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記凝集粒子は、酸化マグネシウムの凝集粒子の粒径が0.9μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−192502(P2011−192502A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57052(P2010−57052)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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