説明

プラズマディスプレイ前面パネル用色素およびこれを用いてなるプラズマディスプレイ前面パネル

【課題】 550〜620nm領域のオレンジ光をより選択的にかつ高い吸収能で吸収で
きる化合物を含む鮮明な画像が達成しうるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を提供
する。
【解決手段】 下記式(1):
【化1】


ただし、Z1〜Z12は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子を表わし;Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルキルチオアルコキシ基またはジアルキルアミノアルコキシ基を表わす、で示されるサブフタロシアニン化合物を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面パネル用色素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイ前面パネル用色素及びこれを用いてなるプラズマディスプレイ前面パネルに関するものである。特に、本発明は、570〜600nmの特定波長範囲の光の選択吸収能に優れるサブフタロシアニン化合物を含むプラズマディスプレイ前面パネル用色素及びこれを用いることにより鮮明な画像が可能であるプラズマディスプレイ前面パネルに関するものである。
【0002】
さらに、570〜600nmの光を選択的にかつ効果的に吸収できるサブフタロシアニン化合物及び750〜1200nmのより長波長側の近赤外線を選択的にかつ効果的に吸収できる近赤外線吸収色素を含むプラズマディスプレイ前面パネル用色素及びこれを用いることにより鮮明な画像が可能でありかつリモコンなどの誤動作を効果的に抑制できるプラズマディスプレイ前面パネルに関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、薄型で大画面に適用できるPDP(Plasma Display Panel)が注目されている。PDPは、プラズマ放電の際に近赤外線光が発生し、この近赤外線が家電用テレビ、クーラー、ビデオデッキ等の電気機器の誤動作を誘発することが問題となっている。
【0004】
このため、プラズマディスプレイ前面パネルに、可視光線透過率が高く、近赤外線光のカット効率が高く、かつ近赤外域の選択吸収能に優れる化合物を配合されている。このような化合物としては、特定構造のフタロシアニン化合物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、高度な近赤外線遮断性と可視光透過性を有する近赤外線遮断フィルムとして、透明樹脂フィルム層と、近赤外線吸収剤を含有する透明近赤外線遮断層と、透明樹脂フィルム層と、該遮断層の色調を補整する色材を含有する透明色調補整層とを積層して構成され、近赤外線吸収剤としてジイモニウム系化合物が使用される近赤外線遮断フィルムもまた報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記特許文献1及び2に開示される化合物は、近赤外線を吸収して、リモコン等の誤動作を抑制するものの、550〜620nmという短波長側のオレンジ光、特に580nm付近での光の吸収能が低い。このオレンジ光は、画像を不鮮明にする原因の一つである。このため、上記したような化合物を含む近赤外線吸収フィルターを用いたプラズマディスプレイ前面パネルは、画像が不鮮明になってしまうという問題が新たに生じてしまう。
【0006】
このような問題を解決するために、画像を不鮮明にするオレンジ光(550〜620nm領域)のみを選択的に吸収するが、他の可視光領域はほとんど吸収しない近赤外吸収フィルターが開発された(例えば、特許文献3、4参照)。
【0007】
これらのうち、特許文献3には、750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収色素(A色素)を1種以上含有し、かつ、575〜595nmに吸収極大波長を有し半値幅が40nm以下であるB色素を1種以上含有してなる厚さ1〜50ミクロンの樹脂層を透明基材上に形成した近赤外線吸収フィルムが開示されている。上記色素のうち、色素Aとしては、ジイモニウム系、ニッケルジチオレン錯体系、フタロシアニン系、シアニン系化合物が例示されている。
【0008】
また、ネオン発光の選択吸収性を有する色素、すなわち575〜595nmに吸収極大波長を有し半値幅が40nm以下である色素Bとしては、スクアリリウム系、シアニン系化合物が例示されている。
【0009】
また、特許文献4には、近赤外線吸収色素と、波長550〜620nmの領域のみを選択的に吸収する色素とを含有する透明樹脂塗膜を用いる近赤外線吸収材料が開示されている。上記色素のうち、近赤外線吸収色素としては、ジチオールニッケル錯体、ジイモニウム化合物、ポリメチン色素があり、オレンジ光(550〜620nm領域)を選択的に吸収する色素としては、シアニン色素が例示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2001−106689号公報
【特許文献2】特開2001−133624号公報
【特許文献3】特開2002−187229号公報
【特許文献4】特開2002−200711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献3、4に開示される、スクアリリウム系、シアニン系化合物は、確かに550〜620nm領域の光を吸収するが、この範囲の光の吸収が十分であるとはいいがたく、また、吸収の半値幅が広いため上記範囲を外れた波長域の光をも同時に吸収する、特に630nm付近の赤色光や545nm付近の緑色光を吸収してしまい、プラズマディスプレイパネルから必要なRGB光、特にR光やG光を十分取り出せず、十分な色純度が達成できないという問題がある。
【0012】
したがって、本発明は、上記諸事情を鑑みてなされたものであり、550〜620nm領域のオレンジ光をより選択的にかつ高い吸収能で吸収できる化合物を含む鮮明な画像が達成しうるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の他の目的は、570〜600nmというより狭い波長範囲の光を選択的に吸収しかつ570〜600nmでの最低透過率が40%以下という高い吸収能でオレンジ光を吸収できる化合物を含む近赤外線吸収フィルターを用いてなるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を提供することである。なお、本明細書において、「570〜600nmでの最低透過率」とは、570〜600nmの波長範囲における透過率の最低値を表わす。
【0014】
本発明のさらなる他の目的は、550〜620nm領域のオレンジ光をより選択的にかつ高い吸収能で吸収できる化合物に加えて、750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収化合物を含む鮮明な画像が達成できかつリモコン等の誤動作を防げるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、上記したような色素を含み、画像が鮮明であるプラズマディスプレイ前面パネルを提供することである。
【0016】
本発明のさらなる別の目的は、上記したような色素を含み、画像が鮮明でありかつリモコンの誤動作が起こらないプラズマディスプレイ前面パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記諸目的を達成するために様々な化合物について鋭意検討を行なった結果、サブフタロシアニン化合物に注目した。即ち、本願のサブフタロシアニン化合物は、570〜600nmというより狭い波長範囲の光を選択的に(即ち、40%以下の570〜600nmでの最低透過率で)吸収し、上記範囲以外の他の可視光については高い透過率(即ち、570〜600nmを除く400〜700nmでの高い透過率)を示し、このような化合物をプラズマディスプレイ前面パネルのフィルターに使用することによって、画像を鮮明にすることができることを見出した。
【0018】
また、本発明者らは、このようなサブフタロシアニン化合物は、溶媒溶解性や樹脂との相溶性、耐湿性、耐熱性、耐光性にも優れることをも見出した。上記知見に加えて、上記したようなサブフタロシアニン化合物に、750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収化合物を組み合わせて、プラズマディスプレイ前面パネルのフィルターに使用することによって、画像を鮮明にできることに加えて、所望の可視光領域における透過性は維持したまま、より長波長の近赤外線のみを吸収して、リモコンなどの誤動作を効果的に抑制できることをも見出した。
【0019】
なお、サブフタロシアニン化合物は、従来、520〜690nmの波長のレーザー光に対して記録・再生が可能である光記録媒体の記録層の色素として使用されること(特開平10−330633号公報)や液晶ディスプレイのカラー画素に使用される顔料として使用されること(特開2004−10838号公報)は知られていたが、本発明によるような特定の基を有するサブフタロシアニン化合物が上記したようなより狭い波長範囲の光を選択的にかつ効率よく吸収できることや、このような化合物がプラズマディスプレイ前面パネル用色素として好適に使用できることは知られていなかった。
【0020】
上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、下記式(1):
【0021】
【化1】

【0022】
ただし、Z1〜Z12は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子を表わし;Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルキルチオアルコキシ基またはジアルキルアミノアルコキシ基を表わす、で示されるサブフタロシアニン化合物を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面パネル用色素によって達成される。
【0023】
本発明の別の目的は、本発明の色素及び樹脂を含む近赤外線吸収フィルターを用いてなるプラズマディスプレイ前面パネルによって達成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明のプラズマディスプレイ前面パネル用色素は、上記式(1)のサブフタロシアニン化合物を含むことを特徴とするものである。本発明によるサブフタロシアニン化合物は、550〜620nm、特に570〜600nmの画像を不鮮明にする原因となるオレンジ光は選択的にかつ効率よく吸収するが、吸収の半値幅が33.5nm以下と極めて狭いことにより、RGB光、特に630nm付近のR光や波長の近いG光を初めとする他の可視光領域での透過性は高いレベルを維持するので、プラズマディスプレイ前面パネルの色素に使用される際に、プラズマディスプレイパネルから必要なRGB光の発光を妨げることなく、色純度を向上することができる。
【0025】
また、上記したように、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光をより選択的にかつ効率よく吸収できるので、プラズマディスプレイ前面パネルの色素に使用される際に、鮮明な画像を提供することができる。
【0026】
さらに、本発明によるサブフタロシアニン化合物を、特に750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収色素と組み合わせてプラズマディスプレイ前面パネルの近赤外線吸収フィルターの色素として使用することによって、オレンジ光のみを選択的にかつ効率よく吸収して、画像の鮮明度を向上させると同時に、これまで遮蔽が難しかったより長波長の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作をより効果的に抑制することができる。
【0027】
また上記利点に加えて、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、耐湿性、耐熱性、耐光性にも優れるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第一は、下記式(1):
【0029】
【化2】

【0030】
で示されるサブフタロシアニン化合物を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面パネル用色素に関するものである。これは、式(1)のサブフタロシアニン化合物が、550〜620nm、特に570〜600nmの特定領域のオレンジ光をより選択的にかつ効率よく吸収するという知見に基づいてなされたものである。
【0031】
このような特定構造を有するサブフタロシアニン化合物は、従来画像を不鮮明にする原因となるオレンジ光(550〜620nm)を吸収することが知られている色素に比べて、より狭い範囲、特に570〜600nmの光を選択的にかつ効率よく吸収でき、かつ吸収の半値幅が33.5nm以下と極めて狭く、RGB光等のその他の可視光(特に、630nm付近の純粋なR光や波長の近似しているG光)の透過をほとんど妨げない。
【0032】
このため、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、従来の色素を用いた場合に比べて、PDPの画像を鮮明にし、かつ色純度を向上することが可能である。また、式(1)のサブフタロシアニン化合物は、特に750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収色素と組み合わせてプラズマディスプレイ前面パネル用色素として使用することによって、オレンジ光(550〜620nm)のみを選択的にかつ効率よく吸収して、画像の鮮明度を向上させると同時に、これまで遮蔽が難しかったより長波長の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作をより効果的に抑制することができることも判明した。
【0033】
本発明によるサブフタロシアニン化合物は溶媒溶解性や樹脂との相溶性に優れるため、特に近赤外線吸収色素が有機溶剤溶解性および/または樹脂との相溶性に劣る場合には、近赤外線吸収色素の上記欠点を補うことができるという利点もある。加えて、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、耐候性(耐湿性、耐熱性、耐光性)にも優れるという利点をも有する。
【0034】
上記式(1)において、Z1〜Z12は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子を表わし、好ましくは3〜12個がハロゲン原子であり、特に好ましくは6〜12がハロゲン原子であり、最も好ましくは12個すべてがハロゲン原子であるのが好ましい。
【0035】
また、ハロゲン原子が複数個存在する場合には、ハロゲン原子の種類は、同一であってもあるいは異なるのもであっても良いが、同一である方が波長制御の点から好ましい。またこの際、ハロゲン原子はサブフタロシアニン骨格のいずれの位置に存在していてもよいが、好ましくは、ほぼ均等にまたは均等に、より好ましくは均等に存在するのが波長制御の点から好ましい。
【0036】
上記式(1)において、Z1〜Z12のハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子などがあり、合成が簡便にかつ安価に実施でき、水素原子や他のハロゲン原子に比して樹脂との相溶性に優れ、耐光性、耐熱性を向上するという効果もあるため、フッ素原子が好ましい。
【0037】
また、上記式(1)において、置換基を有してもよいアルキル基における非置換のアルキル基としては、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基があり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、3−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1−エチルブチル基、1,2,2−トリエチルブチル基、1,1,2−トリエチルブチル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1−イソプロピルプロピル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、1,4−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、t−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2,5−ジメチルヘキシル基、2,5,5−トリメチルペンチル基、2,4−ジメチルヘキシル基、2,2,4−トリメチルペンチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、4−エチルオクチル基、4−エチル−4,5−メチルヘキシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、1,3,5,7−テトラエチルオクチル基、4−ブチルオクチル基、6,6−ジエチルオクチル基、n−ペンタデシル基、3,5−ジメチルヘプチル基、2,6−ジメチルヘプチル基、2,4−ジメチルヘプチル基、2,2,5,5−テトラメチルヘキシル基、1−シクロヘキシル−2,2−ジメチルプロピル基などが挙げられる。
【0038】
これらのうち、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、より好ましくはメチル基及びエチル基である。
【0039】
該アルキル基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アラルキルアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基(−NO2)、アミノ基(−NH2)、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基などが例示できる。これらの置換基の種類は、複数個置換する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよい。
【0040】
この際、ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子などがあり、好ましくはフッ素原子である。
【0041】
また、置換基としてのアルコキシ基は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシ基であり、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などが挙げられる。これらのうち、メトキシ基、エトキシ基及びイソプロポキシ基が好ましく、より好ましくはメトキシ基及びエトキシ基である。
【0042】
置換基としてのヒドロキシアルコキシ基は、炭素原子数2〜20、好ましくは2〜12、より好ましくは炭素原子数2〜8の直鎖、分岐鎖または環状のヒドロキシアルコキシ基であり、具体的には、ヒドロキシエトキシ基などが挙げられる。
【0043】
置換基としてのアラルキルアルコキシ基は、炭素原子数6〜20、好ましくは6〜12、より好ましくは炭素原子数2〜8の直鎖、分岐鎖または環状のヒドロキシアルコキシ基であり、具体的には、ベンジルオキシ基、p−クロロベンジルオキシ基、p−メトキシベンジルオキシ基などが挙げられる。
【0044】
置換基としてのアルコキシアルコキシ基は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシアルコキシ基であり、具体的には、2−メトキシエトキシ基、1−メトキシブタン−2−イルオキシ基、1−メトキシブタン−1−イルオキシ基、1−メトキシプロパン−2−イルオキシ基、2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ基、2−エトキシエトキシ基、2−(エトキシエトキシ)エトキシ基、2−エトキシプロパン−2−イルオキシ基、2−iso−プロポキシエトキシ基、2−ブトキシエトキシ基、2−iso−ブトキシエトキシ基、2−t−ブトキシエトキシ基、2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ基などが挙げられる。
【0045】
置換基としてのハロゲン化アルキル基としては、炭素原子数1〜20、好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基の一部がハロゲン化されたものがあり、例えば、クロロメチル基、ブロモメチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、フルオロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基などが挙げられる。
【0046】
置換基としてのアルキルアミノ基は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜8のアルキルアミノ基であり、具体的には、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−ヘプチルアミノ基、n−オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−sec−ブチルアミノ基、ジ−n−ペンチルアミノ基、ジ−n−ヘキシルアミノ基、ジ−n−ヘプチルアミノ基、ジ−n−オクチルアミノ基などが挙げられる。これらのうち、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基及びn−ブチルアミノ基が好ましい。
【0047】
置換基としてのアルキルカルボニルオキシ基は、炭素原子数2〜20、好ましくは2〜12、より好ましくは炭素原子数2〜8のアルキルカルボニルオキシ基であり、具体的には、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、iso−ブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、n−ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、n−ヘプチルカルボニルオキシ基、3−ヘプチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
【0048】
置換基としてのアルキルチオ基は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜8のアルキルチオ基であり、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基などが挙げられる。
【0049】
置換基としてのアルコキシカルボニル基は、アルコキシ基のアルキル基部分にヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1〜8、好ましくは1〜5のアルコキシカルボニル、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数3〜8、好ましくは5〜8の環状アルコキシカルボニルを示す。具体的には、ヒドロキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、iso−プロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、iso−ブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基などが挙げられる。これらのうち、メトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基が好ましい。
【0050】
置換基としてのアルキルアミノカルボニル基は、炭素原子数2〜20、好ましくは2〜12、より好ましくは炭素原子数2〜8のアルキルアミノカルボニル基であり、具体的には、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、n−プロピルアミノカルボニル基、n−ブチルアミノカルボニル基、sec−ブチルアミノカルボニル基、n−ペンチルアミノカルボニル基、n−ヘキシルアミノカルボニル基、n−ヘプチルアミノカルボニル基、n−オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジ−n−プロピルアミノカルボニル基、ジ−n−ブチルアミノカルボニル基、ジ−sec−ブチルアミノカルボニル基、ジ−n−ペンチルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘキシルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘプチルアミノカルボニル基、ジ−n−オクチルアミノカルボニル基などが挙げられる。
【0051】
置換基としてのアルコキシスルホニル基は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜8のアルコキシスルホニル基であり、具体的には、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基などが挙げられる。
【0052】
本発明において、Z1〜Z12の組み合わせは、オレンジ光以外の可視光の透過率は高いレベルを維持したまま、550〜620nm領域のオレンジ光、特に570〜600nmという狭い範囲の光のみを選択的に(即ち、40%以下の570〜600nmでの最低透過率で)カットでき、かつ吸収の半値幅が33.5nm以下と極めて狭くでき、RGB光等のその他の可視光、特に、630nm付近の純粋なR光や波長の近似しているG光の透過をほとんど妨げることがないものであれば特に制限されないが、好ましくは、Z1〜Z12が、ハロゲン原子のみから構成されることが好ましい。
【0053】
さらに、上記式(1)において、Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基(−OH)、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルキルチオアルコキシ基またはジアルキルアミノアルコキシ基を表わす。この際、ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子などがある。
【0054】
また、置換基「X」としてのアルコキシ基は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシ基であり、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、3−メチルペンタン−2−イルオキシ基、3−メチルペンタン−3−イルオキシ基、4−メチルペントキシ基、4−メチルペンタン−2−イルオキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−イソプロピルプロポキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、3,3−ジメチルブタン−2−イルオキシ基、2−メチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,4−ジメチルペンタン−3−イルオキシ基、1,1−ジメチルペンタン−1−イルオキシ基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、2−メチルヘプトキシ基、2−メチルヘプタン−2−イルオキシ基、3−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−4−イルオキシ基、2−メチルオクタン−3−イルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、4−メチルシクロヘキシルオキシ基、4−エチルシクロヘキシルオキシ基、2−n−プロピルシクロヘキルオキシ基、4−t−ブチルシクロヘキルオキシ基、アダマンタン−1−イルオキシ基、ボルネオル基などが挙げられる。
【0055】
これらのうち、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基及びn−オクチルオキシ基が好ましい。
【0056】
置換基「X」としてのアルコキシアルコキシ基は、炭素原子数2〜12、より好ましくは炭素原子数2〜8の直鎖または分岐鎖のアルコキシアルコキシ基が好ましい。具体的には、2−メトキシエトキシ基、1−メトキシブタン−2−イルオキシ基、1−メトキシブタン−1−イルオキシ基、1−メトキシプロパン−2−イルオキシ基、2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ基、2−エトキシエトキシ基、2−(エトキシエトキシ)エトキシ基、2−エトキシプロパン−2−イルオキシ基、2−iso−プロポキシエトキシ基、2−ブトキシエトキシ基、2−iso−ブトキシエトキシ基、2−t−ブトキシエトキシ基、2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ基等が挙げられる。
【0057】
置換基「X」としてのアルキルチオアルコキシ基は、炭素原子数2〜12、より好ましくは炭素原子数2〜8の直鎖または分岐鎖のアルキルチオアルコキシ基が好ましい。具体的には、2−メチルチオエトキシ基、2−エチルチオエトキシ基、2−n−プロピルチオエトキシ基、2−iso−プロピルチオエトキシ基、2−n−ブチルチオエトキシ基、2−iso−ブチルチオエトキシ基、3−メチルチオプロポキシ基、4−エチルチオブトキシ基、4−ブチルチオブトキシ基等が挙げられる。
【0058】
置換基「X」としてのジアルキルアミノアルコキシ基は、炭素原子数3〜12、より好ましくは炭素原子数3〜8の直鎖または分岐鎖のジアルキルアミノアルコキシ基が好ましい。具体的には、2−ジメチルアミノエトキシ基、2−(2−ジメチルアミノエトキシ)エトキシ基、4−ジメチルアミノブトキシ基、1−ジメチルアミノプロパン−2−イルオキシ基、2−ジエチルアミノエトキシ基、2−(2−ジエチルアミノエトキシ)エトキシ基、3−ジエチルアミノプロポキシ基、1−ジエチルアミノプロポキシ基、2−ジ−iso−プロピルアミノエトキシ基、2−ジ−n−ブチルアミノエトキシ基が挙げられる。
上記置換基「X」の例示のうち、特にハロゲン原子が好ましい。
【0059】
本発明によるサブフタロシアニン化合物は、オレンジ光(550〜620nm)を40%以下の570〜600nmでの最低透過率と選択的にかつ効率よく吸収することができる。550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光の選択吸収性が低いと、画像が不鮮明になるおそれがある。このため、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、以下に詳述するが、近赤外線吸収フィルターに加工した場合の透過率の低下が550〜620nm、特に570〜600nmの波長範囲で起こることが好ましい。透過率の低下が上記範囲を逸脱すると、純粋なR光(630nm)の透過やオレンジ光の波長に近いG光の透過を妨げるおそれがあり、R光やG光を十分取り出せず、十分な色純度が達成できないおそれがあるからである。また、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、以下に詳述するが、近赤外線吸収フィルターに加工した場合に、570〜600nmでの最低透過率が40%以下、より好ましくは35%以下、最も好ましくは30%以下であることが好ましい。上記範囲を逸脱すると、オレンジ光を十分吸収できずに、画像を不鮮明にするおそれがあるからである。
【0060】
本発明によるサブフタロシアニン化合物は、吸収の半値幅が33.5nm以下と極めて狭い。このため、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、RGB光等のその他の可視光、特に、630nm付近の純粋なR光や波長の近似しているG光の透過をほとんど妨げない。この際、サブフタロシアニン化合物は、吸収の半値幅が33.5nmを超えると、オレンジ光の波長範囲である550〜620nm、特に570〜600nm以外の波長、特に630nmのR光及びオレンジ光の波長に近いG光の透過が妨げられるおそれがあり、R光やG光を十分取り出せず、十分な色純度が達成できないおそれがあるからである。また、本発明によるサブフタロシアニン化合物の吸収の半値幅は、33.5nm以下、より好ましくは32nm以下、最も好ましくは31.5nm以下であることが好ましい。
【0061】
上記した式(1)のサブフタロシアニン化合物の製造方法は、特に制限することなく、特開平10−330633号公報、特開2004−10838号公報、特表2003−500510号公報などに記載される方法など、公知の方法と同様にしてあるいは上記方法を修飾した方法を用いることができる。以下、本発明によるサブフタロシアニン化合物の製造方法の好ましい実施態様を説明する。
【0062】
すなわち、まず、適当な溶媒中で、下記式(2):
【0063】
【化3】

【0064】
で示されるフタロニトリル誘導体をホウ素ハロゲン化物と反応させて、下記式(3)
【0065】
【化4】

【0066】
ただし、Yは、ハロゲン原子を示す、
で示されるホウ素原子にハロゲン原子が配位したサブフタロシアニンを得る(第一段階)。なお、上記式(2)において、置換基Zは、本発明によるサブフタロシアニン化合物を示す式(1)中の置換基Z1〜Z12によって適宜選択される。また、式(1)において、Xがハロゲン原子である場合には、上記第一段階によって製造される式(3)のサブフタロシアニンが、目的とする本発明のサブフタロシアニン化合物として得られる。
【0067】
次に、このようにして得られた式(3)のサブフタロシアニンを、式(4):X−OHで示されるアルコールと反応させて、サブフタロシアニン中のYをXに置換して、ホウ素原子に置換基Xが配位した式(1)のサブフタロシアニン化合物を得る(第二段階)。
【0068】
出発原料である式(2)のフタロニトリル誘導体は、特に制限されないが、ビスフルオロフタロニトリル、トリフルオロフタロニトリル、テトラフルオロフタロニトリル、ビスクロロフタロニトリル、トリクロロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリル、テトラブロモフタロニトリルなどが好ましく使用され、テトラフルオロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリルが特に好ましく使用される。
【0069】
上記第一段階において使用されるホウ素ハロゲン化物としては、式(2)のフタロニトリル化合物との反応が効率よく進行できるものであれば特に制限されないが、例えば、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素、三ヨウ化ホウ素などが挙げられる。これらのうち、三臭化ホウ素及び三塩化ホウ素が好ましく使用される。また、ホウ素ハロゲン化物の使用量もまた、式(2)のフタロニトリル化合物との反応が効率よく進行して、所望の式(3)のサブフタロシアニンが効率よく生成する量であれば特に制限されないが、式(2)のフタロニトリル化合物1モルに対して、好ましくは0.3〜3.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モルである。
【0070】
また、上記第一段階は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。上記第一段階において使用される溶媒としては、出発原料である式(2)のフタロニトリル化合物及びホウ素ハロゲン化物ならびに生成物である式(3)のサブフタロシアニンに対して反応性の低い、好ましくは不活性でありかつフタロニトリル化合物とホウ素ハロゲン化物との反応を効率よく進行できるものであれば特に制限されないが、例えば、トリクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ナフタレン、クロロナフタレン、ニトロベンゼン、スルフォラン、キノリン等の高沸点溶媒などが挙げられる。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。溶媒の使用量は、フタロニトリル化合物とホウ素ハロゲン化物との反応を効率よく進行できるものであれば特に制限されないが、フタロニトリル化合物の濃度が、通常、10〜60(w/v)%、好ましくは20〜40(w/v)%となるような量である。
【0071】
上記第一段階の反応条件は、フタロニトリル化合物とホウ素ハロゲン化物との反応が効率よく進行する条件であれば特に制限されない。例えば、反応温度は、好ましくは100〜240℃、より好ましくは130〜190℃であり、反応時間は、好ましくは1〜12時間、より好ましくは1〜5時間である。また、反応は、常圧あるいは加圧下で行われてもよいが、通常、常圧下で行なわれる。
【0072】
なお、上記第一段階における反応は、フタロニトリル化合物とホウ素ハロゲン化物との反応を促進して式(3)のサブフタロシアニンの生成量を増加することを目的として、触媒の存在下で行われてもよい。この際使用できる触媒としては、特に制限されないが、例えば、ピリジン、ピコリン、トリエチルアミン、N−メチルピロリドン、1,5−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン(DBU)等の有機塩基などが挙げられる。また、触媒を使用する際の触媒の使用量は、フタロニトリル化合物とホウ素ハロゲン化物との反応を促進できる量であれば特に制限されないが、フタロニトリル化合物1モルに対して、0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜2モルである。
【0073】
このようにして形成された式(3)のサブフタロシアニンを精製するには、サブフタロシアニンをあまり溶かさず、不純物の未反応物や副生成物を溶解する貧溶媒中に上記反応生成物を投入して、あるいは貧溶媒を上記反応生成物に投入して、所望のサブフタロシアニンを晶析する方法が使用できる。
【0074】
このようにして得られた晶析物をさらに貧溶媒で攪拌、洗浄することによって、さらに目的物であるサブフタロシアニンの純度を上げることができる。上記方法において使用できる貧溶媒としては、サブフタロシアニンをあまり溶かさず、不純物の未反応物や副生成物を溶解できるものであれば特に制限されないが、例えば、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトニトリル、アセトン等の水溶性溶媒が挙げられる。また、上記貧溶媒は単独で使用できるが、目的とするサブフタロシアニンの溶解性が高くて精製が困難である場合には、サブフタロシアニンの析出を向上する目的で、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%の水を上記貧溶媒に混合したものを、上記晶析、攪拌及び洗浄工程で使用することが好ましい。
【0075】
このようにして形成された式(3)のサブフタロシアニンを前駆体として次の第二段階に使用する場合には、サブフタロシアニンは、そのまま反応液の形態で使用されても、あるいは上記したような濾過、洗浄、乾燥などの公知の精製手段によって精製した後使用されてもよいが、反応の手間などを考慮すると、第二段階にそのまま使用することが好ましい。
【0076】
第二段階において使用される式(4):X−OHで示されるアルコールは、式(3)のサブフタロシアニンと反応して、サブフタロシアニン中のYが効率よくXに置換されて、ホウ素原子に置換基Xが配位した所望の式(1)のサブフタロシアニン化合物が得られるものであれば特に制限されないが、例えば、2−メチル−2−ヘキサノ−ル、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、1,1−ジメチル−1−ペンタノール、2,2−ジメチル−3−ヘキサノール、2,5−ジメチル−2−ヘキサノール、2,5−ジメチル−3−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−メチルヘプタノール、2−メチル−2−ヘプタノール、3−メチル−3−ヘプタノール、4−メチル−4−ヘプタノール、2−メチル−3−オクタノール、2−メトキエタノール、1−メトキ−2−ブタノール、1−メトキ−1−ブタノール、1−メトキ−2−プロパノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−エトキシエタノール、2−(エトキシエトキシ)エタノール、1−エトキ−2−プロパノール、2−iso−プロピルオキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−iso−ブトキシエタノール、2−tert−ブトキシエタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−ジメチルアミノエタノール、2−(2−ジメチルアミノエトキシ)エタノール、4−ジメチルアミノ−1−ブタノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−(2−ジエチルアミノエトキシ)エタノール、3−ジエチルアミノプロパノール、1−ジエチルアミノプロパノール、2−ジ−iso−プロピルアミノエタノール、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、2−メチルチオエタノール、2−エチルチオエタノール、2−n−プロピルチオエタノール、2−iso−プロピルチオエタノール、2−n−ブチルチオエタノール、2−iso−ブチルチオエタノール、1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、テトラハイドロフルフリルアルコール、ボルネオール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、2−エチルシクロヘキサノール、4−エチルシクロヘキサノール、2−n−プロピルシクロヘキサノール、4−tert−ブチルシクロヘキサノールなどが挙げられる。なお、上記アルコールは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0077】
また、上記アルコールの添加量は、式(3)のサブフタロシアニンと効率よく反応して所望のサブフタロシアニン化合物を十分量生成できる量であれば特に制限されない。
【0078】
上記第二段階において、式(3)のサブフタロシアニンとアルコールとの反応は、式(3)のサブフタロシアニンを精製せずに用いる場合には、上記第一段階で使用した溶媒をそのまま使用して若しくは同様の溶媒を添加して行なっても、または他の溶媒を併用して行なっても、または他の溶媒に置換して行なってもよい。他の溶媒を併用するまたは他の溶媒に置換する場合において使用できる溶媒は、原料である式(3)のサブフタロシアニン及びアルコール、ならびに生成物である式(1)のサブフタロシアニン化合物に対して反応性の低い、好ましくは不活性でありかつこれらの反応を効率よく進行できるものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが使用できる。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。溶媒の使用合計量は、サブフタロシアニンとアルコールとの反応を効率よく進行できるものであれば特に制限されないが、サブフタロシアニンの濃度が、通常、10〜60(w/v)%、好ましくは20〜50(w/v)%となるような量である。
【0079】
上記第二段階の反応条件は、式(3)のサブフタロシアニンとアルコールとの反応が効率よく進行する条件であれば特に制限されない。例えば、反応温度は、好ましくは10〜150℃、より好ましくは50〜100℃であり、反応時間は、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜12時間である。また、反応は、常圧あるいは加圧下で行われてもよいが、通常、常圧下で行なわれる。
【0080】
このようにして形成された式(1)のサブフタロシアニン化合物は、前述のサブフタロシアニンの精製について詳述したのと同様の方法によって精製されてもよいが、反応後に、反応液より溶媒を溜去し、残渣を再結晶或いはカラムクロマトグラフィーにより精製することによって、目的とする式(1)のサブフタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よくかつ高純度で得てもよい。
【0081】
上記したようなおよび/または上記方法によって得られる本発明によるサブフタロシアニン化合物は、RGB光を初めとする所望の可視光領域はほとんどまたは全く吸収せずに透過し、550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光を選択的にかつ効率よく(即ち、40%以下の570〜600nmでの最低透過率で)吸収でき、さらに吸収の半値幅が33.5nm以下と極めて狭いため、RGB光等のその他の可視光、特に、630nm付近の純粋なR光や波長の近似しているG光の透過をほとんど妨げないので、プラズマディスプレイ前面パネルの色素に使用される際に、プラズマディスプレイパネルから必要なRGB光の発光を妨げることなく、色純度を向上することができ、また、画面を鮮明にすることができる。
【0082】
また、本発明のプラズマディスプレイ前面パネル用色素は、上記サブフタロシアニン化合物に加えて、少なくとも1種の750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収化合物をさらに含むことが好ましい。このような化合物をさらに含ませることによって、従来遮蔽が難しいとされるより長波長側の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作をより効果的に抑制できるという効果を同時に達成できるからである。
【0083】
上記態様で使用できる近赤外線吸収化合物は、750〜1200nmに吸収極大波長を有するものであれば特に制限されず、公知の化合物が使用できる。この際、近赤外線吸収化合物が550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光の吸収が低い場合には、本発明によるサブフタロシアニン化合物の効果が特に効果的に発揮でき、好ましい。
【0084】
近赤外線吸収化合物は、単独で使用されてもよいが、2種以上の混合物の形態で使用されることが好ましい。より好ましくは、750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収化合物は、少なくとも1種の900〜1100nmに吸収極大波長を有する色素(以下、「色素A」と称する)及び少なくとも1種の800〜900nmに吸収極大波長
を有する色素(以下、「色素B」と称する)から構成される。
【0085】
本発明において、色素Aとしては、900〜1100nmに吸収極大波長を有するものであれば特に制限されず、公知の化合物が使用できるが、好ましくはジイモニウム系化合物及びフタロシアニン化合物が使用される。これらのうち、ジイモニウム系化合物の具体例としては、特開2001−174626号、特開2003−114323号、特開2002−303720号、特開2002−138203号、特開2002−178639号、特開平10−180922号公報などに開示されるジイモニウム系化合物が挙げられる。
【0086】
または、ジイモニウム系化合物は、市販品を使用してもよく、例えば、日本化薬(株)製の“IRG−022”や“IRG−040”、日本カーリット(株)製の“CIR−1081”などがある。また、フタロシアニン化合物の具体例としては、特開2004−18561号、特開2002−822193号、特開2001−133623号、特開2001−106689号、特開2000−26748号、特開2000−63693号、特開平10−182995号公報などに開示されるフタロシアニン化合物などが挙げられる。
【0087】
または、フタロシアニン化合物は、市販品を使用してもよく、例えば、(株)日本触媒製の、Excolor IR−1、Excolor IR−2、Excolor 801K、Excolor 802K、Excolor 803K、Excolor 810K、Excolor 812K、Excolor IR−10、Excolor IR−10A、Excolor IR−14、Excolor IR−12、TX−EX810K;三井東圧染料社製の、SIR−159などある。なお、上記色素Aは、単独で使用されてあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0088】
また、色素Bとしては、800〜900nmに吸収極大波長を有するものであれば特に制限されず、公知の化合物が使用できるが、好ましくは金属錯体、金属化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、シアニン化合物などが挙げられる。これらのうち、金属錯体の具体例としては、特開2003−262719号公報に開示されるニッケル、白金、パラジウム及び銅錯体化合物;特開2001−174626号公報に開示される銅錯体;特開平9−230134号、特開平10−217380号、特開2002−132176号、特開2002−303720号公報に開示されるジチオール金属錯体系化合物などが挙げられる。また、金属化合物の具体例としては、特開2001−174626号公報に開示される銅化合物などが挙げられる。フタロシアニン化合物の具体例としては、上記色素Aで列挙されたものに加えて、特開平9−249814号、特開平10−78509号、特開平11−269399号、特開2000−229980号、特開2002−123180号、特開2003−222721号、特開2004−126262号公報などに開示されるフタロシアニン化合物などが挙げられる。ナフタロシアニン化合物の具体例としては、特開2003−222721号、特開2002−114790号、特開2002−123180号公報などに開示されるナフタロシアニン化合物などが挙げられる。シアニン化合物の具体例としては、特開2003−173020号公報、特開2001−305722号公報などに開示されるシアニン化合物が挙げられる。
【0089】
これらのうち、金属錯体、金属化合物、シアニン化合物及び特開平9−249814号、特開平10−78509号、特開平11−269399号、特開2000−229980号、特開2002−123180号、特開2003−222721号、特開2004−126262号公報などに開示されるフタロシアニン化合物、特に金属錯体や金属化合物は、550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光の吸収が低く、また、有機溶剤への溶解性や樹脂に対する相溶性が低いという欠点がある。前者の欠点に対しては、上述したように、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光を選択的にかつ効率よく吸収できるため、上記色素Bの欠点を効果的に補うことができる。
【0090】
また、後者の欠点に対しても、上述したように、本発明によるサブフタロシアニン化合物は優れた溶媒溶解性や樹脂との相溶性を有するため、上記したような色素Bを使用する際には、本発明によるサブフタロシアニン化合物を使用することによって、色素全体としての溶解性を上げることができ、上記欠点を補うことができる。このため、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、上記したようなオレンジ光の吸収が低いあるいは有機溶剤への溶解性や樹脂に対する相溶性が低い色素Bを使用する際に、特に効果を発揮する。なお、上記色素Bは、単独で使用されてあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0091】
上記態様において、色素AおよびBの配合割合は、長波長の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作をより効果的に抑制できる割合であれば特に制限されないが、色素A及び色素Bの質量比は、好ましくは0.1〜6:1、より好ましくは0.7〜4:1である。
【0092】
また、本発明のプラズマディスプレイ前面パネル用色素が近赤外線吸収化合物をさらに含む場合の、式(1)のサブフタロシアニン化合物と近赤外線吸収化合物との配合割合もまた、画像を不鮮明にする原因となるオレンジ光(550〜620nm)を選択的にかつ効率よく吸収し、さらに長波長の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作をより効果的に抑制できる割合であれば特に制限されないが、式(1)のサブフタロシアニン化合物及び近赤外線吸収化合物の質量比は、好ましくは1:1〜10、より好ましくは1:3〜5である。この際、サブフタロシアニン化合物の配合割合が1:10を下回ると、長波長の近赤外線は十分吸収できるものの、サブフタロシアニン化合物の配合量が不十分であり、オレンジ光(550〜620nm)を十分吸収できず、画像が不鮮明になるおそれがある。これに対して、近赤外線吸収化合物の配合割合が1:1を下回ると、オレンジ光(550〜620nm)は十分吸収されて、画像は鮮明であるものの、長波長の近赤外線を有効に吸収できず、リモコンなどの誤動作が起こるおそれがある。
【0093】
本発明の第二は、上記したような本発明の色素及び樹脂を含む近赤外線吸収フィルターを用いてなる、プラズマディスプレイ前面パネルに関するものである。上述したように、本発明によるサブフタロシアニン化合物は、従来画像を不鮮明にする原因となるオレンジ光(550〜620nm)を吸収することが知られている色素に比べて、より狭い範囲、特に570〜600nmの光を40%以下の570〜600nmでの最低透過率と選択的にかつ効率よく吸収でき、かつ吸収の半値幅が33.5nm以下と極めて狭く、RGB光等のその他の可視光(特に、630nm付近の純粋なR光や波長の近似しているG光)の透過をほとんどまたは全く妨げないという特性を有する。
【0094】
このため、本発明によるサブフタロシアニン化合物を近赤外線フィルターに含ませたものをプラズマディスプレイ前面パネルの近赤外線フィルターに使用することによって、PDPの画像の鮮明さが有意に向上できる。また、サブフタロシアニン化合物に加えて750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収色素をさらに近赤外線フィルターに含ませることによって、上記利点に加えて、遮蔽が難しいとされるより長波長側の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作をより効果的に抑制することができる。
【0095】
このため、このような近赤外線フィルターを用いたプラズマディスプレイは、画像が鮮明であり、かつ周辺電子機器のリモコン、伝送系光通信等が使用する波長に悪影響を与えず、それらの誤動作を防ぐことができる。
【0096】
本発明による近赤外線吸収フィルターにおいて、プラズマディスプレイ前面パネル用色素の樹脂への添加量は、上記利点を効果的に発揮できる量であれば特に制限されないが、樹脂100質量部に対して、0.5〜15質量部、より好ましくは3〜8質量部のプラズマディスプレイ前面パネル用色素が樹脂に添加される。この際、色素の量が0.5質量部未満であると、色素の量が不十分であり、オレンジ光(550〜620nm)を十分吸収できず、RGB光等のその他の可視光をも吸収して、画像が不鮮明になるおそれがあり、また、近赤外線吸収化合物をさらに含む場合には、長波長の近赤外線を有効に吸収できず、リモコンなどの誤動作が起こるおそれがある。
【0097】
本発明による近赤外吸収フィルターは、少なくとも上記プラズマディスプレイ前面パネル用色素を基材に含有するが、本発明でいう「基材に含有する」とは、基材の内部に含有される他、基材の表面に塗布した状態、基材と基材の間に挟まれた状態なども意味する。
【0098】
基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス等が挙げられる。上記プラズマディスプレイ前面パネル用色素を用いて、本発明による近赤外吸収フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の3つの方法が利用できる。
【0099】
すなわち、(i)樹脂に、本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を混練し、加熱成形して樹脂板あるいはフィルムを作製する方法;(ii)本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を含有する塗料(液状ないしペースト状物)を作製し、透明樹脂板、透明フィルムあるいは透明ガラス板上にコーティングする方法;および(iii)本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する方法等である。
【0100】
まず、上記(i)の方法において、樹脂材料としては、樹脂板または樹脂フィルムにした場合にできるだけ透明性の高いものが好ましく、具体例としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、およびそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体などのビニル化合物またはフッ化系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができるが、これらの樹脂に限定されるものではなく、ガラス代替となるような高硬度、高透明性を有する樹脂、チオウレタン系等の熱硬化樹脂、ハルスハイブリッド IR−G205(株式会社日本触媒製)、特開2002−249721号に記載される樹脂、ARTON(日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることも好ましい。
【0101】
用いるベース樹脂によって、加工温度、フィルム化条件等が多少異なるが、通常、(ア)本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を、ベース樹脂の粉体あるいはペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、(イ)押出機によりフィルム化する方法、および(ウ)押出機により原反を作製し、30〜120℃で2〜5倍に、1軸ないし2軸に延伸して10〜200μm厚のフィルムにする方法等がある。なお、混練する際に、紫外線吸収剤、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる添加剤を加えてもよい。本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素の添加量は、作製する樹脂の厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、通常、0.01〜5質量%である。また、本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素とメタクリル酸メチルなどの塊状重合によるキャスティング法を用いた樹脂板、樹脂フィルムを作製することもできる。
【0102】
上記(ii)の方法としては、本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素をバインダー樹脂および有機系溶媒に溶解させて塗料化する方法、本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を数μm以下に微粒化してアクリルエマルジョン中に分散して水系塗料とする方法等がある。
【0103】
前者の方法では、通常、脂肪族エステル系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル系変成樹脂、(PVB、EVA等)あるいはそれらの共重合樹脂をバインダー樹脂として用いる。さらに、ARTON(日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることもできる。溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系溶媒、あるいはそれらの混合物系などを用いることができる。
【0104】
本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素の濃度は、コーティングの厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、バインダー樹脂の重量に対して、通常、0.1〜15質量%である。また、バインダー樹脂濃度は、塗料全体に対して、通常、1〜50重量%である。アクリルエマルション系水系塗料の場合も同様に、未着色のアクリルエマルション塗料に本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を950〜500nmのサイズに微粉砕したものを分散させて得られる。塗料中には、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の通常塗料に用いるような添加物を加えてもよい。
【0105】
上記の方法で作製した塗料は、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にバーコーダー、ブレードコーター、スピンコーター、リバースコーター、ダイコーターあるいはスプレーなどでコーティングして、本発明による近赤外吸収フィルターを作製することができる。コーティング面を保護するために保護層を設けたり、透明樹脂板、透明樹脂フィルム等をコーティング面に貼り合わせることもできる。また、キャストフィルムも本方法に含まれる。
【0106】
上記(iii)の方法では、接着剤として、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系等の樹脂用あるいは合わせガラス用のポリビニルブチラール接着剤(PVA)、エチレン−酢酸ビニル系接着剤(EVA)等の合わせガラス用の公知の透明接着剤が使用できる。本発明によるプラズマディスプレイ前面パネル用色素を0.1〜15質量%添加した接着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着してフィルターを製作する。また、熱圧着する方法もある。
【0107】
さらに、上記の方法で作製したフィルムあるいは板を、必要に応じて、ガラスや、樹脂板上に貼り付けることもできる。フィルターの厚みは作製するプラズマディスプレーの仕様によって異なるが、通常、0.1〜10mm程度である。また、フィルターの耐光性を上げるためにUV吸収剤を含有した透明フィルム(UVカットフィルム)を外側に貼り付けることもできる。
【0108】
本発明による近赤外吸収フィルターは、オレンジ光(550〜620nm)を選択的にかつ効率よく吸収し、さらに長波長の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作を防止するプラズマディスプレー用のフィルターとして、ディスプレーの前面に設置することができる。550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光の選択吸収性が低いと、画像が不鮮明になるおそれがある。
【0109】
このため、本発明による近赤外線吸収フィルターの透過率の低下が570〜600nmの波長範囲で起こり、570〜600nmでの最低透過率が40%以下である本発明による近赤外吸収フィルターは、オレンジ光(550〜620nm)を選択的にかつ効率よく吸収することができ、吸収の半値幅が33.5nm以下と極めて狭く、RGB光等のその他の可視光(特に、630nm付近の純粋なR光や波長の近似しているG光)の透過をほとんど妨げない。550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光の選択吸収性が低いと、画像が不鮮明になるおそれがある。このため、本発明による近赤外吸収フィルターは、透過率の低下が550〜620nm、特に570〜600nmの波長範囲で起こることが好ましい。透過率の低下が上記範囲を逸脱すると、630nm付近の純粋なR光やオレンジ光の波長に近いG光の透過を妨げるおそれがあり、R光やG光を十分取り出せず、十分な色純度が達成できないおそれがあるからである。
【0110】
また、本発明による近赤外吸収フィルターは、570〜600nmでの最低透過率が40%以下、より好ましくは35%以下、最も好ましくは30%以下であることが好ましい。上記範囲を逸脱すると、オレンジ光を十分吸収できずに、画像を不鮮明にするおそれがあるからである。
【0111】
本明細書において、透過率は、下記実施例に記載するのと同様にして試片を調製し、この試片について分光光度計(島津製作所製:UV−3100)を用いて測定された透過率を意味する。「透過率の低下が570〜600nmの波長範囲で起こる」とは、570nm及び600nm前後で、透過率が、それぞれ、40%以上低下していることを意味する。
【0112】
また、本発明による近赤外吸収フィルターは、可視光線の透過率が低いと、画像の鮮明さが低下するため、フィルターの可視光線の透過率は高いほど良く、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。また、上述したように、近赤外吸収フィルターは近赤外線光をカットしてリモコンなどの誤動作をより効果的に抑制できることが好ましく、この際、近赤外線光のカット領域は、リモコンや伝送系光通信に使用されている750〜1200nm、より好ましくは750〜1100nm、特に好ましくは800〜1000nmであることが好ましく、また、その領域の平均光線透過率が20%以下、より好ましくは10%以下であることが好ましい。
【0113】
また、フィルターの色調を変えるために、可視領域に吸収を持つ他の色素を加えることも好ましい。また、色調用色素のみを含有するフィルターを作製し、後で貼り合わせることもできる。特にスパッタリングなどの電磁波カット層を設けた場合、元のフィルター色に比べて色合いが大きく異なる場合があるため、色調は重要である。
【0114】
上記の方法で得たフィルターをさらに実用的にするためには、プラズマティスプレーから出る電磁波を遮断する電磁波カット層、反射防止(AR)層、ノングレア(AG)層を設けることもできる。それらの作製方法は、特に制限されない。
【0115】
例えば、電磁波カット層は、金属酸化物等のスパッタリング方法が利用できるが、通常はSnを添加したIn2O3(ITO)が、一般的であるが、誘電体層と金属層を基材上に交互にスパッタリングなどで積層させることで、近赤外線、遠赤外線から電磁波まで1100nm以上の光をカットすることもできる。誘電体層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛などの透明な金属酸化物であり、金属層としては、銀あるいは銀−パラジウム合金が一般的であり、通常、誘電体層よりはじまり3層、5層、7層あるいは11層程度積層する。この場合、ディスプレーより出る熱も同時にカットできるが、本発明のプラズマディスプレイ前面パネル用色素は、熱線遮蔽効果にも優れるため、より耐熱効果を向上できる。基材としては、本発明のフタロシアニン化合物を含有するフィルターをそのまま利用してもよいし、樹脂フィルムあるいはガラス上にスパッタリングした後に本発明のプラズマディスプレイ前面パネル用色素を含有するフィルターとはり合わせてもよい。
【0116】
また、電磁波カットを実際に行う場合は、アース用の電極を設置する必要がある。反射防止層は、表面の反射を抑えてフィルターの透過率を向上させるために、金属酸化物、フッ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、硫化物等の無機物を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法等で単層あるいは多層に積層させる方法、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させる方法等がある。また、反射防止処理を施したフィルムを該フィルター上に貼り付けることもできる。また、必要であれば、ノングレアー(AG)層を設けることもできる。
【0117】
ノングレアー(AG)層は、フィルターの視野角を広げる目的で、透過光を散乱させるために、シリカ、メラミン、アクリルなどの微粉体をインキ化して、表面にコーティングする方法等を用いることができる。インキの硬化は、熱硬化あるいは光硬化等を用いることができる。また、ノングレアー処理をしたフィルムを該フィルター上にはり付けることもできる。さらに必要であれば、ハードコート層を設けることもできる。
【0118】
プラズマティスプレー用のフィルターの構成は、必要に応じて代えることができる。通常、本発明の色素及び必要であれば近赤外線吸収化合物を含有する近赤外線吸収フィルター上に反射防止層を設けたり、さらに必要であれば、反射防止層の反対側にノングレア層を設ける。また、電磁波カット層を組み合わせる場合は、近赤外線吸収フィルターを基材として、その上に電磁波カット層を設けるか、あるいは近赤外線吸収フィルターと電磁波カット能を有するフィルターを貼り合わせて作製できる。その場合、さらに、両面に反射防止層を作製するか、必要であれば、片面に反射防止層を作製し、その反対面にノングレア層を作製することもできる。また、色補正するために、可視領域に吸収を有する色素を加える場合は、その方法については制限を受けない。
【0119】
本発明による近赤外吸収フィルターは、従来画像を不鮮明にする原因となるオレンジ光(550〜620nm)、特に570〜600nmの光は選択的にかつ効率よく吸収するが、RGB光等のその他の可視光(特に、波長の近似しているG光)の透過をほとんどまたは全く妨げないため、本発明のプラズマディスプレイ前面パネルは、画像が非常に鮮明である。 また、上述したように、本発明による近赤外線吸収フィルターは、可視光線透過率が高いため、ディスプレーの鮮明度が損なわれず、十分な色純度が確保できる。
【0120】
また、本発明による近赤外線吸収フィルターが近赤外線吸収化合物をさらに含む場合には、ディスプレーから出る750〜1200nm、特に800〜1000nm付近の近赤外線光を効率よくカットするため、周辺電子機器のリモコン、伝送系光通信等が使用する波長に悪影響を与えず、それらの誤動作を防ぐことができる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を、実施例を参照しながらより詳細に説明する。なお、本明細書でいう最大吸収波長(λmax)、吸収の半値幅及び分光透過率は、下記方法によって測定された値である。また、下記実施例において、「SubPc」は、サブフタロシアニンを表わす。
【0122】
<最大吸収波長(λmax)、吸収の半値幅および分光透過率の測定方法>
分光光度計(島津製作所製:UV−3100)を用いて、トルエン中でサブフタロシアニン化合物の最大吸収波長(λmax)及びその際の吸収の半値幅を測定した。なお、その他の色素については、トルエンの代わりに、フタロシアニン化合物の場合にはアセトン中で、ニッケル錯体色素及びジイモニウム系化合物の場合にはジクロロメタン中で、それぞれ、最大吸収波長(λmax)を測定した。
【0123】
また、下記実施例で作製された近赤外線吸収フィルターを試験片として用いて、プラズマディスプレイから発光されるキセノンの発光波長として特に発光強度の強い波長である830nm、880nm、920nmおよび980nmでの透過率、ならびにネオンの特に強いオレンジ色の発光波長である570〜600nmでの最低透過率(Tmin)を測定した。
【0124】
合成例1
100mlの4ツ口フラスコに、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(4−メトキシフェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリル11.23g(20.7ミリモル)、三塩化バナジウム0.978g(6.22ミリモル)、オクタノール0.81gおよびベンゾニトリル14.19gを仕込み、ついで還流下で撹拌下約4時間保った。その後ベンゾニトリル30gを投入し60℃に冷却後、2−エチルヘキシルアミン16.05g(124ミリモル)を加え60℃で撹拌下約6時間保った。冷却後反応液をろ過し、ろ液をアセトニトリルと水の混合溶液中に滴下晶析させ、更にアセトニトリルと水の混合溶液で洗浄を行った。真空乾燥により、VOPc{4−(CH3O)PhS}8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}4が9.18g{3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(4−メトキシフェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率66.3モル%}得られた。
【0125】
合成例2
100mlの4ツ口フラスコに、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(フェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリル10g(20.7ミリモル)、三塩化バナジウム0.978g(6.22ミリモル)、オクタノール0.81gおよびベンゾニトリル14.19gを仕込み、ついで還流下で撹拌下約4時間保った。その後ベンゾニトリル30gを投入し60℃に冷却後、3−エトキシプロピルアミン12.81g(124ミリモル)を加え60℃で撹拌下約6時間保った。冷却後反応液をろ過し、ろ液をアセトニトリルと水の混合溶液中に滴下晶析させ、更にアセトニトリルと水の混合溶液で洗浄を行った。真空乾燥により、VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{(CH3CH2O(CH2)3NH)4が7.70g{3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(フェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率63.9モル%}得られた。
【0126】
実施例1
BClSubPcF12の合成
窒素気流下で200mlの4ツ口フラスコに、1−クロロナフタレン100gを投入しテトラフルオロフタリロニトリル20g(0.1モル)を加えて室温で撹拌する。次いで塩化ホウ素のキシレン溶液(1M)73.4mlを滴下した。その後約2時間かけて150℃まで昇温し2時間反応させた。その後室温まで冷却し3Lのビーカーに移し撹拌下でメタノール約1700mlと水140mlを加える事により結晶を析出させ、その後、吸引ろ過で結晶を取り出した。取り出した結晶にメタノール約560mlと水50mlを加え撹拌することで洗浄、精製を行った。その後再び吸引ろ過で結晶を取り出した。取り出した結晶を約180℃で一晩、真空乾燥しBClSubPcF12約14.5g(テトラフルオロフタロニトリルに対する収率67.3モル%)を得た。
【0127】
得られたBClSubPcF12の最大吸収波長λmaxと吸収の半値幅を測定した。
λmax=576.0nm
吸収の半値幅=29nm
市販のフルオレン系ポリエステル共重合体10質量部、上記サブフタロシアニンBClSubPcF12を0.03質量部、特開平2001−106689号公報の実施例8で製造されたフタロシアニン[CuPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax807nm)を0.1質量部、実施例7で製造されたフタロシアニン[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax870nm)を0.13質量部、実施例9で製造されたフタロシアニン[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax912nm)を0.09質量部、特願2002−171738号の実施例17で製造されたフタロシアニン[VOPc{4−(CH3O)PhS}8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH2}4](λmax962nm)を0.15質量部とを、ジクロロメタン89.44質量部に溶解混合した樹脂塗料液を、市販のポリエチレンテレフタレートフィルム(約50μm)上に乾燥膜厚が10μmになるように塗工し、室温で乾燥後に更に80℃で乾燥させ近赤外吸収剤およびオレンジ光を吸収する色素を含む透明コーティングフィルムを得た。
【0128】
次いでこの透明コーティングフィルムのコーティング層上に、紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製TINUVIN384):2.7質量部、酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製IRGANOX−1010):0.9質量部、アクリル系粘着剤(東亞合成(株)製アロンS−1601):96.4質量部を混合して得た混合物を、乾燥塗膜の厚みが15μmとなるよう塗工して紫外線吸収剤を含有する透明粘着層を積層した。
【0129】
この粘着加工を施したオレンジ光を吸収する色素と近赤外吸収剤を含むフィルムの粘着面を、ロールラミネータにより厚さ3mmの強化ガラス基材に貼り付けた。この試料の光学特性を測定し、その結果を表1にまとめた。
【0130】
実施例2
BBrSubPcCl12の合成
窒素気流下で100mlの4ツ口フラスコに、1−クロロナフタレン30mlを投入しテトラクロロフタリロニトリル10g(0.038モル)を加え窒素気流下で室温撹拌する。次いで臭化ホウ素4.71g(0.019モル)を滴下した。次いで250℃で約15分反応させた。その後室温まで冷却し反応液をそのまま吸引ろ過し結晶を取り出した。ろ過物をヘキサン200mlで攪拌洗浄し精製を行った。その後再び吸引ろ過で結晶を取り出した。取り出した結晶を約180℃で一晩、真空乾燥しBBrSubPcCl12約9.90g(テトラクロロフタロニトリルに対する収率88.9モル%)を得た。
【0131】
得られたBClSubPcF12の最大吸収波長λmaxと吸収の半値幅を測定した。
λmax=593.0nm
吸収の半値幅=22nm
ついで実施例1において、サブフタロシアニンBClSubPcF120.033質量部の代わりにサブフタロシアニンBBrSubPcCl12を0.03質量部とし、またフタロシアニン[CuPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax807nm)を0.1質量部、特開平2001−106689号公報の実施例7で製造されたフタロシアニン[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax870nm)を0.13質量部、実施例9で製造されたフタロシアニン[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax912nm)を0.07質量部、特願2002−171738号の実施例8で製造されたフタロシアニン[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3CH2O(CH2)3NH}4](λmax928nm)を0.02質量部、特願2002−171738号の実施例17で製造されたフタロシアニン[VOPc{4−(CH3O)PhS}8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH2}4](λmax962nm)を0.15質量部に変えた以外は、実施例1と同様に操作した。その結果を表1にまとめた。
【0132】
実施例3
実施例2において、色素の配合比をフタロシアニンCuPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax807nm)を0.1質量部、[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax870nm)を0.13質量部、また以下の2種類のフタロシアニン[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax920nm)を0.09質量部および[VOPc{4−(CH3O)PhS}8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)CH(C2H5)CH2NH}4](λmax962nm)を0.15質量部のかわりにジイモニウム系化合物(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジエチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノン−ビス(イモニウム)・ヘキサフルオロアンチモン酸塩)を0.25質量部に置き換えた以外は、実施例2と同様に操作した。その結果を表1にまとめた。
【0133】
実施例4
実施例3において、フルオレン系ポリエステル共重合体10質量部のかわりにハルスハイブリッドIR−G205(日本触媒製アクリル系樹脂)33質量部、ジクロロメタン89.44質量部のかわりにトルエン66.44質量部に置き換えた以外は実施例3と同様に操作した。その結果を表1にまとめた。
【0134】
実施例5
実施例2において、色素の配合比を以下の3種類のフタロシアニンCuPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax807nm)0.1質量部、[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax870nm)を0.13質量部、[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax920nm)を0.09質量部のかわりに、Bis(1,2−diphenylethene−1,2−dithiol)nickelを0.074g、[VOPc{4−(CH3O)PhS}8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)CH(C2H5)CH2NH}4](λmax962nm)を0.15質量部のかわりにジイモニウム系化合物(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジエチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノン−ビス(イモニウム)・ヘキサフルオロアンチモン酸塩)を0.25質量部に置き換えた以外は、実施例2と同様に操作した。その結果を表1にまとめた。
【0135】
実施例6
実施例5において、フルオレン系ポリエステル共重合体10質量部のかわりにハルスハイブリッドIR−G205(日本触媒製アクリル系樹脂)33質量部、ジクロロメタン89.44質量部のかわりにトルエン66.44質量部に置き換えた以外は実施例5と同様に操作した。その結果を表1にまとめた。
【0136】
実施例7
実施例6において、サブフタロシアニンBClSubPcF120.033質量部をハルスハイブリッドIR−G205(日本触媒製アクリル系樹脂)に加えるのではなく、粘着層のアクリル系粘着剤(東亞合成(株)製アロンS−1601):96.4質量部に加えた以外は実施例6と同様に操作した。その結果を表1にまとめた。
【0137】
【表1】

【0138】
表1中の数値は、570nmから600nmでの最低透過率Tminおよび830nm、880nm、920nm、980nmにおける透過率(%)である。
【0139】
また実施例1〜7のフィルターを、実際にプラズマディスプレイの前面部に取り付け、赤色の発色を観察したところ、非常にきれいな赤色の発色が得られた。
【0140】
またリモコンにより動作制御を行う電子機器をディスプレイから2.5mの位置に設置し、誤動作が誘発されないか確認したところ、フィルターがない場合には、誤動作が誘発されたが、該フィルターを取り付けた場合には、誤動作の誘発が全く見られなかった。
【0141】
上記表1から示されるように、本発明によるサブフタロシアニン化合物を含む近赤外線吸収フィルターは、570〜600nmの画像を不鮮明にする原因となるオレンジ光を最低透過率(Tmin)が40%以下と選択的にかつ効率よく吸収することが示される。
【0142】
また、上記実施例1、2に記載したように、本発明によるサブフタロシアニン化合物は吸収の半値幅が極めて狭いため、本発明によるサブフタロシアニン化合物を含む近赤外線吸収フィルターは、570〜600nmの波長範囲外の可視光、特に630nm付近のR光や波長の近いG光の透過性は高いレベルを維持できると考察される。したがって、本発明によるサブフタロシアニン化合物を含む本発明の近赤外線吸収フィルターは、プラズマディスプレイ前面パネルに使用されても、パネルから必要なRGB光の発光を妨げることなく、色純度を向上することができると考えられる。
【0143】
実施例8
実施例1〜7に記載の近赤外線吸収フィルターを、プラズマディスプレイの前面部に取り付け、赤色の発色を観察したところ、非常にきれいな赤色の発色が認められた。また、リモコンにより動作制御を行なう電気機器をディスプレイから2.5mの位置に設置し、誤動作が誘発されないかを観察したところ、フィルターを取り付けない場合には誤動作が誘発されたが、実施例1〜7に記載の近赤外線吸収フィルターをプラズマディスプレイの前面部に取り付けた場合には、誤動作の誘発が全く認められなかった。
【0144】
これらの評価から、実施例1〜7の本発明による近赤外線吸収フィルターは、サブフタロシアニン化合物に加えて、750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収剤をも含んでいるため、パネルの色純度の向上に加えて、これまで遮蔽が難しかったより長波長の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤動作をより効果的に抑制できると考察される。
【産業上の利用可能性】
【0145】
特定の構造(式(1))を有するサブフタロシアニン化合物を含む近赤外線吸収フィルターをプラズマディスプレイ前面パネルに使用することによって、550〜620nm、特に570〜600nmのオレンジ光は選択的にかつ効率よく吸収するが、他のRGB光を初めとする他の可視光領域はほとんどまたは全く吸収することがない、画像が鮮明でかつ色純度を向上したプラズマディスプレイが作製できる。
【0146】
また、式(1)を有するサブフタロシアニン化合物及び750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収フィルターをプラズマディスプレイ前面パネルの近赤外線吸収フィルターに使用することによって、上記利点に加えて、周辺電子機器のリモコン、伝送系光通信等が使用する波長に悪影響を与えず、それらの誤動作が起こらないプラズマディスプレイが作製できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

ただし、Z1〜Z12は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子を表し;Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルキルチオアルコキシ基またはジアルキルアミノアルコキシ基を表わす、で示されるサブフタロシアニン化合物を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面パネル用色素。
【請求項2】
少なくとも1種の750〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収化合物をさらに含む、請求項1に記載のプラズマディスプレイ前面パネル用色素。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に記載の色素及び樹脂を含む近赤外線吸収フィルターを用いてなる、プラズマディスプレイ前面パネル。
【請求項4】
570〜600nmの波長範囲に極大吸収を有しかつ吸収の半値幅が33.5nm以下である請求項1に記載の式(1)のサブフタロシアニン化合物を含み、近赤外線吸収フィルターの570〜600nmでの最低透過率が40%以下である、請求項3に記載のプラズマディスプレイ前面パネル。

【公開番号】特開2006−124593(P2006−124593A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317437(P2004−317437)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】